&トイレは通路の最初の方、横にドアがあり、その中である。キッチン?そんなものは必要ない。料理なんぞやってはいないのだから。
ともあれ、俺の声に通路の奥、つまりはベッドの方から声が返る。
「おかえり、アキト…」
どうやらラピスは自室でのんびりしていたようだ。
多少間延びした返事に俺は苦笑しつつ、ベッドの前まで歩みを進め、ラピスに先ほどの件を話そうと………。
「………」
「…どうかしたの、アキト?」
―――フッ、これは何の冗談だい?
なんてアカツキ風にボケつつ、俺は眼前の風景に戸惑いを隠せなかった。
猫耳、抱き枕、そして俺のトランクス。
一体何が原因でこの状況を作り出したのか。
俺は一体ラピスの何を理解していたというのか。
自身の無力が情けなくなる…俺の馬鹿野郎が………!
とはいえ、ラピスもどうしてそう平然と返してくるんだ?!
「ラピス、どうして俺のトランクスを穿いている?」
「他に下着がなかったから」
「どうして猫耳を装着している?」
「エリナがこれを着けているとアキトが喜ぶって」
「………その抱き枕の柄はどうして俺なんだ?」
「だってアキトが最近忙しくてあまり一緒にいてくれないってエリナに相談したら…」
「あのアマぁ…」
どうやら抱き枕と猫耳に関してはエリナの策謀らしい。
何という奴だ、あの女は…連邦の女狐は策略家といわざるをえないな!
それとも奴は(萌えの)ニュータイプ研究所の所長なのか?!
「ともあれ、下着がないならエリナに言いなさい。
猫耳は別に好きじゃない。抱き枕は止めておきなさい、他の人に知られたら後ろ指を指されかねないぞ」
もういい加減にしてくれ…どこからナデシコ劇場版はこんなギャグになったんだ?
俺が復讐するとか、ラピスの生い立ちとか…かなりシリアスな雰囲気でエンディングまで行き着けたのに…。
内心でそんなことをぼやきつつラピスにアドバイスする俺であったが、何故かラピスは泣き出しそうな顔を浮かべて…って泣いてる?!
「アキトは、私の事嫌いなの…?」
「それとトランクスに何の関係が?!っていうか君、上は普通にしてんじゃん!」
「下は足りなかったの…」
「嘘つけぃ!」
そもそもラピスのためにエリナが何着買ってきてたと思うんだ!
10や20なんてものじゃないぞ!100いってるかもしれないんだぞ!うるうるした目で見つめたってダメだからな!
「猫耳も外しなさい!抱き枕も没収だ!…ったくエリナめ、あとでしばいてやるからな…!」
まったく、あの女劇場版でフラグ発生させておきながら(事実関係はあr)どうしてこんな暴挙に出るのやら…。
というわけでラピスの頭から猫耳を没収。続いて抱き枕を………ってどうしてそれを引っ込める?
「ダメ!没収するんだったらアキトはずっと私の傍にいて!」
「ラピス…」
「アキトは最近私を避けてる!リンクでもずっとそう!私が話しかけても反応が弱かったり返事が適当なんだもん!」
「――」
ついに瞳から流れ落ちた涙と共に放たれた言葉。
それをぼんやりとした脳裏で理解させて、思う。
やはり、気付いていたのか。
俺がラピスを避けていたことを。
………俺は表の世界では指名手配犯だ。表に出られない自分と違い、ラピスは顔が割れているわけではない。
だからこそ、あの復讐が終わった後に、近いうちに表の世界で生活させるべきだと判断したのだが…ここまで思い込んでいたのか。
「………ラピス。君はもう、俺の体の一部じゃない。
リンクをしてはいるものの、君には君の自我がある。
だから、君と俺は別々の個体として生きるべきなんだ」
「違う、アキトは何もわかってない…!」
涙をベッドの上に振りまきながら泣くラピスを見ながら。
俺はどうしてこの子はこんなに必死なのだろうと、冷静な心で思った。
俺の心は凍っているのかもしれない。
奴らに実験を受けてから、まるで自分が自分でないかのような、夢の中にいるかのような感覚を受けると同時、自分の中に恐ろしいほどに冷静な心と冷酷な心の2つが生まれたのだ。
そして、その前者が今のラピスを見ながら呟いている。
この子はどうして泣いているのか。どうしてそこまで俺に依存するのか。
依存は確かに人を強くする。だが、同時にそれが折れたときのショックは死にも至らしめる可能性が高いというのに。
だが、そんな小難しい考えを吹き飛ばすシンプルな答えを、彼女は返してきた。
「私は、私はアキトが好きなのに…アキトは何もわかってない!!!」
「………え?」
―――ああ、やはり俺は大馬鹿者だ。
<完>