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魂郷学園 第25話:狐【ぬすっと】
作者:亀鳥虎龍   2018/07/19(木) 23:18公開   ID:CUGywFsC2NE
 ハードボイルドとは、固ゆで卵が語源となった言葉。

感傷や恐怖などの感情に流されない、冷酷非情、精神的・肉体的に強靭、妥協しないなどの人間の性格を表す。

満月で明るい夜の魂郷町……ここでも、ハードボイルドを貫く男がいた。

彼の名は小銭形平次、職業は警察官。

義賊と謳われる盗人『狐火の長五郎』を追っている。

馴染みの店に腰を降ろし、口に咥えた葉巻を一服。

「マスター。 カミュ(ブランデー)…ロックで頼む」

常に彼の渇きは、酒でしか癒せない。

そして、店の店主も……、

「ヘイ、焼酎」

「焼酎じゃない。 カミュと呼べ、マスター」

「マスターじゃねぇ。 親父と呼びな、旦那」

ブランデーではなく、焼酎の入ったグラスを置いた。

因みにこの店、おでん屋の屋台である。

酒を嗜む小銭形であるが、携帯電話が鳴り始めた。

「小銭形だ。 なに、事件?」

ここから、ハードボイルド刑事の出動である。








―第25話:狐【ぬすっと】―







「いたぞぉぉぉ!」

多くの警官達が、一人の盗人を目で追う。

盗人は屋根から屋根を跳び移り、警官達を翻弄していた。

白い忍装束に狐の面。

彼が小銭形が追っている盗人、『狐火の長五郎』である。

長五郎の跳躍力は、警官達の足でも追い付けない。

警官の少女・ハジを筆頭に、警官達が走り出す。

するとここで、小銭形が現れた。

「おいおい、そんなに慌ててどうした? デートの時間に遅れちまったかい?」

「小銭形のアニキ! 狐です! 狐の面を!」

「OK、我が命にかえても」

こうして、小銭形と長五郎の追跡劇がはじまったのだ。







 ハジ達と別れ、小銭形は一人で路地裏を走り出す。

しかしその時だった。

「うっ!」

先程の酒の所為か、彼の体がよろめく。

「ちと、カミュが回り過ぎたか」

「おい、大丈夫かアンタ?」

すると、背後からの声が消えが聞こえた。

小銭形が振り返ると、

「どうだ? ウチの店で、少し休んでいかねぇか?」

狐の着ぐるみを着た三人組みがいる。

どうやら風俗店の客引きであるが、

「…フッ」

小銭形は小さく笑った。

「ネズミならぬ狐がようやく尻尾を出したか」

「?」

「神妙にお縄に付け、キツネめが!」

こうして小銭形は…、

「――っていうプレイとかしたいんですけど、いけますかね?」

「同心プレイ?」

「お望みなら、岡っ引きプレイもできるわよ?」

「マジっすか! 僕、基本はMなんで、結構キツ目にやって欲しいんですけど」

そのまま風俗へと向かったのだった。








 警察署にて、小銭形は葉巻を一服する。

「(仕事の後の一服……コレがたまらない。 至福の時、これ一本の為に仕事をしているといっても良い。 この一本の為に、男は仕事に命をかける)」

「なにやり遂げた顔してんだぁぁぁ! 仕事中に風俗に行っただけじゃねぇか!」

だが同時に、上司の怒号が炸裂した。

「なにしてんだお前!? 一本って何? そっちの一本か!? 一本一万円のコースか!?」

上司の蹴りを喰らい、うつ伏せで倒れる小銭形だが、

「男には我慢できない一本がある」

「最低な事をハードボイルドっぽく言ってんじゃねぇ!」

とんでもない事を言ったので、再び上司の雷が落ちる。

「挙句の果てに、酔っ払ってあんなもん連れてくる始末! 狐は狐でも、狐面じゃなくて着ぐるみだろうがアリャ!」

上司が指差す方向には、着ぐるみを着ていた三人の男女がいる。

ユーリとカロル、そしてジュディスの『凛々の明星ブレイブヴェスペリア』の面々。

仕事でメイクラの客引きをしていたら、偶然発見したのが警察官だったのだ。

「前から思ってたがな! オメェは顔と能力のバランスがおかしい! その顔は仕事のできる奴の顔だろうが! 何で全然ダメなの!? 何で無駄にハードボイルド!?」

上司の前でも葉巻を加える小銭形であったが、上司からこんな事が告げられた。

「平次……オメェがハードボイってる間に、また狐がりやがった」

「!?」

「忍び込んだ店の者や丁稚も、一人残らず血の海だ。 テメェは立派な罪人だよ、平次。 奴を捕まえられなかったオメェのな」

最後に上司は、小銭形に自宅謹慎を下したのである。







 その後、おでん屋台にて…、

「自宅謹慎か…なんか悪い事したな……」

「気にすんなよカロル」

「そうよ。 この人もこの人で、私達を犯人扱いしたからお相子よ」

ユーリ達三人は、小銭形とおでんを口にしていた。

そんな中、当の本人はというと、

【落ち込みはしない、何時もの事だ。 人生は様々な事が起こる】

いつものように、ハードボイルドに浸っている。

【良い事があろうと、悪い事があろうと、そいつを肴にカミュを傾ける……俺の一日に変わりはない。 これが俺の人生、まさにハードボイル――】

「もう、ウゼェ!」

しかしユーリが短刀で、小銭形の頭をグサリと刺した。

「どわぁぁぁぁぁ!」

「なにすんだ貴様ァァァ!」

頭に短刀が刺さっても、怒鳴る元気を見せる小銭形。

まあ、『銀魂』キャラはこんな連中が多いので仕方がない。

「もういい! しつこい、ハードボイルド」

「仕方ないだろ、ハードボイルドなんだから!」

「どうでもいいわ。 何で無駄に“【】”使ってんだよ? 文章の無駄だろうが」

「全くよ。 そんなハードボイルドで頭がいっぱいで、仕事に手がつかないなら、ハードボイルドなんてやめなさい! その方が、貴方にとってもハードボイルドにとっても幸せのはずよ!」

「…ジュディ…オメェは何時、このオッサンのオカンになったんだよ?」

「んもぉぉぉ! 出来るもん! 仕事もハードボイルドも、俺両立できるも〜ん!」

しかしジュディスの説教が効いたのか、小銭形が子供っぽくなってしまう。

「大丈夫かな、この人」

流石のカロルも、小銭形の人生が心配になる。

「それにしても、あの狐が殺人をね…」

「知ってのか、ジュディ?」

「“狐火の長五郎”……悪徳権力者から奪った金品を、貧しい人々に贈る盗人。 その活躍ぶりから民衆からのウケはとても良いけど、腹黒い権力者からすれば邪魔者以外の何者でもないわ。 でも最近では、この義賊行為と盗賊行為を交互に行っているの」

「どういう事だ?」

「言葉通りよ。 長五郎は最近、盗みをするだけでなく、侵入先の屋敷や店の人間を一人残らず殺害しているの」

「見当もつかねぇな」

「……ふっ、奴は俺からすれば面白い奴だったよ」

「ん?」

すると、小銭形が二人の会話に割り込んできた。

「盗人のくせして、何処かか茶目っ気のある盗み方をしやがる。 犯行現場には、何時も食いかけの油揚げが置いてあったりした」

「………」

しかし、その時である。

「アニキ!」

ハジが慌てた顔で駆け寄ってきたのである。

「どうした、ハジ!?」

「コイツを見てくだせぇ!」

彼女が渡した手紙を受け取り、小銭形はその内容を読む。

“今夜、魂郷美術館にある『黄金の油揚げ像』を頂きます。 狐火の長五郎”。

それは、長五郎からの予告状であった。







「おのれぇ! ハードボイルドな真似をぉ〜!」

予告状を破り捨て、小銭形は屋台を出ようとする。

「待てよ、オッサン」

そんな彼を、ユーリが呼び止めた。

「禁止を破ってまで、敵の汚名を晴らす気か?」

この問いに対し、小銭形は小さな笑みを見せる。

「……そんなもんじゃない。 ただ、俺にも俺の流儀ってのがある……」

十手を両手に握りしめ、彼は強く叫んだ。

「腐った卵は、俺の手でぶっ潰す……それが俺のハードボイルどうだ!」

「旦那、勘定がまだですぜ」

「あっ、すんません」

だが店主に呼び止められ、すぐさま勘定を払う。

小銭の音がジャラジャラと、周囲の耳に響き、

「イマイチ決まらない人だね。 しかも、全部小銭で払ってるよ? どんなハードボイルド?」

「あの有名なハーフボイルド探偵さんも、コレを見たら憤慨しそうね」

その光景にカロルとジュディスも、思わず唖然となる。

「それと、もう戻ってこねぇかもしれないんで、今迄のツケの分も」

「オッサンが一番ハードボイルドだぞ! スゲェ乾いてんぞ!?」

しかし店主が一番ハードボイルドだった事に、ユーリが驚きを隠せなかった。

「またな、マスター」

小銭形が屋台を走り去る姿を見届けた店主は、

「それじゃ、コイツはアンタ等に」

彼が払った小銭を、ユーリ達に差し出した。

「ん? 何だよ?」

首を傾げたユーリに、店主はうんざりした様子を見せる。

「アンタ等『凛々の明星ブレイブヴェスペリア』に依頼があるんです。 アッシはあの旦那から、もう何年も前から四六時中愚痴聞かされてる身でしてね。 狐だ狸だってね……もうそれがうんざりになったんでね、もう終わらせてほしいんですよ。 誰にだって、成し遂げなきゃならんモノがあることくらい、わかっちゃいますがね。 いい加減、ケリつけて欲しいんですよ」

最後に彼は、小さな笑みを見せると、

「どうか小銭形の旦那の事、宜しくお願いしやす」

深く頭を下げたのであった。

最後までハードボイルドな店主である。







 魂郷町にある、巨大美術館。

ユーリ達は現在、館の周囲にある茂みの中に隠れていた。

何故かジュディスだけ、全身タイツに着替えていたが……。

「さて、どうやって忍び込むか……」

「それにしても、凄い警備だね」

「そりゃそうですよ。 警察官の威信が掛かってますから」

「ハジの言うとおりだ。 コイツは俺達だけの問題じゃない、警察全ての問題だ。 だからこそ、奴の逮捕に全力を注いでるんだ」

そう言って小銭形も、葉巻を口に咥える。

何故かバスローブ姿でワイングラスを片手に持ち、愛用のバイクに跨っているが……。

「テメェは何に全力を注いでんだぁぁぁ!」

これにはユーリも、怒涛のツッコミを入れてしまう。

「何でバスローブ着こんでんだアンタ!?」

「ハードボイルドだろ?」

「それは一仕事終えた後のハードボイルドだろ! 何で警備の奴等が逮捕に全力注いでんのに、アンタだけはハードボイルドに全力注いでんだよ!?」

流石の彼も、小銭形の行動に苛立ちを感じた。

しかし、その時である。

「「「「!?」」」」

突然のエンジン音に、ユーリ達は思わず振り向く。

「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

そう言ってジュディスは、バイクを走らせたのだった。







「ヒャッホー!」

ノリノリでバイクを走らせるジュディス。

「曲者だぁ!」

「であえであえ!」

その光景を目にした後、

「よし、陽動成功だ」

「違うし!」

ユーリ達は、裏口から潜入したのだった。

屋根の上から、その様子を見られていた事に気付かぬまま……。







博物館受付前にて、

「暇だな」

「暇ですね、先輩」

「しりとりでもするか?」

「そうですね」

「じゃあ、“リンゴ”」

「“ゴマ”」

二人の警備員が、暇つぶしにしりとりをするが、

「マントヒ――」

「ヒャッハー!」

「「ッッ!!?」」

突然の声に、思わず反応したのである。

その声の主とは勿論、バイクで爆走中のジュディスであった。








 その頃、モニター室では、

「し、侵入者です! 正面から堂々と!」

「狐か!?」

「いえ、●ャッ●アイです!」

「なんで!?」

ジュディスの登場に、警備の者達が驚愕する。

「なんでもいい。厳重警戒モードONにしろ」

「はい。警戒モード作動」

警報ボタンが押され、博物館には警報がなる。

「年貢の納め時だ●ャッ●アイ!!」

「狐です!」







 その頃、管内の方では、

「急げ急げ!」

「警備を固めろ!」

「蟻の子一匹、特別展示室に入れるな!」

警備員達が、殺気だって走り出す。

「流石に警備厳重だね」

「流石の狐も、尻尾を巻いて逃げんじゃねぇか?」

「いいえ、それはないです。 この程度は、狐も予想内のハズです」

物陰で様子を伺うユーリ達であるが、

【奴は必ず来る。 男とは常に、危険に身を置かねばならない、血に飢えた獣だ】

小銭形は窓の外を眺めながら、ワインを口に流し込む。

「何やってんだアンタ!」

そんな中で彼の体は、カタカタと震えている。

【先刻から震えが止まらない。 どうやら俺の中の獣も、暴れたがってウズウズしているようロロロロロロ……】

遂には窓から嘔吐をしてしまう。

「完全にビビってるよ。 嘔吐するくらいガチガチになってるよ」

「ホントに大丈夫か?」

カロルとユーリも呆れてしまうが、その時であった。

「そこで何やってる!」

「!?」

突然の声に、思わず反応してしまう。

「ん?」

「こ、こちら異常なしでありやす」

「…何だハジか。 他に誰かいたか?」

「い、いえ…あちきだけでありやす」

「そうか…ところでお前、今日の警備から外れたはずだぞ?」

「は、はい。 ですが、謹慎喰らったアニキに行けと言われて…」

「あ〜、そりゃ同情するわ」

すると刑事達は、鎧の展示物が置かれた部屋を調べる。

ハジも中を覗くと…、

「(――って、何やってんスかアンタ等ぁぁぁぁ!?)」

ユーリとカロルが鎧を纏って座っていた。







「(どどどどどうしよう、ユーリ……)」

「(思わず展示物に化けたつもりだが……)」

刑事達が暫く観察するが、

「異常なし」

そのまま立ち去ろうとする。

「「(た、助かった…)」」

内心で安堵する二人であったが、まさにその時である。

刑事達がある銅像へ、視線を一点集中していた。

そこには小金持が像の背後に立ち、ライフルの銃口を突きつけている。

「おい、こんな像あったか?」

「つーか、この像だけリアルすぎるだろ」

刑事達も不審がる。

《ピンポンパンポン。こちらにあるのは、徳川公の背後を狙った、クールでニヒルなハードボイル像》

「「んなもん、あるかぁぁぁぁ!」」

これにはユーリもカロルも、ドロップキックを放ったのだ。

当然バレてしまい、彼等は追われてしまうのだった。







「小銭形ぁ! 貴様ぁ、謹慎中になにしてんだァ!」

「おい、どうすんだよ!? このままじゃアンタ、ホントにクビになっちまうぞ!」

「フン、望むところだ。 よし、一旦BARバーに戻って対策を――」

「しないよ! てか、逃げる気満々なの!?」

「大体BARバーって言ってるけどよ、あの店おでん屋だろうが!」

「アレがBARバーだ。 オシャレなBARバーは、緊張して入れない」

「つまりアンタはアレだろ! 結局マダオ(ジでメなまわりさん)じゃねぇか!」

小銭形の馬鹿さ加減に、流石のユーリもマジギレになってしまう。

しかしその時だった。

「「「グアァァァァ!」」」

「「「「!?」」」」

刑事達の悲鳴が聞こえ、すぐさまユーリ達は振り向く。

同時に何者かが、彼等の頭を跳び越える。

「い、今のは!?」

再び振り返ると、そこには白い忍装束に狐も面を着けた人間が立っていた。

義賊『狐火の長五郎』のご登場である。







その頃、モニター室では…、

「出たな狐。 良し、警備の警官を全員――」

指揮官が叫ぼうとしたが、その時である。

「あ、待ってください!」

「どうした?」

部下の警官が、他のモニターを観ながら叫んだ。

「見てください! 他のモニターにも、狐の姿が!」

「バカな!どういうことだ!?」

「あ、カメラが壊されました!」

徐々に一つずつ、監視カメラが壊されていき、

「もうこの部屋のカメラしか残ってません!」

「一体どうなってるんだ!?」

混乱する警官達であったが、背後から声が聞こえたのだった。

「狐にでも、化かされてるんじゃないか?」

この台詞とともに、モニター室のカメラも壊されたのである。




続く。

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■作者からのメッセージ
ユーリ「久々に、俺達の出番が来たぜ」
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