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魂郷学園 第26話:男【ハードボイルド】
作者:亀鳥虎龍   2018/07/20(金) 22:39公開   ID:CUGywFsC2NE
 前回のあらすじ。

因縁の相手、狐火の長五郎と対面した小銭形。

しかし、またしても逃げられてしまう。

この悔しさを肴に、彼はいつものBARバーに寄る。

そして何時ものように、酒で渇きを癒すのだった。

「――って、なに勝手に捏造してんだぁぁぁぁ!」

「グハァァァァァ!」

……という感じで、ユーリの鉄拳を喰らった小銭形である。






―男【ハードボイルド】―






 現在のユーリ達は、逃走する長五郎を追跡していた。

「待ちやがれ!」

追跡を行って10分、階段を下ることになる。

すると長五郎は、途中でお尻ペンペンをしてみせ、

「くそっ! 挑発してやがる!」

こればかりはユーリも、コケにされたと感じた。

長五郎を捕まえようと、ユーリ達は全力で走る。

「絶対ェ、追い付いてやらぁ!」

必死に走るが、何故か前に進まない。

「――って、アレ? さっきから全然、前に進まない……」

【自分では進んでいるつもりでも、何時の間にか後退している時がある。 結局人生なんか、死ぬとき一歩でも前進できれば、いいのかもしれない】

そんな中で小銭形が、いつものハードボイルド口調になる。

「うるせぇ! 疲れてる時にそれやるな! スンゲー腹立つ!」

「でも、流石に前に進めてない気が……って――」

足元を見てみれば、床がベルトコンベアみたいになっていた。







「ちょっと待って! なんでこんなのがあるの!」

「ふざけんな! 今まで走った労力返せ!」

ベルトコンベアになっている床に、カロルとユーリはマジギレ!

するとカロルが、あるものを目にした。

「ユーリ、アレ見て!」

長五郎は壁を蹴りながら、難なく進んでいたのである。

「成程! いくぜぇぇぇ!」

彼のマネをしようと、ユーリも壁を蹴ろうとした。

しかし力加減を間違え、足がボカッと壁にめり込む。

「痛タタタ! 加減間違えた!」

「何やってんの!?」

ユーリは足を引き抜き、再びベルトコンベアの上を走り出す。

すると小銭形が、懐からワイヤー付きの銭を縄投げの要領で投げた。

「銭投げ!」

銭は天井の装飾物に巻き付き、

「お前等、俺に掴まれ!」

「オッサン! やるじゃねぇか――」

これにはユーリも彼を見直したが、

「うぐっ、絡まった…」

ワイヤーが首に絡まってしまう。

「何でそうなる!?」

そんな彼等に、更なる追い撃ちが襲いかかる。

ガコンと、わざとらしい音とともに、巨大なトゲのついた壁が出現。

更にはこちらに迫ってくる。

するとユーリは、縄を括りつけたニバンボシを天井へと突き刺す。

「よしっ! オメェ等、捕まれッ!」

縄にぶら下がったユーリに、カロルとハジが捕まる。

「た、助かった」

「でもアニキが!」

因みに小銭形は、未だにぶら下がっていた。

まるで、首つり自殺のように。

「知らねぇよ、あんな馬鹿刑事!」

「――って、あれ? 何か流れて来たよ!?」

すると今度は、布団で眠る老婆が流れてきたのだ。







「ラッキーッ! ババァでぇ!」

「何でお婆さん!? 何の為のお婆さん!? なんで流れてるの!?」

老婆が流れた事に安堵するハジ、流される老婆にツッコミを入れたカロル。

「でも、このままだとあの婆さん………」

「「………」」

しかし無視すれば、老婆はトゲにグサリである。

「うおぉぉぉぉ! なんでだ、なんで知らねぇ婆さんを担いでるんだ俺等は!?」

そんな感じで、老婆を布団ごと抱えるユーリ達。

すると今度はお爺さんが流れてきた。

「あれ、今度はお爺さん流れてきた」

「どうするユーリ?」

「どうするたってお前……」

このまま無視すれば、お爺さんもトゲにグサリだが、

「婆さん、さようなら……愛してるよ」

今の台詞に、お爺さんまで抱えたのである。

「さよならなんてさせるかァァァ!!!!」

「隣です! お婆さん隣です! 今ここでさっきの言葉、もう一回言ってあげて!」

「マジで何の嫌がらせだ! 年寄りはもっと大事にしろぉ!」

ユーリがツッコミを入れるが、今度は三十代辺りの男が流れてきた。







 男の顔を見て、ユーリは彼が誰なのか気付いた。

「あ、お前息子だろ? ダメじゃねぇか、ちゃんと両親見ろよな」

「なんでわかるの?」

「目元とかがソックリだろ?」

なんて話してると、

「父さん、母さん、遺産の話なんだけど…全部僕が貰い受けることになったよ。 まあ、あいつらも横からゴチャゴチャ言ってたけどね」

「遺産の話してる! 親がこんな状況なのに!」

「コイツは串刺しでいいな。 自分で遺産つくれ、バカ野郎!」

このまま息子を無視しようとした矢先に、

「バブ〜」

「ん?」

今度は赤ん坊が流れてきた。

そして……、

「三世代そろって目元そっくりかい! 絶対に生きろ! どんな悪人でもな、子供には親が必要なんだよ!」

とうとうユーリ達は、一家四人を担いでしまった。

「ユーリ、もう疲れが・・・!」

「諦めるな! 俺等の腕には、一家の命がかかってるんだぞ!」

流石に四人分の重さはつらいのか、彼等の足の力が尽きようとした時に、

「ヒャッハー!」

聞き覚えのある声。

「はい、お待たせ♪」

バイクでトゲ付の壁を破壊したジュディスのおかげで、一同は事なきを得た。







特別展示室にて…、

『狐という奴は、色んな物語や歴史を紐解けば中々面白い扱いを受けておりやす。 神社や祠で神様と崇められる一方で、人を惑わす化物とも言われている……さて、あっしは、どちらでござんしょう?』

黄金の油揚げ像に続く階段を登り、長五郎は面の奥の目をを光らせる。

「黙れ下郎。 お前は神でも化物でもねぇ、ただの盗人だ。 長きに渡る因縁、ここで決着をつけようじゃねーか」

小銭形は十手を向けがら、はっきりと断言する。

その背後には、ハジやユーリ達も立っていた。

「狐よ、年貢の納め時だ。 神妙にお縄を頂戴しろ」

「小銭形の旦那……その台詞、10年で聞き飽きやしたよ。 アンタも懲りない男だね。 何度まてもまた前にあ現れる。 いい加減に諦めたらどうでしょう?」

「ふっ。 それがハードボイルドってヤツだ。 『固ゆで卵』は簡単には割れんさ。 ソレに俺は盗人って奴が嫌いでね。 ガキの頃、盗人どもに両親を皆殺しにされている。 そんな連中が許せなくて、こんな仕事に就いたんだ。 そんな時、妙な盗人の話を聞いた。 弱きものから金品をせしめる悪党だけを狙い、盗んだ金を決して私利私欲の為に使わない………義賊・狐火の長五郎。 俺もあの頃は新米だった。 何度も泣かされたよ。 しかしそれ以前に、憎しみ以外の感情が芽生えたよ。 狐……何故堕ちた?」

その問いに対し、長五郎は当たり前のように答えた。

「そこまでにしときな、旦那。 警察が泥棒に滅多な事は言うもんじゃねぇ。 それに堕ちたとは、盗人に言う台詞じゃねぇ。 あっしら盗人は、ハナから堕ちた薄汚ねぇ連中でございあしょう」

盗人とは思えない正論を説いた長五郎であったが、まさにその時、

「その通りだ」

『!?』

背後からの声に、ユーリ達はすぐさま振り向く。

「えっ!?」

「これは……」

「一体!?」

「狐が……八匹!?」

「どうなってんだ!?」

そこには長五郎と同じ格好をした集団が、8人も現れたのである。







「き、狐が8人!?」

「いや、あっちを含めれば9人だ」

「………」

驚きを隠せないカロル達。

すると集団の一人が、長五郎に視線を向ける。

「やはり貴様の仕業か、長五郎。 出した覚えのない予告状。 我等への誘いの文と受け取った」

「いやいや、こちとら隠居生活を楽しんでたってーのに、身に覚えのない罪科が増えていくもんだから、寝てもいられねぇんで起きちまったよ」

それを聞いた小銭形は、その意味を理解出来た。

「まさか!? 巷で騒がす凶悪な強盗事件、お前達の仕業だったのか!?」

「成程、狐さん。 アナタ、のメンバーだったのね」

「ほう、我等の事を知っていたのか?」

その問いに対し、ジュディスがコクリと頷く。

「盗賊団『九尾』。 太古の昔から、『狐』の名と技を受け継いでいるプロの盗賊団。 必ず9人一組で構成され、全員が白の忍装に狐の面で顔を隠している。 30年前に、突如として姿を消したとは聞いてたけど……まさかコレまでの事件に関与してたわね」

「つまりこういう事か? 腕は最強、オツムは最悪の犯罪集団」

「そういうことよ」

そんな中、九尾の一人が長五郎にこう言った。

「長五郎、旧き同胞よ……三十年前の裏切り、ここで清算させてもらおう」

「裏切り?なんのことだい?あっしはお前らのこと、仲間なんて思ったことはない」

『ほざけ下郎がぁぁぁあ!』

8人全員が短刀を抜き、九尾のメンバーが一斉に襲いかかる。

「旦那方ぁ! 早く階段へ!」

すると長五郎は、油揚げ像をガコンと動かしたのだ。

壁からガスの様なものが発生し、それが一気に引火した。

『ぐぉぉぉぉぉ!』

「コイツは!?」

「油揚げ像を守る為のカラクリでさぁ! 早く登んなせぇ! じゃないと、次のカラクリが!」

「えっ?」

すると階段が、すべり台にように変形した。







「うぎゃぁぁぁぁ!」

「ちょっと待て!? 階段が坂になるのかよ!?」

滑るだけならまだ良い。

何故なら、更なる追い撃ちが来たからだ。

今度は壁から、油が噴出されていく。

「ヤバッ! 油で滑る!」

「しかも下の炎にまで引火して、火の海になってるよ!」

しかしその時、九尾の生き残りが二人現れた。

短刀を握り、容赦なく襲いかかる。

「遅ぇよ」

「なっ――」

「ばかな――」

ユーリの剣技に敗れ、火の海へと落ちた。

「さあ、こちらへ!」

「!!」

ワイヤーで体を支え、長五郎が手を差し伸べる。

しかしその時、ユーリ達は思いがけない光景を目にする。

が、長五郎を背後から刺したのだ。

「狐ェェェェ!」

小銭形が叫ぶも、長五郎は下へと落ちてしまう。

だがワイヤーのお陰で、辛うじてぶら下がったのだった。

「忘れたか、長五郎? 『九尾』は常に、九人で構成されている。 貴様の穴埋めを、我々がしていないと思っていたのか?」

そういうと九人目の九尾は、長五郎を見下ろしながら短刀を握る。

「我々はお前の背中にこの刃を突き刺す事を、なによりも待ち望んでいた。 そして今でも、この目に焼き付いているぞ。 三十年前のあの日……我々の押し入った屋敷の火を放ち、その屋敷の子供と千両箱を抱え去るお前の背中を」

「!?」

それを聞いた小銭形の脳裏には、ある事が思い浮かんだ。

幼い頃、家族を盗賊に奪われた時の事を……。







(父上ぇぇぇ! 母上ぇぇぇぇ!)

その時、助けてくれた男がこう言った。

(いいか、ボウズ。 この千両箱を決して離すなよ? これさえあれば、お前を悪い用にする奴はいねぇ。 だが、金は一気に使うなよ? チビリチビリ、小銭で渡していけ)

少年だった小銭形の頭を撫で、男は背中をち去る。

(いいな? 負けるんじゃねーぞ。 男は強く、ハードボイルドに生きろ)

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

この言葉を思い出し、小銭形はワイヤーを放った。

「なにっ!?」

腕に巻きつけられた九人目は、小銭形に引き寄せられてしまう。

そして拳を強く握り、そしてヒニルに笑った。

「俺は、狐に感謝しなきゃならねぇ。 何せ両親を殺した盗賊に、30年前の借りを返せるんだからな!」

「なっ!? まさか貴様、あの時の子ど――」

凄まじい一撃が、容赦なく放たれ、

「あばよ、化け狐!」

ユーリの刃が、その体を切り裂いた。

「がは――」

九人目も火の海へと落ち、遂に『九尾』は壊滅したのだ。






「狐ぇ!」

すぐさま小銭形は、ワイヤーを引っ張ろうとする。

「す、スマネェです旦那。 今まで黙って……」

「へっ、水臭ェ話しじゃねぇか。 今まで命の恩人を、追い回していたってんだからな」

「アンタの追跡なんざ、痛くも痒くもねぇよ。 大体アンタは、詰めが甘すぎなんですよ。 敵に毎日グチこぼすなんざ、刑事として失格ですよ」

それを聞いた小銭形は、不敵に笑ってしまう。

「フフッ…どうりで捕まらねぇわけだ」

「まさかアンタ!?」

このやり取りに、ユーリも気付いてしまった。

長五郎の正体が、あのおでん屋の店主のだと……。

「今回も、あっしの完全勝利ですね旦那」

「いいや、今回は俺の勝ちだ。 牢屋に入る前に、カミュを一杯付き合って貰うぜ」

ワイヤーが遂に千切れてしまうが、長五郎は面の奥で笑う。

「カミュじゃねぇ、焼酎だ」

同時に彼は、火の海へと落ちてしまう。

あの後ユーリ達は、あの火の跡を探索するが、長五郎の遺体は見つからなかった。








 翌日の夜。

ユーリ達は小銭形と再会し、一緒に飲みに行く。

「ん? あんなところに、BARバーなんてあったか?」

「何処がBARバーだよ?」

暖簾を潜り、全員が席に着く。

「いらっしゃい」

店主が楽しそうに声をかける。

「マスター…カミュ、ロックで頼む」

「へい、焼酎」

「焼酎じゃない。 カミュと呼べ、マスター」

「マスターじゃねぇ。 親父と呼びな、旦那」

「えっ……ウソ!?」

「あら」

「ふっ…こいつは、見事に騙されたな」

男には、酒でしか癒せない傷がある。

ハードボイルド刑事、小銭形平次。

彼はこれからも、己の流儀を貫くだろう。

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■作者からのメッセージ
小銭形「次回『ハードボイルド刑事 小銭形平次』が、始まるぜ――」

ユーリ「始まんねぇよ!」
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