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黒の異邦人は龍の保護者 外伝 “ Merry Christmas ーー聖夜の夜に in NC1976 ーー”『蒼き聖夜』編
作者:ハナズオウ   2020/12/18(金) 01:58公開   ID:gAiT7k8cLlk



  ※この話は「死神の涙編」よりももっと前のドラゴンキッドがシュテルンビルトに来た当初の話となります。




 異能力を手に入れた進化した人類“NEXT”と人類が共存する街“シュテルンビルト”。

 雪が降りそうなほど冷えきった夜。

 寒さを凌ぐように恋人達は肌を寄せ合う。

 寒さに耐えるように一人で歩いている人達は身を縮め、寒さに耐えている。

 緑のパーカーを着た東洋人の男、李 舜生リ シェンシュンは周りには目を向けず、街を歩いていく。

 マフラーも手袋もせず、李 舜生は寒さに耐えている。

 バーでのバイトを終え、李 舜生はポケットに“とあるモノ”を握り締め家路についている。

 程なく李 舜生はお世話をしている女の子、黄 宝鈴のいる家へと帰っていく。

 シュテルンビルトに来て数ヶ月、初めての師走。

 豪雪地域のように冬には雪が常時降り積もっているという事もないが、寒さは体の芯まで突き刺してくる。

 ブルっと体を震わせ、李 舜生は家へと入っていく。

 玄関に入ると、リビングの電気が付いているのが見える。

 テレビの雑音も聞こえ、いつものことか……っと李 舜生はリビングへと足を運ぶ。

 世話をしている黄 宝鈴ホァン パオリンは中学生程の薄い金髪のボーイッシュな女の子。

 トレードマークの黄色地に黒のラインが入ったカンフースーツは床に無造作に置かれている。

 タンクトップとパンツ姿となった黄は机に突っ伏してスヤスヤと安らかな寝息を立てて寝ている。

 世話をしてもらっている李 舜生の帰りを待ち、いつものように風呂上がりの格好で眠っている。

 黒のタンクトップにパンツ一丁。

 いつも通りとはいえ、この師走真っただ中でこれというのは……っと李 舜生は着ていた緑のパーカーを脱いで黄に掛ける。

 緑のパーカーを掛けられた瞬間、黄は嬉しそうに頬を染め、少しモジモジとして気持ちよさそうにヨダレを垂らし始める。

 李 舜生はいつものように、黄を抱きかかえようと視線を机に落とすと、そこには見慣れぬ手紙を見つける。

 手にとってみるとそこには黄の文字で書かれていた。


 『サンタさんへ

 ボクは一杯一杯悪いことをしてきました。

 お父様もお母様も、皆を傷つけたんです。

 師匠に出会わなかったら僕はきっとまだ皆を傷つけてきました。

 だから、シュテルンビルトのヒーローとしていっぱいいっぱい頑張ってきました。

 皆を守るために、毎日毎日一杯訓練もしました。

 ボクは悪い子だからプレゼントを貰えないのはわかってます。

 でも、師匠に早く追いつきたいから、ボクはダメだとわかってますがお願いです。

 ボクに……』


 手紙は途中で終わっていた。

 手紙の中は、自身が能力を扱いきれず、両親や周りの人達を傷つけた罪悪感で包まれていた。

 能力の制御を覚え、街を守るスーパーヒーローになったとしても黄の心には後ろめたさが残っている。

 強力な能力を振りかざすよりかはマシだが、子供なのだからもっと前だけ見て楽しめばいいのに……。

 っと李 舜生は苦笑を洩らす。

 そして、手紙を読んだ李にはわからない単語があった。

 『サンタ』

 “さん”が着けられていることから、人物の名前であるのはわかる。

 しかし、黄の実家にもそういった名前を聞いた事はないし、シュテルンビルトにいても聞いた事はない。

 しかも、懺悔して何かを欲して、それを貰えるといった文脈。

 いったいサンタとはどういったものなのか……李は必死に考える。


 李はこの世界の住人ではない。

 ゲートと呼ばれる物理法則が通じず、不可思議な現象が多発する領域が東京とブラジルに出来た世界の住人であった。

 本当の星空は偽りの星に変わり、月は姿を隠してしまった。

 NEXTに似た能力者が跋扈する世界で、なんの能力も持たない李は身に付けた格闘技術のみで生き残ってきた。

 その結果李は、『黒の死神』として恐れられていた。

 その時のコードネームは“ヘイ”。

 戦いに身を投じる際に、親から貰った名前は捨てた。

 今名乗っている“李 舜生”ももちろん偽名だ。

 ただ、親元を速れる黄 宝鈴が過ごしやすいように、周囲との仲を持ちやすいようにとその時装っていた性格と名前を再び演じた。

 そんな経緯の李には『サンタ』という存在に触れたことはない。

 戦いに身を投じるまでも、そんな風習のあった地域にはいなかった。

 自然が雄大に広がるだけの田舎で、星を見るためにと買ってもらった望遠鏡がその地域で一番の最新機材だった。


 そんなサンタがわからない李の携帯電話がバイブで着信を報せる。

 着信画面を見ると、バーでの同僚にして目の前に眠る黄ともヒーロー仲間の“カリーナ・ライル”と表示されている。

「もしもし、今日もお疲れ様でした」

『お疲れ、李さん。明日でもよかったんだけどさ、ちょっと頼みたい事あるんだ』

「どうしました?」

『今日バーにさ、木目調の腕輪忘れちゃったんだ。李さんって明日もバイトだよね? だからさ、取ってきてくれないかなってさ』

「あー、そうだと思って持って帰ってきてますよ。明日トレーニングセンターに持っていきますね」

『そうなんだ! ありがとう、李さん』

「っあ、カリーナさん。一ついいですか?」

『ん? どうしたの?』

「『サンタ』ってなんですか?」

『……は? はぁあああ!!!? 李さんサンタ知らないの!?』

 それから李はカリーナから電話越しに説教を受けつつ、サンタクロースについて説明を受ける。

 サンタクロースはどうやら、一年間良い子にしていた子供にプレゼントを渡してくれる存在だそうだ。

『まぁ結局は親が子供に渡してるってのが事実なんだけどね』

 カリーナは呆れたような声で締めくくり、電話を切った。



ーーーー





TIGER&BUNNY × Darker Than Black


黒の異邦人は龍の保護者


  外伝 “ Merry Christmas ーー聖夜の夜に in NC1976 ーーー ”


『蒼き聖夜』編


作者;ハナズオウ






ーーーー




 クリスマスが近づいてきていたある日、カリーナは女子トークでもしようかと思ったのか、昼食時に黄へと話しかけた。

 ちょうどカリーナがサンタの正体についてしってしまった歳と黄が同じだったため、どうしても聞いてみたくなった。

「ねぇ黄、サンタさんに何かお願いしたの??」

「サンタ? だれ?」

 サンタの存在をまったく知らなかった黄の反応に、どこか納得してしまったカリーナ。

 いつも真面目にトレーニングし、卓越したカンフー技術を持っている。

 聞いたところ、学校にもいかずにカンフーの英才教育を受けていたそうだ。

 外界の情報を得る機会はほとんどなく、シュテルンビルトに来てから知ったことが多かったそうだ。

 だから、サンタクロースについて教えて挙げると、目を輝かせて聞いていた。

 『手紙を書くといいわよ』と教えてあげるとちゃんと手紙を書いていたし、教えがいがある。

 ——そして私、カリーナ・ライルの戦いは始まったのだ。

 大人達はどうもサンタに対して負の感情を持っている節がある。

 ワイルドタイガーこと鏑木虎徹はサンタの正体を隠そうとせず、親が子供にプレゼントを渡す日と言っている。

 他のヒーロー達も同様なようで、クリスマスに特に何か特別な感情を抱いている風には見えなかった。

 虎徹に至っては、あろうことかサンタを初めて知ってウキウキしていた黄に正体をバラそうとしやがった。

 クリスマスまでの一週間、どうやら私は孤独な戦いをすることになるだろう。

 なんとしても黄に今年だけだろうと、サンタクロースを信じたまま過ごして欲しい。

 例え、今回のクリスマスがすぎてその正体を知ってしまおうと……だ!


「っと言うわけで! 李さん援護お願いね」

「は……はい?」

 トレーニングセンターへと黄を迎えに来た李 舜生にカリーナは、ニヤリと笑いながら言い放つ。

 黄が信じているサンタの幻想を壊さないために、一番黄に近い李を引き込んだ。

 李にしてみれば、カリーナが忘れた木目調の腕輪を渡しに近寄っただけだったのだが。

「だから、李さん! サンタの正体、黄に教えたらダメだからね!」

「それは、はい」

「それと! ちゃんとお祝いしなきゃいけないのよ! ちゃんとね!

 七面鳥焼いて、ツリー飾って、バレないように黄にプレゼントするのよ!」

「はい……昨日サンタクロースについて聞きましたけど……

 クリスマスってどんな事するんですか?」

「その様子だと、何も知らないのね。

 ……よしっ! 明日時間ある? ツリーとか色々買いに行こうよ」

「はい」

 うっしとカリーナは小さくガッツポーズをして、李と別れた。

 李はいつも通り、汗を吹き終えた黄と帰っていった。

 二人を見送ったカリーナも汗を流そうとシャワールームに向かう。

「やることやってるわねぇ、ブルーローズ」

 話しかけてきたのは、ファイアーエンブレムことネイサン・シーモア。

 ピンク髪の坊主にラインが入っている黒人。

 オネェな性格と言動を抜けば、カリーナと黄の良き理解者でもある。

 少しニヤニヤとしながら話しかけてきた。

 その表情はどこかいい玩具を見つけたかのように少し、いい笑顔をしていた。

「なに? ファイアーエンブレム」

「李君狙い……でしょう?」

「ちょっ!? 李さんとはそんなんじゃっ!」

「いいじゃない。そんな年頃じゃない、頑張りなさいな。相談にはのるからねぇ」

 ボッと真っ赤に染まったカリーナはあたふたと身振り手振りで誤魔化そうと必死になっている。

 わかり易いな……っとネイサンは苦笑を漏らす。

 まぁ気が強くて、天邪鬼が入ってるカリーナだと初恋も自覚せずに終わってそうね……っとネイサンは思う。

 そして、こういう気の強いタイプが案外恋愛でアタフタしてしまう。

「そういえば、アンタ李君に何か頼んでなかった?」

「あー黄がさ、サンタについて何も知らなかったから教えてあげたのよ。

 そしてら嬉しそうに信じちゃったからさ、今年のクリスマスが終わるまででも信じさせてあげたいのよ。

 でもさ、タイガーがさ……最近クリスマスについて愚痴ってるじゃない。

 それでサンタの正体が親だっての知られたくないのよ。だからファイアーエンブレムも協力してよ」

「なぁるほどぉ。いいじゃなぁい! 送ってあげるから早く着替えておいでなさいな。その時に話しましょ」

「えっ! いいの! やりぃ。じゃぁ、汗流して着替えてくるね」

 ネイサンにも協力を要請したカリーナは、嬉しそうにシャワールームへと走っていく。

 ネイサンはシャワーから出て帰り支度を終えて帰ろうとしているロックバイソンことアントニオ・ロペスへと近づく。

 赤髪をオールバックにしてゴツイ体格で頼れるお兄さんの風貌のアントニオは、後ろから近づいてくるネイサンに気づいてはいない。

 そして、手の届く距離まで来たネイサンは、迷いなくアントニオの尻をギュウっと趣味で握る。

「モォォゥ」

 生理的嫌悪感からアントニオはサブイボを全身に出して、寒気が全身に走る。

 ネイサンからアントニオへのスキンシップなのだが、アントニオにとってはありがた迷惑と言っていいだろう。

 毎度オネエのおっさんにお尻を掴まれているのだから。

「やめろよな! 何が面白くて尻握られなきゃならんのだ」

「あっらぁ、いいじゃなぁい。いい尻してるからいいじゃなぁい」

「お前なぁ!」

 アタシとアンタの仲じゃなぁいっとネイサンはにこやかに笑う。

 ネイサンにとっては楽しいスキンシップかもしれないが、アントニオにとってはオネエに尻を触られる、出来れば_御免被りたい。

 ヒーローになってから、アントニオは後ろへの警戒を覚えたが、それ以上に隱業に長けた動きを見せてネイサンは触りに来る。

「ちょっとタイガーに口止めするの手伝ってくれなぁい? ドラゴンキッドがサンタを信じてるからバラすんじゃないわよ?」

 ネイサンはアントニオの尻を気持ちよさそうに握りながら、根回しを行っていく。

 カリーナがシャワーから出てくる前にネイサンは、スカイハイと虎鉄までも取り込む事に成功していた。




ーーーー




「李さん、待った?」

「いえ、今来た所ですので」

 シュテルンビルトの広場の一角、李はいつも通りの恰好をして座っていた。

 いつも通り、緑のパーカーに下は白のYシャツ、ジーンズという私服に身を包む。

 そこに金髪ブロンドにエスニック系の服を着ている。

 2人は挨拶をそこそこに街中へと歩いていく。

「李さん李さん! これなんてどう!?」

 カリーナは目につくもの全てに反応しているのではと思ってしまうほど、あっちへこっちへと李を連れまわす。

 『まずはクリスマスツリーから!』と笑顔でカリーナは李の手を引く。

 この飾りがダメ。ここはこうじゃなきゃ。とマシンガントークをかますカリーナに黒はタジタジ。

 カリーナの意見を全て取り入れた黒は、これだと1つのツリーを指差す。

「カリーナさん、これ……ですか?」

「ん? どれ? あーこれはあれね、大きさがダメね。

 せーーーーっかく、黄が初めてクリスマスを祝うんでしょ?

 なら、もっともっと大きいのにしない? こういうのって一生ものだし」

「は……はぁ」

 と笑顔を作りながらも、視線で大きなツリーを探す。

 ちょうどカリーナの真後ろに、李が指差したツリーよりも2周り大きなモノが展示している。

 軽く李の身長を超えている。

 李が指差したツリーの値段から察するに、予算を軽く飛び越える値段なのは想像に難しくない。

 さすがに財政の事を考えるとあれになると厳しい。

「これでも十分大きいと思うんですが……ほら、鈴の身長よりも高いですし」

「だめだめ、私ん家のって未だに身長抜けてないんだもん。

 一生抜けないぐらい大きいのじゃないとね。えっと……

 あれにしよ、李さん」

 ニッコリと天使のような笑顔をしたカリーナは、李が回避しようとした最大級のツリーを指差した。

 柔らかい手と、笑顔で購入を誘うカリーナに対抗する術を持つ男などいないのだろう……。

 苦笑しつつも、李はカリーナに誘われるままに購入手続きを始めた。

 既に李のバイト先の一か月の給料を超えた値段を叩いてしまった。

 財布には痛い出費でも、カリーナの満足げな笑顔を近くで見ているとそれもいいかと思える不思議に、李は口元がほころぶ。

「ツリーも買った事ですし、カリーナさん次は……」

 食材ですかね? と問おうとした瞬間、カリーナが元気よくかぶせてくる。

「李さん、次電飾買おう! いいお店知ってるんだ! ちょっと遠いけど、バイクで乗せてってよ」

 笑顔で提案してきたカリーナに李は、近くに停めたバイクを出すかと両省の合図を出す。

 黒く流線型のバイクを出した黒の後ろに、カリーナは嬉しそうに乗る。

「カリーナさん、昼とはいえ寒いですので」

 と黒は緑のパーカーをカリーナに差し出す。

 ありがと。とカリーナは遠慮なく羽織り、手が出ないブカブカなパーカーを着る。

 ギュッとここぞとばかりに李に抱きつく。

「あー……、ではいきますね」

 控えめとはいえ、女性の象徴が背中に当たっているな。と思いつつ、李はカリーナに黙ってスタートを切る。

 言ったところで……と、役得感を得ながらバイクを運転する。

 着いたのはカリーナの学校にほど近い一軒の雑貨屋に到着する。

「ここの雑貨すごいいいの置いてるの。この前電飾を見てたんだけど、すごい可愛かったの!

 今年は私もツリーの電飾を変えようかなって思ってたんだ。一緒に選ぼうよ」

 一緒に選ぼうといったカリーナだが、再びマシンガントークを開始した。

 この電飾、配色が可愛いのよね。これはイルミネーションが綺麗なの。

 これなんてトナカイの形してるのあって可愛いのよ。

 など、全ての商品を進めてくる。

「これなんて、カリーナさんみたいに強い光ですけど、ちゃんと優しくて綺麗な感じですよ?」

 李は1つの電飾を手にとり、カリーナに進める。

「え……ほんと? なら……これにしようかな」

 口元を綻ばせたカリーナは、少し顔を赤らめながら大切そうに李が差し出した電飾を受け取る。

「喜んでもらえてよかったです。ツリーのサイズを考えると、2・3個買わないといけないですね」

「ならさ、これとこれ買おうよ。

 あとはこっち」

 まるで初めから決めていたようにパパッと決めたカリーナ。

 李の疑問をわかっているかのように、カリーナは自信たっぷりに頷く。

「これをね、上から巻くの。これって光強いから、てっぺんに着ける星に反射してまた綺麗になるのよ。

 こっちはね、トナカイの電飾が可愛いからドラゴンキッドの視線辺りに配置するといいわね。こういうの喜ぶと思うよ?

 最後のはね、イルミネーションパターンが他と違うからまた、綺麗になるのよ」

 はぁ……と思いつつ、カリーナに言われるままに李は電飾3つ手に取る。

 カリーナはお気に入りのお店なのか、買い物を終えても雑貨や小物などを見ていた。

 李も小物を見て回る。

 しばらくすると、満足したカリーナは李に

「次いくよー李さん」

 はい。と、李は会計を済ませ、ラッピングしてもらう。

 すぐ取るのに……と思いつつ、カリーナは待つ。

 そこからはまたカリーナに言われるままに、李はシュテルンビルトの店をあっちへこっちへと連れまわされる。

 電飾、装飾、などなどここまで必要なのか……と思えるぐらいにツリー用品を買いに走った。

 気が付けば、日はもう傾き始めていた。

「これくらい買えば、今年はなんとかなるかな」

「はぁ……カリーナさん、折角のお休みなのに付き合ってくださってありがとうございます」

「いいのよ、こっちも電飾買えたし」

「では、送っていきますので乗ってください」

「っえ! いいの? やりぃ」

「はい、カリーナさんのお母さんにお聞きしたい事もありますので」

 あ……そう。っと少し残念そうにちぇっと小さく言いつつ、バイクに乗る

 先程より強く李の腰に抱きついたカリーナは背中に顔をうずめる。

 家に着くと別れの挨拶を済ませ、カリーナは家へと入っていく。

 李の願い通り、カリーナは母親を呼び、しばらく李と母親は談笑して別れた。

「おかえり、楽しい買い物だった? カリーナ」

「まぁね。電飾買ったからさ、今年は変えようよ」

「あら、もしかして李さんからのプレゼント?」

「っち! 違うわよ! 李さんが選んでくれただけだよ! 私みたいって」

「あっらぁ。それは飾らないとダメね」

 嬉しそうに笑う母親と顔を真っ赤にしてあわてるカリーナ。

「そ、それよりも李さんと何話してたの?」

「やっぱり気になる? そりゃそうか、だってカリーナは李さんの事が……」

「違うから! 違うから!」

 フフフと、笑う母親に楽しく遊ばれてるな……っと思いつつ、反撃できないカリーナは恥ずかしさに耐えて母親の答えを待つ。

「李さん、クリスマスの料理について教えてほしいっていうから、明後日教える事になったの。一緒に買い物行くんだよ?

 どう? 羨ましい?

 でも残念ね、だってカリーナまだ料理まともに出来ないもんねー」

 満面の笑みを浮かべる母親が話した内容は、李とのデートの誘いだった。

 着いていきたいけど、その日は一日中トレーニングだし着いていけない……。

 と、グヌヌヌと攻めるに攻めれない状況に陥る。

「でも残念でしたー。カリーナはトレーニングだもんねー。お母さん張り切っちゃう」

「楽しそうだな、どうしたんだい? 2人とも」

「っあ、パパ聞いて聞いて。ママ明後日デートしてきますね」

「ハッハハハ、すごいじゃないか。楽しんできなさい。また話聞かせてくれな」

 豪快に笑う父親に、いやいや! と突っ込みたい気持ちを必死に抑えたカリーナは悶々とした気分のまま風呂へと向かう。

「あ、そだ。パパ、ママ。クリスマスイヴはバーで歌ってくるから」

 そう、クリスマスに李さんと会えるかなって期待したわけではないけど、歌う事になっている。




ーーーー




 クリスマスイヴ当日、街は楽しげなムードに包まれている。

 一仕事終えた大人たちは疲れをいやすように、バーで仲間と酒を飲み交す。

 ステージ上では代わる代わる歌手が上がり、歌を歌う。

 その内の1人、カリーナ・ライルは少し落ち込み気味にバックヤードでミネラルウォーターを飲んでいた。

 数日前に母親と李との買い物の後、母親はここ数日ずっと惚気を聞かされた。

 別に行為があったとかそういう事を考えたわけではない。母親から聞く本人の惚気ほど地味にくるものはない。

 バイトやトレーニングセンターで会ったらちょっと文句を言おうかと思っていたが、狙ったかのように今日まで会う事はなかった。

「で、今日は黄が同伴か……これじゃ、文句言えないじゃない」

 ようやく会えたのは、李とカリーナの共通のバイト先であるバーであった。

 その李のバイト中の定位置の正面のカウンターには黄色いカンフースーツを着たドラゴンキッド、黄 宝鈴が大人しく座っていた。

 聞けば、今日はせっかくのお祝いだからずっと一緒にいるのだという。

 バイト中はカウンターで李の前で座ってご飯を食べるのだという。

 カリーナも歌い終わったら合流する事になった。

 カリーナはふと思う、どうもドラゴンキッドは李さん以外の近くだと黙り込んでしまう傾向にあると。

 カリーナは李と2人きりの時は明るく話しているのを遠目に見た事が何度もあるが、もう1人誰かが入ったら黙り込んで李の陰に隠れてしまう。

「だから、ちょっと気ひけるんだけどな……李さんそういう所鈍感だからな」

「カリーナちゃん、次お願いね。

 はい、これクリスマスプレゼント」

 オーナーは楽しそうにカリーナの出番だと知らせて、ステージへと誘おうとする。

 と同時に渡されたプレゼント。

 開けると、中にはサンタとトナカイの小さな置物が入っている。

 何とも思っていない人からのプレゼントだが、貰うとやはり嬉しい。

 少し気分があがりながら、カリーナは席を立ち、ステージへと向かう。



   ◇


 ステージを終えたカリーナは、誘われるままにカウンターの黄の隣に座る。

 心なしか、楽しそうに座っていた黄がしゅんと縮まった気がした。

「お疲れ様でした、カリーナさん。これボクと鈴からです」

「ありがとう。どう? ドラゴンキッド、バー初めてでしょ?」

「……う、うん。楽しいよ」

「鈴が来るのはボクのバイトの面接以来ですね。ここだとあまり食べれないので少し退屈みたいなので、お話してもらえると嬉しいです」

「へぇ。そういえば、黄。

 サンタさんに何お願いしたの?」

「ひみつ。言っちゃだめって言ったのカリーナさんじゃん」

「あー、そうね。なら明日のトレーニングの時に教えてね」

「うん」

 などと黄ととぎれとぎれの話を繰り返す。

 黄と話していつも思う事は、人付き合いの経験値が極端に低い事だ。

 好きな話を振れば嬉しそうに話してくれるので、話せないわけではないが……。

 まぁ長い付き合いになるか、とカリーナは徐々に話していこうと決めている。

 折角の女性ヒーロー同士だから仲よくしたいのだ。

 黄と話し始めて一時間はたっただろうか。時計は9時を回ろうとしていた。

 瞼が落ち始めた黄の首は船をこぎ始めた。

「大丈夫ですか? あと30分程ですが、バックヤードのソファーで横になりますか?」

「んーん。大丈夫……だよ」

「黄って9時には寝てるの?」

「はい。偶に10時頃まで起きてる事はあるのですが、ほとんどは家に帰ったらもう寝てますね」

 ハハハと笑う李は、船をこいでフラフラし始めた黄の頬に優しく手を当てる。

 誘われるように黄はカウンターへと頭を下ろす。

 カウンターに突っ伏した状態の黄は軽く寝息を立て始める。

「やっぱり頑張って起きてたようですね。

 帰りは抱っこして帰らないといけなさそうです」

「李さんって結構黄の扱い慣れてるよね。ここに来る前から長いの?」

「いう程長くないですよ。

 ここに来て一年程ですし、来る前は3ヶ月ほど一緒に過ごしただけで……

 出会ってそんなに長くないですね」

「へぇ意外。もっと長いと思ってた。

 そんな出会って数か月の人と一緒に住むって、この娘意外と肝が据わってるのね」

 そうですね。と苦笑しながらカリーナと話す。

 バーでのステージは終わりを告げ、テレビで映像とスピーカーから音楽を流していた。

 客たちも酒が入り、楽しそうに笑う人、しんみりと話し合う人などそれぞれのテーブルで様々な光景を見る事が出来る。

 カウンターでも何杯めかわからないおかわりをする人が居たり、黄と同じように寝始める人もいる。

 そんな中、李と話すカリーナの元へと来訪者来たる。

「おぉおお! 李ーくーん!! じゃないか。まだ仕事中か?

 飲もうぜぁ」

 既に酒が入った虎鉄とアントニオがやってきた。

 断りもなくカリーナの横に座った2人は李に即座に酒を注文する。

「もうそろそろ終わりますけど、今日は鈴がいますので、すみませんが……」

「いーじゃんいーじゃん、なぁアントニオ」

「そうだぜ、一杯くらい大丈夫だって。いつも飲んでるじゃないか」

「では、鈴をバックヤードで寝かせてきますね」

 にこやかに返事をした李は一度バックヤードに入り、客席へとやってきた。

 手にはいつも来ている緑のアウターを持ち、慣れた手つきで眠る鈴を抱き抱える。

 抱えられた鈴は無意識に李の襟をキュッと握る。

 スタスタとバックヤードに引っ込んだ李は、数分でカウンター内へ再び現れた。

 李は虎鉄からの一杯を楽しむ。

「でさ、李くん

 ……黄へのプレゼント買ったの?」

「ええ、気に入ってくれるならいいんですが

 ……折角虎鉄さんとアントニオさんにアドバイス貰いましたので」

「「いいってことよ!」」

 ガバガバと酒を飲む2は、ガハハと豪快に笑う。

 それを聞いたカリーナはたらりと一筋の汗を流す。





 聖夜は静かに冷たく深くなっていく。

 しっとりと白い結晶が夜空を、街を、全てを覆い尽くそうとしていた。




ーーーー




 ホワイトクリスマスとなったシュテルンビルト。

 街のいたる家庭から、子供の喜ぶ声と親のしてやったりな笑みが飛んでいる。

 氷の女王の少女が住むライル家も少し違うが、少女の喜ぶ声が登る。

「なんだ? カリーナの奴、朝早くからご機嫌じゃないか」

「あらパパ、まだ知らないの? カリーナにもちゃんとサンタさんが来たようよ」

「? なんだ、ママ。何か買ってやったのか?」

「ううん。黒髪の素敵なサンタさんよ」

 父親は記憶を辿り、幾度か家まで送ってくれたバイト先の同僚・李を思い出した。

 まぁ無害そうな青年なら愛娘を傷つける事もないかと安堵する。

 しかし、父親はそれとは別に落胆と少しのライバル心が芽生える。

 幾度となく、娘に買ってあげようと提案し続けたが、断り続けられた過去を思い出された。

 それをプレゼントというサプライズで送りつけ、成功させている。

 たった一人の愛娘を持つ父親としてこれほど面白くない事はない。

 かといって嫉妬に狂うほど若くない。

 ならばする事は1つ。

 ……笑顔でスルーする。

 ニコニコとした笑顔で、それが唯一出来る対抗手段だと考えた。

「じゃ、トレーニング行ってくるねー」

 鼻歌交じりに出かけたカリーナの頭には、黒髪のサンタさんからの贈り物が乗っていた。

 綺麗なブロンドのウェーブの髪を包み込む、エスニックのニット帽。

 エスニックを好むカリーナの服にピッタリの帽子が追加された。


 …………

 ……


 いつも以上に上機嫌なカリーナは鼻歌交じりにトレーニングセンターに向かっていた。

 見慣れた街の景色もキラキラと光って見える中、カリーナは一層光る存在を見つける。

 黄色いカンフーマスターと仲よく歩く黒髪の青年。

 いつも通りの緑色の少し使い込んだフード付きジャケットも、光って見える。

 見つけたならばやる事は一つ。

 ……元気に声を掛けるのみだ。

「やっほー、李さん、黄。

 プレゼントは貰えた?」

 カリーナの挨拶と問いかけに、視線を落とした。

 いつもならば李の陰に隠れようとするのに、今日はそれがない。着かず離れず、視線を落とすのみ。

 その行動でカリーナは察した。

 思っていたプレゼントを貰えず、李が正体を明かしてしまったのだと。

「何かあったの?」

「サンタさんもさ、わかってないんだ。

 ボク、可愛い恰好なんて似合わないししたくないのに、フリ……フリ……フリフリのスカートとかシャツとか……」

 思い出したのか顔を真っ赤にして「わかってないんだ」と繰り返す黄をなだめる事無く、李は頷くのみ。

 不満を言う黄のリアクションを楽しんでいる節すらある。

 この表情にカリーナは覚えがあった……『思い出し笑い』だ。

「黄、たまにねサンタさんは自分を信じてくれる何人かの子供にほしいモノとは違うプレゼントを渡すことがあるの。

 それはねその子が無意識にほしいものだったりするんだって」

「でも、ボクあんなの欲しくなかったよ! 師匠は似合ってるって言ったって、ボクにはあんなの似合わないよ!」

 ということは、黄は一度試着したのだろう。

 それも李の甘言に乗って……。

 カリーナがジロリと李を睨み真相を聞き出そうとしたその時、黄が更にぶつくさと呟いた。

 いつの間にか、李の手は黄の頭を撫でている。

 黄は拒否する事無くかといって受け入れる事無く、どっちつかずに頭を小さく振っている。

「ボクは新しい“木人形”が欲しいって書いたのにさ……」

 おい……とガックリと脱力したカリーナはそういえばこういう子だったなと再認識させられた。

「まぁ、新しいのは今使っているのが壊れたら買いますので、たまにはいいじゃないですか、似合わないと思ってる可愛い衣装を着るのも」

「いっつもそういうけど、そんなの……着れないんだよ、ボクは」

 いえいえ、と小さくつぶやいた李は携帯をパカリと開いた。

 わざとカリーナに画面を見えるように開かれた画面には、ボーイッシュなショートボブの金髪の美少女が映っていた。

 赤と白のチェックのフリルスカートに白に黒の小さな水玉が乗ったフリルシャツ、上に黒の7分袖のカーディガンを羽織る。

 首元に純白のリボンがワンポイントで添えられている。

 その美少女が顔を赤らめ、右手はスカートを下に引っ張り、左手は口元を隠している。

 本人は恥ずかしがっているだけなのだろうか、男性なら誰もが見惚れてしまうだろう程の絶世の美少女写真だった。

 カリーナは反射的に携帯電話を出し、指さし、ジェスチャーで

『その画像を転送して』

 と伝え、李もにこやかにそれを承諾した。

 この画像はドラゴンキッドを除くヒーロー関係者内に流通し、ドラゴンキッドの成長の一幕として微笑ましく保存された。




 ーークリスマス。

 ーー神の子の生誕日。

 ーー日本ではカップルが愛を育む日。

 ーーシュテルンビルトでは、お祭りであり、いつも通り事件が起きる日。

 ーー李にとって黄に対する小さな小さな隠し事が出来た日となった。




   『蒼き聖夜』編 終了





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■作者からのメッセージ
お久しぶりすぎるお久しぶりです、みなさま。。。

元々「死神の涙」編を書いているときに書き進めていたクリスマス話となります。
しばらくお蔵入りしているのを少しずつリハビリ兼ねて書き直したりしていました。

タイバニ2期がどうのというニュースを見てとてもワクワクしたのでこちらを投稿させていただきました。時期が時期ですし。

劇場版の話なども描きたいと思っていますが、辿り着けるかな。。。ハナズオウよ。
という感じなので気長にお待ちいただけると嬉しいです。

少しクリスマスに色を添えられたら何よりです。

またお会いしましょう。
目次  

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