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騎士の片思い
作者:アルマ   2008/10/04(土) 18:25公開   ID:pIM4id/.uew
吹雪の夜、一人の女性騎士が夜のシレジア城廊下を歩いていた。
色々な想いを胸に想いながら―――・・・・・・。

貴方(レヴィン)様の事、本当は好きでした。
だけど、それじゃ・・・妹(フュリー)が可哀想でした。
昔からあの子は貴方様の事だけを思って忠誠を誓って来たのですから――――・・・・・・。
私はそんなあの子に敵いませんでした。あの子の方が上。だから仕方なかった。諦めるしか無かった。
それでも、そんな貴方を想い続けました。叶わないと分かっていながら、仄かな想いを抱き続けていました。
昔、貴方は私の事、好きだったと知った時は嬉しかった。しかし、私はシレジアの四天馬騎士筆頭。
それは許されない事。シレジアの美しい大地を守る為に私は戦い続ける。貴方やあの子の未来、シレジアの為に・・・
その為に私はシレジアに存在する。御免なさい。もう貴方の風に触れられない。さよなら―――・・・。
フュリーの事、ラーナ様の事を宜しくお願い致します――――。


昔からマーニャは才色兼備でシレジア国内で人気高く、男性ファン・女性ファンが多数居た。
そんな完璧な女性にも悩んでいる事がある。それは、『片思い』と言う名のものだった。
マーニャは今も昔も変わらず、レヴィンの事を思い続けていた。だが、叶わないという事も分かっていた。
明日。もう一人の四天馬騎士・パメラ戦を控えつつも、眠れないのであった。
これがもう最後なのかも知れない。今までは思わなかった不安と恐怖。その気持ちがマーニャを襲う。
「これが、恐怖なのね。今までは感じた事すら、無かったのに・・・。」
そう呟きながら、窓に映る冬景色シレジア城下町を見る。珍しく吹雪の晴れた夜空にただ想う人の姿が思い浮かぶ。
「レヴィン、様・・・」
微笑んでいた。優しい風を身に纏い、色々な人と話していた。王子とは思えれない優しさだった。その風にずっとマーニャは触れていたかった。レヴィンにも、その風にも。
「貴方はお優しい方。最後の最後まで、私をそんな気持ちにさせてくれた・・・。だけど、私はシレジア騎士筆頭。私は戦う事でしか、生きていけない女。こんな私をお許し下さい。これが、私の生き方ですから。」
瞳に涙を浮かべて、セイレーン城方向の方に敬礼する。そこに想うあの人が居るからだ。
風の聖書フォルセティを手にすれば、レヴィンはきっと自分の思いを知る筈になる。だが、それをマーニャは口に出す事が出来ない。シレジア四天馬騎士筆頭としての誇り、自分の誇りがマーニャを縛り付ける。その道はマーニャ自身が望んだ事。それに後悔はしない。レヴィン、ラーナという君主の騎士で居られた事が誇り。それは騎士としての自分の誇りでもある。今、後悔し悔やんでいるのは女自身としての自分の片思いだった。
「私がこの想いをしなければ、私は女性に戻る事なんて無かった筈。どうしてですか?レヴィン様―――・・・。私を女性に戻してしまったのですか。そのせいで、私は思い悩んでいるんです。でも、叶わない。恋なんて。私は騎士。女性じゃないのですから――――・・・。」
自分が原因だと分かっていながら、思い人を責める。
そんな自分自身が穢いと自己嫌悪に陥りながらも、誇りを胸に何時もらしい振る舞いをする。
明日はシレジアの運命を決める戦い。その戦いにマーニャは分かっていた。
恐らく自分は唯では済まされない、と。
何せ相手は四天馬騎士2との戦いだ。それを想定し、結論付ける。
それでも怯み、恐れる訳には行かないのだ。自分の騎士としての自分が居るからだ。
女性を捨て、騎士道を選んだマーニャ。それに後悔など無い。
ただ、この片思いは後悔した。妹を思うと、自分の気持ちは言わない方が良い。
言えない悔しさを責め続けながらも、騎士として生き続けてきた。今更、後戻りをする事も出来ない。
未来に託す。シレジアに全てを。その為の力であり、守護者だ。そういう考えがマーニャの考えだ。
結局、考えても時間の無駄。自室に戻り、眠ることにした。

自分の運命を知らずして―――――・・・・・・・・・・。





翌日。とうとう当日の日になる。
数時間寝て、起き出す。騎士たる者の当然の生活習慣。
騎士服で寝た為、準備などは必要なかったが、ある程度の準備はする。
それと同時に見張りから、伝令兵に伝達される。それを聞き付けると、急いで玉座に向かう。
騎士一同は出撃準備を整え、城門にて待機。
玉座へ着いたマーニャは早速、ラーナに報告する。
「ラーナ様。ザクソンからパメラ隊が出撃し、このシレジア城攻略に向かって来る模様です。」
「え!?それは本当ですか?・・・ダッカーがついに、本性を現し出したのですね。」
その報告に驚きながらも、冷静なマーニャを見て、冷静になる。
「ご安心下さい。我等、マーニャ隊がパメラ隊を撃退致します。」
シレジアの筆頭マーニャは何時もと違うその筆頭に相応しい表情で対応する。
普段、マーニャは戦いは好まないが、戦闘があると人が変わるのだ。
「大丈夫なのですか?マーニャ。パメラは貴方と互角。いえ、実力は貴方が上です。ですが、パメラは恐ろしい騎士と聞きます。」
マーニャの凛々しく筆頭の姿にラーナは不安を抱き始めた。
「はい。確かに実力的に私に引けを取らず、互角と言えるでしょう。しかし、私はシレジア四天馬騎士筆頭。決して負ける訳には行きません。大丈夫です。私は死にません。」
「御免なさいね・・・。貴方を知っているのに、私は・・・。」
申し訳なく、罪悪感に襲われつつも、マーニャを信じる事が君主。待っているしかラーナには出来ない。
「私は騎士です。そういう生き方しか、出来ないのです。騎士である私が私の誇りです。お気を落とされないで下さい。」
優しく言うと、敬礼し、その場を立ち去る。城門に待機する部下の許へと急ぐ。
急ぎ足の中、筆頭の証である槍を手に、そして当時の騎士勲章を持ち城門に待機する部下達の許へ着く。
自分の愛馬である相棒のペガサスに跨ると、長年、愛用してきた銀の剣を天に掲げ、部下達に向かって叫ぶ。
「この戦いはシレジアの運命を決定付ける重要な戦いだ!決して私達に敗北は許されはしない。愛する故郷の為、我等がシレジアの未来の為に勝利に収めよ!シレジアの未来は我等の戦いで決まる。敵対するパメラ隊をこれより、撃退する。私に続け!」
愛馬の腹を蹴り出すと翼を広げて、一斉に冬空へと飛び立つ。
その姿をラーナは涙しながら、空を見上げ、マーニャ達の無事を祈る。


その頃、ザクソン城はパメタ隊が苦戦すると予想し、援軍をグランベルから呼び寄せていた。
「おお、これはアンドレイ卿!お待ちしていた。流石はユングヴィの弓騎士団だ。」
弓を基本とした馬上での戦い方をするバイゲリッター。
ダッカーは興奮し、ユングヴィ当主・アンドレイ卿を待ち侘びていたのだ。
「我がユングヴィは父が死に、姉は逆族に加担。ついでに逆族を射るのも良いが、ペガサス狩りも良いものだ。ハハッ行くぞ、バイゲリッターよ!」
狂喜に弄ばれる様な高笑いと共に出撃命令を出させ、移動開始する。
戦付近の山々の上空で待機していたパメラ隊。その一員がパメラの許へ報告に来る。
「パメラ様。マーニャ隊の確認が出来ました。出撃されますか?」
その報告に不敵な笑みを浮かべ、その方角を見る。
「ふふ・・・そう焦る事も無い。無駄に行動し、体力を消費させてまで奴等を撃退する必要も無い。下手すれば、今回の作戦に感付かれるだろうからな。」
「はっ・・・。了解しました。」
報告した部下が下がる。マーニャ隊の方角を睨みながら、笑う。
「マーニャ。これで、私がシレジア筆頭の座だな。これでもう、お前とはさらばだ。フフッ・・・お前も地に落ちた。2という数字に苦しむ事も無い。さあ、早く来い。あの時の決着、付けようじゃないか!」
高笑いすると同時に瞳に狂喜が宿る。


その高笑いが聞こえた同時に反対側から、ペガサスの一団が見えてきた。
マーニャ隊だった。
その高笑いが聞こえたのか、マーニャの顔も引き締まる。
「そうね。あの時の決着、もう一度、付けてあげるわ。貴方とは共に修行し、共にライバルだった。こんな形で再戦だなんて、残念だけど・・・お互い、恥の無い戦いにしましょう。」
マーニャ、パメラは共に真剣そのもの。その空気は両者は良く知っている。
「ハン!お前はまだそんなふ抜けた事を言っているのか?相変わらず甘い奴だ。だが、これで申し分は無い。後は私が勝利を収めるだけだァッ!」
二人はお互いの手持ちの槍を天高く掲げると、両者一斉に攻撃を開始する。
勝負はほぼ互角。だが、マーニャ隊がやや有利の状況だ。
剣でペガサスの翼を貫かれ、落ちていく騎士や、三人での連携攻撃で、騎士・ペガサスを串刺しにする者達やら、戦い方は様々だった。だが、そう長期戦に持ち込める状態でも無かった。

「マーニャ。何時かは滅びると分かっている王妃に忠誠を誓っている愚か者め。自分の立場を恨め。そして、その頂点を私が頂く!覚悟しろッ!」
「愚かは貴方の方だわ。何の為の力なのかを分かってる?守る為の力。欲の為に騎士は存在するものじゃないわっ!」
大将戦に更に激化する戦い。主将同士の一騎打ちに周りも盛り上がる。
「あの時、筆頭の座を巡って戦ったあの勝負。完璧にお前の勝ちで私は負けた。その当時の私は誰よりも強かった。その私が負けた・・・!この屈辱、お前に分かるかッ!?」
「・・・・・・。分からないわ。確かに、貴方は強かった。でも、私も負ける訳には行かなかった。守りたいものがあった。それが、私の戦いであり、守るもの。守るものを知らない貴方にこの座は譲りません!」
槍での攻撃。互いに隙が無く、ほぼ互角。だが、実力ではマーニャが上でパメラは下。
怒り狂うパメラの猛攻。それを力で弾き飛ばし、確実にマーニャは間を縮めていく。それは二人の運命を狂わせた上下関係での因縁の対決でもある。
「パメラぁっ!貴様を倒せば、シレジアは長く持ち堪える。その犠牲は可哀相だが、これも定め。」
「フフッ・・・!そうだ!怒れ、マーニャ。その怒りが私の欲に落ちる!!」
怒ったマーニャにパメラの槍は投げ出される。その隙にマーニャのシレジア筆頭の槍がパメラの喉元に付く。
「これで、決着が付いたわね。悪いけど、これ以上の戦いは私達の勝・・・」
冷徹の瞳、口調で宣言しそうになるその時・・・。
矢がマーニャの腹部に命中する。
その矢は先程、援軍に駆け付けたアンドレイ卿の勇者の弓による矢だった。
「ぁっ・・・ッ・・・!!・・・嗚呼、フュリー・・・・・・・・・レヴィン、様・・・」
その矢にマーニャは一瞬、頭に過ぎった。
――――死!?それ、だけは・・・!お願い・・・助けてっ・・・!!守りたいものがあるの。それを守らせて!!!痛い。この痛みが戦いでの邪魔になる。この矢を抜けば良い。―――
痛みに耐えながら、矢を抜き出す。その衝動で出血が酷くなる。その出血で騎士服、騎士勲章、ペガサスの翼が赤く染まる。その有様にパメラが望んだ戦いとは違っていた。
その後も弓矢での攻撃が次々とマーニャ隊に集中的に浴びる。
「ハハハハッ・・・!面白い様に落ちるものだな。まるで、トンボ取りでもしている気分だ。」
マーニャは攻撃を回避しながら、パメラ隊での攻撃を指示、主将である自分は力を振り絞り、重たくなる筆頭の証の槍をパメラに目掛けて振り回す。
その槍の攻撃はパメラにでも躱し切れる攻撃だった。
猛威でも遅ければ、話にならないのだ。
徐々に動きが遅くなるにつれ、マーニャに力が無くなって・・・次第に死期に近付いている。
「もういい。戦うな!これ以上、壊れた無様を私に晒すな!!その方が屈辱だ。私の目指したもの、決着はこんな形じゃなかった!!!!」
その死が確定すると、マーニャ隊のごく少数はシレジアへ逃亡。パメラ隊の被害も深刻だった。
そのマーニャの死後、シレジアは落とされてしまった。
シグルド達の活躍により、仇は討ち取られ、シレジア内戦は無事、終結した。
マーニャの遺体はザクソンに保存されていたとのことで、シレジア城に送られ、その姿にフュリー、レヴィン等の他、シレジア中が涙した。


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彼女の想いを知ってあげて下さい・・・。

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