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おかんむり
作者:貧乳教祖   2009/05/21(木) 19:14公開   ID:2ZtHrR9m5..
 何よりも最初に述べておかなくてはならないのは、ラピスラズリは年齢不詳であるということだ。
 作られた子供であり、ついでに言えばその作られた場所は既にぷちっと潰されているため、彼女の育成/製造過程の記録も残っていない。
 しかも彼女の保護者達はそのぷちっと潰した側どころかぷちっとされた側であるため、データも保持していない。

 故に、正確な年齢は不詳。
 『とりあえず』、見た目から小学校高学年ぐらい、ギリギリで中学校の新入生ぐらいと目算をつけ、彼女と似てるようで全く似ていない境遇の少女にあやかって11歳とされている。多少の前後はまぁいいだろう、と。





 ――――問題として、本人は欠片も納得していなかったりするのだが。







 というワケでラピスラズリ、親しいものにはラピスと呼ばれる(つられて自分でもラピスと認識してたりする)彼女は自分の現状にお怒りだった。怒髪天だった。別にその長い桃色の髪が逆立ったりとかはしていないが。
 その怒りっぷりに、彼女のオトモダチであり相棒でもある戦艦搭載用オモイカネ型AIなんぞは恐怖のあまり外部接続を切ってしまっている。言い換えれば引きこもっている。
 ……恐怖で引きこもるなど人間的過ぎる、というツッコミは野暮である。むしろ、そんな症状を引き起こす程の怒りだと認識してほしい。

 で。
 その怒りの元と言うのが――――


「……今日も子ども扱いされた」


 これである。
 前述されているため推測もつこうというものだが、今の自分の年齢に対する考え方が周囲と一致しないが故に、彼女は度々自分への周りの態度(主に某黒い王子様)にこうしてお怒りになられているワケだ。
 更にその怒りも「子供にはよくあること」と、周囲の大人達は大して気にしないのがさらに怒りゲージを上昇させる。もうすぐ超必殺技だって使えるだろう。内容は修羅か羅刹かで分かれるだろうが。
 そも、ラピス的には自分は16歳なのである。結婚だってオッケーなのである。むしろ某黒い王子様さえよければすぐにでもゴールインする気満々なのだ。
 そんな具合に自己を認識しているラピスからすれば、周囲の態度は断罪されてもしょうがない勢いだ。脳裏を「逆行」などと不思議な単語が過ぎるほどに。

 そんなワケで。
 ラピスはどうにかして子供扱いされるのをやめさせたいのだ。
 ……16歳も十二分に子供であると思わない辺り、周囲の対応は適応なのだが、彼女は気づいていない。

 まぁ、その彼女自身が気づいていない問題はともかくとして。
 彼女としても、何もしなかたワケではない。
 周囲の対応を改善させるために、それなりのことはやった。
 一例として、某黒い王子様が「それなり」の対応を取っている人物としてあげられる会長秘書や主治医モドキの態度を真似てみたりしたが、大した成果は得られなかった。
 ……彼女達を匿ってくれている企業の上層部が大騒ぎするような事件が起きはしたが。ちなみにその主犯も某黒い王子様だったのは言うまでもない。「またアカツキがラピスに悪影響をっ!」と喚きながら黒服達に連行されたのも、「濡れ衣だよっ!?」と叫びながら秘書に問い詰められている会長がいたのも同様だろう。

 だが、彼女からしてみれば「それだけ」である。
 自身の望む結果は得られていないのだ。

「……むぅ」

 小さく唸る。
 そろそろ個人の力では限界かもしれないと感じる。
 となれば誰かに相談するしかないのだが、生憎、一番の相談相手である相棒は引きこもり中だ。話しかけても「現在、この番号は使われておりません。ピーっという発信音の後に、メッセージをご登録下さい」という意味不明のメッセージが返ってくるだけだ。「使われてないのにメッセージを残してどうするの」と登録しておいたが、返信は未だにない。
 さて、そうなると次に出てくるのは会長秘書や主治医モドキなのだが、こちらは感情の問題で却下だ。
 某黒い王子様程ではないが、彼女達の対応も怒りの原因なのだから。
 そうなると、今度は相談相手の大半が却下となる。

 というか、他に相談できる相手など――――

「……よし」

 ――――どうやらいたようである。
 彼女はさっそく端末のIFSインターフェイスに手を置き、行動を開始した。



















「――――で、アタシを呼び出したの?」
「……」

 そんな話をされて。
 相談相手として選ばられた彼女、白鳥ユキナが若干顔をひきつらせつつも発した確認の意を込めての言葉に、ラピスは無情にも無言のまま頷いた。

「なんだかなぁ……」

 とある事件を経由して起きた一件の更に後に起きた大事件(があったと思ってください)の際に出来た知り合いの突然の呼び出しに、大慌てで家を飛び出してこんなとこまで来てみればコレである。
 ウィンドウ通信で十分だろうと声を大にして言いたいが、多分露ほどにも気に留めてくれないので言わない。

 ちなみにその『こんなとこ』であるが、某都某所にある『日々平穏』という名の無国籍料理屋だったりする。果たして、「無国籍料理屋」というカテゴリでいいのかは不明だが、メニューが無国籍を通り越して雑多なのでユキナは勝手にそう認識している。

 そんな彼女は小さくため息をついて、お昼代わりの火星丼を口に運び、

「まぁ、久々にホウメイさんのご飯を食べられたからいいけどさー」
「うれしい事を言ってくれるね。よし、オマケしてあげよう」
「わぁーい」

 『日々平穏』の店主であるホウメイの苦笑交じりの言葉に、若干棒読み気味で喜んでみせる。
 棒読み気味なのは、ホウメイが話に入ってこないためだ。ラピスは普段から今と同じような営業時間外、つまりは仕込中に昼食を食べに来ているらしいので、むしろ自分よりも彼女との付き合いは豊富なはずなのだが。
 ……つまりは「お嬢ちゃんの相手は任せた」ということだろう。火星丼は再会のサービスとのことなので、売られたとも言える。まぁ、そもそもここまでの旅費というか電車のチケット自体が、ラピスが謎の、おそらくは違法な手段を用いて提供したものだったりするのだが。財布には優しくても、精神的には優しくない人達である。
 あと、なんで自分なのか、例えばルリがいるじゃん? という問いには、しゃく・・だから、という答えが返ってきている。仲が悪いのだろうか。


「……それでユキナ」
「もご、うん、何?」

 再び口を開いたラピスに。
 ユキナは追加されたウィンナーを飲み干しながら相槌を打つ。

「……どうしたらいいと思う?」
「あー、そーだねー」

 まぁ、頼られた以上は何がしかの助けをしてあげるべきだろう。
 根本的に善人であるユキナは、恨みつらみは脇に置いて思考を巡らせる。

「子ども扱いかぁ……アタシも覚えはあるというか、今でもミナトさんには子ども扱いされるけどねー」

 兄が存命のころは、その兄に。
 今は義姉に。
 それぞれの一つ手で育てられている彼女からしてみれば、ラピスの悩みはよく分かる。
 被扶養家族である自分は、必然的に大人びていく(兄に関しては首を傾げざるを得ない点が多々あるが)二人には、よく子ども扱いされるし、された。自分と比べて軽くヘコむこともある。

「んー、まぁだからこそ、目標に設定できるってなモンだけどね」
「……目標?」
「そ。
 あぁ、こういう大人になりたいなーってヤツ?」
「…………」

 ぴこぴことレンゲを振りながらそれっぽいことを言うユキナに、ラピスは考え込むようにして沈黙を返す。
 それをチラリと横目で見やってから、火星丼の残りを口に運ぼうとして――――

「ユキナは」
「うん?」

 ようやく開いた口に、視線をもう一度向ける。

「……ユキナは、ミナトみたいになったら、子ども扱いされない?」
「あー、まぁ、ミナトさんを子ども扱いするのは至難の業だと思うよ?
 まぁ、ラピならエリナさんやイネスさんじゃないかな」
「もう試したらしいよ」

 と、ホウメイがようやく仕込みの手を止め、ラピスの代わりに答える。

「……試した?」

 一体何をやったのだろう。一瞬そんな疑問が脳裏を掠める。
 が、それを言う前に、ホウメイがラピスの方に目をやると、

「ま、結局はね。
 自分が成長しなきゃならないってことさ」
「……成長」
「そうさ。
 ユキナちゃんだって言ったろう? 目標って」

 ホウメイが諭すように言葉を紡ぐ。どうやらようやく相手をする気になったらしい。
 ユキナは安心して残りの相手を任せ、自分は今度こそ火星丼の残りを口に運――

「だから、まぁ、もうちょっと背というか、体が大きくなるのを――――ってあれ、お嬢ちゃん?!」

 ――ぼうとして、またしても手を止めざるを得なかった。
 見れば、ホウメイの言葉半ばで、ラピスはさっさと席を立ち、出入り口へと足を向けている。

「ちょ、ちょっとラピ、どうしたの?」
「分かった」

 慌てて呼び止めれば、そんな答え。
 ユキナとホウメイ、両名の頭の上に疑問符が浮かぶ中、彼女はスタスタと歩いてドアノブに手をかけている。

「いやいやラピ、分かったって何が!?」

 再度呼び止めるユキナに。
 彼女はドアを開けながら端的に答えを述べる。
 すなわち。












「――――胸」















 ちなみに。
 その答えを聞いたユキナは、古き良き昭和後期の漫才の如き見事なコケっぷりを披露してくれた。
 当然、頭の上には、何故か宙を舞った火星丼の残りが入ったドンブリが乗っかっていたという。
 後、ホウメイは何故か電話でどこかに侘びを入れていたらしい。























 ――――で。

 一応の『家』に戻って。
 ラピスは早速、胸を大きくする手段を探していた。
 手っ取り早く情報を集めるには相棒がいた方が早いのだが、やっぱりメッセージに返信がないままなので、しょうがなく一人で端末を操作している。

 とはいえ、そんな都合のいい手段は簡単には見つからないもので。というか簡単に見つかったら世の女性達は皆巨乳だろう。おぞましいにも程がある世界の一丁あがりだ。
 小一時間ほど情報収集を続けてみても画期的な情報が見つからない苛立ちから眉間に皺を刻む。

「……むー」

 おかんむりのようだ。ぷーっと頬さえ膨らません限りである。
 そのまま、更に端末を操作して――――

「……あ」

 めまぐるしく変化していた画面が止まった。
 画面には……いろいろとエロいバナーとかが沢山張り付いていた。つまりはそういう方向の。
 普段のラピスなら、多少なりとも羞恥心が影響してさっさと画面を変えるのだが――――何故か、ラピスの視線は、ある一点を凝視していた。

 そこには。
























 『胸の大きくなる薬、あります』
























 そんな一文が書かれていた。
 ラピスは、ゴクリ、とつばを飲み、冷静に考えたら怪しいにも程があるそのリンクを選択しようとして――――



「ラピス、なんかホウメイさんから連絡があったんだけど、一体何が――――って貴女何してるのぉぉぉぉっ!?」

 様子を見に来たらしい会長秘書に止められた。 

























 かくしてラピスの扱いに関する問題というか怒りは、継続することと相成った。
 ちなみに、何故か某大企業の上層部総出で、いわゆるワンクリック詐欺事業を営んでいた小さな会社が潰されたらしいが、これは全くの予断であり、大勢には関係ないと思われる。

 めでたしめでたし。


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