使用上の注意。
このお話は黒い鳩さんの行き当たりばったりの協奏曲のキャラを使用したそれっぽいながらも本家の人に怒られそうな全く別物の物語です。
プロットとかなんにもなしでノリと気分で書くつもりなので、構成がむちゃくちゃになったり、キャラの性格が崩壊したりしてしまうかもしれません。
ということで題名に騙されて来てしまった方は速やかに退室しつつ本家の方に移動なされることを推奨します。
鳩さんにはメッセで使用許可を求めたところ1秒掛からずいいよーと実にかるーいお答えが返ってきたので長編の構想に困り身悶えし歯噛みしていた私にとっては息抜きかつ精神衛生上のため軽くてラクチンな短編を書ける絶好のチャンスってことでありがたく、いやほんとにありがたく使わせていただきます。
この場を借りて熱く御礼申し上げます誤字にあらず。
よく晴れた土曜日、テンカワアキトはリインフォースを連れて買い物にでかけた。
食料品の買出しである――何分成長期の子供が多いのに加え、燃費の悪いラピスやら週に数回襲撃してくるすずかやらやはり大人数で襲撃してくる八神家も面々により冷蔵庫が食いつぶされてしまったからである。
さらに悪いことに、リニスがフェイトに料理を教えるなどとのたまい、残飯を無駄に生産しているために食料の減りが早い早い。
アキトはちょっと真面目に会社の業務用冷蔵庫や冷凍車を購入しようかと悩んだものだ。
そんなこんなで現在絶賛残飯兼生ゴミ生産中のフェイトとそれを人間様の食い物にどうにか加工しようと四苦八苦しているリニスをおいて、荷物持ち兼暇つぶしのリインフォースを連れて買出しにでているのであった。
普段であれば食料品の買出しやらなんやらはリニスの仕事である。仕事というか、彼女が好きでやっている節があるのだが――まぁアキトも元々は料理人、現在の腕はなまりになまっているとはいえ、昔取った杵柄、食料品の目利きはできなくはない。
器用なはずなのに謎の物体Xを生産しているフェイトをべっ見しつつ頭を下げるリニスの帽子がどうして重力に負けて地に落ちないのだろう――そんなことを考えながらアキトは買出しを首肯したのである。
とりあえず分かりにくい説明そんなこんなでほぼ白髪に見えるリインフォースを連れてアキトは黒塗りの外車に乗り込み、アクセルを踏み込んで爆音を響かせつつ近所のスーパーに一直線に向かうのである。
例によって例の如く黒いグラサンをかけた黒い男と白い女は一種不気味で、それが高そうな外車に乗っているものだから付近の気の毒な方々は慌てて道を開けてくだすったりするのだが本人達はそんなことは微塵も気付いていない。
黒い男が主夫丸出しで買い物籠を右手に掛けつつ野菜を吟味するのは不気味である。ついでに隣の白い女が妙に無表情なのも不気味である。
非常に残念なカップルにみえた。
野菜売り場にてアキトはリインフォースに大根について一通り講釈を垂れたあと、他の野菜や肉類、魚類の鮮度を確かめつつ、近しい者からみればほくほく顔で買い物籠にそれらを積み込んだ。
リインフォースは常時無感動だった。だがその右手にはキャラメルコーンが握られていた。
目的のぶつは籠一杯に買ったし、さて帰ろうかという感じのときに、不意にリインフォースが口を開いた。
「リニスは猫なのでしょうか」
はて?
アキトは首をかしげた。リニスは山猫のはずである。自分でそういっていたし・・・しかしまあ証拠を見たわけでもないのでどうともいえないのだが。
「帽子で山猫の本性を隠している云々言っていたな」
とまぁ無難に応える。リインフォースはしばし黙考したあと、頤に右手を当てて首をかしげた。
「あの帽子の中は第3、4の耳が生えているのでしょうか」
これはきもい表現だな――アキトは沈黙と共に認めた。事実そうなのかもしれないが、耳が4つあったら変だろう?と突っ込みを入れたほうがいいのだろうか。
それとも純真なままのお前でいてくれなどと口説き文句にも似た台詞をはくべきだろうか。
というか、後者はありえないわ。
とりあえずそこはそこでそう結論付けて、またもアキトは日和った答えを返すのである。
「どうしてそんなことを?」
当然といえば当然なその疑問に、リインフォースは再び右手を頤に当てて、首を30度くらい傾けて、3秒ほど黙考した。
「いえ、元々猫なら時には猫的な行動を行い猫的にストレスを発散しなければ猫的にちょっとやばくね?的な猫」
ちょっとやばいのは誰なのだろうか――そんな疑問はゴミ箱に捨ててしまえ。
「なるほど確かにやヴぁいな。猫的に」
だからとりあえず首肯しておくべきなのだ。なぜならこれ適当に書いているから首肯してもらわないと進まないから。私のストレス的に。すいません。
まーそんなこんなで二人は徐に、しかしイソイソと会計を済ませて食料品売り場からペットショップへと足を運んだ。
そこでとりあえずキャットフードを買い物籠に入れた。
「衣食たりて礼節を知る――道理だな」
どこかかなりズレた感想を抱きつつ、アキトは高級ねこ缶を買い物籠に入れた。その隣では無表情ながらどこか嬉しそうなリインフォースがねこじゃらしをもってきていた。
「これを」
「基本だな」
意味の無く通じ合った感じの二人は次々リニスまっしぐらを買いだめしている。色々見回ってみるとなにやらおかしな物を発見した。
またたびである。
「これはリニスのストレス解消に使えるだろうか?」
「使えますね。いやっほぅ」
アキトはまたたびを三袋籠にいれた。ちんっと会計を済ますと、ストレスのたまっているであろうリニスのためにいい買い物をしたなぁと感慨深い息を吐く。
「いい物を買いましたね」
「そうだな、リニスもきっと気に入ってくれるだろう」
アキトはねこ缶を愛おしそうに見つめながら応えた。
リニスは焦げたフライパンを金たわしでごしごしこすりながら、すすり泣くフェイトをとりあえず励ましていた。
もっとも家事万能のリニスが励ましたところで逆効果であるとは気付かない。なぜならいっぱいいっぱいだから。
落ち込んだ後に不貞寝を始めつつあるフェイトに心中ため息を吐き、布巾で手を拭っていると外から敬愛すべき主人の声が聞こえた。
買い物をしてきてくれたらしい。ということでとりあえずそれらを冷蔵庫と冷凍庫に押し込める作業を頑張ろうとリニスは玄関に向かった。
玄関に着くと袋一杯に色々買い貯めてきたアキトとリインフォースの姿があった。三人はそれらを無理やり冷蔵庫につめた。入りきらなかった分はその場で処分した。
そげな作業を終えて一服吐いていると、アキトは思い出したように手を打ち――リニスを手招きした。
「なんですか?」
その問いにアキトはうんうん頷いて見せた。
「褒美をやろう」
無意味に尊大である。
リニスは、そこはとりあえずスルーした。なぜなら話が進まないから。
アキトはリニスに右手を差し出させると、恭しくその手のひらにねこ缶を置いた。
「・・・・・・・」
沈黙が痛い。アキトはその場で、リニスの手のひらの上で置かれているねこ缶を缶きりできこきこ切り、上蓋をはずしてスプーンで中身を掬って見せた。えも言われぬねこ缶の馥郁とした香りが満ち、満足げに笑顔を浮かべたアキト、それを見守るリインフォース、固まったままのリニスという超空間ができあがる。
「なんですか・・・これ」
「ねこ缶だ、高かったんだ」
一缶2200yenもしたんだ――この会話に、空間が歪むのをリインフォースは観測した。だが口には出さない。だってめんどくさいんだもの。
しかしとり合えずこのままでは面白くないのでリインフォースはがさがさ買い物袋を漁ると、またたびを取り出し人知れずそれを砕いて粉末状にし、リニスの頭上に降りかけた。
その一撃で暗黒空間と化していたスウィート・ホームはさながらジャングルの掟が支配する自然界に変容したようだった。
今まで重力に負けたことのなかったリニスの帽子がはた、と地に堕ち、第4の耳が生え、目は爛々と輝き、アキトのもつスプーンからねこ缶の中身を拝領した。
リインフォースは親指を突きたて、アキトとサムズアップ。
「ほら、もっと喰うがいい。喰らうがいい。はっはっは」
いよいよ末期のアキトがにこやかにねこ缶を開け、どうにでもなれと猫化した気の毒な使い魔はねこ缶を貪り食う。
異空間再び。
そんな中リインフォースは再び買い物袋をごそごそとまさぐり、ねこじゃらしを取り出しリニスの前で動かした。
それをみた猫ははっしとねこじゃらしに飛び掛り、一撃のもとにねこじゃらしを葬ってみせた。おおっと感嘆の声があがる。
これはよいストレス解消だろう。などと二人は思う。勘違いである。
リニスは縁側で爪とぎを始めた。真新しい床に一本二本と爪あとが走っていく。
アキトは焦った。
とりあえずリニスをジャンプさせて庭の方に出すと、リニスがすかさず二本目のねこじゃらしを左右にふりふり、飛び掛ってくる狂猫を闘牛士の如くひらりひらりかわしはじめた。アキトはとりあえずその間にダンボールを集めて即興爪とぎ器を作成、リニスの前に出したが所詮はダンボール、一撃のもとに破壊されてしまった。しょうがないので庭の木をリニスに与えると、木で爪とぎを始めた。
「猫だな」
「猫ですね」
満足げに爪を研ぐ野生動物を見て当然のような感想を言い合った。
そこへどこから現れたのか空気の読めるネズミが一匹猫的生物の前に躍り出た。リニスさんの目がきらっと輝き、くりくり回り、それを捕らえる。
「ネズミだな」
「ネズミですね」
すっかり傍観者モードになってしまった二人はその様子を眺めている。逃げるネズミ、追うリニス。姿形から言えば成人女性の、目を輝かせてネズミを追いかけるという奇行はちょっと困ってしまうくらい奇妙奇天烈であった。
「おっと、捕らえたぞ」
「うれしそうですね」
「口に運ぼうとしているが」
「そのようですね」
のほほんとしている二人をよそに、過酷な自然界の掟的行動が行われようとしている。
「さすがにまずいだろう?寄生虫的に」
「いいじゃないですか、私たちじゃないですから」
「そういう考え方もできるな」
「全くですね・・・・・・ってそんなわけあるかい!」
「ノリ突っ込みか・・・!成長したな」
「お褒めに預かり光栄です」
なんというか人間もとい使い魔の尊厳の危機であったが、アキトはネズミだけジャンプで捨てた。リニス不満げである。
アキトは買い物袋を漁り、ねこ缶を取り出した。きこきこ。
「さぁ、ご飯だぞ」
リニス満面の笑みである。
そんなこんなで猫は満腹になり適度に運動もしたので眠くなったらしい。日当たりのよい縁側で体を丸めて眠り始めた。
幸せそうなその寝顔についつい頬が緩む。
リインフォースはマジックを取り出した。そしておもむろにリニスに近寄り、その左右の頬に三本髭を書いて見せた。
アキトは思わず噴出した。
アキトもまたリインフォースからマジックを受け取った。そしてやはりおもむろにリニスに近づくと、額に掛かる前髪を左手で避け、肉、と書いた。
リインフォースは思わず噴出した。
「ぷっ、くく、くっ、額に肉球が・・・!」
「ぶっ、肉球とか言うな・・・ぷにぷにしてるか確かめたくなるじゃないか」
「突っついてみましょう・・・ぷくくっ」
手には肉球はない。しかし額にはある。二人は存分にリニスさんで遊んだ。
本来の趣旨が違うとか気にしてはいけない。
二人はとりあえず額の肉をつっついてみたり、上書きしてみたりしながら楽しんだ。
そこへぶつぶつ文句を垂れ流しつつどうにもこうにも不機嫌そうな半眼のフェイトがやってきた。
「どうせ私は残念ですよ家事なんてできないから仕方ないじゃないリニスはそういう風に知識を与えられたかもしれないけどあ私もだねでもでも手先の器用さと知識は比例しないんだものそれって言い訳にならないよねはぁどうせ地雷ですよ将来私は地雷と呼ばれつつ戦場を闊歩し地雷を踏んで正しく地雷女と指差されて笑われるんだそうに違いないんだ地雷だって人権があるんだ誰が国際条約に違反して地雷を生産したの全く困った人がいるものだよねあぁもう鬱だ死のうちくしょうやってらんねぇ」
聞く者の心を冷たくするネガティヴな言葉が怨嗟の如く上唇と下唇の合間からもれ出ている。そんなどんよりと濁った瞳を日当たりのいい縁側に向けるとそこには帽子が取れて耳が生えたリニスがねこじゃらしを握り締めつつすやすや寝入っていた。
その顔には両頬に髭が描かれ、あろうことか額には肉の一文字が。
「ヴッ」
フェイトは思わず餅を喉に詰まらせた老人のような反応を示した。何が起こったのかと周囲を見渡すと義父とそのデバイスが腹を抱えて転げまわっている。
彼女のすることは、決まっていた。
フェイトは金色のロングツインテールを左右にふりふり、二人と一緒になって転げまわった。庭には三人の男女が転げ回るというカオスな世界が君臨した。
「次はどうしようか」
まだ何かやるつもりなのか呼吸を整えつつアキトは誰とはなしに問うた。悶絶しているフェイトを尻目にリインフォースは満足げに頷き、どこから取り出したのかカメラを構えて髭猫の寝顔をカメラに収めた。
「いい思い出になるな」
「まったくです」
後に全て焼却されたあげく塩をまかれる運命を背負った悲しき写真が世に産声を上げた瞬間である。
アキトは帽子のなくなったリニスの髪を左右にわけとりあえず縛ってみた。特に何の感慨もないのが残念なところだ。
「髪の合間にまたたびを仕込んでおいたらどうだろうか」
「ぐっどあぃでぃあ。ナイスですよ主アキト」
二人は二房分けられたリニスの髪をおでこ辺りでも一度縛りモヒカンとリーゼントのあいの子のようにセットし、その中枢にまたたびを仕込んだ。とてもうれしそうである。
そんな作業を終えて時計を見るともう夕ご飯の準備に取り掛からねばならない時間である。
「どうしたらリニスが起きるんだろう」
「冷やしてみたらいかがでしょう、猫的に」
なるほど、とアキトは頷き、少し冷え始めた夕刻に真水をボソンジャンプで持ってきた。大量のそれをリニスに落としてみると、リニスはニャっと悲鳴を上げて飛び起きた。
「あ、あれ・・・一体何が・・・?」
大量に転がるねこ缶やら、傷モノになった廊下、あたりは水で溢れておりフェイトは庭で倒れている。ねこ缶事件あたりから記憶が曖昧な猫さんは首をかしげた。
違和感に気付いて頭に触れると帽子がない。ついでになにやら変な風に縛ってあり、リーゼントの先端から水滴が滴り落ちている。
状況がうまく飲み込めないリニスがとりあえず髪を解くと中からまたたびが躍り出た。
再び正気を失った猫さんに末期の二人は爆笑したらしい。
二人の狂ったような笑い声をBGMに猫さんは再び野獣と化した。
がおー。
以下、テンカワアキトの手記より抜粋―――。
自分にとっての善意と人にとっての善意は必ずしも一致しない。キリスト教の黄金律である「自己の欲するところを人になし、自己の欲せざるところを人に施すな」とはいかに欺瞞に満ちた偽教義であるか知れるというべきだろうか。(中略)
俺にとってはそれは善意であった――きっと猫には猫らしく猫的な猫生活があり、人に合わせて生活するにはストレスが溜まるのだろう、と。だからこそ俺達は猫まっしぐら的な猫的自由猫ライフをリニスに満喫猫してほしかっただけなのだ。猫。(中略)
善意こそがもっとも甚だしい悪意であるということの証明を(中略)そうすると我々の世界は常に悪意で溢れており、悪意しかないならば悪意などは存在しないことにならないだろうか。
我々の過誤はリニスにねこ缶を与えたことやまたたびで酩酊させたことではなく、リニスの髪をリーゼントモヒカンという高度に前衛芸術的な尚且つ精神進化論的に言えば(中略)のために規定行為を逸脱したためであり(中略)それによりオグバーンのいうように精神文化の発展が物質文化よりも遅いことがそもそもリニスのモヒカンリーゼントへの怒りの爆発、その原因なのであり、我々の行動の是非が問われ(以下略)
「言い訳はそれだけですか?」
「ごめんなさい」
猫さんご立腹。