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寂しい向こう側の君へ 第一話「日常の中の非日常」
作者:華月   2010/01/26(火) 11:42公開   ID:zUxWNI2qjCA
オレがいる世界は、少しだけ変わっている。
日曜日に夕刊が来たり、犬がピンク色をしていたり、アイスクリームの外側だけが温かかったりする。
誤解を招かないように言っておくけれど、オレ自身はいたって普通だ。何も変わった所なんて無い。
「行って来まーす」自転車に跨がると、母親が急いで出て来た。
「待ちなさい健一、お弁当忘れてるわよ」
「良いよ別に、購買で買うからさ」
「たまにはきちんとしたもの食べないと、体に悪いわよ」
ぎゃあぎゃあ言い争っていると、寝起きらしい父親がのそっと起きて来た。ぼさぼさの頭をぽりぽりかきながら、ふああと欠伸をしてオレ達を見る。
「あ、お父さん、あなたからも健一に何とか言ってやって下さいな」
「…別に良いだろ、好きにすれば」
「でも今日のお弁当は、いつもより上手く出来たのよ」
母親がぷうと頬を膨らませてぱかっと弁当箱を開ける。オレはおそるおそるそれを覗き込んだ。
「卵焼きだってきちんと巻けたし」そこには、まだ生きて足をピクピク動かしてるゴキブリと蟻が。
「ご飯だってふっくら炊けたのよ」ご飯があるべき場所には、芋虫が一面に敷き詰められている。
オレは胸に酸っぱい液体がのぼってくるのを感じながら、口を抑えて自転車に乗った。
向かう先は勿論、普通の…普通のはずの県立高校だ。

「…で、ありますからあ…この不平等条約。これの改正の為にぃ…」
先生の声は、殆ど耳に入らない。腹が減りすぎて、眼を開けてるのも不可能な状態だ。
「…おい、おい!」
ぼおと頬杖をついていると、後ろからシャーペンでつんつんと突つかれた。つんとした腐臭が鼻孔を刺す。オレは精一杯の不快な顔を向けてそいつを見た。
「どうしたんだよ健一、寝れなかったのか?」
「そんな訳じゃないけどさ…」
友達はゾンビである。顔が腐りかけて目玉が飛び出てる事を覗けば、まあ良い奴なのだが…。
「なんか有ったら俺に相談しろよ、死ぬ気で解決してやるぜ」
もう死んでるだろ、と心の中でつっこむと、オレは溜め息をついた。
「どうした、今日はユリエとデートなんじゃなかったのか」
羨ましい奴だなあ、と脇腹を小突いて来る。
「何だよ、明だって結局彼女が恋しいんだろ」
「ばっ…馬鹿言ってんじゃねえよ!女なんて…女なんてぇえ!!」
明は机に突っ伏して大きな声で泣き出した。先生がじろっと横目でそれを見て、ヒュッとチョークを投げる。コツン。「痛ぇ!」「こら!高田!ちゃんと授業に集中せんかあ!」あはははと教室に笑い声が満ちた。日本史の花沢先生は、手が四本ある。そのうち三本にはチョークを常備してる訳だから…とにかく滅茶苦茶暇な先生なんだろうな、とオレは考えていた。
「いや、頭が痛くてさ…あいつには悪いけど日にち変えてもらうわ」
あんな下半身が牛の女の子と映画見て何が愉しいってんだよ!頼むから勘弁してくれ〜!!
ユリエにメールをすると、意外にも「私もちょっと都合悪かったんだ、ごめんね」というメールが返って来た。となると今日は…ブックオフにでも行って時間を潰すか。オレは昼休みに保健室で早退届を書くと、鞄を引っ掛けて学校を出た。

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