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死神の濃い恋日記 プロローグ【夢の中で】
作者:彩音   2010/06/24(木) 23:44公開   ID:zO/01Ct/wrY

 小学六年生、一般的に梅雨入りの季節である六月上旬のときだった。
 学校での授業を終え、幼稚園のころから付き合いがある幼なじみといっしょに自宅へ帰る途中、俺は交通事故に遭った。
 幼なじみは横断歩道を渡る前、解けた靴ヒモを直していたので巻き込まれずに済んだ。
 ちゃんと信号が緑であることを確認し、横断歩道を渡ったというのに、まるで暴走族の如く右横から突撃してきた車を今でも忘れることができない。憎むべき運転手の顔を見ることは叶わなかったが、恐らく相当に焦っていたと思う。
 結果から言ってしまえば、俺は奇跡的に生還を遂げた。両親曰く「ほぼ死にかけの状態だった」とのこと。生還した俺って当時小学生ながらすげぇ。
 そして『病み上がり』ならぬ『死に上がり』を遂げて間もない相手に鯖折り――という名の感激の抱擁――をしようとした両親を病室から即座に追い出してくれた担当医師さんには感謝の言葉を贈りたい。ありがとう、マジで。
 というか運転手、泣いて謝れ。警察なんか通さずに直接謝罪をしに来いってんだ。
 か弱い小学生相手にトラウマものの交通事故を起こしてくれやがって。
 だが事故を起こした後でトンズラせず、警察や救急車が来るまで現場に留まっていたと後で聞いたし、多少の良心はありやがるんですね、と認めてやらなくもないが。
 ――とまあ自分の席から黒板を見つめつつ、ボーッとしながら長々と昔のことを思い出していた俺は現在、彼岸花高校に在籍する一年生。まだ昔の苦ったらしい思い出を振り返ってしんみりする年齢じゃないのだが、これも最近毎晩見る妙な夢のせいだと思う。
 夢の内容というのはこうだ。登場人物は小学六年生の俺、眼の前には――特徴としては人型の光というか、光る人間というか――気持ち悪い物体、そして周りは物体が光ってなければ絶対何も見ることができないほどの暗闇。夢の中でそんなシチュエーションが整うと、物体は俺に向けて優しく、まるで語りかけるように言うのだ。
『貴方は生きて――』
 男のような女のような、それ等を足して二で割ったような、何となく中性的な感じの声色である。物体のくせに生意気な――と、思ったところで、セットした目覚まし時計の電子音とともにパッと眼が覚めるのだ。
 どうせなら話の内容を全部聞きてえよと、物体もサッサと話せよと、眼を開けてから最初に映る自室の見慣れた天井へ向けて何度悪態をついたことか。
 だがまあ悪夢ってわけでもなく、そのせいで体調を崩しているってわけでもないので、今のところは誰にも相談していない。多少はしつけぇと感じてはいるものの、日が経てば自然に見なくなるだろうと自分自身に言い聞かせていた。
「ゴメ〜ン、ホームルームが長引いちゃって。待った?」
 俺を含め、放課後のホームルームを終えた教室に残っているのは、ほんの数人である。
 そんなガラガラ状態の教室に明るく、能天気な感じの声が響いた。
 黒板から扉のほうに視線を変えてみれば、眩しい笑顔を浮かべ、元気よくこちらに向けて手を振っている女子がいる。名前は河野(かわの)志保(しほ)、俺の幼なじみだ。
 ショートカットながら綺麗に揃えられた髪、それなりに整った顔立ちは笑顔を浮かべれば大抵の男は魅了するほどに可愛らしい。現にこの教室に残っている一人の男子は、ため息をついてしまうぐらい情けない顔を晒している。ちなみに志保曰く「身体は貧相」とのことだが、俺から見れば十分に立派な育ち方をしてらっしゃるから謙遜しないでほしい。
「気にするなよ。そんなに待っちゃいないから」
「えへへ、そう言ってくれると嬉しいなぁ」
 教室にやんわりと入り、わざわざ俺の席までやって来た志保が照れくさそうに言った。
 ホント、今日一日の勉強疲れも、コイツの笑顔を見ると吹っ飛んでいく気がするわ。
 気恥ずかしくて口にはほとんど出さないけど、お前が幼なじみで良かったって思うよ。
「んじゃま、とっとと帰るとしますかねえ」
「うん。恵(え)理(り)ちゃん」
「傘持ってきたんだろうな? 外、天気予報で言ってた通り雨が結構降ってるぞ」
「大丈夫! 家を出る前にちゃんと、折りたたみの傘を鞄に入れてきたもん!」
「二日前、そう言っておきながら盛大に傘を忘れてきたのはどこのどいつだ?」
 俺のツッコミに志保は「何のこと〜?」と言いながら惚けた笑顔で返してくれた。
 ちくしょう、こんな何気ない動作もいちいち可愛いらしいから羨ましいね全く。
 そんな癒し系要素満載の幼なじみに対し、俺こと黄泉(よみ)芽(が)恵(え)理(り)は同じ女として劣等感を感じずにはいられない。そしてこの時には既に、俺の頭の中からは事故のこと、毎晩見る夢のことはすっかり消え去っていた。


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