どうも四条芯也(しじょう・しんや)です。
いや、無理にでも名乗っておかないと最近おいとか、君とか、お前とか、そういう呼ばれ方が多いので忘れられがちだ……。
ちなみに、俺の身体特徴を言うと、中肉中背の20歳、ついこの間までフリーターだったんだけど今は泊まり込み店員という事になるのか。
身長は169cmそう、170まで後1cm足りない……。体力、及び精神力は多分並み以下の人間だ。
そんな俺だが、気が付いたら異世界に召還されていた。
そして魔物とかに追いかけまわされた揚句、知らない街で住み込みで働くことに……。
翌日の朝、といっても日も明けやらぬ早朝なわけだが、
待ち桜亭に従事することになった俺の朝は早い……というのはうそです。
とりあえず、そんな朝早くから金髪巨乳店員アコリス・ニールセンさん(多分22歳くらい)に起こしてもらったのだ。
トーストと卵、ホットミルクに青野菜のサラダという健康そうな朝食を頂き、そして亭内の掃除を始める。
仕込みは昨日から既に始めているものもあり、台所はものも多かったが、
掃除を始めてしばらくすると材料を買い込んできた大柄な男がそちらに向かった。
恐らくは彼が店主、少なくともコックなのだろうと当たりをつけるには十分だった。
「おっ、新入りか?」
「はい、四条芯也っていいます。よろしく」
「おうシンヤよろしくな、俺の名はフランコだ、料理全般を担当している。分からない事があったら聞けよ?」
「よろしくお願いします」
予想は正しかったようだ、黒髪に近い栗毛の40代と思しきおっさんだが、ケンカになれば俺は瞬殺だろうな……(汗)
アコリスさんの料理も悪くはなかったけど、この人の料理はどうなんだろう?
少なくとも料理人だからもっとうまいのだろうとは思う。
亭内の掃除をほぼ終わらせて、表通りのほうを確認する。
待ち桜亭では一応朝食も出しているらしいので水まきは早めに終わらせておかないといけない。
道に水をまいて暑さを和らげる意味もあるが、ホコリが店内に舞い込んでこないようにするためでもある。
とか無駄に生活知識をひけらかしつつ準備を終わらせ、次は仕事の手伝いを始める。
とはいえ、俺に出来ることなんて基本荷運び(現代っ子なのでひーこら言いながら)と皿洗いくらいである。
注文取りは無理じゃないけど、看板娘のアコリスさんにみんな応対してほしい事は周知の事実だ。
あのボリュームのある胸がたゆんたゆんと揺れながら注文とったり食べ物を運んできたり、それだけで視線は釘付けだ。
時々、おさわりしようとする馬鹿がいるが、その手のあしらいも堂に行ったものだ。
なんというか、町のアイドルのようなものだろうか?
明らかにアコリスさん目当ての客が多数来ているようにも思う。
「アコリスさんすごい人気ですね」
「そりゃそうだろう、この町で彼女以上の美人はそういないからな」
「美人もそうですけど、なんていうか明るいしテキパキしてるし、キョヌーですしね……」
「がっはっは! お前もいっちょまえにそういう事に興味があるのか!!」
「まあ、ないほうが変でしょ」
「そりゃそうだ!」
フランコさんとはこの話のおかげで随分と仲良くなった。
ある意味同士のようなので、俺としては話しやすい人だ。
そうこうしている間にもあっという間に時間は過ぎ、夜も更けて店じまいと相成った。
ちなみにこの店でも酒は出しているが、酔っ払いがいても一定の時間が過ぎると店から追い出してしまう。
この世界での時間も24時間制なので分かりやすいが、午後10時以後は開けていないのだ。
それ以後の客はキャバレーやパブと勘違いする人が増えるので、アコリスさんのためという意味も大きい。
とはいえ、それ以前にアコリスさんは7時までしか仕事はしないのだが。
それでも十分に労働基準法違反ではある。
俺の今日の仕事時間は午前6時から午後10時までということで14時間……。
休憩も挟んでいたため実質10時間前後ではあるが、つかれて倒れてもおかしくはない。
しかし、倒れるほどに疲れた気はしなかった……筋肉痛はあるが。
『ようやく終わったか』
「いたのか……」
『仕事場では目立たないようにしていてやったのだ、感謝してほしいものだな』
「いや、そのままずっと寝ててくれれば感謝してもいいけど」
『それだと元の世界に帰れないが、それでもいいのか?』
「ぐっ!」
俺が部屋に戻って一息ついたと同時に、俺の右手の掌に目がにゅっと出現する。
本人いわく、魔王ラドヴェイド。
俺をこの世界に召還した存在らしい。
とはいえ、俺は召還されていきなりゴブリンらに殺されそうになったわけだが。
助けてくれたのは勇者一行、この店で働かせてもらっているのもそのつてだ。
そして、殺されたはずの魔王は俺の右手に宿っているらしい。
らしいというのは、妖怪手の目が魔王だとは思えないという事もあるが、
実際俺を乗っ取る風でもなく、何やらアドバイスなどを親切に行ったりする手の目と、
前に見た20mの巨人とのギャップが大きすぎるせいだ。
『さて、まず聞いておきたいことがある。人間は正義だと信じているか?』
「ある意味信じてもいるが、正義という言葉はあまり意味を感じないな」
『ほう、それはどういうことじゃ?』
「正義というのは共感を呼べるかという意味だ、もっといえば理不尽に対する怒りともいえるな」
『ふむ、そういう考え方もあるかもしれんな』
「元々人間である俺は他のものより人間に共感するし同情もする、恐らく魔族を殺されるより、人を殺されることに怒るだろう」
『それは正しいな確かに』
「だが、それは俺が人間だからということになる。
人間は人間の正義を信じるが、当然魔族には魔族なりの正義もあるのだろうと想像する程度の頭はあるつもりだ」
『そう、その通りだ。我らにもまた正義は存在する。例えばだ』
自称魔王が語ったことによると、
この大陸は2000年前に人類が入植してくるまではすべて魔王領だったらしい。
だが、当時の魔王は入植してきた人類にぽんと土地を与えたのだそうだ、大陸の半分近い土地を。
その代わり、魔王領には一切踏み込まないという約定まで交わしていたという。
だが、人類は急速に人数を増やしていき、今や魔王領以外は全て人類圏と言っていいほどに密集してきた。
それでも、ただ増えるだけならば人類は魔王領に無理やり踏み込もうとまでは考えなかったかもしれない。
しかし、魔王領には人類の求める希少な金属や、エネルギーとなりうる鉱石などが大量に産出される場所がいくつもあった。
人類同士の国家戦略のため、魔王領に踏み込むものが後を絶たなくなったのだという。
そして、最近では魔王領に踏み込み、その場の魔軍を一掃して国境線を広げようとする国も増えてきた。
実際、そろそろ戦力としての魔王軍より人類軍のほうが強くなりつつあるということなのだ。
世代交代が早いという事はつまり、新陳代謝のごとくどんどん古いものを切り捨てて新しいものを取り入れていけるという事でもある。
魔王軍は逆にそういった新陳代謝が起こらないため、2000年前とほとんど変わらない陣容であった。
そう、今や魔王が出てきたところで、封印や、結界など魔法の応用で弱体化し、
自分たちを身体強化の魔法で包み、互角の戦いをする者たちがいる。
つまり、今回のラドヴェイドの敗北は起こるべくして起こったともいえる。
「じゃあなにか、負けるとわかっていて戦いを挑んだのか?」
『そうではない、奴らの使う結界等の中では弱体化するとはいえ、その上でも個々の能力は我らが勝っている』
「我ら?」
『貴族と呼ばれる高位魔族、また、中でも四魔将と呼ばれるわが側近たちは強大な力を持っておる』
「……待てよ、となると、魔王が死んだ事によって高位魔族達は歯止めがきかなくなるんじゃ……」
『その通り、下手をすれば全面戦争という事もありうるな』
物騒な話だ、とはいえ、俺は正義の味方というわけじゃない、自分の身が可愛いのだ。
格好悪いと自分でも思う、しかし、他人を助けるというのは二種類の感情の発露だ。
即ち、助けている自分に酔うための自己満足、もしくはそれが他人事でない場合。
自己満足のための場合、普通は自分を危険にさらしてまでやらない(例外もいるが)、最終的には他人事だからだ。
逆に他人事でない場合、つまり自分の大切にしている何かにかかわる場合は話が違う。
自分を形成する何かであるわけだから、当然それ相応のものをかけてでも救おうとするだろう。
そして、今この世界には後者は存在せず、前者をするほど余裕もない。
だから俺は、その事について深く突っ込もうとは思わなかった。
「まあその辺はいい、で俺はどうすればいいんだ?」
『一番いいのは、強大な魔力を手に入れればそれだけで復活できるのだが』
「そんな方法があるのか?」
『まあ普通の人間なら一万人分つまりこの町5つ分ほどイケニエにすれば不完全ながら復活できるだろう』
「ぶっ!? そんなの出来るわけないだろ! 心情的にもだが、物理的にも!!」
『そうだな、それにそれだけ強大な儀式場を作るだけでも大変だ』
「出来ない事を言うなよ……」
どうやら、本気でそれをする気はないようだ。
1万人、俺としては人一人殺すのも御免こうむりたいのだ、1万人も殺したら元の世界に戻れても罪の意識でつぶれてしまいそうだ。
幾ら赤の他人とは言え、儀式をするなら絶対に死ぬところを見る羽目になるし、恨まれるのも御免こうむりたい。
まぁどちらにしろ、一人目を殺す段階で、俺にはいろいろ無理があるだろうが……。
ガタイのいい兄ちゃん相手でなら十分逆に殺される自信がある(汗
「それで、もっと穏便な方法はないのか?」
『時間がかかってもいいならあるぞ』
「ほう」
『例えば、普通にしていても1000年もかければ我は復活する』
「……その前に俺が死ぬだろ」
『そうだな、だから魔力を集めるために、モンスターを倒すというのはどうだ?』
「同族だろ? いいのか?」
『高位魔族のほうがいいのは事実だが、何をするにしても魔力がいる。
この際少しでも増えるなら文句は言えんよ』
「だが俺は、自慢じゃないがもやし君だぞ?」
『本当に自慢にならないな……』
「実際ゴブリンにも勝てるかどうか怪しい」
これは、昨日の戦いで実感した事だ。
俺はゴブリンに能力的に劣っているとは思えないが、それでも殺すとか殺されるという空気そのものが駄目だ。
逃げる以外の事が出来る自信はない。
『だが、昨日はあの小娘を庇うためにがんばったのだろう?』
「まぁそうだが……」
『ならば問題ない、身体能力に関しては我がある程度サポートできる』
「本当か?」
『本当だとも、だいたいひ弱なお前が一日中働きづめでさほど疲れていないのがその証拠だ』
「……なるほど、言われてみれば……」
確かに今日は14時間労働をしたと言うのに、倒れるわけでもなく手の目と話をしている。
それに仕事自体立ち仕事の上、皿洗いに、掃除に、荷運びにと色々使いまわされた割には確かにさほど疲れていない。
『今のところはお前の能力を底上げするほどには魔力がたまっておらんが、スタミナだけなら常人の数倍はあるじゃろう』
「そうなのか……」
『ゆえに、ある程度金がたまったなら装備を整えて冒険者を始めるといい』
「しかし……」
『殺しに抵抗があるか? 魔物に対しても?』
「否定は出来ないな……」
というより、殺伐とした世界そのものに免疫がないという事が心配の要因だ。
俺もRPGはF▼もドラ●エもそこそこやった口だ、ヌルゲーマーなのでコンプした事は少ないが、クリアだけならけっこうしている。
だが、痛い思いには慣れていないし、血を見たら逃げたくなる気もする。
心のどこかに英雄とかに対するあこがれはあるが、同時にそうした殺したり殺されたりという事そのものが俺には縁遠い。
『だが魔族に対してその憐れみは必要ない』
「どういう意味だ?」
『我らの死とは、再生の意味を持つ、殺されても復活できる、時間はかかるがね。
下級共はそうはいかないが、人よりも数段増えるのが早い、放っておけば人類が住む場所がなくなる程度にはな』
「……どちらにしろ、その方法しかないと言う事か?」
『他にもない事はないが……正直その方法自体特殊なものが必要になる、捜索の手間を考えると今は考えても仕方ない』
とはいえ、最初のほうで当時の魔王等という言い回しをしていた事を考えると、魔王とて代替わりするという事じゃないか?
完全な不死というわけではないという事だろう。
もっとも、他には手がないのかもしれない、生涯飯屋の下働きというわけにもいかないしな。
「わかった、冒険者をやってみてもいい。だが本当にサポート頼むぞ、戦闘において俺はゴブリンにも劣るんだからな」
『全く自慢にならんな、とはいえ、できる事はしよう。スタミナがあればゴブリン程度には負けないだろうしな』
「……できれば戦闘全般をサポートしてほしいところだが」
『魔力がたらん、それに少しくらいは自分でやれ』
「ぐっ……」
それから一か月ほどバイトをして過ごし、我流ながら手の目に教わって剣術修行をした。
とはいえ、所詮付け焼刃、というか、基礎体力作りが大半で型なんて数えるほどしか教わっていないのだが。
『本格的な剣術はだれか師を探して教わるといい』
「なぜだ?」
『我は生来己の強さがほぼ万全であったため、まともな剣術をした覚えがない。
そもそも攻撃がまともに効かない体故受けや流しの技術は無きに等しい』
「げっ……」
『攻撃一辺倒でいいならそれでいいが、今のお前ではそういうわけにもいくまい?』
「……」
そんな感じで俺のはかなりいびつな剣術となっているようだった。
どちらかというと、死にたくないので受けとか流しをメインに覚えるべきという気がするのだが……。
そんなこんなをやっているうちに、時間は飛ぶように過ぎて行った。
一か月でどうにかためた生活費で木の枝から武器を中古のショートソードに変更する。
そりゃ、ロングソードとかバスタードソードとか興味あったけど重くて振り回すのは危険そうだった。
それに中古といっても、妖怪手の目によればさほど剣のぶつかり合いで出来た傷がないので耐久性も落ちていないとのこと。
だが武器だけでは怖いので、お手製の木の盾と、皮鎧、後は全体的に厚手の服でごまかすことにする。
格好いいとはお世辞にも言えないお仕着せ装備だが、防御力はそこそこあるはず……。
兎に角、そういう装備を買い整えた後、アコリスさんに話しかける。
「冒険者の資格を取るにはどうすればいいんでしょう?」
「あら、貴方冒険者なんかするつもりなの?」
「実は……冒険者でないと達成が難しい目的ができまして」
「……そう、それって、大事なことなの?」
「いや、いろいろと細かい事をすっとばすと故郷に帰るためという事になりますね」
「故郷、そっか、確かにそうよね……細かいところは気になるけど。
わかった。協会に紹介文を書いてあげる」
「協会って冒険者の協会ですか?」
「うん、そうよ。冒険者になるつもりならまず協会で認定書を貰わないとね」
俺の疑問に、少しだけ不思議そうな顔をしてから答えるアコリスさん。
まぁ本来この国に住んでいるなら常識なんだろうな……。
それはともかく、この世界の冒険者は協会に属していないといけないらしい。
理由は簡単で、冒険者を名乗る野党がかなり多かったらしい。
まれに魔物が冒険者に化けていた事もあったとかで、認定の基準がかなり厳しくなっている。
また、認定書そのものも、体にプリントする刺青のようなものを使うようになったらしい。
とはいっても、魔法でプリントするため痛みとかはないらしい。
また一年協会に更新しに行かないでいると自動的に消滅するとか。
「認定書、そういえばここに来る冒険者の腕に妙な刺青があるとは思っていたんですが」
「それよ。まぁ別に体を傷つけてるわけじゃないけど。あれで冒険者かどうか、またランクなんかもわかるわ」
「ランクですか?」
「その辺は協会で直接聞いてみて。ちょうどいいのかどうか知らないけど今日がちょうど試験のある日だから」
「試験?」
「資格を取るには試験がいるのよ。確か、知識や適正なんかを見るらしいわ」
「わかりました」
「はい、じゃあこれ紹介状。頑張ってきなさい。でも、駄目だったらまたここで働かせてあげるから気楽にね」
「ありがとうございます!」
ここ一カ月、自分の体力がどれくらい上がっているのか試す意味も含めてかなり真面目に仕事をした。
多分そのおかげでアコリスさんの評価が高いのだろう、ありがたい限りだ。
事実、体力は俺のいつもの状態からすればざっと4倍はいっていた。
なにせ毎日10時間以上の労働と剣術の稽古をやっていたのだ、普段の俺なら8時間の仕事でもバテバテだ。
それでも、この時代の人間からすればちょっと見た目よりタフという程度の話でしかない。
早く魔力をためて自己防衛が出来るようにならないと冒険者をするのはまずいかもしれない……。
そんな事を考えながらも、町の中央にあるという冒険者協会を訪ねることにした。
するとそこには既に、50人近い人が集まっており、皆認定試験を目当てにしているようだった。
この町は都会というほどでもないが、近隣の村や町に冒険者を派遣する事も多いそれなりに大きな町なので、冒険者を目指す人間がやってくる事が多い。
そのため、年に4回しかない冒険者認定試験をここで行おうとする者は多いらしい。
最も、半数は既に冒険者でランクを上げるために再試験を受けに来るもののようだが。
ここで、ランクについての説明があった。
ランクはF・E・D・C・B・A・Sの7つに分かれており、
FランクとEランクはこの地方だけの限定免許で、Dランク以上は国内ならどこでも、Bランク以上は国際免許となるらしい。
つまり、ランクが上がれば関や国境をフリーパス出来るようになるということのようだ。
それは、いろいろな意味で使い勝手がいい話になる、そのため冒険者は戦争に参加することは許されていない、国家の味方をする事もだ。
それをした冒険者は除名になるらしいが、その意味で除名者は多く出ており規約を守るのがとても難しいものだとわかる。
もっとも、高ランク冒険者は除名されても国のほうで召抱えられる事も多いためわざと規約を破る冒険者もいるらしい。
「しかしこりゃ……今日中に終わるのかな……」
筆記試験を妖怪手の目の手助けもありどうにか抜けた俺は、適正試験のために別会場へ来ていた。
しかしまぁ、先ほど言った通り50人もいるわけで。
一人ひとり面接などをしてから本来の適性試験へと向かうらしいのだが。
面接にかなり時間を取られているようだ。
面接でおとされる人もいるため、手を抜くわけにもいかず皆緊張が漂っている。
俺もなんだか就職の面接会場みたいな気分になってきた。
そんな中、やたらと明るい男が俺に声をかけてくる。
「おっ、君も冒険者認定試験ははじめてだよね?」
「ああ……」
「そっか、僕も初めてなんだよ! みんな歴戦の勇士みたいな顔ばっかでさ、さっきから息がつまりそうだったけど。
君みたいなのもいて安心したよ!」
「そうか?」
というか俺は、この中では浮きまくってるっていう事か。
否定する気はないけど、かなりへこむなあ……。
「僕はウエイン・トリューナー。剣士志望なんだけど、君もだよね?」
「ああ、確かにそうだけど」
少し話してみると、年下だという事が判明した、まあ、俺のように突然来たわけじゃないのだ16くらいならありうる話ではある。
なよっとした感じも受けるが、それなりに下積みはあったらしい、俺とはえらい違いだ。
見た目は金髪碧眼、剣を持つにして細い体躯、身なりはかなりいい、身長は俺と同じく170cmほど、RPGの主人公のコスプレにしか見えない。
ともあれ、武装も確かに剣だし、剣士なのだろう。
冒険者と一概に言ってもおおよそ分担は存在する。
剣士、戦士などの前衛、弓士、魔法使い等の後衛、盗賊、レンジャーといった戦闘以外の能力も持った職。
もちろん、盗賊でなくても罠を外したり、レンジャーでなくてもサバイバル技術を取得している者はいる。
だが、そういう職に就くことで専門的にそれをしている者は当然依頼内容も変わってくる。
つまりは、職業によって依頼等にも変化が出るという事だ。
もちろんパーティで受ける依頼やもっと多人数の団体に対しての依頼である事もある。
当然人数が多く必要とされる依頼は危険度も高い。
まあ本に書いてあった事をえっちらおっちら翻訳した結果だが。
「しかし、緊張するなー。面接で落とされるのは一般常識に欠けた人と倫理観が欠如した人だけって話だけど……」
「ふーん、そういうのも来るのか?」
「ああ、盗賊とか、詐欺師とかの類が来る事もあるらしいよ。大抵は落ちるそうだけど」
「犯罪者とかならわかるんじゃ?」
「指名手配かかってるなら別だけど、犯罪者の全てを把握しているわけじゃないんだよ」
「面が割れてないのもいるってことか」
「そうそう」
まあ日本ですら全ての犯罪者の顔を知っている人間なんてそういないのも事実だし、否定はできないな。
そもそも、冒険者協会は別に治安組織というわけでもないのだし。
「どうやら俺の番のようだ、先に行かせてもらうよ」
「ああ、頑張って来てくれよ。僕も詳細聞きたいし」
というわけで、面接官に呼ばれたので部屋を移動し正面の席に座る。
聞かれた事は大したことではなかった、即ち何を目的として冒険者になりたいのか、そして、犯罪に手を染める可能性はあるか?
俺は故郷に帰るために必要だから、また、犯罪に手を染めたくはない、だが危機的状況になれば絶対とは言い切れないかもしれないと答えた。
すぐに合格をもらった。
なぜこんな簡単に合格できたのか後で聞いてみたところ、真義判定の魔法が部屋そのものにかけられているらしい。
嘘をついたら部屋が明滅するそうだ、
俺の言った事に嘘がない事がわかったので、後は後半の事を少し聞かれた、どうしてもという状況がありうるからとだけ答えておいた。
それくらいなら許容範囲らしい。
少しヒヤっとしたが、嘘をつかないでよかったと思う。
あそこで嘘をつけばそれだけで失格らしいいので。
これなら確かに犯罪者はめったなことでは冒険者になれないなと思った。
ウエインにそれとなく、嘘は言うなよという意味の事を遠まわしに言いつつ先に実技の会場へと向かう。
剣士の試験官はDクラスの剣士が直接してくれることになっていた。
なぜ腕を見るのかと問われれば品質管理の意味合いが大きい。
はっきり言えば、腕がない人間を冒険者にして殺してしまっても協会のイメージが悪くなるし、
また当然冒険の失敗はそれだけで協会のイメージ失墜につながる、訓練施設なども持っているのはつまり依頼の達成率の上昇のためだ。
冒険者の事を放任状態にするのは一見安上がりなようだが、そんな事をすれば結果的にイメージの悪化→依頼の減少につながる。
それに、関所や国境を越えて出入りする事が出来るのも協会の冒険者の品質が良いと判断されるからだ。
個人で依頼をこなしているのではこうはいかない。つまり、冒険者は協会の品物であるという事だ。
試験会場は協会の5階で、それなりに広いホール状の部屋だった。
これ以外にも4階と3階は会場として開放されているらしい。
試験内容は簡単、試験官から一本とるか3分以上持ちこたえればいい。
敗北は危険部位に対する寸止めをされた場合、敗北を認めた場合、気絶した場合、倒れて10カウントを受けた場合らしい。
3分といっても、本当に3分なのかはわからないが、前に試験を受けていた剣士がそれくらいで粘り勝ちになっていた。
砂時計で計っているので、はっきりした事はわからない。
とはいえ3分くらいと思うかもしれないが、ボクシングでも1R3分となっている通り全力で動ける時間はさほど長いものではない。
剣道等の場合、読みあいに時間がかかり5分以上かかることもまれにあるが、
そもそもDクラスの剣士相手に読みあいに持ち込めるなら文句なく合格だろう。
つまり、普通ならそれなりに剣術をこなせない限りこの試験に合格する事は出来ないという事だ。
ただし、俺には一つだけチートな能力がある。
それは妖怪手の目によるスタミナの補充だ。
全力で3分逃げ続ける事は不可能じゃない。
そう思っていた時期もありました……。
「そらそら! そんなへっぴり腰で合格できると思っているのか!?」
浅黒くてガタイのいいい剛腕剣士という名が似あいのおっさんから攻撃される。
俺は怖いので剣で受けつつとびずさる。
おっさんはすぐ追いついて更に叩きつけるような攻撃。
何とか受けるものの腕がしびれて剣を取りおとしかける。
追撃は仕方ないので転がって避けた。
回転後立ちあがる途中で追いつかれたので膝立ちで剣を受ける。
剣は吹っ飛び、恐らく止めのつもりだろう、おっさんは突きを繰り出してきた。
だが俺は地面に伏せごろごろ転がって避ける。
正直格好悪いし10カウントまでに立たなければこれはこれで負けである。
だが突きをくらうよしましと、おっさんの攻撃を避けつづける。
そのまま回転の勢いを利用し8カウントで立ちあがった。
「ふぅっ、ふうっ!!」
「これだけ剣が下手くそなくせに粘った奴は初めてだ」
「はぁ……はぁ、剣士の特訓初めてまだ一カ月なもので……」
「お前は、剣士をなめとんのか!!」
そう言いながらおっさんは連続突きを繰り出してきた。
俺は前部を避けるのは無理と思いというか思った時は遅かったのだが。
ほとんどをまともに食らう。
どっかの格闘漫画で自分から飛べば少しは衝撃を逃がせると聞いた事があったのでそれを実践したのだが。
刃引きされているとはいえかなり痛い、何か所か痣も出来てやがる……正直もう逃げたい……。
「ちぃ……3分たってしまった……お前のような奴を合格にせねばならんとは……」
「すいません……」
おっさんは憤懣やるかたないという感じで肩をいからせている。
まぁ気持ちはわかる。
俺だって正直やばかった、スタミナの底上げがあったおかげでどうにかこうにか粘り切れたという感じだ。
剣は取りおとしているし、体中痣だらけ、よく我慢できたものだと思う。
「お前。名はなんという?」
「四条芯也っていいます」
「シジョウ? 変わった名前だな」
「ああ、シンヤのほうが名前です。シジョウはファミリーネームのほうで」
「ほう、この辺の出身じゃないのか?」
「ええ、故郷に帰るために冒険者になりたいと思いまして」
「だがこのままじゃお前は確実に死ぬぞ?」
「うっ……」
「しかたあるまい。こんな奴をそのまま野に放つわけにもいかん。
時間がある時にでも剣士の何たるかを教えてやる。
ワシの名前はボーディック・アルバイン。
ギルドでその名を出せばいい、いいな。必ず訪ねてこいよ?」
「分かりました」
こちらとしても願ったりかなったりだ、どこかで修業なりしなければアイツの修行じゃ役に立たない事はわかっているんだし。
しかしまあ、これで俺も晴れて冒険者の仲間入りという事だな。
さっさと冒険者の証をもらいにいくか。
ウエインのほうもその後すぐ合格したらしい、なよっとした見かけによらずなかなか使い手のようだ。
魔法で入れた刺青にはFランクを示すらしい単純な棒線が引かれている。
痛みもないし、放っておけば一年で消えるらしいからあまり気にしなくてもいいだろう。
その日、俺とウエインは待ち桜亭で合格祝いにもりあがった。
アコリスさんやフランコさん、果てはお客さん達にも祝ってもらい、飲めない酒をかっくらって翌日見事に二日酔いになった。
とはいえ、そういう事も初めての経験だ。
ひきこもりだったわけじゃないが、前にいたところでの俺はバイト以外の人のつながりはあまりなかったから……。