オッス、オラ四条芯也(しじょう・しんや)何度もやってるしそろそろ覚えてもらえたかな?
中肉中背、奈良県生まれで和歌山県育ち、フリーター生活を大阪でしいたという20歳。
戦闘力、サバイバル能力共に並み以下のランクF剣士さ!
前半と後半があってないって?
そりゃファンタジー世界にトリップしてきたからさ、あのラドヴェイドとかいう魔王のせいで。
しかしまー、現実は世知辛い。
こういう異世界にやってくる話では大抵チートな能力が主人公に付加されるものだけど、
俺に付加された能力は魔王によるスタミナサポートのみ、喧嘩すらまともにやったことのなかった俺にはそれはきつ過ぎる現実だった。
それでも、どうにかいろいろあって数日前のクエストは生還できたものの、
その時の諸事情によって魔王ラドヴェイドによるスタミナサポートすら失われてしまった。
正直これからどうすればいいのか不安な状態というのが今の現実だった。
「あーったく、世の中うまくいかないことばっかりだ……」
まあ、上手くいっていたらこの世界に来てなかったとは思うが。
この世界の何がひどいって、風呂はカメに入れた水をひしゃくで頭からかぶり、その水で体を洗う。
トイレは……ご想像にお任せします……紙で尻を拭くなんて王侯貴族でもないと無理とだけは言っておこう。
ともあれ、衛生概念はあまり発達してないから、トイレに行った直後に料理をしたりする事もある。
まあさすがに、匂うのは困るからある程度の衛生環境は整っているけど。
朝は井戸に水を汲みに行かないといけないし、いろいろめんどくさい。
実際に生活してみないとその苦労は分からないものだ、最初の頃なんてトイレに行くのすら嫌な気分になったもんだが。
慣れというのは恐ろしい、今は問題なく生活できている。
とはいえ、不満がないわけじゃない。
現在なら一人でいても小説、漫画、各種ゲーム、TVやDVDといったいろいろな暇つぶしグッズがある。
しかし、今一人で出来る事といえばせいぜいが剣の訓練くらいだ。
それすらも、この前の傷が完全にいえていない今は満足にできない、
というかサポートしてもらっていた頃と比べるとスタミナが半分以下なので出来る時間も限られている。
桜待ち亭でのバイトをするだけでほとんど体力が擦り減ってしまう。
アコリスさんにも心配してもらったのは悪いけど、アレが俺の本当の全力です(汗)
まあ、そのお陰というか、数日お休みを貰った俺は剣を振る気にもなれず、暇を持て余したので久々に町中に繰り出すことにした。
「あら、アンタもう動けるの?」
「ティアミス」
「さんをつけなさい」
「ティアミスさん」
「よろしい♪」
桜待ち亭を出てすぐに出合ったのはティアミス・アルディミアという名のハーフエルフ。
数日前のクエストで知り合った女性だ。
身長は140cmほどしかなく、169cmの俺と並ぶと肩辺りまでしかない。
見た目は中学生そのもので、ハーフエルフの証であるとんがった耳じゃなければ俺も信じはしなかったろう。
彼女が俺より年上だとは……。
割と飾りっけはない彼女だが、ライトグリーンの髪をポニーテールにしているその髪留めは高価そうな銀細工だ。
ちょっと気にはなったが、あまり深入りしないほうがいいと判断して俺は視線を送るのをそこまでにしておいた。
「それにしても、あの時のアンタの使った魔法、一体何だったの?」
「正確には俺が使ったわけじゃないんだ」
「え?」
「あれは、俺の家に代々伝わる宝玉でね、一度だけ大きな魔法を放つ事が出来るんだけど、使ったら消えてしまう」
「そっ、そうなの?」
不審に思っていたかもしれないが、俺の装備品などをすべてチェックしたわけでもない、判別はできないだろう。
嘘をつき、それを塗り重ねるのは心が痛むが、彼女が魔王の存在を知った時どういう反応に出るのか予想がつかない。
真実は出来るだけ伏せておくべきだろう。
「実家を追い出された時、アレだけは持ちだした。金に換えようかとも思ったが……なんかもったいなくてね」
「……」
「まあ、実際役に立っただろ?」
「うっ、うん……そうね」
まだ少し釈然としないのかもしれないが、一応は納得してくれたらしい。
これ以上嘘をつくのも忍びないのでこれくらいで切り上げたいところだ。
「所で聞きたいんだけど、さ……」
「うん?」
「アンタ、これからも冒険者するつもり?」
「ああ、俺の目的のためには冒険者を続ける必要があるんでね」
「へぇ、どんな?」
「故郷にもう一度戻らなきゃならなくなったんだ」
「追い出されたアンタがなんで戻る必要があるの?」
結構痛いところを突いてくるな、確かに名家の三男坊が追い出されたならもう家に帰る事は許されない事が多い。
かといって、親が死んだ等と言う嘘をつくと、問題点が紛糾してくる。
冒険者なんかやるより、家宝を売り払って家に帰るべきだった的な。
ウソを重ねるというのは、つまりはこういう事なのだろう。
とはいえ、ここで本当の事を話すわけにもいかない……。
「全ては言えない、ただ、冒険者として成功しないと帰るに帰れない事情がある」
「そう……」
今度は嘘は言っていない、冒険者として成功するくらいでないと、魔王ラドヴェイドを復活させられない。
あの妖怪手の目が復活しないと言う事は俺は元の世界に帰る事が出来ないと言う事だ。
ただ、もし本当に奴が魔王として復活した時、俺を元の世界に返してくれる保証はない。
とはいえ、あのラドヴェイドがそう言う事をするかというと、今までの面倒見の良さから疑問を感じてしまうのも事実だが。
「……なら、私とパーティ組まない?」
「え?」
彼女は使えない俺に対し何度か怒りをぶつけてきた事がある。
実際前回の初冒険は散々な結果だった、それに切り札が二度と使えない事は今話したばかりだ。
それなのに俺を誘うというのは意味がわからない。
しかし、ティアミスの瞳は嘘を言っている雰囲気ではなかった。
「なぜ俺を?」
「使えない新人だとは思ったけど、慢心している人間と比べればマシだと思ってね……。
それに、裏切る事は無いでしょうしね?」
それは、前の冒険の時、オークから庇った事を指しているのだろう。
確かに俺はハーフエルフに偏見はないし、女性の事は出来るだけ守りたいと思う程度には両親に教育されている。
ただ、俺自身目的もある、絶対などとは言い切れないが……そんな事を言って折角のチャンスをつぶすつもりはなかった。
「そこを買ってくれたわけか」
「そういう事よ」
「だがパーティと言っても2人じゃ何もできないだろう?」
「そうね、私もまだ精霊魔法は勉強中だから、能力的にはレンジャーの初級に過ぎないわ。
でも弓も一応使えるから後衛もできるわよ」
「へぇ、ティアミスは精霊使いなのか」
「ティアミスさんでしょ」
「そういうティアミスも俺の事をまだアンタと呼んでるだろ? パーティ組むならまずいよな」
「う”、分かったわよ。これからはシンヤと呼ぶわ。だから目上の者として敬意を払いなさい」
「分かりましたよティアミスさん」
そう言う訳で、一応パーティを組むことにしたわけだが、さっき言った通りでメンバーが足りなすぎる。
2人ではゴブリンでも囲まれるとまずい、今はラドヴェイドのフォローは全く期待できない以上、せめてパーティは充実したい。
「まぁいいわ、それじゃ不足している人員についてね、
回復系の術師、僧侶なんかがいれば一番なんだけど、後はアンタ一人じゃまだ前衛が心もとないしう一人欲しいところね。
余裕があれば魔法使いや、盗賊系のスキルの使い手もいれば完璧ね……」
「まあそれ以前に、パーティに参加してくれる人がいるかどうかが分からないところだ」
「そうね、でもとりあえず戦士なら心当たりがあるから」
「前回のクエストで一緒になった戦士の事か? 確かウアガ・ドルトネンとかいう」
確かにあの巨漢が前衛に入ってくれればいろいろと楽ができそうではある。
相撲取りのような体格と、重武装から繰り出される攻撃力も、防御力も俺とはけた違いだろう。
だが、箱庭の支配者と一緒に俺達を置いて行った人間でもある、そういうやり方を否定はしないが、信用もできない。
「大丈夫なのか?」
「心配なのはわかるけど、その辺は何とかなるわよ」
「なんとかって?」
「ウアガの素姓は有名だから、弟や妹が10人くらいいるらしいわよ」
「それは……」
「だからね、そっちのほうから話を通せばまず断らないし裏切られる事もないと思うわよ」
「じゃ後は、回復魔法の使い手か」
「そうね、そっちは一から探すしかないわ」
方針が決まっただけ、実のところは何の保証もないわけだが。
一人で戦っていくよりはいいのは事実だった。
と、そんな感じで俺達が協会のほうへ向けて歩いていると、ちょうど協会からパーティの一つが出て来るのが見えた。
「あれはもしかして、”銀狼”!?」
「有名なのか?」
「有名って、知らないの!?」
「ああ」
「嘘……、だってあの”銀狼”よ?」
「済まないな、俺はこの大陸に来て間もないからな……」
「え、シンヤあんたって……西大陸からきたの?」
「ここじゃあ西大陸なんて呼ばれてるのか」
「なるほど、それならアンタの無知っプリもわからなくはないわ」
「それで、銀狼ってどんなの?」
「まあ、はっきり言ってしまえば、この国、ラリア公国の英雄的なパーティの一つよ」
「英雄ね……」
「流石に、レイオス・リド・カルラーン王子率いる、”朱の明星”とは比べ物にならないけど、
魔族の貴族階級と戦って打倒した事があるらしいわ」
レイオスというとあの勇者のパーティか、魔王を倒したんだ、そりゃ一番有名だよな。
つまり、銀狼はそういった大陸中に名が轟くほどではないにしろ、この国の中では有数の知名度を誇るパーティと言う事のようだ。
それにしても、この国の名前はラリア公国というのか、初めて知った……。
「貴族階級というと?」
「いわゆる悪魔、もしくは魔族と呼ばれるもの達の中でも特に強大な力を持つ者たちの事よ」
「吸血鬼とか?」
「まあ、吸血鬼の貴族もいるでしょうけど、吸血鬼全体が貴族と言う訳ではないわ」
「なるほど……って、え!?」
俺は、不思議なものを見つけた。
その超有名なパーティである銀狼に、俺と同時に試験を受けたペーペーの新米であるはずのウエイン・トリューナーが混ざっている。
なよっとして女顔の金髪男、まだ16歳だというその男は剣士としては俺よりもずっと上には違いなかったがFランクの剣士のはずだ。
どう考えても一人だけ浮いているが、ウエインは間違いなくパーティのメンバーと話しながら歩いていた。
「あっ、シンヤ、久しぶりだね」
「ああ……ウエイン久しぶりだな、しかし、凄い人らとパーティ組んでるんだな」
「うん、僕もそう思う。一人でずっとやってたら、声掛けられてね」
「へぇ、じゃあ随分強くなったんだろうな」
「はっはそんなにすぐ強くならないよ。でも、期待はされてる感じだから頑張らないとね」
そんな会話を軽くかわしたのち、パーティに声をかけられたウエインは俺に挨拶だけしてさっと走り去って行った。
なんて言うか、出世コースに乗ってやがんな、主人公補正とかのアレか?
それにまた、あの”銀狼”のリーダーらしき先頭の女、銀髪ですらっとしてて胸もばいんばいんで……。
俺は思わず隣を見てため息をついた。
「何か失礼な事を考えてない?」
「いえ……なんでも……」
目をそらしつつ答える、そりゃまーハーフエルフだし、まだ成長しきってもないんだろうけどな……。
いや、別に付き合う訳でもないから関係ないと言えばそれまでだが、
この世界に来てから、勇者の幼馴染兼僧侶のフィリナさん、桜待ち亭のアコリスさんとまあ巨乳の人が目白押しだっただけに。
そういえば、そうでない人もいたような気もする……ただまぁ、あまり記憶には残っていないが。
脳内巨乳談義は置いておいてと、突っ込みがいないとこれは厳しい。
「ウエインの奴強くなりそうだな……」
「ああいうのと同じ世界で生きようと思わなければそれなりに平和に過ごせるわよ」
「どういう意味だ?」
「ああいうのはね、周りを巻き込んで大きな事件に突っ込んでいくから、強くはなるだろうけど早死にするわ」
「それは……、そうかもしれないな」
急に冷めたようなもの言いになっているティアミスを見て不思議に思った。
もしかして、身内かごく親しい人間にそういうのがいたのだろうか?
とても問いかけられる雰囲気でもなかったので、とりあえずは黙っておくことにした。
「とりあえず私達も冒険者協会へ行きましょ。こんなところでぶらぶらしてても意味ないし」
「そうだな」
とはいえ、今依頼を受けるのは厳しい、パーティの数の事もだが、俺自身、スタミナの低下が痛すぎる。
いや、正確にはサポートがなくなっただけだが、それでも、いかにサポート頼りだったかがよくわかった。
何といっても前は簡単にできていた桜待ち亭の仕事だけで体力が尽きてしまい剣の鍛錬どころではない。
それどころか、最後のほうになると仕事そのものもかなり辛いので、100%仕事を達成してるとは言えない。
幸い、前の冒険で体を痛めたことになっていたので、体力が一時的に低下したのだろうと心配してくれていたが、
実のところあれでも元々の俺よりはマシな状態なのだ、流石に体力も筋力も少しは以前より上がっていたので何とか最後まで仕事ができたが、
もしもこの世界に来たばかりの俺なら、仕事時間の半分もすればへばってなにもできなくなっていただろう。
高々一か月でも筋肉痛と戦いながら筋力UPした事は身についているらしい。
それでもサポートを受けていた頃の半分以下のスタミナしかないのも事実だった。
「やっぱり、まずはパーティ探しか」
「そうね、壁役と回復は最低限必要だわ」
ウアガは引き受けてくれるだろうか?
いや、引き受けてくれたあと裏切らないかのほうが心配だ。
割合い優しそうな顔立ちこそしていたが、箱庭の支配者と一緒に俺達を置いて行った男だ、今一信用できない。
いや、それが悪いと言っているんじゃない、理由もあるだろう、十人の弟や妹を食わせていくだけでもかなりの労力だ。
だが、パーティを組むなら信用置けるほうがいい。
貰う金次第で裏切りかねない可能性を持っている以上迂闊に信用も出来ない。
ただ、ティアミスはあまり心配していないようだった。
どういう理由だろう?
「冒険者協会へようこそ! って、あらシンヤじゃない。ここ数日みかけなかったから気にしてたのよ」
「あっ、レミットさん、すいません。箱庭の支配者の人たちについていってたので……」
「あー、それは……よく生きて帰って来れたわね……」
「ははは、なんとか運があったようで」
「でもあんまり無茶しちゃだめよ。もっと楽そうなクエストだってあるんだから、地道にコツコツやんなさい」
ティス・レミットさんは受付嬢だ、他にももう一人いるらしいのだが、俺は見た事がない。
彼女の見た目はぱっとするほどには花がないが、そばかすがチャームポイントの黒髪を三つ編みにまとめた女性だ。
小柄ではあるが、折れるほど細いという訳ではなく、いつも元気そうに見える。
依頼関係の処理をほぼ一人でこなすデスクワークの雄と言っていい存在だ、
この人がいなければ冒険者協会カントール支部は立ち行かない。
見た感じ年齢はアコリスさんと同じくらい、実際冒険者だった事もあるらしい。
なぜ辞めたのかなどは誰も語りたがらないが、契約に関する事には厳しく、仲介料をきちんと上げない不良冒険者には厳罰を下すらしい。
もっとも、まだ依頼を直接受けた事がない俺にとっては受付けのお姉さんでしかないのでよくはわからないが、
たむろっている冒険者達には恐怖(フィアー)のティスとして恐れられている。
「俺が一人で受けられるような依頼ってありますかね?」
「あるわよー、いっぱい」
「え?」
「冒険者って基本なんでも屋だからね、建物の修繕とか、清掃とか、子守りとか、飲み屋のバイトに、農家の手伝いなんてのもあるわ」
「なるほど……」
「特に農家の手伝いに関しては、周辺の村から毎月依頼きてるからね、頑張ればそれを専業にすることだってできるわよ」
「ある意味すごいですね……」
「まあ、人気はないけどね、冒険者なんて一攫千金狙いの馬鹿ばっかりだから」
「う”っ……」
ともあれ、冒険者稼業というのは、つまり、一攫千金狙いとは別に、人材派遣業のような事もしているという事なのだ。
だが、人材派遣のほうはあまり冒険者の気風に合っていない事もあり、依頼をすべてこなせているとは言えない現状らしい。
「でも、ウアガのようにそういうのをメインにしている人もいるわ」
「あら、ティアミスさん。シンヤと一緒に来たんですか?」
「というか、最初からいたんだから気付きなさいよ」
「あははは……(身長低いからシンヤの影に隠れて見えなかったわよ)」
「何か言いたそうね?」
「い、いえ(汗)」
「ウアガがこういう仕事を専門にしている?」
話が脱線したようなので、俺はティアミスの話を促すようにした。
それにウアガの事も少し気になる。
「そう、彼は安定収入が欲しいの、だからそういう依頼内容が細々したものを複数同時に受けてどんどんこなすことで収入を得ているわ」
「詳しいですね」
「ちょっと心境の変化があってね、パーティを組もうと思うの。ウアガは盾としてなかなか使えそうだし」
「それはそうですけど、彼は弟や妹のためにやっているような人ですしね」
「でも前は私達と同じように箱庭の支配者のクエストに参加していたでしょ?」
「臨時で大金が必要になったとか言ってましたね、確か弟が病気になったとか」
2人はポンポン会話を進める、俺はただ聞いているだけで精一杯だが、大体の状況はわかった。
つまり彼は、弟や妹達を食べさせていくために、隙間産業のような真似をして仕事をこなしていたのだろう。
だから今までは、まともに戦闘した事はほとんどないに違いない。
しかし、それでも俺達と違い箱庭の支配者のパーティに最後までついていった。
実力はかなりのものなのだ。
それにチェインメイルにブレストプレート、バトルハンマーという装備、
一見すごいようだが、よくよく考えてみると、バトルハンマーは少し錆びていたような気もする。
一般の仕事関係でよく使っているのかもしれない。
「そんな彼をパーティに誘うのは至難の業だと思うのですが」
「大丈夫よ、それにずっと頼みたいわけでもない」
「あー、つまりそういう事ですか」
「そういう事」
2人は俺のほうに視線を流しながら何か意味ありげな言葉を交わす。
よくは分からないが冷汗が出る、何かよくない事をたくらんでいるような……。
「ですが、戦闘に主眼を置いてパーティを組むなら絶対に外せない職がありますよね?」
「回復系ね、確かに、僧侶、水か土の精霊使い、呪歌を操る吟遊詩人、どれも引っ張りだこでしょ……誰かいないかしら……」
「貴方の系統は……」
「風よ、それもまだ初歩魔法すら発動が安定しないからクエストで使うのがためらわれるような」
「はぁ……」
実際、今回入った冒険者でまともにパーティに参加していなかったのは、
俺やウエイン、ウアガのようなちょっと普通じゃない冒険者ばかりで、
まともな冒険者の卵は最初の一か月の間に一人で依頼を数件こなしてその辺のパーティにお世話になっている。
因みにウエインやウアガのように一人で依頼を続けていたタイプと依頼を受けられなかった俺は随分違うが。
「いるにはいるわよ、回復系の職業」
「本当!?」
「ええ、魔法で回復というわけにはいかないけどね」
「それは一体?」
「薬師のクラスがあるのは知ってる?」
「あっ、そう言えば……」
「ただまぁ、魔法と比べて安定しているのかといわれると疑問だけどね」
「それでもいい! パーティに入ってくれるなら文句は言わない」
「でも、それ以外にも問題が……」
「その人しかいないなら多少問題があっても気にしない!」
「そう? なら住所をメモしておくから会いに行ってみるといいわ」
「え、ウアガのほうは?」
「ああ、そちらなら既に手は打ってある。レミット、頼むわね」
「わかりました、全く人使いが荒いんだから」
そう言いつつも、面白そう、という感じに微笑むレミットさんは何か事情を知っているようだ。
俺は急に急ぎ始めたティアミスに引っ張られ、件の薬師のところへと向かう事になった。
「そういえば、ティアミスさん最初は俺達に対して名乗らないほどツンケンしてなかったっけ?」
「まあね、シンヤがトーシローなのは一目でわかったし、ウアガも見た目ほど物分かりがいい感じでもなかったからね」
「まあ、俺はそうだろうけど、ウアガはそんなだと今回もまずいんじゃ?」
「そうでもないわよ。彼の望むものを私達は与えてあげられるから」
「望むもの? 金か?」
「いいえ、彼が本当に欲しいのはそんなものではないわ」
「?」
「まっ、考えておきなさい。そのうちわかるから」
そう言ってティアミスは笑う、俺はどことなく不安を覚えるが答えてくれないからと力ずくが出来るわけでもない。
仕方ないので、その薬師の家へと向かう。
一応プロフィールは貰っていた、回復系の職業はいろんなパーティに引っ張りだこであるため、まともな人は残っていないのは予想していたが……。
年齢が50代後半、普通の人間なので普通に壮年、いやこの世界においては医療の発達が遅れているので、
魔法のお世話になれない人は基本的に年をとるのが早い、その男を始めてみた印象はボサボサ髪のじいさんだった……。
「ほう……まさか薬の納品以外でワシの家に来る変わり者がいるとわな、まぁ家に入るがいい。
珍しい客人ゆえ、もてなしてしんぜようて」
「はっ……はぁ……」
「これは……」
想像以上にヨボヨボというか、日本の基準で言えば80代だと言っても通ってしまうほどだった。
まあ考えてみれば、年がら年中家の中にこもって薬を作っていればそうなってもおかしくはない。
確か、名前はニオラド・マルディーン、ローブのように見える普段着とふしくれだった杖を突く姿はおとぎ話の魔法使いじみてはいた。
「所で二人はつきあっておるのかの?」
「いえ、パーティを組もうと思いまして」
「おお、パーティはいいのう。冒険の中で深まる愛、いいシチュエーションじゃ」
「いや、そうではなくて」
「ん、いかんぞ青年、こういう事は男のほうからリードしてやらねば」
「そうでもなくて!」
「おお、すまんかったすまんかった、まだ茶も出しておらんかったな」
「いえ、ですから!」
俺達の言う事は、全く聞いてもらえず。
俺達の事を単なるカップルと勘違いしたニオラドはお茶を用意するために隣の部屋へ行ってしまった。
俺達の間に微妙な沈黙が落ちる、だが別にそういう雰囲気になったわけではない。
その証拠に、ティアミスは爺さんのほうをにらみつけているし、油断なく周りを探っている。
その理由はおおよそ分かった、薬師というのは攻撃にも防御にも回復にも使えるいろんな薬草を使う職業だ、場合によっては毒も使う。
あの爺さん、ボケ老人を演じているようでもあったが、一瞬だけ鋭い目をした。
俺達を見定めようとしたのかそれとも……。
「さて、カップルには丁度いいお茶が手に入っての」
「ニオラド殿、すいませんが私達の要件を先に済ませてもいいでしょうか?」
「ほっ、ああ、確かに。久々の客ゆえ少し取り乱してしまったようだの。して、要件とは?」
「俺達のパーティに参加してほしいんです」
「パーティ、パーティというと誕生日とかのかの?」
「そうではなく、冒険に出るパーティです」
「ふむ、それは無理というものじゃ。正直、ワシはもう年を取り過ぎておる。60手前の体力では歩いて付いて行くのさえ難しい」
「私達のパーティには回復役がいません、今のままでは危なくて冒険に出られない。ですから暫くの間でもいいんです。
お願いできませんか?」
「少女の願いなら聞いてあげたいところなんじゃがの……さてどうしたものか」
ニオラドの爺さんは髭を弄びながら考えている。
確かに言いたい事はわかる、俺達は森や山、洞窟、ダンジョン等に入り神経をすり減らしながら周辺を警戒しつつ、戦闘等も行う。
そんな事を見た目が80歳に近いような人間に頼むのは酷である。
しかし、今の俺達には他につてはない、せめてラドヴェイドが復活するまでくらいでも参加してもらわねば俺の場合命に関わる。
因みに、ラドヴェイドが初期状態の手の目に戻るにはやはりゴブリン20体分の魔力が必要だそうだ。
先は長い……。
「おお、そうじゃ。一人心当たりがおる」
「え?」
「わしの弟子じゃよ。あ奴なら体力もあるじゃろうし、薬師としての知識もある。
ただ問題は、あ奴冒険者登録はしておらんでな……さてはてどうしたものか」
「冒険者の登録がない人を誘う事は出来ない決まりになっていますから……」
「そうじゃろうのう、となると……そうじゃ、あのバカ弟子にも更に弟子がおる。
まだ一人前でもないのに早いとは思うが、まあ、それでもそ奴は冒険者だったはずじゃ」
「それは、しかし、既にどこかのパーティに参加しているのでは?」
「そこまでは知らんよ、ただ、紹介状くらいは書いておく、それで勘弁願えんかの」
「分かりました……」
「……ちょっと待ってください」
俺は諦めて立ち上がりかけたティアミスを押しとどめ、爺さんの正面に向き直る。
多分その孫弟子はほぼ100%どこかのパーティに参加しているだろう、回復職はひっぱりだこであるのは変わりないし、
レミットさんも無駄な事は言わない、もしその孫弟子がまだパーティに参加していないなら教えてくれていたはずだ。
そして、同時にレミットさんが彼を指名して、彼がまだ冒険者であると言う事は、彼は冒険が出来ると言う事でもある。
つまり、ニオラドは俺達のパーティに参加したくないから嘘をついているのだ。
「あえて言わせてもらう、腹を割って話さないか?」
「ほう、それが地か……、しかし、ワシが冒険出来ない事は事実じゃよ」
「本当に? 冒険者としての登録が失効していないと言う事は一年以内に冒険者協会で更新したはずだ」
「ほう……気が付いておったのか」
ニオラドの目つきが変わる、先ほどの半ばボケ老人のような表情から、年相応というか、枯れていない何かを感じさせる表情へ。
そして心なしか背筋も伸びている、恐らくヨボヨボして見せた事は演技だったのだろう。
「そもそも、冒険者の薬師というのは、薬を自分で取りに行かなくては成立しない。
薬の材料は森や山に分け入らないと取れない上に、薬師でなければ雑草との見分けがつかない」
「ほう、その事を知っているとはな。ワシとした事が……見た目にだまされるとはまだまだじゃわい」
もちろんハッタリだ、しかし、ヌルゲーマーながら、色々なRPGをやってきた関係上ある程度知っている事がある。
薬師が材料を普通にどこかから仕入れするなら、冒険者になる必要はないと言う事だ。
実際そう言う薬師もいるだろう、そうでなければ薬草が一般の雑貨屋で売られてはいないだろうが……。
冒険者の職に薬師があるなら、手に入りにくい材料の薬を作るためだろう、絶対ではないがそれ以外に薬師の目的がないからだ。
「アンタが俺達のパーティに入りたがらない理由は何だ?」
「そりゃ簡単じゃの、御主たちが弱そうだからじゃよ」
「それはアンタが望む薬の材料は危険なところにあると言う訳か?」
「その通りじゃ、それゆえ、御主らのようなヒヨッコの冒険者について行くつもりはない」
「なるほど、それは全く持って正しいな」
「シンヤ!?」
「だが、アンタ自分の言ってる事がわかってるか?」
「なんじゃ?」
「アンタはパーティを選べる身分なんかじゃないと言う事さ」
「……」
ニオラドは俺をにらみつけてくる。
事実として、それは言わなくても本人が一番痛感しているだろう、そもそもこんなところでくすぶっているのがその証拠なのだ。
本当に回復職としてアテにされていれば既にどこかのパーティに参加しているはず。
何十年か前まではもしかしたらパーティに参加していたのかもしれない、しかし今は年齢が高すぎる。
もちろんだからこそ俺達の成長を待っている暇がないと思っているんだろうが、成長したパーティには回復職は必ずいる。
そう、ニオラドの目的に合致するパーティには殆ど確実に回復職がいるのだ。
ごくごくまれに、回復職だけがパーティを抜けたり、死んだというような特殊なものを待っているのだろうが、未だに来ていないのだろう。
だから……。
「ニオラド、あんたの目的に合致するにはどれくらいの強さが必要かは知らない。
しかし、そこまでの強さに俺達は5年、いや3年で到達して見せる。
だからパーティに加わってくれないか?」
「フンッ、言いよるわい。生意気な若造じゃ。しかし、そうじゃな。御主らを育ててみるのも一興か」
「そっ、それじゃ……」
「うむ、パーティに参加させてもらうぞい」
ティアミスは表情を崩してうれしそうな顔をする。
実際、よくあんなハッタリ任せでうまくいったものだと思う。
だが、どちらにしろ、何の収穫もなしで帰るわけには行かなかったのだ。
賭けに出た事を後悔する気はなかった、まあ上手く行ったからではあるが……。
ともあれ、こうして俺達はパーティを組むことを決めたのだった……。
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キャラがずいぶん増えてきましたので少しキャラ紹介をしたいと思います。
まあ、現時点では大したことはわかっていないので読み飛ばしてもらっても構いませんがw
因みに勇者の皆さんや英雄な人達はまだ公開しませんw
>>主人公パーティ<<
>四条芯也
少し冒険したいお年頃だったが、危険には近づきたくない一般的なゲーオタ少年。
身長は169cm、中肉中背であまり特徴はない、当然二枚目でもない。
異世界に飛ばされ、更に死んだ魔王が体に取りついてしまったため受難の日々を送っている。
基本的に日和見主義だが、生活のきつさにさっさと元の世界に帰りたいという風に考えてはいる。
>魔王ラドヴェイド
単純にいえば妖怪手の目。
シンヤをこの世界に呼びだした張本人で、シンヤに色々と世話を焼いていたが、現在は魔力不足にて休眠中。
たまに起きる事もある。
>ティアミス・アルディミア
ポニーテールに纏めたライトグリーンの髪と抜けるように白い肌を持ったハーフエルフの少女。
見た目は中学生、実年齢は30前後(実は結構気にしている)。
わりとツンツンしているが、面倒見はいい。
一応精霊使いだが、まだそちらのほうは未熟なため、レンジャー能力を生かして冒険している。
>ニオラド・マルディーン
ヨボヨボの爺さんにしか見えない50代後半のボサボサ白髪と髭の男。
だが、本来の彼はまだ冒険心を忘れていない困った爺さんである。
>ウアガ・ドルトネン
まだ入っていないはずなのにここに紹介w
身長180ぐらい、横幅が大きい、だが顔つきは優しそうな男。
日本人が見れば大抵相撲取りと勘違いする。
年齢は19歳と微妙にシンヤより年下。
弟と妹がそれぞれ5人づついる。
>>カントールの町の住民<<
>マーナ
少し赤みがかった茶髪の少女、年齢は5歳ほど。
元はラドナの町の住人だったが、魔王の襲撃にあい、主人公によってカントールにまで逃がされた。
母親と同居しているが、母子家庭という事で貧乏生活を強いられる。
>アコリス・ニールセン
桜待ち亭のウエイトレス、22歳くらいの金髪巨乳の女性、明るくハキハキとしている。
凄い美人というほどではないが、その如才ない人づきあいに人気は高い。
実質的に桜待ち亭を切り盛りしている女傑でもある。
>フランコ
筋肉モリモリの桜待ち亭のシェフ。
黒髪に近い栗毛の40代と思しきおっさんだが、荒くれ相手にも引けを取らない。
料理も旨いが、少し大味になりがちなきらいがある、その代わりボリュームも多く、それ目当ての客もそこそこ来る。
>>冒険者協会カントール支部<<
>受付け嬢、ティス・レミット
黒髪を三つ編みにしたそばかすの女性。
依頼の仲介役、15%の紹介料徴収等もこなしている凄腕の人。
基本的には受付けにおり、依頼を引き受けたメンバーを確認、依頼人に伝えたり、依頼先をメンバーに教えたりする。
報酬(仲介料)は依頼を達成した場合だけだが、同時に依頼者に達成の成否を確認もしているため払わない場合は恐ろしい事に……。
彼女もまた元冒険者であり、また場合によっては徴収部隊を組織する事もある。
見た目は普通の受付嬢であるだけに、ギャップが怖い。
>ボーディック・アルバイン
ランクDの剣士でシンヤの剣の師匠でもある。
禿げ頭に、褐色の肌、ごつい髭というトレードマークの40男。
そこそこ強いのだが、あくまでそこそこ。
>ウエイン・トリューナー
年下、16歳のランクF剣士、素質はかなり高く、有望視されており最近”銀狼”にスカウトされた。
見た目はなよっとした女顔の金髪、細身の体から繰り出される斬撃の鋭さは光るものがある。
>チャンドラー
褐色の肌とターバン、長いひげが特徴、インド系にしか見えないが魔法使いである。
>ロッティ
ギリギリ20代、少しお水っぽい感じのするお赤毛の姉さん、一応僧侶。
>バラズ
30代後半くらいのくたびれた感じの盗賊、イタリア系の鷲鼻が特徴。
>リードニ
傭兵稼業をするために冒険者を始めたという変わり種。
一応協会の規約は守っており、国家規模の戦いには参加していない。
しかし、傭兵稼業であることには変わりなく、あまり冒険者仲間から好かれていない。
実際彼らの傭兵団は死亡率が高い。
>>箱庭の支配者<<
>バズ・ドースン
ランクEの戦士で筋骨隆々の2m近い巨漢。
見た目は山賊。
無精ひげ、赤ら顔、褐色の肌、ぼさぼさの黒髪というアル中か山賊と言う感じの見た目。
それなりに社交性は高いが、冒険を始めた時の冷徹さはかなりのもので、見捨てられた冒険者も多い。
>アンリンボウ・ホウネン
頭を丸めて、袈裟を着た仏教風の僧侶。
日系の顔立ちで、優しそうな顔をしているが皮肉屋、回復魔法も使うが出来るだけ節約したがる。
ランクEで、身長は160cmほど。
酒好きで酔うと演歌風なのか敦盛風なのかよくわからない歌を歌いだす癖がある。
>ヴェスペリーヌ・アンドエア
箱庭の支配者の中では一番高いランクDを持つ。
国内の関所をフリーパスし、国内全ての冒険者協会で依頼を受けることができる。
赤毛で170cm近い身長のスレンダーな女性、年齢は二十代前半。
真っ黒のローブを着て黒いマントを羽織り、瓶底グルグル眼鏡をしている。
野暮ったい服装と無口さのため人が近寄って来にくい。
またかなりの大喰らいでもある。