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innocent guilt
作者:trs   2010/08/19(木) 23:41公開   ID:eIdUu0NhGms

世界で最も醜悪なものとは紛れもなく善意である。
とある少年は微塵の疑いもなくそう信じていた。
彼が特殊な性癖の持ち主であっただとか、中二病患者であっただとか、そういった趣向も少しはあったやも知れないが、彼の主張はあながち間違いでもなかった。

たとえば、我々の生活を考えてみる。
騒々しく喚き散らす車のクラクション、むせかえる雑踏、呵責なく突き刺す陽光に耐えかねて涼をとろうと付近のコンビニに待避する。
保冷庫を開けてアイスを物色し、お目当てのものを見つけたら一旦キープ、雑誌を立ち読み、程ほどに飽きたところで再び保冷庫に向かいアイスを手に取り、レジに並ぶ。
店員がレジを打っている何秒間か、徒然にふとわきを見遣ればそこにはちゃちな募金箱が置いてある。

アフリカの子供たちに愛の手を――。

食料がなくて、一日に何万人も死んでいくのか。それは大変だな。
伸ばされた手から釣りを受け取り、そのまま募金箱に放り込む。
ありがとうございましたー、と、営業スマイルを浮かべる店員を尻目に、ああ、今日はちょっといいことしたかな?と思いながら、帰路に着く――。

と、これは正に吐き気を催す悪意である。

何がよ。そう思われるかも知れない。

だがしかし、我々は、全体、将来のことなど知らないのだ。
これは少年もまたそう思っていたのだ。将来のことなど、知らないのだ。

問おう。

よし、私が行った募金でアフリカの子供たちの命が1日延びたとしよう。
彼らは飢え苦しんでいた。明日をも知らない命だった。そこで僅かばかりの食料が届いた。
やった、食いつなげる。今日一日凌げる。そう思う……?
そうかも知れない。そうかも知れない、が、少年はそう考えない。

与えられた生に意味などない。戦って生き残ることが肝要なのだ。

そういう思想は確かに持っている。だが、腹が減っては戦はできぬ、ということも心得ている。
ならば、その思想ゆえではないのだ。
それは、いうなれば不確定な出来事だからだ。そう、我々は将来など、知らない。
私は明日募金しない。そも、明日コンビニに行くかも不明瞭だ。

なら――明日をも知れない命はどうなる?

単純な帰結である。一日苦しみを伸ばしただけだ。
結局、死ななければならない。だったら、なぜ昨日死なせてあげなかった?
一度誰かを助けたならば、継続して助け続けなければならない。そしてそれができる人間など殆どいやしない。
偽善とは異なる悪意なき善意は、自覚がない分偽善よりも唾棄すべきものだ。
さらに苦しみを伸ばすだけの善意など、悪意よりも性質が悪い。だから、この世で最も醜悪なものは善意だというのだ――。

少年は、酷く捻くれていた。

しかして――少年は考える。
この世で最も醜悪なものは善意である。だが、本当にそうなのだろうか、と。
少年の知性は中二病という麻薬でくるりとコーティングされ、いつにない冴えを誇っていたのかも知れない。
もしかしたら、マセていただけでそれが彼自身生まれ持った才能だったのかも知れない。
真偽の程はわからないが、彼は眼前で行われる論争に戦慄を抱きつつ、思うのだ。

世の中で最も醜悪なものとは、もしかしたら、純粋さそのものかも知れない――――などと。






エレン・イェーガー。

彼が住む世界は檻の世界だ。人類は文字通り壁に囲まれて生きていた。
100年程前、突如として現れた巨人……と呼ばれるモノに、人類は駆逐された。
巨人の体長は3m〜15m、知性は確認されず対話は不可能、そして行動原理はただただ人類を喰らうことだけだった。
一方で人間以外のものには一切の興味を示さず、箱庭に人類が引篭もって100年もの間存在していることを考慮すれば食事自体必要がないと判断された。なぜ人を食うのか。その理由は100年を閲した現在も不明である。
巨人はとにかくタフであり、頭を吹き飛ばされようが再生する。弱点はうなじ下辺りだけであり、そこを抉られれば絶命するが――体躯のサイズの差は余りにも大きく、巨人を一体駆除するためには人類の犠牲は30名にも上ったという。
そして、巨人の数はどこがどう増えたのか少なくとも人類の30分の1以上は確実にいる……。

つまり簡単に言えば――勝てない、ということだった。

そして、人類は50mもの壁の中に引篭もった。

お外が怖いので、仕方ないのである。
そんな状況の中で彼は生まれた。黒い髪と瞳、母親似の少年であった。
そして――酷く捻くれていた。そのせいか友人は一人だけだったそうな。

まあそんな感じでエレンは日々を謳歌していた。
もっとも――彼にも不満はあった。彼の世界は壁の中だけの世界であり、いわば箱庭の世界であった。
エレンは外の世界が見てみたかった。壁の外には広大な――きっと美しい世界が広がっており、それを知らずに箱庭に満足して暮らすというのはどうにもこうにも屈辱としか思えなかった。
まあ、でも思うにそれは子供の発想である。彼は箱庭の中の世界がどの程度広いのだとか、箱庭を知り尽くしているだとか、んなことは全然なかったのである。
大体、エレンは3枚の壁に区切られた一番外側の街に暮らしており、一番奥の王が住むとかいう地を踏んだことすらなかったのだ。

要するに、子供が外を冒険したい。そう思っているに過ぎなかった。
しかし、本人としてはやる気がある分だけ性質が悪い。

まあ、兎にも角にもエレンは外の世界を見てみたかった。危険だというのに面倒な餓鬼である。
そんなどうしようもなくかわいくない餓鬼が医師である父、イェーガー先生についてアッカーマン家に訪問したその日、エレンはなにやら怖ろしく冷たく、深く、暗い虚のようなモノを見ることになる。
それは醜悪であり、怖気を生じさせる何かであり、同時に屹度自分が将来が陥るはめになる澱のようなものだった。

その日のことを、エレンは戦慄と共に思い出す。

そして同時に――人の想いの強さに思いを馳せるのであった。








ミカサ・アッカーマンは死んだ魚の目をしている。

それは覆せざる事実であり他者による共通の認識であった。
さらにいえば言語中枢が不自由であり、よって演説などさせれば目も当てられない残念な内容となること必定である。
あまり物事に拘泥しない一方で一部のことについては非常に強情であり、しかも何故だか無駄に高い身体能力を有していたものであるから始末に負えない。ちなみに特技は肉を切ることである――。

と、いうのは将来の話。

イェーガー先生が診療のためにアッカーマン家に訪問した際、彼女の両親は人身売買のブローカーにより惨殺されていた。そんなことがあったからミカサはエレンばりに捻じ曲がってしまったのであった。
エレンもミカサも捩じれに捩じれていたが、その捩じれの質は両者異なっていた。
エレンは奪うために捩じれ、ミカサは失うことを恐れるゆえに捩じれた。
まあしかし両者性根がひん曲がっていることは疑いようのない事実なので、どうでもいいことだろう。

それはそれとして、史実ではミカサの両親は3人の犯罪者に惨殺され、ミカサは誘拐された。
そしてまだ幼いエレンが何を血迷ったのか己の容姿を利用して誘拐犯二人をナイフで惨殺、ミカサがもう一人を刺し殺すというようなドン・キホーテも真っ青な大冒険をやらかすことになるのである。
しかしながら――私にはこんな真っ黒な話を書く気は皆無であり、私はシルフェニアの投稿作家御歴々のように世にはばかるロ○コンではないし、ロリ○ンでもロリコ○でもないのであるが、いたいけな少女をててなし子、母なし子にするのはストーリーの関係上致し方ない場合に限るのであって、そう、私は決して○リコンではないのであるが、この短編では彼ら人面獣心の人攫いどもは来襲しないでよいのである。
一人の非実在幼女が安寧を得るのであるならば、それに越したことはないのである。多分。
そんな感じでイェーガー先生がタミフルってアッカーマン家にやってくるのであった。







ところで、やまなしおちなしいみなしを目指すこの話では少しばかり時を前後し、イエーガー先生がやってくる数分前の出来事から語らねばなるまい。


その日、ミカサ・アッカーマンは痛む右腕をさすりながら、涙の零れた頬を膨らませた。

右腕――手首には包帯がまかれている。そのさまは、たとえるなら若気の至りと衝動的な感傷、多分に英雄的なそれでいて歪曲した、複雑怪奇な感情によるどこか甘美な自傷行為――その、いたした後にも似ていた。
だが、所謂俺ら、本当の自分を探してるんだ的にいたしてしまう彼らと違い、まだいとけない少女であるミカサは彼らと同じく出血多量で召される気も毛頭なければ、そんなけったいな「印」を受け継ぐ気もまた寸毫もなかった。

ならばなぜミカサの腕には包帯がまかれているのか。実に、そのけったいな印とやらを児童虐待も同然にいたしてしまったのは彼女の母親である。
痛いよぅ、と拗ねる娘に母は微笑んで曰く、その印とやらは一族に伝わるモノであるという。
素っ裸にして灼熱の巨人が跋扈するこの世界ではミカサの母は唯一残る東洋人であるとかないとか、そんな風評が流れ流れているが――断言しよう。
東洋に神秘を求めるのは不毛である。あんた、違法な麻薬や合法な脳内麻薬で終日夢ってるジャンキーを見て、ほら、あの東洋人は神が見えるんだよって、そんな馬鹿馬鹿しいことはそうそうない。
それはただ、何かかんかやめてしまったヒトだ。
むしろ神秘ならンな風に海外に求めたりしなくても日常に転がっているではないか。
何がって?住んでる星に水があって、人間ってのが所謂知性を持って我が物顔で闊歩していることが奇跡以外の何者であるというのか。安易に外国や未知のものにロマンを求めなくても、世界は不思議なもので満ち満ちているのだ。
実にどうでもいい薀蓄である。

そんな見解など知るよしもなく、母は続けるのである。

「この印はわたし達一族が受け継がなきゃいけないものなの。ミカサも自分の子供ができたときにはこの印を伝えるんだよ?」

対するミカサ少女、つぶらな瞳に涙を一杯にためていた。
首を傾げた拍子にぽたぽた、と、木製のテーブルに僅かに黒い跡ができる。

「……? ねぇ、お母さん。どうやったら子供ができるの?」
「……さぁ」

母は、しばし沈黙の後にのほほん顔にてしれっと誤魔化した。
それどころか、冷や汗を垂らしながら母子のやり取りを見つめていた父に向かい、

「お父さんに聞いてみなさい」

などとのたもうたのであった。
慌てたのは、父である。
彼には、畑に種蒔をするとキャベツができる、などという純文学的な手法を用いるほどにこの手の質問に対して免疫がなかったしコウノトリが夜中に運んでくるからミカサは鳥の子供なんだよ、などと誤魔化す手段も有していなかった。
と、いうよりも母子の会話に不穏を感じ、我関せずを貫こうとしていたら、予期せぬキラーパスである。

「ねぇー、お父さんー」

敢えて、沈黙を守ろう。
父の思惑はハンマーに打たれた金剛石の如く、ばらばらに砕かれた。堅牢な筈と盲信していたのにこれは酷い裏切りである。
父には、娘のおねだりに抗う法は残されてなどいないのだ。

しかし、父は狡賢かった。

「いや……お父さんもよく知らないんだ。もうじきイェーガー先生が診療に来る頃だから、先生に聞いてみようか……」

嘘つけ。

母の心の声を無視して父が心中冷や汗を流していたとき、都合よくノックの音が聞こえたのだった。





エレン・イェーガーは――性根はねじれ狂ってはいたが基本的には善良な少年であった。
つまり、河に入り浸り山野を駆け、虫と戯れ遊びつかれて床に就くという平々凡々な少年なのであった。
そんな彼は、大人という一種不可解な存在が形成する人外魔境など、知識の上でさえも知るよしもなかったのである。

イェーガー先生とエレンがアッカーマン家の戸を叩いたとき、中からはすぐに応答があった。
顔を出したのはミカサ父である。ひらぺったい笑みを貼り付けていた。おっさんの微笑など不気味この上ない。

イェーガー先生、会釈しつつ家内に入る。中には胡散臭い笑みを浮かべる長髪の女性と涙目の少女がいた。
対照的な母子である。
礼儀というものを知識としては知っており実践するか否かはその場で決める感じのやさぐれたエレン少年は、今回は父親に恥をかかす理由もないものだからとりあえず一礼してするりと家内へ。
前知識としてイェーガー先生にミカサという少女がいることと、出来れば仲良くすることなど申し付かっていたので、とりあえず気が合うかどうか観察することにした。
いやいや、お前と気の合う幼女なぞいねーよ、という突っ込みは無しで願いたい。彼とて好きで捩じれているのだとか中二的なアレかな?ってわけではないのだ。若気の至りというものは確かにあるのだ。
今思い出すと赤面汗顔の至りだぜこんちくしょーって感じのやつは誰でもあると思うのだ。

ところで何故イェーガー先生がアッカーマン家に訪問したのか。
そこんところが私にはわからないのである。
イェーガー先生、医者である。しかも結構偉い感じの。息子はアレだけど。
そんなイェーガー先生に診療させるとは一体全体アッカーマンさんはどんな影響力を行使しておじゃるのか。
見たところ、天下の周りものの流れを堰き止めているような感じではなし、イェーガー先生が弱みを握られているというのならばエレンをつれてくるはずもなし。

そう考えるとイェーガー先生、案外暇人なのかもしれなかった。
もしくは異常なほどにタミフルなのだろう。全部回ってYA☆RU★ZE☆っていうような。

タミフル医師のイェーガー先生、ミカサの右手に巻かれた包帯を調べ始めた。
ちゃちな傷でもばい菌が入って化膿したら結構大変である。特に感覚器は危険なのでちゃんと消毒殺菌が必要である。
イェーガー先生、ミカサが涙目でいる以外には別に問題はないと判断、さっさと帰ろうと考えた。

エレンはつまらなそうに見つめているだけである。
実際、彼の望むようなモノはこの屋内にないのであり、既にして倦んだといってもよかろうもん。
嗚呼、冒険とは危険を冒すと書く。少年が日和見安寧風見鶏こそが最上だと気付くのはいつの日か。
私が硝煙の匂いに誘われたり、奇妙な熱病の蔓延る森林にダイブする日とどちらが早いかといっているのと同じくらいに不毛な疑問であるのかも知れない。

「特に異常はありませんね。化膿止め出しておきますので朝と夜の食後30分以内に服用してください」

先生、黒い鞄の中から小さな白瓶を取り出すと机の上に置いた。
はい、とにこやかにミカサ母。娘は相変わらず涙目である。

が。

「ねーイェーガー先生、子供ってどうやったらできるのー」

ぴきり、と先生固まった。

それは――校長が、意味もないどうでもいい話を、生徒は一人も聞いてなどいないことを知りつつも義務感と諦観から壇上に上る一瞬に、それまで騒々しかった生徒たちが申し合わせたようにぴたりと雑談を止めるそんな現象に似ていた。
不意に訪れた静寂の一瞬、落ちる針の音さえも聞こえると確信される無音の中、ばたん、とドアを閉める音が響いた。

親父である。

表面的ににこやかなその面の真ん中、笑っていない両の眼が逃がさぬ、とはっきり告げていた。
ここにいたり、イェーガー先生は自分が嵌められたことに気が付いた。

素早く視線を流してミカサの隣に座る母を見遣る。にこやかに笑っていた。

「………どうして、子供の作り方が聞きたいのかな……?」

先生、目を合わせぬように言葉を搾り出した。

「お母さんが、子供ができたら印を伝えなきゃいけないって」
「そうか。ならばお母さんに聞きなさい。ミカサを生んだのはお母さんだから、子供の作り方は一番わかっているはずだよ」

先生は母に水を向けてみた。ミカサ母、笑っていた。先生は笑顔が元々は威嚇を表していたという事実を本能で理解した。

「ねえーお母さんー」
「………実はお母さんもよくわからないの。お父さんに任せていたのよ」
「お父さんー?」
「ぶふっ、うん、ん……」

イェーガー先生を生贄にしたつもりが、再びとんでもないキラーパスを食らって親父はむせた。
親父には二つの選択肢があった。
一つは妻に対するパス返し、二つ目はイェーガー先生に対するパスである。
微笑む妻が怖い。親父は蛇に食われることを理解し涙を流しながらも動けない蛙の気持ちを切実に理解した。

……実質、選択肢はなかった。

「………あ、あれだ。ずせいらんがたいさいぼうぶんれつを繰り返しはっせいすることで子供が、うん、生まれるん……だよ?
ですよね、イェーガー先生!」
「……よくわかんない。先生?」

親父は学術的な謂いに逃げた。そして再びイェーガー先生のターンである。
先生は舌打ちしたいのを堪えた。
しかし、これはいい手でもある――そう認めざるを得なかった。
どのように子供を作るのか。それは行為の問題である。だが、どうやって子供が作られるのか、これに問題を置き換えてしまえば教育上不適切な表現を使わずにどうにか――。

「………うん。始原生殖細胞が減数分裂により増殖するのはよく知られたことだが作出された生殖細胞が出会い受精卵となることで発生が始まり卵割が起こりああヒトの場合は均等に卵割が起こる等割卵でねその後に様々な器官に分化が起こって母体で約10ヶ月経つ内に赤ちゃんの身体は形成されるんだよ」

と、まあとりあえず回りくどく、説明する。一息である。
嵌められたことに対しては後々しかるべき処置をとろうと思うが、今は急場を凌ぐのが肝要だ――。
案の定、煙に巻かれたミカサはうんうんいいながら頭をひねっていた。
そして、そのつぶらな瞳が向けられた相手は母親だった。

「お母さんー受精卵って何ー」
「――!」

母は、よもやそう来るとは思っていなかった。
彼女としては当然、大きくなったらわかるからね、今はわからなくてもいいんだよ、と優しく呟いてミカサの頭をなで回してあげる予定だったのだ。だが、どうやら愛する娘は父とイェーガー先生双方の口からでた受精卵という言葉を覚えてしまったようだった。策士、策に溺れる。いや、策を仕掛けた本人ではないのだが……。

「………それはね、せ……。男女の生殖細胞が出会ったときできたりするモノなの」

まずい。この流れは、まずい。彼女は女のカンで今後起こりうる最悪の事態を予想した。
ゆえに――。

「お父さんが詳しいから、聞いてみなさい」

丸投げした。

裏切ったな……!
そう怨嗟の声が聞こえてきそうであった。
当然、ミカサの目は父に向いていた。父には娘に抗う術などなかった。
縋るように目を向けたがイェーガー先生はぷい、と我関せずの方向に転換した。

「ねえーお父さんー。受精卵ってどうやったらできるの」

やはりそう来たか。
母は安堵に胸を撫で下ろした。

「……ぅ、うん、方法はなんというか、な、うん、何通りもあるんだよ。
四十八手とかいったり……」
「じゃーわたしはどうやって作ったのー」
「…………お医者さんごっこだよ」
「?」
「……マニアックな……」

先生、思わず呻いた。ミカサ母は頭を抱えていた。

「だから、詳しいことはお医者さんのイェーガー先生に聞きなさい」
「………!!」

嵌められた!
はっと顔を上げると、親父満面の笑みであった。
最初からそのつもりだったのか……最早この男、なりふり構わなくなりつつある。
イェーガー先生、戦慄した。

そして。

「…………」

イェーガー先生、黒い鞄の中から徐に聴診器を取り出した。
そして心なしか嬉しそうにミカサに近寄った。

おっさんが怯える幼女に聴診器を構えつつにじり寄る。

その異様な行動にミカサの両親の行動は早かった。



















何故父は憲兵団に連れて行かれなければならなかったのか。
その理由をエレンは理解できなかった。
が、やがて頭の中のパズルピースがきっちりとはまったように理解した。
そうだ。

純粋だということは限りのない悪意であるのと、同義なのだ。

ゆえに父は憲兵団に連行されねばならなかった。
善意のつもりの悪意は悪意よりも醜悪だ。ならば純粋さゆえの過ちはどうなのだろうか。
無知ゆえの罪もあるのではないか。それにより悪とされることは本人にとっては度し難い不条理ではないか――。

ああ、父よ。

貴方は――あまりに純粋すぎたのだろう。
あまりに純粋であったから、そうだったのだろう――。

エレン・イェーガーは遠くに思いを馳せつつ、密かに呟いた。

世は並べて事もなし――と。

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■作者からのメッセージ
時間できてきたのでリハビリを。
目標持って文うまくはしたいですが、やまなしおちなしいみなしを目指すとか、まったくもって目標になってないという事実……。

テキストサイズ:15k

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