「あっ、目が覚めたかい? このままだと風邪をひくんじゃないかって心配してたんだから」
「えっ……」
目を覚ましてびっくりする、そう言えば俺は先ほどまで決闘(ただし素手)をしていたんだ。
日がすっかり沈んでいるところから見て、あれから数時間は経過しているというところだろう。
良く見れば、ソレガンはもういない。
「俺は勝ったのか……?」
「ええ、勝ったわよ」
俺が呆然としていると、隣で座っていた(いつの間にか闘技場の客席に移動していた)アコリスさんが言う。
勝ったか……もしかしたら初めてじゃないだろうか、ラドヴェイドの手助けがあったとはいえきちんと目的を達成できたのは。
今までは誰かに助けてもらってばかりだった。
結果的に達成できた事もあったが、自分達の力だなどとは間違っても誇れない。
最も、今回のも実力だなんていうのは自惚れだろう、殺気を読んでの危機感知とスタミナを主力に置いた作戦。
つまりは、ラドヴェイドがいなければ成立しない作戦だからだ。
「そういえば、一つ何でも言う事を聞くっていう話は?」
「私から伝えておいたわ。私に近づくなら金や権力や暴力以外で何とかしてみなさいってね」
「ははは、なかなか難しそうな注文ですね」
「そりゃそうよ、今まで彼は金と、権力と、暴力以外何も知らなかったんだもの、最近少しその他の事も知ったけどね」
「元々悪い人間ではないってフランコさんは言ってましたけど?」
「ええまあね、悪人ではないわよ。自分の言った事は絶対守るし、信用が大事って言う事は知っているもの」
「へぇ」
アコリスさんが言う話を聞いていると、アコリスさんもソレガンの事を全面的に嫌がっているわけではないようだ。
ただ、強引に金や権力にものを言わせようとするのが嫌いという事なのだろう。
個人的には俺もお付き合いしたいと思う人だけに、羨ましい限りではある。
まぁ、俺個人としても少しはアコリスさんに認めてもらえたんじゃないかなんて自惚れているんだが。
「でも本当に頑張ったわね、最初の頃のへっぽこ剣術からは想像もつかないわ」
「だけどまだ、ソレガンの動きについていけたとも言えないですがね」
「当り前よ、いくら強くなったっていってもたかだか3カ月でしょ、それで一流になってたら化け物だわ」
「あははは……」
そう言う奴ら何人か知ってます……(汗)
「それで、もう動ける?」
「ええ、なんとか」
俺はアコリスさんに膝枕してもらって寝転がっている状態に今さらながらに気づく、隣にいると思っていたのも単に声が近かったからだ。
真っ赤になって体を起こす俺にアコリスさんはほほ笑む。
すると、アコリスさんは俺の額を軽く叩き、
「まったく、やんちゃな弟が出来たみたいよ」
「えっ……」
俺にはそれ以上何とも云えなかった、なにせ、そんな事を言ってくれたのはアコリスさんが初めてなのだ。
家族のように思ってくれる、親友達ですら段々と心が離れて行った気がしたというのに。
「さて、もう動けるでしょ?」
「はい、お陰さまで。まだ体の節々は痛いですが」
「ガマンなさい、男の子でしょ。私は先に店に戻ってるから、ゆっくり来なさい」
「はい」
多少恥ずかしかったんだろう、アコリスさんはそそくさと出て行った。
まあちょうどいい、俺としても一人……でもないか、話さないといけない事もあったしな。
「随分と大人しかったじゃないか」
(いつも余計な口出しはしていないはずだが?)
「まあそうだけどな、でも逆に不思議なんだよ」
(何がだ?)
「仮にも魔王なんだろ? それに暴走する部下達を止めたいとも思っている」
(否定はしないが)
「ならなんで俺を急かさない?」
(……)
ラドヴェイドは黙り込む、そう、今までもそうだったが、ラドヴェイドにはどうしてもやってやるという意思がみえない。
俺を選んだ事も、俺の行動にあまり口を挟まない事も、別に俺が失敗してもいいという条件付けも。
全てが俺に対しての制約としてゆるい効果しか与えていない。
もちろん、俺が帰ろうとする事を前提にやっている事だとするなら納得もできた。
しかし、今回の俺の行動は、はっきり言えばこの世界に愛着がわいたと言う事だ。
下手をすれば俺はこれ以上ラドヴェイドの意思に沿った行動をしない可能性が出てくる。
ラドヴェイドはそれでも何も言ってこなかった、俺としてはその方が楽だが、不気味でもある。
何故ラドヴェイドはそこまでゆっくり構えているのか?
「答える気はないと言う事か?」
(いや、まだ早いとだけ言っておこう。我にとって数年の出来事など些事でもあるしな)
「……」
やはり何かある、今はどうしようもないのかも知れないがいずれはこの事も知らねばならないだろう。
俺が元の世界に帰るためには……。
ただ、今の生活をすれる事に未練が出てきているのも事実だ。
俺は本当はどうすればいいんだろう?
その日は、剣術の訓練だけしてそのまま休んだが、その事が心に引っかかってなかなか寝付けなかった……。
翌日、俺が”桜待ち亭”に顔を出すとソレガンは既に来ていた。
というか、アコリスさんを口説いていた。
金と権力と暴力以外という事で、兎に角口説く事にしたようだった。
これには正直あいた口がふさがらない、俺は見つからないように”桜待ち亭”を出ることにした。
「あっ、ちょっと待ってくれたまえ」
逃げ損ねた。
ソレガンは派手な服装や髪形なので、あんまり近づきたくはないのだが。
満面の笑みの意味するところは大体わかった。
「恋人同士というのは嘘だったんだね?」
「あーばらしちゃったんですか」
「仕方ないでしょ……。だって、着て早々こいつ泣きだしたのよ店の中で、営業妨害も甚だしいわ」
アコリスさんは本当に困った顔をしている。
正直俺にはどうしようもないんだが。
「ともあれ、僕とアコリスさんの愛に障害がない事がわかってよかったよ。
それに、昨日のあれは私に対する愛の鞭だったのだね。
確かに強引にアコリスさんを連れていくのでは親父と何も変わらない、これからは気をつけるよ」
満面の笑みを浮かべているソレガンには悪いが、
190cmのムキムキ男が豪奢な飾りをつけて満面の笑みをこぼしている図はかなりキモかった。
もしもアコリスさんにその気があったとしても恋が実るのは随分先の事だろうと思わざるを得ない。
「そうだ、君に一つ頼みがあるんだが」
「え?」
「シンヤ君だったね。君は冒険者なんだろう。話を聞くとパーティも組んでいるらしいじゃないか」
「ええ、そうですけど」
「依頼というのは、隊商の護衛なんだけど」
「護衛ですか……」
ソレガンの言う隊商というのは恐らくサンダーソン家の隊商の事だろう。
正直この世界における隊商というのがシルクロードを旅した隊商と同じなのかどうかは知らないが、
問題は冒険者協会を通せば受ける事が出来ない類の話だろうという事だ。
理由は簡単、外国に行く隊商の護衛ならB以上、他の地方へ行く隊商だとしてもD以上のランクが必要だ。
俺のランクはF、最低ランクを全く脱していない。
高位ランクの者とパーティを組めばOKとされるが、俺達の場合全員Fだった。
「協会の規定の事かい? 私から手をまわしておくよ」
「いいんですか?」
「ああ、親父の息のかかった護衛だと今回はやばいからね……」
「やばいって?」
「いや別に、殺すとかそういうのじゃないが、利益を吸い上げられてしまう」
ソレガンは困ったような顔をしている。
親が息子の商売の上前を撥ねるという事だろうか?
あまりほめられた話じゃないな。
「そうなんですか」
「今回輸送してもらうのはちょっと特殊な苗でね、親父には知られたくない。
だから、親父の息がかかっていない冒険者に護衛を頼みたいんだ」
「それが俺たちだと?」
「幸い、元々カントールに対しては親父の影響力はさほど強くない、その上実力も見せてもらったしな」
「なるほど」
危険度はそこそこ高めと見るべきか。
今の自分達の実力を考えると、盗賊団等が出てきた場合、迎撃の成功率はそれほど高くはない。
単独で引き受けられるものじゃないな。
しかし、それは1チームだけの場合だ。
2チーム、もしくは3チームまとまってやれば難易度は緩和されるだろう。
「いくつかのパーティに声をかけて連盟ででもいいですか?」
「構わないが、報酬はこれくらいだよ?」
「金貨で100枚、拘束時間はどれくらいですか?」
「行きに一週間、帰りに一週間だからおおよそ半月くらいかな」
「半月……」
協会の手数料が15%で85枚、3チームでやった場合、レベル的にも人数的にも俺達が一番安いだろうから20枚いくかどうかだろう。
それでも金貨の価値は一枚10万円換算だから200万の報酬が確定する。
まぁ坊ちゃんの依頼というのが不安を誘うが、なんにせよ確認して損はない。
「わかった、依頼は冒険者協会を通してにすればいいのかい?」
「はい、直接受けると除名されてしまいますから」
「じゃあ今日の昼ごろにでも協会に行ってくれたまえ」
「では」
そう笑顔で言いつつ、”桜待ち亭”を出て行く。
これ以上付き合っていられないという事もある。
それ以外にも、2日しかたっていないがパーティメンバーに話す事がいろいろあるという事もある。
依頼は昼ごろ来るということだったが、少し早めに冒険者協会カントール支部へと向かう事にした。
「あらシンヤ、いらっしゃい」
「レミットさんおはようございます。他のメンバーは来てますか?」
「ええ、あっちのほうで食事してるわ」
黒髪を三つ編みにしていつものように手際よく仕事をしている受付けのレミットさんにパーティの事を聞いた。
協会内には食堂も存在する、ロビーで酒をかッくらっている人もいるので
建物が大きいから色々と詰め込まれているというのも事実だ。
これだけ設備が行きとどいた冒険者協会支部は大都市にしかないのが普通だが、
ここは魔王領が近く、冒険者の仕事も多いため、協会自体が多機能に作られていた。
構造的に、一階は受付け及び依頼書の掲示板、そしてロビーがあり酒や飲み物をふるまわれる。
二階には食堂と応接室があり、三階、四階、五階には魔法使い、盗賊、戦士等の訓練場が存在する。
簡易にではあるが、3階より上にはベッドもあり、それぞれの階に4人くらいなら寝る事も出来る。
まあ、隣で訓練しているのを気にしなければではあるが。
因みにトイレとシャワーは一階にしかない。
シャワーといっても、手桶なわけだが……。
そんな事を考えながらも2階の食堂へと向かう俺。
そこには既に3人ともそろっていた。
エメラルドグリーンの髪が特徴的な見た目中学生、実年齢30歳以上というハーフエルフ、ティアミス・アルディミア。
見た目通りのヨボヨボ爺さん、しかしその割には足腰が達者で冒険者としてもまだまだやれるニオラド・マルディーン。
見た目は関取り、絶対相撲を取っていたほうが似あうんだが、実は弟妹達の世話をせっせとする苦労人、ウアガ・ドルトネン。
そして、そこに俺が加わったのが冒険者パーティ”日ノ下”だ。
人数はまだ十分とは言えない。
厚みを増すためにも出来ればもう一人回復役と後衛をやってくれる人がいる。
更に前衛がもう一人いればほぼ完ぺきかもしれない。
まああくまで冒険者パーティとしてはだが。
「もうみんな集まっているのか」
「あら、遅いわねシンヤ。何かあったの?」
「何かってほどじゃないけど、依頼をな……」
「依頼? どんなの?」
「隊商の護衛、昼ごろに依頼書をこっちに届けに来るらしい」
「へぇ、あんたにそんなコネがあったなんてね」
「色々あったんだよ……」
俺はソレガンの事を思い出しため息をつく。
ティアミスが妙な顔をしていたが、気にしない事にした。
「所で隊商の護衛とはどれくらいの期間が必要なんだ?」
「行きと帰りで約半月くらいらしい」
「待ってくれ、俺はそんなに長期間カントールを離れられない」
「あー弟妹達のことか」
「そうだ、俺は安定収入とはいかないからな」
「それだと、私達は受けられないわよ。
唯でさえ4人しかいないパーティなんだからウアガが抜けたら前衛あんただけになるでしょ?」
「そうじゃの……人数が少ないパーティ故、一人抜けるのは命取りじゃ」
ウアガの話に、ティアミスとニオラドの爺さんが同意する。
確かにその通りだ、別のパーティとの連携なんて元々上手くいくかわからないのだし、それを前提にする事も出来ない。
それに、最悪、全部別のパーティに頼んでしまえばいいという解釈もできる。
となると、パーティの人数が減るのは致命的となる可能性がある以上今回はやめておくべきというのも分からなくはない。
ただ……。
「報酬は手数料を引いて、3つのパーティに分けたとしても、金貨20枚は固い。
それと、ウアガの弟妹達なんだが、上のほうの年齢はいくつぐらいだ?」
「14が一番上で、後は13が2人、12が3人、11が1人に10が1人……」
「もういい、そうだな……体力的に余裕があるなら。”桜待ち亭”のバイトを頼んでみるが?」
「バイトだと……しかし、それでは下の年齢の弟妹達を世話する人間がいなくなる」
「幸い、”桜待ち亭”の元々のバイトは近所のおばちゃん連中だ、子供の世話はお手の物だろうさ」
「むむむ……」
ウアガは考え込んでいた。
実際かなり魅力的な申し出のはずだったからだ。
「でも、その子達を世話するおばさん達はお給料もらえないんでしょう? 大丈夫なの?」
「その辺も抜かりはない、依頼人が処理してくれるさ」
「依頼人ってどんな人よ……」
お金持ちってやつだしな、依頼を出したのは奴なんだからその辺はやってもらわねば。
それに、恐らくはおばちゃん連中も、ソレガンも渋い顔はしないだろう。
おばちゃんたちは元々子供好きだし、ソレガンにとっては半月分のおばちゃんたちの給料なんぞはしたがねだ。
「金持ちのボンボンさ、それよりウアガどうだ?」
「分かった、それなら引き受けてもいい。ただ、弟妹達の事は出立より先に現場を見せてくれ。じゃなきゃ心配だからな」
「分かってるさ」
という事で、パーティを伴い、一度”桜待ち亭”に向かう事になった。
やはりというか、ソレガンもアコリスさんもおばちゃん連中も二つ返事で引き受けてくれる。
ウアガはそれを知ってようやく落ち着いたようだった。
そして、一度ウアガの家によってその事を伝える事になったのだが、考えてみればウアガの家に行くのも初めてなら弟妹達に会うのも初めてだ。
どんな生活をしているのか、どういう子達なのか、気にならないと言えば嘘になる。
「あっ、にーちゃんお帰りー♪」
「ただいま」
「今日はお客さんもいるのー?」
「んー、まあお客さんなんだが、今からお前達にも出かける支度をしてほしいんだが」
「えっ、どしたの?」
「おおっ、にーちゃんどっか連れてってくれるのか!?」
「ええっ、本当!?」
「おーい、皆にーちゃんが外につれてってくれるぞー!!」
「やったー!!」
「私お人形が欲しい!」
「新しい服ー!!」
「あまーいお菓子!!」
「格好いい武器!!」
5歳くらいから14歳まで男女各5人づつ10人のウアガの弟妹達。
兄貴に似て体格のいい子もいれば、線の細い子もいる。
リーダーをしているのは14歳の長女でナリム・ドルトネンというらしい。
ウアガが仕事に行っている間は彼女によって家事が成り立っているとか。
もちろん、弟妹達全員がそれなりに家事手伝いをしてはいるが、まとめ役は必要だろう。
なにせ10人なんだから……。
いつの間にやら、俺達も子供らに囲まれて質問されたり攻撃を受けたり泣かれたりと忙しい。
アコリスさん達こう言うのは大丈夫だろうか?
まあ、試してみない事には何ともだな……ともあれ、10人を引き連れて”桜待ち亭”へと向かう事になった。
そして、アコリスさんに話しかけてみたんだけど……。
「えっ、この子たちを預かる?」
「はい、出来ればお願いしたいんですが……」
「うーん、でもねバイトの奥さん達も家の事があるだろうし……」
「駄目ですか?」
「それじゃ、侍女達にやらせようか?」
と、ソレガンから助け舟を出してもらった、しかし、アコリスさんの渋い顔は変わらない。
侍女はそれなりに優秀なんだろうけど、子育ての経験はと問われるとソレガンの侍女たちは若い子が多いらしく難しい。
結局、おばちゃん連中をソレガンが金を出して雇うという形になった。
代わりに、ナリムらの年上の子達が”桜待ち亭”を手伝うのもOKとなった。
もう給料出してあげないんだからとか、アコリスさんに拗ねられてしまったが……。
ともあれ、一応後顧の憂いは払う事が出来たので依頼を受けることにする。
「おっ、ボウズじゃないか。お前達のパーティも仕事を受けることにしたのか?」
「ええっ、ってチャンドラーさん達もですか?」
「おう、一緒に仕事するのは初めてだな」
依頼を受けに受付にやってきたら先客がいた、いつも一階のロビーで酒を飲んでいる人達の一人でチャンドラーさん。
魔法使いだが、見た目はインド人、ターバンと褐色の肌、20cmくらいある長くのばされた髭が特徴的だ。
因みにチャンドラーさんのパーティは6人で、戦士2人、僧侶1人、盗賊1人、魔法使い1人、精霊使い1人という分かりやすい構成のパーティだ。
リーダーはチャンドラーさんで、ランクはDランク、他の人はDだったりEだったりいろいろだ。
俺達のようにFランクばかりのパーティからすればうらやましい限りだ。
因みにランクを上昇させるには半年に一回の試験に合格しなければいけない。
ただ、試験はいきなりAランクを受けてもかまわない事になっている。
もちろん、試験だけでなく実績によっても評価されるので無謀である場合がほとんどなんだが。
実績に余裕のある人は2つくらい上のランクを狙うらしい。
ただし、Sランクだけは例外で、試験によっての昇格はしていない、
実績と名声、そして協会内での評価の3つが揃って初めて認められる一種の名誉ランクのようなものらしい。
実際今生きている中でSランクと評価を受けているのは俺を助けてくれ、魔王を屠った勇者レイオス・リド・カルラーン王子を含む数人だけだ。
同パーティのフィリナ・アースティア司教ですらAランク止まりだった事を考えると難易度は推して知るべしだ。
ともあれ、格上のパーティが参加してくれる事はこちらにとっても行幸だ。
しかし、リスクの分散という意味でもできればもう1パーティ参加してほしいところだが……。
そんな事を考えていると、本当にもう1パーティやってきた。
しかも、こちらにも面識がある……とはいえ、あまりよろしくはない方向性でだが……。
「ほう、お前達生き残ったのか。それもパーティを組んでいるんだな」
「お久しぶりです。その節はどうも”箱庭の支配者”のみなさん」
「ふんっ、契約時に使えなければ捨てて行くと言ったろう?」
「別に恨んではいませんよ、そのお陰で私達もパーティが見つかったんですし」
「まあせいぜい今回も見捨てられないようにするんだな。新米パーティ」
「ッ!?」
そう、”箱庭の支配者”巨漢の戦士バズ・ドースン率いる3人のパーティだ。
悪人なのかどうかはわからないが、新人を育てる気などないいわゆる排他主義に近い存在。
本人の承諾を得ているとはいえ、新人を使い捨ての盾にして森の探索をしている事が多い。
あまりの非情さに嫌われ者になっているパーティである事は事実だ。
メンバーは山賊にしか見えない巨漢の斧戦士バズ・ドースン。
和装の坊主で、いつも笑顔なんだが明らかに宗教も違うアンリンボウ・ホウネン。
赤毛でスレンダーな体型をした170cmもの身長のある無表情な瓶底メガネの女性魔法使いヴェスペリーヌ・アンドエア。
俺達のうち3人までがこのパーティで下っ端をした事がある、かなり因縁の深い相手だ。
そして俺とティアミスは見捨てられた事がある。
ティアミスが息を荒げるのも仕方ない話だった。
「とりあえず3パーティ登録しました、報酬は3等分と行きたいところですが、
”日ノ本”は他の2つのパーティと比べランクが下ですので金貨25枚、他の2つのパーティは30枚という事で良いでしょうか?」
「わかった。すまんな坊主」
「いえ、俺達が格下なのは事実ですし」
「もっと差があってもいいくらいだ、新米に俺達と同等に払うってのは信じられんな」
「バズ・ドースン。嫌なら辞めればいいんだぜ」
「ちっ……」
チャンドラーさんが睨みを利かせ、バズはしぶしぶ引き下がる。
なぜか以前よりバズの反応が俺達に厳しい、以前は放置に近かったというのに。
それに対し、ティアミスはむしろニヤリとした笑いをしている。
「どうしたんだ?」
「あんた……まさか分からなかったの? 以前はあいつら私達の事を道具くらいにしか思ってなかったのよ。
でも、生き残ってパーティを組み、喰らいついてきた。
そりゃ腹も立つんじゃない? ただ潰れて行くだけの新人だと思っていた私達がだんだん追いついてくるんだから」
「そういうことか……」
以前よりあからさまな敵意を向けてくるのは、冒険者になって喜んでいるだけの新人からパーティを組んだいっぱしの冒険者になったからだ。
毎年冒険者になる者は後を絶たないが、辞めるものも後を絶たない、奴らは俺達が冒険者をやめるものだと思っていたという事だ。
あれだけ怖い思いをすれば確かにそうなっても不思議ではない。
わざとやっていたのかどうかまでは分からないが、本当に彼らにとって新人は使い捨てだったのだ。
「次の試験で、きっと追いついてやるわ。待ってなさいよ!」
「出来るものならやってみるんだな。このド新米が!!」
「だからやめろ!! 場合によっちゃ両方とも先任の特権で参加拒否するぞ!」
「くっ……」
「あっ……」
ティアミスもバズも熱くなっている、確かにこれはやめておいたほうがいい。
だが、俺としてもソレガンに頼まれた手前、アコリスさんにも手伝ってもらっている事もあり、今さらやめられない。
それに俺だって”箱庭の支配者”には何も思っていないわけじゃない、下手をすると俺自身が暴走なんて結果になる可能性もあった。
これは胃の痛い護衛になりそうだ……。