*注意:一人称の心の声が俺、言葉は私となっていますが間違いではありません。
そういうものだとご理解の上、よいと言う方だけお読みください。
「むぅ、召喚の際干渉があったのか? まぁ異界の者なら誰でもよいが……」
俺達全員を巻き込んだ妙な落とし穴の出口は、どうやら全員別々の場所だったらしい事は把握している。
落下途中俺以外は気絶していたようだが、俺は気絶せずに済んだ、理由は不明だがこの場合は状況把握に役に立つ。
俺の正面にいるのは人とは言い難い紫色の肌をして角を生やしマントを羽織った存在。
腕が4本あったり、額に第三の目が開いていたりかなり派手な容姿をしている。
ざっと見て、悪魔とか鬼というイメージが近いだろうか?
周辺は、カビ生(む)した城と思しき場所、恐らく築100年以上たっているだろう。
周囲には薄い霧が立ち込め、遠い場所等は判然としないが、山中と思しき地形である。
そして、城やその周辺には明らかに人類が観測した事のない生物がざっと見ても数百匹、大は20mクラスから、小は昆虫並みまでいる。
これが、総工費何億円とかいうドッキリでないのなら(世情の関係上ありえないだろうが)異世界召喚というやつかもしれないな。
激しく胡散臭いが、目の前に起こった事は事実として認めるしかあるまい。
今見ているのが幻覚だとしても、俺にとっては現実なのだから仕方ない。
とりあえず相手がこちらに分かる言葉を話しているのはありがたいと思っておこう。
交渉できるようなタイプではないのだろうことは、俺を無視して何かの儀式のようなものを進める様を見ればすぐにわかるが。
交渉できないタイプだというなら、とりあえず交渉できるように相手の気を引くところから始めるか。
「おい、そこの紫禿げ」
「むっ!?」
「紫は!?」
鬼や悪魔じゃ呼びにくいので、紫禿げと呼んでやることにする。
周囲の正体不明生物らも動揺しているところをみると、彼がこの場にいる中では一番トップなのだという事は間違いないだろう。
「貴様! 生贄の分際で、四魔将が一角、魔界軍師ゾーク様に何という口のきき方をッ!!」
隣にいた、護衛と思しきごつい羽根の生えた二足歩行の爬虫類が凄んでくる。
これはあれだな、芯也の良くやるRPGで言う所のトロルという奴か。
いやまあ、詳しくは知らんが巨人で緑色の肌は確かそんなのだった気がする。
まあ、どっちでもいいが。
「まあ待て、お主今の暴言、もしや我らを計っていたのか?」
「さてな、アンタが紫禿げなのは事実だろう」
「それは違う、我らの頭部には角しか生えぬ故な、角があれば禿げというわけではない」
「ほほう……」
乗って来てくれたようだ、思ったよりも冷静、それでいてこちらに興味も持ってくれたらしい。
ある意味願ったりでもあったが、少々厄介そうでもある。
もともと、地の利は圧倒的に不利、時も稼いだからと言って救援が来るわけでもないだろう。
人の和に関しては、目の前の相手から結ぶ以外手がない、笑えるくらい手づまりではある。
しかし、こういう場でこそ、冷静さと周囲への配慮を忘れてはならない。
今は虚勢でも張らねばならん、中身を悟られるな、相手の興味を引き出し、引きつけた後でしっぺ返しを食らわせてやれ。
こいつらが、俺や仲間達をこの世界に飛ばした事は間違いないのだ。
ならば、俺には当然の権利があるはずだ、踏みつけにしたものを逆に踏みつぶす権利が。
「それで、用件はなんなのかね? お前は今から死ぬ、そのために呼ばれただけなのだから。その上で質問したい事でも?」
「そうだな……この世界でも、話し、目を見、意思を確認する事が出来る。
言葉が通じるのは何か特殊なからくりがあるのかもしれないが……。
法則が似通った世界だということだ。
つまりは私を召喚するという行為の難解さを考えるに複数の効果を一つの場所で行う事は出来ないだろう。
この怪しい落書きが私を呼びだしたものであるのは間違いあるまい。
ならば俺を殺すためには、また別の場所に移す必要があるわけだな?」
「そうだ、生贄をささげる祭壇はほれ、この城の一番高い塔にある」
「なるほどな」
今の受け答えだけでかなりの事が分かった。
まず、この落書きは俺を召喚することしかできない。
俺を殺すには祭壇のある塔の上まで行かねばならない。
俺はなんとかそれを阻止するなり、逃げ出すなりしなければならない。
しかし、奴らは皆かなりの強さを持っているだろう、中でも、俺を呼びだした魔界軍師とやらは飛び抜けて強力そうではある。
縛られてこそいないが、空を飛ぶ怪物もいる、身を隠すのはあまり得策ではないだろう。
となれば、仲間割れを誘うか……いや、魔界軍師のいる側があっという間に制圧してしまう公算が高い。
それでも、時間を稼ぐ事は出来るか……。
だがこの地形……なるほど、不可能ではないかもしれん。
問題は飛行するタイプの怪物をどうするかだな……。
「覚悟は決まったか?」
「ああ、そうだな……しかしいいのか? お前の言う儀式とやら、昼間でも問題なく使えるのか?」
「夜を待つことになる、先に塔の祭壇にお前を縛りつけてからな」
「それはそれは、結構なもてなしだな」
「はぁはっはっは、生命の危機だというのに随分ひょうひょうとしたものではないか、気に入ったぞ。
しかし、生贄は異界の者以外では勤まらんからな。残念だが交代は出来ん」
「ああ、わかっている」
夜、となれば怪物の何割かは視界が利かなくなるだろう。
俺自身も危険が付きまとうが、それは仕方ない、見つかって確実に殺されるよりはましだろう。
後は、物理的拘束を受けないようにせねば、かなり問題が残る。
「だがお主のその目、まだ諦めておらぬものの目だ、おもしろい、どうやって脱出するのか、楽しませてもらおう」
少し警戒させてしまったか、怯えたふりでもしておけばよかったな。
だが幸い、仕込みのほうには気が付いていない様子、
俺を召喚したらくがきの一部がまるで液体を拭ったように滲んで消えている事には……。
それからしばらく、城内を歩き回り、螺旋階段を延々あがって、どうにか祭壇のある場所まで来た。
祭壇は今までと比べて荘厳な雰囲気があった。
彼らが崇める神なのだからラヴクラフトの作り出した神話(クトゥルフ神話)の神々のようなものだと思っていたが、
どうやら違うらしい、見たところ阿修羅のような、三面六臂の神のようだ。
面も正面が怒り、右側が悲しみ、左側が笑いと本来のものとは配置こそ違っているが良く似ている。
腕に持つのは、右が剣、槍、弓、左が盾、杖、本という構図。
ファンタジー世界故なのか、杖や本は戦闘向きではない気がするが……。
それとも、戦うだけの神ではないという事か。
まあ、そんなものはどうでもいい。
生贄にされる気などさらさらない俺だが、左右には大物の怪物が2体俺を挟んで立っているせいで動きづらい。
ただ、先導していた魔界軍師ゾーグは祈祷を始めている。
俺を縛りあげる前に、一度祈祷をしておかねばならないと言っていたな、今はその最中なのだろう。
となれば恐らく、まだ時間がある。
この祈祷で殺されるという事はあるまい、ならば今が仕掛け時ではあるが……。
「お前達は、軍師の護衛かなにかか?」
「「……」」
二体は射殺すような眼で俺を見つめている、話しかけるなという事だろう。
こういったアプローチはだめか。
猿芝居に打って出る事も出来るが、外した時が痛いな。
今俺が出来る中で、奴らの動きを止める方法があるとすれば、それは心理戦しかない。
しかし、そのためにも仕込みをする必要がある、奴らに嘘を信じ込ませる必要が……。
そうか、そうだな。
「お前、余計な事をするなよ。その場で殺すぞ」
「出来るものならやってみたまえ、私を殺せは儀式とやらはできんぞ?」
「クッ!!」
こいつらが馬鹿で助かった、魔界軍師ゾーグは祈っていて俺達の会話が聞こえているかも怪しい。
2体のトロルには判断がまともにできていないという事だろう、俺を殺せなくても腕や脚を折る程度の事は出来るはずなんだがな。
だが、俺が不利であることには変わりない。
縛られてこそいないが、俺を監視する2体の怪物、前には祈りを続ける魔界軍師ゾーグ。
そして、階下には100を越える怪物がひしめいている。
その上城やその周辺も含めればその数を数える気にもなれない。
この状況で生き延びるには、まずこのゾーグの影響圏から一度脱出しなければならない。
それで絶対解決するとは限らないが、状況が変わらなければ殺されるだけだ。
勝利のためには、最低限相手の情報とそれに対応できる情報が必要だ。
物量、力等もあれば言う事はないが、情報で相手に圧倒されている現状ではまず勝ち目がない。
「所でお前達、私の脇でずっと立っているが退屈ではないのか?」
「「……」」
「そうか、言葉もきけないほど退屈か、ならば退屈を紛らわせてやろう」
そう言うと俺は背広のポケットに入れていたライターを取り出す。
そして、これも背広の懐に入れていたウィスキー、そう俺はあの時、前の店で飲んだ酒を持ち歩いていたのだ。
それを2体にぶっかける、思わず何だというふうに顔を庇う2体に向けて、
反応を返す前に更にポケットから取りだしたティッシュ数枚に火をつける。
火の子は周辺に飛び散り、酒のかかった2体に燃え移る。
俺はそのうち一体を蹴り飛ばし、ゾーグのたてまつっている祭壇に突っ込ませた。
元々祭壇は石でできているが、古くなっているため、木の蔦等が巻きついている。
生木には流石にすぐには燃え移らなかったが、枯れているものも多く結果的にこの部屋そのものが火に巻かれることとなる。
奴らがどの程度怪物かは知らないが、流石にすぐさま動く事は出来ないだろう。
俺は、騒ぎを聞いて駆けつけてきた階下の怪物たちをやり過ごすため、窓から外に出て塔の天辺に登る。
すると、脱出を知ったのだろう、空を飛ぶ怪物たちが俺に向けて迫る。
「しかし、ここまで現実離れしていると、呆れるよりも感心するものだな」
「クェェェ!!」
「ギャオォォォォ!!!」
「キサマ! ヨクモゾーグサマヲ!!」
鳥型、虫型、悪魔型、色々いるが、俺は鳥型に目をつけた。
理由は簡単、一番素早く飛んでいて、体躯もかなりの大きさだからだ。
「クェェェ!!」
そして、2度目の攻撃の時、俺は出来るだけ引きつけてから相手の背中に飛び乗る。
3m以上の体躯、翼を広げた状態では8mを超える。
俺は、その上に座り脅しをかける。
「鳥というものは炎に巻かれるとどうなるんだろうな?」
俺はライターでティッシュに火をつける。
鳥の上であるため、風が強くなかなかつかなかったが、それでも一瞬でも炎を現出させることができた。
「さて、俺の言う事がわかるか?」
「クッ、クエ」
風の壁の中音が聞こえにくくなる状態であるのに、鳥の弱気になったような鳴き声が聞こえる。
どうやらおおよそ問題ないようだ。
振り落としにかかっても、俺が炎を出す方が早いと思ったのだろう。
実際、羽根の中にライターを突っ込んで火をつければ風の影響は受けにくい。
「分かればいい、さて、とりあえず奴の影響のないあたりまで飛んでくれ」
「クエ」
鳥は少しためらったものの、
追い付いてくる悪魔型や虫型が俺を攻撃するために鳥を巻き込みそうな勢いで攻撃してきた事におびえ、俺の提案をのんだ。
鳥は他の2匹の追随を許さないスピードで飛ぶ。
俺の感覚で約30kmほども飛行しただろうか、鳥はだんだんと速度を落とし、森の中に突っ込むように地上に降りた。
背中を降りて周りを見回すと随分先ほどとは違っている感じがした。
とはいえ、知らない場所には変わりないが。
「ここならばもう追ってこないのか?」
「クェ」
「ふむ……」
この鳥が俺の事を騙している可能性は否定できない。
しかし、この鳥がそこまでの知能があるのかと問われると否定の言葉が浮かぶ。
今までの行動から察するにせいぜい幼稚園児から小学生の間くらいあればいい方だろう。
魔界軍師とやらも、部下の知能が低いのでは作戦どころではないだろうな。
もしかして、だから俺のようなのを生贄にしても力が欲しかったのか。
まあ、今のところは何にしろ情報が不足しすぎている。
そもそもここはどこなのか、誰かに聞いてみたいところだ。
「お前達何者だ!?」
「ん?」
「ここをアルウラネ様のご所領と知って入り込んできたのか!!?」
これはまた、暑苦しいタイプのようだな、見た目は女性のようだが背には黒い蝙蝠の翼をもっている。
髪の色は薄青い銀髪、さらに瞳が真っ赤に輝いている。
そして、簡易的なものだろうが胸と肩、腰等を鎧で保護している。
武器は騎士槍か、丸盾とそして羽根と考えれば攻撃法等知れている。
急降下してブスリと言うところだろうな。
俺は敵意に対しては敵意出返す主義なので、相応の報復をしてやろうと鳥の背に飛び乗りかけた所で、頭の中に直接声が響く。
『お待ちください異界の方』
「む?」
『カルネの無礼はお詫びします。どうか許してやってくれないでしょうか?』
「……どういう意味だ?」
「そうです! こんなどこの者ともしれない……」
『カルネ……』
「はっ!! 申し訳ありませんでした!」
声は女のものだったが、近くに姿はない。
騎士と悪魔娘の中間のようなのはカルネというらしい、彼女はどうやらそのことには驚いていない。
俺は首をかしげる、もしや耳朶(じだ)に直接振動を届けることができる何かがあるのだろうか?
それはまだ俺達の世界でも確立されていない技術だ、もし持ち帰ればノーベル賞ものだな。
と、考えがそれてしまったな。
しかしこの女、カルネとやらにとって絶対に近いものであるのだろう。
なぜならば、脅す言葉にもまったく力がなかったからだ。
脅すまでもなく畏まるのが分かっているからこそあれで成立する。
よほどの力量差か、格式差がなければこうはいかない。
『よろしいでしょうか?』
「ん?」
『私アルウラネと申します。貴方様のお名前をお教え願いたいのですが?』
「駄目だな、名乗りが欲しいなら俺の目の前に現れてから言え」
「貴様アルウラネ様に何と言う事を!!」
『カルネ、よいのです。確かにこれは私が礼を失していました。
ですが申し訳ありません。
私はこの場で貴方に顔をお見せする事は出来ません。
出来れば私のいる場所までご足労戴けないでしょうか?』
「条件にもよるな」
「よくもぬけぬけと!!」
『来ていただけるなら、今後の安全は私の出来うる限り保証します。いかがでしょうか?』
「……わかった、いいだろう」
『では、カルネに案内させますので、私の住み家までいらしてください』
警戒する心がないわけではない、だが先ほどと同じ理由で情報不足を補う必要がある。
最終的には他の4人と合流しなければならない、そのためにもまずこの場で生き残る必要がある。
そういえば、あの魔界軍師ゾーグとかいう男、違う誰かを呼ぶつもりだったような事を言っていたな。
だとすれば幸いな事だ、少なくとも生贄にされそうになって生き延びられるのは5人中でも俺か英雄だけだ。
他の三人が当たれば死んでいた公算が高い。
そう思えばここに来た事はそれほど悪くはないとも思える。
ただ、他の4人も皆過酷な環境にいる可能性を否定する事も出来ないが……。
俺に出来る事は目の前の現状を打破するために情報を集めるしかない。
それゆえ、俺は悪魔騎士(?)カルネの案内を受け、森の中に存在するかなり大きな屋敷へと案内された。
しかし、俺が案内されたのは屋敷の中ではなく、屋敷の中庭だった。
そこには、血のように赤い髪と、少し緑色に近い白い肌を持つ中学生くらいの少女が白いワンピースを着て座っていた。
どこか不健康そうに見える肌色ではあるが、表情は特に曇りも見られず疲れ等も感じさせない。
もっとも、目の前の少女がまともな存在なのかはわからなかったが。
「いらっしゃいませ、お迎えに上がることが出来ず申し訳ありません」
「いや、この世界に来て話をしようと言ってきたのはアルウラネさんだったか、貴方がはじめてだ」
「そうですか、それは光栄ですわ。異世界のお方」
「おお。そうだったな、まだ名乗っていなかった。
私の名は石神龍言(いしがみ・りゅうげん)。お見知りおき願おう」
「なれなれしくするな! アルウラネ様は魔界の貴族であられるぞ! 本来は四魔将の一角を担っておられるはずだったのだ!」
「四魔将? そう言えば、あのゾーグとかいう怪物も言っていたな」
「あら、怪物は可哀そうですわ。我らは姿形も能力も様々なれど、魔族という一種族にすぎません」
「魔族? それはまた……」
俺の知らない世界だ、そう言う事もあるのだろうが、言葉が分かる事といい、魔族等という俺達の世界にもわかる種族名といい。
まるで、この世界が俺達の世界と交流でもあったようなおかしな話だな。
「理解いただけまして?」
「そうだな。先ほど言った四魔将というものについて聞きたい、いやもっと総じて、出来れば魔族という種族について」
「魔族……そうですね、魔族とは機能化を進めた種族の事です」
「機能化?」
「そうです。我々は目的を持って進化した種族なのです。
全体的には人類のような種族と同じ、ですが、個々は人のように何にでもなれるという訳ではありません。
生まれ持った資質が比べようもなく違いすぎるので、例え他の事をしようとしても上手く行かない。
それくらいにそれぞれが特化しているのです」
「なるほどな、だが多様化も進んでいるようだが?」
「混血も最近は多いですしね、ですが純粋な者ほど力が強いのも事実なのです」
「ふむ、例えばアルウラネ殿のようにか?」
「はい、私も純粋種の一つです。強力ですが特化が過ぎて一つの事しかできません」
「その一つとは?」
「森を守る事です」
「森? この周辺の森のことか?」
「はい、良く見てください」
アルウラネは立ち上がるとスカートの足の部分をまくりあげる。
その下から現れたのは、足……ではなく、まるで植物の根のようなものだった。
腰から下が木になっているとでもいうような……。
まさか……。
「はい、貴方とお話している私はここにいますが、
私はこの森全てに根を張り、そして枝葉を広げています。
ありていに言えば、この森こそが私なのです」
「なんという……」
「お話のついでですが、私がお迎えにあがれなかった理由お分かりいただけましたか?」
「ああ……しかし、枝葉は動かせないのか?」
「動かす事は出来ますし、いろいろと便利な使い方もありますけど、動かさないほうが自然じゃないですか。
不気味な森なんて嫌ですしね」
そういって、また椅子(?)に座ったアルウラネはほほ笑みながら言う。
なるほど、あの鳥がここに連れてきたわけだ、つまり、ゾーグに対抗できるほどに強力なのだろう、このアルウラネは。
もちろん、罠の可能性も全くないではないが、あの鳥の単純さはむしろ信用できる。
「後は……そう、四魔将でしたね。こちらは単純な話、役職です」
「ふむ……偉いのか?」
「はい、我々魔族の階級制度は大まかに言って5つ、
一つ目、知能が低く繁殖能力が高い下級魔族。
二つ目、知能が高く人型の者が多い中級魔族。
三つめ、特に特化型の行き過ぎたもの、中でも戦闘力が高く寿命の長い存在達は貴族とも上級魔族とも呼ばれます。
これらの階級は本当に種族的な特化のせいで分化した小種族を大まかにまとめたものと思ってもらえばいいですね」
ふむ、軍体生命であるということか、アリのような一つの命令で全員が動くという事か?
確かに、ゾーグにしろアルウラネにしろ、自然に他の魔族を従えている。
そして、仕えている魔族はそのことに疑問を持っていないようだった。
コミュニティごとに一つの生命だと言われれば確かにそれも納得できる。
「ふむ、では特にどれが偉いというわけではないと?」
「いえ、貴族は基本的に戦闘能力が高く、寿命も長く、そのせいで知能も高いため大抵は人間で言う領主のような仕事をしています。
かくいう私もこの森の領主のようなものですね」
「それで四魔将というのは?」
「領主達を監視し、時に束ねて軍として使う役職です」
「将軍職という事でいいのか?」
「いえ、政治的な事もしていますので、官僚でもあります」
「となると」
「四魔将の上に立つのが魔王、我々が頂く王という事になります。
因みにカルネは中級魔族、貴方が乗ってきたロック鳥は下級魔族に属します」
ふむ、基準は知能と戦闘力という事なのか。
特化といっても、それぞれが特殊な環境に対して有利不利を持つという部分は大きいが、同時に戦闘特化の者が多いのも事実。
つまりは、魔族という種族全体が何らかのものと戦う事を前提としている?
いや、理論が飛躍しすぎだ、そもそもそういう考え方自体が俺に教えているアルウラネのものなのだから、
全てが信用できるわけではない、出来れば別の立場の者からも反証を聞いておきたいところだが……。
ともあれ、重要な事項はあと2つだけ、それを聞いておかねば始まらないだろう。
「アルウラネ、貴方は確か俺が異世界の者だと知っているふうだったな、俺達がなぜ召喚されたのか知ってるのか?」
「はい、ある意味で偶然、ある意味では必然の出来事ではあったのです」
「偶然であり、必然?」
「偶然であったのはその時期、貴方達は全く違う陣営に属する召喚魔法を同時に受け散り散りに飛ばされてしまいました」
「召喚魔法……あのらくがきか……しかし、別々の勢力?」
「はい、この世界にも人族はいます。そして大陸を2分している。
かれらは、開拓という扱いで魔族を駆逐し勢力を広げています。生きるため、増え続ける人を支えるため仕方ないのでしょう。
しかし、魔族もまた生きている。
ですから、それぞれの生存権がぶつかり、戦争が起ころうとしています。
必然とはこの事、つまり、我々は緊急の事態に対処するため藁にもすがりたい気持であると言う事なのです」
「止める事は出来ないのか?」
「両方の勢力をまとめる存在がいればあるいは……。
しかし、魔王様は魔族達に鬱積し貯まった怒りを受け止め、一度戦火を開いて魔族の力を見せつけるという手段に出ました」
「……」
「魔王様は元々反戦派でしたが、四魔将や貴族たちの言葉に押される形となりどうしようもなかったのでしょう。
そして、魔王様は人族の勇者に倒されました」
「なっ!?」
「人族は安心したでしょうが、戦争が起こる可能性はむしろ高まりました。
何故なら、戦争を主張していた四魔将が現在実質的TOPになったからです。
そして、大部分の貴族もそれに賛成しています」
「貴方は違うのか?」
「私は彼らが私の森を侵さない限り中立です。何より根を張りすぎて私はこの場から動く事はできません」
「なるほど……だが、召喚に関してはなぜ知った?」
「異世界の者を召喚する魔法は魔力の高まりが独特ですから、そして私は他に4つの魔力の高まりを感じていました。
残りは全て人族の領域からでしたが……」
「そうなのか……」
つまりは全員が全員別々の場所に飛ばされたという事だ。
だが、幸いにして魔族側に飛ばされたのは俺だけだったらしい。
恐らくだが人族側ならもう少しだけマシだろう。
そう信じるくらいしか安心材料はなかった……。
「さて、ここからは私のお願いと言う事になるのですが……」
「確かに、十分質問に答えてもらった……。今までの安全も含め、対価として相応しいと判断できる範囲でなら協力しよう」
「対価だと! ゾーグから庇ってもらっている分際で! 一生お仕えしても足りないくらいだろう!」
「ここに来たら安全は保障するとアルウラネ殿は言っていた、つまり対価は払っている計算になるが?」
「ぐっ!!」
「カルネ落ちつきなさい」
「ですがアルウラネさまぁ……」
「もう、甘えん坊ですねカルネは。いいですか、彼にとっては私も魔王も等しくこの世界の住人に過ぎないのです。
階級を振りかざして脅す等という野蛮な事は、その辺のオークやゴブリンらの所業と同じようなものですよ?」
「う”っ……」
アルウラネに諭されたカルネは俺をジト目で見るが、それも注意されて余計不満なようだ。
恐らく今までこの森でアルウラネに特別可愛がられているという自覚が合ったのだろう。
そのせいで余計に俺と言う異分子が邪魔に思える。
アルウラネに対等に扱われている俺が気に入らないと言う事だろう。
長居は不味いかもしれないな、まあもともと元の世界に戻るためにも、人族の領域まではいかねばならない。
他の全員がいるのなら、こちら側には用はないのだから。
「途中でしたね」
「ああ」
「私の頼みは、貴方に魔族と人族の戦争を止められるだけの大三勢力を作り出してもらう事です」
「は?」
「このまま戦争になれば、この森にも戦火が及びかねません。正直それは私の望むところではないのです」
「それは分かるが……何故俺に?」
「理由はいくつかあります。
まず第一に偶発要素もあるにしろ貴方は自力でゾーグの領域から逃げ出しました。
これは、凄まじいと言っていい事実です。私は動けないので省くとしても、
体力的、運動能力的に優れているカルネでも恐らく不可能です」
「アルウラネ様!?」
「貴方はいい子よ。でも、貴方は戦士、軍師や君主の力は持っていないわ。
だけど、石神さんはその要素を幾つも持っている。
少ない力でも相手を圧倒できる手段、例えば、今この場で私と敵対しても勝利しうる考えを幾つか既に考えているでしょう?」
「そうだな、無いとは言わない、ただ、貴方の使うだろう魔法がどんなものかまだ分かっていないのが不安要素だな」
「そこを買っているんですよ」
そう言って、無邪気に微笑むアルウラネ……なるほど、これはかなり策士のようだ。
気を引き締めてかからないと利用されて終わるかもしれないな。
ただ、魅力的な提案である事も否定できない事実ではある。
一つ、軍を好きに使える。
二つ、行動の制限が減る事によりあいつらの捜索が進む可能性が高い。
三つ、帰る手段を探すにも、やはりあのゾーグを締め上げるだけの力がいる。
ただし心配事も多い、まず軍が俺の言う事を聞くのか、規模はどれくらいか、質は。
今から鍛えていても恐らく戦争が始まるまでには間に合わない。
「条件がある、それを飲んでくれるなら考えよう」
「そうですか……、その条件全部飲みましょう」
「な!? 話してもいないぞ?」
「話は後で聞きます。
ですが、たとえどのような事であっても貴方の提案は私の目的から外れる行動についてではないでしょう?」
「それは……」
「ですから、意思表示として先に示しておきます。森を守ってくださるなら、あらゆる協力は惜しまないと」
「……なるほど、まいった」
「そう言ってくださるとは光栄ですわ」
どうやらアルウラネには既にここまでの流れが見えていたようだな。
敵対しなければいいが、そうなれば俺も気を引き締めてかからねばやられる。
策士……まさにこの女もその一人なのだろう。
しかし、妙な事態になったものだ、この先俺は魔族とも人族とも敵対しうる可能性が出てきた。
こんな妙な世界からは離れて早く日本政府の立て直しをしたい所なのだが……。