あれから5日、本来ならまだまだ肋骨が治っていない筈なんだがラドヴェイドのおかげであらかた治っていた。
いつもお世話になっているという意味ではラドヴェイドに感謝したいが、元々の原因を考えると感謝もできない。
(随分とつれないな、我の努力が分からんか?)
「努力って……回復とか毎回魔法唱えたりしてるのか?」
(いや、だが力をずっと使い続けている)
「その努力量は?」
(呼吸するのと同程度)
「阿呆」
ラドヴェイドも最近は無駄に砕けてきた気がしないでもない。
それに、相変わらず戦闘関係は全く口出ししてこない、よほどのピンチの時以外は。
どちらかというと、放任主義で、俺としては楽なんだが……。
こういうもののパターンとしては、何事にも口うるさいと言うのが普通じゃないだろうか?
まあ、ラドヴェイドは俺がどうしようと構わないというようなスタンスだから仕方ないのだが。
恐らくまだ隠し玉もあるのだろうとは感じられる。
というか、本気で復活する気があるのか微妙なところだ。
俺は、パーティメンバーを募集しているパーティがないか、協会に見に行くことにした。
途中で赤みがかった茶髪の少女が走ってくるのを見かける、マーナだ。
元気そうでなによりだと思いつつも、飛びこまれるとよろめいてしまう腰の座っていない俺……。
マーナも最近は魔王に襲われた時の事も殆ど覚えていないようではある。
あの事がトラウマになっていないのは何よりだと思う。
しかし、俺が助けた事は覚えているのかいつも明るく話しかけてくれる。
元気を分けてもらえるようで嬉しい限りだ。
「おにーちゃん、おはよー♪」
「おはよう。今日もマーナは元気だな」
「うん! マーナは元気だよ!」
「それはえらいな」
そう言ってマーナの頭をなでてやる。
こう言うのは小さな子の知り合いがいる人間の特権かもしれないな。
なんというか、癒される。
ひとしきりマーナの頭をなでると一度頭を整え直してやる。
少し乱暴だったせいかマーナは頬を膨らせた。
「もう、おにいちゃんらんぼうなんだから」
「そう言う言い回しはやめなさい」
「?? なんで?」
「いや、分からなければいいんだ。くれぐれもお母さんに聞かないように」
「ふーん……あっ、そういえばとなりのおねえさんがぼうけんしゃになったんだ!」
「ほう、どんな人だい?」
「んーっとね、あおいかみのおねえさん」
青い髪か、色々な髪の色の人間がいるカントールの中でも確かに珍しい部類だな。
まあ、見かけたら挨拶くらいはしてみるか、そう思いながらマーナとひとしきり話し、分かれて冒険者協会に向かう。
冒険者協会は相変わらずにぎやだ……というか、新人が増えたので賑やかになっているというべきか。
半年の間に新人として入った冒険者の半数が辞めるらしい。
体力的にきつい、収入が安定しない、理由は様々だが割に合わない仕事だからだろう。
冒険者の仕事は依頼を取って完遂した時の成功報酬式となっている。
依頼の受注はランク分けされているせいで、割のいい仕事を最初からする事は出来ない。
Fランクのパーティにも参加していない冒険者の出来る仕事は農家の手伝いとか、ベビーシッターとか、迷子の猫探しに、どぶさらいなど。
どれも冒険ですらないし、バイトでも併用しなければなかなか続けていけない。
それも、依頼人に問題ありと思われれば無報酬になってしまうリスクがある。
かと言って、一人でモンスターを狩るなんてことはリスクが高すぎて割に合わない。
俺やウエインのように半年以内にパーティに参加できるほうが少数派なのだ。
だから、少し頭のいい奴は新人だけでパーティを組む、そうすれば新人でもパーティ用の依頼を受けられるからだ。
もっとも、それはそれでリスクが高い、それぞれの能力が全く分かっていないため最初の依頼でさんざんに失敗する事もあるのだ。
そのため、パーティ経験者が一人は参加するように協会のほうから指導を受ける場合もある。
俺が冒険者協会に入ってすぐに目撃したのはそういう光景だった。
「ちゃんとパーティ組んでまっしゃろ! 依頼を受けさせてくれへんつもりなん!?」
「そうは言っていませんが、危険度を考えると最初の冒険だけは一人でいいので誰か経験者を連れて行ってください」
「一度パーティを組んであぶれた冒険者なんてアテになるわけないだろ! それにそんなのが今いるっているのか!」
「いえ……今は……あっ!」
「え?」
新米パーティ相手に四苦八苦していたレミットさんの目が俺に向く。
黒髪の三つ編みとそばかすがチャームポイントな彼女のほほ笑みは俺に”逃げたら殺す”と言っていた。
彼女の場合本当にそれが出来る実力があるらしいので油断できない。
「丁度今いらしたみたいです」
「えっ、誰だよそいつ?」
「”日ノ本”のシンヤ・シジョウさんよ。
れっきとしたEランクだし、今はちょっとパーティが動けないらしいから丁度いいわよね?」
「いや、事情が分からないんだが」
レミットさんが俺に振ってきたのはつまりはこう言う事だった。
新人4人で構成された”先駆者”について行って危険があれば知らせてやってほしいというものだ。
確かに俺達はパーティ用の依頼をここ半年で十件以上こなしているが、まだ新米であることには変わらない。
俺には荷が重いのではないだろうか?
「だが……」
「大丈夫、依頼そのものはそんなに無茶なものじゃないから」
「別に引き受けなくていいんだぜ、お前がどれくらいの実力か知らないしな」
赤毛の少年が俺をにらみつけている、俺より体格がない男は近場にはウエインくらいしかいなかったが、更に低い。
身長も160cmを切っているのではないだろうか、その割に生意気そうな口きき、見た目と相まって悪ガキにしか見えない。
武装から恐らくは盗賊だろうと思った。
背後には3人ほどが俺を見ている、
一人は髭面に重武装の身長の低い男、プレートメイルやバトルアックスを見るにかなりの腕力。
まあ人間ではないのは明らかだ、恐らくはドワーフだろう。
この世界にもエルフやドワーフがいる事は確認している。
ティアミスがハーフエルフなのはもちろん、冒険者は流れ者も多いため色々な種族を受け入れている。
ノームやホビット、中には巨人族もいるらしいと聞いている。
それはともかく、残りの二人なわけだが。
一人は丸い女性、ソール教団の神官らしいのだがあまり節制出来ていないッぽい感じのする子である。
黒髪とつぶらな瞳は可愛いと言えるのではないかと思う。
ただ冒険には向かない体型と、装備出来るものがないのか素の神官服のみと言うのは気になる。
だが、能力がなければ冒険者になれないし、普通にソール教団にいたほうが楽なはずなのだから、ただ丸いのではないのだろう。
最後は……青い髪が印象的な魔法使いと思しき女性。
恐らくはマーナの言っていたおねえちゃんだろう。
今年合格したのが二十人中何人なのか知らないが青い髪の女性が何人もいるとは思えない。
しかし、彼女を見た時ふと思い出した事がある。
俺が告白した事のあるみのりちゃんにそっくりなのだ……。
もちろん、髪の色も違えば瞳の色もアイスブルーだったりするし、細かい点は違う。
だが、顔の造形や体格等はそっくり。
俺は思わず凝視してしまっている自分に気がついた……。
「あの……私が何か?」
「あっ、いや……青い髪の、そう、マーナが青い髪の女性の知り合いがいると言ってたからね」
「え、マーナちゃん……ああ、もしかしておにいちゃんさんですか?」
「そうそれ」
「そうなんですか、それははじめまして。
マーナちゃんの近所に住んでる魔法使い見習いのエリィ・ロンドといいます」
「桜待ち亭に厄介になってる四条芯也(しじょうじんや)。よろしく」
「はい、よろしく」
そう言うと、彼女は花のように微笑む、この笑顔も声も最初にあった頃のみのりちゃんを思い出させる。
正直古傷に響くが、同時に確かに好きだったのだと思いだしてしまう。
俺はその思いをとりあえず振り払い、ざっとメンバーを見る。
ドワーフの年齢は分からないが、残りのメンバーは全員十代後半になるかならないかという若いのばかりだ。
これではレミットさんが不安になっても仕方がないのかもしれない。
「さあ問題ないですね、では先駆者の皆さん自己紹介してください」
「俺はカーツ・ロイノット。盗賊だ、まだテメーを信用したわけじゃないからな」
「ああ」
「ワシはドロゴン・オルダノフ、戦士じゃ。まあ新米じゃからお手柔らかに頼むぞい」
「よろしく」
「あっちはソテーナ・ファ・リルマカ、神官やってますんえ。回復ならまかせといてーな♪」
「頼みます」
さっきレミットさんに食ってかかっていたのはカーツとソテーナか。
注意して見ておかないと行けないな、下手に飛び込んでいくような事をされると困った事になるかもしれない。
後は実力だが、半年程度の経験では深い所まで分かるわけではない。
だが、レミットさんの見立てを聞くとおおよそ予想通り皆まだそれほど経験もなく実力もそこそこ止まりらしい。
もちろんこれから化ける可能性もあるが、
いやだからこそ最初で砕け散ってほしくないというレミットさんの親(?)心なのだろう。
一応互いにそれなりの紹介をしてから、レミットさんに確認をとる。
「それでどんな依頼なんです?」
「南東のほうにあるカラド村の外れで魔物が出たらしいわ。
目撃報告から恐らくはハーピィじゃないかと言う事だけど、田畑を荒らされて困っているらしいの」
「ハーピィが田畑を……」
それは少し変だ、ハーピィは鳥と同じで肉食、基本は小動物を狩って暮らしている。
人を襲う事もあるが、発情期以外で襲うとすれば大抵バックに大物がいると相場は決まっている。
だがそれでも、家畜を襲う事はあっても田畑を荒らす事は考えにくい。
まさか草食性のハーピィが突然変異で生まれたりもしないだろうが……。
「それは私もおかしいと思っているのよ。だからもし、ハーピィの背後に何者かいるようなら報告のみで達成とします。
それ以上はおそらくDランク以上の仕事になるでしょうから」
「なるほど」
「でも、その可能性は低いんじゃないかと思うの。田畑を襲わせて何か得るものがあるとも考えにくいしね」
「確かに、行ってみない事にはわからないか」
ともあれ、色々あったので明日早朝にカントールの南門前で待ち合わせる事にして一度解散する。
俺は”日ノ本”のメンバーに”先駆者”に一時参加する事を伝えないと行けない。
幸い、ティアミスはまだ協会の医務室にいたのでさっさと済ませることができた。
ニオラドは家で薬草の準備をしているようだったので伝えるだけ伝えて後にし、
ウアガの家に行ってみると本人は既に個人用の依頼を幾つか引き受け走りまわっているそうだ。
長女のナリムが応対してくれたのだが、やはり良くできた子だ。
9人の弟妹達をしっかり監督してしかも、礼儀正しく、近所づきあいも基本的に彼女がしているらしい。
俺が14歳の頃の事を考えると凄まじい違いだ……。
「あの、兄に伝言でしたら承りますが」
「ああ、俺一時的に別のパーティに参加するから、恐らく一週間くらいだけど、伝えておいてくれるかな」
「はい、分かりました」
「おお、浮気だ!」
「別のパーティに参加だって!」
「ばっかだな、だまって土産物だけ頼んでおけばいいんだよ!」
「こら! あんた達変な事は言わないの!!」
「ははは……、土産物とりあえず用意するように努力する」
「絶対だぜにーちゃん!」
「よっ、あんたが大将!」
「ねーちゃんを嫁にくれてやってもいいぜ!」
「ばっかだな、ねーちゃんはレイオス様のファンだろ?」
「でもレイオス様とけっこんできるわけねーじゃん」
「そりゃそーかー」
「……コラッ!!! あんた達! ちゃんと家事の手伝いやったんでしょうね!?」
「ひぇ!?」
「ねーちゃんがおこった!?」
「逃げろーーーーーー!!」
「元気な子達だね……」
「本当にすみません……」
ナリムは顔を赤くしてうつむいていた。
まあ、そりゃそうだろうな、プライベートを赤裸々に語られれば誰だってそうなる。
俺は適当な微笑みを浮かべつつ、その場を後にした。
それから帰って”桜待ち亭”を手伝いながらアコリスさんにも伝えておく。
そうして翌日……。
俺はカントールの町の南門へ来ていた。
そこにはしかし誰もいない……。
これは一体……。
そう思っていると門番の人に話しかけられた。
「兄ちゃん誰か待ってるのかい?」
「ええ、新米4人組のパーティなんですけどね、赤毛の小柄な男と青い髪の少女、体格のいい僧侶とドワーフのいる」
「んっ? その組み合わせの4人なら昨日の夕方もう出て行ったが? えらく揉めていたのを覚えてるが……」
「なっ……あいつらまさか……」
俺を置いたまま依頼を果たしに行ったっていうのか!?
自分たちだけで解決できれば評価も上がるだろうって考えなんだろうが。
ちょっと考えれば協会の意向を無視した罰則が科される可能性のほうが高いと気づくだろうに……。
俺は急いで村へと向かうことにした。
幸い街道はあまり人の行き来はないようだ、カラド村への地図もある。
街道は普通に歩いて2日の距離、走りづめなら十分追い付けるはず。
ラドヴェイドのスタミナ補正に頼りっきりになるだろうが、俺はひたすら走ってカラド村を目指す事にした……。
結論から言えば、半日で追い付く事に成功した。
昨日出てから10時間ほど、どうせどこかで野宿しなければならないんだから、
実際のところ4〜5時間しか歩けない格好だ。
俺も筋肉痛で動けなくなっても仕方ないので全力ではなかったが、十分追い付ける範囲だったわけだ。
しかし俺は追い付いた事を示すのを少しためらった。
理由はあいつらのパーティにもう一人参加者がいるからだった。
俺は街道から少し離れた物陰から”先駆者”たちを追い抜き事情を知るため、隠れて情報を探る事にした。
(一時的に聴覚を鋭敏化させるか?)
「そんな便利な事が出来るのか?」
(あれから3カ月の間に何匹魔物を狩ったか覚えているか?)
「多分20ではきかないだろうな」
(そう言う事だ)
「わかった、頼むよ」
(うむ)
答えて俺は、随分と殺しに抵抗がなくなっている事に気付く。
これでいいのだろうかと迷いは常にあるが、だからと言って今さら後に引く事も出来ない。
今さら止まれるほど俺は融通のきく人間じゃない。
流石に人殺しはまだ抵抗があるが、魔物を狩る事をためらうのはもうやめた。
この先どうなっていくのか自分でも怖いと思う。
しかし、そんな事は頭から締め出し聴覚と視覚に集中する。
もう一人に普通に声をかけるべきかと思わなくもないが、2点気になる事が合った。
一つは俺を置いて行ったのに人数が合っていると言う事は、俺の代わりに連れている可能性がある点。
もう一つは、その男が胡散臭い感じのする男である事、さっきから何かにつけてパーティメンバーに殺気にも似た気を送っている。
おそらく脅しつけているのだろう、確かに荒事は得意そうだが冒険者というよりヤクザに近い。
俺が待ち伏せしたのはちょうど山間の道になっている所で、少し上の崖に潜む事にした。
(では開始するぞ)
「ああ、頼む」
5人が俺のいる場所の下の道に近づいてきた。
視覚的には点のようなものだが、ピンポイントで声を拾っているのか雑音もなくクリアに聞こえる。
「やあ、良かったなあ自分ら。このSランクの勇者レイオス・リド・カルラームと一緒に行けて」
「光栄っす!」
「確かに強そうではあるのう」
赤毛少年カーツとドワーフのドロゴンは肯定的な意見を出しているようだ、確かにそこそこ強そうではある。
ドロゴンのほうは分かっているようでもあるが、カーツは明らかに目が曇っている。
レイオスとあの男では似ても似つかないだろうに……まあ、鎧は青く染めているようではあるが……。
あの飾り付けのけばけばしい大剣はなんなんだ……明らかに手作り臭がするんだけど……。
だいたいカルラームって名前間違えてるだろ、カルラーンだよ。
って、それともばれたときの言い訳用か?
「なぁ、あのおっさん本当にレイオスやと思う? あっちはとても思えんのやけど」
「分からないけど……そんな人が私たちの冒険を手伝ってくれる理由がないと思うけど……」
「ああ? なんか言うたか?」
「「いえ、何も……」」
「そうか……口には気をつけんとあかんでー」
しかし、ソテーナやエリィはどうやら否定的な意見のようだ。
まあ確かに、あれじゃあな……というか、あのヤーさんみたいなパンチパーマのオッサンがどう見たら勇者に見えるんだか。
いやまあ、人間見た目じゃないが明らかにあの態度でわかるだろうに……。
それともう一つ、同じ関西人として言葉が少し違うだけで結構違和感があるのが困りものだ。
恐らくは彼らも関西弁を話しているわけではないんだろうが……。
エセ関西人に見えてストレスがたまる……。
(詐欺か、人族は魔族よりも奸智に長ける傾向があるな)
「基本的に新人は何も知らないから、カモにされやすいんだろうな。俺も人の事が言えるほど知らないが」
(まあそうだな、お前はこの世界に来てから我が助けなければ10回くらいは死んでいる)
「褒め言葉と受け取っておくよ。そもそもこの世界に来なければ危険な目にあう事もなかったんだからな」
(ふむ確かにそうだな)
「認めるのかよ……まあいい、まだ事情が呑み込めない点がある、もうしばらく見張るぞ」
(勝手にすればいいさ、我は寝る)
「聴覚のほうはどうやって切ればいいんだ?」
(切り替えはお前の意思でも出来る、まあ頑張ってみる事だ)
「無責任な……ってもう寝たのか!?」
よくわからんが、まあいいか。
それよりも、今はやくざっぽい勇者の偽物が何者かを探ることが優先だな。
門番の人は4人で出たと言っていたんだし、当然奴は町の外で冒険者達を待っていたと言う格好になる。
元々の知り合いと言う事はなさそうだが、そうなるとどうして奴らが出かける時間がわかったのかが気になる所だ。
もし、組織的な何かであるなら俺が出来るのはせいぜいあいつらを連れて逃げる事だけ。
逆に奴一人なら場合によっては倒して事情を聴く事も出来る。
何にしろまだまだ分からない事が多すぎる。
米粒ほどだったあいつらが鉛筆大の大きさに見えるほど接近した時、何かもめごとなのか動きが止まった。
それに合わせて俺はまた聞き耳を立てた。
「ここまでの護衛料をよこせつーとるんや」
「護衛料? 俺達のパーティに入ってくれるんじゃなかったのか!?」
「ドアホウ! おめぇらみたいな新人のパーティになんか誰が入るかいっ!!
ええか、よう聞きや。
世の中そんなに甘いもんやないんや。
Sランクの勇者様が半日も護衛してやったんやで?
金貨100枚くらい安いもんやろ」
「誰もそんなに金なんて持ってねぇよ!!」
「ほう、それは面白い。ワシが相手をしよう戦うのはワシの役目ゆえな」
「はっはっは、お前らみたいな新米が何人でかかっても相手になるかい!」
待て、金貨100枚(1000万円)だと?
あんな新人パーティが持ってるわけがない事は分かり切っているはずだ。
俺達のパーティは割合い連続で依頼をこなしていたが、それでも合計して金貨70枚前後。
それを四人と積立金で割って武装等にかけた費用を差し引くと俺が半年の冒険で稼いだ金は金貨5枚程度だ。
バイトしていなければ生きていけないレベルと言う事だった。
単に多めに言って脅しとして使ってるだけのチンピラなのか、それとも……。
ともあれ、周囲に他の敵が潜んでいないことを確認しながら俺は既に駆け出していた。
「ちっ、騙してたなんてな……」
「最初から気付いておかんか、自分の事を勇者なぞという冒険者がいるか」
「気付いてたんなら言えよ!」
「いや、気付いてないのあんただけやったとおもうえ」
「それよりも、このままじゃ……」
戦闘はドロゴンが前面に出て相手の攻撃を防ぎつつ、隙をカーツがつく、そしてそれを女性2人がサポートする形のようだ。
しかし、連携がまだ出来ていない上に、相手はかなりの修羅場をくぐっているらしく、2人でも押されぎみだ。
ヤーさんの武器は腰から抜いたのはモーニングスター、背中にくくりつけた派手な剣は伊達だったのだろう。
「ギャハハハハッあまい! 甘いぞてめえら! その程度で冒険者やってんじゃねぇ!」
「きっ貴様!?」
「小柄なドワーフが壁になれるかい!」
突然ヤーさんはドロゴンを踏みつけにして飛び越える。
余りの突飛な行動にドロゴンは対処が間に合わずあっさり抜かれた。
「ちぃ、だったら俺だけでも!」
「お前一人で何ができる、このヒヨッコが!!」
モーニングスターをどてっ腹に食らい吹っ飛ぶカーツ、もっとも一応衝撃を逃すため自分から飛んだようではある。
だが、どちらにしろすぐに動けるようなダメージでもない。
2人を抜いたやーさんは後衛である、ソテーナとエリィに向けて襲い掛かる。
先手必勝ではあるが、ようは女性を先に動けなくしておく事でサポートをさせない気だな。
あの男が今まで”先駆者”のメンバーに付き合っていたのは連携具合や練度等を調べるためか。
動いたと言う事は……まずいな、間に合うか!?
俺は岩場を反復横とび風(格好良くはいかない)に駆け下り、街道へと踊りでて息を切らしながらも、
どうにかソテーナとエリィの所まで来ていたヤーさんの真横まで到達した俺は、
剣を抜きざまヤーさんを切りつける。
「ぐぁ!?」
「ふぅっ……ふぅっ……まっ、間に合った……」
「シンヤさん!?」
「あら、流石ナイトさんやね。エリィが最後まで反対しとったの間違いやなかった言う訳か」
「ふん……何者か知らんが……ようワレを傷つけてくれたのう」
「関西かと思えば広島……落ちつかない奴だな」
「? なんのことじゃ?」
「なんでもない、やるならさっさとやろう」
「けっ……」
ヤーさんは不服そうに口を鳴らす。
俺の参戦が計算外だったと言う事だろう。
しかし、よくわからないな……行き当たりばったりにしては何か……自信がありすぎる。
だが今は目の前の敵を倒さないと、このパーティは崩壊する……。
「じゃあいっちょもんだろかい!」
「はっ、そんなデカブツで俺より早く動けるのか?」
ヤーさんは俺が返事をしているのに合わせ攻撃を加えてきた。
振りあげる暇はないと見たのか主に振りまわす様に使っている。
確かに、迂闊に飛び込めば骨まで砕けるだろう。
モーニングスターの鉄球が10kgあればその衝撃は鉄鎧すらへこませる。
だが、攻撃はどうしても振り下ろすか振りまわすことしかできない。
俺はちょうど腕の振りが限界に来た所で飛び込んだ。
むこうは一度振り切った手前再度力を込め直すために一秒以上は要する。
俺が飛びこむには十分な時間だった。
「ちょっ、お前!?」
「チンピラはお帰りの時間だ!」
「なーんてなっ!」
「ッ!?」
飛び込んだ俺に対し、ヤーさんはモーニングスターをそのまま振り棄て、
足から仕込みナイフを突き出して攻撃してきた。
普通なら確かに回避は間に合わない、しかし、俺には殺気を読むというラドヴェイドの力を使える。
蹴りだす前から殺気が足元からダダモレだったので、俺は軽く体をひねって回避した。
「そう言った小細工が効く相手かどうかを見極められないお前の負けだ!」
「グハァ!?」
格好つけてみたが、サポートなしでは負けていたかもしれない。
とりあえず、気絶したのを確認して一息つく。
全く、この世界は皆何がしか強いから困る……。
そう思いつつ、背後を振り向き微笑みかけた。
「大丈夫だったか?」
正直ちょっと格好つけたかったのは否めないかもしれない……。