まずはヤーさんをロープを使って拘束し、”先駆者”の4人と向かい合う。
全員かなり気まずそうな顔をしていた。
まあ、俺を信じなかったくせにこんな奴を信じたのだ、いろいろ含むところもあったと見るべきだろう。
理由はいくつか考えられる、第一に俺は協会からの押しつけだったという事。
こいつらにとってみれば俺=協会に認められていないなのだ。
そして、このヤーさんが勇者を騙っていた事、勇者とか関係なくてもそれなりの使い手だとはわかる事。
つまり、こいつらは村に報告が行っている可能性も考えて、人数合わせとしてこの男を選んだのだろう。
約一名信じ切っている馬鹿もいたようだが……。
「さて、先に弁解を聞いておこうかな?」
「フンッてめえに話す事はねぇ」
「ちょっ……うちら助けてもーたんよ? それも、殺されるところを」
「あんなの俺達だけでも何とかなったんだ!」
「それはワシとしても難しかったであろうと思う。あの時点で、隙を突かれたときにワシらは負けていた」
「……」
「ごめんなさい、私達……貴方がいることで、私達が認められていないんじゃないかって……」
予想通り、俺もそう言う奴だったからわかる。
認められたくて暴走して逆にマイナス点をくらうなんて事はよくある事なんだ。
だが、一人ならまだしもパーティを引き連れていけばその全員に、ひいては冒険者協会そのものにも迷惑をかけかねない。
元々俺は別世界の住人だから、ある意味気楽ではあるが。
それでも、今彼らがやった事がそういう意味において許すわけにはいかないものである事はわかる。
俺から厳しくするなんておこがましいが、同時に見過ごせばこれからも同じ事をする可能性もある。
俺はどうすればいいのか、考えても答えは出ない……。
「そうだな、では一つ賭けをしないか?」
「賭け?」
「なんだそりゃ?」
俺は思いつくまま語りだす。
もう半ばやけくそだった。
「今回の依頼、俺とお前達は別々に事件を追うとしよう。
そして、お前達が勝てば今回の事は不問にする。
ただし、俺が勝てば今回の依頼は俺が単独で達成したものとし、お前達は初めての依頼を別のものでもう一度やり直す」
「なっ!?」
「もちろん報酬も、俺が勝てば俺が全額もらう、お前達が勝てば俺はいらない。丁度いいと思わないか?」
「いくら新米とはいえ四対一だぞ! んなの負けるわけねーだろうが!」
「そうかな? 実際今俺はお前達を助けたわけだが?」
「クッ!!」
「ふむ、面白いのう、ワシも舐められたままというのは気に入らんかったところだ」
「あっちも賛成、なかなかおもしろそうですな〜」
「えっ、えっ……本当にいいの皆?」
「あったりまえだろ!! お前の舐めた態度ぜってぇ後悔させてやる!!」
おうおう、見事に乗ってきたな。
上手くいった、まあ、後は勝とうが負けようが彼らもある程度分かるとは思うが。
勝ったほうがより理解させる事が出来るのも事実、できれば勝ちたいところ。
そして、行きはとりあえず一緒に行くということで合意した。
どっちみち依頼人には合わなければならないのだ、別々に行けばお互いに損である事は明白だった。
その日の夜、村まであと数時間という所だが歩けば明け方まで歩きどうしになるのは目に見えていたので野宿をすることにした。
こう言う時、馬車なら交代で寝ながら進む事も出来るのだが。
まあ、馬も寝かせないといけないので必ずしも出来るわけでもないか。
そして深夜、俺が見張りをしている時間、起きだしてくる影があった。
黒い魔法使いのローブを改造し私服と組み合わせた独特な服装、エリィだな。
彼女は俺の隣まで歩いてくると”隣いいですか?”と確認して隣に座った。
そして、暫くお互いに焚き火を見ている。
俺としては、初恋の傷の事もあるのであまりかかわり合いになりたくないというのが半ば本音であり、
同時に彼女に似た容姿が俺の気を引いてやまないのも事実だった。
「あの……」
「ん?」
「今日はすみませんでした。それと助けてくれてありがとうございます」
「ああ……気にするなとは言わないが、その場のノリで危ない事をする奴は命を落としやすい。
俺も結構そのケがあったからな、仲間に何度も世話になったよ。
だからこそ言える、その仲間に全員が引きずられてちゃ駄目だ。リーダーは冷静でないと死人が出るぞ」
「えっ?」
「リーダー、君なんだろ?」
「あっ、はい……でもよくわかりましたね?」
「まあいろいろ理由はあるが、わりと押しつけられやすい性格かなってね」
「あはは……その通りですね……私、向いてないのに……」
「そうでもないさ、恐らくあいつらは君が本気で声を上げれば言う事を聞いてくれるよ。
皆君の言う事なら正しいだろうって思ってリーダーにしたんだろうしね」
「そう……でしょうか?」
「あの濃いメンツをまとめられるのは君だけだろうね」
「あははは……」
「それに、あの赤毛の少年は君の気を引きたくてやっきになってる」
「えっ……えっ? えぇぇぇぇ!!!???」
「声が大きい」
「すっ、すみません……でも」
「俺が嫌われたのもそれが理由だよ。君を取るんじゃないかッて心配したんだろう」
「取るとか取らないとか……えっ、そんな……」
エリィは顔を真っ赤にして俯いた、焚き火の照り返しの炎ですらわかるんだ、かなりの赤面ップリなんだろう。
しかしま、恋愛に関しては俺に一日の長がある。
なにせ、振られた経験の数と他人の恋愛の機微には無駄にならされてしまった。
腹の立つ話ではあるが……、周囲があんな奴らばかりだとその辺が露骨にわかる事も多い。
だってまあ、5人のうち俺以外は全員モテモテ(死語)だったのだ。
てらちんは言うまでもないが、当然石神だって負けちゃいない、石神はああいったハーレムを作るのが嫌なので振る相手はしっかり振るのだ。
そのせいで怖くて口に出せない娘が多かっただけでファンクラブのようなものは出来ていた。
りのっちは言うまでもない、トップアイドルになるくらいだ男どもは殆ど彼女の事を好きだった。
みーちゃんだって、テニス部をしょってたつ責任感とスポーツ神経、それに頭もよくて健康的な躍動美を持つ彼女がモテないわけはない。
俺の周りはそう言った人々にラブレターを渡すために利用しようと近づいてくる馬鹿共の巣窟となっていた。
いやほんとに、目の前の俺をスルーすることにかけてはあいつら皆共通のプログラムで動いているんじゃないかってほどだった。
おれを郵便ポストかなにかと勘違いしていたなあれは……。
「兎に角だ、明日は全力でやってみろ。それで俺が負けたらお前達の絆はもう十分強くなってるという事だ」
「もし負けたら?」
「その時は、依頼失敗という事でもう一度俺がついて行くよ。こっちのパーティはまだ2週間ほど動けないからな」
「分かりました。明日、全力で依頼をこなします。私達のパーティは即席だけど、気が合う仲間なんです」
「ああ」
「だから、その絆を信じたいと思います」
「立場上応援してはやれないが、全力でこい」
「はい!」
今までの激励で自信を得たのだろう、安心した顔でエリィはテントへ戻って行った。
そして、それを息をひそめて聞いていた赤毛の男の事を俺は意識していた。
途中その話になった辺りで、一気に膨れ上がったのだ、殺気というよりは嫉妬の炎……いや羞恥の炎か。
「カーツだったか? 盗み聞きとは趣味が悪いな」
「ッ!! てめぇこそ! いらねぇ事をエリィに吹きこみやがって!!」
「そのままお前に暴走されても困るからな、いい格好を見せたきゃ堅実にやれ」
「うるせぇ、大きなお世話だ!」
「あんまり大きな声を出すとテントの中のエリィにまで聞こえるぞ」
「グッ……」
「はっきり言うが、お前達のパーティは判断力が足りてない。
それも冒険者としての経験が足りないからというよりは、引っ張って行っているお前が浅慮だからだ」
「貴様ッ!」
「ほら、その程度で怒りだす。お前一人ならともかく、それで他の3人も窮地に立たせるのか?
実際、今回の事も、俺を連れて行かずどこのものとも分からない男をお前が信用した結果じゃないのか?」
「……ッ」
「はっきり言えば、パーティにおいて冷静さを欠くものはお荷物だ。
危険に突っ込まれればパーティも否応なしに巻き込まれるんだからな。
お前、冒険者をやめろよ」
「ッ!! やめねぇ!! やめるわけがねぇだろ!! 俺は、俺にはこれしかねぇんだ!!」
「ならもう少し利口になる事だ。お前のせいで死人が出たらエリィ達もいたたまれないだろうからな」
「へっ……わかってらぁ……」
最初の勢いはもうなく、どこかトボトボと焚き火から離れ、寝袋に戻るカーツ。
かなり心に刺さったはずだ、これからはもう少し気をつけるようになる……と信じたい。
このパーティの行動を見ていて思ったのは、俺より半年後輩という意味の未熟ではなく、年齢的に幼いという事だ。
ぱっと見だが、ドワーフのドロゴンは年齢不詳ではあるが、今までの言動からまだ20歳に到達していないだろうと感じさせる。
魔法使いのエリィはせいぜい16歳、盗賊のカーツは14か15くらい、丸い僧侶ソテーナも16か17だろう。
そのうえ、俺のように普通に教育を受けられるところで育ったわけでもないだろう。
魔法使いとしての教育を受けたエリィはともかく、後はソテーナが教会関係の日曜学校に行っていた程度だろう。
男どもはまともな教育機関にいた事もないかもしれない。
つまり、教える側の人間がいない、若い者だけのパーティなのだ。
俺達のパーティには幸いニオラドがいるし、ティアミスだって本人談ではあるが30歳オーバー。
俯瞰して物を見る事の出来る人間が多い。結局、その違いを補うためによこされたのが俺なんだろう。
とはいえ、俺とて新米には変わらない。
他人の事はよく見えても、自分の事はわからない。
後輩相手で格好つけてみたが、一人で依頼をこなすなんてどれだけ馬鹿なんだか……。
てらちんや石神ならともかく、俺にはそんな特殊スキルはない。普通なら明日は俺の惨敗で終わるだろう。
それに、もしもの時のためにあいつらの監視も怠るわけにはいかない。
いろいろ頭の痛い事が重なり俺はその日睡眠時間をまともに取る事が出来なかった……。
翌日、朝の内に俺達はカラド村にたどり着いていた。
とりあえずはまず依頼人である村長の所へと向かう事にする。
そこまでは5人一緒に動くという協定を既に昨日結んでいた。
村長の家は村の中では小高くなった岡地に立てられていた。
さほど広いわけではないが、確かに他の家と比べればそれなりに風格のある屋敷のようだった。
屋敷では老夫妻と息子だろう恰幅のいいおっさんが出迎えてくれた。
「冒険者協会より依頼を受けてまいりました、”先駆者”のエリィと申します」
「これはご丁寧に、私はこの村の村長をしております。タイゾー・モテといいます」
「それで、ご依頼の件なのですが」
「はい、皆の許可は取っておりますのでまず被害現場へご案内しましょう」
それから俺達は、村長の案内を受けて数か所の畑や果樹園等を見て回った。
確かにどれも大型の鳥の爪跡にも見える跡が残されている。
ハーピィによる被害じゃないかと村人は疑っているようだが、現時点では何とも言えない。
理由はハーピィは鷹やフクロウ等のような肉食だからだ。
もちろん、例外がないとは言い切れない、そもそも俺の知る知識がこの世界に当てはまらない可能性もある。
だがまずは頭の中を白紙にして、どういう犯人なのかは証拠集めが終ってから考えるのが吉だな。
そうして一通りの案内が終ってから俺達は村長と別れた。
そして、一度村に戻ると向かい合う。
「ここからは別行動にする。お互い全力を尽くす事にしよう」
「はい、負けません」
「てめぇのホエズラが楽しみだぜ!」
「勝負では気は抜かん。負けっぱなしは趣味じゃないでの」
「あっちは負けてもべつにいい気がするんどすけど」
「ソテーナ!」
「はいはい」
こうして俺達は別行動に移った。
そうそう、言い忘れていたがあのヤーさん風の男に関しては村で預かってもらう事にした。
柱にでもつないで置けばいいから一日だけという条件だったが、やはり嫌そうな顔をされた。
そりゃそうだよな……。
しかし、常駐の警備隊もいないこんな村では牢屋もない。
手足を縛ったまま馬屋の柱にくくりつけて、食事もトイレも馬と一緒にさせるというある意味かなりひどい扱いを与えることになった。
幸い馬屋の柱はかなり丈夫そうな柱だったので、そうそう逃げ出せないだろう。
ただこの男、詐欺にしては妙にてだれだったのが気にかかる。
それに、抜け目ない男にしては貧乏そうな新米パーティ狙いというのもよくわからない。
これだけで済めばいいのだが……。
「さて、それはそれとしてと……」
俺もそろそろ独自に動かないといけないな。
新米の前でいい格好しようなんて馬鹿のする事かもしれないが。
俺は意外とそう言うのが好きらしい。
まず、あいつらは村の聞き込みに入ったわけだが、俺は畑のほうに戻ってみることにした。
理由は2つ、一つは村の聞き込みも大事だが現場百辺の言葉通り、現場は出来るだけ丹念に調べる必要がある事。
もう一つは格好つけるには同じ事をするわけにはいかない事。
主に後者の理由で俺は畑に戻る。
「さて、まずは被害個所の周辺からだな」
もちろん、被害があった所は重要だ、だから再度の確認もしている。
しかし、周辺にも痕跡があってしかるべきと俺は判断した、理由は簡単。
ハーピィも羽根が抜ける事はあるはずだ、なにより人と同じようなサイズを飛ばす羽根なのだ、
重労働になる以上抜けて生え換わるのも早いだろう。
もちろん他にも、ハーピィが普通の鳥と違い、体が羽根に対して大きいためあまり遠くへ飛べないと言う点もある。
これは、ある程度ニオラドから聞いてきているので間違いはない。
それに被害地域がほんの4〜5キロ圏内なのも予想の範囲内だ。
この村周辺の農地だけでも半径10km以上はあるのだし、隣村には被害が出ていない。
つまり、点を結べばそれだけである程度の絞り込みは可能だと言う事だ。
「みつけた」
鳥のものにしては少し大きな羽根。
これは間違いなく鳥系の魔物が出たと言う事になる。
つまり、担いでいたとかそういう訳ではないと言う事だけははっきりした。
しかし、だからと言って今すぐ乗り込んで倒すのがいいのかどうかはまだ分からない。
農作物を食うハーピィと言うのが本当か確認しないと行けないし、裏があるならその調査はしなければならない。
周辺をくまなく探った結果、一か所目で分かった事はそれくらいだが対角線を結んで一度その中心部も見てみるとしよう。
被害区域の真ん中にあるのは、小さめの山……というよりは丘のようなものか?
かなり大きな木が生い茂っているので、どんな生き物が生息しているのかはわからないが……。
また、北側に抜けるとそのまま谷に入り、その外側は人の未踏区域と言う感じの険しい山岳地帯だ。
山岳地帯から来ているのであればこちらに食いにきている時しか手出しできない。
しかし、丘地にもぐりこんでいるならそれなりに対処法もある。
一応確認するには悪くはない。
だが、下手をして帰ってこれませんでしたなんて事にはなりたくない。
パーティメンバーはいないのだから、慎重にしないとバカを見るのは俺だ。
「つまり、俺自身にリスクが及ばない限りにおいての周辺調査と言う事になるわけだが……」
中に入らないで調べる事が出来ればそれが一番、しかし、そんな事は不可能だ。
だが、中に入れば最悪ハーピィは集団でしたとか言うオチで囲まれる可能性もある。
一度に対処できるのはせいぜいが2匹程度、それ以上ならお手上げだ。
警戒しながら進めばいいというものでもないだろう……ならば。
先にある程度の目星だけでもつけておけばいいと考えられる。
問題は、ラドヴェイドから借りている新たな力、聴力サポートだが、具体的にはどういうものなのかよくわかっていない。
ご本人から確認しておく必要があるだろう。
(ん? 呼んだか?)
「ああ、一つ教えてほしいんだが。聴力の鋭敏化の事について詳しく」
(詳しく……そうは言ってもさほど大したものでもないぞ)
「じゃあ、どれくらいの距離の音を聞けるんだ?」
(基本的には魔力でピンポイントにその場所の振動を拾って、お前の耳元で再現するというものだ)
「と言う事は、どんなに遠くても可能なのか?」
(本来はかなり距離が離れても可能なはずだが今は元の100分の1くらいゆえな……)
「あまり距離が離れると無理だということか?」
(お前が見えている範囲、もしくは魔力をつけた物から数メートルと言ったところか)
「魔力をつける?」
(触れれば少しはつくからな、意識するほどの事でもないぞ。まあ数時間で消えるだろうが)
「なるほど……なかなか使えるな」
(そうか? 人族は発想力に長けているようだ、我らではこうはいかぬ……)
「ん? なんか言ったか?」
(いや……我はまた寝るぞ)
「分かったサンキュ」
なるほど、聴力のサポートはピンポイントで音を拾うもの、目に映る範囲か、魔力をつけて数時間以内なら音を拾える。
ならば、丘地の周辺を回りながら音を拾えばいい、木の上からしか拾えないがそれでも十分だろう。
もちろん、俺に動物の声を聞き分ける特技はない。
しかし、ハーピィの声ならばわかる。
俺が最初にこの世界に来た時、ハーピィに体を傷つけられた事がある。
あの時の女とも鳥ともつかない声なら聞き分けられるはずだ。
もっとも、寝ていたりしたらどうしようもないが。
「ん?」
人の声がする……人数は……よくはわからないがそれほど多くないか。
せいぜい3〜4人くらい……。
話している内容を聞くため、聴覚に集中する。
「にーちゃん、大丈夫かなぁ?」
「仕方ないだろ今さらこの村に受け入れてもらえるとも思えねーし」
「でも……」
「クァッ」
「ああ、わかってるさ……」
「すげーな、にーちゃん。ナフィーの言ってる事がわかるんだ」
「何度も言ったろ、雰囲気しかわかんねーよ。さっきのは慰めてくれてる感じがしただけだ」
「そっかー、俺もがんばる!」
「ははは……あんまり頑張んなくていいぞ。
それよりも……いつまでもこのままってわけにもいかないよな……」
ふうむ、これは……ドンピシャのタイミングだったらしい。
俺にしては運のいいことだ。
流石に俺が聞き耳を立てたのに合わせてという事も考えにくい、俺の事が分かるなら魔王クラスの化け物という事になる。
そういう無茶苦茶を排除して推測を進めるなら、さっきのは恐らく兄弟、そしてナフィーというのはハーピィだろう。
村に受け入れてもらえない云々の語りから恐らく別の村を追い出された少年たちがこの村にいついたはいいが食べ物が尽きかけている。
その補充のために畑を荒らしているのだろう、ナフィーと呼ばれたハーピィは少年たちに慣れているからその手伝いをしていると考えられる。
ハーピィはその辺の動植物を取って食べているのか、それとも一緒に食事しているのか。
ハーピィも親に教えられて肉食になる、もしかしたら最初から育てれば雑食になるかもしれない。
つまり、詳しくは結局接触してみない事にはわからないという事だ。
「だが、一人で上手く接触できるか……」
恐らく、不用意に接触すれば警戒心を煽ってしまう可能性が高い。
興味のほうが上回る形で接触するにはそれなりに穏当な手段というものがある。
俺は一度村に戻り襲われた畑以外であの周辺にある畑の事を聞く。
やはり、相手の住処にいけば戦闘は避けられない。
だが、もし襲撃タイミングをつかめばこちら側からどうとでもできるかもしれない。
それは恐らく”先駆者”の皆も思ったのだろう、俺が聞き込みを始めた頃には畑のほうへ向けて出て行くところだった。
「よう、何かつかめたのかよ?」
「ああそれなりにはな。お前達はどうだ?」
「俺達はもう少しで解決だぜ。報酬は分けてやんねーからな!」
「そうか。まあせいぜいポカしないようにな。お前が一番危ないんだから」
「うっせえ!」
ぽんと、肩に手を置くがカーツに振り払われる。
本当に暴走気質が強いからなカーツは、たった二日の付き合いですらよくわかる。
”日ノ本”のメンバーが聞けば人の事を言えた義理かと言われそうだが。
先輩として格好をつけたい今日この頃なんで許してやってくれないですかね(汗
ともあれ、その後俺も一通りの聞き込みを行うようにしてみた。
さっき話しただろ、と嫌な顔をされる事もあったが大抵は素直に話してくれた。
やはり、目撃情報はほとんどない。
深夜空を飛ぶ影を見たという程度のレベルだ。
一応人に翼が生えたような姿だったという事なのでハーピィだと判断されたのだろう。
つまり目撃者は空を行くハーピィにしか気づいていなかったという事になる。
そして、今までの行動範囲と畑の配置から次狙うだろう畑の割り出しもできた。
後は、あいつらが特攻かまさなければ完璧なんだが……。
「そこまでうまくはいかないか……」
さっき、会話したときに基準点としてはりつけた魔力を通してあいつの暴走コメントが聞こえてくる。
わざわざ言う価値もないが、あいつ本当に学習能力があるのかと疑いたくなる。
「仕方ないな……」
あいつらは丘地の中にハーピィがいるだろう事に目星をつけ、準備等もせずに突撃していく様子だった。
俺だって確かにそう言う事をした事があるわけだし否定もできないが、今の状況ならまだいくつか手もあるだろうに。
追いつけるか……?
「なっ、ハーピィって一匹じゃなかったのか!?」
「ギシャー!!」
「キョェェェェ!!!」
「ナフィー! テムリル! あんな奴らやっちゃえ!!」
「馬鹿っ出てきたらばれるだろ!」
「えっ、少年? どういう事なの!?」
「あっちゃー、めんどくさいことになっとるみたいやね」
「構わん、とりあえずは目の前の仕事からじゃ」
ほぼ最悪の状況だった、もっと穏便に捕まえられるはずだったのに。
怪我人だけですめばいいが……。
戦闘終了までにたどり着くのは不可能に近いだろう。
ともあれ俺は丘地のハーピィ達のアジトへと急いだ……。
しかし、予想外の事態が起こったらしい、俺の耳は驚きの声を拾った。
「なんだっ!? 一体何だってんだ!?」
「まずいわ……、今の騒ぎを聞きつけて、谷向こうにいたトロルがこの丘に侵入してきたみたい」
「トロルだって!?」
「あちゃー、最悪やな……」
「森の木より頭一つ高いようじゃ……斧が届くかのう……」
「ギャヒィ」
「ギョェェェ」
「ナフィー、テムリル。今のうちに逃げるよ」
「ちょっ、待ちなさい!!」
「やだねー」
更にややこしい事態になったらしい。
トロル……さっきの言葉が本当なら3m〜6m級の木々から頭が抜けて見えるレベル。
まあ軽く見ても5m以上の巨体ということだ、そんなのの相手をあいつらだけで……?
……いや、俺だって、というか”日ノ本”のパーティ全員でも怪しい。
仕方ない、優先順位を変更しよう。
@まずはあいつらを脱出させる。
Aトロルが丘を降りる事を妨害する。
Bあの少年たちを見つける。
こう言う感じか。
なんにせよ、トロルと正面からぶつからないで制する方法まで考えないといけない。
ない知恵絞ってなんて簡単に言うが、俺には無理だってーの!
「おい!! お前達大丈夫か!?」
「なっ……てめぇどっかで見張って……」
「はい、今のところは……ですが、トロルが」
「ああ、そのようだな。あんなのの相手はできない。とりあえず一旦撤退だ」
「ちょっとま」
「はい、”先駆者”は撤退します。みんな、急いで! 死にたくないでしょう!?」
「確かにの。もう少し準備が必要だわい」
「あっちはとうに準備OKどっせ」
「あーもう、分かったよ!!」
カーツは不承不承だが、他のメンバーはわかっているのだろう文句も言わず俺に従ってくれた。
正直、この依頼そのものの難度とは別の難関を引っ張り出してしまったようだ。
俺たちが原因でトロルによる被害を村に出す等という事があれば冒険者協会の信頼も下がる。
つまり、冒険者をやめたくなければトロルが元いた場所に戻るように仕組むなり、俺達が討伐するなりしなければならないという事だ。
面倒事はもうこりごりなんだが……なんだかいつもの事のような気がしてくるのが最近の現実のようだった。