ナリタ撤退戦後…
記憶喪失の青年「アスカ」は自分の乗っていた蒼色の無頼(いわゆる専用機)の整備をしていたのだが…。
「やっぱり、無茶させすぎたのかなぁ?まったく反応してくれない…。」
ナリタでサザーランド五機を相手にした後、ゼロの援護に向かった際に白いサザーランドと、白兜の連続で戦った。第四世代ナイトメアフレームのグラスゴーのコピー機である無頼でそこまでもったのだから、それは賞賛に値するものなのだが、アスカは自分が一応借り物である無頼を壊してしまったと思い、無頼のコックピットにもぐりこんでフットペダルの確認をしていた…。
『アスカ、ちょっといいか?』
無頼の通信機から黒の騎士団のリーダーである仮面の男、ゼロの声がした。
彼は、今まで誰にも素顔を見せていない。このことが原因で彼は黒の騎士団のリーダーであるにかかわらず、一部の団員から信頼を得ていなかったのだが、先日行われたナリタ戦でコーネリア総督率いるブリタニア軍に勝利した事により、すべての団員から信頼を得ることになった。
「ん?あぁゼロか…?!」
―
ゴツ!!格納庫中に鈍い音が響いた…。
「痛っ〜!!」
通信に気をとられたアスカは、自分がフットペダルの確認をしている事を忘れコックピットにある角に頭をぶつけてしまった。
『大丈夫か…?』
ゼロが心配した感じで聞いてくる。アスカは灰色がかった銀髪の頭にできたたんこぶをおさえ、海のように深い蒼色をした目に涙を浮かべながら答える。
「大丈…、夫…。」
『本当に大丈夫なのか?』
「大丈夫、大丈夫…。それより何か話があったんじゃないのか?」
『あぁ、そうだ。今からラウンジに来てくれ。』
「…わかった。すぐに行く。」
『医務室に行ってきてからでもいいんだが…。』
「そこまで酷くはないからいいよ。」
頭を摩りながら答える。
『じゃあ、また。』
そう言ってゼロは通信を切った。
アスカは、無頼のコックピットから降りる。すると、完璧な赤色とまではいかないが、朱色がかった髪をした少女、カレンが話しかけて来た。
「さっき何か凄い音がしたけど何だったの?」
「いや…、何でもないよ…。」
「そう?何か頭が腫れてるみたいだけど…。」
そう言いながらカレンは背伸びをして、アスカの頭を”ちょん”と触る。
「―っ!!」
かなり痛がるアスカに対してカレンは…
「頭ぶつけたんでしょ?]
「なんで分かるの…?」
「私も何回かぶつけたことあるから…」
恥ずかしそうに笑うカレン。
「そうだ、ゼロから呼び出しがあったんですって?」
「あぁ、そうだけど…。その様子だと、君もかい?」
「えぇ。みんな来ているみたいよ。」
―ラウンジ
「お、来たな。」
人のよさそうな顔をしている黒の騎士団副指令の扇さん。
「我らがツートップのご登場ぉ。」
そして、チョイ悪な感じの玉城を始めとした黒の騎士団の主な幹部はみな来ているみたいだった。
「なんですか?」
カレンがゼロに用件を聞く。
『先日のナリタでの戦いのことだ。カレン、君と紅蓮弐式がいなかったらあの作戦は成功しなかっただろう。もはや、君のナイトメア操縦技術は皆の認めるものとなった。これからも私の右腕として頑張ってくれ。」
「あ、はい!ありがとうございます!」
『そして、アスカ。君のナイトメア操縦技術には驚かされたよ。私はサザーランド五機を抑えてくれればいいと言ったが、まさか全機撃破して来たうえにあの白いサザーランド、それに、カレンと紅蓮弐式が苦戦した白兜を一機だけで食い止めてくれるとはな…。君のその操縦技術はカレン以上の物かもしれん。そこで、君には戦闘隊長兼作戦補佐の地位に就いてもらい、私の左腕として働いてもらう。』
「戦闘隊長に作戦補佐?」
『あぁ。カレンは私直属の部隊、いわば親衛隊だ。君には実戦段階でのナイトメア部隊の指揮を執ってもらいたい。また、君たちナイトメア部隊は黒の騎士団の槍先でもある。その槍先を生かすも殺すも作戦次第だ。だが、どんな戦場にもイレギュラーはつき物だ。君には指揮を執ってもらうと同時に私の作戦を、現場に合わせ、アレンジしてもらいたい。』
「凄いじゃない。」
カレンがアスカの脇を突く。
「わかった。しかし…。」
『しかし…、なんだ?』
「僕の無頼は調子が悪いどころか動きそうにもないんだが…。」
『そのことについては問題ない。君を戦闘隊長の地位に置くと決めた、とキョウトに連絡したら新しい機体を送って来た。』
「準備がいいんだな。」
『既に格納庫に届いている。カレン。君も一緒に来てくれ。』
「私もですか?」
『あぁ。君の紅蓮に関係のある人物も一緒に来ているらしい。』
「わかりました。」
―黒の騎士団アジト 格納庫
格納庫に着くと、アスカは一人のブリタニア人に話しかけられた。肌の色が黒いのでおそらくインド系なのだろう。
「貴方かしら〜?私の蒼蓮に乗るのは?」
「貴女は?」
『ラクシャータ。紅蓮弐式やこれから君が乗る蒼蓮零式の開発者だ。』
「「蒼蓮零式?」」
アスカとカレンが同時に尋ねる。
「紅蓮弐式のプロトタイプの機体よぉ〜。プロトタイプって言っても紅蓮弐式よりも反応過敏だからさぁ〜。結局正式採用にはいたらなかったのよね〜。」
「ところで、その蒼蓮零式はどこに?」
痺れを切らしたカレンが尋ねる。
『これだ。』
ゼロがひとつのコンテナを指差す。
―ゴオォン…
コンテナの扉が開くと、そこには一機の左腕に輻射波動を装備し、大きな突起が伸びている頭部を装備した蒼いナイトメアが立っていた。
「これが…。」
「蒼蓮零式…。僕の新しい機体…。」
『この機体でカレンとともに黒の騎士団の双璧として、これからも戦ってくれ。」
「頑張りましょうね。アスカ。」
「あぁ。」
「それから、この子にはまだ、とっておきの武器があるから楽しみにしといてね〜。」
「まだ何かあるんですか?」
カレンが興味深そうに聞く。
「零式獅子王刀…、ちょ〜とこれはまだ調整に時間がかかるのよね〜。」
「獅子王刀…、凄い名前…。」
「紅蓮のプロトタイプだからね〜、スペシャルな機体なのよ、武器も含めてね…。」
『では、ラクシャータ。その零式獅子王刀の調整も至急頼む。」
「お任せあれ〜。あ、そうだ。君の血をちょ〜ともらいたいんだけどいいかしら?」
「「血?」」
「パイロットの健康診断ってのもあるんだけど…。君の場合、色々と調べたほうがいいみたいだしさ。血液って情報の宝箱なのよ〜。」
「分かった。頼む。」
「これまたお任せあれ〜。」
―血液か…、何か分かればいいのだけど…。
そう思いながらアスカはこれから相棒となる蒼い巨人を見つめていた。
「これから宜しくな。蒼蓮零式。」
蒼蓮零式とアスカ
この機体とパイロットの出会いがこれからどのような戦いを繰り広げるかは、まだこの時点では誰も知らない……。