共同戦線を張るといっても、やる事は変わらない。
”栄光の煌(きらめき)”のメンバーにやってもらう事は、前回失敗をもとにしての霧の影響範囲外からのサポートだ。
もっともこれは、彼らだけではなく、俺達も内部にいるのは俺と精霊使いのティアミスと、
元々使い魔なので影響しにくい上に元高レベルの冒険者、初級ながら精霊魔法も使うというフィリナの3人だけ。
霧の影響下に置かれてしまう以上安心できるのは精霊使いや、魔族等の影響を無効化出来る存在のみ。
魔法使いでもあまりレベルが高くない場合は霧の影響下におかれてしまうようだ。
だから、結局ニオラドのじいさんと、えせ貴族こと騎士のエイワスは影響外で見張りとなる。
最も、全員含めて11人しかいないのだ、3人が中でいる以上外は8人、それぞれ合図を送る事になっているが、
一人一人別の場所で見張っているとはいえ、完全にフォローできている自信はない。
イカが出現する方角だけでも分かれば追いやすいという事もあるので、配置しないよりはましだと思うが。
「しかし、これだけ被害があっても往来する人数はさほど変わらないんだな……」
「この道を通る商人は持っているお金の大半を金銀じゃないものに変えているらしいわ。
オトリ用にいくばくかの銀貨は持っているようだけどね。
もう被害が出始めて半月以上立っているんだもの、被害にあうのは主にオトリをしてみた冒険者と、
何にも知らずにやってくる国外の人間や情報を無視してる頭の弱い人だけよ」
「ですがティアミス、この国の治安組織はなぜ動かないのです? 国の評判に響くのでは?」
「ああ、フィ……コホン、アルアはこの国に来てまだ日が浅いんだったわね。
被害額が大きくなってはいるけど、持ち歩いているもの、それも金、銀限定。
個々の被害額はそれほどではないわ、あのイカですもの、一度に持ち出せる金もたかが知れてる。
被害にあった中に大商人でもいれば別なんでしょうけどね」
ティアミスは一瞬フィリナと言いそうになってアルアと言いなおす。
フィリナは死んだ事になっているのだから、言えばまずい事になる可能性はある。
もっとも、同じ名前の人がいない訳じゃないだろうから、さほど気にする事はないだろうが。
フィリナはメイクとカツラのお陰で、見た目的には殆ど別人となっている。
綺麗なライトブルーの髪は黒髪になっているし、少し野暮ったい化粧の頬にはそばかすっぽいものも書き込まれている。
見ただけではとても同一人物とは思えない、もっともD、いやEはありそうな巨乳が主張しているのまでは隠せないが。
ティアミスは自身の体を見て、その胸と見比べため息をついていた。
分からなくはない、彼女は見た目中学生、年齢30代というアニメや漫画でよくお目にかかる合法ロリと言う奴だ。
ハーフエルフは成長が遅いので、大人になるまでかなり時間がかかる。
もっともその成長具合は混血の状態によりまちまちで、エルフの血が濃ければそれだけ成長も遅い。
ティアミスの場合30代で13,14辺りと言う事は実年齢の半分以下という事になるだろう。
まだ成長の見込みがあるという意味ではいいのだが、
元々エルフの血が濃いという事は華奢なところも引き継いでいるので、大人になってもそれほど大きくはならない。
まあ男性としてはそれもそれなりに重要だが、決定打という訳ではないので気にする事はないと思うが。
そんな事を考えているうちに、フィリナ(アルア)がティアミスに問いともとれる言葉を返していた。
「それがラリア公国の現状……ですか」
「いいえ、より正確にはアッディラーン周辺の現状ね。
領主ごとに統治形式が変わるのはどこの国も似たようなものでしょ?」
「ええ……確かにそうですね」
フィリナ(アルア)は言われてみればという顔をしている、俺もまたそう思う。
何故なら、カントールの町はこっちほど殺伐としていなかった事を思い出したからだ。
首都のほうが無頓着と言うのはどうかと思うが、アッディラーンは酷くいびつな経済都市として成長しているらしい。
兎に角、多少の事件は冒険者協会への依頼に回される。
そのほうが素早く処理される場合も多いため、悪い制度というわけでもない。
だが、治安に関してもそういう事をしているのは社会制度的に問題があると感じるのは日本に住んでいたからだろうか?
「だが問題は、今日は出るのかという事だな」
「いつも日が沈む少し前に出るようだけど、毎日と言う訳でもないらしいわね」
「夜になればまた宿に戻ってやり直しか」
「それは仕方ないと思うわ」
「まあ気楽にやるしかないか」
「そうね……」
俺達は休憩がてら街道の脇に腰を下ろす。
出るにしろ出ないにしろ、日が沈むまでが勝負となれば気を張っていても仕方ないからだ。
だが、俺やフィリナ(アルア)は気を抜いているのに、ティアミスはどこかぎこちなかった。
いや、考えてみれば当然だろう。
ティアミスは俺が魔族だと知っている、その上で互いに利用しようという事になっている。
しかし、それはイコール仲間であると認めたという事ではないのだから。
「ティアミス……」
「あの件の事は口外しない、でも、私の事も口外しないで……」
「……ああ」
ティアミスはまっすぐ俺を見ていた、フィリナ(アルア)が俺の意思に従う事を疑っていない。
使い魔の事も信じられる話ではないだろうに……。
ともあれ、彼女がそう言ったのも当然だろう。
魔族本人はもちろん、魔族となったものの家族が人の間でどう思われるのか、そんな事はわかりきっている。
そう、魔族は強い、だから怖い、でも、魔族となったものの家族はどうだろう?
弱いままなのだ、そして魔族への恨みをその弱い誰かに向けるのは集団心理として当然の帰結となる。
口に出してこそいないが、そう言う事なんだろうという事は俺にも察せられた。
「それよりも、この後アンタはどうするつもりよ?」
「俺は……出来れば情報を収集できる組織を作りたい」
「情報ね……、故郷に帰るために?」
「それもある、しかし、後2つの理由のほうが優先だ」
「そうかもね……」
「……一言いいでしょうか、死人の事はむしろ後に回すべきだと思います」
「!?」
「!?」
俺とティアミスはフィリナ(アルア)のほうに視線をまわす。
彼女は今まで口を出していなかった。
それは、別に俺が望んだ事ではないが、確かに感情の表れといえる。
何故なら、今は事情を知るものばかりなので彼女が普通のフリをする必要はないからだ。
最近時々見せるこの感情の発露は、正直理由はわからない。
もしかすると、彼女にもう一つの人格が形成されつつある可能性も否定できない。
絶対服従の強制力を飲み込んだ新しい人格が……。
それはそれで怖い考えではある。
「それは、フィリナ・アースティアの本当の気持ちを聞いていない以上わからない」
「服従の強制力が言わせていると言いたいのですね。
しかし、思い出してみてください、元々フィリナ・アースティアがどんな人間であったのかを。
否定されるという事は、フィリナ・アースティアという人格を否定する事にはなりませんか?」
「……」
「全く凄いわね、絶対服従を逆手に取るなんて」
「ほめても何も出ませんよ」
「別に何かを期待して言ってる訳じゃないわよ」
何というか、ますます使い魔の服従するシステムがわからなくなってきた。
しかし、今はその議論をしてみても始まらない。
それよりも話を進めたいと思った。
そうする事で俺の中で漠然とある何かを形に出来るかもしれないから。
「実際、俺の目的は増えてはいても元々人探し、魔法の技術探し、故郷への道探しと探し事ばかりだ。
何もできない頃は冒険者になるくらいしか思いつかなかったが、
8ヶ月の内に色々な事があった。
普通じゃありえない体験、普通ではできない成長、いろいろあった。
そうでなければ組織を作りたいなんて思えなかっただろう、自分のことで精いっぱいなのは事実だからな」
「そうね、でも未だに冒険者としても二流にすらなれていない。
新米から抜け出したばかりの三流、それが今の貴方、シンヤ・シジョウの評価ね」
「否定しない、魔力があればそれなりの力を発揮できるとはいえ、それだって俺の力というわけじゃない。
結局成長しても俺はこの程度という事なのかと思わなくもないが、今はまだ成長できると信じている。
色々とテコ入れをしてくれている人もいるしな」
と、俺は右手を見る。
ラドヴェイドのせいでこの世界に来て、ラドヴェイドのお陰で生き残れている。
正直複雑な気分ではある。
しかし、今思うと理不尽な話ではあった、呼ばれた時魔王が倒されなければ俺は魔王に殺されていたかもしれないのだから。
「それでも、お金はどうするつもり?
組織を作れば一人生きていく事なんて比べ物にならないくらいお金が必要よ?」
「そうだな……、それは確かにネックになりかねない」
「そもそも、人はどうするつもりなの?」
「そっちは、アテがないわけじゃない」
「探し物ができるような人材なの?」
「むしろ専門らしい、ありがたい事に」
「なるほどね……」
ティアミスも何か思う所があるのかもしれないが、俺もネックについてはよくわかった。
運営資金、確かにあの隠れ里は組織としてやっていく分には問題ないが、タダで仕事をしてくれるわけじゃない。
彼らにだって生活があるのだ、となれば生活出来るだけの資金をどうするかという事が重要になってくる。
とはいえ、唐突にアテが出来る訳もない、頭をひねるが、石神のような理論も、りのっちのような閃きや行動力も、
てらちんのように周りがしてくれるお膳立ても、みーちゃんのような率いていく指導力もない。
そう、俺の友達は皆凄かった。
石神は独自の理論をどんどん実践して周りを巻き込んでいったし、
りのっちは言うまでもない、トップアイドルになるほどの閃きと行動力を持っていた。
てらちんは女の子達の心をつかんで離さず。彼女らがてらちんが何を望むか先に回って考えてくれるほどだった。
みーちゃんは、テニス部を率いて全国大会に出たほどの実力と指導力を持っている。
各々分野は違うが天才的な部分があるのだけは間違いない。
だが、俺は、そう5人の幼馴染の中で俺だけは何も持っていなかった。
だからこそ、この世界に来てから求められる事の嬉しさを知ったんだし、この世界での関係を大切にしたいとも思う。
しかし、それはそれとして金を稼ぐ手段といってもぱっと思いつくわけもなかった。
「うーん……」
「お金が要り用なのでしたら、私が回復の力を使って……」
「それは出来ない、理由は2つ、一つはフィリナの事がばれる可能性がある事、
もう一つは法外な値段でやるにしろ、何百人分の生活費になるか疑問だという事」
「確かにそうですね……」
「そうね……、とてもじゃないけどそんな額を稼ぐなんて冒険者でも無理ね」
「やっぱりか」
「ええ、それぐらい稼ぐ人間がいない訳じゃないけど。
少なくともAランク、それもひっきりなしに依頼をこなさないと。
後は財宝でも見つけるかね……」
「そうなるよな……」
どちらも現実的じゃない、Aランクになるまで何年かかるかわからないし、財宝の眠っている場所がわからない。
一攫千金な財宝となれば、眉つばの偽情報数千の中から一つを選びだし、謎を解き隠し場所を当てなければならない。
所によっては強力なモンスターと戦闘したりといったオプションまでつくだろう。
そこまで行くまでルドランとその村民に石のままでいてくれなんてとても言えない。
何とも悩ましい問題だった。
それから数日、何事もなく同じような見張りが続いた。
予想はしていたが、前回の事で警戒されてしまったようだった。
しかし、向こうも何らかの理由があって襲っていたはず。
ポイントを変える事もそうそう出来ないはずだった。
そうでなければ、あんな大規模な認識阻害の魔法を展開できないだろう。
と言う事は分かっていても、ただ待たされるほうである”栄光の煌(きらめき)”のパーティはもっとじれていた。
そして、当然ながらやってくるのはアイパッチ(眼帯)をした胡散臭い男。
「ここの所、全然出てこないじゃなーい?」
「それを言われても、私も困ります」
「別にティアミスちゃんを責めているわけじゃないけどさ。
うちのパーティもそろそろじれてきててね、決着をつけたいんだわ」
「というと?」
「今回は俺も中に残りたいんだけど、いいかい?」
「ええ、問題はないですが……」
「よっし、そうと決まれば早速報告してくるよーっとね」
相変わらず食えないというか、よくわからない行動基準で、すたすたと離れていく。
確かに、フラッドの立場ならそう言う考えになるのも分かるが、決着をつけたい?
フラッドがいようといまいと来る時は来るし来ない時は来ない筈……。
こう言うのを深読みしてしまうのは悪い癖かもしれない、しかし、一度気になるとどうしようもない。
一応フラッドの動きにも注意しておく事にする。
「やあ、待ったかい? なーんちってね」
「別に、というか私達の仕事は基本待つ事だけなのよ?」
「まーそうとも言うね、だったらここはひとつ、ゲームでもしない?」
「ゲーム?」
「簡単なものさ、サイコロの目を……」
「賭博じゃねーか!」
「その通りさ、暇なときはこれが一番、だろ?」
片目をつむって見せるフラッド、というかもう一方はアイパッチに隠れているのでわからない。
そして、フラッドの職はレンジャーだという。
盗賊とは違うものの、その方面も詳しそうだ。
となると……。
「サイの目が奇数か偶数か当てるだけの簡単なゲームさ、疑う事はどこにもないと思うがね?」
丁半博打か、しかし、この世界においてこの賭博がどういう扱いなのかわからない。
俺はティアミスに視線を送る。
ティアミスは賭け事等は詳しくないだろう、彼女も一人で冒険をしていた期間が長いのだ。
しかし、ティアミスは視線を返す。
知ってはいるようであった。
「お金を賭けないなら気にしないけど?」
「おいおい、ゲームにちょっとしたスリルはつきものじゃないか」
「ふーん、ならいいわ。私達お金に余裕がないもの」
「いやいや、その余裕を作るためのゲームでしょ?」
「ならば、せめてサイコロを振る人間はこちらで選んでもいいのでは?」
「君達いきなり出大丈夫かい? 結構コツがいるよこれ」
「俺はふった事があるから大丈夫だよ」
「……オーケイ、わかった、分かりましたともさ。全くつまらないねぇ君達は」
「つまらなくて結構です」
そんな感じで、今日は緊張して過ごす羽目になった。
何をといえば、フラッドと言う男、見た目や言動はふざけているが、その実抜け目がない。
やってくる事は大抵自分の利益になるように考えているのがわかる。
正直苦手なタイプだ、敵としてなら思う存分やっつけられそうではあるが、このタイプは敵にならない。
そう、立ち回りがうまいので、どことも完全に敵対をしないという処世術を身につけている。
俺達がもし敵対した場合、フラッドは色々なものを味方につけて俺達を排除するだろう。
結局嫌々ながらもこちらも敵対する事が出来ない、立ち回りがうまいというのはそう言う事だ。
そのまま、しばらく時間が経つ。
夕方と言っていい時間に近づいてきた。
イカが出現する時間帯であるが……。
「霧が出始めた!」
「ほうほう、ようやくだねぇ。んじゃ、お手並み拝見させてもらうよ」
「フラッドさん、貴方ははぐれないようにだけ気をつけていてください」
「りょーかいっと」
「ティアミス、銀貨のほうはどうしますか?」
「さんづけで呼びなさいってのに、まあいいわ。イカが出たら通行ルートにでも投げつけなさい」
「わかりました」
「じゃあ俺は……」
「アンタは追跡の準備、銀貨を必ず奪ってくれるとは限らないからね」
「わかった」
ティアミスの指示の下俺達は動きだす。
実際、俺に出来る事は少ないが、それでも何とかしてさっさとこの依頼を終わらせたかった。
フラッドと組むのは面倒事が多そうであるし、日が経てばその分経費もかさむ。
しかし、失敗すれば困った事になるのも事実だ、ここは成功させなければ……。
そんな事を考えているうちにも、事態は進行する。
イカが霧の中を休憩所のほうへ向かってうにょろうにょろと進んでくる。
「出たわ」
ティアミスは小声ながらもしっかりとイカを見据え、結果を待つ。
イカは銀貨を拾うのかどうか……俺達の作戦のネックはそこだ。
ともあれ、イカは近辺の商人や冒険者たちから金貨、銀貨を奪っていく。
量的にはさほどでもない、やはり皆警戒しているという事だろう。
だが、それでもそこそこの人数が来ていた事もあり左右の吸盤付きの触手にはそこそこ光物が捉えられていた。
暫くして、イカが銀貨のあるところまでやってくる、興味はあるようだが……。
「躊躇ってる?」
「いや、警戒してるんじゃないか?」
「知能が高いのでしょうか?」
俺達がイカの行動に戸惑っていると、イカのほうも戸惑いからか何か分からないが銀貨をつんつんしている。
しかし、最終的には銀貨を掴まずそのまま通り過ぎてしまった。
なかなか警戒心の強いイカのようである。
だが……。
「とりあえずは成功のようね」
「俺は普通につけていく、ティアミスは魔法での捜索をたのむ」
「ええ、アルア、サポートお願いね」
「銀貨を回収してからお付き合いします」
イカが銀貨を持っていかなかったのに、俺達には問題ないという事はどういう事なのかというと、
フラクタル魔法と言うものの性質によるところが大きい、疑似相似つまり似た条件が見つかると自動的に発動するのだ。
別の世界においてはエンチャント(魔力付加)に近い性質といっていいだろうか。
例えばファイヤーボールのフラクタル魔法なら、どこかの物品にセットしておき、
キーワードを決めておけば誰でもそのキーワードを言えばファイヤーボールを撃てる。
またファイヤーボールそのものをフラクタル化させれば、相手の前で突然分裂させる事も出来るそうだ。
込められた魔力以上の事は出来ないものの、応用範囲は広く、今回も特殊なその性質のお陰で追跡を行う事が出来る。
銀貨にマーキングするというだけの発信機のような魔法は、近くにある銀貨を全てマーキングする魔法になっているのだ。
当然ながらイカが接触した事により、持っている銀貨にもフラクタル魔法は移りその追跡を可能にしていた。
「全く便利な魔法だ……」
「おお、シンヤだったね。こっちにいたのか」
「フラッド?」
「兎に角誰かについて行かないと置いて行かれそうだったからねー」
「わかった、まあいい、イカの追跡をしているんだ、霧の結界の効果範囲から出るまでは俺についてきてくれ」
「りょーかい」
アイパッチの男がおどけるのは不気味な部分はあったものの、とりあえず今は目的優先だ。
しかし、イカは俺の事に気付いたのか、速度を上げて逃げだした。
「くそっ、足(?)速いな……」
「大丈夫かい? なんなら先に行ってもいいけど」
「あのな……相手が見えてるのか?」
「いーや、しかし、間違ってれば止めてくれるだろ?」
「好きにしてくれ」
「はいはいっと、急ぎます」
フラッドは俺を追い抜き先行する、しかし、同時に俺の視線を時々確認するのも忘れていない。
徐々に離れているものの、なかなかの技であると言える。
だがイカのほうの速度もかなりのものだった、そしてやはり海に向けて逃げている。
そうやっているうちにとうとう結界の外に出てしまった。
俺は魔族の力で増幅されている能力であるのにもかかわらずフラッドにもかなわないというのは痛い話だ。
魔力を使えばもっと動けるようになるとはいえそんな事をして自分の首を絞める訳にもいかない。
「なるほど! あれが犯人ってわけか、こっちのほうは確か君のお仲間が張っていたはずだね?」
「ああ……」
そう、この区域はエイワスの担当、彼は海岸近くを張っているはずだった。
エイワスは小柄ながら金髪碧眼であるし、目立つのは目立つ、イカの進行ルートに既に陣取り待ちかまえているようだった。
俺はエイワスがこのタイミングで上手く進行ルートを妨害できるほど器用だと思っていなかったので驚いていた。
「さあ、モンスター。君には私の栄光の第一歩として華麗に散ってもらおうか!!」
イカに向けて剣を突き出すエイワス、しかし相手は2m級とはいえイカだ、
突き系の攻撃はにょろんとした感じで体を曲げる事で回避してしまった。
俺としても剣術をここ半年以上やってきたので思う、ありゃ反則だ。
「チッ!!」
「ほーら、騎士のあんちゃん、それじゃ駄目だよ。こういう相手はこう!」
フラッドは、走り込みながら拳を構え、エイワスの攻撃で動きの止まったイカに打撃を加えた。
あまり効いているようには見えなかったものの、打撃そのものは当たった。
最も、今はイカを倒してしまうのもよくない。
「もういい! 俺達はここまでだ」
「……いいのですか?」
「へぇ、なるほどね大本を叩くってわけかい」
「そのためにティアミスとアルアには頑張ってもらっているんだ。一度パーティを集めるぞ」
「そうこなくっちゃねー、まっ、ちょっと待ってな」
「貴様! くそ、もう行ってしまった……ボウィ……あんなのを信用するつもりなのか?」
「エイワス……女性がいないとその口調中途半端だな……」
「……」
「まあともあれ、追跡の魔法は上手くかかっているようだ。
このまま、主の下まで案内してくれるといいが……」
そうやって色々と手配を進めつつ、パーティが揃うのを待つ。
実際、あそこまで追いつけるとは思っていなかったので、追撃をし過ぎてしまったかもしれない。
だが、フラクタル魔法による銀貨の追跡のほうは上手くいったらしく、
やってきたティアミスとフィリナ(アルア)は目的地を告げて全員を引っ張っていく。
「とうとうイカのマスターに対面と言う事だな」
「あらマスターがいるとは限らないわよ」
「そうでなくても、魔力の消費が多い魔法なんだからあまり長時間を期待しないで」
「了解」
「りょーかい、俺達もがんばってみるさ」
「レディティアミスのためなら命も惜しみません!」
「エイワスは大げさね……」
そんな感じで緊張感が半ば崩れた会話をしながら目的地にやってくる。
そこは、海岸の岩肌の間にある天然と思しき洞窟だった。
さほど大きな規模にも見えないし、入口が普通には行きにくい、水につからないと入れないようだ。
それだけに、確かにあまり人が探しに来る事はないともいえた。
「洞窟探検なんてパーティ組んでから初めてかもしれないわね」
「パーティを組む前は一度あったっけな」
「ええ、でもあれは散々だったわね」
「そうだな……」
「楽しそうな会話で何よりですが、どうやら目的地が見えてきたようです」
「洞窟の行き止まりってわけか、なるほどボスがいそうな雰囲気だな……」
「ってえ?」
「何だ……」
「おいおい、まさか……」
「どうやら見込み違いだったのかしら?」
「いいえ、恐らく……」
「めんどくさい事になりそうだな」
海に入り込んだ感じの鍾乳洞を抜けたその先の広い空間。
明らかに何かがあるとしたらそこだろうと言う場所。
そこで待っていたのは……。
大型イカの大群だった……(汗