事務所の一室・・・
とは言っても、すぐには分からない場所には違いない。
帽子掛けの壁の奥に、俺たちのもう一つの顔がある。
「おかえり、翔太郎」
「ああ・・・」
普段、俺たちがいる仕事場を一言で表せば、“昭和風”っぽい雰囲気だ。
一転して、もう一つの顔の仕事場は、重機が点在していたり、ホワイトボードとかがあったりと、まぁ殺風景って言っても問題ない。
その部屋の中央で、いつものように本を片手に佇んでいるフィリップが、いつものように出迎えてくれた。
「その様子だと、収穫はなかったようだね」
「さっぱりだ。何しろ、今ではその数自体激減してるガイアメモリを、それもかなり特殊な奴を見つけろっていうのは、この風都の中だけっていっても厳しいな」
「なら、“検索”するかい?」
「そうだな」
フィリップが目を閉じ、両手を水平に広げる。
端から見れば、何を始めるかは分からないだろうな。
けど、俺たちは毎回“これ”のおかげで、いくつもの事件を解決してきた。
「地球(ほし)の本棚」と呼ばれる、地球の記憶のデータベースと直結して、様々な情報を閲覧する、フィリップの能力の一つだ。
──“検索”を開始する
──キーワードは・・・『ガイアメモリ/Gaiamemory』・『名前が無い/Nameless』
今、フィリップの精神世界では、膨大な量の本棚がその大半を占めている。
キーワードを入力するたびに、その量がどんどんと減っていき、最終的に必要となる一冊だけが残るという形だ。
──ふむ、数が絞れないな・・・
「今でどのくらいまで絞れたんだ?」
──本棚一つ分というところだね。他に何か情報はないかい?
そう聞かれても、今回の捜査では、パッとしたものは見つけられなかった。
強いて言えば、依頼人のハルカちゃんを捜してる変な男に会ったくらい・・・
「・・・駄目元だが、キーワードの追加だ、フィリップ。キーワードは、『龍の入れ墨/Dragon tatoo』」
──・・・ほぉ、面白いキーワードだね
フィリップが目を開いた。
“検索”を終了したらしい。
「何か分ったか?」
「実に興味深い情報が残った。あの子が持ってきたガイアメモリは、通称『D-4メモリ』と言うらしい」
「D-4?どういう意味だ?」
「“D-4”とは、“Defective-4”の略称で、4つのメモリが揃わないと、本来の効力を発揮しない特殊なメモリらしい」
“Defective”・・・確か、「不完全」って意味だったはず。
大道克己の持ってたのは、「T2メモリ」だったはずだが、何か関係でもあるのか?
「・・・フィリップ」
「聞きたい内容は把握しているよ?生憎と、“T2メモリ”とは別に開発されたようだ。事実、ミュージアムも財団Xも、この“D-4メモリ”の開発には関与していないようだ」
「それで?どこで開発されたかはわかるのか?」
「・・・・・・・・・」
珍しいな、フィリップが言葉を濁すなんて。
何か言えないことでもあるのか?
「残念ながら、開発に関する内容のページは、破り取られていた」
「破り取られていた?だって、園崎家が滅亡した今じゃ、地球の本棚に外側から関与できる奴なんて・・・」
「そう、いない筈なんだ。少なくとも、僕たちの知る限りでは、ね」
フィリップが、地球というデータベースと直結できる理由。
それは、フィリップは本来、「データから再構成された人間」だからだ。
過去に、“ガイアベース”っていう、ミュージアムの中枢にあった場所に落ちて死んだんだが・・・
その時に、“地球の本棚”の力を得て、肉体そのものがデータから再構成されたっていう経緯がある。
以前なら、園崎家の一人、園崎若菜も、“地球の本棚”に外側から関与することができた。
だが、その園崎若菜も今ではいない。
他に、俺たちが知る限りで、地球と直結できるような人間はいない。
「まぁ、知らない以上は仕方ないな。それで、フィリップ。他のメモリのありかは?」
「・・・残念だが、その部分に関しても、閲覧ができない状態だ」
「・・・となると、例の奴から聞き出すしかない、か」
「心当たりがあるのかい?」
「まぁな」
………………
…………
……
バイクを走らせ、さっき来た公園に再び足を運んだ。
随分と事務所にいたらくて、すっかり日が沈んで、辺りは真っ暗だ。
こりゃ、人一人探すのも難儀だな・・・
「左!」
「ん?おお、照井」
バイクを止めたところに、来ているジャケットと同じ赤いバイクに跨った、照井がやってきた。
何か情報でも持ってきてくれれば嬉しいんだが・・・
「何か情報は得られたか?」
「一応な・・・照井の方はどうだ?」
「手がかりになるとは思えないが・・・一つ、気になる情報がある」
「気になる情報?」
いやそれ以前に、照井がそこまで信用のできないっていうのはなぁ・・・
仮にもこいつは警察の人間だ。
しかも、エリートクラスの・・・
言い方は悪いが、警察の情報を好き勝手にみられるとは思うんだが・・・
「・・・それで?どんな情報なんだ?」
「とある人間の、捜索願が出されている。出された日時も、出した人間も異なるが──」
「対象となっている人間が同じ、か?」
「そうだ。捜索願を出した人間は3人だが、どう見ても血のつながりがあるようには見えない」
「・・・写真とかないのか?」
俺の問いに、照井は懐から写真を3枚取り出してよこした。
そのうちの1枚に、俺の目が留まるのは早かった。
「こいつ・・・!」
「知っているのか?」
「あぁ・・・昼間、ここで会って──って、捜索願が出されている人間って・・・!」
「“ハルカ”という少女だ」
間違いない、俺の依頼人の少女だ。
でも、確かにほかの2枚の写真に写ってるやつらも、ハルカちゃんと血のつながりがあるとは思えない。
捜索願を出す程って、どういうことだ?
「何がどうなってるんだ?」
「どうした、左?」
「いや・・・照井に頼んだ例のガイアメモリ、その“ハルカ”って子からの依頼なんだ」
「何だと?」
照井も表情を顰める。
まぁ、無理もない話だ・・・
「それで!昼間会ったと言うこの男に、そのことを話したのか!?」
「いや・・・仮にも依頼人だからな、その情報を見ず知らずの人間に話すつもりはねぇよ」
「・・・そうか」
しかし、どういうことかさっぱり分からない。
一応、フィリップの連絡を入れておくべきか?
………………
…………
……
「──っ!左、構えろ!」
「な、何だ?!」
照井が急に声を荒げる。
写真をズボンのポケットに押し込みながら、周囲を警戒する。
間を置かずに、街灯の光のあたらない場所から、不気味な音声がいくつも聞こえてきた。
──『マスカレイド/Masquerade』──
「ドーパントだと?しかもあれは、ミュージアムの・・・?!」
「ちっ!このメモリまで、転売されてるのか!・・・フィリップ!」
懐から、“ダブルドライバー”を取り出して腰に装着する。
この瞬間から、フィリップとは電話とかを使わなくても、意思の疎通が可能となる。
『あぁ、久々だけど、準備はできているよ』
「OK・・・風都の仮面ライダー、久々のご登場だぜ!」
「左、油断はするな」
そう言いながら、照井も“アクセルドライバー”を腰に装着する。
そして俺は黒いメモリを、照井は赤いメモリをそれぞれ取り出す。
──『サイクロン/Cyclone』/『ジョーカー/Joker』──
──『アクセル/Accel』──
「『変身!!』」
「変...身!」
………………
…………
……
「あれが、この街の“仮面ライダー”・・・」
「ま、お手並み拝見といきましょうかね」
「ん〜、どっちの子も、パッとしないわね」
「・・・お前たちの相手としては、役不足かもしれないな・・・ククク・・・」