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GAOGAIGAR外伝-竜人と破壊神の神話-  『2006年イタリア・ジェノバ港にて』(1)
作者:黒いラム肉   2012/07/09(月) 00:55公開   ID:ord2V11mGEE

 彼は、この世に生まれ出でた時から孤独であった。
 彼は、その世界に現れた時から孤独であった。
 生まれた理由は彼にとって受け入れ難く、また従う心算つもりもなかった。
 彼のその身は…その存在は世界を歪めてしまう。
 それは世界にとって受け入れ難く、それがまた彼を苦しめた。
 彼は、なまじ心を持って生まれてしまった為に孤独であった。
 彼は、それを紛らわすように闘いに明け暮れた。
 しかし彼は、闘いに身を投じてもなお孤独であった。

 彼は、とある者に存在を肯定された。
 彼はもうひとり、世界の安定を守る存在に出会い、己が存在を肯定された。
 彼は存在を許される場所を、己を受け入れてくれる世界を探しに旅に出た。

 しかし彼は、何処へ行っても孤独であった。
 彼の存在が世界を歪め、彼はあらゆる場所から拒絶された。
 ―――彼は、孤独であった。


 ブラックウォーグレイモンは、汚泥のように暗くどんよりとした空間で憂鬱そうに双眸を開いた。
 訪れた世界に拒絶され、また戦いに身を投じ、そのままその世界を出てきた彼は疲れを癒す為に眠りについていた。
その眠りが本当に彼の疲労を癒すかどうかは知れないが、それでも彼は眠っていた。

(………また、駄目だった。 あの世界も駄目だった)

 眠りで体の疲労は癒えたとしても、心まではどうか…金色の眼は何処も見ていない。
 世界の狭間のこの空間は、母胎の羊水や卵の殻の中でもなく、代わりにすらならなかった。

(どの世界も……俺を受け入れてはくれない…)

 暗い空間の中、ブラックウォーグレイモンは諦めに満ちかけた思考で己が両手の平を見る。
 生え揃う爪は幾多の戦いに薄汚れ、両腕に備え付けられた竜殺しの凶爪…ドラモンキラーはその黒き装甲と鋭い爪を鈍く光らせた。
 ブラックウォーグレイモンは静かに双眸を閉じた。脳裏にはアグモンとチンロンモンの言葉が思い浮かぶ。

(俺の心が…俺が存在する理由…)

 心と己の存在理由…アグモンとチンロンモンに肯定されたそれを、彼はずっと考えあぐねいてきた。だが答えは見つかる気配も無く、今ではほとんど諦めかけている。 
 ブラックウォーグレイモンは微かな光を感じて、そっと双眸を開いた。視線の先にある空間には裂け目のようなモノが生じており、その隙間から漏れた光が明滅している。
 それは、今現在居る空間から別の世界へと通じる裂け目であり、光はその全ての世界が持つ一種のオーラやエネルギーのようなものだ。
 幾度も世界を渡りもはや見慣れたその光に、彼はもう無視してしまおうかと視線を逸らそうとした。しかし、その前に光の中に見慣れない光が一瞬、垣間見えた。

「緑の…光…」

 次元の裂け目の光の合間に輝く、緑翠の光。
 それが見えたのはほんの一瞬だというのに、強く印象に残る輝きを放っていた。
 ブラックウォーグレイモンは一度辺りを見回す。辺りは相変わらず変わり映えが無い。

(あの世界…少しだけ、立ち寄ってみるか)

 竜人は背中に備え付けられたシールドを開き、緑翠の光が見えた次元の裂け目へと飛び込んで行った。



  GAOGAIGAR外伝-竜人と破壊神の神話-
   『2006年イタリア・ジェノバ港にて』(1)




 夜も更けた頃、イタリア・ジェノバ港のコンテナ群。
 普段なら潮風が吹き緩やかな波音と船の航行音がするだけの場所だが、今現在は激しい喧騒と銃声が轟き、異質な影が複数蠢いていた。
 銃声と喧騒、それだけならばイタリアに多く潜むギャングの抗争とも思える。
 だが数年前からギャングによる抗争はかなり減少しており、また、今蠢いているのもギャング達ではなかった。
ちなみに抗争が減ったのは2001年にギャングの中でも一際強い勢力のグループのボスが代替わりしてからだそうだが、一般人が詳細を知る術は無い。

 異質な影は数体…否、数十体はあるだろうか。どれもが人間と比べると随分な巨躯を持ち、二足歩行ではあるが姿形はどう見ても人ではなかった。
ある者は蟷螂、ある者は鼠、またある者は魚人のような面妖な姿をしている。
 その異形の正体は、国際犯罪組織バイオネットの遺伝子操作により生み出された生物兵器、獣人である。
 獣人の群れは何かを狩ろうとでもしているように忙しなく辺りを窺い、コンテナの隙間や上を飛び回っていた。
 
「ギャッ!」

 場に複数存在する獣人が一体、派手な銃声と共に血飛沫を上げて倒れ伏した。
 それに気づいた近くの獣人が振り向くと、また連続した銃声が轟く。周りの獣人もその弾幕に巻き込まれ、声を上げる間もなく蜂の巣と化してその場に崩れ落ちる。
 強靭に作られた獣人の肉体をあっさり打ち砕く凶悪な銃火器、その反動を物ともせず扱うのは、白いコートに身を包んだ齢十八と見える赤桃色の髪の少女だった。
 別の獣人が少女へ襲い掛かる…が、少女は怯む様子もなく獣人の爪を避け、装甲が金色に輝く右拳を力任せに獣人の顔面へ叩きつける。
少女の容貌にそぐわぬ腕力から繰り出されたその拳を食らい、獣人は短い断末魔ともに頭部が爆ぜ絶命した。
 そのまま力無く地に転がった獣人を水色に近い蒼眼で冷たく見下ろす少女の名は、ルネ・カーディフ・獅子王――通称『獅子の女王リオン・レーヌ』であった。

 ルネが戦闘を行っている方向からは反対に位置する場所では、低知能ながら銃撃音を避けて動く複数の獣人の姿があった。
 獣人達が目指す先は港に停泊している一隻の大型タンカー。バイオネットが開発した兵器や不正な手口を使って入手した資材類を積載し、基地へ運び出さんとしているのだ。
 今は分が悪くなってきたのを察した幹部の命令により、このグループの獣人達はタンカーへ一旦戻って武器を装備しようとしていた。
 しかし目的地へ辿り着く前に、コンテナの狭間と獣人達の巨躯の合間を縫うように人影が駆け抜ける。
人影が手に持つ短刀が人工灯を反射して軌跡を描いたかと思うと、数体の獣人がすれ違いざまに切り捨てられた。

「グルアァァッッ!!」

 それを見ていた犬型らしき一体の獣人がその人影へ目掛け、血気盛んな唸り声と共に襲い掛かった。
 人影が動き、その姿が人工灯に照らし出される。獣人たちに比べれば小柄だが、人として見ればそれなりの長身に軽装の鎧、よく鍛えられて引き締まった体躯。
右手に短刀を持ち赤茶色の長髪を風に翻して走る人物は、自分の方へ向かってきた獣人を認識すると冷静に振り向く。
 鋭い爪を振るって飛び掛ってきた獣人に対し、一足飛びで懐へ飛び込んで戸惑う事無く右手の短刀を振り抜き――獣人の頸部を切り裂いた。
その勢いのまま獣人の肩を蹴り、背後の血飛沫に目もくれず追いつきつつあった他の獣人たちへ構えを取る。
 増援にやってきたメタルサイボーグは、短刀を振るって血を払ったその姿を見て憎々しげに声を発した。

「おのれ、エヴォリュダー!」

 ――エヴォリュダー。
 超進化人類との意味を冠するその名称は、この世にただ一人の人物に付けれらた二つ名。
 その人物こそ、かの地球存亡を懸けてゾンダー及び機界31原種・Zマスターと死闘を繰り広げた勇者の一人…
今この場で金色に輝くIDアーマーを身に纏い、緑翠の短刀・ウィルナイフを構えている青年、獅子王凱だった。

 束の間の休日にイタリアの親友の許を訪れていた凱が、休日返上で対特殊犯罪組織シャッセールのバイオネット掃討作戦に参加することとなったのは明確な理由があった。
 バイオネットの保有する戦力のひとつ、メタルサイボーグには、人類…否、地球や宇宙の存亡を揺るがしたあの地球外文明ゾンダーを元に作られた擬似ゾンダーメタルや、
厳重に封印されていたGGGの封印されていた艦のひとつ『ディビジョンV 物質瞬間創世艦フツヌシ』を先日とある事件で利用されて創生されてしまった偽のGSライド…フェイクGSライドが使用されている。
 それらは地球外文明の脅威から地球を守るという使命を持つGGGにとって、十二分に管轄内であり決して見過ごせない存在。
凱にとって従兄妹にしてシャッセールの捜査官であるルネと共に作戦を実行する事が決定したのは、上層部の話し合いからしても必然的な流れだっただろう。

『凱、そっちはどうだい?』

 周りにいた獣人どもを粉砕し、丁度メタルサイボーグを打ち倒した凱の耳にルネからの通信が届く。

「ああ、今の所問題はないよ。 ルネはどうだ?」

 凱は用心の為にコンテナの隙間に身を隠して辺りを窺いながら、ルネの通信に答える。

『あたしの方も好調だよ…こっち側の獣人は粗方駆除したから。それよりも目標の幹部見つけたから、今から追跡する』
「そうか、分かった。後は俺にまかせてくれ」
『それじゃあ任せたよ。あたしは心置きなくあいつらを駆除してくるから』

 通信機越しに聞こえてくるルネの不穏な台詞に、凱が冷や汗を流す。
 ルネは先日あったフツヌシ事件で相棒だった勇者ロボ達を傷つけられて以来、バイオネットに対する暴力的な意識が一層強くなっているのだ。
 銃器を組み立てているらしい硬質な音が殊更不安を掻き立てる材料となって、酷いハーモニーを奏でていた。
 
「駆除って…ルネ、幹部の取調べが出来ないと困るって上司の人が」
『アァ? あいつ、あたしに直接言えないからってあんたに言ったのか!?』

 上司、とは言うまでも無くルネが所属するシャッセールの上司である。
 あいつって…と凱がつっこむ暇も無く、ルネと言う名の活火山が噴火寸前の状態へ陥った。
 凱がその雰囲気を察した時には既に遅く、ルネは凱にも聞き取れないほど荒れ狂ったフランス語で通信機越しに怒鳴り散らしていた。
仕舞いには捨て台詞らしきものを吐き、通信がガチャ切りされる。

「はぁ…ルネの怒りっぽさにも困ったものだな…」

 凱のため息はむなしくイタリアの夜空へ霧散していくのだった。


 一方その頃、オービットベースはオーダルーム。
 金髪をローテールに束ね紳士的な服と黒いロングコートを着た壮年の男性…長官である大河幸太郎と、かなり筋肉質で袖の無い隊服に身を包み髪を緑色のモヒカンにしている壮年の男性…参謀である火麻激、そして各オペレーター達が凱達の作戦状況を見守りサポートしていた。
 不意にモニターへとある異変を感知したというシグナルが表示され、モニターを確認していたオペレーターのひとり、諜報部所属のボサボサ頭で隊服が緩い間延びした顔の男性、猿頭寺耕助が後方に居るトップに振り向く。

「長官、凱達が行動しているジェノバ港付近で空間異常です」
「空間異常?」

 猿頭寺のいまいち緊張感の無い表情がやや締まっており、それを見た大河長官も即座に状況を確認するため問い返す。

「はい、一見するとゾンダーロボ・EI-25の並列空間にも似た波長ですがそれとは異なります。 どちらかといえばESウィンドウに近いデータが検出されてます」

 ESウィンドウとは、かの三重連太陽系で生み出されたらしき一種のワープ技術である。
 その報告を受け、火麻参謀がモニターを見る。

「まさか、奴らなのか?」
「いいえ…素粒子Z0は観測されていません。範囲もかなり小さいので…」

 火麻参謀の疑問に答えた猿頭寺はコンソールを操作する。
 正面の巨大モニター・凱達の状況を映すライブ映像の横に表示されたデータには、空間異常の範囲や詳細な検出結果が記されている。

「空間異常の範囲は約3mほどですね…」

 短めの黒髪をオールバックにした穏やかそうな中肉中背の若い男性…メカニックオペレーターの牛山一男がデータを見て呟く。
 空間異常の正体が気に掛かる火麻参謀は、難しい顔をしながら猿頭寺に声をかけた。

「衛星からの映像はでないのか?」
「先ほどから試しているのですが、空間異常の部分だけノイズが走って映りません」
「そうか…」

 答えを聞くと火麻参謀は通信機を操作し、とりあえず凱へ連絡を取る。

「凱、聞こえたか? 付近で空間異常が感知されたそうだ」
『ええ、聞いてました』
「今の所正体は分からねぇが、とりあえず警戒は怠るなよ。 こっちで何か分かり次第すぐに連絡する」
『了解』

 快い返事と共に通信を終えた凱は、やってきた獣人達に気づくと即座に構えを取った。
 その様子をモニターを通して見守りながら、メインオーダールームの面々は固唾を呑む。
 本来ならすぐにでも空間異常の正体をつきとめたい処だが、現地にいるボルフォッグはルネのサポートへ回っているため呼びつける訳にも行かない。
 凱達の状況を映している衛星をそっちへ向けてしまってはサポートに影響するため、一同は歯痒さを覚えていた。




 ―――同時刻、空間異常が感知された場所。
 そこにはおよそ2mほどの黒い体躯に物々しい黒色の鎧を装備した竜人が一体、ジェノバ港に悠然と佇むガントリークレーンの上へ静かに降り立っていた。
 竜人が双眸を開くと、金色に輝く鋭い瞳が露になる。
 そして竜人はその眼で付近をゆっくりと見渡し、コンテナ群や遠くに見える街の明かりを確認した。

「この世界は…人間が住む世界か」

 何度か見た風景と類似した点から現在の居場所を推察した竜人…ブラックウォーグレイモンは、ふと聞こえてきた争うような音に気づいてコンテナ群の方を見る。
 音源らしき地点からは複数の獣が唸るような声と、短い金属音が断続的に聞こえてくる。
それに暫く耳を澄ませていたブラックウォーグレイモンの眼に、コンテナ群の隙間からひとつの光が一瞬垣間見えた。

「あの光は…この世界に来る前に見えた光…!」

 一瞬だけ見えた緑翠の光…それはまさにブラックウォーグレイモンがこの世界へ渡る切欠となった光だった。
 それを確信したブラックウォーグレイモンは、背中のシールドを翼のように開きコンテナ群の上へ移動する。そして一旦コンテナへ降り立つと、そこから光の見えた辺りを窺い見た。
 ブラックウォーグレイモンの視線の先では、謎の異形達…獣人やメタルサイボーグと戦闘を繰り広げる人間…凱の姿があった。
 獣人の爪をかわした凱が右拳を獣人の胸部へ叩き込んで肋骨を圧し折り、そのまま獣人の身体をコンテナの壁まで弾き飛ばした。
その間に背後へ迫っていたメタルサイボーグが凱を捕らえようとすると、そうはさせぬとばかりに凱は素早く振り向いて左手の甲を自身の前へかざす。

「!」

 その様子を見ていたブラックウォーグレイモンが眼を見開く。
 凱がかざした左手の甲に紋章のようなものが浮き上がったかと思うと、眩い緑翠の閃光が輝いたのだ。
 それは凱が咄嗟に発した防御エネルギーの光でもあるが、Gストーンが発する特有の光である。そして、間違いなくブラックウォーグレイモンが見た光と同一の輝きだった。 

(あの光…あの人間が発したものだったのか…? 俺が次元の狭間で見た光もあの人間が…?)

 凱の戦いを見つめながら、ブラックウォーグレイモンは思考を巡らせる。
 次元の狭間でブラックウォーグレイモンを導くかのように煌いた緑翠の光と、凱が発した緑翠の光。それを見た彼の胸の中には、彼にはうまく言い表せない感覚が芽生えていた。

(なにかが分かるような気がする…そんな予感をチンロンモンの時のように…いや、それよりもっと強く感じる…あの人間は一体…)

 そうして暫く佇んでいたブラックウォーグレイモンだったが、やがてひとつの決意を固めた。
 そして凱がバイオネットと戦闘を繰り広げる場所へ向かって駆け出す。

(決めたぞ…俺は奴と闘う! 闘えば何か答えが導き出せる筈だ…!)


 何体目か分からない獣人を打ち倒した凱は、目前で憎々しげな表情のまま武器を構えるメタルサイボーグを厳しい眼で見据えた。
 
「お前が噂の生機融合体か…! 話には聞いていたぞ、近頃あの『獅子の女王リオン・レーヌ』のように我々の基地を潰し始めている憎たらしい奴だとな!」
「エヴォリュダーと呼んで貰おうか…お前達バイオネットの企みを見過ごす訳にはいかないからな。 遠慮なく潰させて貰うぜ!」

 メタルサイボーグの言葉に毅然と答えた凱は、そのまま緑翠の刀身を光らせる短刀・ウィルナイフを構えた。
 その答えにメタルサイボーグは悔しげな表情になるが、すぐさま卑しい笑みを浮かべる。

「フン、そんな生意気な口をきくのも今日で最後にしてやる…さしものお前でもタングステン弾の嵐を食らえばひとたまりもないだろう!」

 そう高らかに宣言すると、メタルサイボーグは胸から腹部にかけての装甲板を左右に展開した。タングステンとは、戦車や艦体の装甲を打ち抜く為に開発された徹甲弾に使用される希少金属である。
炸裂弾とそうでないものにわかれるが、対戦車等に使われるのだから一般的には大きな代物。だが、バイオネットはコレの対人サイズという凶悪な代物を開発していたのだ。明らかにルネや凱への対抗武器である。
 装甲の下から露になった蜂の巣のような無数の銃口を見て、凱の表情が険しくなる。
 その表情を見たメタルサイボーグは勝ち誇ったように口元を歪め、追い討ちとばかりに残っている獣人たちへ指令を飛ばした。

「逃げ道は与えんぞ! お前ら、この憎たらしい男を囲め!」

 メタルサイボーグの命令を受け、獣人たちが凱の周りへ集まって退路を断つ。
 その様子を視認した凱は青い眼を鋭く細めたが、その顔に諦めの色など微塵にも見えない。切り抜けるチャンスを虎視眈々と狙っているのだ。
 そんな凱をせせら笑い、メタルサイボーグが自身の身体に装備された無数の銃口から火を噴かせようとしたまさにその時、上空からひとつの黒い影が降ってきた。

「グギャアァッ…!」
「ギェッ…!」
「ギャウッ…!」

 それと同時に、凱の周りを取り囲んでいた筈の獣人達から醜い悲鳴が上がる。

「何ッ!?」

 それに気づいたメタルサイボーグが驚愕の声を上げ、凱もその乱入者をはっきりと確認した。
 遺伝子操作により並みの獣よりも頑強に作られた筈の獣人の身体を易々とバラバラに切り裂いたその黒い影は、あっと言う間に場に存在していた獣人を全て倒し悠然とその姿を人工灯の下に現す。
 それは3m程の黒い体躯に鋭い爪が備え付けられた籠手…ドラモンキラーを装備し、黒と鈍い銀色、そして黄色のラインが入った装甲を身に纏った一体の竜人…ブラックウォーグレイモンだった。

「お、お前は何者だ!?」

 思わぬ乱入者に動揺を隠せないメタルサイボーグが叫ぶ。一方の凱は、乱入者の正体を推し量ろうと黙って目の前のブラックウォーグレイモンを見つめていた。
 明らかに獣人たちとは違うのも気になる要素のひとつではあるが、それよりも目立つのはブラックウォーグレイモンが佇む周りの空間。
 ただ黙って立っているだけだというのに、まるで陽炎のように歪み続けているのだ。
 その現象を気にせずブラックウォーグレイモンは喚くメタルサイボーグの方を静かに見遣ると、くだらないものを見るように眼を細める。

「お前に用は無い…邪魔だ。とっとと失せろ」
「なッ……!?どういう意味だ!!」
「言葉通りの意味だ…俺は弱い奴に興味は無い」

 ブラックウォーグレイモンはメタルサイボーグに向かってそう言い捨てると、これ以上煩わせるなと云うように、凱とメタルサイボーグの間へ遮るように移動する。

「なッ…なんだと!? 馬鹿にしやがって…邪魔なのはお前の方だ!!」

 激昂したメタルサイボーグはギリリと歯軋りをしたかと思うと、身体の銃口からタングステン弾の弾幕をブラックウォーグレイモンに目掛けて撃ち出した。

「!」

 凱が言葉を発する隙もなく、タングステン弾の放たれる雷鳴のような激しい銃撃音が大音量で鳴り響く。
 荒れ狂う弾丸の中では下手に動けない為、ブラックウォーグレイモンの後ろに居る凱はその場で防御の構えを取るのが精一杯だった。
 硬い金属同士がぶつかる音が絶え間なく続き、弾幕に巻き込まれた獣人の骸とアスファルトが粉々に砕け散り砂埃が巻き上がる。

「フフ…これで奴もエヴォリュダー諸共…」

 この攻撃を受けては只では済まないだろうと、弾丸を撃ち尽くしたメタルサイボーグは立ち込めた砂埃を勝ち誇った笑みで見つめる。
 しかし砂埃の晴れた先に見えたのは、メタルサイボーグには信じ難い光景だった。

「な…何故…」

 メタルサイボーグの顔が恐怖に歪む。
 それもそのはず。砂埃の中から現れたのは、弾幕を打ち出す前とまったく変わらない無傷のブラックウォーグレイモンだった。
 ブラックウォーグレイモンは発射されたタングステンの弾幕を、両腕のドラモンキラーで全て防ぎ切るという常人には到底成しえない芸当をやってのけたのだ。
 その背後で偶然守られた形となっていた凱も当然無傷で、ブラックウォーグレイモンの後ろから俄かには信じがたいという表情で顔を覗かせている。

「…今のが貴様の全力か?」
「ヒッ…!」

 ブラックウォーグレイモンの金色に輝く眼光に射抜かれ、メタルサイボーグが恐怖に引き攣った悲鳴を漏らす。
 後退りするメタルサイボーグをつまらなさそうに睨んだブラックウォーグレイモンは、ドラモンキラーの爪先へ赤い球状のエネルギーを発生させた。

「邪魔だと言った筈だ…失せろ!」

 そう言い放ったブラックウォーグレイモンは、赤いエネルギー球をメタルサイボーグ目掛けて放つ。
 逃げ切れずにそれを食らったメタルサイボーグは断末魔を上げる暇も無く、周りのコンテナを巻き込んで跡形も無く爆散した。

「さぁ、邪魔者は居なくなったぞ…」

 一連の光景を見ていた凱は驚いた表情のまま油断無くブラックウォーグレイモンを見つめていたが、振り向いて話しかけてたブラックウォーグレイモンを見据え、正体を確かめよう

と口を開く。

「答えてくれ、お前は一体何者なんだ…?」
「俺は…ブラックウォーグレイモン」
「ブラックウォー…グレイモン? バイオネットとは関係無いのか」
「そんな奴らは知らん。 俺は俺より弱い奴の命令は聞かない」

 そう答えた目の前の竜人に凱は未だ正体を測りかね、青い眼でただじっと見つめる。
 ブラックウォーグレイモンは凱のその瞳を見て、懐かしい存在を束の間に思い出していた。

(この眼…あいつアグモンに何処か似ている…)

 だがそんな思考を振り払い、ブラックウォーグレイモンはドラモンキラーを構えた。

「お前、俺と闘え!」
「な、なに?」

 いきなりそう宣言したブラックウォーグレイモンに、凱は面食らったような表情をした。しかし油断せずにブラックウォーグレイモンを見据えて、凱は真意を確かめようと問いかける。

「何故闘おうとする?」 
「お前と闘えば答えが分かる気がする。 さぁ、俺と闘え!」
「答え…?」

 金色の眼を煌かせたブラックウォーグレイモンに、凱はどうにか戦闘を避けられないかと苦悩する。
先ほど獣人を蹴散らしメタルサイボーグを粉微塵にした攻撃力の高さは決して侮れない。
メタルサイボーグによるタングステン弾の攻撃を受けても傷ひとつ付かなかった点を見ても、装甲の強度もかなりのモノだろう。
 ブラックウォーグレイモンの言う『答え』というものも気になるが、バイオネットよりも恐ろしそうな危機をどう切り抜けるかが問題だ。
 そんな風に凱が思考をめぐらせていると、先ほどの戦闘の余波や弾幕の跳弾によりグチャグチャになっていたコンテナの残骸を蹴散らして何かが迫ってきた。

「見つけたぞ生機融合体! 今日こそ貴様を捕らえて解剖に回してくれる!!」

 そうスピーカー越しに叫んできたのは、巨大な8m以上の体躯を持ち烏賊のような無数の機械触手をうねらせている幹部クラスのメタルサイボーグ。
先ほどのメタルサイボーグよりも巨大なそれは、凱とブラックウォーグレイモンを見下ろして八つのカメラアイを蠢かせていた。


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■作者からのメッセージ
はじめまして、黒いラム肉です。
しばらくフォルダの中にしまいっぱなしだった話ですが、やはり最後まで書きたいと思い、投稿しました。
ペースは遅いですがよろしくお願いします。
入念にチェックしていますが、誤字脱字などがありましたらご指摘下さい。
目次  

テキストサイズ:18k

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