この未来は知っていた。
十数年も前に奴――【英霊】エミヤ――との戦いで、流れてきた情報だった。
大切な者――愛おしい恋人・遠坂 凛――の手を振り払い、奴と同じく十人を救う為に一人を切り捨て、百人を救う為に十人に絶望を抱かせ、千人を救う為に百人の犠牲を出した。
それでも、俺は決して間違っていない。この手に救えたモノが在るのならば、この身が希望となった事が在るのならば、何処に後悔する必要が在るのだろうか。
ただ一つ、俺に後悔が在るとするのならば――それは、師にして恋人の遠坂 凛に対してだろう。
「全く、最後がアーチャーの奴と同じだなんて……」
そう、俺は数日の内に戦争を起こした犯人として拘囚台で処刑される。
空を見上げると、爺さん――衛宮 切嗣――が亡くなった日と同じ満月が綺麗な夜だった。
(爺さん、俺は――――誰かの正義の味方に成れたのかな……)
そして、その日の夜から二日か過ぎた晩に
「お前の処刑日が決まった、明日の正午だ」
と俺を捕らえている施設の上役が伝えに来た。
俺は、それを聞くと只々――そうか、明日かと言う感情しか湧かなかった。
多分それは、未だに自身の事よりも他人が大事と言う壊れた価値観が自分に在るからなのだろう。
しかし心の何処かでは、彼女――凛がこの場へ来ない事を望んでいる自分と、最後に一目だけでも凛の姿を見たいと思う自分の想いが存在する。
「なんて、未練がましいんだ……俺は」
そうして、俺は人生最後の夜を過ごした。
――――◆◇◆◇◆◇◆――――
衛宮士郎が処刑された時刻から数十分後、倫敦の屋敷の一角で一組の男女が会話をしていた。
一人は、赤い髪の成人男性。
一人は、黒い髪の成人女性。
赤い髪の成人男性の名を――衛宮士郎と言い、黒い髪の成人女性の名を――遠坂凛と言う。
「さて、これでめでたく戦犯衛宮士郎は死んだ事になったわ」
「これは、一体どういう事だ――凛」
事情を知っているのは遠坂凛のみで、衛宮士郎は訳が分からずに狼狽をしていた。
そこで、凛は悪戯が成功した様な笑みを浮かべた後に事情を士郎へ説明する。
「まず、今の私達の体だけど……大師父を通して、蒼崎製の人形になっているわ。一応、体に不具合が無いか確かめて頂戴」
凛の言葉に従い、自分の体に解析を掛ける士郎。
「……うん、何かしらの問題は無いみたいだ」
「そう、良かった。それで、何で衛宮君が遠く離れたこの倫敦に居るのかと言うとね。士郎に薬を飲ませた後、知り合いの魔術師に頼んで――肉体が死んだら魔法陣の上に置かれたモノに魂が宿る様に細工して貰ったの。覚えているでしょ、昔私の知り合いが訊ねて来た事を」
その言葉を聞き、過去の記憶を思い出す。
「ああ、あの時か」
士郎の記憶の中では、凛が見慣れない友人を工房の在る自室へ招いた事が在った。
「そっ。衛宮君の頑固さは知っていたから、一度自分の思う様にさせて見る方が良いかなと思ってね」
「その割に俺が旅立つ時、思いっきり反対していたよな」
「当たり前よ、何処の世界に自分の恋人が進んで死にに行くのを見過ごす女が居るのよ。あの時も今も昔も、私は士郎を幸せ一杯にする事を諦めていないんだから」
そう語る遠坂凛を見て、衛宮士郎は改めて彼女には敵わないと思い知る。
「さて、一度自分が思う様に生き抜いたんだから、今度は自分の為に生きる――良い、士郎」
「………………………………ああ、そうだな。今度は、自分の為に生きよう」
長い長い沈黙の果てに、正義の味方を目指した男は正義の味方では無く自分の為に生きる事を胸に誓う。
「良し! それじゃ、早速――必要最低限の荷物を纏めるわよ……士郎」
「ああ、わかっ………………如何意味だ、凛?」
「如何意味って、急がないと協会から代行者が来るから逃げる準備をするって言ったのよ」
「だから如何して、逃げる準備なんてする必要が在るんだ?」
士郎の言葉を聞き、溜息を吐き。
「あのねぇ、士郎。私は『肉体が死んだら魔法陣の上に置かれたモノに魂が宿る様に細工して貰った』と言った筈よ。いずれ、士郎が生きている事が協会にバレるわ。そもそも、口止めもしていないから――既に協会は士郎が生きている事を知っているかもしれないわ」
「それじゃ、何処に逃げる気だ?」
「此処に在るじゃない、その道具が」
そう言って、一本の歪な剣と思わしきモノを見せる。
「まさかっ、それは宝石剣か!?」
「そうよ。士郎が世界を飛び回っている間に、私は何としても完成させる必要が在ったの。だから、この十数年――大師父に弟子入りを果たした後は、死に物狂いで学んだわ。で、並行世界への道を開く事を残して、私の肉体は事切れたの」
「……凛。まさか、実験の最中にうっかりをして人形の体に魂を移したのか?」
その一言を言った瞬間、遠坂凛の雰囲気が一変した。
あっ、これは不味いと思った瞬間――
「あのねぇ! 私の体は、士郎が死ぬと同時に士郎と同じ様になる様に頼んだの! だから私は、うっかりで死んでも居ないし! 表向きはショック死になるのよ、わかった士郎!」
と怒声が響いた。
それに首を縦に振って答える、士郎。
「それじゃ、早速荷物を纏めるわよ。それが終わったら、さっさと並行世界へトンズラしましょ」
そう言った後、急に立ち止まり
「一応、聞くけど――――世界とは、契約して無いわよね?」
と、士郎に訊ねる。
「ああ、俺はあいつ――アーチャー――と違って、如何もそう言う気にはなれなかった」
士郎の言葉を聞き、只小さく
「……そう」
とだけ答える凛。
その言葉と士郎に見えない表情には、複雑な心境が現れていた。
――――◆◇◆◇◆◇◆――――
目が覚めると其処は、知らない天井だった。
いや、違うな。この天井は今でも思い出せる。
周りを見ると、何処か焦燥や絶望した色が表情に出ている子供がベットの上に居た。
(まるで、記憶の中に在る風景と同じじゃないか……)
そんな疑問を抱いていると、一人の草臥れたコートを着た男性が入室して来た。
「始めまして、士郎君。君はこのまま孤児院に預けられるのと、知らない小父さんに引き取られるの――どっちが良い?」
「……………………なんでさ!?」
一寸待て、如何いう事だ遠坂!? なんで並行世界に移動した筈が、過去に戻っているんだ!?
そう、俺に声をかけて来たのは見間違う事の無い――養父、衛宮 切嗣その人だった。
「うん、驚くのも無理はないと思うね。だけど、君にはそう言う選択肢も在ると言う事を知っておいて欲しいんだ」
いやいや、爺さんに引き取られる事に迷いは無い。けれど、気付いたらいきなり過去でしたと言うのは、余りにも突拍子も無さすぎる。
だが、まず俺がすべき事は
「あっ、いや、俺は爺さんと一緒が良いっ!」
と自分の意思を伝える事だった。
恐らく、凛も俺と同様の事が起こっている筈だ。
だから、凛との接点を消さない為にも俺は爺さんに引き取られる事にした。
何が起こる変わらない以上、出来るだけ歴史通りにしなければ……。
爺さんは苦笑いを浮かべながら、
「そっか。それじゃ、これから宜しくね――士郎」
と記憶に在る様に声を掛けてくる。
ああ、共に居られる時間は少ないだろうが――此方こそ宜しく頼む、爺さん。
そうして爺さんが徐(おもむろ)に、口を開く。
ああ、懐かしい。
次の言葉は
「――僕はね、魔法使いなんだ」
と言うのか、そう思っていた。
「士郎、僕はね――
魔法少女なんだ」
「……………………………………………………………………はぁ!?」
えっ!? 魔法使いじゃなくて、魔法少女!?
一寸待て、切嗣。その言葉は可笑しいだろ。
魔法少女と言うのは、女性の幼い子供が憧れるモノで在って――断じて、成人した男性がなる者じゃない!
って、違ーーーーーーう!!!!
何を混乱しているんだ、俺は!
「体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている。体は剣で出来ている」
良し、もう大丈夫だ。もう一度、切嗣に確認を取ろう。
「…………ゴメン爺さん、もう一度言ってくれるか?」
「いいよ、士郎。僕はね、
魔法少女なんだ」
ああ、聞き間違いじゃなかったのか……。
「ところで、士郎。さっき言っていた、体は剣で出来ていると言うのは何だい?」
「気にしないでくれ、爺さん……頼む」
俺は、変態じゃない。魔法少女になる位なら、世界と契約して“抑止の守護者”の方が断然良い。
そして、凛よ――間違いなく、此処は並行世界だ。
――――◆◇◆◇◆◇◆――――
気が付くと、其処は良く知った自分の部屋だった。
「あれ? 私……、士郎と一緒に……」
「凛! 気が付いたかっ!」
えっ、父さん!?
「父は、焦ったぞ。遠坂伝来の技術を伝えている最中に、気を失い――娘を亡くしたかと思ったぞっ!」
そう言って私の手にルビーを握らせる。
「――ぇっ!?」
何で、寄りにも寄ってルビーなんて握らせるのよ――父さん!
しかし、此処で私の前に思いもよらない言葉が思いもよらない相手からかけられる。
【貴女、リンさんですね。この変態親父を如何にかしてくれませんか?】
そう、私に味方をしたのは何を隠そう――ルビー、その物だった。
「ふむ、仕方がない。この父が、偉大なる手本を見せようじゃないか!」
そう言うと、ルビーを片手に
「ムーン、ヒラヒラヒラ、テクマク、パンチラ、魔法少女・とぅさか とぅきぃおぉみぃになるぅぅぅぅぅぅぅ」
と可笑しな呪文を唱え、光に呑まれる。
そして、光が納まると同時に姿を見せた父(仮)。
「おげぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
叫んで、吐いた。
それはいっそ、清々しいまでに吐いた。
アレは向こう五十年しても忘れない位におぞましい姿に……。
父の姿は、猫耳と兎耳を生やし、半透明のセーラー服の下に
下着っぽい何かを着け、パンツ丸見えの男性性器が半分位隠れるのがやっとのスカートを着用し、すね毛を生やした生脚を晒し、九本の狐の尻尾を生やした姿だった。
その変態が私に寄って来る。
私は堪らず
「来るなぁぁぁぁぁぁ、変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
と、父(仮)にガントを叩き込む。
【はぁ、本気で死んでくれませんかね――この変態親父】
――――◆◇◆◇◆◇◆――――
士郎と凛がこの並行世界に来てから、半年が過ぎた。
士郎は引越しのゴタゴタで、遠坂凛に会う事は叶わず。
凛は変態(父)の所為で、衛宮士郎に会う事が叶わず。
そして、半年が経過した今日――二人は公園で再会する事が出来た。
「………………久しぶりね、士郎」
「………………ああ、凛か」
二人とも半年と言う月日で既に精神は摩耗しきっており、再会した事を喜ぶ事も出来なかった。
「…………………………………………なぁ、凛。爺さんが変態なんだ」
「…………………………………………奇遇ね、私も父さんが変態なの」
互いに長い沈黙の後にたった一言を言い合う。
幼い子供が二人揃って、この世の終わりの様な雰囲気を醸し出して公園のベンチに座る奇妙な光景が其処には在った。
「…………………………………………なぁ、もしかしてせいは――」
「私は、知らないわよっ! 知らないたっら、知らないの! あんな変態大戦争は!!!!」
「……………………………………そうか。聖杯戦争も聖杯戦争じゃなくて、変態戦争になっているのか」
絶望に打ちひしがれる士郎と狂った様に泣き叫ぶ凛。
そんな二人に世界は更なる絶望を届けた。
「おい、向こうで変態二人が暴れているぞ!」
その声を聞き、蜘蛛の子を――否、ゴキブリの如く去って行く人々。
「――体は鬱と恥で出来ている」
士郎の言葉と共に聞こえて来る元凶の声。
「言峰綺麗、此処で会ったが百年目! 今日こそ、その魔法少女生命と今生の最後だ!!」
「熱くなるな、切嗣! 綺麗を殺すのは元、師で在った僕の役目だ。切嗣は周りの被害を抑える事と、彼の魔法少女の生命線である魔法のステッキを頼む!」
「ふっ、実に愉快だ。ならば私は、メイクチェンジで衛宮切嗣と遠坂時臣の相手をしよう」
そう言って、メイク道具を取り出す――変態三号こと、言峰綺麗。
「――血潮は絶望で、心は崩壊」
「あははははははははっはあっはあはははは………………!!!!」
士郎は更に沈み込み、凛は泣き笑い狂う。
「行くぞ、衛宮切嗣!」
「ああ、共に行こう遠坂時臣!」
「「ダブル・カレイド――エヴォリューーーーーーショーーーーーーーーーン!!!!!!」
更に変態街道を好き進む父親と養父。
「――幾度の羞恥心を持って、敗れ」
士郎は自己に働きかける呪文と唱え、凛は地面に両手を付く。
「ならば、私も――スターーーーーープ、アップ! マジカル・キレイ・セカンドアーーーーーープ」
敵も最早、羞恥心など元から無いとばかりに変態街道を突き進む。
「――唯の一度も常識は無く。唯の一遍の希望も無い」
「もぅいやぁぁぁ………………」
尚も続く、暗く沈みこんだ自己詠唱と泣き崩れる凛。
「ふふふ。この程度か、時臣師に切嗣!」
「まだだ、僕も時臣君もまだ、諦めていない!」
「そうだ、諦めたそこで終わりなんだ!」
そんな二人の前で、冬木の変態を独占する三人の男達。
「――彼の者は常に一人、羞恥心の丘に埋もれ埋没する」
「……ヒック、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
遂に悲壮感だけで死にそうな顔をする士郎と、精神年齢を問わずに大泣きする凛。
「やはり、魔法少女が一番似合うのは私だな」
「何を言う、綺麗ィィィ!」
「そうだ、それでも僕たちは魔法少女なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
流石の正義の味方も、真性の変態には敵わなかった。
「――ならば、人生こそ汚点」
「もおぉ、おうちにかえしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
士郎の瞳には絶望の色が浮かび、凛は半ば狂って叫ぶ。
「なんだと! 私の魔法少女障壁が!?」
「後悔しろ、綺麗!」
「これが、僕たちの切札!」
「「魔法少女、スペシャルアタッーーーーーーーーーーーーーーーーーク!!!!!!!」」
変態達の戦いが終わりかけた次の瞬間、その声が世界に響いた。
「――この体は、無限の鬱と恥で一杯だった」
――――◆◇◆◇◆◇◆――――
「……な、なんだ此処は?」
「これは、……一体?」
「ふむ、何やら途方もなく危険な気がするな」
士郎の固有結界に呑まれた三人の変態は、その世界の危険性を肌で感じ取っていた。
そう――この固有結界の中に於いては、士郎は王であり神。
だが、この世界は本来の無限の剣製と異なる性質を持つ。
この世界の性質は酷く簡単――士郎が無かった事にしたい事柄に対して、無限の鬱と恥が黒い太陽から対象に向って襲い掛かる。
これに対する対処法は簡単で、士郎にその考えを改めさせるか認めさせるだけで攻撃対象から外れてしまう。
しかし、この三人の変態は……変態の度合いが行き過ぎていた。
故に世界の王、神たる士郎は――凛と共に鬱と恥の大地に沈み、探し出すことが困難な状況に陥っていた。
【アハ〜。御三方、やり過ぎましたね。この世界から抜けるには術者を探さないといけないのに、術者さん相当深い所まで沈み込んじゃってますよ】
「何? ルビーちゃん、それは如何いう意味だい?」
【そのままの意味ですよ〜。いや〜、それにしても凄いですね。固有結界そのものが変質するほどの鬱や恥をかかせるなんて、ルビーちゃんでも此処までは出来ないですよ】
ルビーがそう言った瞬間、大地が、空が、地平線の果てから黒い泥―――アンリ・マユの泥のイメージを伴って、真性の変態×3とルビーに襲い掛かった。
――――◆◇◆◇◆◇◆――――
「――はっ!」
気が付くと其処には、真性の変態だった肉塊×3が横たわっており。
凛は俺の腕の中で、愛くるしい寝顔を浮かべていた。
【いやー、流石に死ぬかと思いましたよ――シロウさん】
「お前、ルビーか」
そう言って話すルビーは、辛うじて杖だと言うのが解る程度だった。
【そうですよー。此処まで私を|ズタボロ《キズモノ》にしたのは、シロウさんが初めてじゃないんでしょうか?】
「なんていうか、ルビーが凄くまともに見えるな」
【そうですね〜、他の並行世界なら兎も角――この世界だと、素で私以上の変態さんがいらっしゃいますからね】
「……ぅ、ぅうぅん」
俺とルビーの会話で、目を覚ました様子の凛。
「……ああ、しろうだ、しろうぅ」
まだ完全に頭が目覚めていない凛は、そう言って俺に抱き付いてくる。
【焼けますね〜、シロウさん】
そして少しずつ意識が覚醒し、完全に意識が覚醒した凛は俺に向って在る一つの提案をする。
「士郎、此処とは別の並行世界に行きましょう! 私はもう、この世界に一秒たりとも居たくないの!」
「それは賛成だが、如何やって並行世界に渡るんだ?」
「此処にルビーが居るじゃない」
【そうですよ〜、シロウさん。私も凛さんと同じく、一秒たりともこの世界に居たくないんです。折角、同じ目的の同士が居るんですから協力しましょうよ】
「そうだな、わかった。それで、凛――如何してこの世界は、こんなにも可笑しな世界になったんだ」
次の目的が決まった事で、俺は兼ねてより疑問に思っていた事を訊ねる。
【アハ〜、それはですね――第三回目の聖杯戦争が原因なんです。あの時の最終的な勝利者が、『俺は、魔法少女と言うのを見たいんだ! だから、世界中の魔術師よ――魔法少女になれ!』って叫んだんです。呆れますよね〜。結果、世界中の魔術師は自分を魔法少女と認識してしまったんです。後、かなり現代の魔法少女番組の影響を皆さん受けていますよ。おまけに本来なら、シロウさんや凛さんの知るアンリ・マユが呼ばれる筈が――何処をどう間違ったのか、名も知らない変態さんの【英霊】が呼ばれて最後まで生き残ちゃったんですよ〜】
「じゃ、なんで俺や凛にその影響が無いんだ?」
「士郎、これは私の憶測何だけね。私と士郎が影響を受けなかったのは、世界の修正が働いたからなんだと思うわ」
「如何いう事だ?」
「良い。私と士郎は、元々並行世界からこの世界に来た。けれど、この世界には元々遠坂凛と衛宮士郎となる人物が居た。なら、世界は矛盾を許さない。だから、私と士郎はこの世界の遠坂凛と衛宮士郎となる人物と融合させた。この時、意識を失ったのは融合する上での無理を少なくする為なんだと思うわ」
その凛の説明になるほどと、納得する。
「さっ、さっさっと並行世界へ渡る為に準備をするわよ」
「そうだな、凛」
こうして、半年と言う期間を置いて俺は新しく並行世界渡る事にした。視界に映る三つの肉片は無かった事にして……。
――――◆◇◆◇◆◇◆――――
おまけ
そこは輪廻の輪より外れた――“英霊の座”。
本来なら不変の筈のそこに変化が起こった。
「くそ、ジークフリートが飲まれた!」
「待ってくれ、
木花咲耶姫が片足を引っ張られている! 誰が手を貸してくれ!」
「駄目だ、お前も鬱になりたいのか! 諦めろ!」
「ギルガメッシュは!?」
「奴は、いの一番に鬱と恥の大地に沈んだ!」
「騎士王は、如何した!?」
「奴も向こう側だ! 他にもトオサカ リンにマトウ サクラ。メデューサにヘラクレス、ランスロットに他数名が鬱と恥の大地を広げている!」
「原因は何だ!」
「何処かの世界の情報を得た、エミヤ シロウがこの浸食の基点だ!」
「奴は何を見た!?」
「奴の根底から鬱や恥に変える――素敵変態世界だ!」