作者:佐藤C
2012/07/22(日) 14:47公開
ID:fazF0sJTcF.
「……木乃香が狙われましたか。しかし腕利きの者は
皆、明々後日まで出払っているのです…向こうもそれを知っていて事を起こしたのでしょうがね。
…明後日まではネギ君達に任せるしかないですか…」
「……ところで父さん、千草って名前の呪符使いに心当たりはないか?」
「………千草。…そうですか、彼女が…。
ええ、覚えていますよ。私が先の大戦でサウザンドマスターの戦友だったと知ると、あからさまに敵意を剥き出しにしてきましたからね。
彼女は先の大戦で西洋魔術師に両親を殺されていますから…その恨みでしょう」
「…明日はアイツら奈良らしいんだけど、敵は動くと思うか?」
「いえ、
京都は千草さん達一味にとっても
本拠地ですから、奈良まで出向いて行動は起こさないと思います。明日は何らかの準備に専念するでしょう。
やはり、おそらく明後日が正念場………」
「明日からは俺も張り付く。任せるって言った手前、堂々とついて行くのは気が引けるしな」
「おや、刹那君とそんな約束を?」
「今度手合わせしてみたらどうだ?だいぶ腕を上げたぞ」
「ほう、それは楽しみですね……この件が片付いたらそうしましょうか」
修学旅行一日目の深夜、とある寺社のとある和室で為された会話。
少しして、この部屋に灯された燈台の火は、フッと静かに掻き消えた。
◇◇◇◇◇
――修学旅行、二日目。
ネギは再び狙われる恐れのある木乃香に加え、仲間の明日菜・刹那もいる五班と行動を共にしていた。
一日目と打って変わって関西呪術協会からの横槍はなく、彼女達は修学旅行の楽しいひと時を過ごしていく。
「…あ、あの、ネギせんせー…私……!」
……しかし、何事も無かったという事もなく。
ネギは奈良公園である少女に、思いもかけない言葉をかけられた。
――すぅ――〜〜……
「…私、ネギ先生のこと出会った日から好きでした!
私…私ネギ先生のこと大好きです!!」
「…………え……? …の、のどかさん………!?」
第二章-第15話 二日目、悩む若人
「コラお前達、もうすぐ就寝時間だぞ。さっさと自分の班部屋に戻りなさい!」
(へへーん新田のバーカ。就寝時間?徹夜の勢いで遊びまくるに決まってんじゃ――ん!!)
二日目の夜。
奈良での自由行動を終えた麻帆良女子中3年生は、ホテル嵐山で各々自由に寛いでいた。
キャーーーーーーッ!
キャハハッ
すると電源を切った筈のラジオから…
ドタンッバタン!!
キャッキャッ
この世のものとは思えぬ声がーーっ!!
ギャアアーーーーーーッ!!
「コラァ3−A、いーかげんにしないか!!
いくら担任のネギ先生が優しくとも私はそうはいかんぞ!!」
苦笑いを浮かべるしずなと瀬流彦を伴って、新田教諭が3−A生徒達を叱りつける。
そして彼は、騒ぎ好きの彼女達にとって拷問に等しい処遇を突きつけた。
「これより朝まで自分の班部屋から退出禁止!!見つけたらロビーで朝まで正座だ、わかったな!!」
「ええ〜っ!?」
「ロビーで正座ぁ〜〜〜!?」
「しかも朝までーーっ!?」
青筋を浮かべて荒い息を吐きながら、新田教諭は憮然とした顔のまま下階へ降りていった。
それを確かめてから3−Aは、控えめながら再びワイワイと集まって口々に愚痴を零しあう。
風香「ぶー、つまんなーい。枕投げしたかったのに〜ネギ君と」
柿崎「ネギ君とワイ談したかったんだけど…♪」
まき絵「ネギ君と一緒の布団で寝たかったのにな――」
あやか「いーから皆さんさっさと部屋に戻りなさい!!」
「……ねえみんな?新田はああ言ってたけど、このまま夜が終わるのはやっぱり勿体ないじゃん?
いっそ派手にゲームでもして遊ばない?」
新田教諭の言葉を受けて渋々ながら解散しようとするクラスメート達に、3−A生徒・朝倉和美が怪しい話を提示した。
「賛成ーーー!!」
「反対ーー!!正座イヤーーー!!」
「ゲームってどんなー?」
『くちびる争奪!!修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦!!』
〜ルール解説〜
・各班から二人ずつ選手を選ぶ。
新田先生の監視を掻い潜って、旅館内のどこかに居るネギ先生の唇をGETすれば勝利。
・班対抗だから妨害可能!ただし武器は両手の枕投げのみ
・上位入賞者には豪華賞品プレゼント!?
・新田先生に見つかった者は他言無用・朝まで正座。「死して屍拾う者なし」。
「…………朝倉さん」
「…あー…、やっぱダメ?いんちょ」
顔を俯かせて呻くような声を出すあやかに、朝倉は腕を組みながら冷や汗を浮かべた。
ネギLOVEな彼女なら食いついてくるかと思ったが、やはり委員長としては許可できな……
「――やりましょう…クラス委員長として公認しますわ……!!(……ハアハア)」
「……ども」
鼻息を荒くして自分の肩をがっしり掴んでくるあやかに対し、朝倉は若干引いた。
「見つかった人は助けないアルか!?」
「きびしっ!」
「豪華賞品って何だろ?」
「面白そ――♪」
「でも見つかったら正座だよー?」
「その方が緊張感あっていいって!」
「よーし異論はないね!?各班10時半までに私に選手2名を報告!!
11時からゲーム開始・だーーーーーーーっ!!」
『おおーーーーーー!!』
………盛り上がるクラスメート達を横目に、朝倉は二ヤリと口角を吊り上げた。
(フフフ、ラブラブキッス大作戦とは仮の姿。その実態は「仮契約カード」大量GET大作戦さ!!)
――ひょこっ
笑みを浮かべる彼女の傍には、一匹の白いオコジョ……カモミールの姿があった……。
・
・
・
今日の、まだ時間帯の早い夜のこと。
『………やっぱ魔法使いの取材は一筋縄じゃいかないかぁ』
そう漏らしながら朝倉は、その手にカメラを抱えながら悔しそうに倒れていた。
ネギが魔法を使う場面を偶然目撃した彼女は、彼を取材しようとしてなんやかんやで失敗する。
するとそこに、人語を解する不思議なイタチ…いやオコジョが現れた。
『そんなコトねーよ姉さん、アンタ光るモン持ってるぜ!!』
・
・
『くくく……じゃあ契約成立♪いいんだよねカモっち?報酬ははずんでもらうよ?』
『OK、OK。これからよろしくな姉さん!それじゃあ準備開始だぜ!!』
・
・
――そして時間は現在に戻る。
「ヌッフッフ♪既にこの旅館の四方には魔方陣が描いてあるべ。これで旅館内ならどこで兄貴とチューしても即
仮契約成立!!カードが一枚発生する度にオコジョ協会からの仲介料5万オコジョ$儲かるから……
ひゅーっ!!俺っち達百万長者だぜ姉さん!!」
「更に今回は班&個人の連勝複式トトカルチョも実施するよ―――!!
いやぁー大儲けだねカモっち!!」
「「うぇへへへへ」」ヽ(≧∀≦)人(≧∀≦)ノ
こうしてパパラッチ娘・朝倉和美とオコジョ妖精アルベール・カモミールは、何とも欲にまみれた結束を結んだのだった………。
はたしてネギの(唇の)貞操はどうなるのか!?
3−Aの乙女たちはこのまま、欲望に走るパパラッチとエロオコジョに乗せられて(唇の)純潔を儚く散らせてしまうのか……っ!?
◇◇◇◇◇
ホテルと言いつつ見た目は旅館。
そんなホテル嵐山の瓦屋根に、寝そべって佇む一人の人影がある。
黒いズボンとグレーのスニーカーを履き、赤い長袖Tシャツの上から黒いロングコートを羽織るその青年は……衛宮士郎。
彼は千草一味の襲撃に備えて修学旅行生を今日一日尾行し、今はこの場所で見張りをしていた。
詠春の予想通り奈良では特に仕掛けてこなかったが、まだ夜は長い。
未だ警戒を怠る訳にはいかないのだが……ある理由から士郎は既に、上の空の状態だった。
京都は昔ながらの街並みを残すための条例が施行されており、一部地域にはビルなどの高い建物が多くない。少なくともこのホテルの周囲には、高い建物がなくとても見晴らしが良い。そして今夜の天気は快晴で雲もない。星がよく見える夜だった。
「……はあ………」
しかし彼の心中は、空と違ってあまりにも曇天だった。
(………わかってる。俺が幾ら一人で考えたって、マトモな答えなんか出ないってことくらい)
「衛宮切嗣」の過去を聞かされた夜からずっと、士郎の頭を離れないその疑問。
「自分は一体、何者なのか」―――…。
(間違いなくまだ起きてる。でも、やっぱりなぁ………)
しかし気が引けるのも事実だ。
この程度の事で…"彼女"を煩わせるのは。
……再び思考の海に潜って数分。結局彼は、自らの懐からソレを取り出した。
◇◇◇◇◇
『私、ネギ先生のこと出会った日から好きでした!
私……私、ネギ先生のこと大好きです!!』
『ええーー!魔法がバレた〜!?しかもあの朝倉にーーー!!?』
『安心しな兄貴、ブンヤの姉さんは俺っち達の味方だぜ!』
『報道部突撃班・朝倉和美!カモっちの熱意にほだされて…ネギ先生の秘密を守るエージェントとして協力していくことにしたよ。よろしくね♪』
「はぁー。今日も大変な一日だったなー……」
自分に割り当てられた304号室で、ネギは一日の疲れを溜め息と共に吐き出した。
(昨日のおサルのお姉さんは襲って来なかったけど、親書を渡すまでは油断できない。
…うう、まだ親書渡せてないよ……。明日の完全自由行動中には絶対に渡しに行かないと……)
そしてネギを悩ませる、目下の最大の
件は―――……。
(のどかさんへの返事、どうしよう……)
―――そのとき時計の針が、夜の11時を指した。
・
・
・
ENTRY:
1班-風香・史伽
2班-古菲・楓
3班-あやか・千雨
4班-裕奈・まき絵
5班-のどか・夕映
『あーあー、テステス…こほん』
(無断で)機材を運び込まれたその空き部屋は、無数のテレビモニターとコードで溢れ返り、さながら朝倉専用の放送室と化していた。
モニターを管制するカモの合図に応え、彼女はマイクを握って高らかに宣言する。
『いくぜ朝倉の姉さん!3、2、1、キュー!』
《―――修学旅行特別企画!!
「くちびる争奪!!修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦」〜〜〜!!!》
『きゃーーっ!!ホントに始まっちゃったよ〜〜〜!!』
『なかなか本格的じゃん――♪』
各部屋で3−A生徒達の歓声が沸き上がる。ホテル嵐山の監視カメラと朝倉の居る空き部屋のモニタ、そして3−A生徒達の宿泊部屋のテレビはなんと、連動して同じ映像を流していた。
憐れ監視カメラは自身が映した映像をハックされ、ホテル内を実況中継させられているのだった。
《それでは――――ゲーム開始!!》
・
・
・
―――ゾクリ
「…な、なんだろこの寒気……(ブルブル…)」
ホテルに満ちる妙な気配を感じ取り、ネギは体を震わせた。
(
部屋には居ない方がいいかも?ヘンな殺気みたいなものを感じるし……)
「でも抜け出したのが他の先生達にバレたらとマズイよね。
よし、刹那さんから貰った「身代わりの紙型」を使おう!えーと、この紙に筆で名前を書けばいいんだよね」
紙型に名前を書けば、それが本人に成り替わって命令通りに行動してくれる。日本古来の魔法「陰陽道」の一種である。ネギは慣れない筆で紙型に名前を書き始めた。
「ぬぎ」
「みぎ」
「やぎ」
「ホギ・ヌプリングフィールド」
「ネギ・スプリングフィールド」
三週間で日本語をマスターした天才(笑)にも関わらず、数枚の書き損じを経てようやくそれは完成した。
「ふぅ、やっと書けた。筆で書くと緊張するなー、たくさん失敗しちゃったよ。
それじゃお札さん、僕の身代わりになってください!」
――パアッ…!
《…こんにちは、ネギです》
眩い光を放った紙型は一瞬ののち、僅かな煙を出してネギそっくりの姿に変化した。
「わーっスゴイや!本当に僕にそっくりだ!
それじゃあ僕の代わりにここで寝ててね。よーし、パトロール行って来ます!!」
《はーい》
命令を与えた「ネギ」に留守番を任せ、ネギは安心して窓から部屋を出ていった。
……そしてネギは気づかなかった。
《…ぬぎです》
《みぎです》
《やぎです》
《ホギ・ヌプリングフィールドです……》
書き損じた紙型が、勝手に動き始めていた事を………。
◇◇◇◇◇
「あー………もしもし。……えーと……もしもーし…? …あーあー…………出ないな」
士郎が取り出したのは、赤と銀を基調とした模様が描かれた、長方形の白いカード…仮契約カードだ。
それが持つ念話機能を使って、士郎は自らの思念を遠く離れたあの人物に送り始めた。
「おーい、エヴァ!」
しかし仮契約カードの念話機能は何らかの要因で妨害され易く、未だに回線は繋がらない。
「………………。」
「………金髪幼女――…(ぼそっ)」
『…そうか、知らなかったな…そんなに死にたいか貴様……』
「ッおわぁあっ!?(びくぅっ!!)ごっごめんなさい!!」
邪な考えを実行に移した直後、よく知る少女の声が頭に響く。慌てて士郎は謝罪を口にし、思わずその場で土下座した。
ほ、ほんの出来心だったんです!by士郎
『―――悩みごとか?』
「………え…」
的を射られた彼女の言葉に、士郎が驚いて絶句する。
しかし事情を知っているエヴァからすればむしろ、今か今かと待っていたと言っていい。
……そんな落ち着かない自身の様子を、エヴァが茶々丸に指摘され(からかわれ)ていたのは余談である。
“―――衛宮切嗣の話を聞いたのなら、そろそろだと思っていたよ―――”
『それでいったい何事だ?従者の面倒を見てやるのも主人の役目だ、言ってみろ。
どんな悩みか知らんが、まあ…相談には乗ってやろう』
何もかも知っている体の彼女を不審に思うも、士郎は己が抱えたその疑問を素直に吐き出した。
「…………自分が誰なのか……わからないんだ……」
―――俺は「俺」なのか。俺は『彼』なのか。一体、どちらなのか―――。
『くだらん』
「…………ぐぅ。」
しかし予想通り、それは容易く一蹴された。
(い…いや解ってはいるけどさ。こんな女々しい事で悩んでるのは情けないって。
…まあそもそも、こんな情けない事を相談できる相手なんてコイツか師匠くらいだけど……。)
若干肩を落としながらも、仮契約カードを額に掲げ続ける。
そんな士郎の様子に気づかず、エヴァンジェリンは容赦なく彼を突き離した。
『それ程までに自己の存在証明が欲しいなら、役所に行って戸籍や住民票でも確認してろ』
「………っ!お前な、そういう事じゃないだろう…!!」
『―――全く、呆れた奴だ。お前の師匠はいったい誰だ?』
馬鹿にしたような返答に食ってかかろうとした士郎だが、次いで投げかけられたその問いに、思わず疑問符を浮かべて口を噤んだ。
「……そんなの、『千の刃』の…ジャック・ラカン―――」
『そう、それでいい。ならば奴なら何と言うか考えろ。それで答えが出るハズだ』
(………師匠なら?)
そんな事で解答が得られるものかと士郎は訝しむ。
しかしそれで悩みが払拭されるならと、半信半疑でその言葉に従った。
―――『そんな小せえコト気にすんな』( ´∀`)┌=3
(………違うな。)
―――『ったく、いつも考え過ぎなんだよてめえは。』┐( -д-)┌
(………そうじゃなくて…)
(考えろ、師匠ならなんて言うのかを―――)
『
どうでもいいじゃねえか、
んなこたぁ』
そう言って不敵に笑う、ラカンの姿が脳裏に浮かんだ。
「…………ぷっ、はは…、ははっ………!!!」
士郎は目に手を当てて笑いだす。
―――ああ、何で気づかなかったのか。
そうだ。あの人ならこんな事、きっと最初から問題にもしないんだ。
(「俺」は『俺』だ。でも俺はそれを信じきれない。肯定なんてできやしない。…でも)
――――〈俺〉が此処に
在る事を、誰も否定する事だってできやしない。
なら―――――
(………だったら今は、それでいい。)
口の端を上げて薄く笑う士郎の顔は、清々しく晴れ渡っていた。
「…ありがとう、エヴァ」
『ああ全くだな。だがまあ仕方あるまい、不甲斐無い従者に喝を入れてやるのも主の仕事だ。これからも甲斐甲斐しく私に尽くすがいい』
「はいはい、了解しましたよ"
闇の福音"」
礼を言えば返ってくるのは、いつもの憎たらしく…愛すべき主の声。
(―――ああ、本当に…)
「お前に逢えて、本当に良かった」
『―――ッ!!?』
思わず口を突いて出たその本音。
この何の気ない一言には、言い表し様の無い…万感の思いが込められていた。
しかし言われたエヴァといえば、不意を突かれた思いで息を呑んで狼狽える。
そして士郎はそれに気づかなかった。
「じゃあなエヴァ、夜更かししないで早く寝ろよ。茶々丸にあんまり我がまま言わないようにな?
――おやすみ、エヴァ」
『え、あ・しろ…ちょっと待ておま…』
―――ブツッ
少女の制止に気づく事なく念話を終えた彼は、ふと空を見上げて目を奪われる。
「……なんだ、今日はこんなに綺麗だったんだな」
小さくとも確かに輝く星々の煌めきに、士郎は目を細めて呟いた。
「………あれ、なんか旅館の周りにヘンな魔方陣があるな?」
そしてようやく、この男も事態に気づき始めたのだった。
◇◇◇◇◇
『おお――っとぉ!?ゴールのネギ先生の部屋の前で1班と5班がエンカウント!
両班とも敵を欺く移動手段を使っていたようだが運が悪かった!!バトル開始ーー−!!』
楓から忍術もどきを習っている鳴滝姉妹が天井裏から現れ、非常口から侵入した夕映・のどかと鉢合わせる。ちなみに双子姉妹は何故か忍装束のコスプレをしていた。
(く、こんなところで時間をかけるワケにはいかないです!)
のどかを勝たせたい夕映はこの状況に対応し、瞬時に思考速度を引き上げた。
「…ここは私が食い止めるです!!のどかは早く先生の部屋へ…ッ!!」
「ゆ、ゆえっ…!で、でも……あうぅっ…!!」
字面だけ見りゃ悲壮感漂ってるかもしれないけど、これただのゲームなのよね。
「フッゆえ吉。我ら甲賀忍軍に敵うと思うてか!!」
「お、思うてか!!……でござる〜」
「おっ?エモノ発見アル!!」
((((くーふぇさん/くーふぇ!?))))
そこに現れた新たな乱入者は、体力自慢の2班――古菲と楓。
新たな獲物を発見した古菲は嬉々として、廊下を曲がった向こうから四人に向けて突撃して来る。
彼女達の参戦で、304号室に面する廊下は一気に三つ巴の様相を呈した。
「ハイヤ―――ッ♪」
「早くっ、ドアを閉めますっ!!」
「ゆ…あうっ!!」
夕映は体当たりでのどかを突き飛ばし、彼女を強引にネギの部屋へ押し入れた。
―――バタンッ……!
「…ご、ごめん、ゆえ……。………あ」
「ネギ
先生――――………」
のどかの視線の先には、電気の消えた和室で布団に横になるネギがいた。
彼はのどかの来訪に気づかず、穏やかに胸を上下させて寝息をたてている。
(せ、せんせーとキス…………。)
彼女はネギの寝顔を見つめるだけで、顔が熱くなるのがわかった。
自分の心臓が煩いくらい動いている。鼓動は一向に鳴り止まない。
極度に緊張したその状況は、下手すれば呼吸すら忘れてしまいそうだった。
それでものどかは、ネギの方へ歩を進める。
彼女はそのまま、ネギの傍に腰を下ろして―――
「すみませんネギ先生……こんな形でー…………」
「でも…でも、私 嬉しいです……。先生…キス、させてください………。」
《わかりました》
「―――え」
のどかは明かりのない客室で、何者かの眼が光った気がした。
《キスですか》
《チュー》
《いただきまーす♪》
《了解しました》
ぬぎ、みぎ、やぎ、ホギ…書き損じの紙型から生まれた四人の分身ネギ達が、のどかの周りを取り囲む。
この事態の原因は分身ネギ及び書き損じの分身が、のどかの言葉を命令として受け取ってしまったためである。そしてそれを、のどかはおろかネギ本人すら知らなかった。
「ひゃああああああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
こうして深夜のホテル嵐山に、のどかの絶叫が木霊した。
…そりゃリアルに同じ人間が五人もいたら驚くよねぇ。
◇◇◇◇◇
その頃、エヴァンジェリン邸。
「マスター、何かいいコトでもあったのですか?」
夜の読書に勤しむ主のために紅茶を準備していた茶々丸は、キッチンから出てくると口を開いてそう訊ねた。
「……な、なんだイキナリ」
「いえ、よくわからないのですが…どこか機嫌がいいように見えたので」
「………そうか」
そんな呟きだけ返して、エヴァンジェリンはカップを受け取って紅茶に口をつけた。
「…心配ではありませんか?」
「まさか」
誰が、とは、どちらも口にしない。
「アイツは大丈夫だよ」
(そうさ、もともと私の助言など必要なかったんだ。何故ならあの馬鹿は……)
細かい事でウジウジと悩むくせに。
いざという時は迷いも弱さも吹っ切って進んでいく奴なんだから、アイツは。
「………マスター」
「ん、今度はなんだ?」
「…いえ。なんでもありません」
今度こそエヴァンジェリンが笑みを浮かべていた事を、茶々丸は胸に仕舞っておくことにした。
<おまけ>
※注意! 今回の<おまけ>は作者の暴走によりR15作品と化しています。またR18に及ぶ内容を想起させる恐れもあるため、15歳未満の方はブラウザの「戻る」をクリックして直ちにこのページを退出してください。
また15歳以上であっても、今回の<おまけ>を閲覧する事は推奨されません。この先に進む際はあくまで自己責任でお願いします。
まあ何が書いてあるかというと、要するにちょいエロです。
但し、この先に進もうとされる読者様に申し上げますが、貴方様方が期待されるほどのエロ成分を書く技量が私にはありませんので、過度な期待を胸に抱かれる事のないようご注意ください。
「本編に出番の無い、あの
女の妄想」
自分という存在に不信を持って悩む士郎。
そんな、ホテル嵐山の瓦屋根の上に座って佇む彼を見守る、一人の女性がいた。
柚衣(………坊ちゃま……)
彼女の名は鍋島柚衣。第12話で登場した詠春に仕える巫女の一人であり、少女時代の出来事から士郎を溺愛する人物である。
柚衣(ああ坊ちゃま…あんなにお顔を曇らせて、いったい何があったのでしょう……?)
濡烏の髪を後頭部で団子の様に結い上げた頭を抱え、青縁メガネの奥の瞳が不安で揺れる。
そんな様子で士郎を遠巻きに眺めていた彼女であったが、士郎が懐から札の様なものを取り出す姿を視界に収めた。
柚衣(…あれは?――まさか!?)
仮契約カード。一部の西洋魔術師が持つという、従者との契約の証である魔法のカード。
詠春(柚衣の回想)
『契約方法?ああ、別に難しくはありませんよ。少し恥ずかしいかもしれませんが、キス…口づけを交わすというのが最も一般的な方法ですね。なのでパートナーは必然的に異性になる場合がほとんどです。ただ、私がいた「紅き翼」は女っ気がなかったので、その通りにはなりませんでしたが』
柚衣(まさか…坊ちゃまには「魔法使いの従者」がいるのですか!?
そんな、言ってくだされば私が喜んで
坊ちゃまの下僕に――ではなくて…。
……………………あ、相手はやはり女性です、よね?…誰なんでしょう)
前回、士郎が京都に帰って来た時はそのようなものを持っていなかったのは間違いなく、ここ数年で契約したという事になる。なぜ間違いないと断言できるのか?柚衣が士郎の荷物を漁…
無断検閲するのは習慣である。
つまり。ここ数年で、士郎と共に麻帆良に居て、尚且つ魔法界に関わりを持つ人物。柚衣の知る中でそのような人間は一人しか思い浮かばなかった。
柚衣(………まさか……桜咲刹那ですか!!?)
刹那『……そ、そんな、士郎さん……。ほ、本当に私などでいいんでしょうか…?』
士郎『そんなこと言うな。俺はお前がいいんだ。刹那……俺と、ずっと一緒にいてくれ』
刹那『へ…ふぇぇえええっ!?え、あのっ、士郎さんそそそれは――んむっ!?』
刹那『ふ…んむっ、ちゅ……ぅんっ…!!―――ンンッ!?』ビクンッ
―――チュッ…クチュ…ピチャッ……
〜〜しばらくお待ちください〜〜
刹那『―――あ…!はっ…はーっ、はーっ…は……っ…』
息も絶え絶えに、刹那は士郎にしがみつく。
その顔は完全に上気して、潤んだ目には涙が溜まり、口からは一筋の涎が垂れている。
彼女の陶磁のような白い肌は、士郎との口付けだけで全身桃色に染まっているのが一目でわかった。
ガクガクと震える脚を見るに、彼女は既に腰砕けだ。
刹那は必死で士郎にしがみついているものの、彼女を支える腕を士郎が離した途端、その細く小さい身体は地べたにへたり込む羽目になるだろう。
快楽に蕩けきったその姿は、士郎の嗜虐心を大いに刺激した。
士郎『…これで契約成立だな。じゃあ、刹那』
刹那『…ふぁい…?』
もはや呂律も思考も回らない。
霞がかかったようにぼうっとした頭で彼女は、自らを呼ぶ声に反射的に、甘い声で返事を返す。
熟れた林檎の様な頬をして、潤んだ瞳に見上げられ、いつも凛々しい彼女がだらしなく蕩けた表情をしている姿を見せられて―――士郎の理性は容易く擦り切れた。
士郎『…続きは場所を変えてしようか』
刹那『ふぇ…?――ゃ、ふゃぁぁああああああああああッッ!!!』びくびくんっ!!
柚衣(―――ぼ…坊ちゃまぁぁぁああああああああああああああああああんっ!!!!!)ビクッビクッ
暴走した思考を持て余し、頬を染めて悶える柚衣。
自らの体を抱きしめながらその身を震わせ、巫女服の袖を激しく揺らす。
そんな彼女が、士郎がこの場を離れた事に気づくまで…あと数十分の時を必要とした…。
〜補足・解説〜 士郎パートとエヴァパート以外は原作そのまま。
しかしこれでようやく、ウジウジ悩む士郎を書かなくて済みます。主人公は精神的にもタフじゃないとイライラしませんか?とはいえ精神的成長を描く事も必要…というジレンマです。
あと<おまけ>は………本当にすいませんでした(土下座して陳謝
>悩む若人
ちなみに
若人と読みます。読めない人の為に一応。
そして言うまでもなく、悩んでいる若者とはネギ(のどかの告白)と士郎(切嗣の過去)です。
>仮契約カードの念話機能
原作において明確な基準は存在しませんが、従者を召喚できる最大距離が5〜10kmとされています。そして「仮契約カードの念話は簡単に妨害される」との記述もあり、念話機能の有効範囲はそれほど広くないと思われます。
よって「麻帆良(埼玉)⇔京都間という長距離の念話が可能」という設定は本来なら不自然なのですが、同じく京都修学旅行編でエヴァンジェリンが麻帆良から京都のネギに念話を送っているため、不可能ではないという結論に達しました(エヴァは水晶玉というマジックアイテムを使用していましたが)。
>今か今かと待っていたと言っていい。
>落ち着かない自身の様子を、エヴァが茶々丸に指摘され(からかわれ)ていたのは余談である。
本来ならこのエピソードを<おまけ>にするべきでした(汗
実はエヴァが士郎の呼び出しに応じるのが遅れたのは「念話状況の悪さ」ではなく、士郎からのお悩み相談(笑)を今か今かと待ち続けて疲れ、うたた寝してしまっていたのが原因です。士郎から念話が来た事に気づいて目を覚ました時には、すっかり慌てて「わ、あわわ…!ちょ、ちょっと待て!」と可愛らしい台詞を口走った事も余談ですw そしてそれを茶々丸に録画されたww
>『どうでもいいじゃねえか、んなこたぁ』
「真実? 意味? そんな言葉 俺の生にゃあ何の関係もねえのさ」
自分が幻と言える存在と知ってなお「関係ない」と言ってのけた彼ならば、士郎の「小さい悩み」など、このような言葉で一蹴してしまうだろうと思いました。
><おまけ>
申し訳ない、だがこれでも自重した(マジで
本当なら続きを書くつもりでしたが、内容以前に「これ以上長くなったらマズイ」という理由から途中終了と相成りました。
ちなみに書くのをやめた「続きの妄想」は、「士郎は仮契約で主になったのではなく従者になった可能性」に気づいた柚衣の妄想を書くつもりでした。
その内容は…まぁ……
「士郎が年上の女性に喰われる話」(滝汗
しかしやはり私には濡れ場を書く筆力が無いですね…。エロを書ける人ってすごい。
>詠春(柚衣の回想)
巫女さん達は詠春から、西洋魔法や魔法使いについて聞いているのである程度の知識を持っています。
>暴走した思考を持て余し、頬を染めて悶える柚衣。
ごめん。ホントはこんなキャラじゃなかった。
私の書くオリキャラは、悉く私の手を離れてゆく……(つД`)・゜・。・
嘘次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」No.27
「番外話 土曜ミステリー 31人の美少女探偵C」(仮)
それでは次回!