数年前 インペリダウン
インペリダウンは世界政府が所有する世界一の大監獄で、鉄壁と称されるその監獄からは入ることも出ることも不可能と言われていた。
だが、その日は無謀にも地獄から出てこようとしている者がいた。
「止まれ!黒鳥(こくちょう)のシウ!」
インペリダウン監獄署長マゼランの声が響く。その視線の先には大きな黒い鳥が飛んでいた。
「止まれと言われて止まるバカはいないだろうマゼラン?そんなことを言ってる暇があるなら早く俺を捕まえたらどうだ。」
「黒鳥め、言わせておけば.....毒フグ!」
マゼランの口から毒の塊が飛んできた。
それをシウは大きく上昇することでかわすと一気に出口に向かって羽ばたく。
「まずい!このままでは.....ハンニャバル!」
マゼランの声にハンニャバルが頷いた。
「分かってます、署長。既に海軍本部に取り次ぎ、海軍大将 青雉(あおきじ)がこちらに向かっています。」
「それでは間に合わん!」
「そういわれましても、これ以上手の内ようがありませんよマッシュ」
「ぬぅ.....」
その間にシウの姿は2人の視界から消え、インペリダウンから見えなくなった。
シウがインペリダウンから脱獄して3日後。今はイーストブルーのココヤシ村にいた。
もちろんここに来たのには理由がある。
私がインペリダウンの脱獄した後、私の賞金は大幅に上がり1億2000万ベリーになった。それと同時にグランドラインに多くの海軍が配備された。
そのため、私はグランドラインから離れることを余儀なくされた、という訳だ。
「別に気にしていないが。」
他の海にもグランドラインにも未練はない。どこであろうと生きていければ私には関係ない。
シウは体を鴉の姿から元の人間に戻し、ココヤシ村に向かった。
ココヤシ村。
ここは数年前から魚人海賊アーロンが支配しているらしい。
そのせいか、村人達の顔は心なしか暗い。
「ちょっとあんた。」
背後から声が聞こえ、振り向くとオレンジ色の髪をした少女が睨むようにこっちを見ていた。
「何か用か?」
「早く出ていって!」
「いきなり何を言っている?まだ私はここに来たばかりなんだが。」
「だから早く出ていけって言ってるの!アーロンに殺されるわよ!」
「ああ、ここを支配している魚人のことか。」
「そうよ!だから早く!」
「ご忠告ありがたいが、生憎私はまだここを出ていく気はない。」
シウの返事に少女が棒を取りだし、構えた。
「頭悪いの!?いいから早く島から出ていって!痛い目見る前に!」
「断る。」
そう言うとシウの頭に棒が降り下ろされた。
それを片手で受け止め、少女ごと棒を持ち上げる。
「いきなり棒で殴りかかることはないだろう。そんなに私が嫌いか?」
少女は棒にしがみつきながら答えた。
「離して!そういう問題じゃない!アタシはただ人がアーロンに殺される所をもう、見たくないだけよ.....」
最後の方はすすり泣きになり、少女は棒を離した。
どこでも一緒だ。弱者は強者に蹂躙され、従うしかない。
「私は魚人の七武海を知っているが、人間とも仲良くやっていた。」
少女が泣き腫らした顔でシウを見上げる。その顔は困惑していた。
「ここで1つ提案なんだが、私がそのアーロンとかいう魚人と話をしてこよう。」
「え?」
「この村から出ていくように言いに行く。」
「だ、だめよ!あいつがそんな話を聞くわけないじゃない。結局殺される」
そこで少女の言葉を遮り、シウは淡々と言った。
「私はここで死ぬつもりはない。もしそうなるならその時は」
そこでシウは腰のダガーを取り出すと呟いた。
「そいつを殺す。」
そう言ったシウの異様な迫力に少女は何も言えず、ただシウを見ていた。
そんな少女の様子にシウは気づかず、そういえばと呟いた。
「お前、名前は?」
「....ナミよ。アンタは?」
「シウだ。それじゃあ、アーロンに会いに行ってくる。話が終わったらココヤシ村に戻る。」
「ちょっ!アンタ!」
後ろでナミが叫ぶが、シウは振り返らずアーロンパークに向かった。