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魔王日記 第八十一話 間章そして激動への空隙
作者:黒い鳩   2013/07/17(水) 14:46公開   ID:VRXt0W.JDuI



「へぇ、やるねぇ〜」

「何がですか?」

「僕のぉ、シナリオに介入してくる奴がいるよぉ」

「なっ……」



突然のものいい、小柄で肌色も不健康そうな白、だがいつもは柔和に見せている目を鋭くしている男。

プラーク・ヴェン・サンダーソンはそれでもいつもの如く壊れている。

破綻(はたん)している、そう感じるのは暗殺者ギルドの13番、ナンバーサーサーティーン。

彼がこの破綻している主に仕えるようになってもう1年近くになるだろう。

考えが読めないこの不気味な主は基本的に暗躍を邪魔された事が無い。

暗殺者である彼が読めないのだ、表の人間等に読めるはずがない。

それぐらいにどす黒い腹を持っているのがプラークと言う男だと、サーティーン。

彼の計画に介入してくると言う事は同じ舞台に立てるだけの悪徳を持っていると言う事になる。



「何者ですか……?」

「うーん、相手も自分の事を巧妙に隠してるけど……。

 これだけの事が出来る相手は2人くらいかなぁ?」

「それは?」

「メセドナの無冠王とザルトヴァール皇帝陛下。この辺まで諜報網を作ってるのはこの2人くらいのものだしねぇ」

「なるほど……、しかしメセドナの無冠王とは……」

「1年半、たったそれだけの時間でメセドナの特別自治区をまとめ上げてしまった彼だよ」

「リュウゲン・イシガミですか……」

「その通りさ、彼の行動力、計画立案能力は恐らく世界でもトップクラス。

 皇帝陛下ほどの軍事力はないものの、政治力なら彼の方が上だろうねぇ。そう考えると愉快でたまらないよ」



プラークは何か考えを巡らせているようだった。

だが表情はむしろ嬉々としていて、新しい玩具を見つけたような

嗜虐趣味な彼の事、えげつない事を考えているのは間違いないだろうが……。



「うん、そうだこう言う時こそ兄さんにお願いしようかなぁ」

「兄といいますと、ソレガン・ヴェン・サンダーソン様ですか」

「だね、そのために彼女に張り付けてたわけだし」

「それは……」

「分かってるよ。今はもういない、だからこそ使える手をね」

「……」



また、サーティーンは主の考えがわからなくなった。

そう、確かに暗殺者をはりつけてはいた。

しかし、最近その暗殺者からの連絡が途絶えた、確認に行かせた所によると失踪していた。

恐らくは殺されたか、仲間を吐かせるために監禁されているかのどちらかだろう。

張り付けていた暗殺者も一流の男、吐かされる前に自分で死ぬだろうとは思うが、

万一暗殺ギルドの事を吐いていた場合、色々と面倒になる。

それだけではない、ソレガンは独自の諜報網を築きつつある、恐らく暗殺者を張り付けていた事はバレているだろう。

現状で既に敵対に近い関係となりつつあるのだ、ソレガンとのパイプは断たれている。



「でもねぇ、こう言うのは別に本当に何かをする必要なんてないんだよぉ♪」

「それは一体……」

「それはぁ、会いに行ってのお楽しみにしておこうかなぁ」



実に楽しそうにプラークは話し続ける。

実際に動かす必要のないもの、そして、それがソレガンにとって対処し難いもの。

そう言う条件を考えてもサーティーンにはどうにも考えつかない。

やはりこの男は普通の男ではないのだと再確認する羽目になった。
























「ディロンさん、大丈夫?」

「……アア」



ようやく雪が降らない地域に来たと思ったけど、山中を歩く事になればその限りじゃない。

ディロンさんに抱え上げてもらいながら、山中を踏破していく。

正直とてもまねできない。

この世界に来てからずっと、もう1年以上旅を共にしている巨人族の女性。

3m以上の体躯を持ち、モンスターなんかには絶対負けない。

無敵なんじゃないかなんてちょっと思ったりしてる。

実際ディロンさんが倒したモンスターの中にはディロンさんの倍はあろうかという体躯のものもいた。

でも時々不思議に思う、どうして私に付き合ってくれているのか?

私達が元の世界に帰れるかどうかなんて、ディロンさんには関係の無い事。

ぶっきらぼうというか、会話の疎通が時々苦しいけど、優しい人だと言うのは分かる。

でも、命を賭けて付き合ってくれているのに理由が無いというのもおかしい。

今まではそんな事を考えている暇もなかったけど、ふとしたきっかけで気になり始めた。

私、尼塚御白(あまづか・みしろ)にはもっと命題があるんだけどね。



「やっぱり、ここみたいね……」



帝国図書館で調べられるだけ調べた。

異世界召喚についての書物、その中で実際にそれが行われているのは魔王召喚だけだって言う事を知った。

召喚魔法と呼ばれる魔法すら、基本は同じこの世界の魔物を召喚する魔法。

つまり、魔王召喚というのは完全に異質な魔法だと言う事。

私達が呼び出された魔法は魔王召喚とみて間違いない、実際にまろは魔王の後継者になったらしいし。

この世界に来なければこんな胡散臭い話しうのみにはしないんだけど……。


ともあれ魔王召喚は本来死に瀕した魔王のみ使うとされる魔法。

ただ、まろはその魔法で召喚されたにしてはおかしな点をいくつか話していた。

中でも、魔王が勇者達と闘う前に既にまろはその町に落ちていたという点。

それは、魔王以外の誰かによりまろが呼び出された可能性を示唆する事になる。



「ならいくつかの事実が浮かび上がる事になる……」



一つは、まろが魔王以外の誰かの駒である事。

もう一つは魔王は自分の召喚した誰かよりもまろを後継者とした事。

そして召喚されたのが私達5人であるのなら、他の4人の誰かが魔王が召喚した者と言う事。




「なら、もしかして……」



まろが魔王としての力を持っていないのは、既に誰かが引き継いでしまったから?

すると、その力を引き受けたのがまろ以外の私達のうち誰かと言う事になる。

まろの話を考えると魔王が死んだのはかなり前のはず。

石神君がその力を手に入れていたら今頃魔族との緊張状態は既に解決していたと思う。

てらちんは精霊の勇者らしいからそんな力を手に入れたら裏切り者として追われてるはず。

それに、彼に関しては召喚主も分かっている。

同様に、まろの話を聞く限り、りのっちは聖女として降臨したそうだし召喚主の使途がついている。

召喚主が分からないのは私と石神君、まろの3人。

まろの召喚主が魔王でなく、石神君の召喚主が魔界軍師とかいうのじゃないなら……。



つまり魔王が召喚したのは、石神君か私。

まろは魔界軍師か未だ誰か分からない第五の召喚主が召喚した事になる。

私は魔王の力なんて持っていない、そんな力があれば苦労はしてない。

だとすると力は誰にも引き継がれてない?

確かまろは魔王が死ぬ間際は力を使いはたしてるといってたからありうるけれど。

……え、ちょっと待って。



「この本……」



魔王召喚が生前に魔王を召喚する様な技法じゃないのは間違いない。

魔王は死ぬ間際に召喚する、でも、他の人達はどうやって瀕死になる前に使ったの?

それにこの本、異常なほど召喚に詳しすぎる。

他の本ではいくら探してもさわり程度しか書いてなかったのに。



「もしかして……意図的に?」

「本当に、よく気が付いたものだ。

 一応その本は大図書館レベルなら1冊は置くようにしてたんだが。

 調べて結論まで至った者は少ない、そして魔王召喚の後ではお前が初めてだ」

「へ!?」



背後にいたのは青い肌をした吸い込まれそうなほどの美形。

ただ、その目は血の色のように赤く、唇もまた同じ赤さを称えている。

そして足元には巨人族の女性であり、私の旅の友であるディロンさんが……。

まるで崩れ落ちたように倒れていた。



「心配しなくてもいい、少し眠って貰っただけだ」

「本当かしら?」

「信用ないね、まあ仕方がないか」

「もしもその言葉が本当だとしても、周りの静けさは一体どういう事かしら?」

「みんなこうなって貰っただけさ」

「ッ!」



召喚の事で分かってはいたけれど、私なんて全然相手にならないほど隔絶した強さを持ってる。

威圧感じゃない、怖いと言う意味でも多分ない、でも怖気を震う何かが私の背筋を走る。



「嬉しいな、お陰でようやく我の手駒が揃う」

「……一体何を……」

「ふふふ、もう分かってるんじゃないかい? お前は一体誰に呼ばれたのか。

 そして、何のために呼ばれたのか」

「……も……しかして」

「魔王召喚に合わせて、仕掛けをしておいて本当に良かった。

 お陰で魔王になるための仕込みが出来るというものだ」



私は、こうして声を聞かされながら分かってきた。

魔王に召喚されたのは私、そして、力を引き継いでいない訳じゃない事を。

だけど同時に、私はもう駄目なのだと言う事も分かった。

男の目から視線をそらす事が出来ない、こんな世界だから魅了の魔法とか視線があってもおかしくない。

不味い、気付くのが遅すぎた、目の前の男に対してもう怒りがわいてこない。

私の心が霞んでいく……なのに、目の前の男……ううん……。

アルベルト・ハイア・ホーヘンシュタイン……さまの……この……お方の言う事だけは。

全て……従わないと……。



「い……し……み…………ん……」

「さあ、血の儀式を施そう、我が可愛い下僕(しもべ)よ」

「は……い……」



首筋にアルベルト様の牙が突きたてられる、あまりの心地よさに私は思わず吐息をもらす。

今まで起こった事、人間関係、そして私の感情。

そういった雑多な物は全てどうでもいい記憶として記憶の隅におしやられていく。

分かる、今までの自分と違うモノになって行く、でもそれは甘美な事にしか感じられない。

何か大切な事があった気がする……でも、もう今は何が大切だったのか思い出せない。

だって、私の大切なものは……アルベルト様だけ……。



「はぁ……ァぁぁ………」

「ふむ、思いのほか旨いものだな、処女でもない売女の血等飲めたものではないと思っていたが。

 恐らく、魔王の力のせいか……」

「ぁぁぁア……あっ……ありがとう……ございます……」



涙が流れてきた……私、悲しくなんてないのに。

私は、涙をぬぐうために手を上げようとしたけれど、アルべルド様がいつの間にか拭っていた。



「ふむ、過去の記憶がまだ引っかかっているのか。

 なかなかの精神力だ、しかし、それも直ぐにどうでもよくなるだろう。

 我らの生は長い、そして、お前達にとっては我が言葉を聞き続けるだけで心が溶けるであろうしな」

「はぁい……アルべルドさまぁ」

「……フッ、ではいくぞ」



アルべルド様は私を見て一瞬ゴミにたかるハエでも見るような目をされた。

しかし、今の私にはそれすら快楽にしか感じられない。

私は一瞬身震いし、余韻に浸るほどではないけれど一息ついて身体を鎮めた後。

アルべルド様が開いた亜空間のような場所へ続く穴へと歩いていった。






















魔界軍師の紫なじいさんを葬って数日、俺は既に次の魔将との戦いをはじめていた。

もっとも、前回のように策を仕掛けられた訳でもなければ、圧倒的魔力差でボロボロにされた訳でもない。

今や俺は魔王のマントと兜の力で空を飛び、魔力は魔将達と比べてもそん色ない程になっている。

そして、俺と闘っている魔将は烈火の猛将レオン・ザ・バルヒード。

5mを超す巨人で常に炎を纏っている性格まで暑苦しいおっさんである。

彼は俺が通るだろう道を予測し、一人で待っていた。

そして、普通に1対1での対決を挑んできた。

体格差はバカバカしいほどではあるが、

魔界軍師と比べれば俺が連れているメンバーに手を出さないだけ上等である。

そして、フィリナに被害の出ないところまで皆を下がらせるように頼み、俺はレオンの対決を受けた。

元々魔王候補同士は一騎打ちしか許されていない、そうでなければ魔王の武具が認めない。

だから、どのみちこう言う構図になるのは事実ではあったが。



「そらそら、ちっこいお前じゃ俺にまともなダメージを与えられんぜ!」

「バカの一つ覚えみたいな炎の拳でもな!」



俺はかなり大型の氷の矢を連続してぶつけているが、レオンにダメージはない。

対して、奴の炎の拳は俺の魔法による加速について行けず空振りが多い。

とはいえ、互いにノーダメージと言う訳じゃない、スタミナの問題で俺が不利なのは事実だ。

奴の炎は常に出ているものだし、俺の魔力はいくら大きくなったといっても無尽蔵と言う訳じゃない。

とはいえ、大きな魔法を使わせてくれるほど相手も遅くはない。

もちろん、レオンもあの巨体を動かしているのだ、スタミナは何れ尽きる、しかし現状俺の方が速そうだ。



「ならば!」



俺は足元を氷に変えレオンに向かってスライディングの要領で飛び込む。

5mの灼熱の巨人だ、足元の隙間を抜けられると流石に体勢が崩れる。

何よりも、氷が足元にあるためレオンは体温で溶かしてしまい、ぬかるみを作っている。



「行くぞ! 我が沈みし永遠に、闇と呪いの祝福を! 氷の棺(フリーズコフィン)!!」

「なぁ!?」



氷の棺は相手を氷漬けにする魔法、本来は人間一人用だ。

だが5mの炎の巨人を凍らせるため威力も規模も100倍以上にしている。

それでも倒せるかと言われると微妙だ、しかし……。



「ぐぉぉぉぉ、俺を氷漬けにするつもりか!!」

「極限と極限の狭間より来たり、卦白の王!

 静けさによりて炎を起こし、光を凍らせる刹那の門を開き我らの前に現れたまえ」

「なっ!? こんな氷ぶち破ってやる!!」



そう、俺は氷漬けにする魔法で炎の巨人が倒せるとは思っていない。

時間稼ぎのために使ったものだった。

だが、レオンは既に氷の棺が完成する前に破壊し始めている。

恐らく終わるまで10秒もかからない。

俺に拳が叩きつけられるまで12〜13秒。

急いで詠唱を終わらせねば。



「燦然と輝く凶星に誓って! 空間を統べる神々すらも蹴散らし!」

「おおおぉぉぉ!! この程度でぇぇ!!!」



レオンはもう氷の棺を破壊した、後は俺に拳を振り下ろすだけ。

最も俺も、後は発動するだけ……つまりは、後は運任せと言う奴だ。



「我が前に出でよ!!」

「死ねぇぇ!!」

「漆黒重撃(ジェットブラック・ブレイク)!!」



今の魔力で、兜の魔力増幅効果まで使い、灼熱の巨人の鼻先に召喚したブラックホールの出来そこない。

いや、出来そこないにすらなっていないかもしれない、光を吸い込む黒にすら届かない。

更に0.01ミリもないような小さなもので視認する事も難しいそれは召喚した瞬間蒸発する。

はっきり言ってブラックホールを実際に召喚、維持するのは魔王程度で出来る事じゃない。

実際蒸発まで0.0001秒といったところか、俺自身発生した瞬間については分からない。

だがその際発生させた瞬間的重力は10エクサトン(10000000000000000000t)を越えるほど。

地球の600分の1くらいの重さが突然発生したのだ。

瞬間すぎて実際の効果はその更に1000分の1以下だろうが……。

それでも、周辺数キロをクレーターに変えるには十分な代物だった。

あまりの圧力に地面の殆どはガラス化している。

俺自身、呪文の効果により自分周辺には重力に反発する斥力が発生して守っていなければ死んでいた。

中心にいたレオンは普通に考えればチリも残さず消滅しているだろう。

だが、俺は物語のお約束を忘れるほど甘くはない、既に次の詠唱を始めていた。



「ガーッハッハッハ!! 流石魔王候補よ!! その一撃には何者も叶わぬであろう!

 だが、俺様には勝てぬ!! 炎そのものである俺様は、種火さえあれば何度でも復活する!!」



先ほどの重力によるガラス化の熱を取り込み肉体を再構成するレオン。

人間離れもこれくらい行くとすがすがしい程だ。

巨人っていうのも訂正しないといけないな、炎の塊って言う事か。

今や熱量を増し20m級の大きさになった炎の塊は俺に向かって笑っている。

戦う事が楽しいのか、炎の勢いが増しているのがうれしいのかわからない。

ただ、炎を消す以外にあいつを倒す方法はないと言う事のようだ。



「ウェザーコール」



俺は先ほどから詠唱していた魔法を放つ。

上に向かって。

雨雲を呼ぶ呪文なんだから上にしか飛ばせないが。



「今さら雨を呼んだ程度でどうするというのだ!!」



炎の塊は俺に向かって炎の弾丸を放つ。

温度も流石に高いようで青白いほどの色合いを放っている。

数万度はいっているだろう。

だが、それは俺にとっても好都合ではあった。

俺は回避すると同時に魔王のマントで飛翔する。

レオンはいや、巨大な炎の塊は俺を追って飛翔しようとするが、

上空から振る強い雨のせいで気体に近いその体が揺らぎ少しタイムラグができた。

俺はここぞとばかり雨をまとめてクレーターに降らす。



「何がやりたい!!?」

「そろそろかな?」

「っ!? グァァッ!? 温度が下がる!? いや、空気が奪われる!?」

「木を圧縮して作りだした石炭。

 特に精製したコークスなんかを1000度内外で熱し、水をかけるとどうなると思う?」

「何を言っている!?」

「一酸化炭素が大量に出来る。

 まあそれは毒物なんだが、それとは別に一酸化炭素は周りの酸素を吸収して二酸化炭素になる。

 そうすると周囲の酸素濃度が下がるって寸法さ」

「下らぬ御託を!!!」



説明の途中にかなり大きさの縮小したレオンが殴りかかってくる。

現在ここは結界で覆われている、そして結界の中の酸素濃度は……人間なら死ぬレベルではある。

俺も今や魔族なので直ぐにどうこうはないが、息苦しいのは事実だ。

もちろんレオンにはもっと効いている様子でどんどん背が縮んでいく。

魔界の炎とか核融合で酸素関係無かったらどうしようかと思っていたが普通の炎のようで一安心だ。



「どうやらもう炎の維持が難しくなってきたようだな!

 本体のチビが見えて来てるぞ!!」

「グォォォ!?」



俺が切りつけた所がきっちりとダメージとして残る。

今の俺は魔王の知識のお陰で魔法の種類は多く知っているが、効率なんてものは分からない。

だから既に魔力はからっけつだ、だが今は飛べるマントや魔力増幅の兜で戦力の底上げが出来る。

対して、既に周囲に燃える為の酸素を残していないレオンの炎は熱こそあるものの小さなものだ。



「レオン・ザ・バルヒード。新たな魔王に忠誠を誓え、そうすれば生かしておいてやるぞ」

「はっはっはっはっ! くそっ喰らえだ!!」

「そうか……なら介錯してやる」

「おおよ! 最後の一撃。喰らいやがれ!!」



レオンは馬鹿の一つ覚えのように拳を俺に向けて繰り出してくる。

もっとも、炎の殆どを失った今の彼の力は人間のそれと大差ない程度。

俺は余裕を持って回避し、そのままレオンの胴を薙ぎ払った。



「嫌いなタイプじゃなかったよ」

「へっ……あっ……あり……が、とよ…………」



砕け散りながらレオンはむしろ笑っていた。

彼は実の所喧嘩が好きなだけの魔族だったのかもしれない。

だが……俺はここで止まる訳にはいかない。

石神に託された、この大陸が滅びかねない戦争の回避。

それだけじゃない、フィリナの事、追いかけて来てくれたティアミス達の事。

ラドヴェイドに託された歴代魔王の悲願。

色々な事情を引き受けて今の俺はいる。

だから、レオンの亡骸から小手を取りだす。

小手の力は不利な魔法効果を受けなくするというもの。

レオンがいくら氷漬けにされても丸で効かなかったり、超重力で消滅しなかったのもこの力だろう。

だが流石に魔法効果でもない酸素が無くなるには対抗できなかったようだが。



「終わったの?」



俺が振り向くとクレーターの近くまでティアミスがやってきていた。

中学生程度にしか見えない年上の女性、そのくりっとした目が俺を真剣に覘きこんでいる。

俺はそれに対して頬笑みと共に頷く。



「今回は苦戦しなくて済んだみたいだ」

「まあ、相手は力技一辺倒のゴリゴリ男でしたからね」



今度は周辺の警戒をしてくれていたフィリナが空中から降りてきた。

白と黒が半々に混ざっている特殊な翼を持つ彼女はほっそりした身体にありえないほどの巨乳美人。

ただまあ……。



「あんなゴリゴリ男相手に苦戦してはマスターの沽券に関りますよ?

 幸い力なら今は既に四魔将と互角かそれ以上、これで負けたら笑い物です」



毒舌なんだが……。

薄青いサファイアのロングヘアー、切れ長の瞳、物憂げな表情等、神秘性には事かかないが……。

俺のせいで今のような性格になってしまったようで大変申し訳ない。

ティアミスのエくりっとした瞳、元気そうな表情、メラルドグリーンの髪とはどこか対照的ですらある。

どちらも俺には勿体ない美人だし、本来フィリナはこんな所にいていい存在ではない。

そして、パーティ”日ノ本”のメンバー達。


海賊帽子をかぶった小学生のような少女ティスカ。

彼女の無邪気さには精神的に助けられているが、彼女の能力、魔物を使うその力は巨大なものだ。

今は5色の魔獣を従え、その背に乗っている。


元”箱庭の支配者”パーティにいたホウネン、見た目はどう見ても密教僧。

柔和な表情の割に時々毒を吐く。


同じく元”箱庭の支配者”パーティにいたヴェスペリーヌ、体つきはモデル体型。

だが、普段から厚めのローブとビン底眼鏡で武装しており表情を読み辛く何を考えているのかわからない。


最後に控えるのはエイワス・トリニトル背が低めで細身の騎士。

貴族に対するあこがれが強く、基本貴族の生活様式をまねているが、

女性至上主義者で、パーティの女性達のためにこのパーティに参加している。

ある意味頼もしい人物だ。




俺は魔族となっているにも拘らず、こうして多数の人に支えられている。

だから、この大陸を全て巻き込むような戦争等起こさせる訳にはいかない。

魔王となれるかどうかは分からないが、少なくとも進軍は止めて見せる。


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■作者からのメッセージ
一年開いてしまいました。
もう、読者の方は残っていないかもしれませんが、取りあえず完結へ向けて動き出そうと思います。
これからは、多少内容も、更新頻度もとびとびになるかもしれませんが必ず完結させるつもりです。
ですので、また見てくださる奇特な方がいらっしゃるのであれば、気長にお待ちください。

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