「はぁはぁ....!助けてぇ!!」
闇夜を一人の女が形振り構わず駆けていた。
後ろからはフードを被り、ナイフを持った恐らく男。
俺は明らかに女は被害者、男は変質者という事を把握した。
「人は皆、欲望に魅了された獣なり......ナイフを持ったアイツも醜い欲望を抑えきれず、女を狙ってるんだろうな」
そう言った男の格好は奇妙だった。
黒いレザーコートに泣き笑いした人間のお面。手には鉄製の鉤爪を着けている。
雲に隠れていた月が現れる。同時に男は住宅地の屋根を渡り、フードの男の前に立ち塞がった。
「誰だ、テメェは!死にてぇのか!?」
「死ぬつもりはない。それと俺の名はデスクロウだ。」
「ハハハハハハアh!!!!正義の味方のつもりかぁ?テメェはよ!」
「そうだ。」
フード男の声が路地に響く。
女は既にどこかに逃げ去っている。だが、フード男はまったく気づいていない。
「お前みたいな馬鹿が早死にするんだよ!正義の味方気取りが!」
フード男の虚勢に俺はくつくつと笑う。
「な、何がおもしれぇんだよ!キチガイがっ死ね!」
それでも、俺は笑い続ける。
フード男のナイフが俺に一直線に向かってくる。
ガキィン!
「ククク.....」
「な、何だよ、ナイフが折れたぞ!?何しやがった!?答えろ、お面野郎!!!」
「正義の定義をしっているか?」
「ハァ?」
俺は言ってる意味を理解してないフード男に笑みを消し、呟いた。
月が雲に再び隠れ、辺りを暗闇が包む。
「正義は悪や善で決まる訳じゃないだよ」
フード男も流石に俺の異変に気づいたのか悲鳴を上げながら走り去ろうとする。
俺は狂ったように笑う。
「正義はな、強さで決まる。弱者は悪だ。せめて、それを.....」
「ひぃぃ!!!!?」
俺の姿が本来の姿を取り戻す。
鉤爪が巨大化し、鎌状になり、姿がぼろ布を纏った悪魔へと変わる。
その姿はまるで死を運ぶと呼ばれる死神。
「胸に刻み、逝け。地獄にな。」
男の背中に鎌となった鉤爪が迫る。
ズシャズシャ!!
その刹那、男の体はバラバラになり、スクラップと化す。
静寂が路地裏に訪れ、光が差し込む。
遠くからサイレンの音が聞こえるが、悪魔の姿は既になく、大量の肉片だけが存在を示していた。
住宅地の路地裏で惨殺死体!
白偽 啓は新聞に書かれているその部分だけ読むと無造作にゴミ箱に捨てた。
正義が執行された事は無事、世間に伝わっているようだ。
啓は満足げにコーヒーを一口飲んだ。
白偽 啓は平凡なサラリーマンだ。
朝、スーツに着替え、通勤電車に揺られ、会社で1日中、パソコンとにらめっこする。
一流企業で、給料も他と比べよく、啓自信、貯金は数千万を越える。
女も啓が声をかければ、ホテルに連れ込んでも文句を言わない。人当たりがいいので、妬まれることもない。
まさに勝ち組の人生を歩んでいた。
筈だった。
啓にはどうしても解決しなければならない問題が一つあった。
殺害衝動。
文字通り、何かを殺さずにいられないことだ。
これが起きたのは、僅か9歳の頃。
何気なく、捕まえた虫を潰すとその一つの命を終わらせた、という達成感に似た快感を得た。
それからは、ドンドンエスカレートしていき、昆虫、ネズミ、猫、犬.......
そして、今日も殺害衝動を抑えるため、犬を殺していると、目覚めたのだ。力に。
俺はグリムリーパーと呼んでいる。