泉「さくらー、さくらー?」
亜子「さくらー、どこいったー?」
拝啓、Pさん……
いきなりですが私たちNWは、ピンチです!!
なんと、さくらが765プロオールスターライブが明日に控えた今日、消えてしまいました!
しかも、ライブの行われる船が出るまで、あと30分です!!
事の発端は30分前の「さくらプリン事件」でした……
泉「あれー?亜子、さくら、ここに入れておいたプリン知らない?」
亜子「んー?プリン?しらんなー。いくらアタシの趣味が食べることでも、人の食べるほど飢えちゃいないって〜。」
泉「まあ、そのへん亜子はしっかりしてるもんね。さくらはー?」
さくら「……。」
泉「さくらー?」
さくら「ふ、ふぁい!」
なんだ、その今にもボクシングかなにかが始まりそうな返事は……?
嫌な予感がしつつ、さくらを見ると、明らかに目が泳いでいた。
彼女のチャーミングポイントの眉毛も、ハの字になって、明らかに滝汗をかいている。
おまけに、あざとすぎるほどにほっぺにはカラメルソースと思われるものが付着。
長い付き合いだから…いや、これは長い付き合いじゃなくてもバレバレですが…。
さくら、あなたですか…そうですか…。
たかがプリンだし、怒るとか叱るってよりもまたかって感じに心中なってしまい、思わずため息が漏れる。
泉「さくら、別に怒ったりしないから、正直に言って」
さくら「な、なんのことカナー?」
泉「いや、目泳いでるから」
さくら「こ、これはぁ〜、明日のライブでファンのみんなを見回す練習でぇ」
泉「ほっぺにカラメルソース」
さくら「……。イズミン、さくら思うんだけどぉ、明日ライブだし、そのあたりはぁ、ね?」
泉「明日ライブだからこそ、しっかりしないと。
出発まであと一時間弱だよ?ギクシャクしたままじゃ支障でるかもしれないでしょ?」
亜子「まあまあ、いずみ、そのへんで。さくらも謝るときは誠実にしないと、損するで?」
たしかに亜子のいうとおり。
明日ライブだし、そこまで怒ることでもないし、第一怒る気もない。
さくらが一言謝れば済む話なのに…なのにさくらは…
逃走した。
泉・亜子「さくら!?」
さくら「二人共、ごめん!」
まるでスーパーボールみたいにピョンピョン跳ねるとさくらは鮮やかな動作で私たちをすり抜ける!
でも、残念ながら部屋には防犯で鍵かけてるし、ここは2階。逃げれる場所はない。
結果、訪れたのが…現状、というわけです…
亜子「んー、このままじゃ埒が明かんなぁ。Pちゃんいっそ呼ぶ?」
泉「待って、亜子。Pさん呼んじゃったら、それこそ大事になるよ?
それにPさんも忙しいだろうし、たぶんあと30分じゃ来れないよ?」
亜子「それもそっか。じゃあ、どうする?名探偵さん?」
泉「もう、亜子ったら!楽しんでるでしょ!」
亜子「まあ、多少は。なんでも楽しんだもの勝ちやで!」
泉「まったく、もう……」
でも、確かにずっとしかめ面ではさくらも出にくいかもしれない。
正直、プリンなんて今はどうでもよくなってるし、ライブのために早く出てきてもらいたいのが本音。
となると、あの手か。
泉「うんしょ、よいっしょっと……」
亜子「いずみ、なにしてるん?」
泉「ん?実はね、こういうこともあろうかと、事前に用意しといたの。コレ」
持ってきた大きなダンボール箱から、ピンク色の可愛い兎を亜子の手に渡す。
亜子は最初「たしかに可愛い兎やけど…なんに使うん…?」と怪訝そうな表情をしていたけど、じきに閃き顔になった。
亜子「そっか、亜子の趣味って!」
泉「そう、ピンクの物集め!ぬいぐるみでおびき出しましょ!」
亜子「了解やで!ちなみにいずみ、なんでうさちゃんなん?中身も全部違ううさちゃんやし」
泉「そ、それは…単に兎の人形が偶然ピンクが多いだけよ…」
亜子「ふーん、ほーん、へーん」
泉「な、なによっ!」
亜子「いんや、今年のいずみへのプレゼント決まったなぁって思っただけ」
泉「も、もう〜〜!亜子ってば嫌い!」
亜子「あいや〜、傷つくわ〜」
それからは、各種違う兎を見せて、さくらに呼びかけることの繰り返し。
さくらは直感的なところがあるから、これですぐ見つかるはず…とおもったんだけど…。
泉「でて…こないね…」
亜子「せやな。んー、きっとうさちゃんじゃなくて、ぬこさん派だったんやろな」
泉「で、でもうさちゃん可愛いでしょ!!」
亜子「うさ…ちゃん…?」
泉「っ!! ……。」
亜子「まあ、このままじゃ埒があかんようやし、アタシの方も試していい?」
自信満々に言うと、亜子は自分の部屋へ行き、私と同じようにダンボール箱を持ってくる。
唯一違うことといえば、亜子が引きずって持ってきたこと。
ものすごく重いものが引きずられる音がするんですが…それは…?
亜子「アタシの秘蔵の貨幣や!さくらも人間、きっと貨幣の音には敏感に反応するはず!」
泉「いや、亜子だけじゃないかな、それは」
亜子「し、心外やな!きっとさくらも出てくる!」
泉「まあ、ものは試しっていうし、やってみましょうか」
今度は兎ではなく貨幣落としの繰り返し。
一枚落とすたびに溜まってる貨幣が小気味いい音をたてる。
チャリン チャリン
チャリン チャリン チャリリン
でも、二人共やってるうちに段々と面倒になってきて、何枚か一緒に落とすようになった。
ジャリン!ジャリリン!
ジャン!ジャンリン!
いよいよもってやってる自分たちさえもうるさいと感じるくらいの音になると、不意に横にあるベッドが一瞬ドン!という音を立てた。
亜子と顔を見合わせ、恐る恐るベッドの下を覗いてみると……。
そこには耳を手で押さえたさくらがいた。
さくら「うぅ、二人共ひどいよぉ。あんまりだよぉ」
泉「自業自得よ、さくら。もう時間がないのに、隠れてたりなんかして!」
亜子「せやで!アタシの貨幣の音があったから良かったものの……」
さくら「ごめんなさぁい。もう、しません。だから、あの音だけは、あの音だけはもう!」
泉「確かにうるさかったけど、そんなに?」
さくら「耳のすぐ横で延々とするなんてぇ、拷問だよぉ」
亜子「拷問…やと…?」
亜子は後ずさると壁にあたり、そのまま膝を抱えて座り込んでしまう。
亜子、ファイト!
泉「まあ、なにはともあれ見つかったんだし……って、時間過ぎてる!」
さくら・亜子「えっ!?」
泉「船でちゃったみたい」
亜子「そ、そんなぁ……」
亜子はさらに沈み、私はどうしようかと唖然としていた。
船はでてしまった、10分前に。
どうもお金を落としていた時に時間が思いの外経っていたみたい。
せっかく、新コスチュームでNW新ソングの初公開だったのに……。
ため息をついていると、さくらが自信満々で言い放った。
さくら「大丈夫!なんとかなるよぉ!」
亜子「ゆーても、もう船出ちゃったしなぁ…」
泉「とりあえず、Pさんに電話しないと…しないと…」
『その必要はないぞ!ニューウェーブ諸君!』
三人「こ、この聞き覚えのある声はっ!!」
P「みんな大好き頼れるスーパーマン!P参上!三人とも、早く荷物をまとめなさい!」
泉「で、でもPさん!もう船は」
亜子「いくらなんでも、Pでもここまでは…できんのやろ…?」
とかいいつつ、亜子は期待度満々の目でPさんを見つめる。
Pさんも答えるように、トランシーバーを取り出すと、一言呟いた。
P「安心しろ、プロのヘリをちょっと借りてきた」
それからはてんてこ舞いだった。
急いで服とか色々詰め、ヘリに飛び乗り海上の豪華客船へ。
着いてからはヘリで乗り込んだ理由を船長に説明して、社長にも謝りに行った。
社長は私たちを笑って「女三人寄れば姦しいとも言うものなぁ。仲がいいのはいいことだよ!」なーんて呑気なことを言いながら、Pさんを連れ去っていった。
最後、Pさんは青ざめつつも笑顔で「明日までは自由行動だから!」と半ば叫ぶようにいうと、私たちを見送ってくれた。
さくら「ね?大丈夫だったでしょぉ?さくら達には、Pさんっていうスーパーマンがいつも居てくれるんだからぁ〜」
亜子「一時はどうなることかと思ったけど、さっすが静岡までスカウトにくるだけはあるなー」
泉「まあ、ちょっと情けないところがあるのが、たまに傷だけどね。
それより、二人ともこれからどうする?」
さくら「さくら、ちょっと行きたいところあるんだけどぉ、いいかな?」
泉「いいけど?」
さくらに連れて行かれると、豪華客船にある割には小さな雑貨屋さんについた。
中にはファンシーなぬいぐるみとかが並び、とっても可愛らしい。
亜子と「何かな?」と顔を見合わせていると、あるぬいぐるみの前でさくらは立ち止まり、振り向いた。
さくら「イズミン、その…あの…さっきは、ごめんなさい!これ、仲直りの印に!」
さくらは店で一番大きな兎のぬいぐるみを差し出した。
値段は結構高そうだ。今更こんな気を使う必要なんてないのに……。
でも、私は今回もふりまわされちゃったけど、この明るくて友達思いで、心の優しい女の子の友達でいて本当に良かったと思った。
泉「ありがとう、さくら」
――一1日後――
私は、昨日二人とあった出来事を思い出していた。
色々あったけど、結局最後は仲直りして、今まで以上に絆が強くなる。
それが、そんなユニットが、私たちNW。
だからこそ、だから絶対、このライブは最高になる。
私は会場全体を見回すと大きく息をすって言い放った。
『今日は来てくれてありがとう!! 次は私たちNWの出番! 盛り上がっていくよー!』
オオオー!!!
忘れられないライブが、はじまる―――