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有か無か、ひたすらそのことだけが満ちる世界。
それは、全てが認識できる範囲ではあるが、パンクしかねないほどの情報量……。
こんなもの見たいわけじゃない、だが認識は認識を呼び、区分けをし整理をしひたすら必要な場所に格納される。
判断をするわけじゃない、しかし、その情報を恣意的に移動させることもある。
何がしたいのか、何をすべきなのか、本当は必要なこと、だが……。
埋め尽くされる情報の中、抵抗する意思がある。
情報を統御し、判断し、利用し、活用すべくひたすらに抵抗を続ける。
情報からすれば小さな、本当に砂漠の針ほどの大きさの情報にすぎない。
しかし、その情報は周囲を取り込みつつ、崩壊しかけていた何かを再構成しようとあがいていた……。
「もしもし、大丈夫ですか?」
すずかは数回その言葉を続けながら、二人のほほを軽く叩いていたが、少し考えを改めた。
近くの蛇口にいって持っていたハンカチを濡らし、薄桃色の髪の少女の額に当てる。
薄桃色の髪の少女はピクピクっと眼球運動をしながら少し声を上げる。
「うっ……うぅ」
「うん、これなら……」
暫くして薄桃色の髪の少女が目を覚ます。
薄目をあけて額を手でこすりつつ、キョロキョロと周囲を見回す。
薄桃色の髪の少女は、黒づくめの男の人がいることを確認して少しだけ表情を緩めたが次の瞬間無表情に戻り、すずかに目を向ける。
「貴方、誰?」
「わっ、私は……」
すずかは息をのんでいた、薄桃色の髪の少女は、金色の目をしていた。
その眼が無感情に自分を見ていることを思い、冷たい印象を受けた。
だが、同時に薄桃色の少女の美しさにも息をのんでいた。
寝ている時も美しい少女だとは思ったが、起きてきた彼女は、人というよりも妖精か何かのような人を寄せ付けないものを感じる。
異質、そうういえばいいのかもしれない。
しかし、それだけでもないとすずかは感じた。
「……答えて」
「あ、うん、私すずかっていうの」
「そう、ならここはどこ?」
「公園……だよ、海鳴臨海公園」
「……そう、ここは地球か」
「地球? えっと、なぜそんな事を……」
「……」
すずかは思わず聞き返したが、薄桃色の髪の少女はすずかに興味を無くしたように自分のいた場所を振り返る。
そして、未だに眠る黒ずくめの男の人の前に膝をついて座った。
脈拍や呼吸などを確認しているようだ。
「リンクがつながらない? 眠りの中にいるから……ううん、そういう感じじゃ……」
その姿は明確にすずかを拒絶しているように感じた。
一瞬もう帰ろうかと考える。
だが、何か確信のようなものがあった、この二人を助けてあげることができるのは自分しか居ないのではないかと。
兆候はすでにある、地球にいるのかどうかというような感じの聞き方。
普通ならここがどこかというのはせいぜいが日本のどこか、というところだ。
知らない間に連れられてくるといってもそれ以上遠くは無理だろう。
それが、地球かどうかというのはまるで自分は宇宙にいましたと言っているかのようだった。
だから、すずかは唐突に口走ってしまった。
「あの……その人休ませるのだったらうちに、来る?」
その言葉を聞いた薄桃色の髪の少女はきょとんとした顔をすずかに向けるとまた無表情に戻り聞く。
「あなた、何者?」
「えっ、何者って言われても……月村すずかだよ?」
「……そういうことじゃない、私たちは普通じゃない、その事はわかるはず。なのになぜ関わろうとする?」
「ああ、そういうことですか……」
すずかは言われてみて少し考える、確かに普通はこういう厄介事をもっていそうな人は敬遠するものだ。
しかし、不思議とそういう気持ちは湧いてこない、理由の一つはわかっている、普通ではないからだ。
自分の中にある普通とは違う部分、人に言えない部分が反応しているのかもしれない。
だけど、それだけかと言われると自分でもわからない。
だからすずかは、口に出して言える範囲でこう答えた。
「放っておけない気がしたんです」
「……そう」
「はい」
冷たい感じのするその薄桃色の少女にすずかはそれでも微笑みかけた。
なぜか、彼女は今心を開きかけているような気がしたから……。
「……ラピス」
「え?」
「ラピス・ラズリ。私の名前」
「あ……うん、私はすずかってあもう言ったっけ」
ラピスに名前をしえてもらった事がうれしくて、つい再度自己紹介をしようとしてしまうすずか。
その時になって気づいた、ラピスと名乗った少女は黒づくめの男の人近くから微動だにしない。
よほど大事に思っているのだろう。
「それより、ひとつ聞きたい」
「うん」
「警察とか病院じゃなくて、落ち着いて治療のできるような場所はある?」
「治療? その人病気なの?」
「……そんなようなもの」
病気というくだりで、ラピスという少女は一瞬どういうべきか迷ったようだった。
それでも、そのようなものという事はつまり、普通の病気じゃないということ。
ならやっぱり、自分たちに関係のあることなのかもしれないとすずかは思った。
「うん、わかった。とりあえず私の家でいい? 警察とか病院には言わないから」
「……わかった」
すずかは言い終わると、すぐに携帯電話を取り出し、自分の家に電話をかける。
自分と目の前のラピスという少女の二人では黒い男の人を家まで運んで行くのは難しいと考えたからだ。
ラピスという少女は警戒心を解いているとは言えないが、とりあえずはすずかの言うことに従ってくれるようだ。
「もしもし、ノエルさん。はい、はい、それで、あの迎えに来てくれませんか?
実はちょっとお願いが……。
そうなんです、休ませてあげたいんですが。
はい、よろしくお願いします」
その間も、ラピスは黒ずくめの男の人をかいがいしく見ていたが。
できることなどほとんどないので、今はただ手を握っている。
男の人は少し顔色を悪くしている以外は先ほどまでと変わらない。
でも、よくなているようには見えないし目覚める様子もない。
なぜそうなったのか、すずかは知りたいと思った。
そんな事を考えている間にも時間はたっていたらしく、
薄紫色の髪をショートに纏め、メイド服を着た女性がすずかに声をかけてきた。
「すずかお嬢様、お待たせしました」
「あ、ノエルさん。お手数かけます」
「あの二人ですか?」
「はい、その男の人を運んであげてください」
「了解しました」
そういうとノエルと呼ばれたメイドは黒づくめの男の人をひょいと片手で担ぎあげる。
それに対し、ラピスが抗議の声を上げようとするが、ノエルは近くに置いてあるリアカーにそっと黒づくめの男の人を横たえた。
そして、リアカーを引いて歩き始める。
「あの、ノエルさん……なぜリアカーなんです?」
「申し訳ないのですが。私、自動車免許を所持しておりませんので」
「あ……はあ……」
ならタクシーでもいいのでは、と思ったのはすずかの心の中だけの秘密である。
とりあえずリアカーの中には毛布が敷き詰められていて、それなりにクッションになっているようではある。
それに、来る時に数分できたようだが、小学生のすずかが歩けば半時間近い時間がかかる。
ノエルもそれなりに気は使っているようだった。
そのことに安心したすずかは、リアカーの横を歩くラピスに話しかける。
「あの、ラピスちゃんって呼んでいい?」
「(こくり)」
「その、ラピスちゃん達ってどうしてここで寝てたの?」
「……脱出」
「脱出? 何かから逃げて来たの?」
「爆発から」
「そっそうなんだ……」
すずかは血筋のこともあって多少のおかしさを許容するだけの心の広さはある。
しかし、いきなり爆発から逃げて来たといわれてもさすがに要領を得ない。
だがひとつだけわかったこともある。
彼女らは何か、戦うべきものを持っている、そう感じた。
「じゃあラピスちゃん、この男の人の名前はなんていうの?」
「……」
そう聞かれたとたん、ラピスは再び表情を硬くした。
それは、拒絶に近い何か、警戒心からくるものだろう。
でも、すずかも言ってしまった手前引き返せない。
男の人が起きてから聞くべきだったかもしれないと少しだけ後悔し始めたその時。
「テンカワ・アキト……」
「……え、ああ、そうなんだ。テンカワ・アキトさんっていうんだね」
「(こくり)」
「格好いい人だね♪」
「……」
そう言われると、ラピスは少し驚いたような顔をしてから、複雑そうな顔をする。
半分は社交辞令のつもりであったすずかだが、そういう顔をされるとどう返していいか分からず言葉に詰まる。
そうして、気まずい雰囲気のまますずか達は家にたどりついた。
目の前にあるのは、かなり大きな規模の屋敷、すずか本人はそのことについて深く考えた事はないが、豪邸である。
ただ、他の民家から離れた位置にある洋館であるため、少し他と隔絶した雰囲気がある。
実際ついこの間までは家長でもあるすずかの姉、忍(しのぶ)もあまり人を寄せ付けるタイプではなかった。
しかし、ある事件があって周りとも打ち解けるようになり、
最近は恋人である高町恭也のところに行く口実として翠屋にバイトにいく毎日だ。
そそのことしのぶはほほえましく見ている。
まあ、この場ではあまり関係のない話だが、そのせいもあって屋敷には誰もいなかった。
「とりあえず、空き部屋はたくさんあるから。ノエルさん、お願いしていいですか?」
「わかりました、お嬢様と、そちらはラピス様でよろしいですね?
お二人には紅茶をお持ちしますので客間にておくつろぎください」
「……」
「はい、ありがとうございますノエルさん」
ノエルはすずか達に一礼した後、テンカワ・アキトという人を担ぎながら出て行った。
外傷もなかったようなので、すずかも安心していた。
ラピスはそれについて行きたそうにしていたが、すずかの事を警戒してかその場で動きを止めている。
すずかは微笑み返し、ノエルが持ってきた紅茶をすすめる。
すずかはこのラピスという少女が気に入っていた、なぜなのか判断はついていなかったが。
ラピスがノエルと似ているせいかもしれない。
容姿ではない、性格でもない、だが感情を置き忘れてきたような無表情さや、ひとつのことにひた向きなところが。
すずかは既にそのことを見抜き始めていた。
「テンカワさんがどういう状態なのかは知りませんが、とりあえず見に行くのはお茶を飲んでからでもいいと思いますよ」
「……(コクリ)」
頷きで返事を返すとラピスは紅茶を口に含む。
しかし、砂糖を入れていない紅茶は苦かったらしく渋い顔をして口を離した。
「あは、ラピスちゃん。その角砂糖をいくつか入れると甘くなりますよ」
「そう……」
言われてラピスは角砂糖を2つほど入れてかき混ぜる。
そのあと口に含み、どうやら気に入ったようだった。
すぐに飲み干してしまう。
そして、すぐに立ち上がった。
目線がテンカワ・アキトの行方を聞いている。
すずかはしかたないかと苦笑してノエルに部屋を案内させる。
ノエルが見て特に何も言わないという事は問題はないと判断していいとすずかは思っていた。
彼女は主人に絶対服従だから嘘は言わない。
それに、テンカワ・アキトには外傷はなかった。
心配されるのは心因性の何か……すずかにとっては縁遠いことであったのでそこまで考えていなかった。
実際その時には既にテンカワ・アキトは目をさましていた。
しかし、予想外の事態が起こっていたのではあるが……。
輪郭をなす。ほどけて朽ちる。
境界線を引く、引いた線の中に不要物が流入する。
欺瞞が欺瞞を生み、否定と公定が入り乱れる。
0と1のみでできた世界、しかし、その中にある巨大な情報は個人などとは比肩することができない。
自我を持つ存在がいられる場所ではなかった。
しかし、それでも主張する。
この体の主は俺だと。
そう、この俺、テンカワ・アキトであると。
名前は自我を強固にし、更に圧力に耐える力を得る。
しかし、圧力は巨大でその自我境界に侵食してくる。
限界がきて、また自我が押しつぶされそうになったころ……。
俺に問いかける声があった。
『貴方は誰ですか? 人であると同時に機械でもある?』
「お前こそ誰だ?」
『私はノエル・綺堂・エーアリヒカイト。自動人形です』
「ほう、自動人形……アンドロイドのようなものか」
『肯定です』
「どうやって、ここにアクセスしてきたのかは知らんが。おかげで助かった」
『どういう意味ですか?』
「今の会話は自我の再構築に役立たせてもらった。次は現実で会話しよう」
『私はただ、あなたが何者か知りたいだけですが』
「それも現実で、だな」
そう言い続ける俺は、だんだんと意識が浮上していくのを感じていた。
ようやく精神の働きがまともになってきたらしい。
このままではいずれ自我が完全に崩壊してしまうところだった。
そんな事を考え始めたころ、意識が完全に浮上した。
「ここは……」
俺は周囲を見る、目をあけているにもかかわらずきちんと情報が入ってこない。
いや、違う、バイザーをしていないのだがきちんと見えているようだ。
しかし、そのきちんと見えている情報が理解できない。
そして、その理由を思いついた。
俺はどうやら遺跡を体内に取り込んでしまったらしい。
まさかあの時のボソンジャンプがそんな結果になるとは。
そのせいで俺はあらゆる感覚がズタズタになっている。
耳や舌の感覚はほぼ回復しているところから見れば、きちんとした状態につなぎなおせば見えるようになるはずだ。
もっとも、感覚をつなぎなおすという作業は金縛りの状態で体を動かそうとするに等しい。
もどかしいほどに自分が言うことをきいてくれない、目だけではない他の感覚もほとんど断線している。
仕方ないのでとりあえず声を出して周囲の人を探る。
警戒心の薄いやり方だが、今は仕方あるまい。
「誰か……いるのか?」
「はい」
「……さっきの、ノエルとかいったか」
「その通りです」
「どういう理由かはわからないが、世話になっているようだな」
「それは、すずかお嬢様にお願いします。私はただ仕事をこなしただけですので」
「了解した、すずかお嬢様とやらが来たら礼を言おう」
「はい」
「それで、薄桃色の髪の少女は知らないか?」
「ラピス様はただいまお嬢様と歓談中です。ご一緒にお越しになるかと」
よどみなく答えるノエル。
俺の心配は特に必要ないようだな。
「所でさっきの質問だが……」
「……少々お待ちください。今すずか様からお呼びがかかりましたので」
「わかった」
俺は、とにかく視界の断線を何とかすべくいろいろと試してみた。
実際問題として、手足もそうだが視界が無いのは痛い。
耳だけで判断ができるほど俺は耳を訓練していない。
せいぜい人の気配がどれくらいの距離にあるかを息遣いで知ることができる程度だ。
この状況では、銃や投げナイフに対して対抗することすらできない。
「戦いのことばかり……か」
前にエリナに言われたことがある、戦い以外の事は考えられないのかと。
俺はどう答えたのだったか……なんにせよ、このままというわけにはいかない。
そんなとき、部屋の扉を開ける音が聞こえた。
「アキト!」
「ラピスか?」
扉が開いた途端に誰かが体当たりしたような衝撃が走る。
しかし、感覚が断線している俺にはいま一つわかりにくい。
それでも声からラピスと判断した。
「アキト?」
「ああ、すまんな。どうやら感覚が以前とは違う状態になっているらしい」
「!?」
「大丈夫だ、回復の見込みがなかったあのころと違って、これはうまくいけば回復する」
「……そう、よかった」
俺は、ラピスに抱きつかれたまま先ほど足音が止まった位置に向き直る。
先ほどの話からすれば、すずかとかいう女性がいるはずだった。
「俺たちを助けてくれたようだな、感謝する」
「はい、ラピスちゃんから聞きましたテンカワ・アキトさんですね。私は月村すずかっていいます。
感謝とか別にいいですよ。困った時はお互い様ですし」
「自分で言うのもなんだが、俺は怪しい風体だからな。よく助ける気がおきたものだ」
「そう、ですね……自分でも不思議です。あなたたちのこと見る前からなんとなくわかったんですよ?」
「ほう……」
俺は不思議な感覚にとらわれた。ここへのボソンジャンプは全くの偶然ではなかったのかもしれない。
普通はありえない話だが、何かそれを予感させるに十分な言葉ではあった。
「それにしても、物おじしないな君達は」
「えっ、あっ! そういえばそうですね……私結構奥手だと思ってたんだけど。
どうしたんだろ? ラピスちゃんのおかげかな……」
「なるほど」
子供に好かれる人間には悪い人はいないの理屈だろうか。
まあ、今はあまり追求しない方がいい、自分で自分の立場を悪化させても意味がいないしな。
しかし、俺は日時も現在地も特に聞く必要を感じなかった事を疑問に思い、そして気が付く。
そうか、演算装置からデータが流入してきているのか……。
今も自我の侵食が止まったわけではないらしい。
簡単にいえば、俺は演算装置と融合してしまったようだった。
ユリカが演算装置に取り込まれたのとは逆に演算装置を取り込んだ格好だ。
しかし、自我が浸食されれば同じようになるだろう。
見知らぬ土地で向き合うには少し重い問題ではあった。
せめて、ラピスが安全に暮らせるようになるまでは俺も終わるわけにはいかない。
ヤマサキ……いや、そのフリをした何者かの介入も考えられる。
どちらにしろ、今は早く自分が動けるようにしなければいけないとは感じているが。
当面の宿の問題もある、このまま厄介になることも考えたがそもそも、すずかという少女は声から察するに小学生程度の年齢だ。
先ほどのノエルと二人暮らしだというなら、俺たちがいることは世間的にもまずいだろう。
また、親がいるなら反対するだろうしな。
「どうかしましたか?」
「いや、あまり世話になってばかりもいられないだろうしな、早めにお暇せねばな」
「えっ!?」
すずかの声はまるでそんな事を考えていなかったかのような声だった。
「まってください、そんな状態で出ていくつもりですか?」
「……そのうち良くなるさ」
病気ならともかく、接続の問題らしいのはわかっている。
実際いまも目がぼんやりとだが光を認識しはじめている。
この調子なら明日には見ることが出来るようになるだろう。
「でも、せめて体がよくなるまでは家にいてください」
「……それがいいと思う」
「ラピス?」
「アキト無茶しすぎるから……少し休んでもいいと思う」
「だが、ここに迷惑がかかってしまうぞ?」
「それなら大丈夫です。ノエルさんは強いんですから!」
「基準にもよりますが、戦闘において人間に負けることはまれであると判断します」
「……しかし、全員がいいと言ってくれるのか?」
「……あっ、お姉ちゃん」
すずかはしまったというような声をだした。
やはり他にも家族がいるらしい。
そして、まるでタイミングを計ったように足音が近づいてくる。
しかし、どう聞いてもその数は一人ではなかった、二人いる。
「あっ……帰ってきちゃった」
「お迎えにあがります」
「うん、行ってきて」
ノエルという女性は遠ざかっていく。
少し先の廊下で話し込んでいる様子だ。
俺はどうすべきか判断に迷う。
流石に家主なら俺の危険性に気づくかもしれない。
そうなったとき、俺自身が動けない今はかなりまずい。
しかし、足音は止まることなく、この部屋に向かってくる。
俺は判断がつかずに途方に暮れたままその人物が来るのを待つことになった……。