ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 8 発破をかけてもダメなものはダメ。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/08(金) 08:13公開   ID:SUURLksaq0Y
翌日、リニスを実体化させたことによる不調は回復していた。

ラピスがつきっきりで看病をしようとしてくれたのは嬉しいが、実質あまり必要はなかった。

そもそも感覚の不調だけであったので、その日昼食の味がわからなかったという程度のことだ。

もっとも、回復を始めていた足の感覚は悪化し、回復の見込はしばらくないだろうという事態には陥っていたが。

人一人復活した代償としては安すぎるくらいだろう。

もっとも、リニスに言わせれば人造魂魄だからこそ、魔力の供給さえあれば体を形作れるのであって、

普通の魂を復活させる方法はないのだとか。

細かい理屈は分からないが、人造魂魄というのが、元々使い魔を作り出すために生み出された特殊な魂だかららしい。

魔法は魂の生成にまで手が届いているのだとすれば、恐ろしいと思わなくもないが、

リニスはそんなに便利なものでもないと否定した、むしろ演算ユニットの能力が強力だからこそであると。

納得はできないが、うなずいておくことにした。


それから数日、リニスが月村家になじみ始めたころ、事件は起こった。

元々、リニスを使い魔にした日からなのはとフェイトの姿を確認できなくなっていたのだが、

時々結界が発生するので、いないわけではない事は知っていた。

しかし、その日、海にできたその結界はたわみ始めていた……。



「あれは、まずいんじゃないのか?」

「……そうですね。恐らく中の魔導師の魔力が尽きかけているのでしょう」

「中にいるのはフェイトかもしれないぞ?」

「はい、だから待っています。マスターの許可があるのを」

「……いってくるといい」



笑顔で言い返すリニスに、律儀な奴だなと苦笑して許可を出すが、リニスはそのままの笑顔で否定する。



「駄目です」

「???」

「あのですね、私が実体化しているにはマスターの近くである必要があるんです」

「演算ユニットは宇宙全体をカバーしているはずだが?」

「いえ、むしろマスターの認識範囲から外れると私は魔法を使えなくなります。

 そして、マスターの行動する範囲から大きく外れた場所へ行けば実体を失うのです。

 これは演算ユニットをカスタマイズしてしまったマスターの責任です」

「うっ……だがどうするんだ? 俺は海の上に浮かぶ術なんてないぞ」



正直そんな制約は初めて知った、リニス自身も初めて知ったらしく少しすねている。

なんでも、俺の代わりにバイトに行ったとき魔法が使えなくなったらしい。

それに、買い物をしてこようとして商店街に行き、ついでに町を見渡すために丘のほうへ少し寄ろうとしたら、

突然腕が消えて買い物袋が地面に落ちたとか。

実際の経験に基づくそれだけにちょっと必死の目で俺を見ている。



「大丈夫です。私、これでも元々大魔導師と呼ばれた人の能力のほとんどを受け継いだ強力な使い魔ですから」

「なっ!?」

「浮遊系の魔法も多数取り揃えています」



言いながら、車椅子ごと俺を浮かせる。

俺はその浮遊感に居心地の悪さを覚えるが、リニスも少し焦っているのだろう杓子してくれる様子はなかった。



「では、結界の近くまで跳びます」

「跳ぶ?」

「はい、しっかり車椅子につかまっていてくださいね」



次の瞬間、俺は海の上にいた。

そう、瞬間移動に近い何かをリニスはしたのだ。

こんな魔法があるならボソンジャンプはいらないんじゃないかと俺は考えたが、

詠唱時間や位置指定、周辺魔力の調査が必須であるため戦闘中に使う事は難しいが、移動や逃走には向いているそうだ。

元々はボソンジャンプもジャンプインやアウトにタイムラグがあったので移動くらいにしかつかえなかったのだが……。



「では突入します、出来るだけサポートはしますが……」

「車椅子では何もできんしな、じっとしているさ」

「はい、あまり行動しようとしないでください」



結界内に突入した直後、海が凄まじい荒れを見せ始める。

小さいながらも竜巻がいくつも立ち上がり、その竜巻は黒いボンテージ風の服を着たフェイトとアルフに襲いかかる。

雷を生む魔法を使いそれらを迎撃するフェイトだが、パワー不足なのか迎撃しきれず巻き込まれて吹き飛ばされる。




「なんて無茶な……パワーの桁が違う相手に正面から挑むなんて……」

「確かにあの竜巻は凄まじいが、それほどの違いが?」

「はい、今はまだそれほどでもないですが、

 時間とともにあの海流は解放した生物の願いを元にさらに力を放出し始めるはずです。

「まだ本気じゃないということか」

「正確にはチューニングがあっていないというところですが、恐らく最大放出時はこの星ごと破壊できるレベルかと」

「……まずいな」

「いえ、そこまで行くにはまだ数日かかるはずですから今の状態で封印すればそれほどの被害はないでしょう。

 あ、細かい話をしている場合ではないですね、行ってまいります」

「ああ、頼む」



車椅子で空を飛ぶという貴重な体験をしている俺だが、正直今はどうでもいい。

このままではフェイトが致命傷を負いかねない。

フェイトが何のためにそんな危険なものと戦い、そして何を求めているのか、それはわからない。

しかし、あんな小さな子供が戦いで散る世界は間違っている。

平和なはずのこの世界で、散っていい命ではない。


ルリちゃんも悪い大人に翻弄され遺伝子をいじられて生まれ、そして幼い頃から戦争に参加していた。

引き取ってから感じた事はやはり、常識が不足していること、なまじ頭がいいだけに違和感があった。

そして、俺達が新婚旅行時に攫われ、一人となったことでまたナデシコに乗る事になった。

結果的に彼女を戦争に巻き込んだのは俺だった。

あんなことは二度とゴメンだ。


しかし、何もできない俺はリニスを見ていることしかできない。

もどかしくて泣きたくなる、だが、リニスはそんな俺に微笑んでからフェイト達のいる戦いの場へと飛び込んでいった。



「あらあら、まだまだフェイトも魔導師として完成されていませんね。

 そんな強い子に正面から挑んでは駄目ですよ」

「え!?」

「リニス!?」

「お久しぶりですフェイト、アルフ。とはいっても、今のままではちょっと危ないですし。

 さっさと片付けちゃいましょうか」

「うっ、うん!」

「へっ、アンタが一緒なら心強いよ」



相手の反撃を食らって海に没しそうになったフェイトを抱えあげ、リニスは笑う。

フェイトに向かって光が流れるのが見える、恐らくは魔力を渡したのだろう。

その時、結界の中に直接何かが現れた……。

あれは、なのは……ピンク色の翼を足元から展開し、制動を取っている。



「フェイトちゃん……」

「なのは……」

「ちょうど良いですね。なのはさんといいましたか? 手伝っていただけます?」

「あっ、はい!」

「リニス!?」

「まあまあ、細かい事は後の話としましょう、あれが成長するとかなりまずいことになりますし」

「そうなんですか?」

「時空管理局なら力技で止めることもできるかもしれませんが。宇宙船でもないと難しいですね」

「……はあ」



なのはは訳がわからなくなっているようだ、恐らくは説明されていないのだろう。

しかし、威力の拡大はかなりまずいことになる、結界はあのあとリニスが強化したようだが、

破られれば被害が都市部にまで及ぶ可能性がある。



「とにかく、先ずはバインドでからめます。アルフ、手伝ってもらえますね?」

「おう! 任せときな!」



アルフとリニスは協力して魔法を展開する、二人の鎖がからまり網の目状になると沢山あった竜巻をまとめて縛りつける。

普通は水を縛り付けることなどできないはずだが、魔法で作った鎖だからか、相手が魔法の影響を受けたものだからか、

ギチギチと音を立てながら縛り付けられている。

更にどこからか亜麻色の髪の少年が現れ魔法の鎖を展開、完全に動きを止めた。



「今です! 二人とも最大級の魔法で石の魔力を吹き飛ばして!」

「はい」

「わかりました!」

「サンダー」

「ディバイン……」

「レイジ!「バスター!」」



ピンク色の光と太い雷撃が竜巻の魔力をふき飛ばす。魔力を吹き飛ばされたその空中には6つの青い石が浮かんでいた。

まるで、そうあれはチューリップクリスタル……。

だが、C・Cにはそんな魔法的な力はなかった、恐らくは別物なのだろう。

しかし、よく似ている……。


その6つの青い石にフェイトが手を伸ばしたそ瞬間、手前の空間から黒尽くめの服の少年が現れフェイトの動きを止める。


「そこまでにしてもらおう、時空管理局として見過ごすわけにはいかないな」

「クッ!」

「うらぁあ!!」


アルフが突撃して少年を弾き飛ばすが、そこには3つしか残っていない。

アルフが少年を睨みつけると、少年はニヤリと笑って三つ持っていることを示す。

まずいな、このままでは乱戦に突入してしまう。

俺は自分が動けないことを歯がゆく感じながら、ただ奥歯を噛みしめているしかなかった。

あんなに幼い少年少女が命をかけて取り合う……。

あの石がどんな力を持つにしても、その価値があるものには思えない。

なんとか……何とかならないのか!?


その時、俺の中の演算ユニットが感知した、成層圏、いや熱圏から飛来する高密度の電気エネルギーを。

考える間もなく俺はジャンプでその着弾地点に飛び込んでいた。

視界に到達すれば既に遅い、演算装置をフルに活用することで俺は思考を加速。

エネルギーの中枢を捕えてイメージする。

サポートするナノマシン補助脳とそれにつながっている演算ユニットを駆使しイメージを固める。

そして、雷のエネルギーを俺の100mほど下までジャンプさせた。

下は当然海中なので雷は拡散しエネルギーを急速に低下させる。

勢いも失われていないため海中を更に下へと突き進んだ後に失われた。

海の生物には悪いが、拡散すれば被害はそれほど大きくはならないだろう。



「ふぅ……」

「「えっ……アキトさん?」」



なのはとフェイトは先ず俺がここにいることに驚き、続いてお互いが俺を知っていることに驚いた。

そして、大慌てで言い訳し合う。



「あっ、あのアキトさんはうち……翠屋のバイトに来てくれてる人で……」

「わっ、私は職安にいくって言ってて、そのあとはお菓子屋に就職したからって時々お菓子とか持ってきてくれて……」

「あ、そのお菓子屋が翠屋だよ」

「そっ、そうなんだ……」



二人は意外な接点に戸惑いつつも、少し穏やかな心理状態になっていたようだが。

次の瞬間、更なる雷撃が来襲する、俺は反応しようとするが、咄嗟にリニスが俺とフェイトそれに石を回収して逃げ出した。

かなりの距離を飛び、多分日本アルプスの山中と思しき場所にリニスは着地、遅れてアルフも着地する。



「相変わらず早いなー、そっちは荷物抱えてるってのにアタシじゃ追いつけもしない」

「さあ、そのあたりは動き方のコツでしょうかね?」

「フンッ、そうせアタシは荒っぽいよ」

「……リニス、ありがとう」

「いえいえ、フェイトのためだったら私はどこからでも駆けつけますよ」

「えっと……」

「それで、なんでリニスは黒いのと一緒にいるわけ?」

「はい、今の私のマスターですから」

「「えええーーー!?」」



にっこり笑って答えるリニスに二人の少女は驚きを隠せないようだ。

まあ、俺だってなり行きのせいとはいえわけがわかっていない部分も多い。

それをその場にいなかったものがわかるわけもない。



「でも、こいつそんな強力な魔導師には見えないけど?」

「はい、彼は魔導師ではありません。でも特殊な力を持っています」

「特殊な力……あっ、母さんの雷を止めた、ううん、飛ばしちゃったあの力?」

「そうだよ、魔力の集中は感じなかったのにどうやって?」

「アレは……」



俺は困ってしまった、言っていいものかどうかわからないし、そもそも俺も全て分かっているわけじゃない。

ナノマシンを媒介としたフェルミオンのボソン化だとか、

先進波による時間の逆行現象などイネスに聞かされていてもさっぱりだ。

そんな俺を見てリニスが二コリと笑う。



「先史文明の遺産を引き継ぐ方なのですマスターは」

「へえ、ロストロギアを使ってるのか、じゃあわかるわけないか」

「でも、リニスがマスターって呼ぶなんてアキトさんって凄いんですね」

「?」

「リニスは母さんも呼び捨てだったんですよ……あっ……」



会話の根っこを見てみると、なるほどリニスはこの二人とは深い知り合いらしい。

二人はリニスによくなついているようだった。

だが、母親の話をすると一気に表情が曇る。

彼女の悲しみの原因は近しいもののせいだろうとは思っていたが、どうやら母親が関係していたらしい。

恐らくは、ジュエルシードとやらを集めるのもその母のため。

となれば母親はただの母親ではないのだろう。

しかし、脅されて仕方なく働いているという感じでもないフェイトから察するにかなり事情が複雑そうだった。


「フェイト、教えてくれませんか? プレシアがこのロストロギアを集めている訳を」

「……」

「リニス、フェイトは……」

「教えられていないのですね?」

「……はい」


フェイトは少し苦しげに答える。

それはつまり、母親から信用されていない事を意味する。

俺は出会う前からプレシアという母親とフェイトという娘の間にある温度差が気にかかった。

さっきの雷撃も、ずいぶん遠くからのものだったようだがまるで狙ったようにフェイトに向けて落ちていた。

娘にマーカーでもつけているのかもしれないが、敵に対してならともかく娘に攻撃するのは常軌を逸している。

リニスもそれは感じているのだろうフェイトを見る目は心配を通り越して不安そうだった。



「マスター、よろしいですか?」

「言わなくても分かる、ついていきたいんだろう?」

「はい……」

「だが、お前一人で行っても実態を失うのでは意味がない。俺も行かないとな」

「えっ……あ、わかりました。ではフェイト。お願いがあるの」

「リニス……また母さんに会ってくれるの?」

「ええ、今日は久々にがつんと言ってあげないといけないようですし」



リニスはドラマなんかでよく肝っ玉母さんがしているように力瘤(ちからこぶ)を作ってみせる。

それが少しおかしかったのかフェイトやアルフの口元が少し微笑みの形を作っていた。

完全に不安がぬぐわれたわけではないのだろうが、リニスという存在がよほど心の支えになっているのは確かなようだ。


フェイトが呪文らしき言葉を紡ぎ、空間に亀裂が走る。

ボソンジャンプとは別系統のようだが、やはり特殊な移動法らしい。

俺達は外観からすれば隕石の上にあるような城に引き寄せられるように入り込んだ。

消えるわけではなく、フィールドか何かを張ってそれを高速移動させているように見える。

あくまで見た目だけだが。


城の端についてからは歩きで移動のはずだが、俺は車椅子なので腕で回す……つもりだったがリニスが押して来た。



「別に一人でも問題ないが?」

「マスターが車椅子で使い魔が普通に歩いてるというのはあまり聞きませんね」

「そんなものか?」

「そんなものです」

「ふふっ、相変わらずリニスは堅いんだから」

「でも、リニス生きてたんだなーアタシはてっきり」

「アルフ!」

「まあ、そのあたりの事は今はいいじゃないですか。それよりプレシアはどこですか?」

「あの女は……」

「アルフ……」



フェイトも気苦労が多いな。アルフの方が明らかに年上のはずなのに態度はまるで逆だ。

狼のような姿に変わっていたし年齢も犬などと同じでまだ数年しか生きていないなどという事は……。

あまり考えたくないな。

そうこうしている間にも、廊下を貫く絨毯を進み、巨大な扉の前で足を止めた。



「あの、私は報告があるから、リニス達は終わってから入ってきて」

「フェイト!」

「ごめん、でも今回の事は私の責任だから……」

「ですが、私も彼女に言うべき事が……」

「うん、でもやっぱり……」

「分かりました、ですが、もし何かあったら私は止まるつもりはありません」

「うん、じゃあ行ってくる」



リニスはかなり頭に血が上っているようだ、プレシアというフェイトの母も気になるが、

リニスのこの感情の動きもきになる、これはいったい……。



「リニス……お前は」

「私は……そうですね、マスターにはまだ話していませんでした。

 私は山猫なんです……いえ、正確には山猫の死体に人造魂魄を宿した存在でした。

 プレシアは昔山猫を飼っていたらしいのです、

 事故の時に死んだその山猫をフェイトの教育係として使うため使い魔としたのです」

「使い魔……なるほどな。その帽子は耳を隠していたのか」

「はい、私は教育係として猫の奔放さを持つわけにはいきませんでしたから、帽子で猫としての本性を封印しました。

 最も今は帽子を脱いだ程度で変わるほど精神的な影響はありませんが、恥ずかしいですね……。

 でももう一つ、山猫は母性が強いんです。私、どうしてもフェイト達が自分の子のように思えてしまって」

「あんがと、リニス。アタシもうれしいよ」

「そういってくれると嬉しいのですが、やっぱりフェイトを抱きしめられなかったのが心残りで」

「化けて出たわけか」

「はい。マスターに取りついて現れたのです。だって私は化け猫ですから」



俺のツッコミにおどけて答えるリニスは落ち着きを取り戻していた。

俺は心の中でうなづきを入れると、リニスは小さく頭を下げた。

しかし、比較的落ち着いていられたのはそれまでだった。

扉の向こうからフェイトの悲鳴があがったからだ。

とはいえ、大きなものではない、プレシアだろう女が鞭か何かでフェイトを叩き、フェイトが押し殺した悲鳴をあげる。

まるで捕虜を尋問でもしているような音を耳にしては俺もさすがにじっとしていられなかった。



「リニス」

「はい!」



俺が口に出すまでもなく、リニスは巨大な扉を蹴破って中に突入する。

そこでは、拷問具に拘束され鎖でつるされたフェイトをプレシアが鞭で叩くという、

もうドメスティックバイオレンスなんてレベルではないものが展開されていた。



「あら、随分乱暴な訪問ね。アポのない面会はお断りなんだけど」

「プレシア……しばらく会わないうちに随分と人の道から外れてしまいましたね。私の顔も見忘れましたか?」

「誰かと思えば山猫……どうやって戻ってきたか知らないけどお山にでも帰りなさい」

「そうはいきません、今の私はこの方の使い魔なんですから!」

「血迷ったの? Cランク魔導師くらいの魔力しかないじゃない。それで維持できる……いえ、魔力が変わってない」

「そうです、マスターの魔力はCかもしれませんが、私はあの時のまま」

「どういう理屈? 私は……いえ、いいわ、どちらにしろ邪魔をするならただじゃおかない」

「今の貴方は随分消耗しているように見えますよ、私はあの時の貴方とほぼ同等、この意味は分かると思いますが」

「まって! 母さんを悪く言わないで……私は、私は構わないから……」

「煩い! 貴方は黙ってなさい!!」



いいつつプレシアはフェイトに雷撃の魔法を放とうとした。

俺は一瞬何も考えられなくなった、それはあまりの事に自分の思いが脳で処理される前に動き出していたという事かもしれない。

少し落ち着いてみれば先ほどのように脳内の時間加速をするという方法もあった、しかし、俺は飛び出していた。

車椅子のままでは間に合わないと考えたのかどうかボソンジャンプを使って。



「グオァァァ!!!」



焼け付くような、いや実際体が焼け焦げるのを感じる。

痛みが全身を這い回り、肉体の苦痛が精神を凌駕する。

俺は何も考えられなくなった、ただうめき続ける。

雷撃の見た目の毒々しさとは別に威力は低めだったのかもしれない、そうでなければ蒸発していてもおかしくないのだから。

だが、幸いというか痛みには慣れていた、ナノマシンが全身を襲う苦痛はこれほど強力ではなかったが、

一瞬で終わりもしなかった、どちらがより苦痛かはわからないが、その事で確かに俺は苦痛からの回復が早い。



「どうして……生きている?」

「うぅ……仮にも……ハァハァ。娘に、雷を落とす……気だったのか?」

「うるさいわね……部外者は黙っていてくれるかしら」

「部外者ではありません。私も、マスターもです」

「リニス……いくらあなたでも、言葉が過ぎれば消すわよ」



その言葉と同時に、部屋中に何か埴輪や鎧武者の化け物のようなものが現れる。

3m〜4m位の大きさのあるそれらは一斉に襲い掛かってくる。

しかし、リニスは落ち着いてそれらを迎撃していく。

どれもこれも、大きさにそぐわないいい動きをしているが、リニスの言葉を借りるならプレシアと同等なのである。

プレシアの作り出したおもちゃ程度に負けるはずもなかった。

だが数が多い、部屋に入り込んでいるのは10体程度だが、倒されれば消えてまた部屋に侵入してくる。

きりがない。


俺は打開策を考えるべくそれらをリニスに任せフェイトの鎖をときにかかる。

魔法で作っていたのだろうが、今は集中が途切れていたのだろう、触れると簡単に消えた。



「ありがとうございます。でも……なぜ助けてくれたんですか?」

「何故ね……難しい問題だな、言いつくろうのは簡単だが。あえて言うなら体が動いてしまったという事か」

「体が?」

「前々から俺は許せない事がいくつかあってね。その一つが拉致監禁なのさ」

「え?」



俺はどうしてもそういう事柄に拒絶反応をしめす。

理由、そんなものは北進にでも聞けばいい、俺は奴等を一生許しはしない。

俺の目つきはいつの間にかかなり凶悪なものになっていたらしい。



「あっ、あの母さんは悪くないんです……私が、私がいけないから……」

「どういうことだ?」

「母さん、昔はやさしかったんです。でも、以前行っていた研究の実験中に事故が起こってしまって。

 それで、学会を追放されて、それでも研究を続けて、体を壊して……悲しい事が多すぎたから……だから……」



必死で自分に言い聞かせている、フェイトもおそらくは違和感を感じているのだろう。

しかし、俺から見てもほぼ決定的なことがある、それは二人の心の乖離だ。

娘は母親をあわれんでいる。

もちろん、娘が悪いといっているのではないが、母親の心境はどうやら哀れまれているという事が許せないのだろう。

先ほどからの話を聞くにプレシアというのはよほど優秀な魔導師だったらしい。

娘に哀れまれる母親というのは立場がない、もちろん、それを受け止める母親の器量しだいでもあるのだが。

それだけでも、関係をギクシャクさせるには十分だが、それだけではあるまいと思う。

プレシアがフェイトを見る目は明らかに憎しみがこもっていた。

それにそれだけで魔法を放ちもしないだろう。



「あのーそろそろちょっと辛いんですが」

「あっ、わかりましたリニス、お手伝いできる範囲でよければ」

「アタシのことも忘れてもらっちゃ困るね」



それでも部屋の中の鎧の化け物達を破壊しきるにはかなり時間がかかった。

その間にプレシアは部屋を脱出していたらしい。

まずい!?



「なっ!」

「母さん!?」

『ふふふっ、もういいわ。どいつもこいつも役立たずばかり。その上飼い主に噛み付くなんて……。

 そうね、次元の狭間にでも放り込んであげるわ』

「え!?」



次の瞬間、部屋がなぜか急にしーんとしてしまう。



「魔力を封じられた?」

「まさか……本当にやるんじゃないだろうね、鬼婆だっていってもアンタフェイトの親だろ!?」

『あーら、ゴミが何か言ってるわ、いい加減掃除しないとね』



魔力を封じられたその部屋は城から切り離され、そのまま虹色に光る妙な空間へと落とされる。

まずい、ボソンジャンプを使えば脱出は可能だが、1km以上のジャンプはどうなるかわからない。

それに、同じ理由で遠距離ジャンプをA級やB級のジャンパー以外が行えば

イツキ・カザマや実験の犠牲者達のように近くのものと融合したり、消滅する事もありうる。



「マスター、ジャンプを行ってください」

「何? その意味をわかって言っているのか?」

「大丈夫です。まず魔法使いは基本的にナノマシン情報と同じ信号をリンカーコアと呼ばれる魔力核から出しています。

 ですので、失敗による消失などの危険は気にしなくてもいいです。

 それに、イメージなら、みんなでやればいいじゃないですか」

「あの、どういう……」

「そうだよ、二人だけでわかりあってないでできる事があるなら教えてくれよ!」

「わかった……じゃあ、リニス。お前はあの公園はわかるか?」

「はい、今の私の最初の記憶ですから、問題ありません」

「では、フェイトとアルフもいつものベンチを思い描いてくれ」

「ちょっこんな緊急時に!」

「いいですから、マスターの言うことを聞いてください」

「だって」

「言うとおりにしよ、アルフ」

「わかったよ……」

「イメージできたか?」

「はい」

「大丈夫です」

「うん、とりあえずは」

「じゃあ行くぞ」



俺は3人を抱えるように抱き寄せる。

あまりほめられた格好ではないが、今はできるだけ情報をまとめたいと感じていた。

演算ユニットが計算を開始しているのを感じる。

うまくいく可能性がどれくらいかはわからないが、それでも……。



「ジャンプ!」



異空間から脱出すべく俺はジャンプを行った……。

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
最近、凄いツッコミが多い……感想の方は来ないので痛いですね。
以前あげた時はここまでではなかったのですが、読者層が変わったのかな?
テキストサイズ:19k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.