ボソンジャンプの後、落ち着き先が必要だったので、
傷だらけのフェイトと俺というハンディを背負いながらどうにか月村家までやってくる。
なんのかんのいっても、リニスがいるおかげでいろいろと助かっている。
問題は月村家にこれ以上の迷惑をかけられないことだ。
フェイトの母親、プレシアの行動は常軌を逸している。
しかし、恐らく追いかけてはこないだろう、はっきりいえば俺たちに興味がないように見えた。
フェイトに対しては複雑な感情を見せていたようではあったが……。
一番強い感情は憎しみ……少なくとも表面上はそう見えた。
しかし、フェイトにしても近くにいなければそれでいいように感じた。
「あの感情はいったいなんだったんだ……」
復讐を実行したことのある俺にはわかる、憎しみも拒絶も何かを隠している鎧だということが。
俺自身がそうだったように……。
兎も角今は、他に行くところがあるわけでもない、月村家に無理を言って二人の部屋も用意してもらった。
今は二人とも寝かしつけてある。
「あんたねー、女の子を拾って来る趣味でもあるわけ?」
「いや、そんなつもりはないのだが……」
「そりゃ事件に巻き込まれたとかやむおえない事情があるんでしょうけど、
アキト、あんたさわかってる? 何故か連れてくるのが全員女の子なのよ!?
最初はラピスちゃん、次はそのリニスって娘だし、今日はフェイトちゃんとアルフちゃんだっけ?
なんで全員美人の女の子なのさ!? 私達だってこの町ではかなりの美人で通ってるのに、霞んじゃうでしょう!」
「……そういう意味で怒っていたのか!?」
「当たり前でしょ! この屋敷に今いる女性は私を含めて8人よ、全員美人ていっても過言じゃないわ。
アンタが来てから一か月かそこらで倍よ、倍!」
「生活費は……」
「そういうことじゃない! いい、今度は必ず二枚目の男の子とかを助けてきなさい!」
「はあ……」
どうにも論旨がズレているように思えるが、まあ確かに男女比がおかしいのは事実か。
男性を助けるといっても、助ける必要性がなければ助けようがないので、えり好みはできないのだが(汗
気にしても仕方ない、心の隅に残しておこう。
とりあえず魔法などのことは省いて話し終えたときには半時間ほどたっていた。
「へぇ、そりゃまた凄い母親ね……」
「職探しの時に知り合ったんだが、こんなことになるとは思わなかった」
「まあ、多分自業自得だとは思うけど、最後まできちんと面倒見切れるの?
私は多少なら手助けしてもいいけど、すずかを巻き込んだら……殺すわよ」
その時、一瞬その眼の色が変わった。
妹のためなら非合法な手段も問わないという意思表示だろう……。
もっとも、俺としてはラピスの事もある、早々に解決するつもりではいた。
それに、相手の方もあまり時間があるとは思えなかった。
あのプレシアという女性の顔色は既に人の顔色ではなかったし、疲労が顔に出ていた。
あのいらつきも思うようにいかない研究のせいだけとは思えない何か切羽詰まったものがあったし、
彼女からは血の匂いがした。
それぞれは色々と方向性の違う情報だが、全てを統合すると彼女はもう長くないのではないかと考える事が出来る。
リニスは彼女も救うつもりであったようだから、その為にはこちらも迅速に動く必要があった。
次の日、ラピスとすずかを見送り、忍には翠屋を休むことを伝えておく。
そして、彼女らのいる部屋へと急いだ。
車椅子のスピードなどたかが知れているが。
「入っていいか?」
「はい」
ノックをしてフェイトのいる部屋に入る、そこにはアルフとリニスも一緒にいた。
リニスはフェイトとアルフをなだめるように頭をなでている。
その表情は慈母のようでどこか犯しがたいものがあった……。
「あら、マスターもご一緒します?」
「その手の冗談が出るなら問題ないのか」
「この娘達はとても傷ついています。でも……」
リニスは困ったように言葉を濁す。
その視線はフェイトを追っていた。
「私は母さんに捨てられた……けど……」
「だからさ、アタシらはもう自由なんだ。ここにはリニスがいるしさ……」
「でもそうしたら、お母さん独りぼっちになっちゃう」
フェイトは目を伏せて悲しそうにしている。
俺は少し理解の範疇を超えていると感じていた、
9歳の子供がそこまで理知的に母親を理解しようとし、愛そうと努めるだろうか。
これではまるで反抗期の子を持つ母親だ。
母子逆転も甚だしい……。
この娘は大人であることが常に求められてきたということなのだろう。
そして母親は我を通すことしか考えていない。
違和感を感じる……。
そもそも、プレシアは命を削ってまで何の研究をしているのだ?
何の研究のためならそれまで優しかった母親が急変して娘に暴力を振るうようになる?
「情報が、パズルのピースが足りない……」
「えっ……」
「マスター?」
「いや、プレシアの研究とは一体何なんだ?」
「私、一度も見せてもらった事ないですから、知らないです」
「アタシも知らないね。そもそも使い魔だからまともに口も聞いてないし」
「私は、研究室を見せてもらった事はあります。何の研究かはわかりませんでしたが……」
「誰も知らない? 娘や使い魔にもか?」
「ですね、私が生きていたころも研究室にお茶を運びこむくらいしかしたことはないですし」
「おおよその予想はつかないか?」
「まったくというわけではないです。私はアルフと研究材料や資料を取りに行っていましたから」
「そうなのか」
「はい、でも分かるのは空間系か時空系の魔法のということくらいです」
だとすれば移動や時間の停止、過去への回帰だろうか……。
戦闘用の魔法が欲しいとも思えない。
もう一度実験の失敗前に戻りたいということかもしれないな……。
しかし、弱い……もっと切実な何かのはず。
いや、所詮魔法の事はよく知らないのだ、考えても無駄かもしれないが。
「それで、フェイト。お前はどうしたいんだ?」
「私は……母さんを助けたい」
「何言ってるんだよフェイト! アンタにあんな事をする人なんか助けなくていいよ!」
「それでも……それでも、私のお母さんだから……」
リニスはフェイトを抱きしめる、フェイトの行動原理……普通の親子では成立しえないものだ。
親は子を無条件に愛する事が出来る、それは子が可愛いからであり、自らの後を託すことを考えるからだ。
しかし、子が親を愛するのは、あくまで与えられた愛に対するものであり、無条件ではない。
ではフェイトのような状況ではどうか……俺なら家出する。
恐らく1年も耐えられないだろう、今の俺ならば多少は痛みには強いが子供にはそんな耐性はない。
普通の場合、逃げないのは逃げる方法を知らないからだ。
しかし、フェイトは強い、9歳の子供とは思えないほどに戦闘力も心も。
それらを総合すると、ある種の嫌な想像が頭をもたげてくる……。
洗脳……もしくはそれに類する何か……出きれば外れであってほしいのだが……。
「私……母さんの所に帰らなきゃ……せめて、母さんが言った15個までジュエルシードを集めないと……」
「ジュエルシードか……そもそもアレは一体どういうものなんだ?」
「マスターの能力と同じようなシステム……ではないでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「時空に干渉する高エネルギー体、ジュエルシードはそういったもののように思います。
次元や空間、時間すら越えて願いを適える、そういうようなものではないでしょうか?」
「……下手すれば、演算ユニットよりもとんでもないものじゃないのか?」
「それは……どうでしょう? 私、演算ユニットのほうが恐ろしい力のように感じますが」
「そうなのか……実感が無いな、そもそもユニットの力のどれくらいを俺が使えているのかすらわからないしな」
「現状では一億分の一にも行かない事は保障します。それよりも……。
プレシアの願い、もしかしたら演算ユニットでも叶えられるものかもしれませんね」
「そうなんですか?」
プレシアの願いの話が出ると思わずといった感じでフェイトが割り込む。
よほど、真剣にその事をおもっているのだな。
「どちらにしても、俺達はプレシアにとって邪魔者と認識されている。直に行っても追い返されるのがオチだろう」
「……それは……でも、だからあと6つジュエルシードを」
「残りは恐らく全て時空管理局のものじゃないのか?」
「なら、なのはと戦ってでも……」
「そうか……しかし、それよりもいい方法があるかもしれないな」
「どういうことですか?」
フェイトの思考はやはり偏っている、しかし、その事を指摘しても本人にはわからないだろう。
ならばもう一つの方法をなんとかするしかないだろうか……。
敵対していた少年、時空管理局とかいう組織に所属しているようだった。
「聞きたいんだが時空管理局というのはどういう組織なんだ?」
「それは……」
「マスター、それは、私が答えますわ。
時空管理局というのは平行世界とされる宇宙のうちの魔法を主体として発展した世界を中心とした権威集合体です。
その名の通り、平行世界の治安維持を行う事を主眼としています」
「ならば、軍隊と同じか。平行世界にわたって存在する巨大な国家ということでいいのか?」
「正式に国家と言っているわけではないです、でも、確かにそういう側面はありますね」
「それで……この世界は時空管理局の国内になるのか?」
「いえ、管理外世界になるはずです」
「管理外世界……つまり、勝手に侵犯してきているわけか」
「どのみち、管理局以外にそういう組織のある世界はあまりないですから。
あったとしても、遠すぎてお互いに干渉していないはずです」
「なら、この世界の国家に対し接触を持ったりはするのか?」
「いえ、魔法使いには接触するでしょうが、一般の人とは接触を避けるはずです」
「なるほどな……」
つまり、時空管理局と呼ばれる組織は、この世界を魔法の使えない格下の世界として、
世界の危機だろうと、それを告げる気もないということになる。
既に、このジュエルシードと呼ばれるものの危険性はリニスから聞いたが、地球が破壊されてもおかしくないレベルの危険度だ。
管理局がどういう組織なのかおおよそ見当はつくというもの。
「それでも……今は利用しないわけには行かないか……」
「では……」
「リニス、連絡はつけられるか?」
「はい。お任せください」
俺達は、いつもの公園に来ていた、今日はフェイトに車椅子を押してもらっている。
アルフは俺の事をまだ少し警戒しているようでもあるが、文句も言わなくなったところを見ると信用はされているようだ。
そして、公園で待つ事10分程度、前に見た黒ずくめの少年がやってきていた。
「貴方達から接触してくれるとは思いませんでした」
「クロノ君といったか、出迎え感謝するよ」
「いえ、任務ですから……」
それだけ言って俺達を連れてテレポートのように一瞬で景色が変わる。
本当にボソンジャンプなど必要ないな、魔法使いには……。
どこか基地のような場所にやってきていた、もっとも内部から見てであって、別のものである可能性もあるが。
途中リニスと合流し、突き当たりまで進んでいく……。
突き当たりにくると、クロノは俺達を振り向いて鋭い表情で言う。
「一言言っておきます。貴方達は犯罪を犯しているのだという事を忘れないでください」
「犯罪?」
「ロストロギア、ジュエルシードの不正入手、それに魔法による戦闘行為、公務執行妨害などです」
「残念だが何のことか分からないな。この世界にはそんな法律はないぞ」
「この世界になくても、時空管理局にはある! お前達を逮捕する程度分けは無いんだ」
「それが、管理局とやらのやり方か、随分と強引なんだな」
「貴様!」
『クロノ君、早く中に通してくれるかしら?』
「あっ……はい」
クロノはしぶしぶといった感じで拳を引くと、正面の扉を開ける。
中には座布団が敷いてあり、車座に座るように配置されている。
そして、既に幾つかの座布団の上には座っている人影があった。
なのはと、金髪の少年、そしてさっきクロノを止めた緑の髪をポニーテールにした女が茶を片手に角砂糖を3つ入れている。
俺は少し目をそらす。
あれは冒涜行為に見えるが……まあ、個人の趣味にまで口を出すこともない。
「見ての通りなのでな、車椅子で失礼する」
「いえ、わざわざご足労ありがとうございます」
「あっ、あの……なんでフェイトちゃんも一緒に?」
「成り行きだ」
「マスターは巻き込まれ人生一直線ですので」
「あっ、なんか納得できた気がする……」
びっくりしていたなのはの顔が納得の表情になる。
俺はまだなのはと会ってひと月になっていないし、リニスと会ってからは一週間にも満たない。
それで既に方向性を決められているというのはちょっと悲しい……。
首を振って気を取り直し正面を見据える。
緑の髪の女性とクロノがほぼ正面に来ている。
クロノからはかなり睨まれているな……さっきの会話からでは仕方ないが。
「さて、先ずは自己紹介をさせていただきます。
私はこの船、時空管理局巡行艦アースラの艦長、リンディ・ハラオウンです。
隣のこの子は監察官のクロノ・ハラオウン。私の息子です」
クロノの頭をなでながらそういうことを言う、見た目はあまり似ていないがフェイトとプレシアも似ていなかった。
正直魔法の世界の遺伝というのはどうなっているのかと考えてしまう……。
首を振って気を取り直し、こちらの紹介をすることにする。
「俺はテンカワ・アキト。少なくとも魔法は使わない、一般人だとも言わないがな」
「使い魔のリニスといいます。以後お見知り置きを」
「フェイト・テスタロッサです……」
「アルフ」
だんだん減っていく自己紹介にリンディはうーんとうなる。
しかし、仕方ないのでそのまま進めた。
「私は高町なのは。っていってももうみんな知ってるよね」
「僕はユーノ・スクライア。今回の事件の事の起こりは僕にあります」
最後に言ったユーノという子供の言葉が引っかかった。
俺はユーノの方向に視線を向ける。
「事件の発端?」
「はい、僕はスクライア一族という考古学を生業とする一族の出です。
僕はジュエルシードの発掘に成功したんですが、移送の途中で事故が起こり飛び散ってしまったんです」
「……ちょっと待て。それはいつのことだ?」
「えっと三か月ほど前ですが」
「隠遁していた人間がそんなに早くジュエルシードとやらに目をつけて回収をはじめられるものか?
だいたい自分で取りにきたという事は、公にもしていないのだろう?」
「えっ、あ……はい……」
「それについては現在調査中だ。それよりも、お前たちに答えてもらいたい事がある」
ユーノの言葉を遮るようにクロノが言葉をかぶせてくる。
内部事情があるということか、この時点で時空管理局が一枚岩でないのはおおよそ見当がつく。
もっとも人間の作る組織が一枚岩だったためしはないが。
「お前が行った魔法防御はいったいどうやったんだ? 魔力を使っていなかったように思うが」
「世の中には色々な手段が存在するということさ、魔法だってその一つにすぎない」
「けむに巻くつもりか? ならば拘束してでも……」
「クロノ、やめなさい」
「しかし……」
「そんな事よりも、俺達はプレシアに対するお前たちの出方を聞きにきた」
「プレシア・テスタロッサ……今回の騒動の主犯ですね」
「そうなるな」
「決まっている、ロストロギアの不正使用は重罪だ。
それに時空管理局に対する敵対行動もな。よって拘束し裁判にかける」
「彼女の行動はこの世界を危険にさらすものです。その事はご理解いただけると思いますが?」
クロノは俺達に警戒しているのか、先ほどからかなり突っかかってきている。
対して、リンディは息子をなだめながらも、意見を変えるつもりはない事を意思表示している。
しかし、それはそれで望むところだ。
俺の目的上少しでもプレシアの戦力を分散させる必要があった。
それに管理局がいつ介入してくるのかわからないよりはこうして介入するタイミングを指定できる立場のほうがいい。
「そんな……母さんは……」
「母親? プレシア・テスタロッサには……」
「クロノ!!」
「すいません……しかし……」
「事情があるのでしょう、今詮索すべき事ではありません。
それよりも、あなた方がここに来られたということは我々に協力してくださると考えていいのですね?」
さっきクロノが言おうとした言葉……引っかかるな。
フェイトと母親の関係がおかしいのは分かっている事だが、
今の言葉から想像できることを重ね合わせると疑問点が彼女の目的だけに絞る事ができる。
だが、そうするだけの目的いや、それを必要とするという点が既に分からない。
やはり情報が足りない……その思考を済ませ、俺はリンディの問いに対し、首を縦に振る。
「……アキトさん?」
「フェイト、大丈夫ですよ。マスターはそういった考えで動いているのではありません」
「でも……」
「アタシはあの女が捕まるのは悪い事じゃないと思うけどね」
「アルフ!?」
「あの女のせいでフェイトがどのくらい辛い目にあったかを思えば……」
「アルフ!! お願い……母さんの悪口は言わないで……」
「……でもさ!」
「アルフ、使い魔は主の言う事に異を唱えたりしないものです」
「なっ!? 自分だって……」
「アルフ?」
「はいすみません……」
フェイトは俺に対しまだ疑問をぶつけるような表情をしている。
確かに、状況をこちらから動かすというのはあまりいい手ではないのかもしれない。
しかし、直に動かねば間に合わないかもしれない。
「ともかく、場所は教えよう、リニス、わかるな?」
「はい、リンディ艦長の端末にデータを送っておきました。キーコードを入れれば開きます」
「ただし、交換条件がある」
「なんでしょう?」
「俺達も突入部隊に加えてほしい。それが条件だ」
「裏切らない保障がありますか?」
「裏切る? 味方になった覚えは無いがな」
「そういうことですか、わかりました。参加の件許可しましょう」
「なっ!?」
「クロノ、監視役お願いしますね」
「……了解しました」
クロノはまだ不満やるかたないという感じではあるが、母親の威圧に圧されて仕方なく俺たちのことを認めるらしい。
恐らくリンディも何か思惑があるのだろうが、息子と違いそれを表に出すようなへまはしていない。
「テンカワさん少しだけ残ってもらえますか?」
「わかった、リニス、先に行っていてくれ」
「わかりました」
リニスはフェイト達を連れて出て行く、なのはも何かいいたそうな顔をしていたが、フェイトの事が気になったのだろう。
追いすがるように出て行った、ユーノもなのはを追いかけて行ったようだ、最後にクロノが退出する。
ここに残っているのは、リンディと俺の二人だけ……。
「さて、いくつかご質問をさせていただいていいでしょうか?」
「俺のほうからの質問にも答えてくれるならな」
「……そうですね、相応の情報料だと思います。
しかし、あまり無茶な質問をされても困りますが……」
「そちらの質問次第だな」
「いいでしょう、私からの質問は単純です。貴方は何者ですか?」
「俺が何者か? それは、プレシアの雷を防いだ事に対する質問ととらえていいのか?」
「はい、とはいえそれだけではありません。貴方の事を現地のシステムに侵入して調べましたが……。
履歴上は存在していても、貴方の経歴の大部分は嘘であることが確認されています」
「なるほどな、そこまで分かっていたか……。
なら、隠すほどの事もない。俺も異世界からやってきたというだけのことだ」
「私達の知らない世界から来られたのですね」
「絶対とは言い切れないが、少なくとも時空管理局なんていう組織は聞いた事が無いな」
「そうですか……では能力はその世界で?」
「待ってもらおう、質問に答えたのだからこちらの質問にも答えるのが礼儀だろう?」
俺はそのまま話を続けようとするリンディを遮り、こちらの質問を優先させる。
そもそも、俺は捕まったつもりも無い。
それに、彼女らには俺を逮捕する権限は無いはずだった。
「そうですね……」
「では聞きたい、さっき言いかけていた事だが……」
「私も報告書を読んだだけですが……プレシア・テスタロッサの娘の名はアリシア。
そして、その娘は彼女の実験中の事故で死亡しています」
「それからできた娘と言う事はありえないのか?」
「いえ、その後の隠遁生活において、人のいる世界で彼女の存在が確認された事はありません。
また、彼女の経歴において男性との付き合いは一度きりと聞いています。
もちろん、絶対ということはありませんが……」
「そうか……」
報告書についていたという写真を見て確信する。
これでほぼ決定的になった、プレシアの目的も、フェイトの存在も。
リンディはまだ聞きたそうにしていたが、
俺は時間も無いと会話を打ち切り突入部隊に参加するべく部屋を出た。
「あの……アキトさん、母さんを助けてくれますか?」
「彼女の笑顔をもう一度見たいと言っていたな」
「はい」
「それが、君にとって母親との繋がりを断ち切る事になってもか?」
「……どういうことですか?」
「今はそれ以上言う事はできない」
「……もし、そうなったとしても。母さんの笑顔が見れるなら……」
「わかった。できうる限りやってみよう」
「ありがとうございます」
そう言うと、リニスの指示で俺達はプレシアのいる時の庭園へと向かう。
リニスは俺の表情を見て、一つうなずくと、どこか悲しげな瞳を見せる。
そして、団体の転移を行い、管理局の突撃要因がそのまま進んでいく……。
俺達も進むべきなのだろうが、フェイトに先回りできる通路を聞いてみる。
「あいつらよりも先にあわなくては意味が無いからな」
「はい、母さんが助かるなら何でもします」
「フェイト……」
特殊な通路を通り、プレシアのいる部屋のある階層までほぼ妨害も無くやってくる。
最下層についてからは流石に仕掛けてくる敵もいたが、リニスがすぐさま消滅させた。
車椅子の俺は今のところついていくことしかできないが、
恐らく彼女にジェルシードを使ったものよりはマシな答えを用意してやれるだろう。
「さあ、行くか」
魔法使いをたぶらかす、なんていうと格好をつけすぎか?
だが、今回はあえてそんな仮面をかぶる必要がありそうだ……。