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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 10 逆行ものも10回見れば流れがわかる。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/10(日) 09:15公開   ID:SUURLksaq0Y
突入部隊は途中の魔法のトラップや傀儡兵と呼ばれる魔法で動く自動防衛兵器にひっかかっている。

クロノは俺達を監視しようとしていたようだが、戦闘がはじまると集中してしまい俺たちが脇道に入り込む隙を作った。

なのはは先に動力炉を止めるために向かっており、実質的に俺たちを止める者はいなかった。

戦闘後クロノは俺たちを追いかけたようだが、おおよその位置把握では裏道を突っ走る俺達を捕えることは難しかったようだ。

もっとも、俺はリニスの魔法で浮いているだけなので楽なものだが。



「ここがプレシアの研究室か?」

「はい、私と会う時以外はほとんどここにこもっていました」

「私も以前からこの部屋で研究していたのは知っていましたが……やはり、体を壊しても続けていたのですね」

「あの女はそこまでして何をしてたんだろ?」

「それはすぐにはっきりとする」



俺はリニスに頷き、研究室の扉を開けさせる。

そこにはずらりと水槽が並んでいた……研究室?

どちらかといえば保管庫のようにも見える……。



「でも、勝手に入るなんて……」

「母親思いは結構だが、助けるためにも目的を知ることは必要だ」

「そうです、しかし……。以前とは随分と様変わりしていますね……」



俺達が研究室に踏み込むと、そこにあるのはただ何かを納めていたと思われる水槽ばかり。

しかも、かなり奥行きがある部屋のようだった。

ここにはプレシアの気配を感じない、しかし、時空の狭間だかに浮かんでいるせいか、演算ユニットが座標軸を安定させない。

起点となる俺から離れてしまうと座標がとたんに不安定になる。

恐らく、断層のようなものを作っているのだろう、この部屋、よほど特別らしい。



「つきあたりまで行きついたな」

「はい、特に変わった風なものは見当たりませんが……」



いや、ひとつだけある、ひときわ大きな水槽が……これだけが球形であるのも特別さを感じさせる。

ただ、内部は暗さのせいもあってみる事は出来ない。

俺達は水槽に近づいてみることにした。

しかし、感知式の魔法でも仕込んであったのか、突然空間を渡ってプレシアが出現した。



「貴方達がここに来るなんてね……フェイト、役立たずなだけじゃなく刃向うつもりなの?」

「そんな! 私は……母さんに……」

「母さん……母さんですって! このできそこないが!」



プレシアの表情が今までの嘲りから怒りに豹変する。

怒りの根幹にあるのは大抵の場合、くやしさか後悔だ。

欲しかったものを手に入れられなかった、守りたいものが守れなかった、

自分の何かを否定された、他人に知られたくない事を知られたなど。

俺が復讐をした時はこの4つのうち3つまでを満たしていた。

プレシアはどうなのだろう?



「プレシア・テスタロッサ。今回は部屋ごと俺達を飛ばさないんだな」

「クッ!」

「この部屋はそれだけ重要ということか……その水槽の中身が」

「……時空管理局か」

「ああ、聞いたよ」

「そうさ、この水槽の中にいるこの娘こそ、私の愛娘アリシア・テスタロッサだ!」



プレシアがそう言うが早いかこの研究室に明かりがともる、真っ暗だった水槽の中には……。

フェイトと同じ姿の娘が……いや、少し小さくしたような娘が浮いていた。

まるでフェイトの成長途中で切り取ったように、そっくりのその姿は双子と言われても信じるだろう。



「アリシア……やはり、貴方はフェイトを作ったのですね……」

「そう、リニス。お前のような使い魔の発展形、ホムンクルスの技術を使ってより人間に近い存在を作り上げた」

「そっ……そんな……」

「あっ、あんたはどこまでフェイトを翻弄すれば気が済むんだい!!」

「ふんっ、元々アリシアの復活のために生み出したテスト用なんだけどね……。

 まったく似ていなかった、アリシアはあんなに明るい子だったのに!

 物おじしないし、私に反発することもあるけどすぐにまた仲良くなれる。

 だけど、フェイトお前は似ても似つかない!!」

「なるほど……それがお前の理由か」

「その言葉使い……お前は気に入らないな……まるで一段高いところにでもいるような言い回しが」

「ならば殺すか? たった9つのジュエルシードじゃ手づまりだったんだろう?」

「何が言いたい?」



さっきまで自暴自棄になりかけていたプレシアの目に理性の光がともる。

恐らく警戒心が芽生えたのだろう、それは成功ではある。

戦闘になれば彼女は魔法を使う、俺が捌ける回数はさして多くないし、数で推されればそれまでだ。

もっともリニスがいる以上負ける可能性はさほど高くないだろう。

しかし、それではここに来た意味がなくなってしまう。

できればフェイトにはトラウマを作ったままでいて欲しくはない。



「なあに、取引を持ちかけようというのさ」

「取引ですって?」

「フェイトをくれ、そうすればお前を望む時間に飛ばしてやる」

「望む……時間ですって……」

「わっ、私を……?」



今の言葉にプレシアとフェイトは戸惑いの声をあげている。

リニスは俺に目くばせしてくるが、俺としては少し頭が痛い。

なんだか人身売買をしているようだ……(汗



「本当にそんな事が出来るつもり?」

「俺がリニスを連れているのが証拠では足りないか?」

「例え出来るのだとしても、私をきちんと送り届けるとは限らないでしょう?」

「そうだな、しかし、その9つのジュエルシードなら確実なのか?」

「ジュエルシードは……15個必要だったわ、アルハザードの扉を開くためには」

「アルハザードというのが故郷か?」

「そうね、アルハザードには過去へと行くことのできる魔法があると言われているだけ……」

「母さんはそのために……」

「それで、決まったか?

 あまり時間は残されていない。時空管理局がここまで来るのにそれほど時間はかからないだろう」



その時、一瞬だけプレシアはフェイトを見る。

フェイトは悲しそうに目を伏せるが、それでももう一度プレシアを見た。

プレシアはその時すでに視線をアリシアに戻していたが、何かの意味があったのかそれはわからない。

ただ、プレシアは決心をつけたようだった。



「わかったわ……貴方の取引に乗りましょう」

「そうしてくれると助かる。あまり時間は残されていないが注意をしよう」

「?」

「世界にはタイムパラドックスを起こすまいという強制力のようなものが存在する」

「まさか」

「例え戻っても普通に助け出すことはできないだろう。

 そして、過去のお前がいる場所には近寄ることもできない可能性が高い」



そう、かつて俺はイツキ・カザマという女性がボソンジャンプに巻き込まれて死んだ過去をどうにかしたいと思った事がある。

しかし、二週間前に飛ばされ、改変できると思っていた事実に対し、月の電波状況が悪化し、

その二週間が経過した後でしかナデシコに連絡することもできなかった。

つまり、パラドックスをねじ伏せるほどの意思の力や、すり抜ける狡猾さがなければどうしようもできない可能性が高い。



「それじゃあ意味がないわ! 私はアリシアを助けたい! そのために過去に行くと決めたのよ」

「そうだ、だから。事故のどさくさで今そこにあるアリシアと生きているアリシアをすり替えろ」

「!?」

「その後はすぐさま別の世界に行き、時空管理局とは絶対に接触せず静かに暮せ。そうすればうまくいくかもしれない」

「……なるほど、やってみます」


実際、こうして魔法が使える世界とか科学が発展した世界とか並行世界は存在している。

強制力等が存在するのは、無制限に数を増やす訳ではないということだろう。

もっとも、プレシアはどうみても病巣におかされている。

アリシアを助けたとしても、大人になるまで面倒見切れるかは疑問ではあるが……。

少なくとも現在のような生活よりはマシかもしれないな。



「もっとも、俺もボソンジャンプで意図的に過去へ行くというのは初めてだ。

 成功率はあまり高いとはいえないかもしれないな」

「これ以上不安になる要素を聞きたくもないわ、早く始めてくれる? フェイトはくれてやるから」

「了解した。リニス、彼女のイメージングを仲介して俺に流してくれるか?」

「はい、プレシア、思い浮かべてください。貴方が幸せだった時代、事故が起こる直前。

 貴方が望みうるアリシアが助けられる最後の瞬間を」

「私が望む時間……それは……」



プレシアのイメージが流れてくる、なるほど、その日事故が起こる前にとった昼食の時間。

それが終わり自分が実験のために籠った直後を選んだようだ。

上手くいくかどうかそれは向こうにいってからのプレシア次第。

無責任なようだが、俺にできる事はそれだけだ。

リニスによって伝達されるイメージを演算ユニットが計測していく。

俺には分からない巨大な数列が頭をかきむしる……。

ジャンプのたびに少し感じているが、今回のは特別だった、距離も時間もハンパな計算ではできないということだろう。

それでも俺は言った……。



「ジャンプ」



成功の確率は高くない、後は彼女の執念次第。

俺も復讐などという事をやってきた身、人の事を言えた義理ではない、だから。

フェイトにしたことは気分が良いものではないが、俺が非難していいものでもないだろう。

だから、幸せになれとは言わない、だがこれだけの事をやった執念の強さを見せてもらおう。

プレシアとアリシアの入った水槽は丸ごと消えてそこには何も残っていない。


さて、そろそろ時空管理局が来るころか。



「あの……母さんの望みを叶えてくれてありがとう」

「まだ叶ったかどうかわからんがな……それよりもこれからが大変だ……」

「大丈夫です。マスターは私がお守りします」

「うん、私も守るよ」

「フェイトが言うんじゃ仕方ないか。まあせいぜい隅っこで隠れてな」



3人が身構えたのとほぼ時を同じくしてクロノ・ハラオウン率いる部隊が到着した。

なのは達もやってきている。

どうやら役者が揃ったか。



「やはりお前達か……今この空間からプレシア・テスタロッサを消滅させたのは」

「そうだな。彼女には消えてもらった。お前達も犯罪者を捕える手間が省けてよかっただろう?」

「確かに、脅威が去ったことには感謝する。しかし、彼女は刑を受けさせて罪を認識させなければいけなかった。

 彼女がいなくなってしまえばそれもできない」

「だったらどうする?」

「お前たちを捕える、罪状は公務執行妨害、未許可魔法の使用、過剰防衛にロストロギアの不法所持だ」

「ロストロギア……ああ、これか……」



俺はそこにあるジュエルシードを見つめる。

9つ確かに浮いていた……確かに使い道はあるのかもしれない。

しかし、別段俺にとって必要なものとは思えない、俺は何となく手をかざしてそれらをつかみ取ると、

まとめてクロノに投げ渡した。



「なっ!?」

「そんなの俺には必要ない、それよりもリンディ・ハラオウン。聞いているのだろう?」

『はい、聞いています』

「ここは既に崩れ始めている、回収してもらえるかな?」

『ええ、後でお話をしていただけるなら』

「了解。今回はお願いをしている立場だからな」



俺は軽い言葉を投げかけてくるリンディに軽い言葉を返した。

やはりリンディはかなり役者だ、俺を泳がせていたようだった。

俺達は再びアースラへと転移することになる。



「あの……」



なのはが俺に話しかけてくる、何か少し不満そうな顔をしている。



「フェイトちゃんを助けてくれたことお礼を言います。

 私も友達になりたいと思っていたから……。

 でも、どうして……」

「プレシアを消したことか? それともなのはを連れて行かなかったことか?」

「両方です。私だってフェイトちゃんに何かしてあげたかったんです」

「その考え方は立派だ」



俺はなのはの頭に手を置きぐしゃぐしゃと頭をかきまわす。

なでているのだが、どうにも髪の毛が多いと毛を乱すばかりだ……。



「んうー」

「だが、あまりスタンドプレーを意識しすぎるな。フェイトとはこれから仲良くなればいいだろ?」

「そう……ですね、ごめんなさい」

「いや、そういう素直な気持ちを表に出せるのはいいことだ。フェイトももう少しなのはを見習うべきだな」

「はい……その、義父さん?」

「まあ、そうなるのかな?」

「では、私は母さんと呼んでくださいね」

「リニス!?」

「だって、私は元々フェイトが自分の娘ならいいと思っていたんですよ。アルフも甘えていいんですからね?」

「おおー、それはなんか嬉しいな!」

「あのあのあの、あああああ……ええっと……」



フェイトは顔を真っ赤にしている。

元々愛情に飢えていたのだろうし、悪くはない。

しかし……まだ時空管理局との折り合いがついたわけじゃない。

クロノは憤懣やるかたないといった感じではあるし、リンディにも思うところはあるだろう。

戦えないわが身が情けない、しかし、今の俺は口八丁で乗り切るしかなかった。



「さて、いらして頂いたのは他でもありません。この後どうするかという事です」

「それは時空管理局の裁定と考えていいのか?」

「はい、しかし、それだけでもありませんけど」

「なら、通常ではどうなるんだ?」

「公務執行妨害、過剰防衛、ロストロギアの不法所持など挙げればきりがない、

 今回の件の解決に多少貢献したことを差し引いても最低10年は牢屋の中に入ってもらうのが普通だ」



怒りを露わにしているものの、クロノはそのままの裁定にするつもりがあるわけではないらしい。

多少は考えているのか、それとも少女たちを裁くことには抵抗があるのか、人間味という意味では悪い子ではないな。

リンディはそれを微笑んで聞いてから、もう一度俺達に向き直る。



「とはいえ、今回の件は責任能力のない人間が起こした物がほとんどです。

 プレシア・テスタロッサは既にここにはいませんし、フェイトさんはプレシアに命令を受けていただけ。

 アルフさんやリニスさんは使い魔ですので罪は主のものとなり法で裁くことはできません。

 よって正式に裁かれるのはテンカワ・アキトさん貴方だけということになります」

「なるほど、フェイトは無罪ということでいいのか?」

「本来は厚生施設で何年かというところなのですが……」

「まあ、常識の勉強も必要か……しかし、それはここの世界のでもかまうまい?」

「魔法の勉強という意味ではここではできませんよ?」

「魔法……な」


俺はリニスを見る、彼女は元々フェイトの教育係だったという、もう教える事はないのだろうか?

戦闘面に特化させてしまった事を後悔しているとは聞いているのだが。


「それはリニスでもできるだろう」

「あら、確かにSランクを越える魔法力をお持ちのようですね……」

「はい、私これでも全盛期のプレシアとほぼ同等の能力や知識を引き継いでいますので」

「それは凄いですね……でも、テンカワさんには時空管理局としても来てもらわねばならないのです。

 ですから、使い魔の貴方も来ないわけにはいかないと思うのですが」 

「俺にも罪があると?」

「いいえ、貴方は我々の知る世界の方ではない以上そういう方面で拘束するのは難しいと思います。

 ですが、貴方の使う瞬間移動のような力、もしも悪用などされれば恐ろしいことになります。

 個人的に貴方はそのような使い方はされないと思いますが……」

「そのつもりだが」

「既にプレシアを逃したという点がある事を忘れないでください」

「母さんは……」

「フェイトちゃん……」

「その話には続きがあるのだけど、聞いてくれないかしら?」

「なっ!?」

「プレシア!?」

「母さん!?」


突然アースラの中にプレシアが転移してきた、そしてその傍らにはフェイトとそっくりな娘がいる。

あの娘……もしや……。


「プレシア……貴方なぜ?」

「クッ、アースラの結界をどう抜けてきた!?」

「これでも大魔導師を名乗っていたのですもの、結界の解析などお手の物よ。

 でも、私は闘いにきたわけじゃないわ」

「どういうことだ?」

「私は自首しにきたの。ご不満?」

「いえ、不満はありませんが……何故です?」

「そうね……この娘のため……かしら?」

「はじめまして! 私アリシア・テスタロッサっていいます!

 なんか母さんがいろいろご迷惑をかけたみたいですいません」


アリシアは紹介されたとたん、ぺこりとお辞儀をして謝る。

派手な動作のせいで結んでいる髪がぶんぶん動く。

確かに、元気で明るい少女のようだった。


「貴方がフェイトね?」

「えっ、あっ、はい……」

「ごめんね、母さん独り占めしちゃって。それに、母さんの事は叱っておいたから。

 許してあげてなんてとても言えないけど……せめて嫌わないであげてね」

「ううん……母さん、いえ、プレシアさんが笑顔になったのならそれでいいよ」

「うっ……健気だよ……母さん!! なんでこんな子にひどいことしたの!!!」

「ごっ、ごめんなさいね……」

「ご免で済んだら警察、ううん時空管理局はいらないよ!!

 もー!! せっかく妹が出来ると思ってたのに。

 こんなんじゃ気まずいじゃない!!」

「ごめんなさい……」

「母さん!! 謝る相手が違うでしょ!!」

「あっ……」

「そうね……フェイト。ごめんなさい。私はアリシアの死を思い起こさせる貴方が怖かったの。

 フェイト、貴方はいい子だったわ、でも、いい子であればあるほどアリシアとの違いが目に付く。

 アリシアとは違ういい子、でも、そのひた向きさも、貴方の注いでくれる気持ちも。アリシアを忘れさせてしまいそうで……。

 だから、その気持ちそのものを疎ましく思うようになった、アリシアと違うことを否定することで。

 貴方を遠ざけたのはそのため、私はアリシアの死を認めるわけにはいかなかった。

 だってアリシアは私の全てだったんだもの……」

「ううん……か、いえプレシアさんは間違っていないよ。だってアリシアさんは帰って来たんだもん」

「ありがとう、そしてごめんなさい……」


プレシアは初めてフェイトを抱きしめ、そして泣いた……。

フェイトはどこまでも純粋だった、あれだけ裏切られ、鞭打たれたのだというのに、プレシアを恨んでもおかしくはないのに。

洗脳のせいと言ってしまえば簡単だが、これが彼女の本質なのだろう。

そして、それでもアリシアの手前母さんと呼ぶ事を我慢している……強い子だな……。


「そろそろいいですか? プレシア……話とはなんですか?」

「そうね、私も恩義という言葉くらいは知っているということよ」

「恩義ですか?」

「テンカワ・アキト。彼にはアリシアを助けるために協力してもらったわ。

 次元航行エネルギー駆動炉ヒュウドラの暴走事故そのものは防げなかったけど、

 おかげでロストロギアを使うこともなく、最良の形でアリシアを助ける事が出来た。

 私は病巣がかなりまずい事になっていたけど、それも魔法を使わず空気のいい場所で静養をしたので悪化はしなかったわ。」

「アリシアは26年前に死んだ……そう聞いていますが」

「貴方は見ていなかった? 私は体を保存していたの、それを使っただけよ」

「まあいいでしょう、それで目的を達したので自首を?」

「そういうことです。それに私の体はもう取り返しのつかないところまで来ています。

 延命のためにも魔法治療の効くミッドチルダのほうがいいということもありますしね」

「なるほど、それが自首をした理由なら、確かに承ります。ですが……」

「いえ、彼にはアリシアの面倒も見てもらいたいのです。ですから手を引いていただけないかしら」

「!?」

「はっ……?」

「そんな理由で我々が引くことが出来るとでも?」

「ならば、艦隊司令辺りに連絡を取りなさいな、彼に危害が及ぶようなら証言台で私はあの事を暴露する……と」


プレシアは余裕の表情のままリンディを見つめる。

リンディの表情はいつもの笑顔ではなくどちらかといえば物問いたげだ、プレシアの意図を測りかねているようだった。

仕方なく、リンディは一時退席し確認を取りに行った。


「プレシア……あれだけ会いたがっていた娘と別れるつもりか?」

「そうね……でも、私もそろそろ限界……アリシアにもその事はわかってもらったわ」

「お前はそれでいいのか?」

「私はアリシアが元気でいてくれるなら、自分がどうなっても構わないわ」

「そうなのか?」

「ううん、罪を償う事は理解したけど面会に行かないなんて言ってないし、母さんが死んでもいいなんて思ってないから!」

「まあ、普通そうだな」

「ふふ、アリシアは自慢の娘ですもの優しいのは当り前よ」

「フェイトもな」

「……ええ」


プレシアは26年過去に戻りアリシアを助け、今まで育ててきたのだろう。

それにしては、5歳くらいの身体からだから5歳程度しか成長していないように見えるのが気になるが……。


「アリシアの事が気になる?」

「ああ、若いな、年齢的に考えれば31歳じゃないのか?」

「そんなわけないでしょう。隠れた世界とこの世界の時間の流れが違っていただけよ。

 この世界の5日が向こうでは1日にしかならなかったということ」

「だからあたし、まだ10歳ですよ!」


時間の流れが違うか、考えたこともなかったな……。

しかし、プレシアも丸くなったものだ、以前の追い詰められた獰猛さも拒絶の冷たい感じもしない。

ささくれた心もその間に溶かされたということだろうか、表情にはいままで感じていた険もなく、微笑みを常に浮かべている。

とてもあんな事をした人間には思えなかった、母をここまで変えてしまうアリシアの存在も凄まじいものがある。


「確認させていただきました。確かに、テンカワさんの保護は保留となりました。これは……」

「簡単、彼らにも表に出せないことがあるということよ。私も昔は研究者としてそれなりの地位にいたのだから。

 そういう秘密をいくつか知っているということ」

「わかりました……ですが、テンカワさん。何者かに貴方を利用されそうになった時は言ってくださいね。

 貴方は、自分が思う以上に重要な人間になりつつあると思いますので。

 管理局はあくまで、味方となりうる存在なのだということを忘れないでください」

「ああ。では、もう帰ってもいいのか?」

「はい、なのはさん達も、事件はもう解決しましたので、お家に帰られて結構ですよ」

「あっ、はい!」


プレシアはリンディ達が確保し、アリシア、フェイト、リニス、なのは、アルフなどに連れられて俺は地上に降りた。

なんでもユーノは管理局で働くことにしたらしい。

まだ9歳の人間が働きづめというのもどうかと思うのだが……。

気にしても仕方ない、というか、俺の望みうる限りの結果にはなった。


プレシアを倒すではなく、フェイトと仲直りはできた、他人のようになってしまったのは辛いことだが。

その代りにアリシアがフェイトと仲良くしようとしているのが見える、

フェイトは気持ちが複雑なのかなかなかなじめないでいるが。


途中でなのはと別れ、すずかの屋敷へと向かうことにする。


だんだんと思いだしてきた……今日はラピスやすずかのことを放り出してきた格好になる……。


それに、アリシアを引き取ってしまった……。


これは、あの屋敷に着いたら血の雨が降りそうな……。


とたんに帰る気が失せてきたが、車椅子を押すリニスの足取りは軽く、どんどん屋敷は近づいてくる。


俺はなんとか止めようかと声を上げようとするが……。


「ありがとうございます。マスター、おかげで私、望みが叶いました。フェイトもアルフもアリシアだってここにいる。

 全員が笑顔とはまだいきませんが……それでも、きっとそうしていけると思います。

 だから、これからもお願いしますね……」


リニスは心からの笑顔で俺を見ている、俺は真上に首を向けるので少し辛かったが、幸せそうな顔に癒された。


しかし、リニスの顔が笑顔から邪笑に変化する……。


「では! これから朝帰りとアリシアの分の言い訳お願いしますね♪」

「ってお前! フォローは無しか!」

「はい! 私はマスターの使い魔、どこまでもお供しますよ!」

「勢いよく押すな! せめて言い訳考える時間くらい!?」

「無理無理、もうほら、玄関が……」

「ギャー!!?」


その日からしばらく、俺は忍、すずか、ラピスの3人にこき使われるはめになるのだが……。




それはまた別の話。

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無印編終了です。
最近、誤字脱字の編集ばっかりしてますな(汗
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