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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 11 温泉よいとこ11度はおいで。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/11(月) 07:23公開   ID:SUURLksaq0Y
先だってのプレシアの起こしたごたごたから約一か月後。

いろいろあって延び延びになっていたらしい翠屋の社員旅行が決行された。

参加者は翠屋の家族、高町士郎(父)、高町桃子(母)、高町恭也(長男)、高町美由希(長女)、高町なのは(次女)。

それからバイト、月村忍、城島晶、鳳蓮飛、そして俺。

更にバイトの家族、月村すずか、ラピス、リニス、フェイト、アリシア、アルフ。

駅前とはいえ菓子屋一軒の社員旅行にしては多すぎる陣容だった。

高町士郎氏は普段パティシエ修行を兼ねて出ていることが多かったため、俺との面識はあまりない。

とはいえ、時々みかける姿は夫婦のいちゃいちゃとしたものばかりなので、近づきづらかった。

また、忍の恋人である恭也とは顔を合わせる機会こそ多かったが、面と向かうと喧嘩腰になりやすい。

まあ、忍に迷惑をかけている自覚はあるので、俺としては心苦しくもある。

城島晶、鳳蓮飛に関しては同じシフトでよく合うということもありそれなりに話す。

晶は言葉使いが男勝りで空手をしているせいか行動が少し荒い、少しリョーコちゃんを思い出す性格だ。

対して蓮飛は関西弁を話す中華風の身なりの娘だ、なんでも中国人と関西人のハーフらしい。

二人は揃うとすぐ喧嘩になり、なのはが仲裁を買って出るというパターンが目撃されている。

高町美由希に関しては、三つ編み眼鏡の子というイメージだったが、最近刀剣マニアであることを確認した。

この旅行のメンバー、不思議なことにこと戦闘力だけを見ればかなりの戦力になるだろうという達人ばかりだ。

俺のカンもあるが、実際に動きを見ていれば隙のない者が多いことはわかる。


兎にも角にも、総勢15人の社員旅行は4台の車を使っての温泉旅行とあいなった。

因みに、月村家のメイド、ノエルとファリンは留守番ということらしい。

ノエルは兎も角、ファリンは少し残念そうにしていた。



「それにしてもいい天気ですね」



少し眩しそうにそう言うのは運転席のリニス、今は栗毛をセミロングで纏め、ワンピース風の出で立ちをしている。

俺は足の感覚がまだ完全には回復していないため、車椅子から降りられない、そうである以上運転できない。

もっとも、この国の免許は持っていないのだが。

リニスは忍に頼んで上手く免許取得したらしい。

リニスや魔法を使う者たちなら飛んでいくという方法もあるにはあるが、あまり目立つ行動をとりたくないし、

景色を見ながら進むのは好きなのだそうだ。

因みに車はバンタイプのものをレンタルしている。

一応6人乗りだ。



「しかし、日差しが少しきついか? 子供も多いしな」

「それってどういう意味かなー? 病弱っ子はこの中には居ないと思うけど?」



俺の言葉に反応したのはアリシア、金髪碧眼の少女でルリを思わせるロングツインテールをした少女だ。

明朗快活というか、活発そうなはきはきした動きをする少女で、髪が良く揺れている。

服装もそれに合わせてか、上着を腰に巻きつけてスパッツを出すといった動的なものだ。



「もしかして、ラピスのこと心配? 色白いからねー」

「私は弱くない」

「ふふっ、ラピスはかわいーね♪」

「ちょっ、姉さん!?」

「何? フェイトもかわいがって欲しい?」

「そうじゃなくて!」

「仲がいいですね」



ラピスやフェイトも巻き込んでアリシアははしゃいでいる。

それをほほえましく見ているのはすずかだ。

忍が恭也と二人でドライブをするのに邪魔だろうとこちらに移ってきたのだ。

まあ、同年代の人間が多いせいもあるのだろうが。

配置的にリニスが運転し、助手席でアルフが寝ていて、後ろの4席を向かい合わせにして4人の少女がはしゃいでいる。

俺は隅っこで助手席に乗れなかったことを悔やんでいる。

まあ元々車椅子からだと真ん中に入る以外はきついのだが。



「でもラピスっていつもアキトにべったりだけど、どういう関係なの?」

「私とアキトの関係? 私はかつてアキトの目であり耳であり手であり足だった」

「ええ!?」

「かつての俺は今よりひどかったからな、ラピスには迷惑をかけた」

「ううん、今でもそうしたいと思っている、可能なら私はアキトの足の代わりでありたい」

「凄い……熱愛宣言だ……でも、私だって母さんと私を救ってくれたアキトは好きだよ!

 フェイト貴方もそうでしょ?」

「あっ……その、私は……とても感謝してるけど……」

「アキトさん、モテモテですねー……」

「いや、ちょっと待て。お前らな……」



いつの間にか、ラピスにはピッタリ寄り添われ、アリシアには膝の上に乗られ、

フェイトは赤くなってうつむき、すずかはプレッシャーをかけてきていた。

好かれているのは悪いことじゃないはずなんだが、どうにも俺は微妙な立場らしい。

最もこれでも妻のいる身、まあ、死亡扱いだから関係ないといえばそれまでだが……。

幼女趣味はないので放っておけばいいという考え方もあるが、外聞は悪い。

まあ、どちらにしてもいい父親というわけにはいかないようだ。



「そういえば、向こうでアリサちゃんとも合流するんですよ」

「アリサ……確かすずかやなのはの友達か、時々翠屋に来ているな」

「そうです、やっぱりお友達は全員集まった方がいいかなって」

「それはいいな、しかし、彼女一人か? 親は一緒じゃないのか?」

「ボディガードの人が何人かついてくるって聞きましたけど」

「それは……金持ちなんだな」

「アリサちゃんの両親は大きな事業をしているみたいで、とってもお金持ちですよ」

「ほう……それは凄いな」



金持ちの基準は一般の場合、大きな屋敷や家の仕事の手伝いを雇っていれば金持ちとなる。

しかし、月村家は莫大な資産を持っている、お金持ちなどではなく大金持ちだ。

不動産や、古美術、表に出せないものなど、資産価値を総合すれば百憶に届くかもしれない。

それどころか、月村重工なる製鉄、造船などのTOP企業の株を20%以上取得する大株主でもある。

最も忍はそれを感じさせる事を嫌い、あまり派手な生活はしていないのだが。

そんな月村の家人であるすずかが金持ちだというアリサという少女の家の金持ち具合も予想するだにあまりある。

少なく見積もっても百億以上の資産を持つ大金持ちだろう。



「でも、そんなことは鼻に掛けたりしないいい子なんですよ」

「そのようだな、翠屋ではそんなそぶりは見せていなかった、せいぜい生意気そうな感じが少しする程度かな」

「もう、そんな事言うとアリサちゃんに言いつけちゃいますよ」

「すまない、だが元気そうな子だったな」

「それは私も思います」

「そっかー、その子もそう言う子なんだ、ちょっと会うの楽しみ」



俺やすずかの会話からアリサがどういう子なのかを予想しアリシアは期待を膨らませている。

しかし、アリシアは物おじしない子だ、

プレシアに連れてこられてからは見知らぬ人ばかりだったろうに、ほんの数日でなじんでしまっていた。

フェイトが常に申し訳なさそうにしているのとは対照的である、もちろん互いに負い目があるのだろうが。

リニスはそういったやり取りを見て、少し切なそうな目を向けて微笑んでいた。



「さて、そろそろ目的地に着きますよ。荷物の準備はいいですか?」

「はい」

「りょーかい」

「わかりました」

「(こくり)」

「がーーぐーー」

「アルフ、起きて」

「んっ、むにゃ……フェイトーもう食べられないよぉ……むにゃ」

「起きなさい」

「りーにー……むにゃ」

「もう目的地に着きましたよ、起きなさい」

「んが……ぐー……」

「そうですか、実力行使に出てもいいのですね、カウントを5とります。それ以内に起きられない場合……」



キラーンとリニスの目が光る、猫目というやつだ、しかしアルフはまだ目覚めない。

そして、リニスのカウントダウンがはじまった、

そして危機感を感じたすずか、フェイト、アリシア、ラピスの4人が車から降りて退避する。

俺は取り残されてしまったようだ……。



「んっ……りーにーす?」

「5……4……」

「どー……し……たの?」

「3……2……」

「え? 両手で光ってるの……何?」

「1……0!」



カウントを終えた瞬間、アルフは俺の視界から消えた。

一体どうなったのか不思議に思うと、外でドスン! とかなり大きな音が鳴った。

多分外の空中に転送したのだろう……。



「ぐっは!? 誰だ!? アタシにこんなマネしてただで済むと!!」

「ふーん、ただで済まないならどうなるんですか?」

「えっ……リニス……いや、その……ほら玉のお肌に傷がついちゃったかもしれないし……」

「それはそれは申し訳ありません。でもナビをするはずのあなたがずっと寝ているというのはどういうことなのでしょう?」

「うぐ……いや、ほらさ……地図って見てると眠くならない……?」

「そうですかー、まじめに運転している私の横でずっと寝ている理由はそれですか」

「ごめんなさい……」



流石にリニスの圧力と自責で押しつぶされるアルフ。

そういう時は下手に抵抗すると損をするという事をまだ学んでいないらしい。


温泉宿の駐車場には既に全員が揃っているようだった。

アリサ・バニングスらしき人影とSPの姿もある。

なのは達が手を振っているのでそちらに向かう事になったのだが、

俺は車椅子に座るために結構時間を食うので先に行ってもらうことにした。

しかし、すずかはその場を動かなかった。



「私運動とか少しは自信ありますから、手伝わせてください」

「いや、一人でできるんだが……」

「駄目ですか?」

「そういうわけでは……」

「じゃあ、頑張りますね」

「……」


すずかは妙に積極的だった。

それは、恐らく前の事件の時に何もできなかったという思いがあるからだろう。

もちろん、全部を話したわけではない、しかし、何かに巻き込まれたということはわかっているだろう。

正直、確かにすずかは俺の体を支え車椅子に乗せるという作業を簡単にこなした。

成人男性に匹敵する力を持っているということだろうか。



「ありがとう」

「いえ、私なんて何もできないですし……」

「あまり気にするな、お前たちはまだ何の責任も負わなくてもいい次期なんだ。

 むしろ、気にされたほうが俺は困る」

「そう、ですね。私、ちょっと焦ってるのかも……」

「?」

「乙女心は男の人にはわかりません。さあ、押してあげますから行きましょう」

「ああ……」



今一よくわからない言い回しだが、まだ完全に諦めたわけじゃないらしい。

そういえば、ユリカが恋愛臭いことを言い始めたのは幼稚園の年長組になってからだった。

もちろん、本気で思っていたとは思えないが、それでもマセている子はそういう機微も早いのかもな……。

正直怖いが……。


集合してチェックイン、それから皆で昼食を取る。

今日は凄まじいほどに騒がしい、なにせ小学生が6人、カップルが2組いるのだ……。

それに、バイト仲間の城島晶と鳳蓮飛がまた喧嘩を始める……。

てんやわんやの喧噪の中、俺はちびちびと酒を飲みながら懐石料理に舌鼓を打っていた。

流石に、両金持ちも参加するだけはあって上品な味をしている。

もっとも、アルフや晶などが時々俺の盆の上を強奪しに来たりするので、ゆっくり味わうことはできなかったが……。


しばらくして、俺はカップルその1である恭也と忍を連れ出した。

俺はリニスを伴っている。

正直折角の恋人の時間を邪魔するのは悪い気がしたが、今後のためにも警戒網を作っておいて損はない。



「さて、わざわざ俺たちを呼び出して、どういうつもりだ?」

「ああ、頼みがある……しかし、その前に言っておかないとな」

「それは、フェイトやアリシアの母親のこと?」

「それもあるが、もっと全体的なことだ」

「それは面白そうだな。是非聞かせてもらおう」

「ああ……」



俺は今まで伏せてきた魔法の事、そして魔法で次元世界を管理している組織時空管理局について話をした。

俺自身の能力は基本的に移動のみであることにした、時間移動はかなりヤバい部類だからだ。

そのあたりをごまかすためにリニスには骨を折ってもらった。

そして、本題にうつる。



「で、結局のところ何のために私たちに話したわけ?」

「俺達にも協力しろというのか?」

「確かに、協力を願ってはいるが戦力をそのまま期待しているわけじゃない。

 どちらかというと、政治力だな、期待したいのは」

「政治力……ねぇ、でも下手に政府にその手の話を持ち込めば秘密裏に軍事利用を考えるわよ?」

「だからこそ、だな。できる限り政府に根を張っている組織に協力してもらいたい」



忍はその言葉を聞いて俺を睨みつけるような表情に変わる。

恭也は殺気すら漂わせていた、それは現在の均衡を俺が脅かす場合は切るということだろう。

リニスはおれの背後で静かにたたずんでいる。

この会話に参加するつもりはないという意思表示でもあり、絶対の守護を考え一瞬たりとも気を抜かないということでもある。

緊張が高まる中、口を開いたのは忍だった。



「つまりは月村重工を動かせということ?」

「別に匂わせるだけでもずいぶん違うだろう」

「確かに、そうだとは思うけどね」

「その分リスクができる事は理解しているか?」

「政治的なカードとして扱われる可能性については否定しない、

 しかし、今回のようなことを何度も許すということの危険性は理解できるはずだが?」

「そうね、でも、もう来ないという可能性もあるわ」



確かに、時空管理局がもう介入してこないのであれば、俺の会話は杞憂となる。

しかし、時空管理局という組織、胡散臭い臭いはプンプンする。


「確かに、アースラという巡航艦は帰還したようだが、今も別の艦がこの世界に駐留している」

「どういう意味?」

「アリシアが母に会いに行く時のためという名目にはなっているがな」

「裏があるというのか?」

「もしアリシアのためなら別に巡航艦である必要はない、

 それに、どうも監視用のゴーレムだったか……それらしきものを多数放っている。

 主に海鳴市を中心として……な」

「そんな詳細な情報どうやってつかんだの?」

「それは私の能力です、魔力を帯びた物が近くにあればおおよそ判別できますので。

 海鳴市には少なくとも20以上の小鳥型ゴーレムが配置されています」


リニスは小鳥を袂から取り出し、握り潰した。

活きの良いというかバタバタする鳥がバキリという音と共に背骨を折られる。

すると小鳥は形を失い紙になって散る。

明らかに普通ではないそれを見て、忍も恭也も息をのむ。

こんなもので偵察をされても分からないだろう、恭也のように気配を察知すれば別だが。


「……わかったわ、働きかけてみましょう。ただし、私のやり方でね……」


俺たちの見守る中、忍は薄くほほ笑んだ……。


堅い話を済ませて俺が部屋を出ると、早速二人はいちゃつき始めたらしい。

お盛んなことでと思いつつどこか悔しくもある、人の恋愛事情というのは読みやすい。

バイト仲間の城島晶と鳳蓮飛、妹の高町美由希も恭也のことが好きなのだろうという事ぐらいわかる。

なのはも憧れているふしがある。

その上で恋愛を成立させているのはある意味驚きだった。

まあ、どうでもいいことではあるが……。



「御馳走様というところか……」

「そういえばマスター」

「なんだ?」

「この世界にきてからずっとシャワーをお使いになられているようですが、

 この温泉宿にはシャワーは大浴場等のものしかないはずですよ」

「だろうな……多少不格好かもしれんが、足を引きずって行けばなんとかなるとは思うが……」

「こう言ってはなんですが、遠慮ばかりしていてもいいことはありませんよ?」

「どういう意味だ?」

「私は使い魔なのですから、そういう身の回りの世話は私の仕事です」

「……」



リニスはなんの気負いもなく、それでいて真剣に俺に言う。

体を洗うくらい俺にはさほど難しいことではない、足を使えないため出入りが面倒なだけにすぎない。

しかし、リニスどうにもこのままでは収まりそうにない雰囲気を醸し出していた。



「はぁ、わかった好きにしてくれ。だが、あんまり無茶なことはしないでくれよ」

「ええ、もちろんです」



そんな感じで一度部屋に戻り着替えを取って風呂に行こうとすると、

廊下に何人か人がいた、どうにも困惑した表情をしている。

彼らは困惑に表情のままぶつぶついいつつ去っていく。

聞こえた限りでは急に大浴場が貸切りになったらしい。



「リニス、もしかして貸切りにしたのはお前か?」

「はい、正確には違いますが私が支持したのは事実です」

「支持?」

「はい、細かい事は入浴中にでも」



俺は背筋がゾワリとするのを感じた……。

怪しい……じとりとする汗をかきながら大浴場に行くかどうかを考える。

しかし、リニスは俺の車椅子を押す力を緩めない。

俺は観念して更衣室へ入ることにした。



「所で……着替えの手伝いはしないよな?」

「しますよ、むしろ当然かと」

「ぐっ!?」



羞恥プレイじゃあるまいし……25にもなって着替えを手伝ってもらうだと!?

ご免こうむる所だ。



「先に入っていてくれ」

「でも……」

「どうせ、大浴場は混浴になるようにしてあるんだろう?」

「あははは……」

「なら、女性側の脱衣所で先に着替えていてくれ」

「はぁ、仕方ありませんね……。

 介護にそういう考えを持ち込むのはあまり良くないと思うのですが……」



真面目ぶっているが、どこか悪戯心が隠し切れていない。

やはりまだ何か隠し玉があるのか……リニスの奴、演算ユニットの広域捜索に割り込みをかけて妨害している。

大浴場周辺だけであるところがなおさら怪しい……。



「だが、経験上無視しても事態が悪化するばかりだということも知っている……か……」



そう、こういう時はロクなことがない。

しかし、踏み込んでいくしか逃れる方法もない、まあ、リニスが俺を害するようなことを考えているとは思えないが。

意を決して、上半身の力だけで大浴場へと入りこむ……。

そこには……。



「もう、アキトってば随分待たせるんだから!」

「ねっ、姉さん、せめてバスタオルをつけてください!」

「アキトを支えるのは私の役目」

「私、そう言うの得意ですから、まかせてください」



目の前に飛び出してきたのは4人の幼女……。

リニスは微笑ましく見守っている、ヲイ……。

残り二人の幼女もよく見ればリニスの近くで見ている。

どういうつもりなんだリニスの奴。



「あっ、あのすずかがあんなに積極的に……」

「フェイトちゃんも結構凄いね……」



俺はすずかとラピスに支えられる格好で洗い場に行き、待ち構えていたアリシアとフェイトに体を洗ってもらう。

俺としては一部を死守するしかないので、他の場所に構っていられないというところである……。

というか、アリシア……子供とは言え肌は隠せ……。



「アキトの背中広いねー、お父さんってこんな感じかな?」

「私もそういうのは記憶にないけど……そうかもしれないね」

「なら私はあなたたちのママ?」

「ラピス……結構言うね……」

「あははは……でも、男の人の背中って何だかいいね」



アリシアやフェイトのある種の望郷の念にラピスが天然で言い返し、すずかが微笑ましく見ている。

これが普通の状況ならそれでいいのだが……こんな場所で言われても困る……。

ナノマシンの光等は基本的に遺跡演算ユニットに融合したらしく光らなくなっている。

もちろん、ナノマシンは増えてはいても減ってないはずだが、意志下にあるので調整が効く。

後、一応体の傷はリニスが保護色をかけてくれた。

おかげで、引かれる事はなかったようだ。

もっとも隠したのは傷だけだが……。


「うーあー、もう! なんだか仲間外れみたいで腹立つ! なのは、行くわよ!」

「えっ、ちょ、いーよー」

「何言ってんの、興味無いなんて言うつもり?」

「いや、そのあの……」

「じゃあ、みんなで行きましょうか」

「リニスさん……」

「貴方が行くと流石にやばくない?」

「問題ありません、私、使い魔ですので」

「そーかなー?」



そんな事を言いながら追加戦力が迫ってきた。

俺は、抵抗する気力もなかったが、とりあえず局部は死守するように頑張ることにした。

いや、元気になられても困るしな……。



「でも、私こんなにたくさんの友達とお風呂に入ったの初めてだよー」

「そうね、大人がたくさんいる事はあったけど、子供は私たち3人だけっての多かったしね」

「それもそうですね、私たち、どうしても大人の人たちと一緒になることが多いですし」

「何となく気持ちはわかるなー、私も母さんの研究の関係で大人の人とは接する機会多かったから」

「そうなんですか……私は姉さんの記憶は一部しか受け継いでいないので……」

「そんなこと気にしなくてもいいって、というか全部受け継いでたらそれはそれでちょっと困っちゃうけどね」

「あはは……そうだね」



だんだん遠慮のなくなってくる、小学生の攻撃はついに俺の隠している場所に迫ってきた。

俺は流石に防御するが、執拗に迫ってくる……。

多分見たら見たで嫌がって逃げ出すんだろうに……好奇心というのは度し難い……。



「おっ……俺の意思は……」

「もう、うれしいくせに! というか、これで不幸なんていう男はいないわよ!」

「玩具にされているだけじゃないのか?」

「女の子は玩具も選ぶんですよ♪」

「……兎も角、前はやめてくれ……頼むから……」

「私お父さんの見たことあるから大丈夫だよ?」

「わっ、私だってパパの見たことくらいあるわよ……」

「えっ、そういうものなの?」

「じゃあやっぱり見ないわけにはいかないね」

「姉さん……アキト嫌がってるよ……」

「嫌よ嫌よも好きのうちっていうのよ」

「そーかなー」

「違う!」



下半身不随に近い俺ではジャンプでもしないと逃げ切れない、しかし、他の子を巻き込む可能性もあるし、

巻き込んでもきちんとジャンプさせられるかもしれないが、逆にジャンプ後についてこられても困る……。

逃げ道は……。



「そうですね、そろそろお開きにしましょうか。マスターの理性が吹っ飛んでも困りますし」

「えー、これからなのにー」

「そうだそうだ! 面白いところじゃない!」

「いや、姉さん……アリサさんも……」

「あはは、でも久々にノってるアリサちゃんが見れました」

「そだね……」

「アキトの体は全部見たことあるから大丈夫」



……助かった……のか……?

ラピスの不穏なコメントが気になるが……。

いや、このさい不穏なコメントも受け流そう……。

兎も角、さっさと風呂を出なければ……。



「駄目ですよ、まだ体を洗っただけじゃないですか。湯船につかってこそ温泉です」

「じゃあ、また運びますね」

「何!?」

「大丈夫、滑ったりしない」

「いや、そう言うことじゃなくてだな……」

「そういえば、フェイトって温泉は初めてじゃないの?」

「うん、みんなでお風呂って楽しいね」

「フェイトちゃん……じゃあ、今度はうちでお泊りする?」

「あっ、それいいかも」

「なのはがいいなら……」

「うん♪」



途中から別の話で盛り上がっているようだが、俺としては針のむしろだった。

自力で動けないというのがどれだけ困った事態なのか、つくづく認識させられた。

その後、半時間近く湯船につかり、のぼせてきたころになってようやく解放された。

リニスに着替えをされてしまったり、その後も恥ずかしい事態は続いたが、どうにか乗り切った。


そして、月の見える渡り廊下で車椅子を止め、茫洋と月を眺める。

リニスは俺の背後に控え、いつでもまた動き出せるようにしてくれている。



「はぁ……どっと疲れた……」

「そうですか? 私は楽しかったですよ?」

「あのな……」

「でも、フェイト達があんなに楽しそうにしているのを見られるなんて、正直思っていませんでした。

 これも全てマスターのおかげです。

 フェイトやアルフや私、はてはプレシアすら貴方は見捨てませんでした……。

 嬉しいですけど、不思議ですね……どうしてそうしたのです?」

「さあな……」

「普通は、プレシアを滅ぼしてフェイトを助けるか、元から関わらないことにするはずです」

「そうかもな……」

「ですが、貴方は見捨てなかった……よほどの何かがあるのではないですか?」

「見捨てる……そう、俺は見捨ててきた、復讐に生きていたころ、あらゆるものを切り捨て、

 友情を利用し、愛情を利用して……そして、復讐を成し遂げた……。

 しかし、その時気がついたことがある、何も残らないんだ……。

 ラピスやルリちゃん、ナデシコのクルー、俺の知っている人間は沢山まだ残っていた。

 だが、近づけば俺の罪をなすりつけてしまう。

 一緒に地獄を歩いてくれるという人もいるかもしれない、しかし、俺からそれを求めるのはお門違いもいい所だ」

「そうは思わない人もいるかもしれませんよ?」

「そうだな……そうかもしれない、しかし怖くて近づけない、俺の罪は俺自身が一番知っているからな……」

「でも、この世界なら……」

「だから、かな……罪滅ぼしなんて甘い話だが、俺は自分の心を軽くしたいと考えている。

 俺が殺した何万の人の代わりに、何万の人を救えば少しは気分も晴れるかもしれないとな……」

「そう……ですね、合っていようと間違っていようと、思いつく限りをしてみるしかないのかもしれませんね」

「まあ、そう言うことだ」

「ですが、せめて私だけはその罪滅ぼしにつき合わせてください。貴方と私は一蓮托生なんですから」

「そうだな……俺が死ねばお前も消える、まさに一蓮托生だ」

「はい」

「わかった、これからはお前にだけは話すことにする」

「そうしてくれると助かります」



恐らく、色々な事があって、リニスは俺が突っ走る性格であることに気が付いているのだろう。


俺は、月を見てもう一度ため息をつく。



できれば、そんな事態はもう二度と起こらないのが一番なんだがな……。



しかし、その事件は既に進行しはじめていた。



いや、それどころか俺がこの世界にきた時には既に……。

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ネタ回です。今回は3話の時のミスもありますので2本だてでお送りします。
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