プレシア・テスタロッサが自分の娘アリシアを生き返らせるために行った一連の騒動から半年。
あれからいろいろな事があった、まず、アリシアとフェイトを養女として迎え入れる格好となったため、
周辺の人間からパパだのお父さんだのと言われるようになった。
まあ、小学生に言われるのは仕方ないが、バカップル(忍と恭也)にも言われたのは堪えた。
”俺はお前らの父親になった覚えはない!”と流石に声を荒げてしまったほどだ。
まあ、忍の忠告があったのにもかかわらず、また女の子を拾って来た俺も悪いのかもしれないが。
というか、そういうのは選べないだろう……。
単に運にでも期待するしかない。
それはともかく、その後も温泉に行ったり、ハロウィンをやったりとイベントばかりこなしていたが。
子供達と触れ合うことで童心に帰るとでもいうか、少し昔に戻ったような気分ではある。
ただ、それでいいのかという思いは常に俺の中にあるが……。
リニスは使い魔であることもあってか、今も献身的に俺に仕えてくれている。
時々暴走するようなこともあるが、まあ、それもご愛敬か。
ラピスは友達も増えてきて学校が楽しい時期のようだ。
家からすずかやアリシア、フェイトらと4人で登校するため、寂しいなどと言っていられる時間もないということだろう。
なのはやアリサらも含めた6人は一緒にいる事が多く仲もいい。
ラピスはまだ少し他人とのコミュニケーションに難があるが、それでも気にするような子はいない。
いつの間にか、完全に溶け込んでいた。
時空管理局に関しては、あれから何度か接触があった。
とはいえ、アリシアとフェイトがプレシアを訪ねて行く時についでにといったところだが。
俺が何かの事件にかかわっていないか疑っているようだった。
最もその情報はリニスを通してある程度把握しているのだが。
最近リンカーコアなる魔力の元を抜き取られる事件が多発しているようだ。
それは大気中の魔力素を吸収して、体内に魔力を取り込む魔法機関とのことだが今一理解しがたい。
しかし、命にかかわるというわけではないらしい。
魔法の世界で魔法が使えないということの意味は知らないが……。
「世は押し並べて事もなし、というわけにはいかないようだな」
「そうですね、はやてさんのことも少し気になりますしね」
「ああ、魔力の流れか……」
はやてにはなのはやフェイト以上の魔力がある。
俺の目には魔力がぼんやりと光って見えるのだ。
演算装置が魔力というものを計算するために光という形で俺に見せているのだろうが。
だが、以前行ったとき、家族全員が魔力を持っていることを確認した。
全員あれだけの魔力を持っているなら、魔法使いがいないというのは考えづらい。
それに、食事をしながらではあったが、時折鋭い視線を感じる時があった。
思いすごしであってくれればいいと思うが……。
「しかし、色々不安はあるにしても……」
「当面はリハビリですね」
「ああ」
そう、ようやく足の感覚が戻り始めていた。
しかし、半年もの長い間足を使っていなかったため、リハビリをしなければ足が言うことを聞かない。
筋肉はそれほど衰えていないとは思うが、早くても一週間程度はリハビリでつぶれるだろう。
「そのために早朝からの時間を作ったんだ、さっさと始めるとするか」
「はい、では、早速ですが立ってみてください」
「ああ、やってみる」
俺は足を動かすべく腰から下に力を入れて、車椅子の手すりをつかんで立ち上がる。
もちろん現時点では、体を支えているのは腕であるため、俺は徐々に腕を離してみる。
どうにか立てたようだ。
「最初から立てるというのはなかなかですね、では、私のいるところまで歩いてみてくれますか?」
「ああ」
リニスに言われて俺は一歩目を踏み出そうとするが……。
一本の足では体を支えきれず、前にかしいでいく体、しかし、前に出した足が支えになれば歩くことはできるはず。
そのつもりで出した足だったが、思うほど前に出ていなかったらしい、つんのめるように滑り前に倒れる。
しかし、地面に着く寸前にリニスによって支えられた。
「流石に、まだ歩くのは難しいみたいですね」
「久々な上に筋力も少し低下しているんだろうな……」
「続けますか?」
「ああ、せめて皆が起きてくる時間まではな」
「わかりました」
俺は口で言ったとおり、朝の数時間をリハビリをして過ごした。
もっとも、がんばったとはいえまだ5mも歩けないのだから正直辛いものがある……。
そして、朝食をとり、ラピス達を送り出し、自分も翠屋へと向かう。
その日のバイトも終え、リニスを伴ってまた忍の屋敷へと帰ることにする。
ここ半年の変わらない日常、しかし、その日は違っていた……。
「おい、煙突の上に立つなんて危ないことしなくても俺は既にお前を把握しているぞ」
「ふっ、流石といえばいいのかな……」
「別に……俺はちょっと反則をしている身だからな……ところで何の用だ、シグナム」
煙突から飛び降り、俺たちの前に立ちふさがったのは、桃色の髪をポニーテールにした女騎士。
一瞬コスプレかとも思ったが、闘気とでもいうの、抜き身の刃のような何かを感じさせる。
彼女の目は真剣で冗談か何かには見えない。
つまり、俺を待ち伏せしていたということか……。
「やはり一人だけというわけにはいかないか……、シャマル結界を」
近くには彼女以外は見当たらないが、どうやら遠隔で魔法を使ったのだろう。
周囲の空気が変わったのが分かる……。
「何の恨みもないが、故あってお前たちのリンカーコアを所望する」
「突然だな……」
「時間がない、管理局も動き出すころだ……知り合いのよしみ、大人しく渡してはもらえないか?」
俺は考えてみる……リンカーコアを抜かれたという人々は死んではいない。
魔法を使えなくなるというのも一時的なもので時間差はあるものの回復が見込めないわけでもない。
しかし、理由もなくやられるほど俺もお人よしではない。
「理由を話してくれるなら考えなくもないが?」
「……それはできない」
「それは、交渉決裂ということですね」
俺とシグナムの間にリニスが立ちふさがる。
二人の間で光、そう魔力の高まりを視認する。
リニスは強大な魔力の持ち主だ、しかし、シグナムは少し及ばないものの同じレベルの魔力を持っていた。
「仕方ないな、リンカーコアを奪い、それから記憶を封じる。魔力がなくなれば抵抗はできないからな」
「私を前にしてそれだけの言葉を叩きつけられるとは思いませんでした。ですが最後まで言っていられますか?」
「ふっ、お互いにしゃべりすぎたな。では、参る」
シグナムはその言葉とともに、文字通り飛び込んできた。
自らの腰に差している刀を抜き放ちながら。
抜刀術!?
しかし、次の瞬間にはリニスの右腕によって受け止められていた。
彼女が握っているのはカタール(ジャマダハル)、ハンドグリップの正面に剣のある特殊な武器である。
しかもただのカタールというわけではなく、三又になっている。
そして、刃と刃の間の部分でちょうどシグナムの抜刀を受け止めていた。
しかし、突進してきたシグナムのほうがパワーでは上、そのため受け止めた状態のまま勢いを殺さず飛んで間合いを離す。
「ほう、変わった武器を使う。だが、我がレヴァンティンに相対するには軽すぎるな」
「いいますね……ですが、私もデバイスマイスターとして普通のデバイスを作った覚えはありません」
シグナムは、レヴァンティンと呼んだその剣(アームドデバイス)を振り上げ、剣を分離、鞭のような形状に変化させる。
剣を受け止めるカタールに対してはリーチで圧倒するということか。
対して、リニスはカタールを左右に一本づつ持ち交差させるように構えた。
「ならば行くぞ、飛竜一閃!」
鞭のようにしなう分離した剣がリニスに向かって走る。
そしてシリンダーが薬莢を押し出すような独特の音と共に、
剣の周囲に魔力の衝撃波のようなものをまとってリニスに接触するかというその時。
リニスは交差されていたカタールを正面に向かって突き出した。
シグナムは剣を少し操作し開いた両手の間に叩き込もうとしたが、カタールのところまで来ると急激に速度を失い停止する。
「な!?」
「磁界幻影門とでも名付けましょうか……まあ、思いつきですけど」
「思いつき?」
「行きます!」
力を失った剣の鞭を引き戻しにかかるシグナムだったが、それに合わせてリニスが飛び込む。
よく見れば左右のカタールが帯電していることがわかる。
おそらく、リニスは二本のカタールで強力な電磁石を作り出しているのだ。
磁力により強力な結界と同時に攻撃手段にも使える応用力の高い武器ということになる。
「サンダーレイジ!」
「くっ!」
突撃をかけながら、広範囲に放射するように雷撃を放つリニス。
シグナムはそれを回避するように動くが完全には防げない。
だが武器を引き戻すことには成功する。
そして、正面から襲いかかるカタールの一刀を受け止めた。
しかし、その時はすでにもう一刀がシグナムに襲いかかっている。
シグナムはそれに対し、空中で体を反転することで回避する。
だが、当然ながら無理な回避は体勢を崩す要因となる。
そこへ。
「リニアスラスト!!」
その言葉をリニスが紡ぐと同時にカタールが突き出される。
それだけではない、纏った雷が放出され射線上にいるシグナムにた叩きつけられる。
そして、その雷が通った線上をカタールが尋常ではない速度で通り抜けて行った。
そう、雷を空中に通してカタパルト化させ、その上をカタールの突きが通り抜ける。
速度を考えれば大型旅客機をぶち抜くくらいはやってみせるだろうというほどだ。
明らかに音速を超えていたため、その後衝撃波が巻き起こり周囲を砕いていく。
「グッ……流石はSランクの魔導師……いや、使い魔か……。
しかし……私はここで終わるわけにはいかない」
シグナムは明らかに服(バリアジャケット)をぼろぼろにして、肩などからは血を流している。
直撃は免れたということなのだろうが、かなり大きなダメージを受けたようだ。
しかし、その目は死んでいない、いや背水の陣でも敷いているかのように引くことを知らない。
俺は危機感を覚えた、まずい、何か……。
「グァ?!」
いつの間にか、俺の胸から手が生えていた……。
魔法で空間をつなげた?
いや、それだけではない、体の内部を透過して俺の中にある光を取り出している。
これは……。
「マスター!?」
「余所見をしている暇はないぞ」
「!?」
いつの間にか、上空での戦いも優勢が入れ替わっていた。
リニスの気が俺のせいで逸れてしまったこともあるが、
レヴァンティンを上段に構えたシグナムは既に一撃で全てを決するつもりのようだ。
そのために、特殊な薬莢を多数輩出し、魔力を爆発的に高めている。
俺はなんとか、リニスをボソンジャンプさせようと集中するが、胸から生えた手のせいで思うようにいかない。
「紫電一閃!」
発声と共に振り下ろされた上段の一撃は強烈な魔力光を伴いリニスを引き裂く。
リニスも咄嗟に防御魔法を発動したようだが、防御魔法も服(バリアジャケット)も引き裂き、リニスに重傷を負わせた。
そして、その瞬間、俺も体の中にあった何かをつかみだされる。
手は次の瞬間消滅し目的を達せられたことを知る、朦朧とする意識で今のがリンカーコアだったのだろうと理解する。
「くっ……」
「まだ、意識があるとは……その気合いには恐れ入る。しかし、我々の事は忘れてもらおう」
シグナムがリニスからリンカーコアを抜き出し、俺の元に向かってくる。
俺はリニスの足を引っ張っただけか……それに、シグナム達がなぜこんなことをしているのかもわからず。
ただ、魔力を奪われるだけなのか?
だが、意識が朦朧とした状態ではボソンジャンプのためのイメージもままならない。
それにこのままでも数分も意識が持たないだろう……。
どうあがいてもシグナムの思い通りになるしかないのか?
いや……うまくいくかどうかはわからないが……。
後は信じるだけか……。
神頼みのようだな……。
シグナムが目の前に来た時、俺は意識を失った……。
ぼんやりとしている……。
俺は何かを漂っているという意識だけがある。
夢……。
そう、これは夢なのだろう……。
夢の中はいくら行っても明るさはなく闇に閉ざされている。
そのため、周りに何かがある事はわかっても見る事は出来ない。
辛いのか、悲しいのか、苦しいのか、ただそれは逃げている、何も見えない状態であることで安心しようと。
それがなぜそうしたいのか、なぜそうせざるをえないのか、理由はわからない。
なぜなら何もかもを閉ざし、触れさせないこと、それだけを目的としているから。
俺は思わず叫びそうになった、それは孤独なのだと、安心ではないのだと。
しかし、その声すら出ない、所詮は夢、うたかたの夢。
そして、俺は……。
「ここは……」
光がまぶしい、どうやら目が覚めたようだ……。
しかし、ここはどこだ?
俺はいったいどうして……。
「あっ、目が覚めたみたい」
「義父さん、大丈夫?」
金色の髪の二人の娘、アリシアとフェイト……。
俺がいるのは……どうやら、月村家での俺の部屋のようだった。
二人は、俺が起きるのを見ると安心したのだろう、ほっと息をついた。
そこに、部屋を開けてラピスとリニスがタオルや着替えを持ってやってくる。
「アキト!」
「あ、マスター意識が戻られたのですね」
「ああ……」
しかし、不思議な事があった、リニスから魔力の光が消えかけている。
弱々しくなっているだけで完全に消えているわけではないが……。
「リニス?」
「はい、私達はどうやら一連のリンカーコア襲撃犯に襲われたようです」
「リンカーコア……ああ、魔力を奪っているということか」
「そうです。私とマスターはおおよそ3日眠っていたようです」
「でもリニスもまだ起き上がれる体じゃ……」
「いえ、問題ありません。私は使い魔ですので人間と比べればかなり丈夫です」
「アキト……問題ない?」
「そうだな、肉体は眠りすぎで少し硬くなっている気がするが、違和感はない」
「そう、良かった」
「二人とも復活だね♪」
しかし、襲撃されたというのは分かる、魔力を奪われたというのもいい、しかし誰に?
今の俺はその記憶がぽっかりと空いたように記憶から外れてしまっている。
リニスに聞いても同様で俺は困ってしまった。
「それで……あの、私、時空管理局の嘱託(しょくたく)として働こうと思うんだけど……」
「何?」
「私、みんなに迷惑かけてばかりだし、その、義父さんもずっとここに世話になっているわけにもいかないから……」
「そういえば、フェイト昨日来た管理局の職員と話してたけど、そういう話だったの?」
「うん、私……皆にお世話になってばかりで……何かお返しをしたかったし」
フェイトはいつもの少し老成したような表情で俺たちを見る……。
フェイトの年齢は正確にはわからないが、普通の年齢より促成的に作られたのは間違いない。
アリシアにしても、実年齢は次元の差もあって正確ではないし、どれくらいの年齢差なのかもわからない。
しかし、フェイトが10年生きていない事だけは間違いない。
そんな子が、親のために働くというのは親として恥であることは間違いない。
ほんの半年足らずの間柄とはいえ、父親を引き受けた以上そういう理由で送り出すつもりはない。
「フェイト、これから言うことを聞いてほしい」
「え……うん」
「先ず、金がないから働くという理由で働こうというなら、心配はない。
俺はもうすぐ足が元に戻る、仕事に関してももう少しマシにできるようになるだろう。
それに、ある種の技術を公開すればパテントで暮らしを潤わすのに問題もない」
「でも……」
「次に、俺やリニスの敵討ちのような事を考えているなら、必要はない。
俺は、そんな事でフェイト、お前が傷つくのを見たくない」
「……うん」
「そして、年齢のこともある、雇用法の理屈が違う管理局は知らんが。
この国では義務教育の終了していない人間は働けないことになっている。
今のお前は俺も含め、この国の住民であって、管理局の住民ではない」
「そうだね……」
「それを理解した上で、それでも管理局で働くか?」
この聞き方は少し卑怯でもある、フェイトが拠り所にしているのは、家族のため、お世話になった人のためという思いだろう。
元々、純粋に人のために何かをして喜んでもらうことがフェイトの行動理念になっている。
半年も一緒にいればわかる、フェイトは人一倍自分に厳しくありながら、人に依存しやすい傾向があるのだ。
だから、自分から甘える事を知らない、しかし、その人の近くにありたい。
そんな矛盾した心が彼女の中で形成されたのはプレシアの影響だろう。
普通なら年齢とともに不鮮明になるはずの小さいころの記憶を、
一番大事な記憶として焼きつけられてしまったせいでプレシアの事を否定することが出来ない。
だから、甘えたい人には認めてもらう以外の表現方法を知らないという純粋で歪な心が出来たのだ。
「でも……だからこそ、みんなを守りたい。そう思うんです。義父さんを、皆を……傷つけたくないから」
「はぁ……そういうことを言うのはせめて後10年ほどたってからにしてほしかったんだが……。
そこまで決意が固いなら、あえて止めはしない……」
「はい!」
「所で、昨日来た管理局の職員というのは……」
「リンディ提督です」
「やっぱりか……」
お見事というしかない、恐らくスカウトされたのはなのはもだろう。
二人の能力はこれからも伸びると考えるなら、お買い得であるのは間違いない。
それに、恐らく魔導師というものがこの世界では生き辛いことも話しているのに違いない。
更に、彼女らの魔導師としての能力が高い以上、今回のような敵が来た場合一緒にいる人を危険にさらす可能性が高い。
事実だけに否定することはできないが、タイミングが良すぎる。
やはり、俺がやられた瞬間はモニターされていたとみるべきだな。
それから半日、俺はたいして動くこともできずベッドの上でボーっとしているような状態だった。
そこに、ラピスとリニスと忍というちょっと変わったトリオが入ってくる。
それだけで用件ははっきりしていた。
「アンタの言っていたこと本当になりそうね」
「ああ、時空管理局があんなに早く対応できるのは当然ここで何かが起きる事がわかっていたからだろう」
「つまり、分かっていて見過ごされたと考えていいわけね」
「そうだな」
「なら、ラピスちゃんに手伝ってもらったアレ、意味がありそうね」
「あのー私も手伝ったんですけど。魔法関連の事はかなりお教えしたと思うんですが」
「魔法なんてあくまでどう対抗するかの目安よ、ラピスちゃんに語ってもらった超科学は凄いわよ?」
「そうですか……」
「リニス、めげないで」
「ああ、ラピスはいい子ですね……」
ラピスに頭をなでてもらいながらリニスはちょっと嬉しそうにしている。
まあ、正直どうでもいいのだが……。
忍は俺の寝ているベッドの上に、設計図と思しきものを広げて見せる。
「パワードスーツの理論はないこともなかったけど、外部動力式というのは考えた事がなかったわね。
なにせ、有線でもないとマイクロウエーブみたいに危険なものを使うしかないし」
「だが出来るのか、相転移エンジンは?」
「ああ、その点は大丈夫よ。月村重工で作ってた擬似反物質転換炉を応用してもう8割型できてるから。
後は、重力波の送受信のシステムが出来ればあらかた問題ないわ」
「反物質転換炉……」
「あら、相転移エンジンの理論だってやばさでは似たり寄ったりよ?」
「そう……なのか?」
「まあ、どちらにしろ後はパワードスーツのテストとエネルギーの送受信だけ」
忍は自慢げに俺を見下ろす。
実際それだけの能力を持っているのだと感心した。
パワードスーツのテストか……なら丁度足も治り始めたところだ、俺が引き受けるべきだろう。
「あ、テストパイロットだけど、体格が子供用のしかできなかったから。すずかとアリシアに頼んだわ」
「なっ!?」
「大丈夫よ、この忍様を信じなさい! 私の科学力は全次元一なんだから!!」
忍の目がかなりマッドなことになっている……。
妹を危機に巻き込んでいる自覚がないのか、いや、失敗なぞ考えてもいないのだろう。
これはかなりまずいような……。
「いや、その自信はいったいどこから来ているんだ……」
「決まってるわよ! 科学者としてのカンよ!」
「はあ……」
「まあ、見てなさい。数日中には完成させてあげるから」
「それで、俺用のも作ってくれているのか?」
「ないわよ」
「!?」
「だって、アンタみたいな自滅男にそんなもの着せたら、ボスに特攻して華々しく散るのが目に見えてるわ。
そんな事になったら、メカの回収大変じゃない、そんな勿体ない事になるくらいなら最初から作らないのが一番でしょ?」
「あのな……」
一面的を射ているように聞こえるが、それならすずかやアリシアにそれをさせる方が問題だろうに。
しかし、俺は結局許可を出すしかなかった、国との交渉なども基本的に忍任せであるからだ。
だが、俺がこのように警戒を強めたことで余計に事態が混乱することになるとは、その時はわからなかった。