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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 15 デートの待ち合わせは15分前行動。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/15(金) 10:09公開   ID:SUURLksaq0Y
すずかの青いパワードスーツは突入直後にヴィータに捕まる格好になってしまった。

身体能力が高いとはいえ、マシンスペックよりも素早くは動けない。

そこを突かれる格好となったすずかは、不利を意識しつつも、ヴィータの魔法を回避しようとする。

しかし、ヴィータの打ち出した鉄球は遠隔操作が可能らしく途中で方向をかえて追尾してくる。

それに対し、すずかはパワードスーツからDFを展開、鉄球の威力を相殺する。

驚いているヴィータにすずかは捕縛用のとりもち銃を連射。

武器の選択がいかにもすずからしいといえばその通りである、だが、足にくらったヴィータは地面に墜落する。


『あっ……怪我ないかな?』

「何を甘い事を抜かしてやがんだ!」


ヴィータはすずかの心配に対し逆に怒りを燃やしたようだった。

格下に見られたと思ったのだろう、もっとも、すずかは天然なだけなのだが。


「いったい、何なんだお前らは!」

『あのね……魔法を使ってこの世界で悪いことをしないでほしいの』

「別にこの世界の人間に迷惑はかけてねぇ!」

『本当に? アキトさんとかリニスさんからリンカーコアを奪ったのは?』

「……アタシたちにはやらなけりゃいけない事がある、そのためなら多少強引なことはする」


ヴィータはすずかの青いパワードスーツに向き直りハンマー形のデバイスをつきつける。

すずかはとりもち銃を構えて迎撃の構え、命中率はそれほど高いとはいえないが、

66mmグレネードライフルや小型ミサイル、スタンロッド等を使わないのは

相手がバリアジャケットと呼ばれる魔法装甲をつけているとはいえ、怪我をさせたくないからだろう。

しかし、そんな考えではやはり戦闘経験豊富なものの相手はできない。

ヴィータはハンマー状の杖から薬莢を排出し、強力な魔法を発動する。

足はトリモチに捕まったままだが、ハンマーの推進力で空中を進むヴィータにはあまり関係ないらしい。



「いけぇ! ラーケンハンマー!!」

『回避、間に合わない!? でも、ディストーションフィールドなら!!』

「駄目だ!」


DF(ディストーションフィールド)の特性として、

出力である程度までの衝撃を緩和するが、レーザーなどのように完全無効になるわけじゃない。

鳴海市には10ヵ所の送信アンテナを作ってあり、重力波の送信は問題なく行える。

しかし、パワードスーツで出せるDFの出力はお世辞にも高いとは言えない、

そのためピンポイントで発動するシステムになっている。

発動ポイントから半径1m程度の円盤状の盾という感じだ。

だが同時にそこまでしても魔法による砲撃くらいしか防ぐことはできない。

だから魔法を緩和する装甲を持っているのだが、それでも当たり所が悪ければ破損もありうる。

そして、ドリル状になったハンマーの攻撃はDFと接触して暫く火花を散らしていたが、出力不足のせいもあり。

DFを貫き破り右手の装甲を破壊した。


「すずか、引け! まだそれは実戦で使えるレベルじゃない」

『でも……リニスさんもまだ魔力が回復してないし、アキトさんの足も……』

「俺は見ての通り、十分動く。リニスは……」

「大丈夫です。半分くらいは回復してますから!」

『……わかりました、アリシアちゃん。後はお願い』

『まっかせて、狼の子は他の二人ほど攻撃に特化していない感じだし、しばらくはもつよ!』

「言ってくれる!」


パワードスーツの性能は悪いものではないようだったが、

いかんせん戦闘訓練もしていない人間がいきなり実戦で成果を出すのは難しい。

それでも、アリシアはよく戦っていた、確かにザフィーラがあまり攻撃特化タイプではないこともあったのだろうが。

攻撃を意識せず、どちらかといえば足止めをすることを主眼に置いているのだろう。

そしてリニスは追撃しようとしていたヴィータに対し滑り込むように割り込みをかける。

ちょうど一対一の構図が出来上がったといえる、しかし、彼女らにはもう一人の仲間がいる事を忘れてはいない。

遠くから介入を受ける可能性を否定できない以上止まるわけにはいかない。


「しかし、この世界の兵器には見えないが、魔法でもない……いったいなんなんだ?」

『君達みたいに、この世界のことを無視して犯罪を働く子達をどうにかするための物だよ!』

「ふんっ、まだ完成にはほど遠いようだな」

『そうかもしれないけど、だからって!』


アリシアの赤いパワードスーツは66mmグレネードライフルを弾幕のように撃ち、ザフィーラが他の2人へ介入しようとするのを妨害する。

ザフィーラはラウンドシールド等と呼ばれている円形の魔法陣を展開してその攻撃をふせぎつつ、隙をうかがっている。

地味な戦い方のようにも見えるが、実際性能も相手の能力もつかめない現状では最善だろう。


「粘るな……しかし、こちらはあまり時間をかけられん……ヴィータ達も限界が近いだろうしな」

「なるほど……既に戦ってきた後というわけか。ならば条件は5分とみてもいいな」


<纏>の限界が近い、自己催眠で無理やり限界を引き出しているのだ、筋肉が既に熱を持って悲鳴を上げているのが分かる。

こちらも賭けに出られるのは一度、しかも魔力を中和する素材とはいえこの黒い棒一本では相手の魔法攻撃は防げまい。

シグナムも薬莢を排出してはいないが、魔力は練っているのを感じる。


「明日の蒐集に響きそうなのでカートリッジは節約していたが、そうもいかないらしいな」

「全く、どうしてこう……俺の周りには気の強い女性ばかりなんだろうなっ!」

「っ!?」


仕掛けたのは俺の方だった、魔力が高まってきたタイミングを引き金にしたように突撃する。

後の筋肉痛が怖いが、限界まで加速する。

しかし、シグナムは次の瞬間視界から消えた……。


「ちぃっ! 上か!?」


シグナムは上空に逃れている。

元々飛べるのだ、今までは俺に付き合っていたともいえる。

もちろん、あの剣状のデバイスでは近接戦闘のほうが楽だからということもあるのだろうが。

どちらにしろ、この状況で一撃でももらえばそれまでになってしまう。

殺気が無いことから殺す気ではいないのかもしれないが、だからと言って負けてやるつもりはさらさらない。


「下手に動けば死ぬぞ! レヴァンティン、シュランゲフォルム!」


上空のシグナムはレヴァンティンの形状を剣から鞭状に変える。

リニスとの戦闘で一度見てはいるが、あれは、中距離戦用だ、俺と近接で戦っている時間が惜しいのだろう。

今のままでも勝てると考えていたはずだが、よほど切羽詰まっていると見える。

もっともそれはお互いにではあるが……。

その形状のまま俺に向かって急降下をかけてくるシグナムを相手に俺は魔法緩和するだけの黒い棒を持って迎え撃つ。

シグナムは油断をしてなどいない、俺が何か狙っている事を予想しているようだ。

しかし、俺はまだ切り札を見せていない、ようはその切り札の使いどころ次第で決着が左右されるということだ。


「ただの棒使いならこれで終わりだ!」

「無論それだけじゃない!」


俺はシグナムの攻撃が当たる寸前でボソンジャンプに突入、ほんの数mほど上空に出現する。

ちょうどシグナムの真上にくるように。


「なっ!?」

「おおっ!!」


シグナムは俺が消えた次の瞬間には既に背後の俺を察していた。

しかし、ボソンジャンプそのものを見るのは初めてだった事もありほんの一瞬反応が遅れた。

空中ゆえ魔法で回避運動に入ったシグナムが失策を悟った時は俺の棒が叩き込まれていた。

とはいえ、咄嗟に急所だけは外すという離れ業を行い着地する。


「魔法を使ったようには見えなかったが……特殊能力の類か……」

「今ので倒せないとはな……」


切り札を見せた俺は一気に不利になる。

シグナムの呼吸が整ったら俺の負けだ。

もう一つの切り札を切るしかないのか……。

もちろん、今の切り札からもう一つを予想される可能性もあるうえ、俺は既に脚が動かないほどに限界が来ていた。

成功率はさらに下がったと言っていいだろう……。


「この勝負我らの勝ちだ。とはいえ我らは人は殺さぬ事を誓った。

 我らにこれ以上関わらなければお前たちを追うようなことはしない……。

 我らを見逃してはくれないか?」

「……なるほど、今までの事件で死者が出ていないのはその誓いのお陰か……。

 俺が聞いた限りは、だがな……」

「お前がまだ切り札を隠している事はその眼から予想はつく、しかし、それは私も同じ。

 恐らくそれを使えばどちらかが死ぬ」

「だろうな……」

「我らを放置するならば、この世界の魔導師からリンカーコアを蒐集することはしないことを約束しよう」

「まあ、この世界の魔導師と言ってももうフェイトとなのはくらいのものだろうが」


フェイトがこの世界の生まれかどうかという点ではなく、俺の養女としてこの世界に迎え入れたという意味であるが。

アルフには申し訳ないが彼女は魔導師ではない、まあ、管理局の嘱託を続けるとなればそのあたりもあやしいのだが。


「……その少女らなら既に蒐集された」

「ッ!?」

「管理局が我らが遠方の異世界で蒐集を続けているのを嗅ぎつけ、彼女らを使って襲撃してきた。

 向こうに行ったのはヴィータとザフィーラだけだったゆえ囚われる所であったが、見知らぬ魔導師が我らを助けた」

「それを信じろと?」

「どちらでもいい」

「……」


既に二人がリンカーコアを取り上げられていたとは……。

管理局……結局はあの子達を使うのか……。

いや、今回の事は俺も人の事を言えないな、すずかやアリシアが出撃することになったのは俺のせいだ。

何もかもを助けようとしてもがいてきたが、泥沼にはまり込んでしまっただけなのか……。

今回は死んではいない、しかし、次もそうとは限らない……。


「わかった、提案を飲もう……しかし、条件がある」

「何だ?」

「お前たちの目的……書を完成させるというものだったな、そのことについて詳しく話してもらおう」

「……」

「それが妥協点だ、フェイトやなのはのリンカーコアを奪ったお前たちに対して出来る最大限のな」

「明日の夜……もう一度ここにお前一人だけで来い。そうすれば語ってやろう」

「シグナム……いいのか?」

「ここまで我らの目的について調べてきた者だ、今さら我らが話を拒んだところで結果は変わらんだろう」

「ふんっ、だからいけすかなかったんだ」

『えっ、もういいの?』

「ああ、これでいい」


去っていくシグナム達を見送ってから、ふう、と一息つく。

リニスは無言で俺の背後に来ていた。

俺は筋肉が限界に来ていたあまりの痛みと筋肉の弛緩に、倒れそうになった所を支えられる。

アリシアは赤いパワードスーツの胸部を開き俺に声をかけるが返事をするのも億劫だった。


「一人でって、危なくないの?」

「危なくはないはずだ……保険は必要かもしれんが……俺には奥の手があるからな」

「そか、そうだねテレポートできるし。じゃあ義父さん、オラトリオに乗って」

「オラトリオ……?」

「うん、パワードスーツっていう呼び方も味気ないし、名前はあってもいいかなって。

 すずかの青がアリア、私の赤がオラトリオっていうの」

「……そうなのか」


考えてみれば、機体に名前をつけるというのはよくやっていたことだ。

しかし、まだまだ問題点が多いとはいえパワードスーツはよく動いた。

これもラピスが補助脳に記憶している図面等を正確に書き出しているからだ。

まだ現在では分からない技術も多いはずだが、忍はそれをある程度再現してみせている。

この調子なら数年でほぼ完璧なものが出来るだろう。


「なら、頼む……」

「うん」

「しかし、これで良かったのですか?」

「ああ、聞きたい事はだいたい聞けた、フェイトやなのは、それにアルフ……あの子たちは心配だが」

「アルフはコアをフェイトに依存していますから、フェイトが無事なら無事でしょう……。

 私はコアを持っているのでそうはいきませんが」

「それはどういう意味だ?」

「依存という意味では同じなんですが、今の私は普通の使い魔とはシステムが違いますので」

「演算ユニットのことか?」

「そうですね、私も詳しい事は把握できていないんです。

 しかし、維持しているのはその演算によってということになりますね。

 私は立体映像に近いものなのかもしれません、その証拠にマスターから離れすぎると実体を失いますしね」

「……」



明るく言ってはいるが、それは自由がないという意味でもある。

俺が知覚できる範囲には限界がある、演算ユニットの全てを知覚できれば問題ないのだろうが。

そうするということは、俺が以前のユリカのように演算ユニットの一部と化すということになる。

それでいいのかもしれないと時々思うが、そうなれば利用されるだけの存在になってしまうだろう。

完全な救いなどあるわけがない、そうは思うがそれを受け入れるほどには悟りきっていない。

そんな俺の中途半端さが今の現状を生みだしている気がする……。


「すまない……」

「何を言っているんですか、マスターは私を死から救ってくれました。

 私の知る幸せになってほしい人たちも救ってくれました、これで文句をいったら罰があたりますよ」

「だが、フェイトやなのはの事もある」

「それも大丈夫です。私がこんなにピンピンしてるんですよ? あの子達の回復もさほど時間がかかるとは思えません」

「そうだな……」


俺達はトレーラーに戻り、パワードスーツを置く。

見つかった人たちには撮影と言ってごまかしておいた。

まだ政府とのパイプもない今バレるのはまずいという判断である。

そして、トレーラーを特殊な駐車場に預け、すずかの屋敷に帰還する。


「おかえり」

「お姉ちゃん、ただいま」

「アキト……」

「すまんな、ラピス……だが怪我をしたわけじゃない」

「うん……」

「ラピスったら、心配症なんだから。義父さん甘やかせすぎじゃない?」

「アリシア、文句多い。自分もやりたいの?」


飛びついて来たラピスにアリシアが注文をつける。

まあ、もっともだと思うが、子供の言い合いになっているようなのであまり気にしないことにした。

リニスも面白そうにうなずいている。

アリサには一通りの状況を話しておいた、彼女の頭の回転の速さは舌を巻くもので、俺がこの世界の人間ではない事もいい当てた。

それに、事件の全容が彼女にも大体のところでわかってきたようだった。


「それって、黒幕がいるってことじゃないの?」

「まあ考えられるな、しかしまだ管理局に闇の書の事を確認してない。まずはそこからだな」

「わかったわよ、まだ私がいると管理局がややこしい行動に出る可能性があるのね。

 まったく、私だってそんなに暇じゃないのに……」

「分かり次第すずかに伝えさせるようにするさ」

「まるっきり身内気取りね、まあいいわ。じゃあまた何かあったら教えなさいよ」

「わかった」


とはいえ、実際にすべての情報を開示するわけにもいかない、彼女に危険が及ぶ可能性を上げてしまうからだ。

出来れば危険の少ない道を選択したいものだと俺自身も考えているが。

アリサが言った黒幕、つまりは闇の書を蒐集する手伝いをしている存在。

そのあたりも含めて実際に交戦した管理局の動向はうかがっておいて損はない。

そんな事を考えていると、クロノ・ハラオウンが訪問してきた。



「夜分に済まない、実は……緊急で伝えないといけない事が出来たので不躾ながら訪問させてもらった」

「なのはとフェイトに関することだな」

「ああ……いや、はい。我々はヴィルケンリッターと思しき敵の拘束のため彼女らの力を借り、

 そして、新たに出現した仮面の男の手によってなのはとフェイトのリンカーコアを奪われてしまった」

「そうか、それでフェイトとなのはは今どうなっている?」

「艦内の施設で療養中、いや、昏睡状態に近いな、回復しているがどれくらいかかるのか……」

「それで、お前は何をしに来たんだ?」

「彼女らを出撃に加えたのは僕が要請したからだ。そのお詫びを……」

「つまり、詫びを入れるから不問にしてほしいと?」

「そんな事は言っていない! 償いは必ずする。だが……管理局やリンディ提督に責任はないのだと理解して欲しい」

「悪いが、そう言うわけにはいかない」

「何?」

「個人の責任で済むことと済まない事がある」

「それは!!」



そう、以前からの疑問ではあったがこれが大きい。

管理局は低年齢の人間に責任を預けすぎる。

彼の執務官という官位は軍で言う大尉に相当するらしい。

大尉というのは、戦闘部隊長や小型の船の艦長、大型の艦では副長やその他の部署の長などに充てられるものだ。

それは、責任能力においてはある程度の裁量を持ちながら、本当に位の高いものから切り捨てられる可能性もある。

中間管理職という立場である、これは30代〜50代の人間が胃に穴をあけるような思いとともに続けるものだ。

それを10歳そこそこの少年に出来るのかという点だ、クロノが優秀であることは認める。

しかし、説得、対外交渉などというような理詰めでかたがつかないことには対応できないだろう。



「兎も角、リンディ提督と話をさせてもらおう、俺自身対策が必要なことも考えている」

「……わかった」



彼自身、後ろめたさがあるため強く出れないのだろう。

少しの間にフェイトやなのはに思い入れを持ってくれている、おそらくいい少年なのだろうと思う。

しかし、俺は彼の言葉にこたえる事は出来ない。

何故なら俺自身は既に汚いことにフェイトとなのはの状況を武器に情報を引き出すつもりでいたからがだ。

もちろん、フェイトもなのはも大事に思っている、しかし、命の別状はないし、怪我もしていないようだ。

そうであるならば、と後はずるい自分が首をもたげる。

やはり俺は……。


翌日の朝、俺は早速リンディの執務室を訪ねていた。



「さて、言い分があるなら聞くが?」

「……意地悪ですね……言い分はありません。責任は全て私にあります」

「潔いんだな」

「あら、そんな事はないわ。でも、なのはちゃんもフェイトちゃんもいい子だから」

「嫌われたくないか、まあいい、さっき見てきたが暫くは目を覚まさないそうだな」

「今までの傾向からみて2、3日というところだとは思うけど」

「そうか……」


リンディは微笑みを絶やしてはいない、しかし、俺はそれを突き崩さないといけないわけだ。

ただで機密情報を漏らしてくれるなら楽なのだが……。


「それで、どう責任を取ってくれるつもりなんだ?」

「テンカワさんは単刀直入過ぎて策を弄しにくいですね。

 でも、公共組織としては現金くらいしか用意できるものはありませんが」

「金か、欲しいが見舞金などをもらっても大したことはできないだろうな。

 それよりも事件の詳細を知りたい、公開情報ではない部分、例えば”闇の書”について、とかな」

「ッ!?」


リンディは表情を一瞬ゆがませる、どうやらかなり核心をついたらしい。

あいつらが話していたことを解釈していけばおおよその流れはつかめる。

しかし、まだまだわからないことも多い上に、片側の意見だけでは情報に偏りが出る。

そのあたりの答えを合わせていきたいというのが本音だ。

何より”闇の書”などいかにもという名前を付けたものがまともとも考えにくい。


「そうですか、もう既に敵と接触したのでしたね……」

「そうなるな」

「勝手に危険な事を……と言っても聞いてくれないのでしょうね」

「ここは管理外世界なのだろう? お前たちの権威の外にある世界のはずだ」

「そんな私たちの情報を利用するのはいいのですか?」

「被害を最小に留めるためならなんでもするさ」

「……正直、貴方と交渉するのは疲れますね……」

「俺も管理局と敵対したいわけじゃない、しかし、管理局という組織が時折不審な行動を見せるのも事実だ」

「大きな組織はどうしても一枚岩とは行きませんから……」

「その通りだな、だから管理局が悪などというつもりはさらさらないが、しかし100%信用もしない」

「ふう……確かに、もっともな意見だと思います」


彼女の対応を見ていて思うのは今までこういう外交問題にぶつかった事が少ないのではないかということだ。

管理世界と呼ばれる魔法世界群がどれくらいの規模か知らないが、交渉しても無駄と思えるほどに大きな組織なのかもしれない。

それゆえに、犯罪はあっても外交関係はないというのは言いすぎかもしれないが、少ないのかもしれない。

そうして考えると、俺のやっている事は凄まじい綱渡りなのだろうと考えられる。

しかし、俺は今回の事件、どうにもよくわからない点が目に付く。


まず闇の書を完成させようとしている4人が何者であるのか。

闇の書の危険性。

フェイトとなのはを倒した魔導師が何者なのか。

管理局がなぜこの事件を警戒していたのか
(起こる前からの監視体制の不審)


これらを考えると、どうにも胡散臭い部分が見受けられる。

他勢力がからんでいないなら、管理局に何かあると考えなくてはならない。


「それで、答えてくれるのか?」

「……わかりました、資料の公開及び情報制限の解除を行います。ただし、関係者以外に話した場合……」

「わかった」


もっとも、関係者以外が信じるかどうかは知らないが……。

兎も角、リンディから闇の書に関する詳細な記録を聞いていく。

そして分かった事は予想よりかなりまずい事態である。


「なるほど、艦隊ごと消滅……となると管理局のメンツの問題も絡んでくるな、

 そして何よりお前たち親子にとっては……」

「復讐を目的としてここにいるのではないわ、被害を少しでも少なくしたい、そう考えているだけよ」

「そうなのだろうな……。クロノももし復讐を糧としているならあんなものではないはずだろう」

「まるでしたことがあるように言うんですね」

「その通りだ」

「……」


俺はリンディを睨み据えるように言う、リンディが俺を見る目も鋭くなる。

それは、お互いに相いれない部分だろうと予測したところ、彼女は復讐を容認するような存在ではない。

もっともそれは、今回に限って言えば俺の目的にも即しているのだが。


「お見合いはこのくらいにしよう」

「あら、私もまだまだ若いということかしら?」

「あの4人について教えてくれ……」

「守護騎士システム、あの巨大な魔力を持つことになる闇の書の主は小回りの利きにくい大型の大砲のようなもの。

 近接戦闘をこなす護衛が必要だったからだろう、とされているわ」

「ほう……では元々はそういう効果のデバイスではなかったということだな」

「そうなんでしょうけど……昔の文献からその事を予測するのは難しいわ。

 少なくともまだ見つかっていない。

 でも、そうであったとしても今は危険極まりないデバイスよ」

「わかった、実害が出ているというなら、それは確かに危険なものなのだろう」


闇の書と呼ばれるデバイスはロストロギアの一つとされる、つまり古代文明の落とし子ということらしい。

今主流とされるミッド式ではなく古代より近接を得意とするベルカ式の魔法により生み出されたとある。

そういわれれば、魔法の始動キーにあたるデバイスが武器の形状をしているものが多い。

とはいえ、リニスが作ったデバイスであるバルディッシュや自身が使うジャマダハルも武器の形状をしているといえなくもない。

例のカードリッジシステムがないから違うのだろうが。


「後もう一つ」

「仮面の魔導師の件ですね……あれについては予想もしていませんでした、守護騎士でもないようですし」

「いいや、先ほど見せてもらったが。あれはベルカ式ではないな。カードリッジを使用していない」

「……そうですね」

「それと、まるで見張っていたようなタイミングで彼女らのピンチに登場している」

「確かに……」

「完全にワイルドカードだ。俺達も負けていたからよかったともいえる」

「何が言いたいのです?」

「幾つか予測は立てられるがまだ言葉にできる段階ではない、しかし、管理局内部も俺は疑っている」

「確かに、感情を抜きにすれば可能であることは認めます。でも……」

「そんな事が出来る魔導師は限られているんだろうな、なにせフェイトもなのはもAAA以上の能力をもっているのだから」

「そうです、あの場にはクロノもいましたし、アルフさんもいました、二人ともAAAランクの魔力を持つ魔導師と使い魔です。

 正直仮面の魔導師がS+くらいでなければあそこまで翻弄できないでしょう。

 そうなれば、可能性として残ってくるのは管理局でも両手の指で数え切れてしまう程度しかいません」

「ならば、それ以外ではもっと少ないだろうな」

「……そうですね」

「兎も角、気をつけるに越したことはないということだ」

「……信じたくはありませんが、以前の事と合わせて探りは入れておきます」

「ああ、頼りにしている」



リンディは沈鬱な顔をしている、身内を疑うというのは嫌なものだろう。

しかし、巨大な組織というのはどうしても内部に病を持つものだ、クリーンな巨大組織というのはあり得ない。

人間が感情を持つ以上それはどうしても起こるものだ。

仮面の魔導師の映像を見た限りでは、闇の書を復活させようとしていたようだが……。

そうすることで彼に何かメリットはあるのか、恐らくその点こそが介入者の素性を明らかにする最大のポイントだろう。


俺は地上に戻りバイトに向かう、連休にするわけにもいかない。

なのは達がいない翠屋は灯が消えたようだったが、客はそれなりに来ていた。

そして、日が沈むのを待ち昨日の公園へとむかう……。

そこにはシグナムが私服と思しき恰好で立ちつくしている。

俺は一歩一歩近づいていく、恐らく向こうも既に俺の事は察しているのだろう、目があった。

恐らくここでの交渉が彼女ら守護騎士に対する最後の話し合いになるのだろう、敵になるにしろ味方になるにしろだが。


「待たせたか?」

「今来たところだ」

「まるでデートの開始文句のようだな」

「ふん、お前のような食わせ物相手にデートなどするか」

「まあそうだろうな」

「それで何が聞きたい?」


俺は、少しだけ勿体をつけて、シグナムに向き直る。

そして、開口一番として口に出した。


「それは無論、闇の書の前の主のことだ」

「!?」


シグナムは目を見開く。

やはりこの話題は彼女らの核心に届くものだったようだ……。

俺は、その思いとともに次に紡ぐ言葉を練ることにした……。


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