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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 18 暴走は主人公の18番(オハコ)
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/18(月) 01:37公開   ID:SUURLksaq0Y
シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの4人は主のいない八神家で顔を突き合わせていた。

それは、はやてにすべてを話すのかどうかということ、管制人格についてのことといった内容だ。

もうはやてに時間がないことはみんな分かり切っている。

この時点ではやてにその理由を告げるべきか否か、また助かる道としてプログラム改変を行ってもらうべきか否か。

どちらもはやての事を思うととても告げられない内容だった。

お前の命は後少し、助かりたければ狂気の中で冷静さを失わず暴走する力を抑え込みながら、

知らない魔法で出来たプログラムを改変してみせろ。

要約すればそういうことだからだ。

アキトはそれをさせるつもりでいる、全てが助かるにはその道しかないからだ。

少なくとも分かっているうちでは。


「だからって、それははやてに酷ってもんだろ!?」

「ならばこのまま待つか? 後一か月もすれば意識を保てなくなるだろう……それでも?」

「シグナムもヴィータも、喧嘩腰はやめて。私たちにどちらがいいかなんて判断できるはずがないでしょ」

「だが、シグナムの言うことも分かる。闇の書は救いにはならないのだろう。封じられていた我らの記憶がそう言っている」

「……わかってるよ……でも……」

「ああ、主はやてに更に辛い事をしろなどと軽々しくは言えん……」


実は、数日間蒐集を行ってはいない、しかし、既に500頁近くまで闇の書は蒐集を終えていた。

仮面の者たちはリンカーコアの蒐集をシグナム達に預けておくことに危惧を感じているのだろう。

闇の書の前にリンカーコアを直接転移させるという無茶な方法をとられている。

このままでは闇の書は数日を待たず完成してしまうだろう。


「どいつもこいつも……てめぇの理屈で何でもかんでも決めやがって……」

「このまま何も告げなければ闇の書はすべてを食いつくしてしまうだろう」

「それは……」

「もう残された時間は多くないということか」


放っておいても一週間もしない間に闇の書は完成する。

小さい結界か何かで覆って蒐集を邪魔してみたこともあったが、

システムの下位にある彼女らでは蒐集を邪魔することが出来ないことがわかっただけだった。


「おい……管制人格、いるんだろ?」

「ヴィータちゃん……」


ヴィータは本来主の次に上位となる管制人格を呼び捨てにした。

闇の書そのものともいえる管制人格はあまり自分を出したがらない、その理由もはっきりしていた。

管制人格が肉体を作り思考し行動する、それは燃費の上では守護騎士の比ではない。

はやてへの負担が大きくなる事は目に見えていた。


『いる、というのもおかしな話ではあるな。だが、確かにずっと見ていた』

「ふんっ、下っ端に働かせていい気なもんだな」

「ヴィータちゃん!」

「だが管制人格、お前は我らの意思を統括するものでもある、我らが考える事はおおよそお前の意思でもあるのではないか?」

『……そうだ、私もできればずっとここにいたいと思っている、可能であれば元の夜天の魔導書として』

「なら、暴走くらいてめぇでなんとかしろよ!」

『出来ればしている……』

「ヴィータ……」

『私は所詮プログラムの集積体にすぎない、

 基本プログラムである私がいくら抵抗しても、上書きされた命令は走り続ける。

 ウィルスの除去と違い、私の根幹に近い場所に上書きされたものだ、防衛プログラムは完全に暴走している。

 私自身にはリセットの権利すらないのだから、止まることすら許されない……』

「くそぉ! 結局このまま駄目になるのを待つか、はやてを痛い目に合わせるかしかねぇのかよ……」


それぞれがそれぞれの考えを持つとはいえ根幹は同じ、はやての事を助けたい、そう思っている。

しかし、それが解っていたとしても、選択肢そのものがほとんどない。

あきらめるということが破滅である以上、シグナムやヴィータの考えはほぼ決まっていた。


「はやてに告げるしかねぇのか……」

『成功率は高くない、私はむしろ闇の中に隔離して痛みを感じさせないようにしようかと考えている』

「そんな一時しのぎのような事をするのは感心しないな。死ねばその意思すら消えるのだぞ?」

「シグナム……管制人格はつまり、眠りの中幸せな状態でいれば、

 少なくともはやてちゃんを不安にさせる事もないといっているのでしょう……」

「そんなのウソッパチじゃねえか!

 それとも何か、その夢を永遠に見せ続けられるとでもいうのか?

 魔力が尽きるまで、せいぜい数日程度しかもたねぇんだろ?」

『……』


この時、ヴィータは初めて思った、闇の書を燃やしてしまいたいと。

はやてを助けられるなら自分たちが消滅しても笑って受け入れられるに違いないと。

だが現実問題として闇の書は火くらいでは燃えない。

それにそんな事をしようとすれば、ヴィータはシステムとして凍結されてしまうだろう。

歯ぎしりをしながら悔しさを紛らわすヴィータの頭をシャマルは悲しそうになでた。

はやてを蝕むものが敵ならば打ち倒すだけでいいのに……。

それはここにいる全員の考えだったのかもしれない。
























「へー、すずかちゃんヴァイオリンやってるんや……なんや上流階級みたいであこがれるわー」

「もう、はやてちゃんだってお金持ちじゃないですか、4人も養ってるって普通逆だよ」

「まあな、幸い家とお金だけはそんなに困ってへんし」

「でもすごいね、私なんてお金があったら全部使っちゃうよ。この間もお菓子が……」

「ふふふっ、それはアタシも同じや、だから出来るだけスイーツのある所へはいかへんようにしてるんよ」


ベッドに腰かけているはやてに話かけるすずかという構図、

しかし二人とも特にそれを意識することなく楽しそうに話している。

もともと性格的にもおっとりしている二人なので波長が合うのかもしれない。


「スイーツ我慢してるんだ……」

「うん、うち足がこんなやろ、車椅子は自動で便利なんやけど運動にはならへんしな。

 そうなるとこれまた自動的に運動不足になるんや……調子に乗って食べたりすると……。

 翌日お肉が1kgほど……」

「うわぁ……」


はやてはすずかに体を張ったギャグを提供する。

すずかは流石に体重の事なので他人事ともいえず、笑っていいのか困っていいのか難しい。

返事も当然そういったものとなる。


「ははぁ、すずかちゃんも気にしてるんやね?」

「うっ、うん……私同級生の娘たちよりちょっと重たいみたいで……」

「んーそうなん? 見た目はそんなに……っ!?」

「どうしたの?」

「すっ……すずかちゃん、もしかしてブラしてる!?」

「えっ、あっ……うん……」

「9歳にして既にブラが必要なほど胸が育ってるなんて……反則すぎや……」


ほほを染めるすずかを凝視するはやて。

人一倍体が小さいはやてとしてはすずかはうらやましい限りである。

すずかと比べればはやては胸どころか体中お子様体系でつるつるてんだ。

よりお子様なヴィータがいなければ精神的に倒されているところだった。

まあ、見た目からして5・6歳なヴィータに勝っても当然過ぎなのであんまりどうかとも思うが。


「なあ、すずかちゃん……ちょっと揉ませてくれへん?」

「へっ!?」

「ええやん、別に減るもんやなしっていうか、多分おっきなるで」

「もうこれ以上大きくならなくてもいいよぅ!?」

「このっ! うらやましい胸しおってからに!」

「はやてちゃん目がオッサンだよー!?」


すずかが危機感を覚えて一歩下がると、はやては胸を乗り出して手をわきわきしながら迫ってくる。

これで少女じゃなければ絶対に犯罪者という迫力で迫るはやてにすずかは立ちすくんで目を閉じる。

しかし……その指はそれ以上迫ってくることはなかった。

おそるおそる目をあけるすずか……その視界に飛び込んできたのは、胸を押さえて倒れているはやての姿だった。


「はっ、はやてちゃん!?」

「あ……すずかちゃん……ごめんな……」

「そんなこといいよ! それより、ナースコール押すね!」

「うん……お願いするわ……」


すぐに駆けつける看護師や医師、すずかは部屋の外で待ちながらはやてが元気になるように真剣に祈った。

アキトからおおよそのあらましを聞いているすずかは、このままでは状況が良くなる事がないことを知っている。

少しだけ守護騎士達を恨めしく思う、助ける事が出来る可能性を考えるなら闇の書そのものの協力が不可欠なのだろうから。

待っていると、駆け込んでくる守護騎士達と目が合う。


「すずかちゃん!? はやてちゃんがどうしたのかわかる?」

「……お話してたら急にはやてちゃん胸が苦しくなって倒れたの……」

「くそっ! 本当に時間がない……」

「でもどうすれば……」

「はやて! 目を覚ませ! あたしはこんな所でお前を終わらせたりしねぇぞ!」

「ヴィータちゃん……今は人目があるから……」

「くそっ!!」


すずかは少しだけ安心した、この人たちがはやてを見捨てるはずがないことを悟ったからだ。

未だに魔法についてはよくわからないが、それでも彼女たちの思いは本物であることは伝わる。

だとすれば……、後は決断だけなのだろうと考えていた。



















「アリサさん、良かったのですか?」

「うん、どうにもね……なのはやすずかが頑張ってるのに、私だけ何もしないのって嫌じゃない?」

「そうかもしれませんが……」


一足早いクリスマスムード流れる町並みを見ながら、アリサ達を乗せたリムジンが走る。

リニスは少し心配になり、今日やってもらったことに対しての疑問を出す、しかし、それに返すアリサはなのは達が心配なようだ。

外界から完全に離れたように思えるこの車の中でアリサは考え続ける。

友達はどうしているのだろうと……。

因みにこの車、ベンツではない。

もう2ランクほど上の車、ロールスロイス・ツーリングリムジンという車種である。

1992年12月グレードであるシルバースパーUのホイールベースを延長した4700万円もする超高級車である。

アリサ自身は成金車として嫌っているが、防弾性能、乗り心地、居住空間の広さなど群を抜いているのは事実だ。

もっとも、そんな車でもパワードスーツの開発費からすれば1%にすら届いていないだろうから、

アキト達の使っている金も大概なのだが。

こういう金のかかる場所にいるのが今の彼女らなのだという事を自覚しているのかどうか。


「おかげで会合は上手くいったんだ、これもアリサとデビッドのおかげということになるな」

「パパも張り切ってたわね、もともと忍さんにビジネスチャンスを取られる格好だったからちょうどよかったのかも?」

「コネクションと言う意味ではどちらのものも有効活用させてもらわないと、時間もありませんしね」

「それで、この後どうするの?」

「ああ、一応次は管理局に話を通しておきたい。

 そろそろ本格的にその辺を話し合わないと全て持っていかれてしまうからな」

「ふーん、向こうにはなのはとフェイトもいるんでしょ?」

「そうだな」

「なら私もついていっていい?」

「リニス、可能か?」

「そうですね、本来なら管理局的には無理なんでしょうが、外交上受け入れてもらうのがいいでしょう。

 前例を作っておくことは悪くないと思います」

「すっかり秘書が板についてきたな」

「はい、私もこういう事を中心に活動するとは考えていませんでしたが、戦いばかりよりははるかにいいと思います」

「まあな、そのための組織だ」

「じゃあついていっていいのね?」

「ああ」


そんな理屈でアキトはリニスとアリサを伴いアースラへと転移する。

リニスは何度かの跳躍で既にアースラの位置把握や特性なども知っているため、今さらという感もある。

連絡を入れてから転移したためアースラ側も特に警戒することなく入り込んでいた。


「またあなたですか」

「久しぶりだなクロノ」

「久し振りと言うほどでもないですよ。前に来てからまだ一週間とたっていない」

「その子誰?」

「失礼だな君は……僕はクロノ・ハラオウン。時空管理局の執務官だ」

「私はアリサ・バニングスよ。失礼ってあのね、はじめての人間がいる前で言う言葉じゃないでしょう?」

「失礼だから失礼だといったんだ、それに僕はこれでも正規の執務官だ、子供というわけじゃない」

「そうやってムキになるのが子供だっていうのよ」

「……っ!!」


クロノとアリサはどうやら水と油だったらしい、とはいえ、実質似た者同士に見えるため同族嫌悪なのかもしれないが。

それを見かねたのか、少し離れた所にいたなのはとフェイトがとりなしに現れる。

実際、クロノとしても引っ込みがつかなかっただけで、はじめての娘にいじわるがしたかったわけではない。

しかし、アリサはクロノに少し悪い印象を持ったようだった。

なのはとフェイトが展望室のほうにつれていこうとするのを見ながら、クロノはため息をつく。


「まあ、仲良くしてやってくれ。あれでもかなりのお嬢様だからな、引きどころが難しいのだろう」

「僕だって別に険悪な関係を望んでいるわけじゃありませんよ。

 ですが貴方に関してはまだ少し信頼し切れていない点もあります。

 貴方は秘密が多すぎるし、管理局を信用していない」

「否定はしないな、個人はともかく、管理局と言う組織は信用に値するのか疑問を感じている」

「……根拠はなんですか?」

「そうだな……ついでだから確認を取っておこう」

「確認……」

「リニス、俺の記憶を映像化することは可能か?」

「全ては無理ですが、強く思い描いたものなら可能だと思います」

「では、頼む」


アキトにはナノマシン補助脳が存在している、その補助脳のデータは融合した演算ユニットに流れ込んでいる。

アキトが強く思い描くということはつまり、演算ユニットによって生を得ているリニスにとっては、

自分の内に映像を流しこまれるのとおなじということになる。

とはいえ、演算ユニットそのもののデータは膨大すぎ、検索は普通不可能であるが、

リニスはアキトの情報だけを選別する方法を心得ていた。

そのデータを映像媒体に焼きつけることはリニスにとっては造作もないこと。

物の数分で2枚の写真が出来上がった。

それは、仮面の男(女)と、割れた仮面から素顔をさらした女。

同一人物にも見えたが、それは双子のようにそっくりな存在であるらしかった。


「猫の使い魔ですか、私とおなじ女性型、ですね……」

「この2人がどうした……仮面? この仮面はもしかして……」

「なのはとフェイトをやったのも恐らくはこの2人だろう」

「……本当にこの2人なのか?」

「ああ」

「……確かにそれなら辻褄はあう、それに僕が調べた犯人像とも合致する……しかし……」

「後は任せる」

「はい、マスター。最も彼は自力で答えにたどりつきつつあるようですが」

「そのようだな」


アキトはそれを横目にフェイト達の方へと歩いて行く。

なのはとフェイトとアリサの3人は子供ならではの話題で盛り上がっているようだ。

そこに入り込むのは悪いと思ったのか近くまで来たアキトはその場で声をかけることなく見つめている。

だがアキトは同時にこの娘達と同い年のはやてが死に瀕している事実に顔を曇らせる。

そしてはやてに対しある種の死刑宣告をすることになるだろう事を自分で自覚してもいた。

自分に出来ることならはやてを守ってもやりたいが最後は彼女自身が頼りなのだ。

それは、小さな双肩には重すぎる荷物だろう……。


元々復讐などと言う事をしていたせいもあり、自分が非人道的なことを普通に考えてしまう事が後ろ暗く、

また、子供を戦場に行かせたくない、普通に暮らさせてあげたいと考える自分の考えと矛盾する決断に吐き気すら覚える。

アキトは理想と現実の狭間をいつももがいている。

諦めてしまえば楽なのかもしれない、しかし、それが出来るほど器用でもないのだった。


「どうしたの義父さん?」

「んっ……ああ、フェイト、なのは。お前たちは今回のことをどう思っている?」

「えーっとヴィータちゃん達のこと?」

「ああ。そうだ」

「うーん、根は悪い子じゃないと思うけど。闇の書さんは発動しちゃうと止まれないんだよね?」

「ああ、周りを食いつくすまで暴れるらしいな」

「だったら止めないと」

「しかし、どう止める? 蒐集をやめるということははやての体は悪化していくということだ」

「えっ……そうなの?」

「闇の書は体を侵食するからな」

「そんな……」

「でも義父さん、もしそうだとしても。闇の書を発動させれば結局みんな飲み込まれるんでしょう?」

「多分な」

「だったら、闇の書やはやてには悪いけど……止めないと」

「うん……はやてちゃんを直す方法はまた考えるしかないよ……」

「確かに、普通ならそうだろうな」


アキトは彼女らがよく考えていることを知り安心すると共に、悟ったようなことを言う事に少し不安も持っていた。

あまり正論を振りかざすというのはまだ危険がわかっていないということが往々にしてあるからだ。

特に9歳の娘の言うような事ではなかったのだから当然でもある。

もっとも彼女らに普通をあてはめるのは間違いも知れないのだが。


「では、そろそろ行ってくる」

「提督のところまで案内します、義父さん」

「よろしく頼む」

「はい」


フェイトは先導しながらチラチラとアキトを見る。

それは悪いことをして叱ってほしいような、欲しくないような。

どこか、かまってほしい子犬のような表情だった。

アリシアへのコンプレックスからなのか、プレシアに植えつけられた脅えからなのかはわからないが、

自分から話しかけるのが怖いようなそういう表情だった。


「どうかしたのか?」

「んっと……その、義父さんははやてっていう子を助けたいんだよね?」

「ああ、できればな。小さな子が戦いに巻き込まれたり理不尽に死んで行くのは見たくない。

 それに、赤の他人ならともかく、知りあいになってしまったからな」

「そうだね……私のこともそうだったの?」

「そうだな、だからフェイトには好きなことをやって欲しいと思っている。

 恩返しとか、人のためじゃなく、自分のしたいことをしてくれると嬉しい」

「私のしたいこと……私は、やっぱり周りのみんなが笑っていてほしい。

 優しくしてくれた人が不幸になるのを見ていられないから」

「背負い込みすぎるなよ。お前はまだ成長途中だ、今から将来を決めることはないんだからな」

「うん、でも義父さんにも言えることだよ。義父さんいろいろ背負いすぎてるから……」


いくつか通路を通り過ぎ、リンディの執務室のある通りまで来たアキトは、

出来すぎな娘に微笑みながらそれでも話さねばならないことを思い出す。

そして少しだけ表情をただすと、


「そうだな……それと、言っておかないといけないことがある」

「何?」

「俺はこれから、この世界ではおそらく初になる組織を作る。

 その組織は場合によっては管理局と敵対することもある」

「え!?」

「管理局は巨大な組織だ、正義を振りかざせばその余波が起こり余計なものまで巻き上げてしまう。

 それは、ここ半年いろいろ見てきて俺が出した結論だ、俺はその巻き上げられたものを拾い上げるために手を尽くしてきた」

「私達やはやてという子ね」

「そのとおりだ、まして、民間人の現地徴用や現場への説明責任の放棄などといった逸脱行為も目立つ」

「嘱託のこと?」

「後は、この世界への魔法関係の隠蔽などだな」

「……でも魔法の事が知れたらこの世界にも混乱が起こると思うよ」

「そうだな……だが、その判断を上からしてしまうのが大きな組織の弊害だ」

「え?」

「まだ難しいかもしれないが。大きな組織の掲げる正義は人を簡単に酔わせてしまう。

 目の前に提示された正義は分かりやすくて格好いいものが多いからな。

 だが、そういうものこそ疑わなければならない。

 大抵はそうあるために、裏でいびつさをすり潰している」

「……まるでそんな事があったみたいに言うんだね……」


語り始めたアキトに何か感じるものがあったのか、フェイトは口を挟む。

それは確かにアキトの過去に関わること、アキトは大きな組織には大抵敵対してきた。

ナデシコに乗り込んでいた時には、木連、ネルガル、連合宇宙軍。

復讐を誓ってからは、火星の後継者、統合治安維持軍。

それぞれに正義があり、それぞれにいびつさが付きまとう組織ばかりだった。


「ある……とだけ言っておこう。

 だからこの世界にも管理局いや、管理世界への窓口を設けるべきだと俺は考えた」

「窓口?」

「話し合いの窓口だ。一方的な関係にならないためには話し合いというものは必須になる」

「でも、敵対って……」

「話し合いをすればぶつかることもある、戦争すら外交手段の一つであることは事実なんだからな」

「そんな……」

「だからフェイト、お前には酷かもしれないが、管理局にこのまま残るか、地球に戻るか考えておいてくれ」

「……うん、わかった」


フェイトは悲しそうな顔でその言葉にうなずく。

アキトが組織を作り出すということは、フェイトがどちらにつくかによってそれぞれ会いにくくなる人物が出ると言う事。

地球に残ればミッドチルダで静養しているプレシアに頻繁には会いにいけなくなるという事。

アリシアは地球に残るのかそれともミッドに行くのか、そのあたりは不明だが、

少なくとも管理局に来ればリニスやアキト、海鳴市の人々には頻繁に会う事が難しくなるだろう。

どちらを取っても家族が減るという点で寂しいのは同じ、

もっとも、プレシアにはめったに面会させてもらないので、あまり管理局にいても得はないのではあるが。

フェイトは無性になのはの意見が聞きたくなった、彼女も組織が出来たときに困る人間の一人だろう。


「作らないで済ますことはできないんですか?」

「万能の存在ならば可能かもしれないが、人は組織でしか組織に対抗できない」

「……そう、ですよね……少しうらやましいです。はやてという子が」

「すまないな、巻き込んでしまう……」

「いえ、私は義父さんの迷惑になりたくないんです。

 私の周りの人たちの中でも義父さんは母さんと同じくらいに大切だと思っています」

「そう言ってくれると嬉しいが、子供は親に迷惑かけてなんぼだ、いくらでもぶつかってきていいんだぞ?」

「はい、ありがとうございます」


それでも、フェイトは遠慮してぶつかっては来ないだろうとアキトは感じていた。

そんな、普通の親子とはかけ離れた会話をし、アキトはフェイトから離れてリンディの執務室へと向かう。

かなり待たせてしまったと反省の色を示しつつも、これはある種の外交であることを自覚してリンディの前に出る。

リンディは微笑みながら角砂糖を2つ入れた緑茶をすすっている。


「待たせてしまったな……」

「いえ、それほどでもありません。それに親子の会話に割り込むのは無粋ですし」

「聞いていたのか」

「聞こえてはいませんが、なんとなく」

「さて、今回の事に関して幾分込み入った話がある、もっとも一部は既にクロノに話したのだが」

「ええ、こちらでは衝撃的な事実に皆が動揺しているところです」

「その割には落ち着いているな」

「私は……グレアム提督の気持ちも少しだけ分かりますから……」

「親族を失ったのか?」

「私の夫、クロノの父親です。でも……夫は規則の人だったから」

「復讐など望んでいないと?」

「ええ、特にマスターは罪がない上に闇の書……いえ、夜天の書も被害者と言う事になりますしね」

「それで納得が出来ると?」

「納得……していると思いますか?」

「……」

「それでも、クロノは前に進もうとしています。私が応援しないわけに行かないでしょ……」


リンディは沈んでいた表情を一息ついて緑茶で濁す。

また、いつものほほ笑んだ表情に戻る彼女をアキトは強いと思った。


「ならば、次の段階だな……今回の事件とその処理の権限をこちらに回してもらいたい」

「!?」

「組織名は正式ではないが、外務省地球外対策局という、俺はそこで特務外交官の代表をすることになった」

「そう……とうとう作ったのね」

「ああ……だから、今後は正式な話し合いをしていきたいと思う」


それは、ある意味テンカワ・アキトという個人からの管理世界全体への宣戦布告のようなものだったのかもしれない。

もちろん戦争がしたいという意味ではない、しかし、無抵抗であることをやめたという事でもあった……。

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■作者からのメッセージ
とうとう、アキトが地球外対策局を発足しました。
ある意味において、この作品の本編はここからということになります。
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