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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 20 二重の意味で戦いは続く。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/20(水) 03:05公開   ID:SUURLksaq0Y

「先ず。これから相手の防壁を突破し、システムに強制介入する。

 基本的には、昔アキトがルリと一緒にやったオモイカネの刈り取りと同じ。

 内部に情報体を送り込んでウィルスを駆逐する」

「テンカワエステとかやってたあれか……」


ラピスが告げる言葉に少しだけ昔を思い出し感慨にふける。

球形のコックピットは確かにエステのものと酷似していた。

IFSのシステムも備え付けてある。

これならば俺にも操れるだろう。


「でも、その強度も精度もオモイカネの比じゃない。

 魔法に対する防備も完全とは言えないし、向こうのパワーは相転移炉とほぼ同等の力があるとみていい。

 だから、送り込まれた情報体だけでどこまでできるかはわからない」

「まあ、やるだけやってみるさ……」

「忍、相転移炉の状況はどう?」

「順調よ、でも闇の書だっけ、あれに介入したら恐らく防衛プログラムだかの優先攻撃目標にされちゃうでしょうね」

「その辺は外の連中に任せて忍はただ安定させていてくれればいい」

「任せておいて」


ラピスはIFSでオモイカネのシステムを立ち上げていく。

しかし、それだけではない、その両手には魔法陣が浮かび魔法の起動も同時にこなしている事が分かる。

そう、このオモイカネはラピスにとって杖(デバイス)の役割も果たす。

電子そのものに呼びかける高度な魔法なのだそうだが、細かい事はよくわかっていない。

ただ、俺の中にある演算ユニットが巨大な魔力の発動とその流れを追っている。


「しかし、ラピスって凄いわね……オモイカネを通じて炉のエネルギーを魔力に変換できるなんて。

 後は精度さえ上げればどんな魔導師にだって負けないんじゃない?」

「そうもいかないだろう、杖になるIFSのシステムがここにしかない以上動けないわけだからな」

「それもそうね……それは、こっちの仕事ってことになるんでしょうね」

「まあ、急がなくてもいいがゆっくり研究してみてくれ」

「了解」

「アキト、準備出来たよ、いつでも行ける」

「そうか……じゃあ頼む」


俺が一瞬目がくらんだと思った次の瞬間、視界が暗転した。

周囲の空間が暗闇で満たされる、視界は晴れずなんというか圧迫感だけが存在する。

俺は、自らの自由を確保するため身動きをしようとして、自分の姿がないことに気がつく。

あまり慣れたくはなかったが、見知った匂いがした。

これは……演算ユニットを意識した時の情報の海に似ている。

あまりに膨大な量の情報の前に自我が吹き飛ばされかかっている感じだ。

必死で自分を寄せ集め、もう一度自我を再構成する。

ある意味慣れた作業ではあるが、こういうのは出来るだけ遠慮したい。

なぜなら、致命的な部分が飛び散った場合、再度自分を構成するなどと言う事は不可能だろうから。


一通り自我を再構成すると、自分の姿を再確認する。

それは最近しているトレーナーやスラックスなどといったラフなものではなく、復讐を誓っていたころの姿。

感覚を補うためのマントとボディスーツ、バイザーをした、いわゆる黒い王子スタイルだ。

因みに名付け親はイネス……いや、実際王子ってカボチャパンツの下に紫色のタイツをしてたりするらしいしな。

某ピースランドで実際に見た……。

まあ、どうでもいい話だが。


「ラピス、この格好は?」

「よく似合ってる」


肩の辺りにぽんと出現した手乗りのヌイグルミ程度の大きさのラピスが言う。

どうやら、ラピスにとってはこの姿の俺が普通と言う事なのだろう。

しかし、ルリちゃんもそうだったが、ラピスもヌイグルミになってもどこか無表情な感じではある。

もっとも、現実のルリちゃんやラピスは微妙に表情を変えるのでおおよそ何を考えているのかわかるのだが。


「しかし、この闇はなんだ?」

「これは他者を寄せ付けないようにするための防壁の一種。

 闇の書の圧倒的エネルギーで外部に対して圧力をかけている。

 だから、普通は中を見通せない」

「なるほど、それで真っ暗なのか……しかし、これでは埒が明かないぞ?」

「もちろん、そのままにするつもりはない。あまり長時間ここにいるのはアキトにもよくないし、早々に決着をつける」


そう言うと、ラピスは俺に向けて手を伸ばす。

するとそこには、俺のいた世界でもハンドキャノンという名称が残るデザートイーグルが出現していた。

50口径……俺の撃ったことのある銃の中では44マグナムが最大のものだった、

もちろんこの世界は現実ではないだろうが、それでも反動を警戒するため腰だめで構えて銃撃する。

衝撃と爆音、爆光に照らされ、闇の中が一瞬明るく染まる、だが、弾丸は闇を打ち払うほどには威力がなかったらしい。

とはいえ、弾丸は吸い込まれるように闇の中へ消えるが、弾丸の通った道が出来ていることは認識できた。


「闇が再度集結するまでに通り抜けて」

「わかった」


ラピスに促されるまま闇を走り抜ける。

濃密な闇が迫ってくるのが感じられたが、俺自身の体も驚くほど軽かった。

一瞬で走り抜けると、後ろが閉まっていくのが分かる。

そして、急激に視界が開けてきた。

今度の風景は気持ち悪くなるようなぐちゃぐちゃした色合いの泥の魔物に埋まった世界。

吐き気がしそうになるのをどうにか飲み込む。


「魔法圧による防壁を突破、次は防衛プログラムによる攻勢防壁。

 あの魔物の群れに見えるものが防衛プログラム、あれを突破すると地下施設が攻撃対象にされることになる。

 ここからは時間をかけてられない……」

「なるほど、ここを抜ければ向こう側にも認識されるというわけか、ちょうどいいな」


フェイトとなのはだけに任せてある正面戦力への防衛に対しては多少力になれるだろう。

だが、地下施設の襲撃が起こればすずかやアリシア達が闘わなければならない。

時間をかけていられないのは事実だろう。

俺はデザートイーグルで邪魔になる魔物を排除しながら走り抜ける、

ラピスのプログラムがいいのか、相転移炉のパワーが大きいのか魔物は撃たれれば消滅して道をあける。
 
射線上の魔物はことごとくだ。

しかし、再生するスピードも速い。

俺は再生するまでに攻勢防壁と呼ばれる魔物の群れを駆け抜けた。


すると、また視界が暗転する、しかしこれは魔力とか魔物とかいったものではない。

感じる……これは、孤独、心が空だから色合いが無い……そう言った感じが伝わってくる。


「第三層、おそらく心理障壁。ここから向こうは構造がよくわからない。でも多分防壁はこれで最後」

「心理障壁……なるほどな……下手をすると飲み込まれそうな孤独感だ……」

「それは共感を利用したもの、おそらくコアは近い」


一歩進むごとに孤独感が強くなる、しかし悪いが孤独に関してはこれでも耐性が強い方だ。

ヤマサキには本当にいろいろな実験をされた……正気を保っている事が出来ないほどに。

しかし、感謝しようなどとは思わない。

奴らさえいなければ俺は……。


「くぅ!?」

「アキト! 大丈夫?」

「ああ……少し別の事を考えていただけだ」


俺の心が一瞬どす黒いものに支配されそうになる。

この世界に来てから封印していた、いや、単に触れる事が無かっただけかもしれない。

憎しみの感情……俺は、恐らく他の全ての感情よりも……憎しみの方が強い。

そうでなければ……そうでなければあんな……。


「アキト! しっかりして!」

「あっああ……孤独の感覚のせいで昔の感覚が戻ってきていたようだ」

「昔……まだ一年もたっていないよ」

「そうだな……まだ忘れるには強すぎる痛みだ」


俺はそのことを再度自覚するが、今は感傷に浸っている暇はない。

俺の目的は、電脳でつながったこの空間ではやてを見つけだすことだ。

それ以外の事を考えられるほどの余裕はないはず。

そう自分に言い聞かせさらに進む、孤独感は確かに高まったものの俺を押しつぶすほどではなかったらしい。

防壁を抜けた感覚は皮膚に伝わってきた。


「第三防壁突破を確認。恐らくここには闇の書のプログラムとはやてがいるはず」

「……ああ、そのようだな」


俺はそう言いつつ上を向く。

そこには銀髪、赤目、白すぎる肌という白子のような体を持つ少女が俺を見下ろしている。

上下の感覚は確かな足場がないここでは意味をなさないが、位置関係からして向こうが中枢に近いのだろう。

無表情に見えるその少女は俺を見て少しだけ表情をゆがませた。


「なぜ貴方がここに?」

「お前からはやてを助けると前に言ったはずだが?」

「……まさか本当にそこまでしてきたのですか。下手をすれば二度と肉体に戻れないかもしれないのに」

「俺にとってはそれだけの価値がある仕事だよ。お前にとってもそうだろう?」

「私は……」


そこで俯いて考えるのは自分の感情をどう表現していいのかわからないからだろう。

彼女も被害者ではあるのだから、出来れば助けてはやりたい。

しかし、ここまで来て言うのもなんだが、どうすればいいのか、まだ明確な答えはない。

ただ、管理者権限がなければプログラムの改編はできないというなら、まずははやてを起こさないといけないだろう。

そのためには、防衛プログラムを一時的にでも弱体化させないといけない。


少しして彼女は首を振り、俺を睨みつける。


「終わってしまった物語を今さら改定しようとしても無駄です」

「なるほど、お前はそういう風に考えているわけか。

 だが、俺とて戻るわけにはいかない、この世界には恩がある。

 はやてを助けることを誓った。今さら後へは引けないさ……。

 嫌ならお前の全力を見せてみろ」

「……私が何もしなくても防衛システムが排除をはじめています」


その言葉が終わるか終らないかのうちに気配が発生しているのを感じる。

ざっと見て守護騎士達とわかるが、気配は平坦で感情が読めない。

つまりは、プログラムに沿って動いているだけの存在ということだろう。


「見た目だけの守護騎士か?」

「いや、これは守護騎士そのもの。人造魂魄こそ内に宿していないが同じシステムだ」

「なるほどな……しかしそれは同時に、彼女らではないという事でもあるわけだ」

「どうかな……」

「ならば遠慮はいらないな。ラピス、いけるか?」

「相転移炉及び転送システムオールグリーン。仮想空間確保。プログラム転送開始」


俺の周囲が一気に不可視の障壁で覆われる、光のラインがフレームを組み、突撃をかけてきたザフィーラもどきの攻撃を防ぐ。

俺は感覚が繋がっていくのを感じながら、右腕のカノン砲を撃つ。

仮想空間内ながら、ブラックサレナの威容が再現される頃には、ザフィーラもどきは粉々になっていた。


『さあ、はじめようか』

「なっ!?」


管制人格のほうが驚いているうちにも残った3人はそれぞれの魔法を繰り出してくるが、遅い。

8mを超える巨人とはいえ、ブラックサレナは重力波推進、慣性制御もお手の物だ。

見た目に反して素早く全ての魔法を回避、ディストーションアタックで一気に叩きつける。

紙っぺらのようにあっという間に無残に飛び散る3人、

もどきとはいえ少し心が痛まなくもないが、防衛プログラムの一部であるこいつらを潰せば当然その本体が出てくる。

闇がうごめき、巨大なクモのような体躯に女性の上半身と無数の触手を生やした生き物とも呼べないようなものが出現する。


「……まさか、引きずり出したのか……しかし、それが表に出ればすべてが終わる。

 お前がしていることは暴走を助長している、それと正面からぶつかるのは……死期を速めるだけだぞ!」

『そう言うお前も、ブラックサレナと相転移炉のパワーを知らないだろう?

 まあ、任せておけ』


俺は女性の口から吐くビームを慣性制御で軽く回避し、カノン砲を両側から10発づつお見舞いする。

触手はどんどんはじけ飛ぶものの、すぐに再生し、本体までダメージはいかない。

更には数十に届く触手がサレナに向かって伸びてくる。

俺は思わずニヤリと口元をゆがめた。


「ラピス、サレナのシステムは完璧にトレースしているんだな?」

「良好、レイラインに多少のムラはあるけど許容範囲内」

「そうか、ならばいくぞ」


俺は本来のサレナでは不可能な高機動ユニットの途中装着を構築する。

ほんの1秒足らずでそれは完成し、俺はサレナでクモのばけものから一度遠ざかる。

すぐさま触手は追いかけてくるが、スピードが違いすぎる。

俺はある程度離れると反転しディストーションフィールドと共に加速する。


「行け」


光速の数パーセントというスピードに達したサレナがその速度のままクモの化け物にぶち当たる。

途中の触手は千切れとび、完全に形を失っている。

流石に本体は抵抗も激しかったが、俺は途中で高機動ユニットをパージ、爆破しサレナを突っ込ませる。


「おおおお!!」

「ウォォォォォォオォム!!?」


ドテッぱらを撃ち抜かれたクモの化け物は霧散する……。

元の場所まで戻ってきた俺は、一息ついてサレナを降り。

立ちすくんでいるかのように見える管制人格に話しかける。


「一時的にだろうが撃退した、今ならはやてを目覚めさせても負担はないはずだろう?」

「それは、しかし……今の現実は主には辛すぎる」

「そうか? 少なくとも今は一人ではないはずだ、俺も、お前も、ここにいる」

「……まだ、終わってはいないというのか?」

『そうや……まだ終わってなんかおらへんよ……』

「主!?」


闇の中からうっすらとはやての姿が浮かび上がってくる。

恐らく今までは俺の視界に映らないように、またははやての視界に入らないように防壁が張り巡らされていたのだろう。

だが、防衛プログラムを一時的にしろ倒したことにより、防壁も弱まってきているということか。


「はやて、こちらの声は聞こえているか?」

『ちょっと遠い気がするけど聞こえてる。でも、その格好初めて見るね?』

「ああ、これはな……まあいえば、俺の勝負服だ」

『へぇ、勝負服……まぁ、ええんとちゃう……格好ええで。バットマンみたいで』

「否定はしない……」


いやまあ、バットマンと言われたのは初めてだが、

確かにバットマンにしろスパイダーマンにしろスーパーマンにしろ全身タイツはおなじだ。

俺もそっち系と思われても仕方ないところだな……。

と少し凹んでいると、くすくすと笑う声がする、どうやらはやての緊張をほぐすことが出来たということか?


『私、マスターとして何をすればいいのかなんてわからんけど、

 夜天の書についての知識は書の正式なマスターになったことで結構わかってきてます。

 やから、最初にあんたに名前をあげるな……』

「主……」


その時、急にはやての声が鮮明に聞こえるようになった。

防壁の類が全て取り払われたということなのだろう。

そして管制人格の方へと車椅子のまま近づいて行く。


「闇の書とか、呪いの魔導書とか、私が呼ばせへん。私は管理者や、私にはそれが出来る」

「ですが、防御プログラムは直にまた暴走をはじめます。それを止めることは……」

「そんなことない。もう既に不可能やないことはアキトさんが証明してくれたやん」

「……それは……」


管制人格はその目から涙を流しながら嫌々をするように、一歩下がろうとする。

しかし、はやてはそのほほに触れ、両手ではさみこむようにしつつ、涙をふく。

そしてただ微笑んだ、その微笑みは管制人格の中にある何かを溶かしたように思われた。


「夜天の主の名において、汝にに新たな名を送る。

 強く支えるもの……幸運の追い風……祝福のエール。

 リーンフォース……」


リーンフォースの名を送られた管制人格は、すうっとはやての中に入り込むように消える。

理屈はよく分からないが、兎に角、一時的にしろどうにかなったということか。

防御プログラムが今後どう動くかまだ予断は許せないだろうが。



「伝わってくる……リーンフォースのこと、周りの状況、その全て……」

「状況終了、アキト、帰り道の確保完了した」

「そうか、はやて、俺は急ぎ戻らねばならない。もう、手助けは必要ないな?」

「もう少し一緒におって欲しいところなんやけど。

 防衛プログラムから切り離された一部がまだ地下で暴れてる……。

 もしかして……?」

「そう言うことだ、体を失うわけにもいかないしな」

「そやね、私も落ち着いたらすぐ向かうから、頑張って」

「ああ、心強いな」



俺は、先ずブラックサレナのデータを回収しつつ、自分の帰り道をラピスに開いてもらう。

その間も、はやては夜天の書の把握をリーンフォースに手伝ってもらいながら続けている。



「管理者権限発動」

『防衛プログラムの進攻に割り込みをかけました、数分程度ですが暴走開始の遅延ができます』

「うん、それだけあったら十分や……。

 リンカーコア送還、守護騎士システム修復。

 おいで、私の騎士達……」


俺が自分の肉体に帰る瞬間、はやてが光に包まれたのを感じたが、

既に俺の全感覚が戻ってきておりその衝撃でとてもそれどころではなかった。

白い空間、円形をしている。目の前にはIFS対応のボード、そして演算ユニットは球形の内部である事を教えている。

しかし、ぼうっとなっていられたのはその時だけだった。

次の瞬間、部屋が揺れているのを感じた、一瞬地震か? と考えたがそんなはずはない。

俺はコックピット状になっているその場から出ると、ラピスと忍が必死になっていろいろ操作しているのを見る。


「なんでー!? はやてとか言う子を助けたら、あれ大人しくなるんじゃないの!?」

「はやては、あれが切り離された一部だって言ってた」

「つまり、あれは……単なる鉄砲玉だってこと!?」

「そうとも言う」

「もう増援はないようだからいいけど、それでもあの再生能力じゃいずれすずかやアリシアちゃんが音をあげちゃう……」

「恋人の心配はしてあげないの?」

「んー、あれはあたしたち以上に化け物だし。メイド達もいるしね」

「忍冷たい、後で言ってやろ」

「ちょ!? 信頼してるってことよ! 本当なんだから!」


いつの間にか別の事を話しているようだったが、それでも手は止まらない。

ラピスはシステムをでっち上げ、破損個所の修復、攻撃兵器の再配置など目まぐるしくプログラムを走らせているし、

忍は忍で断線した箇所の修復、緊急回線のでっちあげ、掃除用のロボを無理やり攻撃兵器にするなどといった神業を見せていた。


「あー、お取り込み中悪いが、すずかとアリシアのいるところを教えてくれないか?」

「おっ、王子様ご帰還ね。まったくロリコンなんだから」

「いや、いきなり言われても困るが。それよりすずかとアリシアのいるポイントを教えてくれ」

「ノエルやファリンもいるのに、なんですずかとアリシアなのかなー?」

「聞くまでもない、そっちには恭也がいるんだろう?」

「まったく、しゃれっ気がないわね。でもお願い、確かに今かなりやばいみたいだから」

「ああ」

「二人は地下第三層のエレベーターシャフトから出てきている触手を迎撃中。

 カノン砲による迎撃効率83% でも、弾丸が切れかかってる」

「なるほど、マガジンの切り替えの時間稼ぎをすればいいわけか。

 リニスをここの護衛にする必要ももうないだろう、俺とリニスで交代する」

「ふう、やっと出番ですか。ここの護衛は何もすることがないので申し訳ないと思っていたところです」

「いきなり壁抜けして現れないで!」


そう、コンピュータールームには何層かの防壁があり、その外でいるはずのリニスがいきなり現れる。

まあ、使い魔というのはそんなものだと言われればそれまでなのだが、

実のところ彼女はかなり今の体の使い方を熟知してきている。

おそらく、非実体化つまりは幽霊のように通り過ぎたということだろう。

そう言うタイプの防壁も魔法にはあるだろうから、忍の研究不足というところか。

俺は少し皮肉に笑いながら、リニスの手をつかみ、ボソンジャンプで跳ぼうとする。


「待って。まさか棒一本で相手する気!? これくらい持って行きなさい」

「デザートイーグル……そうか、なるほどな」


先ほどのアレも忍が教えたのだろう。

まあいい、確かにこれは使えるな。

俺はそのまま、ボソンジャンプで目的地へと跳ぶ。

エレベーターの移動だけでなく大型のリフトも使えるようになっているエレベーターホール。

第三層とは地下三階を指すのだが、この地下施設は一層の高さが100m近くあるため、中間に何階も作れてしまう。

つまり地下300m地点、俺たちがいた場所からちょうど反対の端になるその場所には、

本来ならかなりの広場があるはずなのだが、その半分近くを巨大な触手の群れが覆っていた。

エレベーターシャフトに取りついて降りてきたということだから、恐らく邸内にも侵入されているとみるべきかもしれない。

もっともそっちは恭也達が何とかしてくれているはずだ。


『アリシアちゃん先に補給に行って……まだ私は少し弾薬があるから』

『出来るわけないでしょう!? 今私が引いたらなだれ込んでくるわよ。カノン砲が足止めにしかならないなんて……』

『強力な武装は困るからつけなかったけど、このままじゃ……』

『忍の作ってくれてた即席のロボットたちももうほとんどやられちゃった……しかたない。

 パワードスーツの近接性能に頼るしか……』


アリシアとすずかは必死で食い止めているようだが、やはり限界が近いのだろう、

泣きごとから自爆特攻に変化しつつある台詞が痛々しい。

俺は、すぐさま彼女らの前に出てデザートイーグルをぶっぱなす。

普通なら魔力の障壁で止まるのだろうが、俺は弾丸をボソンジャンプさせ、障壁内部に出現させた。

太い触手が一本はじけとぶ。

威力を確認した俺は反動にえきへきしつつも連射、更に数体の触手を吹っ飛ばした。

一瞬触手が怯んだところに、リニスがカタールを構えて突進する。

雷撃をまとわせたその武器(デバイス)は触れるものすべてを焼き払う。

広域魔法や射撃魔法を使わないのは地下施設を傷つけないためか。


「アリシア、すずかよくやった。俺達が交代するから弾薬の補充と休憩をすませておけ」

『アキトさん……はやてちゃんは?』

「うまくいった」

『さっすが、義父さん!』

『じゃあ、この触手は?』

「まあ、暴走している部分はまだ残っていてな。その切り離された一部が相転移炉を狙っているんだろう」

『わかりました。じゃあ、すぐ戻ります』

『弾丸補給したら手伝うからね!』


去っていく二人を背中で感じつつ少し思う、これでは管理局とやっている事があまり変わらないなと。

確かに、アリシアもすずかも優秀だ、しかし、命のやりとりを覚えるには早すぎる……。

俺はそう言った鬱屈もまとめて敵にぶつける事で少しの間考えないことにした。


「しかし、なぜこんなに増殖し続けられる?」

「コアが周辺の物質をエネルギーとして取り込んで、周辺のものの情報を取得し自己進化を続けるようなシステムのようですね。

 コアをつぶさないと周辺のものを取り込んで再生巨大化していくことになるようです」

「なるほどな……コアか……」


俺は、意識を演算ユニットに集中する、ひときわエネルギーが高い部分、

情報の取得や物質のエネルギー化などをしているなら当然他の部分と比較にならないエネルギーを出しているはず。

すぐに場所は知れた。

丁度エレベーター内部にそういうポイントが一か所ある。

もっとも、触手で埋め尽くされて目には見えないが。

どちらにしろ、幸いなのは動いていないという点だ、これならできるだろう……。

俺はそのまま演算ユニットに視界を合わせ、デザートイーグルを打ち抜く。

発射直後のベクトルをたもったままコア部分の中心部近くに出現させてやった。


「ギシャァァァァァッァッァァァッァァッァァ?!!??!?!??」


怖気を振るうような叫び声を無数の触手が同時に放つのを聞きながらエネルギーが低下していくのを確認。

流石に激しく動いていては無理だが、全く動かなかったおかげで簡単にとらえる事が出来た。


「よし、とりあえずここは終了だな」

「流石マスターです。反則技ばかりうまくなっていきますね」

「というか、それ以外できないしな」

「そうでしょうか? 普通に戦うこともできるような気もするのですが……。

 まあ、それはともかく地上はどうなっているんでしょう?」

「そうだな……急ぐか」


自分たちが苦戦した化け物を俺がすぐに倒したことが納得いかないのかアリシアは少しぶーたれていたが、

俺はそのまま地上へとボソンジャンプを行った。

やはりというか、恭也達は既に戦いを終えており、小太刀で倒したという化け物ぶりにびっくりした。

少し気が抜けていたところに突然声が響く。


『義父さん、そっちはもう終ったんだね。無事で良かった。義父さん無理しすぎるから……』

「フェイトか、念話だったか、初めてなんで少し驚いている」

「あはは……気をつけるね。で、こっちの状況だけど。

 今はやてが出てきた。守護騎士達も全員復活してるみたい』

「そうか、うまくいっているらしいな」

『どうやったのかとかちょっと聞いてみたい気もするけど。

 それよりも、はやてが防衛プログラムを分離したら海上に巨大な化け物が……』


念話とかいうらしいが、頭の中で話されるのは少し落ち着かない。

しかし、それよりも急がねば……しかし、ボソンジャンプを使う気力はあまり残っていないようだった。

流石に連続して他人の精神へダイブしたりボソンジャンプを行ったりとしていたので少し疲れてきているのだろう。


「なるほど、こちらもすぐに向かう」

『でも危険だよ?』

「そんな危険な場所に、お前たちだけ行かせるような真似をすることはできない」

『うん……ありがとう……』

「さて、ここからは私にお任せください」

「リニス?」


リニスは一度おじきして見せたかと思うと、俺に飛行の魔法をかけ、そのまま俺を抱きとめるように高速で飛翔した。

場所は既に分かっている、見えるのだ、街中からでも……その異様なまでの魔力で黒くなった空間が。

なのはを基準にして30人分以上……なのはの魔法は管理世界でもTOPクラスのはずにもかかわらずだ。

そんな魔力が放射されていれば視界もゆがむというものだろう。

そして、近づいてくるにつれ、その巨大さも目につく。

おおよそ直径100m近い巨大な闇のドームが触手達に覆われている。

触手とはいっても、一本一本の太さが1mを越えるような巨大なものばかりで、

海龍などがいればこんなものかもしれないと思わせる。

とてもではないが、俺が倒したモノと同じとは思えないレベルだ。


そして、その闇のドームから街を守るようにして空中に静止する一団があった。

夜天の書の陣営ははやてと守護騎士達、

管理局側はなのは、フェイト、クロノ、ユーノ、アルフと丁度両陣営5人づつ。

いずれも実力者ばかりのはずなのだが、そのうち半数以上が10歳前後。

守護騎士達はどう判別すればいいのか分からないので保留だが……。

正直なぜこれほど低年齢なのかと問いたくなる眺めではあった。



「あの、マスター」

「なんだ?」

「ここでそう言う突っ込みはかなりヤバいのではないかと」

「心の中のことを気にするな」

「はぁ……それよりも、そろそろ到着です」


一団の近くまで来るとリニスは速度を緩める。

俺はその速度に合わせ、リニスから手を放す。

飛行その物は先ほどかけてもらった魔法がある、自由に移動できないだけのことだ。

まあ、それが大事なのだが。


「遅れてすまないな」

「ううん、そんなことない。というより先に片付けて応援に行こうおもてたのに」

「その辺はお互い様だ」

「にしても、もうあの服は着れへんの?」

「あの……ああ、アレか。普段着じゃないのでな、もうあらかた片付いたようなものだろう?

 そう言うそっちも似合ってるじゃないか」

「えっ……あーうん、リーンフォース可愛いのにしてくれたから」

『元々線が細いのですし大抵の服は似合うのです』

「はは、リーンフォースも旨いな」

「もう、こういう時は本当に似合ってるないうてくれへんと」

「さて、最後は参加させてもらえるな?」

「うあ、誤魔化すの下手やなー。まあええわ。それはそれで楽しいし♪

 とはいえ、あのデカブツ……どうすればいいんやろ……」


俺を出迎えたはやては掛け合いに応じていろいろ話ていたが、防衛プログラムの解体については口をつぐんだ。

魔力の集積体が負の思念を飲み込み防衛プログラムを歪めているだけなので特別な方法はないらしかった。

俺は周りを見回す、みんなそれぞれ困った表情をしている。

フェイトだけは少しむすっとしているのが気になったが。


「そう言えば先ほど小型を倒したときコアらしき部分があったがそれを破壊すればいいんじゃないのか?」

「だが、あそこには4層のバリアと強大な肉の壁で内部を隠している。

 あれを吹き飛ばすにはアルカンシェルを発動するしかない。しかし、そうすれば……」

「半径百数十キロが消滅、日本は沈没、海外は大津波で大都市が軒並み壊滅といったところだろうな」

「にょえええーー!?」

「そんなに被害が大きいの?」


クロノがアルカンシェルの話を出したので被害についた語ったところ、なのはとフェイトが食いついた。

まあ、正確な被害の計算なんて普通はしないだろうからな。

実際問題、使われては困るということになる。


「ひとつ、試してみるか……」


俺はデザートイーグルを取りだし、装填する。

そして、おもむろに発砲した。

ベクトルをそのままに、演算ユニットの告げるコア部分の内部にジャンプ。

コアは動いていないので狙うのはたやすかった。

しかし、コアを傷つけることには成功したものの、大きすぎてそれだけではとまらなかった。

それどころか闇のドームが晴れ、巨体が俺のことを敵として認識し攻撃を加える。


「やはり威力が足りないか……」

「ちょ!? マスター!?」

「義父さん!?」

「そうだな……うっ!?」


俺はグラリと体が傾くのを感じる。

流石に今日はいろいろとしすぎただろうか……しかし、このままというわけにはいかない。

なんとか、この決着をつけておかないとな。


「私にお任せください」

「?」


突然、俺の体を緑の光が覆う。

傷や疲労が嘘のように抜けていくのを感じる。

それでも完全にはいかなかったが、確かにかなり回復していた。

それらのことをさっとすませるとシャマルは俺ににこりと微笑んだ。


「湖の騎士シャマルと風のリングクラールヴィント、癒しと補助が本領です」


その柔らかい物言いはたしかに、それ自体が癒しであるかのごとく気分を落ち着けてくれる。

しかし、確かにここへきての回復はありがたい。


「感謝する」

「いいえ、はやてちゃんを助けてくれたんですもの。これくらいじゃまだまだ追いつきませんわ」

「それは……俺がしたくてやったことだ、気にしなくていい」

「そうもいかない、我ら守護騎士は義を重んじるもの。いずれは役に立とう。

 だが今はそれよりも……」

「ああ、その事についてだが一つ頼まれてくれないか」


俺は全員を見回して言う。

あまりの突然さにきょとんとする一同。

俺は大したものではないが、作戦を提示した。


「信じるか信じないかは自由だ。しかし、方法としては悪くあるまい?」

「全く……そんな無茶な方法を。レアスキル頼りというのが気に入らないですが可能であると判断します。

 なのは、フェイト、はやて、構わないな?」

「うん!」

「義父さんの言うことなら」

「元々あれはうちらが処分すべきものやしな」

「残る我々は3人とアキトに敵の攻撃を寄せ付けないようにする。いくぞ!」


守護騎士達や管理局のもろもろは皆前衛をつとめしばらく牽制をつとめる。

その間に3人は砲撃魔法の準備に入った。


「ごめんな……おやすみな……」


はやての声はかすれて小さくなっていたが、それでも届いた。

あれでもやはりリーンフォースの一部であるというイメージがそうさせるのだろうか。

そうしているうちにも、魔力の充填は着々と進む。


「全力全開、スターライトー!」

「雷光一閃、プラズマザンバー!」

「響け終焉の笛、ラグナロク!」

「「「ブレイカー!!!」」」


3人の掛声を合わせるためにそうしたのか、全員がブレイカーと叫びながら魔法を発動する。

その視線の先にいるのは俺。

3人が完全にタイミングを合わせてくれなければ俺は消し飛んでもおかしくない。

俺はその強大なエネルギーを収束する地点に陣取りながらその瞬間を待つ。

3つの砲撃魔法が俺に向かって凄まじい勢いで迫る……。

しかし、エネルギーが俺に触れる寸前、全力でキーワードを叫んだ。


「ジャンプ!!」


ゆっくり計算してエネルギー総量を試算していたが、それは凄まじいものだった。

後から後から続々とエネルギーが放出される。

それを俺は何度も何度も防御プログラムのコアへと向けてジャンプさせる。

その回数が数十回を数えたころようやく3人のエネルギーが低下してきた。

放出が完全に収まる頃は俺はもう倒れかけていたと言っていい。

しかし、その甲斐あってか……。


「なっ……完全に停止している……魔力反応が拡散……今までにはなかったことだ」

「マスターも大概無茶ですけど、よく生きてますね?」

「もともと死ぬつもりはないさ……」

「でもなんで? あの子正面からはいくらでも再生してきたのに」

「コアは再生できない、まあ、コピーしたりして小さく分離はできるかもしれないが。

 例え今回はそうしていても内部から破壊されていた以上どうしようもないはずだ」

「バリアも肉体も貫通していきなり中心部にアレをくらっちゃ、助かりようがないでしょうね……」


リニスとクロノが勝手に批評するなか、はやてが混乱している。

俺は少しおかしくなった、確かに強敵には違いないのだろうが……。


「コアそのものを潰したのは大きいが、それだけじゃない。

 バリアの内側でエネルギーが爆発したんだ、当然自分の内部魔力も反応する。

 内部で何度も炸裂するが外部にエネルギーが漏れない、そうすると、当然内部では連鎖的にエネルギーが荒れ狂う事になる」

「なるほど……蒸し焼きになったっわけですか……」


俺は話し終えた瞬間意識が白濁してきたのを感じた、しかも今度はとてもあらがえるものではなかった。

俺は一瞬だけリニスに視線を向け、そして次の瞬間意識を手放した……。


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■作者からのメッセージ
A's編はこれにて終幕、ですがSTSまでにかなり話を挟む事になります。
ここからが本編と言えるかもしれませんねw
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