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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 21 ふぃじかるなんばーにいいち
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/21(木) 07:49公開   ID:SUURLksaq0Y
空白を抜けて吐き出される夢……。

悪夢……復讐と言う名の悦楽……殺戮という名の快楽。

だが、一時的なそれを抜けてしまえば襲われるのは悔恨、嫌悪、自虐。

しかし、繰り返すうちにそれも麻痺していく……。

そして最後に残されるのはただ殺すだけのマシーンとしての自分。

そんな悪夢……それが俺の現実だった……。

だからこそ逃げ出したのかもしれない。

俺が俺として存在する世界から……。


「ん……」


まぶたをゆっくりとあける。

そこは最近見慣れた天井、アンティークの家具が妙に俺の生活に合っていないが、それも慣れてしまえば日常だ。

そんなことをぼんやりと考えていると部屋の前に人が立つ気配があった。

そのままノックをするでもなくガチャリと扉を開けて部屋に入ってくる。


「ノックくらいはしろよ」

「あっ、マスターお目覚めですか」

「まあな、あまりいい気分でとはいかないが……」

「丸一日寝てましたからね……今日はもう23日ですよ」

「そんなにか……まあ、あれだけの事をやったんだまた体の感覚が持って行かれなかっただけでも良しとするか」

「はい。相変わらず無茶ばかりするんですから、私もいつ殺されるかとドキドキです」

「そんなご機嫌な顔で言われてもな」

「あら、顔に出ていましたか?」


リニスはわざとやっているのだろうか、そう言うところはリンディなどとよく似ている。

しかし、リニスは俺が寝ている間看病をしていてくれたのだろう、濡れタオルなども持ってきていた。

俺の額にはしっかりタオルが置かれているし、寝汗などもない。

また恥ずかしいことをされていらのかもしれんな……。

考えないことにしよう……。


「それで、事後処理についてだが、管理局はどういう風に動いている?」

「管理局側の内部発表ではグレアム提督の更迭と八神はやて及び守護騎士の保護観察などを予定しているようです。

 八神はやて及び守護騎士についてはクロノ・ハラオウンやリンディ・ハラオウンがかなり動いているようですね」

「刑の軽減か、しかし、その代りに管理局の職員として働けというわけだな?」

「多分そうなるのではないでしょうか、元々は減刑への恩返しというような意味合いでしたが、半ば制度化しているようですので」

「……」


管理局としても高い魔力の魔導師は出来るだけ確保しておきたいのだろう。

クロノの官位がそれを証明している、クロノがあの年齢で執務官になれたのは、

結局高位魔導師を出来る限り確保したいという思惑があってのことだろう。

その順で行くなら、なのは、フェイト、はやて、それに守護騎士達はのどから手が出るほど欲しいに違いない。

表向きは犯罪の減刑という形で確保を図るのは目に見えている。

クロノもそう言う事情を承知はしているのだろう、だからそれを利用することで減刑を願い出ている。

持ちつ持たれつということで体裁もいいのだろうが、それでははやて達の未来は管理局の魔導師しかなくなる。

フェイト達も前は同じ理屈で保護観察となるところだった事を考えれば阻止すべき要項だろう。

しかし、それは最悪彼女らの意思なのだからそれを望むならばそれでいい。


だが、グレアムについての刑罰はこれでいいはずがない。

まだ詳しい事は知らないが、一度会ってみないことにはならないだろうな。


最後に、フェイトの意思も確認せねばならない事に気づく。

これからは、頻繁に会えなくなるかもしれないなと思うがそれはそれで仕方無いだろう。

プレシアとの絆のほうが重要なはずだ、そしてアリシアも……。


意外とさびしくなるのかもしれないなと思い、リニスが覗き込んでいる事に気づく。



「なんですか? まるで娘を嫁にやる父親のような顔をして」

「なんだその具体的すぎる表現は。

 だが、まあそうだな……フェイトもアリシアもプレシアの事がある、ミッドチルダに行けば少しさびしくなるなとな」

「あーうん、そうかもしれませんね」

「すまないな、お前も付いていきたいだろうが。俺からあまり離れられないのでは行くこともできないだろう」

「……鈍いですね」

「……?」



リニスは少しだけほほを膨らますしぐさをする。

どうにも、俺にはおどけた仕草をすることが増えてきた気がするが、

元はフェイトの魔法修行のために、お固い家庭教師として生を受けたはずだ。

山猫の本性とやらのせいだろうか?

帽子でそれを隠しているのは理性を強くするためとか言っていたような。

しかし、鈍い俺でも少しは分かる。

リニスは俺を憎からず思っていてくれている、そうでなければここまで付いてきてくれないだろう。


だが、そう言う感情は俺には重かった。

ユリカと一大決心の末結婚、そして直に火星の後継者に……。

そういう感情からは最悪の末路しか思い浮かべない、だから俺は余計臆病になっているのかもしれない。

リニスは気付いているのかいないのか、ほほを膨らましながら目が笑っていた。


「もう、ノリが悪いんですから」

「お前に言われたくないな、普段はそんなにテンション高くないだろう」

「もともと山猫ですから、奔放なんです。普段は隠しているだけですよ。でも、困らせるようなことはしたくないです」

「……すまないな」

「いえ……」


もしかしたら、俺のためにそうしてくれているのかもしれない。

だが、どちらにしろ俺はそこから目をそむけた。

逃げにしかすぎなくても。

今は局の設立最初の仕事が待っているのだから。






















俺は支度を整えてアポを取り、正式な手続きの下管理局の本局へと向かう。

今までのような突然の訪問や脅しのようなことをするわけにはいかない。

もちろんしないというわけではないが、背後に庇うべきものがあり、目の前には情勢がある。

下手に相手を怒らせれば管理世界に属するいくつもの異次元世界を同時に相手にすることになる。

それだけはあってはならない、戦力差が圧倒的だということもあるが、

この世界に厄介事を持ち込んだら高くつくのだと思わせることが目的で、戦争を起こしたいわけではないのだから。


本局と呼ばれている場所なのかどうか俺にはわからなかったが、そこは巨大な施設のようだった。

演算ユニットによる半径1kmの演算によると、ここは一種の宇宙コロニーのようだ。

もっとも俺の知っているものは資源採掘用のものくらいだから比較のしようもないが。


俺が招待された部屋は小さな会議部屋だった。

俺と対面しているのは金髪の老人と言ったらいいだろうか、顔の割に頭髪が若いというべきか。

ただ、それだけではない何か得体のしれないオーラとでも言うべきものがあった。

背後のリニスは立ったままで俺の周りを警戒するようにしている。

まあ、仕方ないが確かに裏があるようには見えない。

誠意として武器となりうるものは預けてある。


「さて、最初に自己紹介からしないといけませんね」

「なら俺からさせてもらおう。総理から外交任務を託されたテンカワ・アキトという者だ。

 今後の連携のためにも、誠意ある外交を期待している」

「護衛としてまかり越しましたリニスと申します」

「ほほう、そちらの方は使い魔ですか? でも、テンカワ殿の使い魔には見えないが?」

「いえ、私はマスターの使い魔です。管理局の認める形式ではないからと否定なさりますか?」

「そう言うわけではないのだが……。

 おお、紹介が止まってしまったな。

 私はレオーネ・フィルス、管理局では法務顧問相談役という役職を頂いている」

「法務顧問?」

「ああ、まあ名誉職のようなものだよ。冠位だけは高いんだが実務に出るのはずいぶん久しぶりになる」

「なるほど……」

「彼女は知っているね?」

「リンディ提督とは面識を持たせていただいている。今回の件のそちら側の情報提供役というところか?」

「そうだね、資料は一通りもらっているが、やはり現場の人間は視点も違うしね」


レオーネという人物は一見して老人ではあったが、表情が明るいせいで若く見える。

階級の相談役というのは、あまりに高い地位まで上り詰めた人物を、

ただ引退させると世間に顔向けがし辛いという場合の名誉職か、

もしくはよく弁護士などがなっている企業がダーティな営業を吸う場合における法律の穴を探る仕事。

何となくだが、リンディと話が合うだろうとは思う、のほほんとした表情が似合うそういう人物であった。

しかし、本当にそんな人物が上り詰められるような組織なのだろうか?

俺は知れば知るほど管理局という組織がわからなくなっている。


「そして、今回の問題では外せないのが、騎士カリム・グラシア。管理局の将官でもあるのよ?」

「名前だけですが、私は聖王教会の騎士という立場から離れたことはございません」

「あらあら、おばさんちょっと先走りすぎちゃった?」

「いえ、聖王教会と管理局が長年友好を保っている証拠としてこちらでの地位もありがたく頂いております」

「うふふ、そう言っていただけると嬉しいわ」


俺は汗が噴き出すのを感じた、会話の毒と言うべきものが見える。

一方はのほほんとした老女、一方はまだ小学校を出たばかりといった若さの少女。

それは一種異様な組み合わせであった。

もちろん、それが本当に仲が悪いという意味ではないのかもしれないが、しかし、完全に同じ組織というわけではないらしい。

というか、俺は聖王教会という言葉を初めて聞いた。


「リニス」

「はい、聖王教会というのは管理世界最大の宗教です。古くは……」

「リニスさん、そこからは私が、一応自分の所属組織ですし、よろしいかしら?」

「はあ……」

「先ほどリニスさんの言われたとおり、私の所属する聖王教会は管理世界最大の宗教とされています。

 ベルカというのは王国の名であり、聖王と呼ばれる王によって統治された世界は現在の管理世界の元となるものでした。

 300年前に滅ぶまでは、ですが……」

「つまり、現管理局に与していないものは聖王教会の者であるというわけか?」

「いえ、それは300年前の話。

 今は管理局とも歩み寄りをしており、私のように管理局にも官職を持つ騎士も少なくありません」

「なるほどな……よくわかった、それで、ベルカの騎士ということは夜天の書に関する事項に関わる者という事でいいのか?」

「はい、その通りです。元々あれは古代ベルカのロストロギアですから、出来れば返却願えればと考えています」

「それは虫のいい話だな。危険物として放逐されていたものだろう?

 危険が無くなってから突然出てきて返してと言われてもな……」

「否定はしません、ですが、あれの暴走はまだ終わったわけではありません。一時的に非活性の状態になっているだけです。

 暴走を起こさせないようにするためには、封印をするのが一番、その点私たちは文献も多く残っております」


なるほど、カリムというのはかなりのやり手だ、小学校を卒業した程度の年齢でここまでこなすとは、

なのはといいはやてやフェイトといい、アリサもすずかだって皆俺の知る普通の小学生というものをことごとく壊してしまう。

正直それがこの世界では普通なのかもしれないと思ったこともある。

しかし、時折見かける学校から帰ってくる学生たちなどを見ていてやはり彼女らが早熟すぎるのだと気づいた。

早熟な子ばかりが集まる、管理局という組織の弊害だろうか?

いや、そんなことを考えている場合じゃないな。


「もし、封印をすることになったならお任せしよう。それよりも、議題はこのことでいいのか?」

「ああ、お二人が熱く語り合うものですからすっかり忘れていました」


レオーネがくすくす笑うのを見てカリムは落ち着きがなくなっていたことを認め少し下がる。

俺の方へ顔を寄せてきていたのを恥じたようだ。

リンディはレオーネの事を困ったものだといった感じで見ている、しかし、リンディもいつも似たようなものだった気がするが。


「さて、では議題その1から行きましょう。まずは貴方を地球、日本国の外交官として迎え入れます。

 そちらの要求は何でしょう?」

「まずは、プレシアもグレアムもそちらの世界からの犯罪者だ、更にはジュエルシード、夜天の書などへの追跡や戦闘。

 それらに対し、我ら日本国に対して全く説明がなされておらず。

 巻き込まれた高町なのはに関しても、日本に対して説明がなかった。

 それに対してどういう答えを返してくれる?」

「犯罪者に関してはこちら側の失態が大きい事は認めざるを得ませんね。

 しかし、グレアム元提督は退職されてからかなりになりますし、

 隠棲先が生まれ育った地球だったので我々も知らずに手伝う事になっただけです。

 管理局にいたという事実は憂慮すべきですが内部犯ではありません。

 そして、プレシアの重刑は貴方も望んでいないのではありませんか?

 後、なのはさんを巻き込んだのは私たちではなく、当時は管理局に身を置いていなかったユーノという子ですね?

 ジェルシードに関しても同じ、その子のしたことまでは責任を持てません」

「では、犯罪者を逃した失態は認めるわけだな」

「はい」

「では、その犯罪者を追って国境侵犯した事実もか?」

「確かにそうなりますね、あなた方の国に対して思うところがあったのではなく、犯罪者の捜索が目的ですが」

「だが、例えそうだとしても戦闘行為があり、危険にさらされた人々がいたのも事実だ」

「はい、その件については謝罪します」


笑顔のまま、小さな罪はみとめるものの大きな罪は回避している。

なかなか、面の皮が厚い老人だ、上層部の人間なのは間違いあるまい。

とはいえ、管理局の組織の大きさを武器に使ってきているのは事実だが、本格的にそうすれば会わないで追い返すことも可能だ。

強く追求しすぎるのは得策ではない。


「ならば、グレアムの処遇はこちらで好きにしていいという事だな?」

「はい、彼個人のことについて管理局は関知しません」


グレアムを放り出すことで組織の責任を回避した、という事なのかもしれないが、かわし切れていない。


「ならばその件に関しては後に回す、

 武装船による地球圏への侵犯及びアルカンシェルと呼ばれる大量破壊兵器の持ち込みに関する釈明を聞こう」

「釈明と言われましても……侵犯行為はされていないはずですが。

 日本の領土周辺への侵入はあくまで個人のみ、静止衛星軌道上に対する権利に対して明確な取り決めはなかったはずですよね?

 アルカンシェルに関しても侵犯していないのですから、持ち込んだということにはならないのではないでしょう?」

「では衛星軌道上への武装船の持ち込みは侵犯には当たらないと?」

「はい、現時点のそちらの法には抵触しないはずです、今後のためにお互いにすり合わせをしていく必要はあるでしょうが、

 当初は私たちも明確な線引きをしていたわけではないのですから、その時の法に頼ることになるのは仕方ない事ですよね?」

「なるほど、そう返すわけか。しかし、地球圏に入り込んだ時点で明確な意思をもってこちらに介入しているのも事実。

 ステルスの機能まで使っているのが証拠だ、その点については感知しないというわけか?」

「明確な意思がないからこそ事を荒立てたくなかっただけです。

 それとも、映画のように”ワレワレハウチュウジンダ”とでもやればよかったと?」

「だとしても政府へのアプローチすらないのは努力不足ではないのか?」

「否定はしませんが、通達した場合のリスクを考えると一概にそうとも言い切れないと考えますよ」

「ならば、局員のグレアムへの協力に関しては?」

「彼が法を犯すことをしているとは考えていなかったので、局員そのものに罪があるとは考えません。

 しかし、迂闊だったのは事実ですし、減俸とそちらへの賠償という形になると思います」


まだ余裕があるのかレオーネは人の良さそうな顔でうすく笑う。

妙なところでユーモアを発揮できる、それだけの精神力いや豪胆さはさすがだ。

リンディなどは顔が引きつり始めている、カリムは目を閉じているようだが拳に力が入っているのがわかる。

しかし、管理局という組織がある意味普通の組織なのがわかってほっとしている、

体裁を気にするという事は、体裁が整わないことはあまりしないという事でもある。


「では、クロノらの侵犯及び、グレアムへの協力は認めるという事だな?」

「ええ、意図は知りませんでしたが、確かにそれはこちらの不手際です」

「侵犯についてだが、彼らが魔法を使用していたことは確認が取れている。

 それについてはどう釈明する?」

「緊急避難です。犯罪者の捜索ですから、攻撃を加えられることもあります。それに対して応戦するなと?」

「いや、しかし武装を持って入ってきたのだその時点で不正入国になる。そして勝手に争ったのだ、騒乱罪も重なる」

「確かにそのとおりですね。それで、我々はどうすればいいのです?」

「日本に対しての不正入国の禁止、入国の際は税関を通してもらおう。

 そして、魔法に関する技術の開示、この二つが日本の出す条件だ」

「……入国管理に関しては徹底させるように通達いたします。

 しかし、魔法の技術を開示するのは少し一方的過ぎではないですか?」

「相応の対価が必要だと?」

「そうは申しませんが、無制限に流入してはそちらの経済に影響を及ぼすと思いますが?」

「確かに、しかし、基礎的なことすら我々は知らなかった。そんな我々が知識を求めるのは当然だと思うが?」

「はい、ですから逆にこちらへ留学してもらうというのはどうでしょう?」

「留学な……」


本来ならそれほど悪い話ではない。

遣隋使や遣唐使の例を見るまでもなく、先に学ぶ先の国の情報を誰かが得ておくというのはある意味必須だ。

しかし、同時に向こうの考えも予想できる、

つまりなのはやフェイト、はやて達を取り込むための口実になると考えているのだろう。

迂闊に賛同もできない。


「それは誰でもいいのか?」

「それは……できれば魔導師の素養がある人のほうが理解が早いと思いますが」

「確か俺もCランクの魔力を持っていたはずだな?」

「はいマスター」

「なら俺でも構わないということか」

「ええ……構いませんが……」

「では、俺が行こう、もともと外交官というのはそう言う仕事だしな」

「ふふふっ、面白い人ですね」

「カリム殿はこの方がお好みかな?」

「いえ、そう言うわけではないですけど、自分から飛び込んでくるというのは珍しいですし」

「それもそうですね。好青年というより少し無謀な気もしますけど」

「ただし、数年にしろ魔法に関しての既知を遅らせることになるんだ、それなりに考えてもらうぞ」

「どのようなことですの?」

「外交官としていくのだから外交特権をきちんと明記させてもらおう」

「なるほど、わかりました」


それからの事は、さほど重要なことはない。

カリム・グラシアも最初のように強硬な構えではなく、物腰柔らかに話すようになった。

そのせいか、はやてに関する事項はほぼこちらの思惑通りに進んだ。

元々、老人レオーネもその手の話に関しては鷹揚で、彼が守るべき管理局の権利に及ばない限りはあまり口出しもなかった。

管理局に多少丸め込まれた感もあるが、ここで強硬に主張すれば交渉自体が飛ぶ可能性もあった。

それに、俺はもう一つだけ条件を付け足し、おおよそ満足する結果が得られたと感じた。


「しかし、とぼけ切られましたね。もっと突っ込んでもよかったのでは?」

「今はその時期じゃない。彼らに対し、外交特権をいくつか認めさせただけでも良しとするさ」

「外交特権ですか、面白いことを考えますねマスターは」

「勝手に魔法を使われないためにも必要なことだ。前情報で質量兵器の否定って言うのも気になったしな」

「それは確かに、一般人に力を持たせないためとか大量破壊兵器を持たないためとか言ってますが、

 それならあのアルカンシェルはなんなんでしょうね、質量兵器ではないですが、それ以上の破壊力がありますよ」

「まあ、そう言う事だ。表向きの発言と裏向きの事情があるのが組織というものだからな」

「なら、これから作る組織にもそういうものが出来るのでしょうか?」

「できないとは言えないな……まあ、できるだけ裏表のない組織にしたいが」

「はい、頑張りましょうね。きっとマスターならできると信じています」


どうにか満足のいく結果にはなった、少なくともはやてと騎士達は日本政府預かりにすることが出来たし、

管理世界の見学及び技術流入に関する陳情権は後日日本政府に話すことになるだろうが、ある程度まとまりそうだ。

地球圏への認知に関してはなかなか難しい問題になりそうだが、正直それは俺の仕事ではないしな。

賠償金もかなりの額が入ることになったはずだが、換金レートが決まっていない今かなり難航するだろう。

純金で取引といような事態になる可能性が高い。


「地球に被害を出しても書を封印するつもりだったグレアムという人物、いずれは会ってみなければならないな」

「あの猫姉妹もお灸を据えてあげないといけませんよ?」

「まあ、それは先の事だ。今は……」

「お休みください、明日はクリスマスパーティですからね」

「そうさせてもらおう」


俺は、その日すぐに眠りについた……。

眠りの中でどこかとつながった感覚があったが、疲れのせいかすぐに深い眠りに落ち、

次に気がついた時はリニスに揺さぶられていた。


「っ!?」

「マスター! 大変です!」

「どうした?」

「リインフォースが、自らを破壊するつもりのようです」

「自らを破壊?」

「防衛プログラムには自己修復機能がついていますので、それを何とかしようとしたのかと」

「……」


俺は思わず納得してしまった、確かに、それも一つの主への忠義だろう。

しかし、今はせめて聖王教会での検査だけでも受けて欲しいと思う。

彼女の自信を思えば何がしかの手がかりくらいはあるはず。

自殺ならそれからでも遅くはないだろう……。


「分かった、急ぐぞ!」

「はい。ならばご無礼」

「!?」


リニスは俺を抱えあげ、そのまま飛行の魔法で目的地まで飛ぶことにしたらしい。

確かに早いが、見られたら嫌だな……。

冬の寒さの中で部屋着のままだしな(汗


「見えました、あの丘のようです」

「もう始まってるな……」


リニスは俺を下ろすとなのはとフェイトが作り出しているリィンフォースが自壊するための魔法陣へと急ぐ。

俺も続いた、しかし、どこか違和感があるような気がしていた。


「リインフォース、そんな無茶はやめなさい、自壊するにしても、まだすべての手を打ったわけじゃないのに」

「そうはいうが、私はもう暴走を起こしたプログラムの起点がどこなのかすらわからなくなっている。

 正常なプログラムははるか昔に失われてしまった」

「だが、聖王教会にならあるかもしれないぞ?」

「いや、あの教会にあるのはここ300年の歴史と使い方がわからないロストロギアばかりだ」

「でも……」


リニスは必死に説得している、しかし、おかしいのはなのはもフェイトも4人の守護騎士達も妙に納得した顔をしていることだ。

どこか悲しげな雰囲気はあるものの、それすら少し空々しいような……。

何か、根本的に間違っている?


「リインフォース!!」

「主……」


はやてが坂を車椅子を自力で押して上がってくる。

自動ではもどかしいとばかりに頑張っているのだろうが、あまり早くない。

思わず俺は後ろに回って車椅子を押した。


「あっ、ありがとな」

「どういたしまして」

「ちょっとリインフォース! なんであんたが消えんとならんの!?」

「私のプログラムの基本形が失われている以上、暴走の危険は常にあります。

 そして次に暴走すれば同じやり方は通用しない……これしかないのです」

「でも!!」

「なのは、フェイト。お願いします」

「うっ……うん……」

「わかりました」



そして、はやてが呆然と見守る中リインフォースが消えていき、最後に十字架のような飾りがはやての手のひらに残った。

はやては肩を震わせている……。

俺ははやての肩に手を置くと……。


「取った!!」

「!?」

「さあ騎士達!! がんばってアキトさんを抑え込んでな!」

「なのはさん、フェイトさん一緒に結界をお願いします!」

「うん!」

「わかった!」

「大人しくしていてお貰おう」

「済まないな、また借りが増えることになりそうだ」

「まーあれだな、巻き込まれ型人生なお前なら丁度いいだろ?」

「何のことだ!?」

「うっふふふ、マスター。はやての近くに何か見えませんか?」

「……まさか!?」

「その通りです。さあ、マスターをはやてに押しつけて!」

「なんかちょっと焼けちゃうなー」

「仕方ないよ、義父さんってそう言う人だし」

「悟ったような言い方をするなー!!!」


俺の体がはやてに押しつけられたことで、人造魂魄が一つ俺の体内に入り込む。

正確には俺の体と融合した演算ユニットにだが。

そして、入り込んだ人造魂魄は自分を形成しようと内部で演算に割り込みをかけることになる。

結果割り込まれた情報は世界にボソンフェルミオン変換、つまりボソンジャンプと同じ原理をおこさせる。

そしてフェルミオン体、つまり光の虚像が現れるわけだ。


「これは……私はいったい……」

「貴方は今幽霊になったのです」

「リニス……私が幽霊ですか?」

「はい、今はだれにも触れる事が出来ないはずですよ?」


するとリインフォースの虚像は視線をさまよわせ一度はやてに触れようとしたが、すり抜ける。

そして初めて気づいたように自分の事を自覚した。


「どうしてこのような事が?」

「細かい説明は必要ないでしょう今貴方自身がデータを取得しているはずですし……。

 マスターの中にある物には情報の物質化と物質の情報化という能力があるのは事実です。

 マスターの能力もその応用ですし、だからこそ情報として貴方は取り込まれたということですね」

「私という存在情報……つまり夜天の書の全データがですか?」

「それくらいは余裕で入ると思いますよ、データ量が膨大すぎて分かりにくいですが、

 宇宙そのものを演算するシステムですし」

「宇宙を演算……」

「なあ、つまりそれってリインフォースは幽霊になったってことなん?」


これはつまり……リインフォースの人造魂魄に当たる部分というより書そのものを飲み込んだということなのか?

いろいろ大丈夫なのかと思わなくもないが、

確かリニスは演算ユニットから過去の自分のデータから引き出した様な事を言っていた。

つまり、リインフォースを使い魔(通常の使い魔ではなく、演算ユニットの下位システムと考えられる)にすれば、

彼女の過去のシステムを探りまともな状態の夜天の書を復活させることが可能かもしれない。

それは……。


「計画的犯行というわけか……」

「大当たりです♪」

「ごめん義父さん……」

「にゃはは、聞いてたら一番いい方法かなとおもって」

「そう言うわけだ、リインフォースも主はやても騙すような事をしてすまないな」

「あー、そうなんか……はぁびっくりした」

「……なんと言っていいのか……」

「アタシは反対したんだぞ! はやてを騙すのは気が引けるって」

「それはそうですけど……一応本当に一度は消えるんですし、それに先にリインフォースにばれてはいろいろ面倒でしたからね」

「我らが管制人格に隠し事をするというのも初めての試みではあったしな」

「それで……俺には何故言わなかったんだ?」

「それは……」

「義父さんも知らない方が面白そうだって……リニスが」

「……最近本当に砕けてきてるなリニス」

「ははは、それほどでもありますかね?」


俺は心底疲れた気分になった。

おおよそ、事情は察したものの、リニスから秘密にされていたのはこの方法で助けることに抵抗がある俺を知っているからだろう。

何故ならこの方法は二つの意味で人権を無視している、一つ目は強制的であること。

俺がその気になればほとんど動けない人造魂魄は逃れる事が出来ない。

もう一つは復活後俺から離れられず、また俺の死=自分の死となってしまうところだ。

そんな状態で生きるのはそれはそれで大変なことだろうと思っている。

リニスには色々苦労もかけている、そんな存在を増やす事への抵抗もあった。


「気負わなくていいですよマスター。私は今幸せですから」

「しかし……」

「どうしてもと言うなら、もっと演算ユニットの扱いに長けることです。

 そうすれば、まだまだ能力は成長するでしょうし、そうなれば私たちが離れて活動することも可能になるはずです」

「そうなのか?」

「私の方が把握しているというのは少し困りものですね」

「ああ……すまない」


いつの間にか和やかムードになっている人々を眺めながら、リニスは微笑む。

俺は、それを見て少しだけ救われた気分になった。

そして、件のリインフォースを見る。

彼女は無表情そうに見えて不安そうなオーラが出ていた。

肉体がない状態は慣れているだろうが、現状中途半端な状態なのは事実だからだろう。


「ところでリニス、使い魔の契約は本当にアレでなくてはいけないのか?」

「あっえっと……そうですね、粘膜接触ならなんでもいいとも言えますが……」

「ぶっ!?」

「……それはつまりアレですか?」

「そっちの事も知ってるんですか?」

「ええまあ、その……今までいろんなマスターがいましたから。

 私自身は実体化することが少なかったせいもあり経験はありませんが」


考えてみれば、彼女がマスターと本契約をする時はマスターが死ぬ時となり、

マスターが蒐集をしている間は書の状態なのだ、接触などあるはずもない。

しかし逆に蒐集の間ずっとマスターと共にある守護騎士は……。


「んっ? ああ、我らか……まあそのなんだ、一人だけ経験者がいるとだけ言っておこう」

「ぶっ!?」


シャマルが噴き出した。

まあ多分そう言うことなのだろう……。


「あああのあのですね、別にその……私……」

「ええよ、愛があればなんでも、な?」

「はい……くすん……」


この調子なら恐らく無理やりというのはないのだろう。

それはそれで奇跡のようなものだと思える。

もしかしたら、マスターとなる者の基準に守護騎士を養うことが出来るという程度の条件があるのかもしれない。

まあ、今となってはどうでもいい話ではあるが。

なにせ、既に彼女らは独立した存在となったのだから。


「では、契約の儀式をついでにここでぱぱっとやっちゃいましょう!」

「あ……」

「そうだったな……」


俺はリィンフォースに向き直り問いかける。


「よく聞いてほしい。

 儀式が終わればお前は復活できる。

 しかし、俺から1km以上離れれば魔法等の能力が使えなくなり、俺の行った事のある場所から遠く離れれば実体を失う。

 そして、俺が死ぬことがあれば演算ユニットにも影響が出るため消えてしまう可能性もある。

 それでも構わないのならばもう一度生き返ってみるか?」


その言葉を聞き、リィンフォースは黙考する。

元々命にはさして未練があったようには思えない。

はやてのためにと死のうとした彼女だ、はやてから遠く離れることをよしとしないだろう。

彼女にとっては生き返ってもメリットがあるのかは疑問だった。

しかし、黙考するリィンフォースに声がかかる。


「私はもっと一緒にいたい。死んだらもう一緒におれれへん……。

 生きてるなら、私がアキトさんの部屋に押し掛けてでも、話とかするし。

 マスターやなくなったら近くにいれへんわけやないよね?」

「それは……」

「私はリインともっともっと仲良くしたい。

 それは守護騎士のみんなやここに来てくれた人達も同じやけど、それも一人だけやないと駄目?」

「そんなことは……そんな事はありません。

 そうですね……私も主とともにいたい。

 そして、新たにマスターとなるテンカワ・アキト……貴方にも興味がわきました。

 今データの更新がほぼ完了しましたので、いつでも儀式が可能となっています」

「そうか、ならば始めるとしよう」


俺はリインフォースの正面に立つ。

気を利かせてリニスが結界を張ってくれたが、そもそもここにいるのはほとんど魔法使い。

見えなくはならないだろうが……。


「では、契約の際の条件からだな」

「はい」

「俺がお前に望むのは魔法の知識を俺に伝える事だ」

「それが私の役目ですか……元々書である私にはちょうどいい目的かもしれませんね」

「期間は無制限とする、元々魔力供給も演算ユニット経由だから俺には関係ないしな」

「そうなのですか……リニスの魔力が膨大なのもそのせいなのですね」

「そうとも言えないが、元々資質はオーバーSだったらしいしな」

「元のマスターにとっては、維持は大変だったでしょう……」

「そうらしいな。っと話がそれたな」

「はい、では主アキトの遺伝情報の摂取をさせていただきます」

「わかった」


リィンフォースは俺に向かって一歩近づき、俺が来るのを待っている。

何のかんの言っても初めてなのだろう。

かちんこちんに固まっているように見えるその姿を抱きよせ、

俺は唇に軽く触れ合わせた……。

すると、半透明だったリィンフォースの体は徐々に輪郭をはっきりさせていき、完全に元の姿を取り戻す。

しかし、やはりというかかなり俺にはきつかった……。


「うっ!?」

「主アキト!?」

「落ち着いて、マスターは貴方に与えた権限の分、自分の神経系データを再取得する必要があるの」

「それはつまり……」

「また車椅子生活ですね」

「……」

「まあまあ、アキトさん。お仲間から一人だけ脱してたんやし、また中良うしよな♪」


俺は隣で笑いかけるはやてを見ながら、やられたと思った。

そういえば……忍は新人は男性じゃなきゃお断りとかいってたような……。

いい加減追い出されても文句は言えなくなってきたな……。


「そろそろ家の人が目を覚ます時間帯になってきた。一度家に帰って今夜はパーティとしゃれこもうか」

「じゃあ義父さん、私が運んで行くね?」

「あら、フェイトったら」

「私はどうすればいいのだろう?」

「一緒に来ればいいじゃない、ついでに忍に大目玉食らうマスターを眺めてましょ」

「それが礼儀なの……か?」

「そんなはずないだろう! せいぜいフォローしてくれよ」

「了解した、主アキト」

「……その呼び方なんとかならないか?」

「そう言われても、我が主とだけ呼ぶのははやてと決めている」

「いやそうじゃなくてだな」

「旦那さまか御主人さまのほうがよかったか?」

「いや……主アキトにしておいてくれ……」


どういう教育を……いやそう言えば人間じゃなくてデバイスだったな……。

おいおい治して……治ればいいな……orz

いや、弱気は駄目だ。

それよりも。


「では私らは一度家に戻ることにします。アキトさん、すずかちゃんの家追い出されたらいつでも来てな♪」

「なっ!?」

「我等が受けた恩、今度のことも含め命をかけて返すことを誓おう」

「裸で背中を流したりとかするんですよね」

「だっ、シャマル!?」

「さっき暴露されちゃったお返しです♪」

「貴様!!」

「あーまー、暫くはいじめないで置いてやるよ」

「ヴィータ、それじゃあ感謝になってない」

「うっせ、あたしはいーんだよ!」

「まあ、こんな奴らだが、これからもよろしく頼む」

「ああ」


いろいろ言ってきたが結局それなりに思うところもあり、俺のやったことの評価だということだろう。

少し心が軽くなった。

俺は、少なくともこの世界に来てからの俺は間違ったことをしたわけじゃないと、そう信じさせてくれる。


「にゃはは……。

 アキトさん、これからどうなるか分からないけど、この先もがんばってね。

 私たちが手伝えるかどうかわからないけど、もしかしたら意見が食い違うかもしれないけど。

 でも、きっと……」

「そうだな……」

「じゃあ、私も帰るね。ユーノ君やクロノ君も誘って行くから、ごちそう用意して待ってて♪」

「ああ」


久々に料理を作るのもいいかもしれない、

俺はしばらくパティシエの助手として菓子は作ってきたが料理はかなり久しぶりな気がする。


まだ、昔のことを忘れたわけじゃないが……。


それでも、俺が前に進むために……。








その日、忍にこってり絞られて、すずかとラピスに白い目で見られつつもどうにかリィンフォースを迎え入れ。


クリスマス料理を作ることにした。



まあ、その後もいろいろあったにはあったんだが……それはまた別の話。

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■作者からのメッセージ
やはりリインフォースには生きていて欲しいかなぁとw
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