「アキトさんいってらっしゃい」
「はよ帰ってきてな、リインも寂しがるし」
「なっ、何を言っているのですか!」
「前に仲好うなったようなこと言うてへんかった?」
「それは……」
「むぅ、私も待ってますからね!」
すずかとはやて、リインフォースといった面々が俺に話しかける。
最近はやてはリインフォースの事もありよく遊びに来ている。
足はまだ回復していないが、リハビリも始めているし、元気一杯という感じであまり心配は必要なさそうだ。
アリシアとフェイトはまだ学校ですることがあるようで戻ってきていない。
それまでは3人で遊んでいるということかな。
俺は今日、国連というかアメリカの横やりが入った外務省地球外対策局のシステムについての話し合いをする事になっている。
恐らくは、国連が接収に動いてくるはずだから、その時イニシアチブを持って行かれないためのものだ。
とはいっても、日本はアメリカの属国に近い国だからあまり強くは出られないだろうが……。
米軍が駐留している限り、強く言えば脅される格好にどうしてもなる。
頭の痛いところだった。
「ああ、今日の仕事は会議だけなんだがな……」
「会議ですか……長引いているんですか?」
「まあな……」
「頑張ってきてくださいね」
「ああ、皆が安心して暮らせるように頑張るさ」
そう言って俺はリニスを連れて回してくれたベンツに乗り込む。
実際魔法関連技術は、月村重工の独占に近い状態になっており、アメリカだけではなく諸外国の反応も芳しくない。
もっとも現在魔法関連技術が伝わっているのは大国として名をとどめる一部の国家だけではあるが。
アメリカ、EU(フランス、ドイツ、イタリア、イギリス)、インド、中国、ロシア。
現在はこれらの国の首脳陣にしか伝わってはいない。
まさかその事をすずかに漏らすわけにもいかないが、どこか知っている風でもあるな。
しかし、そのままにするわけにもいかないため、
イニシアチブを握ったまま国連に権利を移動できるようにするための会議を連日開いているというわけだ。
なにせ、アメリカに任せておけば日本の全ての権利を取り上げられてしまう。
「マスターお疲れではありませんか?」
「ああ……しかし、そうもいっていられないさ。4月にはミッドチルダに行くことになっているんだ。
それまでに、俺がいなくても地球外対策局が機能するようになっていないといけない」
「しかし、海外とのすり合わせまで含めてきちんと機能するようにするには最低でも数年必要でしょう」
「そうだな……せめて、地球外対策局を任せておける人物がいれば……」
「そうですね……」
人材はいないわけではない、しかし、忍や月村重工の役員を対策局に招けば実質月村重工のための組織になってしまう。
元からの組織には頼れない上に政治家を相談役以外の地位につけると空回りする危険が高い。
つまり、地球に残ってきちんと現場を押さえておける人物が必要になるのだ。
むしろ俺等よりも政治面でやり手でないと務まらないだろう。
「人材のリストは作ってくれたか?」
「一応は……ですが、管理局も日本政府も月村重工も息がかかっていない有用な人材は、
我々の近くにはいないのではないでしょうか?」
「そうかもしれない……しかし、今からあきらめるわけにはいかないだろう?」
「やはり高町士朗に頼んでみたほうが……」
「それは……」
確かに高町士朗はあの恭也の親だけあって剣術もさることながら人心掌握もこなす。
カンもコネもかなりのものだ。
しかし、それだけに政府とのつながりは完全に否定できないし、彼自身引退したことを再開したくもないだろう。
彼は今翠屋の主としてパティシエを始めたばかりだ。
妻に任せきりだったのも今日までという感じで頑張っている彼に水を差す気にはなれない。
こんな時にプロスさんでもいればと思わずにはいられない……。
しかし、愚痴を言っても始まらない、それに議場へはもう到着していた。
議場内には護衛が多数きている。
政治的に重要な人物が多くいるということだろう。
仕方ないことではあるが……物々しい上に動きの鈍さを感じてしまう。
俺は首を振って議場にある自分の席に着いた。
暫くして会議の面々が揃い、話を始めることになった。
正面に総理、右隣に外務大臣、それぞれ数名補佐役がいる。
更には推進派のリーダー格の議員が3人控えている。
それに対して、現場の人間は俺だけ、補佐兼護衛のリニスと合わせても2人だ。
「さて、テンカワ君……君はどうするつもりだね?」
「我らの進退にも関わる重大事だよ問題ないのだろうね?」
「そう言う身も蓋もないことを言うんじゃない、我らが押した地球外対策局なのだから」
「そうはいいましても総理……」
「静まっていただきたい。俺の意見を聞いているのだろう? 聞いてから判断すればいい」
「ぐっ、君は目上の者に対する言葉づかいがなっていないようだね?」
「君のような若輩者がここに来られるのも我々のおかげだという事を忘れないでくれたまえ」
「君たち、テンカワ君の言う事を聞かないか、対策の是非を問おうというのにこれでは先に進まん」
「しかし総理……」
「どうしてもというなら、私とテンカワ君だけで会議をしてもいいんだぞ? 接収まで時間がないのだからな」
「たったしかに……」
彼らとて、月村重工が景気を良くしてくれていることは知っているし、その元が魔法技術にあることも知っている。
それでも、自分たちのほうが偉いと教えなければ気がすまない、それが政治家というものなのだろう。
まあ、それは言い過ぎかもしれないが、俺のペースで話すと言う事は主導権を取られているという事だ。
政治というのは常にその主導権の取り合いと言っていい、嫌われるのは仕方ない。
だが面倒なのは事実だ、俺はうんざりすると同時に、総理が理性的である事を嬉しく思った。
とはいえ、解決策となりうることはそれほど多くはない。
「まず最初にしなくてはいけないのは人材の確保です。
この組織はまだ立ち上げたばかりで人材が安定してない、
俺が抜けたら組織を取りまとめる人物がいなくなるのでは話にならない」
「それは議員からの選出でなんとかならないのかね?」
総理の反論に対し、俺は議員たちを見回す。
俺が少し睨みつけただけで目をそらす議員たち。
外務大臣ですらまともに視線を合わせられないでいる。
「この程度のプレッシャーで名乗りを上げられない人間ではアメリカに対抗することなど不可能だな」
「……そうか……いや、その通りだろうな。私自身でも自信はない」
今日本が置かれている状況を思えば総理がそう考えるのも当然だろう。
そして、政治家は基本的に自己保身が第一になりがちだ。
やはり、あまり使いたくない手でいくしかないらしいな。
「政治的に使えるかどうかは分からないが人材はいないこともない」
「んっ、そうかね?」
「ああ……明日交渉に行く予定だ。引っ張りこめば人材不足も少しはマシになるだろう」
「何、そんな人物がいるのか!?」
「ただし……政府にも相応のリスクを負ってもらう事になるぞ?」
「それは、どういうことかね……?」
それからも喧々諤々あったものの、話は進んだとは思えない。
実際問題として、日本の政治家は2世議員中心であるせいもあって、事なかれ主義が多い。
平時ならそれでも問題なく回るのかもしれないが、
いざ事が起こってしまうと初動が遅れ、会議をしている間に事件が取り返しのつかないところまで来てしまう。
俺は徒労を覚えつつも明日のために帰って寝ることにした……。
しかし、帰りの車が回される前に、俺達の正面に車が来ているのがわかった。
ウィンドウが開き中の人物から声がかかる。
「やあ、テンカワ君。会うのは初めてかな?」
「デビッド・バニングス……」
「おっ、知っててくれたのかい? アリサがいつもお世話になってるようなんで、いつか挨拶しないとと思ってね」
「パパがどうしても会いたいって言うからつい……」
「だってそうじゃないか、月村重工を手玉にとって、日本に地球外対策局を作ったのは君だろう?
興味深い限りだよ。
ぜひ一度会ってみたいと思ってね」
「それはそれは、
俺も一代で世界中に子会社を持つホールディングカンパニーを作り上げた時代の寵児とも言われる夫婦の噂は聞いているぞ」
「なら話が早い、こんな処で立ち話もなんだ。一つ夕食でもご一緒しないかい?」
デビッド・バニングスは俺に向かって力強い笑みを見せる。
俺はうなずいてリニスと共に乗り込んだ。
デビッドはアメリカの走狗というわけでもないだろうが、アメリカとのかかわりは強い。
当然この後の事にはアメリカの政府関係者も関わってくるだろう。
いざという時の気構えは怠っていないつもりだが、彼らが俺に対してどういう興味を持っているのかも気になった。
しかし、招待されたのは一目で分かる高級店などではなく、その辺にあるファミレスだった。
どういう意図があるのか分からないが頼むように言われて適当にメニューを選ぶ。
うやうやしく挨拶されているところから見て知っているのかと感じた。
「これはあんたの系列会社か?」
「いいや、むしろ月村系じゃないかねー、アリサどうだっけ?」
「ええ、月村系の子会社の一つ足立百貨店の出資会社、アニバーサルだったかしら」
「やっぱりアリサは凄いなーさすがマイドーター!」
「暑苦しいからやめてよ父さん」
「ノンノン、パ・パだろ?」
「はいはい、パパ」
典型的な親馬鹿だな……いくらやり手とはいえ、娘の前ではご機嫌取りに必死といったところか。
仕方ないといえば仕方ないが、俺と話したいんじゃないのか……。
「親子漫才を聞きに来たわけじゃないんだが……」
「ああ、すまない。マイドーターがあまりにも可愛いので」
「あーのーねー!!!」
「はっはっは、怒った顔も可愛いよア・リ・サ♪」
「背筋が寒むくなるからやめて!!!」
「アリサはそんなところが母さんそっくりだねぇ、
美人とか頭がいいとか可愛いとか、悪いことじゃないんだから恥ずかしがること無いのに」
「いーから、話を進めるんでしょ!!」
「ああ、そういえばすっかり忘れていたよ。
一つ聞きたいのだが。
地球外対策局というのは魔法を日本人だけの独占にしておくためにあるわけじゃないはずだね?」
「そのつもりだが」
「しかし、現状は月村重工だけが魔法による恩恵を受けている。
これは独占といっていいのではないかい?」
「否定をするつもりはないが、魔法に関することは実験段階の事が多すぎる。
迂闊に広めれば世界が混乱するだろう」
デビッドの言いたいことはおおよそ分かる、今は確かに月村重工が技術を独占している格好になっている。
とはいえ、月村重工に言わせれば、魔法なんてまだ何も分からない、ただパワードスーツの技術だけが流入している格好だが。
魔法を防ぐということは、魔法そのものは肯定しているわけだから、このまま魔法技術が流入してくると考えてもおかしくない。
つまり、現在月村重工は魔法技術が入ってくるという期待だけ持たされている格好なのだ。
そしてその時点で嗅ぎつけてくる可能性があるのは政府と密接につながったもののみ。
デビッドもアメリカ政府や日本政府に太いパイプを持っているのだろう。
「だとすれば対外的な目のためにも日本人以外の局員も必要になるのではないかね?」
「それをあんたがやるというのか?」
「そうだね、それが出来れば一番いいのだが……私には時間がない、会社の運営っていうのは本当に秒刻みなんだよ」
「ならばどうするというんだ?」
「なあに、簡単さ。名目だけでもいい。娘の名前を入れておいてくれたまえ」
「娘……アリサをか?」
「うん、私このままって言うのは我慢できないから!
なのはは管理局へ嘱託として行くんでしょ?
すずかはパワードスーツを作ったりパイロットしたり。
私だけ何もしないでいるなんて出来ない!」
「そうはいってもな……」
俺としては出来ればアリサやすずかに限らず若すぎる人間を組織内に置きたくない。
既にラピスもすずかも実質的に組織内に編入されたようなものだという事実は痛い。
だからせめてあまり仕事を回さないようにしているのだ。
ここにアリサが入ってくれば管理局と同じような組織形態になってしまう。
それは出来るだけ遠慮したいところだ。
「俺は地球外対策局を若年層で固めたくはない。
危険な仕事が多い組織なのだから戦闘のエキスパートと交渉のエキスパートだけで固めたいところだ」
「ふむ、年齢を気にしているのかい? しかし君たちの組織にはアリサの友達は二人いるのだろう?」
「そうだな、しかし、すずかはあくまで個人としてパワードスーツ制作に協力してくれているだけだし、
ラピスの作っているAIは彼女自身のためのものでもある。
しかし、交渉役につけば無防備な状態で戦闘に巻き込まれる可能性もあるぞ?」
「ちょっといいですか?」
「「「!?」」」
今まで無言で俺の横に座っていたリニスが口を開く。
それは悪戯を思いついた時のようににっこりとした笑いを浮かべている。
「解決策かどうかは分かりませんが、マスターはアリサさんに危険なことをしてほしくない。
アリサさんはすずかさんやなのはさんに置いていかれないように自分も魔法に関わっていたいということですよね?」
「置いていかれたなんて人聞き悪いけど、魔法の事はもっと知りたい」
「ならこういうのはどうでしょう?」
そう言ってリニスは声をひそめ、周りに聞こえないようにごにょごにょ言い出した。
その内容は言ってみればこじつけみたいなものだと思っても過言ではないことだ。
だが、確かに使える戦法かもしれない。
それにそれなら、時間もとれなくはないだろうしな。
「どうする? アリサ。方法としては悪くないかもだけども、面倒事になっちゃうけど」
「うん、大丈夫、それくらいこなして見せる。あたしだってバニングス家の一人だもん」
「流石マイドーター!!!」
「暑苦しいからやめて!!」
「マスターもこれならいいですよね?」
「まあ、確かに、どの道国連は動くからな」
「了解してくれたようだね! なら今日はこの辺にしておくか。そろそろ次の仕事も押し迫っててね」
「ああ」
「それではマイドーター! 夕食は一緒に食べられるように帰るよ!」
今にもはーっはっはっはっはとでも笑いだしそうな勢いで走って行ったかと思うと、
へりが降下してきて縄梯子を下ろしたかと思うとそれに掴まったデビッドをきちんと確認もせずに飛び上っていく。
途中から振り落とされてかろうじて足で引っ掛かった空中ブランコのような恰好で上がって行ったが大丈夫だろうか?
「さあ、私たちは車でいきましょ」
「それより父親は心配じゃないのか?」
「あーあの人はいつもああだから……」
「そうか……」
アリサもあまり普通の人生は歩んでいないようだなと暗い気持ちになる。
どうしてこう、俺の周りには常識の範囲外な人物ばかりが集まるのか……。
少し不幸について考えつつすずか達の待つ家へと帰えることにした。
翌日、地球外対策局で出国と入国の申請を申告してからイギリスへ飛ぶ。
はやてと守護騎士、リインフォースらもつれてかなりの団体行動になったが、
リインフォースが張ったフィールド内に全員が入るという格好で一気に目的地へと飛んだ。
管理局からは既に確認を取っていることだったので、迷う事もない。
しかし、予想通り大きな敷地を持つ屋敷だった。
「いらっしゃい。まさかこんな大人数で来るとは思っていなかったよ」
「こんにちは、グレアム叔父様。アキトさんがお仕事でお会いしたいと言っていたので便乗させていただきました」
「我らはあ……はやてさんの家でお世話になっているものです」
「はい、はやてちゃんには良くしていただいてます♪」
「じいさんもはやてのこと大事にしろよな!」
「はっはっは、元気だねぇ。それで、そちらは?」
愛想笑いのようなことをしてくるグレアムに、俺は少し目を細める。
まあ、はやての前では普通のおじさんでいたいのかもしれないが……。
もちろん俺の側から暴露するつもりもない。
「俺はテンカワ・アキト。政府の要請でやってきた」
「政府……日本政府かね? 私はイギリス人だが」
「どうだろうな……まあ、その辺りは後で話すことにしよう」
俺の背後に控えるリニスとリインフォースの目が鋭くなったのを感じたのだろう。
グレアムは好々爺の表情に戻るとはやてに向き直る。
「では何もないところだが、とりあえず食事にしないかね?
年を取るとこれだけが楽しみでな」
「はい、グレアム叔父様」
「父様、出迎えは私たちがすると……」
「なに、久々の来客だ。自分で出たいと考えて当然だろう?」
「ですが……」
出てきたのはリーゼアリアとリーゼロッテとかいう二人の娘。
猫耳と猫尻尾は隠しているようだが、既に守護騎士達は気づいている。
あくまではやての手前表に出さないようにしているだけだ。
互いにピリピリしているのは承知でいるのだが、はやてに気づかれないようにするためあまりこわばった顔もできない。
中途半端な空気の中、招かれて部屋に入ったころには、ヴィータがイライラを顔に出していた。
「ヴィータどないしたん?」
「なんでもねーよ。それよりはやて、渡すものがあるんだろ?」
「うん、そうやったなー。あの……」
「なんだね?」
「こっちも北半球ですし、まだまだ寒いと思います、よかったら……」
そう言ってはやてが取りだしたのはマフラー。それもどうやら手編みのようだった。
車椅子に乗ったまま出来ること、お土産というよりはお世話になった事への礼だろう。
実際グレアムは未だにはやての口座への定期的な振込みを欠かしていない。
はやての父から財産の運用を任されている等というのは嘘だし、
はやての家もグレアムが手をまわしてはやての両親の名義で税金を払い続けている。
元々はそういう人間だからなのか、それとも罪滅ぼしのつもりか。
どちらにしろ、それは俺にとっても歓迎すべき事だ。
俺がそんな事を考えている間に、グレアムははやての作ったマフラーを首に巻き嬉しそうにしている。
「ふむ、とても温かい。はやては家事が得意なのかね?」
「えっと、得意ってほどでもないんですけど。小さい頃からいろいろしてるから」
「そう……だったな、家政婦は2年前に辞めたきりだったか……すまない事をした……」
「ううん、かましません。今はたくさんの人に囲まれて幸せですさかい」
「そうか……それはきっと君の人徳だよ」
「そうやとええなあ思うてます」
「ともかく、ありがとう。大切にさせてもらうよ」
「はい♪」
その後、グレアムははやてとひとしきり話した後、俺に向き直り仕事の話は書斎でしようと話しかけてきた。
俺は了解すると、リインフォースだけを伴い書斎へと案内された。
向こうはリーゼロッテが付き添っている。
リーゼアリアははやて達のおもてなしに残したようだ。
「さて、私のところを訪ねてきた理由は罪を問うためかね?」
「そんな簡単な理由ならいいんだがな……」
「父様を裁くというならただで済ますつもりはないよ」
「今のお前たちにそれはできない。戦力差を考えてみることだな」
「クッ……」
リーゼロッテは悔しそうに顔をしかめる。
確かに、リーゼロッテ、リーゼアリア、グレアム自身を含め3人共にSランクの魔力を持つ。
いや、正式にSランク魔導師として認定されているらしい。
それがグレアム一人の意思で自在に動くのだ、彼らが管理局で幅を利かせていた理由も分かる。
しかし、今日やってきたメンバーを見れば鼻白むしかないだろう、俺はCクラスだから除外するとしても。
リインフォースは魔力だけならSSランクを越える。
リニスもSランクオーバー、それにはやてと守護騎士達も来ている。
はやて自身はまだ知らないが守護騎士達は事が起これば確実に俺の側につくだろう。
そうなれば数で3対7、魔力でも圧倒的な差だ。
「人質を取った場合どうするつもりかね?」
俺はその言葉が終わるのを待たず、挟んだテーブルの向うまでボソンジャンプすると、
タイムラグなしにグレアムの首を手で釣り上げた。
「俺はその手の冗談は好きじゃない、やるなら死に物狂いでやってみせろ」
「父様!?」
リーゼロッテが動き始めるころには、グレアムの首を締めあげる俺とリーゼロッテの間にリインフォースが割り込んでいた。
キッと射殺すような目でリインフォースを睨みつけ、リーゼロッテが拳を振り上げた時。
「わかった! わびを入れる」
俺はグレアムのその言葉を聞いて首を離し元の位置に座りなおす。
リーゼロッテは気勢を削がれて視線だけをリインフォースに向けている。
リインフォースは無感動に俺の背後に戻った。
「君を試していた。すまない」
「別にかまわないさ、ただし、今度は死ぬ気で来い」
「……老人をからかうものではないよ」
「次に俺を試すような真似をすれば……」
「怖いね……狂気を知る目だ。むしろそんな君が慕われているのが不思議でならないよ」
「慕われてなどいないさ。ただ、あいつらには俺の本性を見せたことがないだけだ」
「ふむ……まあいい、用件を聞こうか」
「しかし、父様……こいつは闇の書……」
「やめたまえ、事件は解決している。恨みがましい事を言うのは筋違いだろう」
グレアムはリーゼロッテを制止する。
とはいえ、この男善人面であれだけの事をしていたのだ、ただのお人好しという事はあり得ない。
問題は使えるかどうかという点だ。
地位は高かったようだから全くの無能というわけではないだろうが……。
「さて、まずは最初に言っておく必要があるのは。ギル・グレアム、お前の罪状だ」
「罪状ね、私が何をしたというのかね?」
「管理局と共謀しての日本国侵犯、そしてアルカンシェルを持ち込んでの大量殺戮を計画した罪」
「あれは! あくまでデュランダルが効かなかった時の保険として……」
「なるほど、しかし、計画に関しては証拠があるわけではないだろう? 罪には問えないはずだ」
「そうでなくても、そこの二人による書の暴走のお陰で日本が融合されてしまっていた可能性は高い」
「それは! 元々私たちが」
「何とかするつもりと、結果は違う。
そもそも今から見れば成功率100%などと言えるようなものじゃなく、いちかばちかの作戦としか思えない」
「そうだね、否定はしない」
「父様!?」
グレアムはその事を認めた。
つまり、失敗した際日本が潰れてなくなることまでは想定に入っていたという事になる。
最も俺とて復讐をしていた頃は被害を顧みないで行った作戦もある。
人の事を言えた義理ではないが……。
それにしても、効率が悪すぎる。
「それを踏まえた上で質問したい」
「ほう」
「お前ははやてに同情するあまり、作戦の根本を間違ったのではないか?」
「どういう意味だね?」
「お前がはやての保護者になったのは何年前か知らないが、
はやてを見つけて蒐集をお前たちがすべて行えば半年かからず蒐集できるだろう?
更に、蒐集したものを書に与える時は地球などのような人のいる場所ではなく、
宇宙の片隅でも別の次元でももっと被害も出ず、見つかりにくい場所に連れていけばよかったんだ。
はやて以外誰もいない世界だ、失敗しても成功しても死ぬのははやてだけだ。
そうすれば、お前たちの目的は何年も前に達成していたはずだろう?」
「なんとも……そう、君の言う事は正しい。私はそこまで徹底できなかった、甘かったのだろうね」
「ですが、デュランダルの完成や、父様の仕事の事情だって……」
「そんなもの、優先順位を考えれば後回しでもよかったのだよ。
しかし、それを言い訳に守護騎士が目覚めるまで待ってしまった……それが最大の失態なのだろうね」
「そうだ」
「だがそういう君も、まともな人間ではないね?」
俺はその言葉にニヤリと口元をゆがめる。
意図を察したのだろう、リーゼロッテは鼻白んだが、グレアムはむしろ面白そうにしている。
「まともな人間が管理局を相手に交渉しようなんて思わないさ」
「なるほど、そう言う考え方もできるね。それはつまり私にもできるということかな?」
「その適性があるのか見に来たんだ」
「それで、どう思ったね?」
「口先は並だが度胸とコネは悪くない、頭の回転はこれから見るしかないな」
「それでは管理局を引退した私を雇ってくれるわけか」
「ああ、人材不足なんでね……過去を問うている暇もない」
「まさか!? 父様に管理局の敵になれというの!?」
「そうだな、ちょうどいいんじゃないのか? 日本沈没をさせようとしていた男に対する罰としては」
「父様は!!!」
「リーゼロッテ、彼の言っていることは間違っていない……アルカンシェルを使おうとしたのは事実だ」
「さて、どうする?」
俺は多分かなり人の悪い笑みを浮かべていただろう。
これはつまり、はやてへの償いをしろという意味での言葉なのだから。
これが通ればグレアムは日本に住むことになるだろう、そうすればはやてと正面から向かい合わなければいけなくなる。
言うべきことも、謝るべきこともあるだろう。
それで多少でもはやてのためになればと思う、更にグレアムが役に立てば一番だが。
「わかった、引きうけよう」
その言葉を引き出したことに満足した俺は、話し合いを終え、またはやて達とグレアム達がいろいろと積もる話をしていた。
俺は少し庭を歩くと言ってリインフォースを伴い外に出る。
リインフォースは無言で、そして無表情だ、しかし、思うところはあるのだろう空気は重い。
「お前のいる前で書を滅ぼす話をした事、すまなかったな」
「いえ、それは彼らの前で私を完全に従えていることを示す必要があったでしょうから」
「どちらにしろこれからもあいつらと会う機会は多い、辛いならリニスを伴うようにするが」
「その必要はありません、主アキト。私は貴方のデバイスなのですから」
「そうか、そうだな……しかし、はやてのことは……」
「私は償いを行うために再び生を受けたのです。
主とはこれからも友好を結んで行きますが、私のマイスターは貴方なのです。
遠慮の必要はありません、必要とあらばいつでもユニゾンを」
無表情だが熱をもった言葉に俺は頷く……。
しかし、ふと引っかかるものがあった。
「ユニゾン? そういえばリインフォースお前はユニゾンデバイスだったな……」
「それが何か?」
「俺でも出来るものなのか?」
「はい、ただし前回のバリアジャケットのデータがリセットされておりませんので」
「何?」
「なんや、物分かり悪いな〜。つまり、私が着たのと同じミニスカいうことや♪」
「あらあら、それはぜひ写真にとらないといけませんね」
「なっ!?」
「諦めろ、そう言う時の主はやては強いぞ」
俺が考えごとに集中していたせいだろう。
影からうかがっていたはやてと守護騎士達を見過ごすはめになった。
もしかしたらリニスが妨害していたのかもしれないが……。
どちらにしろ、ネタにされるのは勘弁してほしい、もういい歳なんだし……。
「一度はユニゾンしないとデータをリセットできませんので。
よろしくお願いします。主アキト」
「うんうん、せっかくやし、みんな呼んでみてもらわんとな♪」
「アキトさん線細いほうですしね、案外似合うんじゃないかしら?」
「いや、骨格が違うんだから似合うはずがないだろう?」
「まあ、そう言うなって。笑ってやるからさ!」
「あまりいじめるのもどうかと思うのだが……」
兎に角俺はしばらくユニゾンとやらはしない方向で行こうと心に誓った。
ミニスカになるとしても、せめて誰もいない所にしないとな……。
一瞬でリセット出来ればいいんだが……。