「どうぞこちらへ、まだ引っ越しの都合で立てこんでいますので大したおもてなしはできませんが」
「ありがとう、確かリニスさんだったかしら、気が良くつきますね」
「いえ、マスターの使い魔としては当然のことです」
「マイスターのランクをはるかに超える使い魔とデバイス、何がそうさせるのか興味がつきませんわね」
「その秘密が知りたければ私たちと同じになればいいと思いますよ?」
「……それは謎かけ?」
「さあ? ですけど、私たちはこの状態で満足しています。なってみないと理解はできないでしょうが」
「なるほど、気に留めておくわ。さあ、クロノも座りましょ」
「では、失礼して」
俺は事情がよく分からないが、リニスは客間に彼女らを案内しつつ俺を最後にする。
普通は逆なのだろうが、格の問題を気にしているのかもしれない。
因みに、待合室で待っていてもらったらしいのでかなり飲んだのか、カリムもクロノも茶に口をつけない。
「さて、今回来た理由は沢山あるのですが……最初に言っておきたい事があります」
「ああ」
「私とクロノですが、いくつくらいだと思います?」
「……年齢か? クロノが10か11、カリムが13くらいか?」
「外れです。私が17歳、クロノは15歳になります」
「ッ!?」
俺は目を見開く、年齢を見間違えるという事は大人になれば確かによくある。
俺自身童顔のせいで2〜3歳は若く見られる。
しかし、彼らはいわゆる第二次性徴期という体が成長する時期だ。
差はあるにしても15歳の男がなのは達と並んでほとんど差が無い身長体格というのは病気でもない限り考えにくい。
カリムにしても、やはり17歳にはそぐわない成長っぷりだった。
「実は希に起こることなんです。内在魔力が大きい人間は成長がゆっくりになる事があると言われています。
はやてという子にも少しその兆候が表れていますね」
「なるほど、そういう事実は初耳だ」
「もっとも、必ず起こるという事でもなくて、内在魔力と肉体の相性次第というところでしょうか」
「言いたい事は分かったが……」
「はい、重要な何かがあって言った訳ではなくて、今後この世界で生きていくなら知っておいた方がいい知識だと思ったので」
「そうか……」
なんとなくわかった、この前子供だと俺が思ったことを察していたのだろう。
案外負けず嫌いというか……。
見た目はおっとりしたものなんだがな。
クロノも察してはいたのだろうが落ち込んでいた。
まあ、クロノを初見で15歳だとわかったらそれはそれで異常だと思うが。
「さて、次は本題ですけど。私たちのやるべきことは3つ。
先ずは管理局上層部からのお話を念話を拡張した通信魔法でお伝えします」
そう言うと、カリムはノートパソコン型のデバイスを開く。
画面の上に立体映像が浮かぶのは2200年代の世界の技術に匹敵する。
まあ、魔法はレベルの高い低いが激しいのも事実だが。
そして、その映像は以前話した老人、レオーネ・フィリスを映し出す。
『テンカワ・アキト国連大使、着任おめでとう』
「どうも、おかげ様でどうにかやっている」
『それは何よりです。実は着任前におおよそは決めたのですが、漏れがあった事を思い出したので通達をさせていただきます』
「ほう」
『こちらからの技術持ち出しについては貴方の裁量範囲とする旨は既に話した通りですが、
そちらの世界からの質量兵器、及びその資料の持ち込みに関してはそのいっさいを禁じます』
「……それはどういう意味だ?」
『質量兵器を持つこともですが、その知識が広まるだけでも管理世界全体の秩序が揺るぎます。
もしも、何がしか持ち込んでいたならば門を通じて送り返してください』
「なるほど、注意しよう」
恐らくレオーネはレジアスの動きを知って牽制に来ているのだろう。
なんとも素早い手回しだ。
これは下手に地雷を踏めば俺が犯罪者として追われることになるか、戦争の引き金を引いてしまう。
とんだタヌキジジイというわけだ。
まったく、食えない奴ばかりだ……。
「さて、ご用件はこの辺でよろしいかしら?」
『はっ? ちょっと……』
「私たちの用件も結構急ぎですの、今日中に言っておかないといけないことでないのなら」
『仕方ないですね、若い人には敵わない……今日はこの辺で退散するとするとしますか』
「ふう、牽制するだけなら明日でもよろしいのに……」
「とても名誉職だけの人間とは思えないな」
「それはそうですわ、名目こそ名誉職ですけど、伝説の三提督の権威だけでも艦隊が動きます」
「ほう……」
「僕が言うのは問題かもしれないが、彼らは最高評議会を除けば最高の権威と権力を持っている」
「最高評議会か……一度見てみたいものだな」
「それは多分無理だと思う。最高評議会は基本的に敵対勢力のもっとも重要なターゲットになる。
だから、その存在さえ疑問視されるほどに完璧に素性も議場もカモフラージュされている」
「……組織の長が全く人前に出ない?」
「噂では古代ベルカ崩壊時から生きているとも言われている、強力な魔法使い集団という話だ。
口さがない者たちはある種の魔法生物であるという説、人工知能という説すらある、
しかし、その能力は確かなのも事実だ、
今まで巨大な管理局という組織を運営して分裂もさせていないという事実がそれを証明している」
「神にも等しきというわけか」
「否定はしない、最高評議会が倒れれば数十年以内に管理局が分裂する可能性は高いな」
気の長い話のように思えるが、組織規模が規模だけに小さな反乱のようなわけにはいかないということだろう。
もともと”おか”と”うみ”の対立だけでもかなりひびが入っている様子をみせる管理局だ。
取りまとめをしている最高評議会が倒れれば二つはいずれ分裂するだろう。
それに、聖王教会については知らないことが多い、どう動くか予想もつかない。
更には管理局に抵抗している組織や国が無いとも考えづらい。
そうなってくるとよけいにややこしくなりそうだ。
「どちらにしろ大使、貴方の動向で管理世界全体に火の手が回る可能性があるという事は自覚しておいてほしい」
「わかった、出来るだけ気をつけよう」
「さて、それでは私たちの来た本来の目的を進めましょう」
「目的?」
「先ずは門の固定をしなくてはなりません、毎回巡航艦に出張ってもらうのでは費用効果に合わないでしょうし」
「そうだったな、はやての家につなぐという話だが」
「向こうの方はリンディ提督が行っている。彼女らへの事情の通達も含め、な」
実際、門を開いて固定するのは簡単だった。
向こう側では既に準備が整っていたらしく、はやて達がすぐにこちらにやってきた。
また玄関の横に門を設えたため、彼女の家の感覚では家から出たら家だったという感覚のようだ。
まだ国交は開かれたばかりで、国民に対して説明もしていないことだから秘密裏になるのは仕方ないのだが。
兎に角4年こうして遠くて近い大使館を使うことになるわけだ。
そして、実ははやての家が門の向こう側に選ばれたのには管理局側の理由もあった。
先ず、あまりに大きな彼女の魔力を放置しておけないこと。
そして、守護騎士が暴走しないか見守ること。
どちらも、表向きな内容だが、管理局の戦力として欲しいというのが本音だろう。
そのため、リンディからは遠まわしに、クロノからは直接的に、管理世界に行く気はないかという事を問われているようだった。
しかし、はやては……。
「確かに私は強い魔法の力を持っているみたいやけど、
魔法をどういう風に使うかはもう少し考えさせてください。
みんなが幸せになる方法って、本当に危機から人を救うことだけなんやろうか?
最近そういう疑問が浮かんでくるんです」
「そうね……貴方の生き方ですもの、誰も強制はできないわ」
リンディはその言葉を聞いて、少しだけ複雑そうな顔をするものの微笑んで考えを認める。
恐らくは一瞬葛藤はあったのだろう、おしい、というような。
しかし、彼女も一時の母だ、強制する気にはなれなかったということだろう。
とはいえ、クロノはまだ諦めておらず最後にはシグナムがお引き取り願おうと言いだすという場面などもあったが。
そうこうあって彼女らが引き揚げる時、カリムが一瞬振り返りはやてにむかってこういった。
「もし、人を救いたいと思うのでしたら聖王教会の門を叩いてみる事をお勧めしますわ。
私たちはベルカの騎士でもありますし、近しい気がしますから」
「あっ、はい。わかりました」
はやてが返事するのを聞くと嬉しそうに去っていくカリム。
彼女の目的は管理局とは別のスカウトだったということだろう。
「それにしてもこの邸宅大きいなぁ」
「そうだな、だが大使館というのはいざという時に避難所にもなる。
100人くらいは住めるようにしておくのが正しいあり方とされる」
「それって被災者とかの事?」
「後は例えばこの世界に来た地球人が騙されてパスポートや現金等を無くしたときとかな」
「確かに、言葉は通じる言うても外国には違いないしね」
「まあその辺りも魔法の恩恵ということになるな。
基本的に日本に来ている魔導師は魔法で日本語を覚えこんでいるようだが、この世界の言語は所謂共通語だからな」
「共通語?」
「耳に入る時に翻訳される、それに話した事が相手の耳で翻訳される」
「へぇ便利なんやなぁ」
それに、この世界では早期学習というものがあり、小学校5年、中学2年、高校2年となる。
こちらで中学卒業の15歳は既に一般人でも就職可能な年齢ということになるわけだ。
このあたり魔法使いが数学能力を自動的に高めるという点が大きいらしい。
この世界の人間は勉強で頭を悩ます必要はあまりない、ある程度までは魔法力があれば焼き付けで覚える事もできる。
だから魔法使いなら学校でやる事は魔法で覚えさせた知識の引き出し方を教えるだけなのだそうだ。
就職が低年齢化する原因はこういうところにあるのだろう。
それが便利と考えるか、過程を飛ばすことが教育の穴になる可能性を危惧するかは視点の問題が大きい。
何故なら普通の教育ですら洗脳は可能なのだ、刷り込み教育なら更に容易だろう。
便利な側面しか考えないのはその社会にいることでそういう事が普通であると認識しているせいとなる。
これが管理世界の共通認識である場合恐ろしいことすら考えられる。
その魔法を施すシステムに介入できれば一瞬でそいつらを兵士として使うことすら……。
「……」
俺は首を振って考えを振りはらう。
まだ情報が出そろったわけじゃない、こういう事も起こりうるなら対策も用意しているかもしれない。
そもそも俺はまだ知らないことの方が多いはずなのに、どうにも考えが過激になりがちだ。
「そんでね、引っ越しパーティって、聞いてる?」
「ああ」
「もー、シグナム、シャマル、アキトさん連行して」
「了解」
「あらあら、すみませんねー。今日ははやてちゃん頑張って料理とか作ったんですよ♪」
「もう、シャマル!」
こうして俺達は大使館の中でパーティを行った。
一応大使館内は地球の領土であり、地球の各国家の領土が均等に存在する事になっている。
200ヵ国もあるのだから、1000坪ほどあるといっても各国5坪づつと言う事になるか。
まあ、あんまりきちんとした線引きはないのだが。
どのみち当面は地球外対策局の管理下であり、俺とその知り合いくらいしか使えない。
そのため、その日は沢山の人たちが集まってきた。
はやて達以外にも、すずかと忍、恋人の恭也になのはとアリサなど、
それから恭也に張り付くようにフィアッセが腕を組んでおり、忍が引きはがそうとしている。
何となく3人の関係が知れる一幕もあった。
宴の席ではだれもが笑顔であり、この先に不安など感じさせないものだったので俺は安心してみていることが出来た。
考えてみればこうして何の不安もなくどんちゃん騒ぎをするというのは何年ぶりなのだろう。
前は俺も一緒になって騒いでいた。
今は……何か隔たりが感じられ、飲んでも酔えない自分を少し寂しく思った。
数日後、視察から帰った俺に話しかけてくる影があった。
「シグナムか、どうした?」
「ふっ、お見通しか。何大した話じゃない、少しつきあってくれないか」
「わかった」
俺は言われるまま裏庭にやってくる。
この裏庭は外壁の近くまで木が生えておりぱっと見では誰がいるかわからない。
しかし、俺にはそういう資格情報的な騙しは意味がない、その事はシグナムも知っているのだろう。
林になっているそこに案内されたとき既に先客がいることを視線で伝えていた。
そこにはヴィータとシャマルがいた。
「終わったか?」
「ああ、とりあえず裏庭の分は粗方撤去したぜ」
「屋敷内にある分は流石に今すぐには難しいでしょうが」
「どういう意味だ?」
「長距離念話通信用のプラグだ」
「長距離……まさか、盗聴か?」
「恐らくは」
「警戒されているだろうとは思っていたがな……そう来るか」
俺は歯ぎしりするほどにあごに力が入っているのを感じた。
確かに、俺達の動向を探るならそちらの方が効率がいいだろう。
それに何より、レオーネの行動の早さがそれを証明している。
「仕掛けたのが誰の命令か、また管理局に責任を負わせることができるのか考えていたのだろう?」
「まあな」
「できそうか?」
「いいや、まず無理だろうな……言い訳などいくらでも出来る。
彼らが引き渡した時はまだなかった、と突っぱねられた場合証拠がない以上それまでだろう」
「だろうな……」
「あたしもそんなこったろうとおもってたけどよ」
「ですが、私たちはそれでも貴方に託すしかないと考えました」
「どういう意味だ?」
「私達はいつもはやての近くにいる訳にはいかなくなった」
「!?」
「これを見てみな」
ヴィータに差し出された書類を見た俺は絶句する。
守護騎士とはやてに対し罪状追及と、それに対する100年間の労役刑が言い渡されている。
それは、俺が外交交渉で勝ち取ったはずのはやての自由と矛盾するものだった。
「あいつら……」
「待て、激昂するには早い。差出人の欄を見てみろ」
「最高評議会だと……」
「そういうこった、しかも出頭しない場合あたしらが潜伏している地球への攻撃も辞さないって書いてある」
「つまりは、レオーネ程度を説き伏せたくらいでは管理局は変わらないという事か」
「言葉は悪いですがそういうことです。でも、それほど問題になるわけでもないんですよ」
「だな、任務はあるだろうけど帰ってくることまで禁止されてるわけじゃない」
「だが、いつも一緒にいられるわけじゃない。だからテンカワ・アキト、主はやてを頼む」
「それは……」
「今はまだザフィーラがついていますが、出頭の際はやてちゃんを連れて行かない以上……」
「だが彼女は聡い子だ、そんな事をすれば」
「だからお前に頼みたいんだ。出向扱いという名目を管理局側に認めさせてほしい」
「つまり、地球外対策局に入るということか?」
「ああ、元々無職も心苦しかったところではあるしな」
「……わかった、俺に出来るだけの事をしてみよう」
名目上だけでも地球外対策局からの出向扱いにしておけば後々呼び戻す方法もある。
シグナム達は俺にそれだけのものを見てくれているという事。
もちろん、俺としても信用には応えたい。
しかし、最高評議会……正面から来ないとは……。
ならばこちらも遠慮する必要はないということか……。
それから半日俺は手続きをするために走り回った。
翌日の朝にはどうにか彼女らが地球外対策局の局員であるという事を示すだけの資料と大使護衛の役職を作り終えた。
そして、シグナム達の出頭に間に合うように大使館を出る。
管理局の建物とは違う雑居ビル、そこから転送用の門が開き、恐らくは宇宙へと出た。
無機的に管理されたその宇宙船の内部構造と思しき通路はこんな所にある最高評議会を疑わせるに十分ではあったが。
そこで俺達は、最高評議会の執行員という役職の人物と会う。
その人物は男なんだろうが、仮面で素顔を隠している。
白い仮面の下からのぞく素顔はほとんど表情を出しておらず、
無機質な仮面と合わせて人形でも相手しているのではと錯覚させるようだった。
俺達は部屋に案内され、座った所に第一声が来る。
「おや、八神はやては来ていないのですか?」
まるで初めて気づいたかのような言い回しだが、そんな事は部屋に案内する時に気づいていたはずだ。
しかし、仮面の下の表情は読み取れず、俺はいら立ちを覚えた。
「そんな事よりも聞きたい事がある」
「ん? 貴方を呼んだ覚えはないんですがね、テンカワ・アキト大使」
「俺も呼ばれた覚えはないな、しかし、彼女らの受け取った手紙の文面は捨て置けないものだった」
「ほう、どのようにです?」
「レオーネ・フィリスと交わした条項の中で八神はやてと守護騎士に対して罪は問わないと決まったはずだが?」
「レオーネ・フィリスですか、まさかあんな名誉職の方に実権があるとでも?」
「それはつまり……」
「彼女の出した地球との外交の取り決めなどはこちらで破棄しました。
あくまで最高機関は我々なのですよ」
「今までの条項は全て勝手に変更できるというわけか?」
「ええ、そもそも貴方達地球の戦力と我々の戦力の比較をしたことがありますか?」
「……」
「ざっと見積もっても2800倍ほど違います。
そしてレオーネと違って、我々はメディアに統制をかける事が出来る」
「つまり、国民に知られなければ何をしてもいいというわけか」
「はい、だって裏の仕事は汚いものと相場が決まっているじゃないですか」
男が仮面の下で薄く笑ったのが見えた。
なるほど、これは普通の交渉事ではすまない。
この男は戦力が増えるかどうかしか気にしていない。
恐らくは個人の事情など歯牙にもかけないだろう。
しかし、このまま引き下がるわけにもいかない。
せめて……。
「何故そこまで高位魔導師にこだわる?」
「当然でしょう、高位魔導師というのは兵器と同じなんですよ。
誰かが管理しないといけない、それに管理局以外の組織が持てば敵対する可能性もありますしね」
「……」
「それに高位魔導師は人手不足でしてね、AAAランク以上の魔導師は極端に少ないんです。
管理局全体の人員が10億人ほどですがAAAランクオーバーの魔導師は1000人に届かない。
ましてやオーバーSランクとなれば両手の指に余るくらいしかいませんよ」
「なるほど……」
やはり奴らにとってキーとなるポイントは魔導師ランクか。
ならば手はある。
「これは騎士カリム・グラシアに頼んで測ってもらった魔導師ランク認定表だが」
「これは、八神はやてですか……ん?」
「どうかしたか?」
「こんな……Fランクとはどういうことですか!?」
「何、それほど難しい話でもない。彼女は闇の書事件の被害者だ。
彼女の持っていた魔力は全て当の書が持って行ってしまったということだな」
「そんな、そんなはずがないでしょう! 闇の書にそんな能力があるとは聞いていません!」
「そうかな? マスターから魔力を吸収する話は報告に上がっていたんじゃないか?
それに……」
俺は指を鳴らしながら、わざと遅れてついてこさせていたリインフォースをボソンジャンプさせた。
この中は魔法に対してはいろいろな結界が張られているが流石にボソンジャンプはノーマークだったようだ。
そして現れたリインフォースは魔力を解放する。
「リインフォース、お前の魔力はどれくらいだ?」
「おおよそ1000万前後でしょうか? SSに相当すると思われます」
「まあ、そういうことだ。ほとんどすべては彼女の中にある」
もちろん嘘っぱちである、彼女の魔力は演算ユニットを媒介して過去から魔力満タンの”状態”として供給されているので、
何度でも満タンに戻る事が出来る、出力に限界はあるが残量の限界は気にしないでいい。
それゆえに、元々Sランクオーバーであるリインフォースはこういう芸当が出来るということになる。
「そんな事が……しかし、実際に見た以上受け止めねばなりませんね。
だが、現闇の書を持つテンカワ・アキト大使に対して書の返還要請を」
「それも駄目だな、カリム・グラシアから俺が正式な担い手である旨の申請が行っていると思うが?」
「……なるほど、そういうことですか……上手い事を考えましたね。ですが彼女らは当然管理局にもらっていきますよ」
「構わんが既に彼女らは地球外対策局の人員でな」
「書類を出せば何でも通ると思っているのではないでしょうね?
相応の権威がない地球外対策局などの書類はいつでも無効にできるのです」
「それはどうかな」
「……このサインは……」
「そういうことだ、これを覆すなら管理局にもかなりの波乱が起こるだろうな」
「……どこまでも、テンカワ・アキト大使……覚えておきますよ」
「ふん、素顔もさらせない人間に覚えてもらおうなどとは思っていない」
「では、出向扱いでも構いません。戦力になるなら仕方ないでしょう」
「出来ればよい関係でいてほしいものだな」
「そうあってほしいものです。管理外世界の住人といえども消滅するのは寝覚めが悪いですしね」
「……」
「……」
書類に書かれているのは三提督の連名サイン。
これは、三提督から余計な手出しは無用という意思表示として書いたものだ。
これには、グレアム等からいろいろと手回ししてもらいどうにか取り付けたものである。
三提督も最高評議会には多少なりとも思うところがある様子だったため何とかなったともいえる。
もっとも、管理局を不利にする決定だ、それなりに借りが出来てしまったのも事実だが。
目の前の執行員をへこませることが出来ただけでも良しとする。
だが……結局守護騎士達は管理局に取られてしまう形となった。
はやてには無職に飽きた彼女らが仕事がしたいと言ったので管理局の内部調査を頼んだと言ってあるが、
完全に納得させられた自信はない。
次の日からはやては魔導師としての訓練を本格的に始めたいとリニスやリインフォースに頼んできた。
デバイスが出来るまではと話を延ばしていた部分もあった彼女らだが、教える事は決まったらしい。
俺はこの魔法というものが戦闘以外ではどんなことに役に立つのか、その辺りを心配していた。
魔導師=戦力と考える管理局が間違っていない気がしてきていた。
事実として平和利用できる魔法というのは、ほとんどの場合地球にある製品の起動エネルギーを魔法にしただけなのだ。
つまり、戦闘以外では魔法は特別必要ないというように思えてきている自分がいる。
フェイトやはやて、そしてなのは達がみな戦いに身を置くことになるのではないかという恐怖が俺を襲う。
それをしない為の地球外対策局のはずなんだが……。
今回はまだ相手が俺達の事をなめていたお陰でどうにかひっくり返す事も出来た。
しかし、次回はそうはいかないだろう……やはり管理世界は巨大でこちらはアリのような存在なのだろうか……。