「さて。君達の作っているパワードスーツは既に使えるようになったのかね?」
「ああ、一定水準には達したはずだ」
俺は今、地上本部のレジアスと対面している。
この男は、野心家である事を隠そうともしない。
どちらかといえば草壁の匂いのする男だ。
しかし、俺はどこかで親近感も湧いている自分を感じてもいる。
草壁と違い、どうにもならない周辺事情に必死にあらがっているように見える点で多少マシには思える。
もっとも草壁とて最初はそうだったのかもしれない。
俺の知る草壁は権力を利用し己の中にある正義を他人に押し付ける人間でしかなかった。
それどころか、火星の後継者となった時は悪を名乗り断罪の正義に酔う人々を操るマネさえした。
結局のところあの男の正義は心地よい言葉で言いくるめられた独裁でしかなかったわけだが……。
この男も同じになる可能性は否定できないが……。
この男との関係は今後の管理局との繋がりに影響を及ぼすだろう。
元々不利な外交が更に不利になる可能性もある。
”うみ”が主流である以上は。
ただ、”うみ”や最高評議会が暴走した時にクッションとなる組織があるのはありがたい。
逆にこの”おか”という組織が暴走すれば巻き込まれることになる。
「だが、資料を渡すに当たりいくつか確認したい事項がある」
「うむ、なんだね?」
「第一に、この機体は確かにS−までの魔導師や騎士と相対したことがある。
その戦力比的には量産型とはいえ4機チームならAAAクラス相手にも遜色ない働きをするだろう」
「ほう……」
「しかし、バックパック形式で飛行モードも用意はしているが、飛行戦闘の実績はまだない」
「飛行戦闘モードのテスト記録はあるのか?」
「ある、Sクラスの魔導師との模擬選の記録もな」
「ならばおおよそはわかるだろう?」
「ああ、恐らくは遜色ない働きが出来るだろう。唯一の問題点は武器だな」
「質量兵器問題か……ふむ、おおよそはわかった」
「それを踏まえた上で、これを渡した場合のこちらのメリットは?」
「なるほど、確かに互いに危険な橋を渡るわけだからな」
レジアスは執務室の机に肘を突き、顎の下で手を組んで考えるそぶりをしている。
実際向こう側に出来る事はそう多くない、結局地球の庇護という以外に彼らからのメリットを期待できるわけじゃない。
そもそも、地球は魔法を使うために外交チャンネルを開いているのではない、管理局に蹂躙されないためなのだ。
もちろん、副産物としての魔法は欲しているが、安全が大前提だ。
「では、こういうのはどうかね?」
「……これは」
「口約束よりは実効性が高いだろう?」
「なるほどな」
任命書と階級証。
つまり俺に特別階級を与えることで地球側に口出しをする権利を持たせるということのようだ。
もっともそれは、俺が生きている間だけということでもあるが。
しかし、問題となるのはその階級、少将というのはレジアスの一つ下だ。
太っ腹をありがたくは思うが、同時にどうやってこじつけたのかそちらの方が怖い。
一佐あたりまでならレジアスの権威でどうとでもなるだろうが、将官の任命権はないはず。
「入手法を気にしているのかね? 何、きちんと最高評議会を通したものだよ」
「そういうものにも裏口があるということか」
「何のことだか分らんな。それで、どうする?」
「わかった、ありがたく頂いておくよ」
俺は降参のポーズをすると、アタッシュケースから資料を取り出す。
かなり分厚い封筒を取り出し、レジアスの前にドンと置いた。
総計500枚を超える細部資料、これがあればおおよそパワードスーツは作る事が出来る。
あくまで量産型だけだが。
これをどうアレンジしようとレジアスの勝手だ。
「ただし、形状は多少アレンジしてくれよ」
「疑われない程度にはアレンジしておく、元々魔導師用に改造せねばならんしな」
「問題点があれば言ってくれ、ただし、この場から去った後には俺はこの事を忘れることにする」
「だが、テストタイプは欲しいところだな」
「……それを用意すればリスクは跳ね上がるぞ?」
「大丈夫、いいところがある。お披露目会場としてな」
レジアスはニヤリと口元を歪め、俺に対して言葉を紡ぐ。
内容的にはあまり褒められた手法ではなかったが、確かに上手くすればお披露目にもなり、量産型のテストにもなる。
パイロットは俺がすればいいだけだし、丁度一台欲しいところでもあった。
ただ、大使館からの持ち出し方法はかなり頭をひねらないといけないな。
「わかった、そこに持ち込むことにしよう。しかし、容赦ないな」
「フンッ、言われたことだけやっていればいいものを、お遊びが過ぎたということだ」
「まあいい、そっちの事情はそっちの事情、俺がするのはお披露目だけだ」
「よろしく頼むよ」
そうして、俺とレジアスの取引きは成立した。
俺が得たものは管理局少将の階級、その代りパワードスーツ技術を流出させることになった。
エネルギー源を魔力にするようだから厳密に同じとはならないだろうが。
俺の階級章はどうやら”おか”に属するもののようで、役職は陸軍統括参事官となっている。
こじつけ役職のようではあるが、それなりに口出しをする力にはなるのだろう。
役職で人が動くかどうかは微妙だが、縦割り社会の場合それなりに意味を持つ。
俺の上にいるのは、中将、大将の2階級と元帥府に相当する最高評議会だけだろう。
ざっと見て、中将と大将の数は両手に足りない程度だ、しかし、少将はそこそこ多い。
100人はいないだろうが……。
ただ、同じ案件においては先任が優先されるので、地球に関する事項では俺を無碍にはできないはずではある。
その程度の権利ではあるが、大使と兼任ならそこそこ効果はあがるだろう。
部屋を出てリニスと合流し、エレベーターに乗る。
下の階に行くと、相変わらずの活気だった、元々軍隊の陸軍と警察が一緒になったような組織である。
それに、空軍という独立部隊が存在しない以上、それもこの地上本部に帰属するものだろう。
その証拠に、陸尉とか空尉とか言うのはいるが、空佐とか陸佐というのは聞かない。
「あっ、テンカワ大使、今お帰りですか?」
「クイント准陸尉か、久しぶりだな」
「えっ、あれ……その襟章もしかして……」
「いろいろあってな、特別階級をもらうことになった」
「じゃあテンカワ少将のほうがいいですかね?」
「いや、今のところたいして使い道はないのだが」
「使う気まんまんですか?」
「じゃあ権力者らしく命令でもしてみるか?」
「マスター……あまり時間がありませんよ」
「ああ、そうだった……そういうのはまたの機会にするか。今度お宅拝見でもさせてもらうかな」
「あっ、そう言うのだったら大歓迎ですよ。でも今は忙しいから一仕事片付けてからということで」
「そうだな、よろしく頼む」
そう言って白い目で見るリニスに少し視線を投げてから、待っていたリムジンに乗り込む。
実際この後もスケジュールは詰まっている。
公的なこともそうだが、今優先すべきなのは……。
「あっ、義父さん。お仕事終わったんですか?」
「ああ、どうにかな」
「あれっ、義父さん……その襟章は?」
「外交の成果といったところかな」
「ふーん、でもそれって管理局の軍隊のでしょ?
向こうの事情に巻き込まれたりしてない?」
「アリシアはなかなか難しい事を聞くな……。
とはいえ、綺麗事だけで済まないのがこの仕事だ、ある程度は巻き込まれるのは仕方ない」
「ほらほら、アキトをいじめてやっちゃだめじゃないアリシア」
「アルフも義父さんの味方するんだ?」
「でも本当に義父さん大丈夫? 無理してない?」
「ああ、今のところ問題はない」
「ならいいけど……」
「さあ着きましたよ。マスターに質問もいいですけど、今日は別の目的があるんですし」
「あっ、はいそうですね」
俺たちがやってきたのは軍病院とでもいえばいいのか、物々しい様相の大型病院。
ミッドチルダの首都クラナガンから少し離れた場所にあるそれは、いわくつきの患者ばかりを収容する。
特殊な病状にあるものや、機密に触れたものや迂闊に外に出せないような犯罪者の病人。
つまりは、外に出せない患者ばかりの病院と考えればいい。
外交特権を駆使してどうにか面会権を取りつけているものの、なかなか会えないのが本当のところだ。
今回の事で将官の階級を得られたので管轄的にも恐らく会いやすくはなるだろうが……。
入る段階でも病院内での通行でも何度もチェックを受けてようやくたどり着いた施設内の中庭。
そこで、ベンチに座って本を読んでいるプレシアを見つける。
この中庭自体魔法を禁止するような圧力を感じるところからすれば唯の中庭ではないのだろうが、
それなりに空気は良さそうだ、実際人も多い、閉塞感に耐えられない人間のためのものなんだろう。
そんな風に視線を投げながら近づいていくと、はたりと本を閉じたプレシアはこちらの方を見つける。
「あら、いらっしゃい。アリシアにフェイトも、よく来てくれたわね」
「あっ……」
「ほら、フェイトもう大丈夫だから」
「うん……」
今でもフェイトはプレシアを見ると首がすくむ、トラウマになってもおかしくない虐待を受けたのだ、
むしろ会いたくないのが普通だろうが……。
それでも、フェイトは健気に微笑もうとする、アリシアはそう言う時渋い顔になる。
理由はいろいろあるだろう、しかし、一番の理由は、普通は逆だろうと言うことからだろう。
プレシアはアリシアを愛している、それは溺愛といっていいものだ。
アリシアは愛を向けられないフェイトがそれでもプレシアを愛そうとしているのが居心地悪いのだろう。
自分は何もせずにこの愛を享受しているのだから。
「アリシア、顔をよく見せてくれる?」
「えっ、ああ……うん」
「何か困った事はない? テンカワの家の人とはうまくいってる? リニスはやさしくしてくれる?」
「うっ、うん……フェイトも……」
「えっ、ああ、そうね……ごめんなさい。フェイト、貴方も新しい生活はうまく行ってる?」
「はい、みんなすごく優しくしてくれます!」
「そう……よかったわ……それでアリシア、貴方少し痩せたんじゃない?」
「そんな事はないわよ。ごはんもおいしいし、むしろ太っちゃ困ると思って手控えてるくらい」
「そんな事は気にしなくていいのよ、あなたくらいの年齢であまり食を控えると、大人になってから拒食症になったりするわ。
むしろバランスよく食事はとってるの?」
「リニスの栄養管理はばっちりよ」
プレシアも気をつけてはいるつもりなのだろうが、やはりアリシアを前にするとフェイトは置き去りにされる。
アルフが怒りから割って入ろうとするが、それをリニスが止めていた。
「何で止めるのさ!?」
「そんな事をしても余計にフェイトが悲しむだけです。
それに、こう言う時の責任を取るのは男性と昔から決まってるんですよ?」
「え?」
リニスは意地の悪い笑みを俺に向ける、
フェイトを慰めろと言っているのか、プレシアにフェイトの事を気付かせろといっているのか。
どちらにしても俺の苦手分野には違いない……。
取捨選択の結果、プレシアを説得するのは面倒だということでフェイトに歩み寄る。
そして、フェイトの頭を2度ばかりぽんぽんと手のひらでたたいた。
「あ……」
「寂しいのは分かるが許してやれ。フェイトは俺が義父じゃダメか?」
「えっ、あっ……ううん……そんな事ないよ。でも……」
「ああ、プレシアの事を忘れろなんて言わない、しかし、母親だと気負うな。隣のおばちゃんくらいに思っておけ」
「ええ!? そっ、そんな事出来ないよ。だって……」
「大事な記憶、今の記憶は昔の記憶より軽いのか?」
「そんな事ないよ……でも」
「なら……」
俺は、フェイトの前にかがみこみ、おでこを露出させる。
自分で言うのもなんだがスキンシップというのは初めての行為だ。
普通の親がどこまでやっているのかなんて知らないが、インパクトは大事だろうな。
フェイトが何をされるのかわからず硬直している隙に、額に唇をよせる。
実際、かなり恥ずかしかった、いやそりゃ、リニスもアルフも見ている前だからな……。
しかし、こう言う事は思いきりが肝心と決心し、額に口づけた。
フェイトは一瞬何をされたのかわからず呆然としていたが、
次の瞬間沸騰湯沸かし器のようにピーッと煙を上げながら顔を真っ赤にした。
「はうあっ!? そのあの!? わたわた、私……そのあの!?」
「壊れたラジオみたいだねこりゃ」
「いいじゃないですか、十分フェイトは立ち直れそうですよ」
「そりゃあそうだけどさ……女ったらしだねぇ」
「仕方ないですよ、そういう星の下に生まれた人ですし」
「……」
外野が聞えよがしに言っているがあえて無視する。
もう一度頭をぽんぽんとなでるようにすると、フェイトも少し静まってきたのか赤い顔のままうつむく。
小声でなにやらぶつぶついっているようだが、とりあえずは立ち直れたようでなによりだ。
だだまあ、これだけ派手にやっていればみんなに気づかれるわけで、好奇の視線で見られていた。
それどころか、プレシアとアリシアも注目しているようだ……。
何と言うか、恥ずかしいな……。
「あっ、ずるーい。フェイトだけ? 私は私は!?」
「駄目だ、お前はプレシアに甘えただろ?」
「ぶぅぶぅ、そんな事ないもん」
「あらあら、女の子には母親よりも男の人なのかしらね?」
「さあな、どちらにしろ俺は今の家族を大事にしたいと思っている。お前から預かった大事な娘たちもな」
「ふふ、そう言われると立つ瀬がないわ。私もきちんと結婚しておけばよかったかしら……」
そう言って笑うプレシアは、しかし、もうお母さんというよりはお婆さんといった方がいいような年齢に見える。
実際、アリシアが死んで26年ほどプレシアはアリシアをよみがえらせる研究を続けたらしい。
アリシアが現在11歳にすぎないのは、戻った後、時間の流れが違う世界に行っていたからということらしい。
通算して50歳前後のはずのプレシアは、しかし、研究疲れを補うために無理をし続けた結果病を背負っている。
魔法でぱっぱと直せそうな気もするが、実のところ回復魔法というのはかなり高度なものらしい。
傷は何とか出来ても、病気をなんとかするのは難しいようだった。
そして何より念願のアリシア復活を果たしたプレシアにはもう何も望むことはないはずだった。
そのせいか、実年齢よりも数段老けて見える。
それは、既に生きていくことに疲れたような、そういう微笑みなのかもしれない。
「そうだ、テンカワ・アキト。貴方に行っておかねばならない事があるの」
「なんだ?」
「私がフェイトを生みだしたF計画……。それは私が始めたことではないの」
「……それはいったい」
「私はアリシアを蘇らせるためにあらゆることをやった。F計画に参加したのもそのため。
でも、F計画を始めた人間……彼は今もどこかに潜んで研究を続けているはず……」
「それは……フェイトの身に危険が迫る事があるということか?」
「かもしれないしそうじゃないかもしれない、私に言える事は……」
言いきろうとしたプレシアに向けて何かが飛んで来るのがみえた。
俺は警戒は解いていないはずだが、1kmの外からの射撃というわけではない。
今まで警備員達の配置に混ざっていて誰も注意を払っていなかった存在の中から子供がいきなり飛び出してきたのだ。
理屈は分からないが子供の投げたのは投剣の類のようだった。
俺はとっさに叩き落とすべくプレシアの前に出る。
「あぶない!!」
しかし、リニスから静止の声が……。
聞こえそうになった次の瞬間には爆光と爆煙に目と耳をふさがれ何も見えなくなっていた。
とっさに最近覚えたばかりの魔法の防御とやらを試したので死にはしなかったようだが……。
「プレシア……大丈夫か?」
背後に向かってそう聞くが、返事はない。
良く見れば地面から手が生えてプレシアを引きずり込もうとしていた。
そして、プレシアは既に口をふさがれ、後数秒もすれば地面に消えるだろう。
咄嗟に俺は思い出した、俺の生まれた世界で最後にヤマザキの連れていた部下の事を。
「させるか!!」
咄嗟に走りこむと、プレシアを捕えている手を逆につかむ。
しかし、すると俺も地面に沈み込み始めた。
「馬鹿っすか、全くどうなっても知らないっすよ?」
「お前がプレシアを離せばそれでいいことだ」
「それは無理っす。任務っすからね」
そんなある種緊張感の無い話し相手に戸惑いながらも、地中に手を伸ばし、プレシアを引き揚げようとする。
しかし、地中の手が俺をひきはがしにかかる、咄嗟に持ちこたえようとしたが、
なにせ地中のことなので感覚がわからず失敗してしまい俺はそこで取り残されてしまった。
次の瞬間、地面が固型化し俺は身動きが取れないだけではなく圧死しかねないほどの圧力が加わる。
それはいきなり人が地中の土を押し分けて出現したのだから当然だろう。
むしろ原子同士が衝突して核爆発をおこさなかっただけマシか……。
何にしてもこのままではまずい、ボソンジャンプで地面の上に飛ぶという強引な手法で何とか脱出する。
「義父さん! 母さんは大丈夫!?」
「アリシアか、フェイト達は?」
「うん、リニスとアルフはさっきの爆弾みたいなのを投げた子供を追ってる。
フェイトは義父さんの方へ走ってたと思うけど……」
「そうか……」
俺は咄嗟に今までいた地面の方を向く、少し離れた場所でフェイトが膝を折って震えているのが見えた。
仕方ない、一度仕切り直すしかないな……。
覚えたての念話をリニスに向ける、追いつけないのであれば一度帰って来るようにと。
よって来た警備員達に質問攻めにあったものの、外交特権と階級をちらつかせ乗り切る。
そもそも、あいつらに関しては警備の方の怠慢であるので後日抗議するとも言っておいた。
実際にするかどうかは別にして、問題はあのさらった奴らだろう。
ヤマサキもこの世界に来ていたということか……。
「どうにも平和ボケしていたらしいな……」
「義父さん……?」
俺は、自嘲のために唇が吊り上ってきているのが分かる。
復讐をしていたころの気持ちがぶり返してくる。
勘違いしている人間も多いと思うが、復讐というのは気持ちのいいものだ。
そう、自分がいくらボロボロになっても、相手のボロボロになったみじめな姿さえ見れれば癒される。
そのためなら何だってする、それが復讐というものだ。
燃え盛る怒り、憎しみはもちろんある。
普段はそれに焼かれ、焦燥感にさいなまれ、また巻き添えにした人々への自責の念で押しつぶされそうにもなる。
だがそれは復讐をしている段階では愉悦となり、相手を滅ぼす事が至上の甘美と化す。
そう、復讐とはそれをしている段階のためにあらゆる事情を巻き添えにする行為なのだ。
俺は今同じになるわけにはいかない、分かっているのだ、全て放り出してヤマサキを追う事が俺にとっていかに魅力的かは。
だが、今の生活を犠牲にするわけにはいかない、首を振って必死にその欲望を飲み込み無表情を取り繕う。
「すまない、少し頭に血が上っていてな」
「うん……その、ありがとう。母さんのために怒ってくれて」
「でも実際どうするの? 母さん連れていかれた場所も分からないんでしょ?」
「それに関しては、もう一人の子供のほうに発信する機能を持たせた魔法を仕込んでおきました」
「へぇーリニスさすがだね!」
「でも、母さん無事かな?」
「恐らくは、さらったという事は何がしか彼女に聞きたいか、させたい事があるということだろう。
すぐに殺されることはないはずだ」
「でも……」
アレをやったのがヤマサキなら、俺にしたような実験をプレシアに施す可能性は否定できない。
出来るだけ早く何とかしたいのだが……。
現在も発信機(?)の信号は移動を続けている。
どのみちミッドチルダの地理には明るくないが、車で追える範囲ならいいのだが……。
「どんどん山の中に入っていきますね。そろそろ車で追えるのも限界に近いかと」
「なら仕方ないな。飛んで追うか」
「外交特権を乱用しすぎると後が怖いですけど、まあ、これだけ田舎ならさほど問題にもらないでしょう」
「では頼む」
「了解しました」
俺は飛行魔法については10分程度しか使えない。
Cランクの魔導師である俺にはその程度ということだ。
リニスの飛行魔法はぐんぐんスピードをあげるが、何か顔に険しいものが宿っている。
まさか……。
「反応をロストしました」
「どのあたりだ?」
「この先の洞窟内のようです」
「特殊な結界でも施してあるのか?」
「いいえ……この感じは……とにかく行ってみましょう」
「わかった」
俺達は、洞窟内をリニスが出した光の魔法で照らしながら進む。
一本道の上ほんの十数mで終わっている洞窟だったが、その終点には見慣れたものが存在した。
それは、俺達が地球とここを行き来するための門。
そう、異世界への門が開いているのだ。
「偶然なのか、誘い込まれたのか……どちらにしろ、もう破壊されているな」
「はい、ですが、完全にではないようです。どの世界につながっていたかはわかります」
「そうなのか?」
「恐らく……第72管理世界、一週間後武装隊の大規模な軍事演習が予定されている世界です」
「それは……」
俺がパワードスーツの持ち込みをする世界も同じだった。
その演習は犯罪者の検挙も同時に行うもので、パワードスーツの性能を見せるには持ってこいという話だったが。
だとすれば相手はあいつらということになるな。
なるほど……読めてきた、パワードスーツが手に入るからレジアスはあいつらを切り捨てにかかっているということだな。
となると、今までは通じていたとみるべきだろう……。
ならば当然プレシアの居場所などは奴からの……、くそっ、甘くなっていたな俺も。
両天秤に掛けるなら切り捨ては自分でやれと言いたくなる。
しかし、こうなった以上、事情はレジアスから聞くのが一番いいだろうな……。
とはいえ、普通に答えてくれるとも思えない……いったいどうしたものか……。