ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 29 ニクしみですら捏造だと知る時人は・・・
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/30(土) 07:16公開   ID:m5zRIwiWPyc
第72管理世界にある、”おか”の最大拠点である駐留軍総本部。

メガロートという世界名を冠するこの星は、荒野が陸地の半分以上を占める不毛の星である。

実際町ごとに巨大な魔法施設を造り大地を活性化させていなければ作物が育つ事もままならないところである。

そんな大地の上を飛行するヘリの一団があった。


「ヘリの操縦、流石だな。お前を見てもとても狙撃兵とは思わないだろう」

「まぁ、趣味みたいなもんですよ。機械いじりが高じてね、三等空尉殿にとっては遅い乗り物でしょうが」

「何を言っている、お前は射撃も一流、整備もこなす上に一通り操って見せる事が出来る。

 万能型というべきか、なかなかいないぞ」

「褒められても何も出ませんよ」


桃色の髪をポニーテールにした二十歳前と思しき三等空尉は陸士服をぱりっと着こなしている。

徽章には”航空武装隊第1039部隊”と小さく彫りこまれているが、ようはこのヘリの一団がそうなのだろうと思わせる。

会話相手はヘリを操縦する茶髪で十代中盤の少年。

まだまだ幼さは抜けないが茶目っ気がある気質が感じられるその少年は、

ヘリを飛ばしつつも時折視界の隅に上官である彼女を捕える。


「しかし、烈火の将シグナムの部下になれるとは思っていませんでしたよ」

「二つ名を口にするな、今の私は管理局の下士官にすぎないのだからな」

「そうはいってもSランクの方はそうそうお目にかかれませんからね」

「あくまでS−だ、実際のSランクは比べ物にならない、私は総合での戦闘力に秀でていたためそうなったにすぎない」

「それでもです。剣を取れば誰も寄せ付けないって評判ですよ」

「剣か……」


シグナムはその言葉を聞きふと何かを思い出した様な顔になる。

はやては学校に行くようになり、知りあいを加速度的に増やしていた。

そのつてで知り合ったのが、なのはの兄や父。

そして、彼らと手合わせして引かないテンカワ・アキト。剣術ではとてもかなわないようだったが、戦法の奇抜さで補っていた。

あの中に自分が入っていけるとは思えない、それでもシグナムはいつか純粋な剣術で彼らに勝ちたいと思っていた。


「私の剣など魔法に頼ったものにすぎない。上には上がいる」

「へぇ、シグナム三等空尉を超える使い手……一度は見てみたいですね」

「やめておいた方がいい。不幸になりたくないならな」


シグナムはふっと笑いながら言う。

それは、彼らが闇を抱えているからではあるが、それ以上に普通に危ないからだ。

稽古のたびに道場を破壊するような人間の前に出るには少年は普通過ぎた。


「しかし、今回の武装隊の演習、規模が大きいようですが何か引っかかりますね」

「そう言う事は上官の前ではあまり口にしない方がいいぞ、だがまあ、おかしな点は目に付くな」

「時期の問題、予算委員会が近いこの時期にやるのもおかしいですし、

 規模も100万人規模の演習っていうのは近年まれにみるものです」

「確かに、ほとんどの場合は基地ごとの小規模な演習になるからな」


恐らくは、地球をはじめとする管理局に属さない政府に対する軍事圧力の意味も込めて大規模にやるように、

最高評議会あたりから圧力がかかったのだろうと思ってはいたが、シグナムはあえて口にしなかった。

それを口にしても、ミッドチルダの人間には理解しづらいだろうし、また管理局に対する不信を口にするようなものだからだ。


「何にしても、我らは当日の警備を任されている。

 演習場でアクシデントが起こらないように、細部にわたるまでチェックし、連絡網と監視網を確実にしておけ」

「了解しました!」


シグナムのその命令とともに、団体を組んでいたヘリの一団は四方へ散り各個に警戒網の構築と哨戒をはじめた。

”航空武装隊第1039部隊”は演習場の西部一帯を別の2隊と合同で警戒にあたる。

人の移動から地形の変動までサーチ対象は多岐に及んでいた、

そのため動物を探知する事も多く、指定から削除するのに手間取ったりしていた。

しかし、その分シグナム達も精度には自信を持っていたのだが、

地面の中を潜って進む一団があることには流石に気づくことが出来なかった……。




















「んっ……」


ぼんやりとした視界、ぼんやりとした思考。

何か大切な事をしていたはずだがはっきりと思い出せない。

夢の中にいるような心地のまま、長い黒髪の女性は目を覚ます。


「お目覚めかね?」

「……」

「ふむ、まだ寝ぼけているのか……それとも病の進行が脳まで影響していたのかね?」

「……ぁ……スカリエッティ!!」

「ようやくお目覚めのようだね、プレシア・テスタロッサ。

 F計画どうやら君が独自に完成させてくれたようでうれしいよ僕は」

「っ!!」

「だけど、不思議に思う事があるんだよ。君が作ったのはアリシアのクローンのはず。

 アリシアは君から魔法の素養を遺伝しない失敗作だった。そのクローンがなぜだい?」

「アリシアは失敗作なんかじゃないわ!! あの子は私の……私の宝物よ!!」

「くっふふふっ……面白い事を言うね」


スカリエッティは額に手をつけておかしな笑い方で笑う。

ようやく視界がはっきりしてきたプレシアはここがどこかの地下施設だろうと想像がついた。

暗さや窓のない閉塞具合、空気の流れのなさなど理由はいくらでもある。

そして、部屋の外には数人詰めている事も察する事が出来た、スカリエッティの身の安全のためというところか。

確か本人の魔導師としての戦力はいいところAランク程度にしかすぎないはずだった。

彼は凶暴性、戦闘力、魔力に関してはさほど怖い存在ではない、恐ろしいのはその研究心。

研究に関して倫理というものを最初から持ち合わせていないと感じさせるところだった。


「君の夫って誰なんだい?」

「私の……夫? 私は……そう、私はF計画の最初の時に知り合った人と……」

「うん、そうだよね。僕も祝福した覚えがあるよ」

「そう、そうよ……結婚もした……」

「だけどね、その結婚した相手が誰か思い出せるかい?」

「えっ……えっ……」

「覚えてないだろうね……だって彼は君とするためだけに作り出されたある種の夢だからね」

「なっ!?」

「実際は、聖王の血筋の人間の血をたまたま手に入れてね。そこから培養した遺伝子を君の子宮に植え付けただけさ」

「……まさか、そんなはずは……」

「おかしいと思わなかったのかい?

 黒髪の君の娘が金髪碧眼ありえないとはいえないが、色素が強い方が遺伝されやすいんだよ。

 普通なら、プラチナの髪の相手でも茶髪になるのが関の山なのに」

「!?」

「ついでに、娘に対する過剰気味の愛情を君に植え付けておいたんだが、面白い結果になったようだね」

「そんな……そんな!?」


プレシアは震えて声すら滞っていった……ただ、そんなと繰り返すだけの壊れた人形のようだ。

スカリエッティはこう言っているのだ、アリシアそのものが人工授精の産物であり、F計画の一部だと。

それは彼女のアイデンティティを崩壊させるに十分な一言であり、事実既に彼女の精神は崩壊をはじめていた。


「クククッ、まさかここまで効果的に効くとはね、少しは疑わないのかい?」

「そっ、そうよ! でっち上げだわ。そんなことが、そんな事があるわけない……」

「はははっ!! でも不安なんだろう!! せっかくだからとどめを刺してあげるよ」

「なっ、何を……」

「クアットロ、もういいぞ」

『あいあいさーってね。そんんじゃ、記憶の封鎖を解除っと」

「えっ、あっ、あ……ギャァァァァアアアアアァ!!?」

「なかなかいい悲鳴だね」

「やめてぇ!! 私を……私の記憶を……壊さない……」

『あらあら、あんまりな記憶だったから耐えきれなくなったのね』

「ふふっ、上手くいったようでなによりだ」


その記憶は、スカリエッティによる、実験の記憶。

自分がいろんな人間に施した改造実験、また素体を作り出すために殺しもした。

そして、スカリエッティによりF計画の要となるはずの子供を植えつけられた。

しかし、その子には魔導師の素養が見られずプレシアごと放逐される格好となり、

研究所は証拠隠滅のため表向きの実験である次元航行エネルギー駆動炉ヒュウドラを使い次元震で惑星ごと飲み込んだ。

その罪はプレシアがかぶる格好となり、スカリエッティのことは共同研究者程度の認識でしか思い出せなくなっていた。

それでも危険だということだけは覚えていたのだが……。

アリシアすら計画のために好意を植えつけられていただけ……、それもスカリエッティにとってはどうでもいいレベルで。

思い出してみれば、それは絶望するに十分な現実だった。


「ァぁ……」

『でも彼女、そこまで上等な素体なんですか?』

「ああ、彼女がSランクの魔導師なのは研究者だったせいだ。

 まともに戦闘訓練していないのにあの強さ、ほとんど反則だよ。

 純粋な魔導師として戦闘に特化していればS+どころかSSにすら届いたかもしれない」

『確かに、フェイトやリニスのデータを見る限りそういう感じもしますね』

「そういうことさ、ちょっと”おか”との関係もまずい感じだし、手ゴマは揃えておくにこしたことはないからね」

『おかみが付いているんですから、そんなに気にしなくてもいいのでは?』

「いいや、足もついてるしね、早めにここも引き払う準備をしておかないと」


泡を吹いて気絶するプレシアを前に、楽しそうに話をするスカリエッティとクアットロ。

クアットロは念話で話しているため姿は見えないが楽しそうなその話し方はどこか感性が壊れているような感じをうける、

スカリエッティも伸びすぎた紫色の髪の毛を少し払いながらどこか浮世離れした感じに笑いをこらえて脱出計画を語っていた。

気絶したプレシアの前で……。



























「やほーっ、受け取りに来たよ」

「やほーって……明るいですね?」

「別に暗くなっても何の得にもならないじゃない?

 それに、母さんの事は心配だけど、だからこそやるべきことをやらないとね」

「アリシアさんは強いですね」

「ううん、すずかだって強いよ。普通お嬢様は自分でこう言うところまで来ないでしょ?」

「そうかな?」

「そうだよ」


ここは、すずかの家の地下施設から直接移動でいける月村重工の工場の一つ。

パワードスーツ先行量産型AO−F01の生産工場だ。

このパワードスーツは基本的にすずかやアリシアが2年前使っていたものと変わらない。

整備しやすいように、簡略化が施されているところがいくつかあるだけだ。


「会長令嬢に外交官の娘さん、VIPが乗り込んでくるとは一体どうしたんです?」

「天塚のおじさん、私たち例のものを受け取りに来ました」

「ああ、あれね……そいつに関しては、ラピスお嬢ちゃんのところに行けばいいよ」

「ラピスちゃん?」

「へぇ何かやってんのね」

「アレのめどが立ちそうなんでね、AIを移動させるとかいってたな」

「ラピスちゃん凄い!」

「じゃあ、早速行ってみようよ」

「うん!」


アリシアとすずかは勢い込んでラピスのいるだろう、地下施設へとむかう。

地下にあるのは巨大なドック、そう潜水艦などを係留しておくためのドックだった。

しかし、そこにつながれているのは潜水艦などではない。

形状を見れば分かる人はわかるだろう。

機動戦艦ナデシコのような形をしていた。

しかし、よく見ればまともな武装がなく、装甲も現代の溶接技術で作られた普通の鉄板仕様だ。

内部にチタン合金を組み込んであるらしいが、とにもかくにもツギハギっぽさの抜けない船だった。

しかし、すずかとアリシアが駆け込んでみると内部は立派に機能しているらしく、明かりがついていて一定温度を保っている。

そして、驚きを隠せない二人の前に、立体映像と思しき何かがぱぱっと映る。

その姿はラピスのものだ。


『いらっしゃい、すずか、アリシア、何か用事?』

「うん、緊急でパワードスーツが必要になっちゃって」

「バックパック付きで貸してほしいんだけど」

『んー、ブリッジまで来てくれる?』

「いいけど……」


すずかとアリシアは不思議に思いつつも、ラピスの映像に案内されるままエレベーターに乗り込みブリッジまでやってきた。

ブリッジ上にはラピスと数人の月村重工の技術者が作業をしている。

しかし、既にブリッジの内装は整えられ、完成が間近なのは間違いなさそうだった。


「へぇ、もうこんなにできてたんだ」

「うん、今日中におおよそ完成する予定」

「じゃあ、宇宙にとびあがれるの?」

「可能。ただし……戦闘は無理、武装がないから」

「そっかー、でもなんかすごいね」

「でも、あたしたちの目的はわかってると思うけど……」

「うん」


ラピスはこくりとうなずくと、ウィンドウを立ち上げる。

そこには改装されたアリアとオラトリオ、赤と青のパワードスーツの現在のスペックがずらりと並ぶ。

これらのシステムの運用のためには莫大な電力が必要になる事も合わせて書かれていた。


「魔法を電力運用しようという考え方は画期的、だけど普通のバックパック程度では運用できなくなっている」

「普通に肩に乗せられる程度じゃ5分が限度……これじゃ役に立たないかも……」

「じゃあ、普通のタイプでもいいから」

「確かに先行量産型なら一時間は持つ、けれど子供用のコックピットがない」

「……じゃあどうすればいいの?」


そこでアキトならあきらめる事を進めただろう、なにしろ今回の事はよく分からない陰謀が裏にある可能性が高い。

しかし、ラピスは口元を笑みの形に変えていた。


「だから貴方達にここに来てもらった」

「……それって」

「ええーー!?」


すずかとアリシアは飛びあがって驚く羽目になる……。
























メガロート駐留軍本部の一角、そこでは合同演習のために新たに結成された小隊のミーティングが行われている。

しかし、ヴィータは隣でいるなのはのことが気になって仕方無かった。

ミーティングで半分居眠りのように目がうつろになっている。

なのはが真面目な子であることはヴィータもよく知っているので、理由は何となく察しがついた。

ミーティングが終った直後、本来なら待機のはずだが、ヴィータはなのはに声をかけてみることにした。


「おい……なのは、聞こえてんのか?」

「えっ、うん……ヴィータちゃん今回は同じ隊に配属されたんだね」

「そうだな、階級もおなじ準空尉みたいだが……大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ。ちょっとぼーっとするだけだから」

「そう言うのは大丈夫っていわねぇだろ!」

「でもほら、いろいろ仕事かさなっちゃって、ここ数日寝てないから……」

「お前そりゃ働き過ぎだろ……」

「にゃははは……」


疲れた表情で笑うなのはを見て、ヴィータはやはりアキトの考えは間違いではないのだろうと思う。

管理局において確かに年齢はあまり関係がない、

知識は魔法素養が高ければ魔法による詰め込み教育で一気に水準以上へとあげる事が出来る。

低ければ詰め込みの許容量も低いためさほど一般と変わらないのだが、

だから、魔法素養次第で佐官クラスまでなら十代の子供が簡単に上がる事が出来る。

しかし、弊害は当然ある、一つは子供に権力を与えてしまう不安、一つは体力的に完成されてない子供を酷使するという点、

そして普通の素養の魔法使い達との心理的な溝、他にも数えればいくつも不安が出てくるだろう。

だが、社会運営上のメリットは多い、なかでも教育を管理局内で施すため、管理局の使途にすることが可能だ。

放っておけば犯罪者になる可能性もかなり高いのだから。


「どっちにしろ、管理局に都合がいいんだが……」

「なに?」

「いや、それより、この後はちゃんと寝ろよ」

「でも……演習会場の下見をしておかないと……」

「それくらいあたしがやっといてやる! お前はまだ11歳なんだぞ!

 体が完成してない成長期なんだ! 今無理しすぎるとあたしみたいに一生背が伸びないぞ!!」

「ぷっ……あはは……そうだね……じゃあ、ヴィータちゃんに任せるよ」

「ああ……だからゆっくり寝てろ」


気が抜けたのか、廊下で気を失うように眠りにつくなのはを、ちょっと不格好ながら背負い、なのはの部屋へと送り届ける。

普通、これくらいの年齢の子供が無理をしているなら周りが止める、無理をしてでも休ませるものだ。

それをしない管理局の体制に改めて疑問を感じるヴィータだったが、今のところ出来る事があるわけじゃない。

ただ、歯ぎしりをしてそのうっぷんをため込むことしかできなかった……。





















「メガーヌ、クイント……言っておくが、今回の捜査は非合法なものになる」

「中将の許可が得られないんですもんね」

「仕方ないですわ、でも……」

「ああ、出来ればあいつが関わっていない事を祈りたいな」


ゼストは希望的観測を述べる。

それは、弱気の証でもあるため、普段はあまり口にすることはないようなことだ。

しかし、実際かなりゼストはつらい立場にあった、親友であるレジアスを場合によっては刑務所送りにすることになるからだ。

それを知りつつ付いてくるといった部下の数はメガーヌとクイントを含めた10人。

個人的には巻き込みたくはなかったが、確かに戦力は必要だった。

だが、敵戦力は知れていない、それに場所が合同演習の場に近すぎる事が問題だった。

突入する際にひと悶着起こるのは避けられないだろう。


「他の皆もよく聞いてくれ、人員は少ない。敵は戦闘機人が大量にいる可能性がある。

 捜査は困難を極めるはずだ、死人も出る可能性がある。

 やめるなら今のうちだと言う事は言っておく」

「大丈夫ですって、みんなゼスト隊長に賭けたんですから」

「そうそう、むしろどっしりと構えていてくれないと。不安になっちゃうじゃないですか」

「……そうだな、皆全力を尽くしてほしい」

「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」


各々装備を整え現場へと向かうため、車両に乗り込む。

レジアスに目をつけられないため極秘でいろいろと準備していたのだが、

流石に不足するものがある、もっともないものねだりを言っても仕方ないのであるが……。

たった三台の車両がその戦力の全てだった……。





























ほんの数日前ティーダ・ランスターは二等空尉の辞令を受けた。

19歳でこの階級まで上り詰めた者は少ない、AAランク魔導師だとしても異例の出世である。

これがAAA以上のランクとなるとまた多少違うが、

上級士官学校を出たのでもない彼がここまで来れたのは才覚も運も卓越していたせいである。

とはいえ、それだけで上に登れるほどは甘くない、

彼はレジアス・ゲイズ中将の対抗者であるフレッド・カルタス少将に目をかけられていた。

フレッドが掲げるのは融和であり、そのためなら多少の不遇には目をつむるというものだ。

つまり”うみ”の風下に立っても平和さえ実現できればいいというものであり、当然ながら”うみ”との癒着が疑われている。

支持層は小規模駐屯しかできない辺境域に集中しておりそのせいで大きな派閥を形成できていないが、彼はその中での出世頭といえる。

そのせいで、レジアスの派閥には睨まれることも多く、彼の請け負う任務は過酷なものが多い。

逆にそれをこなしているからこそ、今の階級があるのだが。


「でも今回は、ちょっと色合いの違う任務みたいだな……」


辞令を受け取ったティーダは頭をかきながらつぶやく。

危険度は表向き低い、とはいえ、裏でなにか動いている感じもするので高くなる可能性は高いだろう。

しかし、そういった意味ではなく今回はレジアスの根幹にかかわる”秘密”に属する任務だと思われた。

普通なら子飼いの者たちにさせるだろうその任務を、あえてティーダに任せる意味がわからない。

もしかしたら、レジアスの派閥内部でも意見がまとまっていない証拠なのかもしれないとふと思う。


「だとしても、一人で受ける任務じゃないよな……」


危険度の高低に関わらずこの任務は一人ではできない、チームを組まなければできない仕事だ。

チームに関しては追って連絡すると言われていたが、その前にホシに面通ししておけとの事らしい。

そういった理由で中央ビルのエレベーター前で待ちぼうける羽目になっているティーダは多少油断もしていたのかもしれない。

いきなり、中央ビルのフロントに爆発が起こった。

爆発力はさほどでもなかったのだろう、揺れはしたが壁は傷ついていない、

もっとも防御魔法を施されているのでそうそう破壊されもしないだろうが。

数秒のタイムラグを受けて玄関に詰めていた守衛達が10人ほど飛び出し爆発元に走り出す。

だが、煙がはれた先にいたのはたった一人の女だった。

もっとも、女性を思わせるのは顔だけであり、後は金属らしき装甲に覆われている。

更には腕が六本あり、それぞれに鎌のようなものが付いていて、

下半身が蛇のようになっている化け物を女と言っていいのかは疑問ではあったが……。


「あーっはっははっは! このアタシがが! 恨みを晴らしに来てやったよ!!!」

「!?」


6本の鎌を振りまわし守衛達を惨殺しながらエレベーターに迫る化け物を見て思わず吐き気がこぼれそうになったが。

すぐに気を取り直すと、ティーダはエレベーターの前に陣取る。

ここが壊されると、流石にビル全体に亀裂が走る。

そうなればどれくらいの死者が出るのか予想もつかなかった。


「さて、この状況で射撃魔法がどれくらい有効か疑問だけど……」


ティーダの得意な魔法は射撃魔法、その精度は凄まじいものの攻撃力に関してはさほどではない。

目の前の隙間なく覆われた鎧のような体を貫通するのは一仕事だろう。

しかし、考えている余裕はない。

とりあえず一番弱点のように見える露出した顔に連続して射撃魔法を叩き込む。


「……出来れば止まってくれよ……」

「そんなんで、止まるわけないでしょうが!!」

「ぐはぁ!?」


射撃魔法を当てた直後で少し脱力した瞬間を狙われティーダはまずいと認識する。

しかし、相手は尻尾を巨大な鞭のようにしならせて打ちつけてくる。

迎撃もできないし、回避も間に合わない、

防御魔法はどうにか間に合うかもしれないが吹き飛ばされるのは確実だろうと思われたとき。

背後のエレベーターが気の抜けた音と共に開いた。


「ん?」

「え?」


中から出てきたのは黒づくめのスーツに少将の階級章をつけた20代と思しき男。

男は目の前の6つ手の蛇女を見ると、一瞬顔をしかめた。

次の瞬間男の背後から白いベレー帽と白いコートに身を包んだ女が突撃、蛇女をなんと玄関から蹴り出してしまう。

更にもう一人、アルビノの女が黒い翼をはためかせ黒スーツの男の背後から飛び立ち、追撃をかける。

後はもう一瞬だった。

雷撃と暗黒の魔法が炸裂し、蛇女は体の大部分を消失させる。

頭の部分は情報を得るために残そうとしたようだが、自爆した。

だが、その自爆も結界に封じられまともに爆発出来ないまま頭部は残骸と化していた。

二人の女性は顔をしかめる、しかし、戦闘機人相手でここまで圧倒的な人間はそういないだろう。

どちらも恐らくAAA以上、もしかしたらオーバーSランクかもしれない。

こうなると後からゆっくりと歩いてくる黒スーツの男から大した魔力が感じられない事が逆に不気味だった。


「怪我はないか?」

「あっ、はい、少将閣下」

「んっ、ああそうだったな。だが出来ればテンカワ大使と呼んでほしいところだな」

「!? 失礼しました。テンカワ・アキト大使!

 自分は今回貴方の護衛任務を引き継ぎましたティーダ・ランスター二等空尉であります!」

「護衛……」

「あっ、大使やお付きの方がお強い事は重々承知しておりますが……」

「そうだな、よろしく頼む」


一度考え込むようにしていたテンカワ大使はしかし、ティーダに向けて少し唇を笑みの形に寄せただけで了解を出す。

何か理由があったのかもしれないが、聞きづらいのも事実なので、今回はそれで良しとすることにした。


「それにしても、ああいうのは最近多いのか?」

「はい、どうやらどこかで量産されているらしく、戦闘機人による被害が頻発しています」

「戦闘機人?」

「詳しくはこちらからお教えすることはできないのですが……」


戦闘機人に関しては捜査上の機密という以外にも、内情的に話せない理由もある。

なぜなら、作りだした人間が管理局の側だった事もあり対外的に倫理観を問われかねないからだ。

口に出す権限があるのは一佐以上の高級士官のみだろう。

だが、お付きと思しき人物から今程度の事情はさらっと聞けたらしい、納得した表情から分かる。


「ならば当然、あれは嫌がらせという事になるのか」

「はい?」

「ああ、こちらの事だ。それよりも、ランスター二等空尉。

 君に聞くが、危険度の高さは今見ての通りになるだろうそれでもやるか?」

「護衛は、私の任務です。演習会場での安全は私が必ず確保いたします!」


ティーダの今までの状況からは想像がつかないような張り切りように、虚を突かれたような表情になるアキト。

しかし、どこか微笑ましいものを見るような表情になり一つうなずいた。

ティーダにとって、この出会いは何をもたらすのか、それとも何も変わらないのか、その時は誰も分からなかった。

■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
いくつもネタを複合しているせいで、ごちゃごちゃ感じるかもしれませんがご容赦を(汗
テキストサイズ:19k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.