なのは達は丁度敵側の勢力を発見し、どうするか話し合っていた。
山岳部を登って来たせいで雪がちらついている、ここからは飛行して進めば探知される恐れがあった。
山向こうにいる勢力は分隊規模の偵察部隊、恐らくなのは達と同じだろう。
人数も10人前後、互いに索敵の魔法をスルーするためのステルス魔法を張っているため、目視したほうが有利だ。
「っかしまあ、向こうも慎重にやってんな」
「そりゃあそうだよ。ここは正面戦力は来ないけど迂回ルートとしては使えるもん。
来ないか見張るのは当然だよ?」
「まぁ、そりゃそうだろうけどな」
しかし、ヴィータが言うのも無理はなかった。
相手側の偵察部隊は土嚢等を用意しその場でとどまっている。
魔法の発動を感知するか、見はりが発見すれば飛んで来るだろうがそれ以外では動かないだろう。
「でもこれじゃ、これ以上進めないね」
「ああ、相手を無力化しないとな。上の判断はどうなんだ?」
「ちょっと聞いてみるね」
念話で通信を送るなのは、念話は広域に送る事も出来るが、基本的には電波と違い指向性がある。
そのため傍受されにくいのだが、逆に相手の情報も傍受できない。
光通信のように見えもしないため、暗号も必要ないある意味強力な通信手段である。
魔法世界ではこれが普通であり、そのため相手の作戦が読みづらい。
そうでなければこういった目視の偵察などやる必要はないのだ。
「相手を無力化して、索敵区域を広げろって。遊撃部隊を送り込むタイミングを計ってるみたい」
「やっぱりそうか……まったく、いくらこっちがAAA+2二人がいるからって……。
他のメンツはまだ追いついてきてもないないってのに」
「にゃははは……飛べないんだから仕方ないよ。少し待ってからっ……!?」
「なっ!?」
唐突に地震が起こった、なのは達のいる場所からそう離れていない。
そして、同時に大きな魔力反応も見つかる。
その方向に視線を合わせると、スペースシャトルのような飛行機がひときわ大きな山の火口部分の近くに着陸しようとしていた。
もっとも、地震の揺れのせいで着陸できないでいるようだ。
「あれって……」
「うん、地球のものじゃないかな……。テンカワさん達に何かあったのかも」
「あの魔力、シグナムか? ちょっと待て。このままじゃ……」
「演習とか言っている場合じゃないね。向こうの偵察部隊と遅れてくるうちの小隊員にも知らせないと。
私が相手側に言ってくるから、ヴィータちゃんはこちらの小隊に教えてきて!」
「わかった!」
なのは達はわかれてそれぞれに知らせに行く。
なのはが伝えに行くと、相手側の小隊は既におおよその事は察知していたらしく、大人しく撤退を開始した。
その事に安心して、なのははシグナムの魔力が爆発的に高まったあたりに視線を戻す。
「やっぱり、放っておけない……行かなくちゃ」
アクセルフィンを展開し、なのはは何か起こったであろう火口へ向けて飛ぶ。
地震で被害を受けるのは飛べない面々だけであるとはいえ、地震だけで終わるとは限らない。
しかし、なのはは自分の中にある正義感に基づき行動しなければ気が済まないでいた。
それは間違いではないのだろう、しかし、自分の状態を把握しているとは言い難かった。
「ッ!?」
火口付近までやってくると、何十体という量産型戦闘機人が出現する。
なのはは、それに対して全力で応戦した……非殺傷設定で。
量産型戦闘機人は基本的に母体のクローンを数時間の育成で生み出したという劣化品。
ただし、確かに生命体といえなくもない。
脳のほうは埋め込まれたチップの行動指針の通りに動くだけであり、
肉体も急速な成長を補助するためにほとんどが機械化しているが、見た目は人間的な部分ものこしている。
なのははやはり人間の部分を残す戦闘機人達を破壊することにためらいを覚えていた。
「大人しく投降してください! 危害を加えたりしないから!」
「キシャーッ!!!」
「あぐあぁ……殺すっ!!」
ただただ狂乱する戦闘機人達を前に戸惑いを覚えつつどうにか対処していたなのはだったが、
今までの疲れや、魔法の連発が響き少しづつ動きが鈍り始めていた。
「ふぅ……ふぅ……。やめて、話を聞いて!!」
なのはは息が上がるのを感じていた、何となくだが、この戦闘機人達には言葉が通じない事も理解し始めていた。
しかし、それでも今までの戦闘機人の中には話が通じるものもいたという事実からあきらめる事が出来なかった。
ただでさえ疲れている所に、そんな気遣いなどをしていたため、神経がすり減るスピードはかなりのものになっていた。
なのは一瞬視界がぼやけるのを感じる、急激に視界が狭まる中、なのはは、背後に回り込まれたのを感じた。
元々敵の数は多い、一度回り込まれてしまうと後がないのはわかっていた。
「……もう、駄目なのかな……」
疲れと、プレッシャーで限界に近づいている事を理解したころ、視界の隅に赤い何かを捕える。
「あ、ヴィータちゃ……」
「なのはー!!!」
「ヴィシャァァァ!!!」
ヴィータが迫ってくることに刺激されたのだろう。
なのはを囲んでいた数体の戦闘機人が一斉に襲い掛かる。
ぼやけた視界でどうにか回避しようと動くが、緩慢なその動作では回避が間に合いそうにない。
戦闘機人達が殺到していく中、なのははどこか自分の事が他人事のように意識されるのを感じていた。
もう間に合わない、それがはっきりと感じられた時、ぷつんと糸が切れたようになのはの意識はとんだ……。
目を開けた時、ぼんやりと意識したのはヤマサキのラボだった。
俺や火星のA級ジャンパー達を研究するため、色々な方法で俺達を実験した……。
その部屋と同じ匂い、同じ光源、そういった気配が目覚めと共に強烈に意識される。
「ここ……は?」
「あっ、気が付きましたか、テンカワ大使。背負ってるの結構重かったんですよ」
「お前はティーダ……か」
「お前呼ばわりはひどいですね、でも気が付いて良かった。僕では彼女らを止められそうにない」
「ッ??」
そう、周囲を見ればフェイトが巨大な水槽を滅茶苦茶に破壊しているところだった。
はやてやリニス、アルフもリインフォースも、止めるどころか小さな水槽をどんどん破壊している。
中から戦闘機人達が現れていることからすると、ここが戦闘機人プラントなのだろう。
ここを破壊することには別に反対しない、しかし、フェイトの動きはどこかヒステリックで、怒りに満ちていた。
それにこのままでは、この部屋ごと崩壊しかねない、俺はフェイト達を止めようと……。
動き始める前に、巨大な水槽に入っていたものが動き出した。
「あれは……」
「マザーですよ、あれから生まれてくるんです。
量産型なんておかしいと思ってたら、そう言う風に母体を改造して体内で育てさせてたんですよ」
「!?」
それはつまり、戦闘機人を作り出すために母体のほうを改造して人間をやめさせたという事。
量産型にまともな意思がないのも、機械が最初から埋め込まれているのも当然のこと。
彼女の腹の中そのものが戦闘機人プラントなのだろう……。
ヤマサキ……どこまでも……こんな、意味のない事を!!
奴は子供と同じだ、虫を殺すのと同じ感覚で人をもてあそぶ。
フェイトが切れるのも無理はない、俺自身誰もいなければぶち切れていたかもしれない。
しかし、この母体……下が何かにつながっている!?
「まずい! フェイトやめろ!!」
「えっ!?」
突然の俺の声にフェイトが止まる。
しかし、既に遅かったらしい。
部屋の床が盛り上がり始める、下から迫ってくるのは巨大な熱量……。
この下にあるのはおそらく……。
「盛り上がった隙間から!! あれって! マグマじゃ!?」
「ああ! この部屋から急いで脱出するんだ!」
俺がそう言ってフェイトを引き戻したとたん、もろくなっていた部屋が天井から崩れ始めた。
はやて達も一瞬遅れて俺の方へ飛んで来る。
リニスが結界をしき、アルフとフェイト、はやてが補強する。
その間に俺はリインフォースとユニゾンを慣行した。
この前のミニスカは既にデータを改ざんして昔のボディスーツ風になっている。
ただし、髪の毛は真白になるため違和感は残る。
よく分からないがリインフォースによるとユニゾンするとその兆候がどこかに現れるらしい。
様式美みたいなものだから許してほしいと謝罪してきたので俺は気にする必要はないと答えておいた。
「これがアキトさんのユニゾン……? なんや魔法使いっぽくないな〜」
「ええっと、でも義父さんには似合ってるよ! (ボソ)黒だし」
「この前のミニスカの方が良かった気がしますが」
「どっちでもいいけど、このままじゃやばいだろ!!」
アルフが突っ込みを入れてくれないとそもまま井戸端会議に移行しそうだった所だが現状そうもいかない。
ボソンジャンプで直上に飛ぶ事も出来るが、まずいのは落下物がどう落ちるかまでは計算できないことだ。
誰かに砲撃してもらって飛び出すというのも考えられたが、
それだとその砲撃による崩壊の加速で更に落下物が増える可能性もある。
俺は一瞬判断を迷った、しかし、その必要性を切り飛ばす増援が上空から舞い降りた。
「おおーーっ!! 飛竜一閃!!」
どういうわけかクイントを片手で抱えたシグナムが鞭状にした剣でガレキを切り飛ばしながら突入してきた。
その形相は決死の覚悟といっていいほどに引きしめられている。
そして、突入してきたシグナムはそのままの勢いで俺に詰め寄る。
「テンカワ・アキト! 貴様! 主はやてをどうしてこんな危険な場所まで連れ込んだ!!」
「待ってやシグナム! これはうちが勝手に……」
『それに、マイスターはやてはさほど危険には合っていません』
「そうだとしても、貴様にはそれを阻止する事も出来たはずだ!」
「……すまない」
「まあ、今はそれどころではないのも事実です。ですが、脱出した後はきっちり話をさせてもらいます」
「シグナム……」
はやてはしゅんとしている。
実際俺も甘かったのだ、偵察だけということでつい許してしまった。
十分な戦力を投入するわけでもない、偵察こそが一番危険な任務であるというのに。
シグナムの怒りはもっともだった。
しかし、今は脱出を優先しなければならない、もっともシグナムのお陰で部屋上はぽっかりと穴があいている。
俺達はその穴を抜け、上空へと飛びだした。
おおよそ数キロも上昇してようやく火口から飛び出す俺達。
上空付近には揚陸艇ひなぎくによく似た形式の飛行機が飛んでいる。
『アキトさん無事ですか?』
「その声はすずかか?」
『はい、アリシアさんもいますよ』
『義父さんやほーってそんな雰囲気でもないか。出撃準備をするね』
「……出来れば動かないでいてほしいが……」
『デモンストレーションのこともありますし、量産型戦闘機人が飛び出してきます』
「そうだな……」
そう、フェイト達があれだけ叩いていたにもかかわらず、まだ百体近い戦闘機人が火口から飛び出してくる。
もっとも、知能はほとんどなく野獣とそう変わらないものだったが、促成栽培のようなものだと思えばわからなくもない。
十体単位で飛びだすそいつらに、下から上って来る魔力がぶつかった。
あれは、なのは……なのはは、遠慮するような戦い方をしている。
しかし、すぐに俺達にも沢山の戦闘機人達が襲いかかってきたので撃退する。
その間にもなのはは動きを遅くしていくのがわかった、恐らく疲労のせいだろう。
やはり、あの年齢で仕事をこなしながら学校に行くというのはかなり体力的にも精神的にもまずいのだ。
(主アキト、何を考えているのですか?)
「何、簡単なことさ。すずか、悪いがその飛行機を20kmほど遠ざけてくれるか?」
『何をするんです?』
「広範囲攻撃という奴をやってみる」
俺はフェイト達に近寄るように言うと、(ティーダはアルフに抱えられている)なのはをボソンジャンプを使って引き寄せる。
俺は、あれからリインフォースの使っていた呪文を頭に焼き付けられている。
飛行呪文もその一つではあるが、結局自力ではほとんど使えないのだが……。
それはさておき、当然彼女が使える魔法は今の俺には使えると言う事になる。
最も逆に、ユニゾンしていない俺は何か魔法が使えるかと聞かれれば、浮遊と念話くらいしかない。
おんぶだっこなのだから、ユニゾンしていようとしていまいと彼女の魔法だと言ってしまえばそれまでなのだが。
兎も角、最初になのはやフェイト達を俺を中心とした数m範囲内に入ったことを確認すると、
その範囲を除外してから、溜めていた魔力を使って呪文を唱え始める。
「遠き地にて、闇に沈め……」
「その呪文!?」
「無差別はまずいんじゃ……」
「でも、こう言う敵には有効かもしれませんね」
言っている間にも、どす黒く、そう、はやてやリインフォースが使っていたような光としての黒ではない、
墨汁のような何もかも塗りつぶすただの黒、色々な色が混ざって出来上がったような、光ってなどいないただの黒が大きくなっていく。
周辺一帯を見回し、おおよそ全体を範囲に巻き込めることを解確認してから放つ。
「ディアボリック・エミッション」
静かに言った言葉と共に、黒は急激に膨れ上がる。
周囲を巻き込み、あらゆるものを破壊しながら、半径10kmほども覆い尽くしたころ、ようやく薄まって消えていった。
後に残るのは戦闘機人の残骸ばかり、正直こうまで有効だとは考えていなかったが、ある意味当然でもあった。
戦闘機人とはいえ、知能がないに等しい今のこれらは、弱点をかばうと言う事をしない。
機械部分と生体部分のつなぎ目などは弱いのだ、この魔法は打撃力は並みだが、全てにダメージを与える。
つまりは、弱点を突くつもりもなく突いたという事になる。
「ッ! あぶねーだろ!!! アタシも一緒にひき肉にするつもりか!!」
「……すまん」
効果範囲内に人はいないと思っていたが、以外に早く到達したらしい。
それも知り合いというか、赤いゴスロリ風のバリアジャケットはどうみてもヴィータである。
怒り心頭といった感じではあるものの、俺の抱えているものをじっと見ている。
なのはは、しばらくぼーっとしていたものの、すぐに意識をはっきりさせてきた。
「あっ……あれ? アキトさん……だよね。どうしてここに?」
「まあ、いろいろあって行き当たりばったりやっていたらこうなった」
「相変わらず巻き込まれ人生だね……」
「面目ない」
小学生の子に皮肉られる俺……。
なんというかかなり空しい……。
「それで、あのこの事態はなんですか?」
「地下で遊んでいたら噴火してしまってな……」
「にゃはは……それって……あの大きいの?」
「そうなる……」
そう、戦闘機人のオリジナルは恐らくマグマだまりから、直接エネルギーを供給したのだろう。
30m程度だったはずだが、火口に出現したそれは100m近い肉の塊になっていた。
普通なら自重でつぶれてしまいそうなものだが、強力な魔法によって結界を張り、身体強化の魔法も併用しているのだろう。
身長比から緩慢に見える動きは、ところどころ音速を超えている。
そして、マグマとまだ直結しているのか、無差別に強大な破壊力の魔法を連続して発動していた。
「アレはまずいな……」
「そうだね、なんとかしなきゃ……」
「なのは、手伝ってくれるの?」
「あっ、フェイトちゃんにはやてちゃん、二人もここに来てたんだ」
「まあ、成り行きっちゅーやつやね」
「というか、やじ馬……」
「ふぇ・い・と・ちゃん?」
「なんでもないです」
3人が揃ったせいだろうか、会話に余裕が出てきたようだ。
ヴィータやシグナム、リニスにリインフォース、アルフとティーダを含めみな強い魔力を持つ魔導師が集結している。
しかし、相手もマグマから地熱を魔力に変換して吸収し続ける以上多少の事では倒れないだろう。
以前の闇の書の防衛プログラムのようにコアのありかが分かっていれトリプルブレイカーを転送という手段もあるのだが。
「リニス、リインフォース。コアの算出は可能か?」
「いいえ」
「申し訳ありません」
「マスターにもわからないのですか?」
「ああ、コアのように思える構造の部位が何十か所にも分散している。
恐らくさっき生み切れなかった量産型戦闘機人のコアだろうが。
自らのコアとそれらにほとんど違いがない様に見える」
「……それはかなりまずいかもしれないですね」
「そうだ、可能性の段階だが。最後の一つを破壊し終えるまで動き続けるかもしれん」
「それって……あのバリアを抜いて、体全体を一気につぶさないと駄目ってことじゃ」
「ひとつづつでも最後にはなくなるだろうが、その前に俺達が力尽きるだろうな」
「だったら、先ほど呼んだ大隊に来てもらいませんか?」
「ティーダ、下を見てみろ」
「え?」
ティーダの言った言葉を吟味するまでもなく、
下のほうでは先ほどのディアボリックエミッションで穴の空いた地面の一か所から大隊がはい出し、
少し減ったのだろう500人ほどで魔法を連発していた、
しかし、それらの魔法は無効化されたり、攻撃魔法で押しつぶされたりで機能する前につぶされていた。
つまり、普通のレベルの魔法使いでは全く歯が立たないということだ。
「これは……」
それにしても、管理局の戦闘要員達は魔法の規格統一をしている割には集団戦が得意じゃないようだ。
確かに、戦術も使い、魔法の砲撃も一糸乱れぬものではあるが、同時にそれなら普通の軍隊でもできる。
いや、魔力が術者に依存する以上威力が偏りがちになるのは仕方のないことだろう。
それなら折角魔法を使っているのだから、集団で唱える戦術級魔法等を作っておいてもいいはずだ。
まあ、銃も核ミサイル以上のミサイル(アルカンシェル)もあるのだ、ミサイルやカノン砲に相当する魔法もあるのだろうが。
沢山の魔導師が同じ魔法を起動し、一つに収束させる事が出来ればかなり運用の幅が広がりそうだが。
まあ、そう言う考え方自体が存在しないのかもしれないが、ふとリニスに問いかけてみる。
「多人数の魔法を一つの魔法として収束する事はできないのか?」
「難しい注文ですね……魔法光に違いがあるように、性質によっては反発する事も多いですから」
「だが、トリプルブレイカーは」
「あれは、なのは、フェイト、はやての魔法を発動して、着弾点を一致させただけです。同じ魔法とは言えません」
「だがそれでも、威力は跳ね上がっていたな」
「はい……もし、ひとつの魔法として成立させたいのなら、誰かが魔力のバランスを保つ必要があります。
魔法を同時に詠唱する、それらの魔力の流れを均一化、さらにアレンジされている部分などをバイパスし、
魔力の流れを滞らせないようにする必要があります」
「だが、それはデバイスである程度何とかなるんじゃないか?」
「そうですね、ですが……もう一つ何とかしなくてはならないことがあります。
それは魔力性質の一致です。
例えばフェイトや私は雷撃に向きますし、はやての魔力性質は広域魔法に、なのはは砲撃魔法に特化しています。
同じ魔法を使っても効果が違っていたりするのは性質と魔力の量によります」
「なるほど……」
今までそう言う事が出来なかったわけは何となくわかる。
個性とでも言うべきか、魔法には個人差が大きいのだろう。
力の大小ではなく、性質の違い。
そうなると……。
「逆に性質を利用する事は出来ないか?」
その言葉を聞くと、一瞬周りにいる人々が沈黙する。
ぽかんといった感じだ、考えてもみなかったというところだろうか。
やはり異端なのかもしれないな。
『義父さんまた面白い事を考えてるみたいだね!』
『今度は置いてけぼりにしないでください』
「アリシアにすずかか、すまないな、心配させて」
『私は大丈夫だって思ってたよ。これだけのメンバーだもん』
『わっ、私だって……でも……』
「ああ。しかし、まだ終わったわけじゃない。
……そうだな、二人に少し頼みがあるのだが」
『え?』
『はい』
二人は飛行ユニットをつけて、ひなぎくから飛んで出てきていた。
アリアとオラトリオという名前こそ同じだが、随分女性的なフォルムになったパワードスーツを着込んで。
更に先行量産型のパワードスーツを運んできていた。
丁度いいといえばちょうどいい、この演習はパワードスーツのお披露目も兼ねているらしいから、ひとつやってみるか。
俺は今の状態のままでそのパワードスーツを着込む。
久々に乗るロボットの感覚は何か違和感を持っていたが、IFS仕様でもなければコックピットの広さも違う、仕方はないな。
「作戦はこうだ、先ずは……」
「えー……それって、かなり特攻精神旺盛ですね」
「あの……出来れば義父さんのフォローに回りたいんですが」
「何言ってるんだい、フェイトまで突っ込んだら止め要員が足りなくなるよ」
「それにしても、毎回変なこと考え付きますな……そう言うところも面白いんやけど」
『マイスターはやて、あまり腹黒い所を真似しないほうが……』
「キューちゃ〜ん?」
「はうあ!?」
「ふぅ、いつも一言多いんやから……」
「マスター、くれぐれも無理しないでくださいね」
『義父さんのフォローは任せておいて』
「うん」
『私たちもがんばるから』
全員にかなり無茶を強いる方法ではあるが、一発で決められるし何より危険が少ない。
失敗しても、俺以外はさほど危険はない計算であるし、俺自身ボソンジャンプという切り札がある。
後はやってみてから判断するしかない。
俺とすずか、アリシアの三人はパワードスーツの飛行能力を駆使して巨大な戦闘機人のオリジナルに近づいていく。
オリジナルは母体として調整されていたせいだろう、色々な場所が肥大化を起こしており、人間の形を残していない。
しかし、無数に生えた手は魔法を発動しており、それらが管理局の部隊に降り注いでいる。
もうほぼ完全に火山から出てきているものの、へその尾のように火口からマグマのエネルギーを吸い上げるチューブは生きていた。
当然そこへの攻撃もあるにはあったが、マグマを通す管だ、何らかの防御法を持っているのだろう、届く前に四散した。
俺達はその間も手の隙間をかいくぐり、肉体が視認できる場所までやってきていた。
「すずか、アリシア、バリアの無効化頼めるか?」
『はい、やってみます』
『うん、わかった。やってみるね』
二人は飛行ユニットを駆使してバリアに取りつく、そして機体に取り付けられた無効化システムを起動した。
アリアとオラトリオの外装部分には魔力を押さえつける金属が使用されている。
もちろん、それだけで魔法の無力化が出来るわけではない、システムが起動すると肩の部分からパラボラアンテナが展開される。
アンテナは魔力を吸い込み、拡散させて放出する。
忍は魔法防御の一環として、攻撃魔法以外の魔法にも対処できるように、魔力を取り込んで無害化するシステムを作ったのだ。
取り付けられたのはアリアとオラトリオだけであり、先行量産型にはないのだが。
このことにより、バリアの全ては無理だが、二人の間にある空間においてはバリアが無効化された。
オーバーSランクの強力なものだったが、心配はいらなさそうだ。
そしてその間に準備を終えていた魔導師と騎士達が動き出す。
「管理局準空尉、高町なのはいきます!」
「地球外対策局出向局員、剣の騎士シグナム参る!」
「同じく地球外対策局出向局員、鉄鎚の騎士ヴィータいくぜ!」
別に名乗りを上げなくてもいいのだが、タイミングを合わせているのだろう。
先ずは、ヴィータがグラーフアイゼン(鉄鎚型アームドデバイス)を巨大化、魔法をためている無数の腕の上にたたきつける。
何本か引きちぎられたことで体が露出して見えるようになった。
そこにシグナムが飛竜一閃をもって傷を作る、すぐさま再生を始めようとするオリジナルに、
なのはのスターライトブレイカーが炸裂して風穴をあける。
それでも、さしたる痛痒は感じていないのか、再生をしつつ、他の腕で反撃の魔法を無数に打ち出すオリジナル。
アルフとティーダはそれらがはやてやリニス、フェイトに及ばないようにシールドを展開して守る。
そして……。
「あの母体……元は人間だったんやろか……」
「だとしても、既にああなってしまったものを戻すことはできません。
それに、ああなってまで生きているのはとても苦痛だと思いますよ」
「そか……そうやね……」
「それに、あれが生きていると量産型戦闘機人を生み出し続けることに……」
フェイトが指摘するまでもなく、既に新しい量産型戦闘機人が数体母体から出現しようとしていた。
このままでは下にいる大隊が襲われてしまうだろう。
憐れみを覚えていたはやても、それを思い首を縦に振って決意を表明した。
「元夜天の王、八神はやていきます!」
「時空の使途リニス、マスターの望むままに」
「えっと……義父さんの娘フェイト……いきます」
自分だけ肩書きがないことに気づいたフェイト(リニスもかなり強引だが)は恥ずかしそうに話を合わせる。
だからって、それはないだろうと思わなくもない。
というか、肩書きをつけるのは必須なのか?
兎も角、先にはやてが魔法を放つ。
「仄白(ほのしろ)き雪の王、銀の翼もて、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)!」
はやてはなのはが明けた大きな穴の中へ凍てつく冷気の魔法を叩き込む。
流石にマグマで動いているだけあって低温にはなれていないのだろう、
オリジナルの傷口の再生が止まり、そして目に見えて動きが鈍りだした。
「「我ら、真なる誓いと共に、その光もて崩壊の糸を編めり! 磁界の聖櫃(ライネメント・ロジエイション)!」」
リニスとフェイトは同時に同じ呪文を放つ、その呪文は電磁石の原理で原子の振動を一方向に固定するというもの。
ただ放つだけでは周囲の温度を奪う事くらいしかできないが、低温下でこれをされると、絶対零度に近づく。
その力はオリジナルの傷口から一気に広がり体全体を覆い尽くす。
そして、俺は今までの攻撃の間にオリジナルの真下へもぐりこんでいた。
そう、火口へと。
「上手くいったようだな、ならばラストだ!」
俺は、凍りついた体とマグマを吸い上げる管の中間に向かって、先行量産型に取り付けられていたブレードを使い切りつける。
何度か切りつけてみたものの、やはり体積比が違うためそれほど効果はのぞめないようだ。
魔法を無効化するとは言っても完全ではないし刃の部分だけのことだからだ。
やはり刃だけでは無理だと悟ると、刃を背中の鞘型ユニットに納めユニゾンしているリインフォースに確認する。
「悪いがこき使わせてもらうぞ」
(ご存分に)
俺はユニゾンしているリインフォースの魔力とサポートを元に、漆黒の刃を生みだす。
基本はブラッディダガーとかいう射撃用の魔法。
それを魔力の続く限り巨大化させる。
碗部の装甲をパージし、魔力減殺効果をうけなくすると、その刃をつかむ。
見た目はフェイトのプラズマザンバーを黒くしたように見えるだろう。
その長さは約20m、似たようなものを探すなら幅広の長騎剣といったところか。
長騎剣とは馬上から切る事を前提とした槍と同じような長さを持つバカでかい剣のことだ。
俺は、その剣をパワードスーツのマニュピレーター(手)で掴むと真横に一閃。
しかし、エネルギーを直接回復に回しているらしく、すぐに修復が始まる。
俺は、その剣を更にもう一本生み出す。
左右のマニュピレーターに一本づつ、更には、ブラッディダガーを100本近く作り出す。
一気に魔力を使ったせいか、疲労を感じるが、主にリインフォースの魔力を使っているので俺はそれほどでもない。
100本のブラッディダガーを集中砲火で叩きこみ、更に2本の剣を体事回転させて草刈り機のように連続して切りつける。
マグマをエネルギーとして取り込み、回復の魔法と防御の魔法に振り分けていたオリジナルのへその緒のような器官は、
ぶつりという音とともに火口へと落下していく。
そして、そのまま俺は2本の剣を上空のオリジナル戦闘機人にたたきつける。
絶対零度近くまで冷やされ凍りついていた上に、エネルギー供給を断たれたオリジナルの体は簡単に砕け散った。
「ふぅ……終わったな……」
(はい……、主アキト……体は大丈夫なのですか?)
「幸いにしてフェイトを庇った時の傷は塞がったようだな」
(一応は、ですが私とのユニゾンが解ければまた開く可能性があります)
「何?」
(病み上がりでアレだけ激しい運動をしたのですから当然でしょう)
「……あ」
俺は迂闊にユニゾンをとけない状態にあるらしい。
とりあえず、パワードスーツもボロボロのようだし、早く帰らないとまずいな……。
「さて、帰るか……」
(はい)
とりあえず、今は帰ることが出来る場所がある、それだけで幸せなのだと思う。
俺のやったことは正しかったのか、間違っていたのか、そしてヤマサキの動きも気になる。
しかし、今はただそれらを忘れて眠りたい気分だった……。