ファルキエという国は共産主義国家だ、国家元首の元に平等が保証されている。
自国は大国であるという自負もあり実際軍事力もそこそこ大きく、第六管理世界においてナンバー3くらいに位置する存在だった。
しかし、管理局の台頭により、この世界の軍事力そのものがほとんど無意味になってしまった。
この世界も魔法文明が発達してはいたが、管理局とは比較にならず質も量も全く相手にならなかった。
大部分の国や集落は管理局のもたらす利益に飛びつき、またまともにやっても叶わないのなら全て吸収してから、
そう決めて管理下に入り、その実数の巨大な差を前に膝を折るしかない事を知る。
だが、ファルキエは違った、社会主義の閉鎖性をフルに使い全てを締め出すことで異世界人の流入を最小限にとどめた。
管理局としても体面もあるので理由もなしにファルキエを攻める事も出来ず緊張状態のまま月日がたっていたのである。
しかし近年、社会主義の弊害である競争力の低下が起こっており、国民のやる気が低下し、他国との技術格差が開いていた。
そこで暴発したのが異世界人廃絶主義者である、
異世界人を追い出すことで平等がもたらされるという理屈にもなっていない理屈でテロリズムに走るようになったのだった。
実際問題として、異世界人が起こす犯罪は凶悪なものが多く、そういう主義が台頭する下地は整っていたともいえる。
そしてここ30年ほどそういう主義者がファルキエに逃げ込むのは定番になっており、
ファルキエと管理局はいつ戦争になっても不思議ではない状況に陥っていた。
ここでファルキエ側が失態を犯せば戦争の理由になりすぐにつぶせると管理局は手ぐすね引いており、
逆にファルキエ側は管理局が失態を犯せばファルキエの完全不可侵、
もっといえば第六管理世界からの撤退を交渉できると考えている。
こういう緊張状態の下で今回の事態は起こった。
犯人の名前は割れており、ファルキエに逃げ込んでいなければ捕まっていただろう。
しかし、ファルキエに逃げ込んだ以上不可侵を犯すわけにはいかない、管理局上層部から交渉して引き渡し命令を出すしかない。
それも確実とはいえないものだ、政府間の合意というのは数年を要することもざらだし、こじれる場合もある。
その間にヴァイス達の刑が確定してしまう、それは避けたいと俺は感じている……。
だが、当面はティーダの方がまずい、最悪犯人より重罪になる可能性がある、国境侵犯の罪は重い……。
「まったく……ただでさえ引き継ぎの事で頭が痛いっていうのに……」
「マスター……頭痛薬のみます?」
「ああ、よろしく頼む。眠くならない奴をな……」
リニスに薬をもらいながら、またル・ルシエの里へと向かう。
ル・ルシエはファルキエと国交があり、祭りにおいては巫女の貸し出し等もしているらしい。
キャロはそうした理由でファルキエに行った事があり、巫女の護衛も数人帯同していたので、うまくすれば俺達も向こうへ行ける。
おりしも今年の祭りの時期が近いらしく、ル・ルシエは新しい巫女の選抜に入っていた所であり、
俺の仕事はそこにキャロと俺達を滑り込ませてもらう事だった。
最も俺達は嫌われている傾向にあるため、交渉には代理人が必要になる。
「管理局の人間に対し協力的と言えるのかどうかはわからないが……聖王教会とは懇意らしいな?」
「はい、旨い具合に聖王教会の人間がいますしね」
「ああ、なるほど、私に交渉してきなさいというわけですか……」
「ただ付いてきたわけじゃないんだろう? 予言の事は知らないが協力はしてくれると信じている」
「もう、都合がいい女なんですね私……でも、そういうアキトさんもめずらしくていいですね」
「あら、わかりますか?」
「リニスさんほどではないですけど」
「ふふふ……」
「うふふ……」
「……?」
一瞬俺の周りが異空間になったように思えたのだが、どういうことだ?
二人の笑いに冷や汗が出るのは俺だけだろうか……。
そうして暫くして、カリムは交渉を終えて戻ってくる。
上手く了承を取り付けて来たようで、こちらとしては楽でいい。
ただ、護衛につけられるのは3人だけとのことなので、
リニスとリインフォースには申し訳ないが非実体化してついてきてもらうことになった。
一応、見た目は本人であるキャロ以外は俺とフェイトとカリムの三人だけとなる。
「……ごめんなさい、みんないっしょにいけなくて」
「気にする事はない、いる、ことはいるんだ」
「そうなんですか?」
「ああ」
「それよりキャロ、一緒に遊びましょ、トランプ持ってきたの」
「トランプですか……?」
「ル・ルシエにはトランプないの?」
「いえ、きいたことはあります」
「じゃ、ルール教えてあげるからやってみよ」
「あっ、はい!」
俺はキャロの護衛兼運転手として魔法式自動車の運転をしている。
魔法式とはいえ、システムは全く同じでハンドルもアクセルもブレーキもあった。
それに、オートマのようだったので楽することができそうだ。
後ろでは、フェイトとキャロがトランプを始めている。
3人以上でやるほうがいいんだろうが、カリムは助手席にいるため参加できない。
やりたがるかどうかは知らないが。
「娘さん達楽しそうですね」
「変に沈んでいても始まらない、楽しめる時に楽しむのが一番だろう」
「ええ、でもそう言ってくれるお父さんというのは案外少ないですよ」
「お世辞を言っても何も出ないぞ」
「そういう事にしておきます」
カリムはふふふっと口元を押さえて笑う。
俺の言った事は少し恥ずかしくはあるが、間違ってはいないはずだ。
実際、あの子たちはみな過去を振り返れば悲しいことが多い、同年代の少女と比べれば……。
もちろん、彼女らが特別不幸だというつもりはない、彼女らより不幸な子は戦争や食糧不足、水不足の国ではざらにいる。
ハエのたかる泥水を啜って生きる事を考えれば彼女らは幸せともいえる。
しかし、彼女らよりも不幸な者がいるから、彼女らの不幸を見過ごせるのかと言われればそれはノーだ。
俺は彼女らの存在を知ってしまったし、知りあってしまった。
無関係でいるには深くかかわりすぎてしまった。
全ての人を幸福にするなどという傲慢は元から言うつもりはない。
可能であれば考えたかもしれないが……。
「それにしても……これがファルキエか……」
国境を車で越えた俺達の視界に飛び込んできたのは、整然とした四角四面の畑達、そして、どこまでも一直線に続く道。
まるで碁盤の目のように、整然と並んだそれらは、ある意味感動を覚える。
しかし、同時にある種のうすら寒さを覚える光景でもあった。
これだけ整然とした形に国土を整えるには一体どれほどの労力が必要だったのだろう。
「ファルキエが目指しているものは完全な平等だそうです。
それでもここまでする事もないと考えてしまいますね」
「そうか……、なるほど頭は固そうだ……」
「そういうアキトさんも頭の固さでは負けてない気はしますが」
「頑固と言う意味ではそうかもな」
実際地球を管理局に認めさせるというのは並大抵ではないだろう。
今はなんとか順調に進んでいるように思えるが、組織規模が違う、それに、地球側がいつ暴発してもおかしくはない。
地球側の犯罪者が管理局側の犯罪者とつるむこともありえる。
問題は山積み、外交だけしていればいいと言うわけにはいかないのだ。
そんな状況で、知りあいを助けるために危険を冒そうとしている俺は馬鹿もいいところだろう。
本来なら管理局に任せておけばいいのだ、ティーダとも数度あったことがあるだけでそれほど親しいわけではない。
自己満足に家族や他人をつき合せている、そう考えると自分がいかにバカなことをしているのか分かる。
しかし、ここまで来てしまった以上やめるわけにもいかない。
何より、首都らしき町並みが見えてきていた……。
「ここがファルキエの首都、アドキアです。人口は200万人、
毎年ル・ルシエの巫女に龍誕祭の祭司を務めさせるためにだけ国交が開かれている鎖国の国と言っていいですね」
「しかし、それなら犯罪者が流れ込めば自分たちで裁くんじゃないのか?」
「それが。異世界人でない人間と異世界人では罪の重さが違うんです。鎖国の理由も異世界人の流入を避けるためですしね」
「つまり、ティーダは見つかれば即極刑と考えていいんだな?」
「はい、この警備認証の札を持っていなければ私たちも異世界人かどうか判別され、極刑になっていたでしょう」
「……」
「この国では異世界人に対する殺人は罪に問われません。くれぐれも注意してくださいね」
「わかった」
実際、街並みも人の流れも整然としたもので、どこか浮世離れした雰囲気が付きまとう。
人の住んでいる煩雑さや雑然とした感じはあまり受けない、人間はみなどこか疲れており、
表では隙を見せられないと言うような警戒心をあらわにしているように見える。
つまりは、そう言う国であると言う事なのだろう。
俺ならそんな疲れる国にいるのは御免だが、それでも住んでいる人がいる以上いいところもあるのだろう。
「それで、最初は宿舎だったな」
「はい、そのあとわたしはあいさつをしないと……」
「それは、私がつきあいましょう、アキトさんとフェイトさんは祭りまでの間に出来ることをしておいてください」
「ああ、頼む」
「よろしくお願いします」
それは一つの合図であった、つまりは俺とフェイトがティーダの捜索をし、その間の表向きの仕事をキャロとカリムが行うと言う事。
カリムもベルカの騎士である以上戦闘能力は高い、しかし、騎士である事を隠す事には抵抗があったようだ。
服装は外套を身にまとうことでよしとするしかなかった。
俺達は事前に聞いていたファルキエの装束を身にまとい、街中へと繰り出す。
人探しは目立つ行為であることはわかっている、だからできるだけ目立たないようにするため人ゴミを避け裏街道にはいる。
流石にそう言う場所には几帳面な人間ばかりではないらしい、酒場なども存在しているようだ。
俺はフェイトに一つ頷くと、酒場の門をくぐる。
幸いこの国の言語は俺の話せる地球の言葉とさほど変わらない。
通訳の魔法を使う必要はなさそうだった。
「いらっしゃい、何にするかね?」
「ちょっと軽食をもらっていいか」
「サンドイッチでいいかい?」
「ああ」
マスターに話しかけル・ルシエで手に入れた通貨を使う。
俺は怪しまれないために頭を金髪のカツラで覆っている。
姿を消しているリニスに認識齟齬の魔法で少し印象をぼかしてもらってもいる。
カリムもフェイトも金髪だったし、ル・ルシエの里には黒髪の人間はいなかった。
違和感があると怪しまれる、出来るだけ目立ちたくはないからな。
「にしても見かけない顔だね、どうしたんだい?」
「いや、少し探し物をな。異世界人かもしれない人物がこの辺に流れ込んだという噂を聞いた」
「ほう、それは初耳だね。探してどうするつもりだい?」
「何、引き渡すだけさ。報奨金も出るだろうしな」
実際、この国では異世界人狩りのようなことをやっているらしく、捕まえれば報奨金が出る事も聞いている。
とはいえ、こうあからさまだと怪しまれるかもしれない。
警戒心だけは怠らないようにしなければ……。
「そういえば、同じようなことを聞きにきた少女がいたね……。たまにそう言う子もいるから気にしてなかったんだが。
なるほど、そうなると近くに異世界人が来ているのかもしれない。くわばらくわばら……」
酒場のマスターはどこか争いごとを避けようという感じが見受けられた。
そういえば、昼時にしては人もほとんどいない、夜はわからないがどちらにしろ、あまり流行ってはいないようだ。
つまり、荒くれが少ないということだろう。
子供が時々くるということから安全な場所である事もうかがい知れる。
「それは邪魔をしたな、さて、サンドイッチはもう少し塩分を控えたほうがいい。パン自体に塩分があるからな」
「御馳走様でした」
俺とフェイトは早々に酒場を引き上げる。
収穫はなかったと言えるが、その少女と言うのが気になる……。
「あの、義父さん、ティーダさんやテロリストは本当にこっちへ来たのかな……?」
「それはほぼ間違いない、向こうの国境に面しているのは首都だけだ。
例え最終的に別の場所に逃げたにしても痕跡は残るはず……」
「それを探すんだね……」
「ああ、面倒だろうがな」
そうやって一時間ほど裏街道を歩き回り、ざっと情報を集めてみたのだが、実際全く手がかりらしきものはなかった。
とはいえ、あまり派手な聞き込みもできない。
妙な噂が立つのは早いからだ、下手をすると俺達が通報される恐れがある。
「やはり、聞きこみをしていた少女というのを探すのが先か……」
「でもその子も手掛かりを持ってないから探してたんだよね」
「ああ、否定はできないが。もしかしたらもう手に入れているかもしれない。
それに、別の理由でそういう話をして言った可能性もあるからな」
「私たちと同じように?」
「そう言う事だ」
そういう時、むしろ巻き込まれ人生である事が幸いしたのか禍いしたのか……。
こちらに近づいてくる影があった。
それも、明らかに警官の類でもない、荒くれ者というには意志が弱そうな。
まるで街の人々がよりあっただけという印象を受ける。
「歓迎してくれている感じじゃないな……」
「義父さん……あの人たちの目、怖い……」
「ああ、いわゆる、正義のためといってリンチをしたりする狂信者の目だな……」
来て早々最悪の目を引き当てたようだ、俺達が異世界人だと気づかれてはいないようだが、
そうやって聞き込みをする事そのものが彼らの生活を脅かすと考えたのだろう。
しかし、こちらは反撃することもできない、それをすればこの国全体を敵に回すことになるからだ。
何とかならないものかと視線を巡らすと、行き止まりの壁がある。
俺はむしろ二ヤリと口元を歪めた。
フェイトをひっつかむとそのままボソンジャンプで2mほど跳ぶ。
壁の反対側にさっと出現した。
「今のでうまくごまかせるといいが……」
「うっ、うん……」
フェイトは抱えあげられた状態のまま少し顔を赤くしてぼそぼそ言っている。
俺はそのフェイトを下ろすと同時に、視線を前に向ける。
丁度そこにはフードで顔を隠した少女が立っていた。
「ふえー、まさかこんな所であうなんて……」
「なのは……か?」
「うん、高町なのは13歳。潜入捜査しています♪」
「いや、明るく言われてもな……」
「にゃははは……」
とはいえ、おかしな話ではある。
ティーダ一人ですら潜入すれば大騒ぎだというのに、なのはがよく潜入できたものだ。
その辺の事に頭をひねっていると。
「フェイトちゃんも一緒なんだ。もしかしてティーダさんのこと?」
「うん、なのはも同じ目的なの?」
「というか、正確には入る前に連れ戻す予定だったの」
「それで一緒に密入国してしまったわけか……」
「それを言われると辛いなー」
「なのは、軽く言ってるけどここで捕まると重罪になるんだよ?」
「うん、でもね。ティーダさんにも妹がいるんだよ。今年10歳になる……そんな子一人身に出来ないよ」
「聞いたことあるけど……」
「そうだな、不正規入国には違いないだろう、俺たちは一応正規の手続きを踏んでいる。
まあ、熱烈な歓迎は受けたが……それはともかくせめて一緒に行動するか?」
「えっ、でも……」
「なのは、そうしよ。少なくとも誤魔化すくらいはできると思うよ」
「うーん、迷惑にならない?」
「遠慮するな。それにフェイトも喜ぶ」
「えっ、あう……」
「そっか、じゃあお願いしよっかな♪」
なのはは何とか納得したようだ、しかし、単独で先行するきらいは治っていないようだな。
後々大けがなどにならなければいいのだが……。
それから、しばらく回ってみてわかったのはこの街に住む人は基本的に事なかれ主義で、異端を嫌うようだ。
異世界人は確かにその典型なのだろう、しかし、逆にそれを追いかける者もあまりよく思われていない。
だから、情報はなかなか集まらず仕方がないので一度宿に帰ることになった。
「私も一緒で大丈夫なの?」
「何とかごまかすさ。それよりもあまりしゃべらないでくれよ」
「はい」
そうやって、帰ってきた俺たちはカリム達がまだ帰ってきていないことを知る。
幸いにして人数が増えている事は大して気にされなかった、もともと入国管理の方でしっかりやっているので気にしないと言う事か。
一応VIP扱いということになるのかな。
「そのキャロっていう子、カリムさんと二人きりなんだ」
「まあそうなるが、基本的に毎年やっている行事のようだからな、あまり気にする事はないだろう」
「でも、先に帰ってると思ったけど……」
「そうだな」
その点は少し不思議に思っていた、実際こんな何もない国なんだ事件が起きれば耳にはいらない訳もない。
国自体が拉致ということになればル・ルシエとの国交問題になりかねない。
となれば、何事かあった可能性は低いと思うのだが……。
そんな事を考えていた時、軽いノックの音が響いた。
「ただいま帰りました」
「ただいまです……」
少し疲れたような顔で二人が帰ってくる。
どうやら無事のようなので一息つくが、聞いたところによると式典の作法についていろいろ口を出されたらしい。
ル・ルシエは基本的に自然信仰であり、ファルキエは龍神の力を持って平安をもたらす事を目的としている。
似ているようだが色々と違いがあるのだろう、聞いているとファルキエ軍部はむしろその力に目をつけているようでもある。
あまり長居は無用のようだ、国との衝突は出来るだけ避けたい。
「ふえっ、大変そうだねぇ。キャロちゃんもお疲れ様」
「ええっと……」
「なのはだよ。高町なのは、フェイトちゃんのお友達なの」
「あっ、はい。なのはさんはじめまして」
「キャロったら、そんなに畏まらなくてもいいのに」
「そういうな、彼女は環境が激変している現状についていけていないんだ。フェイトも経験があるだろう?」
「あの、えーっと……うぅ……」
「フェイトちゃん赤くなった♪」
「もうっ! なのはのバカッ!」
「ふぇ、怒られちゃった……」
「ごめん、そういうつもりじゃなくて……」
フェイトの目が泳いでいる、4年前の事を思い出しているんだろう、
今でこそ砕けた口調で話す事も出来るようになったが、引き取った当初はですます調でしか話せずカチコチだった。
アリシアがいなければ、そうそう打ち解けられなかったに違いない。
なのはやはやてのお陰もあるが……。
「ふふふっ、可愛いですね。こう言う姿を見ていると子供を早く作りたいなって思います」
「まあ確かにそうかもな、もっとも俺は……娘が4人という現状に少し恐怖を抱いているが」
「恐怖ですか?」
「3人寄れば姦しいというが、正直パワー的についていけん……」
「あははは、それはそうでしょうね、みんなお父さんが好きですし」
「まあそろそろ二次性徴期だ、嫌われることになるんだろうがな」
「そうでしょうか? 本来嫌われることになる理由が発生していませんよ?」
「それは?」
「下腹が出てきたり、体臭がきつかったりで格好悪い、子供のプライベートに首を突っ込みすぎる、
それからスキンシップをしようとしすぎる、後は頭ごなしに叱るでしょうか。
どれもアキトさんとは対極に思えますね」
「プライベートに首を突っ込むというのはよくやっている気がするが……」
「それも善しあしなんです。普段から気にしすぎると嫌われますが、助けてほしい時に助けて上げないのはもっと嫌われますから」
「まあ確かにそうかもな」
話を聞いているとカリムは子煩悩になりそうに思える、俺は振り回されっぱなしの気もするが。
とはいえ、フェイトは俺の事を手伝いたいと言っているし、ラピスは既にナデシコ級の開発を任せている。
アリシアもすずかと一緒にパワードスーツの軽量化に努めている、学生の副業としてはやりすぎなのは間違いない。
しかし、俺にはそれを止めることが出来ない自分で否定していた子供に危険を与えないという事が難しい事ばかりが頭につく。
「理想の父親に近いと思うんですけど、アキトさん自身は不満があるんですね?」
「まあな、自分でも労働基準や危機管理が全然うまくいっていないのを感じる。
本来ならキャロもフェイトもここに連れてくるべきではなかった」
「それは違うよ、義父さん」
いつの間にかフェイトが俺の正面まで来ていた、真剣な目をして……。
フェイトは激しているのではない、どこか訴えるような情熱を感じる。
「私達は義父さんの役に立ちたいと思っている。
経験不足かもしれないし、命を危険にさらせば義父さんが悲しむことも知っている。
でも、それは私たちだって同じなんだよ。
義父さん一人だと心配だし、義父さんの命が危険になるなんて悲しい」
「……俺は……」
「義父さんの過去に何があったのか私たちは知らない、ラピスも深くは語ってくれないし。
でも分かる、きっと悲しいことがあったんだよね。
でも、だからって私たちも同じように失われるなんて思わないで!」
「!?」
「私たちはもしかしたら弱いかもしれない、でも死ぬつもりもなんてない。
怖ければ逃げるし、隠れて泥にまみれてもきっと義父さんのところに帰ってくるから」
「……」
「ごめん、生意気言って……でも忘れないで、アリシアもラピスも、すずかやはやてだって同じ気持ちだってこと」
「……ああ、そうだな」
カリムは目を細めて俺達を見ている、何となくだがリニスやリーンフォースがはやしたてているような気がする。
キャロだけはほえ〜という感じで見ていた。
俺は少し恥ずかしくなったので視線をそらす。
そこでは少しほほを膨らませたなのはがいた。
「……私の事は頭数に入れてくれないんだね、フェイトちゃん?」
「えっ、えっ!? でも、その……なのはも……なの?」
「えっ、ああ……これ、そういうことなの?」
「……うん」
「うーん、じゃあ私はまだ保留かな?」
「保留ってことはつまり」
「うん、参戦するかもだよ?」
「むぅ……」
俺には分からない理屈で二人は納得し合っている、カリムはくすくす笑っている。
俺自身できれば排除したい考えだが、まさか……な……。
「ふふふっ、面白いけど今は明日の事を話しあいましょ。明日はリハーサルするらしいから」
「そうか、あまり時間がないな。なのはは手がかりなしか?」
「うーん、そうでもないんだけど……」
「政府関係か」
「……うん」
そうなると、祭りに乗じて色々と動きまわらなければならなくなる。
とはいえ、噂にもなっていないなら政府関係とはいっても、政府そのものではないという事は間違いないだろう。
今はそれが唯一の救いか。
その日はどこから糸口をたどっていけばいいのか、5人で頭を悩ます羽目になった……。