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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 45 仕事も趣味も全力投球。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/09/16(火) 01:09公開   ID:m5zRIwiWPyc
「だから、協力してくれとは言わない、せめて不干渉でいてほしい」

「不干渉だと? 馬鹿を言ってもらっては困る。

 我々は地上を守るのが仕事だ、うみの奴らはどうか知らんが、我々の領域にまではいってくるようならば考えがあるぞ?」

「……だが、あのガジェット共の排除に関しては……」

「それこそ以前君達に技術提供してもらったパワードスーツがある、我々はドラグゥーンと呼んでいるがね」


そう言って、自分たちが改造しただろうパワードスーツのスペックを見せる。

もちろん、詳細は伏せているようだが、元々の性能よりもかなりパワーが上がっているようだ。

地球で作っているパワードスーツはどちらかといえば戦車などと同じで高速移動と砲撃というシステムだが、

管理局で作られているものは魔法を封じて近接戦闘で仕留めるようなシステムになっているようだ。

魔法対策は特殊装甲によるもので魔法による攻撃をある程度無効化する。

当然そんな装甲の中から直接外部への魔法は使えないため無効化している間に接近して仕留めるという形をとっている。


「なるほど、戦力は充実しているというわけか」

「そういう事だ、以前の我々と思ってもらっては困る」

「だが未だに戦闘機人事件の解決はできていないようだな」

「何が言いたい?」


戦闘機人による襲撃事件では死者がかなり出ていたはずだ。

管理局の時効がどれくらいかかるものなのか知らないが、少なくともまだのはずだ。

あの時の事件、ヤマ……いや、スカリエッティが起こした事件は解決されていない。

あの後あいつは俺のいた世界にいって山崎博士として火星の後継者にもぐりこみ、遺跡演算ユニットを調べ上げる。

正直、止められるなら止めたかった。

だが、止めたところで火星の後継者は事件を起こしたろうし、ジャンパーを実験台として攫っただろう。

そういう意味ではあまり変わらなかっただろうが、戻ってきたあの男が何を始めるのか、それが恐ろしい。

だが、レジアスはもう終わったこととして処理しているようだった。

もちろん、捜索は続けているし、部下を失った恨みもあるだろう、しかし、奴が戻ってきて悪事を働くという考えはないようだ。


「結論から言おう、奴はミッドチルダに戻ってきている」

「何を根拠に?」


そう、根拠とするものは薄い、しかし、ここで下がるわけにはいかない。

実際問題として、俺がすずか達と出会ってからの事件の関連性を見ていくと一連の事件につながりが見えてくるのだ。

即ち、人間を改造するとでも言うのだろうか、人間を長生きさせる、生き返らせる、兵器としての力をつけるなど、

方向性は違うものの、みな人間を強くするとでもいえばいいのかそういう方向性をはらんでいるように見える。

俺へのナノマシン大量投入ですら、

俺を殺すというよりは人間がどこまでナノマシンに耐えられるのかという事を探っていたようだった。


そして今、聖王教会から漏れ出てきた話に一部の上層階級の人間はパニックになっている。

それは、聖王の遺伝子の流出、どういうルートで漏れたのかすらわからない情報だが、聖王とは神のごとき力を持っていたとされる。

即ちそれを元にルリちゃんのような遺伝子操作された子供を作りラピスのようなコピーを作り出す事が出来るという事。

つまり、彼女らの悲しみをまた増やしてしまうという事でもある……。



「聖王の遺伝子の話は知っているはずだ……」

「ふん、ようやく出してきたかその話を。

 しかし、その話はお前たちの組織の母体をつぶしかねない事を知っているんだろうな?」

「当然だ、表ざたになれば連鎖崩壊的に連盟は潰れるだろう」

「ならば、私にその話をするという事の意味も分かっているのだろう?」

「表向きは当然それによって得をするという事になるだろうな。

 しかし、裏のほうはどうかな?」

「ふっ、全く、単純なようでいて要点はわかっているようだな……」


そういうと、レジアスは壁のボタンを一つ押した。

すると、部屋の窓がシャッターに覆われ、更には結界が発動したのがわかった。

しかし、それは随分と静かなもので、電波や念話、音などを外部に漏らさないためのもののようだ。


「貴様がどういう野心で動いているのかは知らん、しかし、大事なものはあるのだろう?

 今回の事は動きがばれれば恐らくお前は進退きわまることになる」

「それは当然だろうな、まあそうならないために動きまわっているわけだが」

「まったく、犯罪者をかばうからそういう事になる」

「犯罪者とはいっても、彼女ら自身に罪があるわけではない。その辺りは資料からでもわかっているだろう?」

「犯罪者というのはな、事情がないものなどいないのだよ。いざ聞いてみればどこかに同情できる部分がある。

 しかし、それらをいちいち許していては法は成り立たない。

 たとえば、確かにはやてという少女には罪はないだろう、しかし、闇の書が殺してきた者に対する謝罪は誰がすればいい?

 闇の書自身にさせる事は出来る、しかし、法律上それには意味がない、そして、今や君がその主となっている。

 それはつまり、彼女か君がその責任を負う必要を持つという事だ」

「その法というものは確かに重要だろう、俺に責任があるというならば八つ裂きにされても文句は言えない。

 だが、その許しならば本人達の前に出ることでもらっている」

「ほう……なるほど、何年か前そういう話を聞いた事はあったな。お前が関係者に謝罪して回っているという話を。

 だが、それが何だというのだ? 謝罪すれば罪が許されるとでも?」

「死者は戻ってこない、自己満足にすぎんさ」


それでも、はやてが付いてくる事を志願した時は断ったものだ、それでも彼女は動かなかった。

結局根負けして一緒に回ることになったのだったな。

実際リインフォースの首を絞めた者、銃を撃った者、魔法で攻撃してきたもの、飛びかかってきたもの、泣き叫んだもの、呆然としていたもの。

中には逆に心配してくれたものもいた、しかし、全員を回る頃には疲れ果てていた事は事実だ。

何故なら10数年周期で数十人から数百人規模の被害を出している、回るべき人数は万に及んだ。

回りきるのに役3年をかけた、仕事の合間にやったとはいえ、毎日その話をするのは正直つらかったと言える。


「そもそもお前が抱えているのは、犯罪者の身内や予備軍とされるものばかりだ。

 それらを犯罪に走らせないため、我々から守るためにお前はここまでやってきたというのか?」

「否定できないのが痛いな、だが半分だ。もう半分の理由を言う気はないが。

 それよりも話の続きと行こうじゃないか、時間は有限だろう?」

「まったく貴様は……分かっている、俺とてこのまま終わるつもりなどないのだからな」


裏の事情、そう、レジアスとて今は俺の事など構っている暇はないはずなのだ。

だからこその不戦協定なのだから、俺とて自分の事情がなければこれを利用しない手はなかったのだが、

それで協力を取り付けるのも後が怖いからな……。

裏事情を交えつつ、話は順調に進んでいった。






















『へーあのレジアス中将から賛成してもらうなんて、どんな魔法つこうたん?』

「魔法なんかじゃないさ、お互いの痛いところをさらしあっただけの話だ」

『あー、話してしもうたんか、出来るだけひろめたくはないんやけど』

「レジアスは元から知っていた。思ったよりも広まっているらしいな」

『聖王教会も結構俗物のあつまりなんやな……ちょっと幻滅したわ』

「それが普通だ、それに、聖王教会というのは神をあがめているわけじゃない、

 300年ほど前まで実在した王をあがめている、俺達の知る宗教とは少しばかり毛色が違うだろう」

『そんなもんかもしれへんけど……』


はやての念話を聞きながらミッドチルダを走る、とはいっても相変わらず専用車両を用意されており俺はただ座っているだけだが。

ヘリなどの方が早いのだろうが、6課の出撃のために出来るだけ残しておきたい。

俺はもっぱら車移動とあいなる。


『そんで次は騎士カリムのところへ予言の調査ですか、がんばってくださいねー』

「……どっちにしろ謎かけにすぎない。ああ言うもので先を見通すのはしたくはないんだがな」

『そんなんカリムさんが聞いたら悲しむで』

「性分というやつだ、カリムの事が嫌いというわけじゃない」

『それやったらええけど、用心して。今は向こうも荒れてる頃やろうし』

「だろうな……」


聖王の遺伝子、それは協会にとって門外不出のものだった。

理由は二つ、ひとつは最も濃い血を引く法王を立てるため。

もう一つは聖王が降臨してしまうと権力機構の改編を迫られるため。

そう、神をあがめるのと違い、聖王が現れてしまえばそれに従わざるを得ないのが聖王教会の特性だ。

今までも聖王復活を望む声はかなりあったようだが、現法王とその一派が抹殺していた。

しかし、聖王が現れてしまえば法王とて信徒の一人にしか過ぎなくなる。

法王一派がやっきになるのもわかるというものだ。

ただ、噂の真偽は明らかでないが現法王がその手引きをしたというものもある。

それだけ情報が錯綜しているという事なのだろうが、まずい状況ではある。


『分かってるとは思うけど、猊下関連の話はノータッチで頼むな。私らも微妙な立場なんやし』

「ああ、捕まらないように努力する」

『それは今一信用でけへんのやけど……なんせアキトさんは巻き込まれ型やしなー』

「……それは」

「主、そろそろ主アキトは聖王領に入りますので解放してあげてください、怪しまれてはいけませんから」

『そか、会話してると時間たつの早いね。そんじゃアキトさんの事くれぐれも頼むわ』

「了解、不思議な事件に巻き込まれないように最善の努力をします」

「はっ?」

『うんうん、予想外の事が多いやろうけど頑張ってな!』


途中から会話に参加した護衛のリインフォースは俺を放っておいてはやてと盛り上がっている。

どうやら二人の中では俺が妙なことに巻き込まれるのは確定事項らしい。

俺はため息をひとつついて、目の前に迫った聖王領を見る、見たところ一つの国が入りそうなほどの領域を一つに区切ってある。

だからか、町なども何百と存在する、だから領土内でも教会本部や霊廟、都市部など色々わかれている。

俺の行く場所はあくまでカリムのいる騎士団の霊廟だけであり、法王に会う事はあり得ない。

人もあまりいるような所ではないし、巻き込まれる事はまずないだろうと思う。

しかし、確かに不幸な偶然が起こりうるという事はあるから油断をするつもりはないが……。


それから半時間ほど走り、騎士団の霊廟にたどりつく、その名の通り墓であるので人気はあまりない。

ただ、いわゆる外にある一般の墓とは違い、死体を霊廟の中で保存しているため気温は15度ほどしかない。

雰囲気は威圧的であり、同時に荘厳でもあった。

計算された建築物というのはこう言うものなのかと感じさせる。

中を進んでいくと、恐らく礼拝堂のような広間が広がっている。

部屋の入り口では2人ほどが中央を見守るように佇んでいた。


「お邪魔していいかな?」

「テンカワ様……はい、もう少しでカリム様の祈りが終わります」

「やあ、テンカワ、最近忙しくやってるらしいね」


一人は、シスター服を着て赤毛をボブカットにした落ち着きのある女性。

もう一人は管理局の士官服を着込んだ緑色のロン毛の男、男の方は長身だがあまり落ち着きがある風ではない。

この二人は、シスター:シャッハ・ヌエラと査察官ヴェロッサ・アコース。

どちらもカリムの身内といっていい存在だ。

シスターシャッハはカリムに幼いころから仕えていたらしいし、ヴェロッサの事は引き取って育てたらしい。

カリムも見た目は兎も角、現在は既に二十代も後半、そろそろ…………!?


「あら、カリムさまが気がつかれたようですね」

「それは好都合だな」

「大かた姉さんの年齢の事でも考えてたんじゃないの?」

「ロッサ!!」

「はっはっは、ジョークだよ、ジョーク!」

「何がジョークなのかしら?」


いつの間にかヴェロッサの背後には、金色の髪を腰のあたりまで伸ばした、

そう見た目は20歳になったばかりといった感じの女性が立っていた。

俺も把握するのがやっとというほどの速度でヴェロッサの背後に回ったのだ、凄まじい身体能力だといえるだろう。

魔法で増幅しているにしてもだ。

次の瞬間、ヴェロッサを背後に投げ捨て、表情も変えずに微笑んでいるその女性の名をカリム・グラシアという。

ヴェロッサはいい感じに首から落ちて気絶したが全く気にしていないらしい、シスターシャッハは急いで応急手当をはじめた。


「アキトさん、リインフォースさんいらっしゃい、何もない所だけどとりあえず部屋へ案内するわ」

「あっああ……」

「ありがとうございます」


暫くして、客間らしき部屋に案内されると、紅茶を手早く入れたカリムは3人分テーブルに置く。

そして、自らもゆったりと優雅に座った。

俺は先に座っており、リインフォースは俺の背後から動かない。


「リインフォースも紅茶飲まない? これでも結構自信があるんだけど」

「遠慮しておきます。私の任務はあくまで主アキトの警護ですので」

「でもあなたの主はどう思っているかしら?」

「……そうだな、となりに来てお茶をいただいてくれ、俺もそう堅苦しいのは苦手だ」

「よろしいのですか?」

「ああ」

「わかりました、ではご相伴に与かります」

「はい、お茶菓子もありますので召し上がれ」


カリムは表情に笑顔を張り付けているので読みにくいが、今は少なくともプレッシャーを出していない。

つまりは、ほぼ表情の通りの感情表現なのだろう。

逆にリインフォースは無表情だが、表情筋があまり動かないだけで感情はだだ漏れに近い。

悲しければ涙を流すし、恥ずかしければほほを染める。

そういう意味で交渉にはあまり向かないタイプではあった。

しかし、今回は交渉をしに来たわけではない、だから同席を許したと言ってもいい。


「それで……教えてくれるか? その内容を」

「はい、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)における予言内容は、

 権威の破壊、そして新たなる王というものです」

「権威の破壊に新たなる王?」

「解釈次第でどうとでもなるのは、この能力の悪いところでもありますが、100%の予知は人を狂わせます。

 そういう意味では強すぎないという事も悪いことではないとは思います」

「まあいい、それでこの預言をお前はどう解釈しているんだ?」

「権威の失墜はほぼ間違いなく、管理局の崩壊でしょう」

「管理局の崩壊だと……」


管理局の崩壊、それは連盟にとって良い事のように思われるかもしれないが実は良くない。

管理局という組織の大きさを考えれば突然消滅などという事になれば元となった国々で戦争が勃発したり、

また連盟がその戦争に巻き込まれる可能性も高い。

泥沼の戦争で疲弊すれば連盟が有名無実のものになる可能性は高い。


「だとすれば新たなる王とは来るべき乱世を制する者という意味か?」

「それは……実は良く分からないんです。解釈を考えてもどれもしっくりこないような……」

「では、権威の失墜について細かい事は分かるか?」

「塔の崩壊、恐らくは地上本部が崩れ落ちるという事ではないかと思います。

 それが起こった後、太陽が空へと昇るとあります。この詩文をどう解釈すればいいのかはわかりません」

「何か、起こるというよりは何かが出現するという感じだな」

「そして、新たなる王きたりて世界はその有りようを変えると。

 原文はもっと長いのですが解読できたものをつなげるとそうなります」

「世界の有りようを変える……また分かりづらいな、政権交代とか世界の統一という解釈をするのは難しいか」

「そうなります」


やはり抽象的でどうとでも解釈できる内容だった。

ただ、カリムが言いきった、権威の失墜は管理局の崩壊でほぼ間違いないという言葉は気になる。

この予言を元に行動するのはつらいが、管理局関係には目を光らせていないといけないだろう。


「それから、これは補足的に覚えておいてほしいのですが」

「ん?」

「例の遺伝子が流出した後、そのルートを辿ってみたのですが……」

「管理局か?」

「!?」

「やはりな……」


俺は一つ物事がすっきりしたのを感じた。

やはり、つながっていたのだ奴らは……ならば次はどういう手を打ってくる?

だが、よく分からない事も多い、ガジェットが狙っているレリックというロストロギアがどういうものかもよく分かってはいない。

そもそも、奴らは人を改造してどうしたいのか、俺には分からないことだらけだ。


「ならば余計に目を光らせなければならなくなった。俺としても動きづらい事だがな」

「こちらからもアプローチはかけてみます。ですが……」

「評議会の動きまでは流石にな……」


そう、10年間この世界と関わってきた俺だが、評議会の議会員そのものにはとんとお目にかかった事がない。

執行官と呼ばれる使い走りは何度か見かけたことがあるが。

奴らはどいつもこいつも傲慢が服を着て歩いているような奴らだった。

有能なのは間違いないのだろうが……あれでは、手足である”うみ”や”おか”との連携はままならないだろう。


「もう一つ懸念事項があるのだが、あちらの件は対処可能か?」

「疑念は出るでしょうが、データとクローンを管理局より早く回収できればもみ消すことができます」

「クローンはもう作られているとみるべきか」

「はい、時間的に考えれば」

「……一人ならいいのだが」


正直ラピスの時もそうだったが、いわゆるクローン技術での生産は大抵予備も作られる。

用心深い人間が行う場合別々の場所で作られることすらある。

遺伝子データもどこに納めてあるのか、時間がたてばたつほど拡散していく可能性を秘めている。


「大々的に捜索しても構わないか?」

「できればそれは遠慮してほしいですが……名目さえ他の物なら問題はないと思います」

「なるほど……わかった、出来るだけ早急にデータの根本を突きとめよう」

「そうしてくれると助かりますが、現場へは案内する事が出来ないのが残念です」

「まあ、聖王教会の最秘奥に当たるわけだからな、だが、場合によっては……」

「その時は既に聖王教会も崩壊しているでしょう、我々がする事はそれをさせないことです。

 私も内部から出来るだけ協力しますので、お願いします」


カリムはそう言って頭を下げる。

俺としても、やるべき事をやるだけなので頭を上げるように言う。

法王に権威失墜されては、連盟崩壊の危機に立たされてしまう。

それだけは阻止しなければならない、連盟が発足した意味がなくなってしまうのだから。


俺とリインフォースは、カリム達と別れ、帰途へとつく。

正直六課の存続の危機なのだが、俺としてはあまり気にしてはいなかった。

なぜならば、聖王教会が倒れるという事は管理局にも被害が大きい、だから連盟を認めたのであるし。

よほどの事でもない限り外交カード以上の使い方はしないだろう。


だが、一点だけ、実際に聖王が現れてしまえば法王は権威を委譲しなければならない。

そうなれば、方針そのものが変わってしまう可能性が出てくるのだ。

やはり、急いで回収に当たらねばならない。

幸い現在レリック事件は多い、先ほど取り付けてきた不干渉の条約が役に立つだろう。


「しかし、連盟設立のタイミングに合わせたようだな」

「スカリエッティが裏で糸を引いているとお考えですか?」

「どうかな、幾つかは確かにスカリエッティだろうが、何か奴だけの意図ではない気がするな」

「そうでしょうか、今のところ情報が整理しきれていないので私からは言えませんが」

「そうだな、それより今日はスケジュールはどうなっている?」

「後残っているのは、訓練の視察くらいですが」

「今日はだれが指揮をとっているんだ?」

「全体指導はリニスが担当しているようです。

 そして、実力が伸びそうな人員を隊長や副隊長として使うため、

 数人をなのはとフェイトが特別メニューで鍛えていると聞いています」

「スパルタだろうなぁ……」

「恐らくですが……」


実際、なのははスパルタ教育をしてきたのは、教導隊でいた頃から同じだった。

しかし、今急速に鍛えて使える部隊にしたいというのは少し急ぎすぎだと思わざるを得ない。

きちんと動ける部隊を作るには普通に考えて1年はかかる。

そもそも、戦闘訓練以外にも機械知識やサバイバル技術なども必要だし、

そして警察権も行使する以上、座学による犯罪学及び法規の学習、捜査実習、現場検証などというカリキュラムもある。

爆薬や銃器、ヘリや戦車などの運転といったものは魔法世界のである程度軽減するだろうが。

ともあれ、そういう細かい部分まで詰めていくと3年でも厳しいかもしれない。

だが、どうにもその辺りにおいて戦闘訓練だけ詰め込もうという性質が若い人間には起こりがちだった。

なのは自身もその辺りで失敗した事は多いはずなのだが。


「あまりそちら系の訓練ばかりさせているようなら、一度中断してでも技術のほうを取得させるべきだろうな」

「たしかに、幸い六課には力の有り余っている人員は多いですので、いざという時はそれを使えばいいでしょう」

「ふっ」


それは暗に、自らとリニスを戦闘に参加させろと言っているのだ。

まあ、俺としても戦力は多いに越したことはない、それも悪くはないな。


「俺自身どうにも天才ばかり見てきて感覚がおかしくなっているところがあるかもしれん。

 せいぜい気をつけないとな」


そうぼそりと言って、六課へ到着した直後、訓練の様子を見に行く。

リニスがやっている事は基本的に連携訓練だった。

だが、そもそもそれぞれ違う組織で動いていた人間であるためぎこちない。

動きにはばらつきが多く、まだ組織だっているとは言えない。

しかし、感は悪くないのだろう個々にはよく出来ている者も多い。

俺はざっと見て回ると動きのいいものを記憶するように努力する。

なにせ、早めにそういう奴らを昇進させなければ、それぞれの小隊が機能しない。

シグナムもヴィータもまだ完全には隊をまとめ切れていないようだしな。


そうして見て回った後、なのは達の元へと向かう。

やはり戦闘訓練を始めているようだった。

別段間違ってはいないのだが、管理局とは方針が違うという事も含め、言っておかねばならないだろう。


「あっ、義父さん」

「フェイトか、ここでは課長か署長と呼んでほしい所だが」

「うっ……努力します」

「それよりも、この訓練どれくらいになるんだ?」

「ここ一週間は毎日6時間続けてるけど」

「……それは」

「あっ、フェイトちゃん、ってどうしたんですか? 課長」

「なのは……毎日6時間ぶっ続けなのか、彼女らは?」


10人くらいの人間が、かなり疲れた表情をしつつ、敵弾回避や、砲撃、近接などの戦闘訓練をしている。

実際かなり強いのだろうが、正直へろへろに見えるのは気のせいではあるまい。


「戦技教導というのはこういうことをしているのか?」

「うーん大体こんな感じだけど、何か問題があるかな?」

「一番の問題としては他の事に時間が割けなくなるという事だな。ここにいる人間は戦闘だけを担当させるつもりか?」

「それは……」

「どちらかというと、そういう感じかな。実際、分担した方がいい事も多いし」

「だが、ひと通り習わせるのが通例だ、理由は他の分野の知識を持たない人間は、連携も取りづらいからだが」

「……なるほど」

「あまり急ぎすぎなくていい。総合力を高める方向で頼む」

「それって……」

「せめて、一日2〜3時間くらいにして後は他の方面に回してやれという事だ」

「うーん、でも倍の日数になると1年かけても連携取れるかわからないよ?」

「構わん、それまでは、飛びぬけた奴らに頑張ってもらうさ」

「……それって」

「そういう事だ、幸いここにはAAAランク以上がわんさかいるからな」

「あははは……」


実際、リニス、リインフォース、なのは、フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ、ラピスも含めて8人。

その上に、パワードスーツ部隊が加われば、魔導師部隊がなくてもほぼ問題ないともいえる。

もっともパワードスーツ部隊も新設されたばかりだから、まださほど連携は取れていない。

しかし、魔法無力化装甲の安全性は高く、よほどの事がない限り怪我もしないだろう。


「そういうわけだ、あんまり根を詰めるなよ」

「はい、分かりました課長!」

「ごめんなさい……」


まあ、なのはの熱意は分かっているつもりなので、

これからはその辺のバランスを取るために、一緒に座学を受けさせるのもいいかもしれないと考えていた。

もっともこれのせいで、実働部隊が統制の取れた動きが出来るようになるまでの日数が延びてしまったのも事実ではある。

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ちょっとくらいは訓練もww
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