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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 48 脳の皺を数えたい。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/09/19(金) 01:05公開   ID:m5zRIwiWPyc
「完成度32%……まあ現段階にしてはそこそこ高い能力を手に入れているけどね。

 彼の眼ざめの時はできれば90%以上の完成度にしておきたいね……」


ここはスカリエッティの研究室、まだ誰にも見せていない本当の研究成果がある。

最も先ほど言ったようにその完成度はお世辞にも高いとは言えない、あくまでスカリエッティ本人の考えにおいてはだが。

そして、その事を一人語って悦に言っているにしては、彼は何か確信があるようだった。

言葉に反応してか、その研究室に影がにじみ出る。


「それが、貴様が我らを生かしておいた理由か……」

「ええ、貴方の目的とも合致すると信じていますが? なにせあちらで再起することはもう不可能でしょう?」


影は、一瞬動揺したように体を揺らす。

しかし次の瞬間にはもう何事もなかったように平静な声音で話を続けていた。


「酔狂な奴だな貴様も」

「僕は研究を完成させられればそれでいい、その後の事は貴方達の好きにしてもらって構いません」

「研究こそ全てというわけか」

「僕の生きる理由そのものとでも言っておきましょうか」

「……我らから見てもそれは本末が転倒しているように思えるが……」

「大丈夫、結果は残して見せますよ」


スカリエッティは影に対し、どこか楽しそうに、そして少し羨ましそうに眼を細める。

影は全く反応を見せなかったが、少しの間沈黙した。

だが、次に紡いだ言葉は事務的なものに過ぎなかった。


「では、我らは何をすればいい?」

「前から何度か貴方達には教えたことがあったと思いますが。

 僕の目的は、究極の生命の創造なんですよ。彼がそうなるためには、出来るだけ早急にアレを確保してもらわないと」

「では彼奴を?」

「いいえ、そちらは一応こちらの手ゴマで先にやってみます。貴方は……」

「了承した、しかし約定違えることがあれば……」

「ええ、私の命で償いましょう」

「……」


あまりに簡単に己の命をかけるスカリエッティに対し、

自分が緊急時にどうとでもできるようにされているのではないかと疑ったが。

実際のところ、スカリエッティにとって、自らの死は研究が少し滞る程度の意味しか持たない。

自らのバックアップは多種多様な方法で取っているため、自分が死んでも研究が続いていく自信はあった。

もちろんだからと言って仕込んでいないという意味にはならないのだが……。



























『後3分持ちこたえてんか、リインフォースとリニスががそっちに向かってるから』

「3分……ね」


ラピスは冷や汗を流す。

遊軍を動かしているという事は本体はガジェット対応で精いっぱいなのだろう。

目の前の少女、いや幼女と言ってもいいかもしれない。

彼女の使うガリューとかいう人型の虫は、バッタから発射するミサイルをよく避けている。

このまま追い詰めれば倒せる可能性もあるとは思う。

しかし、ルーテシアという少女はさらに次の何かを呼び出しにかかっている。

ここが重力波アンテナの圏内であれば、こちらもどんどん召喚を重ねて相手の息切れを待っただろう。

だが、ここはアンテナの圏外であるため、魔力は自分のものを使うか、周囲に漂う薄い魔力を集めるしかない。

3分の間次の召喚がないとは思えないし、向こうに援軍が現れないとも限らない。


「こんな場所でゆっくりしている暇はないんだけどね……」

「それは私も同じ」

「意見が合うね……」

「うん……」


しかし、互いに目は逸らさない、無表情に冷徹に弱点を探る。

言っている間にもルーテシアは召喚を完了させ、ダンプカーのような大型の昆虫を呼び出す。


「インゼクト・ジライオー」

「……オモイカネ、再召喚いける?」

『通常召喚は難しいかと』

「私の魔力を直接変換した場合は?」

『バッタ10匹で5分といったところでしょうか』

「それで充分ね、召喚!」


ジョロとバッタが5匹づつ追加召喚された。

しかし、ラピスがオーバーSであるのはオモイカネのサポートのおかげであり、

リンカーコアからの魔力はそれほどずば抜けてはいない。

そのため、今の召喚だけでもかなりの消耗を強いられた。


「くっ、2機を残して散会し各自攻撃を開始」

『了解、AIサポートは任せてください』


バッタ2匹を残して各自が攻撃を開始する。

しかし、ガリューは素早いためとらえきれず、ジライオーは重力で壁を作っているらしく、攻撃がはじかれる。

だがこのまま時間を稼げばラピスの勝ちだと言ってもいい。

応援の戦力は2人ともオーバーSの一流魔導師と同等の力を持つ存在だ。

実際、攻めあぐねているルーテシアには焦りの色がある。


「時間がないみたいね」

「あなたほどじゃない」


互いに牽制に近い細かいやり合いばかりになり、時間がたち始める。

しかし、もうすぐ3分というところで、ルーテシアの後ろから、雷撃の魔法が飛んできた。


「……誰?」

「貴方達、ようやく来たの」

「待たせちゃってごめんねぇ、私達あんまり外向きじゃないから」

「それよりも、皆殺しでいいのぉ?」

「なら最初は私よ〜」

「好きにして、後は任せる」

「「「はぁ〜い」」」

「なっ!?」


見るのは初めてだったが、黒髪黒衣の女魔導師、それも雷撃使いだとすればプレシアクローンだろう。

それが3体。

技術の方は兎も角、魔力はオーバーSばかりという事になる。


「この会場にそれだけ力を集中するということは、何かあるという事」

「さあね、私たちはただ貴方達を皆殺しにするだけだから」

「じゃあ特大のをお見舞いしてあげる」

「あーら、なら私の方が先に攻撃できそうね」


踵を返したルーテシアは丘を下り森の中に入ってしまった。

眼で追うのはもう無理だろう、目の前の敵に集中するしかない。

だがテクニックは兎も角パワーだけは3人とも大したものだった、

ディストーションフィールド(DF)を発動したバッタやジョロを雷撃系の魔法で破壊してみせたのだ。

DFは重力による空間歪曲の防御だ、質量攻撃ならともかく炎熱系はほとんど無効化するはずだったが、

雷撃そのものは歪んでも、熱は伝導させて見せたのだ、流石に効率が悪いのか数回撃って一回のペースではあるが、

それでも3人いるため、徐々に追い詰められていくラピス。


「まったく、インフレが過ぎる……」

「そろそろ終わりみたいね、もっとその虫出してみる?」

「大丈夫、死んでも博士が研究材料にしてくれるからぁ!」

「じゃあ、バイバーイ!!」


護衛に付けた2体のバッタ以外居なくなった状態で、3人による連続魔法が放たれる。

視界が焼けつくほどの雷光を受けて、ラピスはしかし目を閉じてはいなかった。

その光の先にあるものを見つめていたからだ。


「なんか久々の出番って感じですね」

「最近は事務仕事の手伝いが多かったですから」


雷光を切り裂いて現れたのは、リニスとリインフォース。

元々はそれぞれ東側と西側の守りについていたのだが緊急事態という事で駆けつけてきたのだ。

逆にいえばここ以外は南側を任されているザフィーラのみという事になる。

二人は、基本スペックとしてもプレシアコピーより上であると同時に経験が段違いである。

その上奇襲ということもあり、3人を相手取って逆に圧倒していた。


「最近はマスターの護衛をする事も減ったのでうっぷんがたまっていたところです! 派手に行きましょうか!」

「なっ……ラピス下がるぞ!」

「えっ……!?」


リニスは左右で持っていたカタールを二つ握りの部分で重ね合わせぶんぶんと回転させる。

すると、握りが半分回転し、横向きだった握りが縦に変わり、更には5倍ほどの長さに伸びる。

数秒でさきほどまで2本のカタールだったものが、1本の両側に穂先のついた槍となっていた。


「雷鳴よ!」


リニスは呪文を唱え始める、とはいえ、それは今までフェイトに教えた事があるものとも、プレシアの持っていたものとも違う。

それは、魔力供給に不安の無くなった今だからこそできる大魔法。


「雷撃系? ふざけてるんじゃないわ!」

「私たち3人に敵うと思ってるの!?」

「死んじゃいなさい!!」


3人がそれぞれ叫びながら雷撃魔法をリニスに放つ。

しかし、それらの魔法はあっさりリニスの作っている雷球の中に吸い込まれる。


「なっ、何? その雷球……」

「聞いた事もないそんな魔法……」

「とにかく連打で圧倒しないと!」

「無駄です!」


リニスが言葉を返すとたしかに、雷撃魔法は全て無力化する。

雷球は徐々にスパークを繰り返しながら巨大化、そして、プレシアコピー達へ向けて放たれた。


「雷震(プラズマクエイク)・異質化(アナザーシフト)!!」

「雷撃系魔法は全部無駄だって言うの!?」

「それだけじゃない、魔力を吸収されてる?!」

「うそ……逃げられない……」

「正解です。この雷球は周囲の魔力を雷に変換して吸い込みます。

 更に、特定の魔力波長だけに影響を与えるようにも出来るんですよ」


リニスは表情を変えていない、しかし、怒りを持って相手に対している事は確かだ。

リニスは元々プレシアの使い魔なのだから、プレシアがこんな風になってしまって悲しくないはずはない。

せめて、フェイトやアリシアがこれを目にする事がないように一瞬で葬り去る事が彼女の使命とそう考えていた。

そして、そのために、雷撃に対して最強の魔法を作り出した。


「もうそろそろいいでしょうか、消えてください」

「「「!?」」」


プラズマ球が瞬間的に肥大化し、3人のプレシアコピーを飲み込む。

次の瞬間には3人とも電子レンジと化した球体の中で沸騰し蒸発し消滅していた。


「さて、かなり派手にやってしまいましたけど大丈夫でしたか?」

「それはまあ、離れていたからな」

「でも、貴方も結構エグい事するわね」

「これでも人の親のようなものですから」

「フェイトにアリシアか……幸せ者ね」

「あら、私はラピスの事も含めているつもりですけど?」

「それって、アキトの奥さんは私だというつもり?」

「さてさて、どうでしょう?」


しかし、言われてみるとテンカワ家の食卓はリニスがいなくなるとアキトが作るしかなくなる。

フェイトは少しは上達してきたみたいだが、それでもお手伝いレベルだし、

はやてやすずかが一緒に住めば話は別だが、それは別の意味で遠慮したい。

それに、掃除も洗濯もリニスは完ぺきにこなす、家事のエキスパートだった。

最近はどことなくエリオやキャロにもなつかれている、更には魔法に限らず勉強を教えるのも上手い。

よくよく考えればリニスはどこに出しても恥ずかしくないテンカワ家の母である。


「ね? 私がお母さんじゃないですか?」

「うっ……」


不覚にも二の句が継げないラピスであった……。






















外部でそういう戦いが繰り広げられていたころ、ホテルアグスタ内部にも襲撃してくる人間がいた。

予想通り、外部は陽動だったようだ。


「ここじゃ大きな魔法は使えない、ともかく地下から出現してくるガジェットだけでもなんとかしないと!」

「そのまえに、避難誘導の指示が必要や、なのは、フェイト、暫くここお願いな!」

「うん、でもあまり長く持たないかも。後から後から湧き出してくるし」

「30分もあればなんとかなる」

「30分って長いよ……」

「はやてちゃん結構きつい……」

「そんな事言うたかて、避難誘導は時間がかかるもんなの!」

「そりゃそうだけどね」

「じゃあ行ってくる、キューちゃん!」

「ふぁぁ〜なんですか? マイスターはやて」

「避難誘導、急いで終わらせるよ」

「あっ、もう作戦中ですか!? わかりました! 頑張ります!」


はやては、飛んで行くキューエルシュランクを追う。

まあ、あれではやて本人よりも移動に関しては小回りが効くので避難誘導では役に立つだろう。

なのはとフェイトはほんの少し和んだが、直に正面からやってくるガジェットに向き直った。


「じゃ、フェイトちゃん。私達もがんばろっか」

「そうね、なのはバックアップお願い」

「うん、フェイトちゃん!」


戦闘方式はフェイトがバルディッシュを構え前衛を務める。

フェイトは一応万能型ではあるが、スピードも武器も前衛型なのも事実、

一人の時はあらゆるポジションを兼ねるが、集団戦では前衛を務めることが多い。

また、なのはは防御力は高いがスピードは低く、砲撃は得意だが、

近接戦闘用の武器は強化などのないレイジングハートそのものか、バリアバーストのようなカウンターしかない。


「でも地下から出てくるって……」

「フェイトちゃん、今は戦闘に集中して!」

「うん。バルディッシュいくよ!」


フェイトが気づきかけていたこと、それは正しい、このガジェットはサポートを受けていた。

もっとも、そのサポートも出てくるまでにすぎないが、既に100以上のガジェットを出現させ終わっており、十分役目は果たしていた。

なのはもフェイトも多いとはいえガジェットなど敵ではなかったが、ここは狭いホテル内、

まさか自分でホテルを破壊するわけにもいかず、小技で一体づつ破壊なり行動不能なりにしていくしかない。

神経を使う作業となり、なかなか思うように効率よくはいかなくなっていた。


「でもこれなら30分以内に片付けられるかも?」

「うん、もう出てこなくなったみたいだしね……」

「って、え!?」


そう言って少し安心していた所に、地下から突然の襲撃があった。

なのはもフェイトも実戦経験の多さからそれを察知し飛びのくが、出現したものに驚愕する。


「あの半分蛇みたいな戦闘機人……まだ生き残りがいたんだ……」

「結構大きい……こんなのにホテルで暴れられたら、ビルごと倒壊しかねないね……」

「うん、バインドか凍結で動きを止めて、出来るだけ早く無力化するよ」

「わかった」


二人の目は鋭くなっている、それはそうだ、全力を出せない上に相手に全力を出させるわけにいかなくなったから。

後はスピード勝負ということになり、手足や尻尾等を一気に刈り取るか、行動不能にして見せなければならない。

彼女らの戦いは、制限の多い辛い戦いになりそうであった。

























「さて、あれだけ陽動をかければ流石にここも……」

「それはどうかな」

「えっ、まさか……」

「待っていたぜ、他のところの応援要請に駆けつけられないってのは正直痛かった」

「全くだ、主はやても酷な役回りをやらせてくれる」

「ちぇ、本当にまだ戦力を残していたみたいですね」


ブルーのボディスーツを着てツインの三つ編みとメガネをした少女はため息をつく。

そこは倉庫、本来なら競りに出されるはずのロストロギアが置かれている特殊倉庫だ。

相対しているのは、シグナムとヴィータ、どんな事があってもこの場を動かないようにという命令を受けていた。


「まったく、管理局みたいに簡単にはいかないからって派遣されたのに。

 その私が足止めされてたら意味がないですよね。まだまだ修行が足りないかな?

 本当はまだ使っちゃいけないって話ですけど、緊急時ですし使わせてもらいますね」


そう言って手をかざすと召喚魔法らしきものが発動した。

彼女が使っているのではない、しかし、魔力も出ていないようではある。

それは、シグナムやヴィータはよく知っている、そう、あの男と同じ移動方法。

つまりは……。


「貴方達だけがあの力を使えるわけじゃないってこと見せてあげますよ」

「もしや……」

「けっ、いつかはくるんじゃねぇかと思ってたが。来やがったか、なんとかジャンプ能力者」

「烈風、陣雷、貴方達の契約を果たしてくれるわよね?」

「(こくり)」

「我らが悲願をかなえられるなれば」

「ならばお行きなさい」


言われた組み傘に和風の忍装束のような服装の男たちはシグナムとヴィータに向かって疾駆する。

シグナムはレヴァンディンを下段に構えてカウンター狙いの姿勢をとるが、ヴィータは構えもしない。

グラーファイゼンは室内戦闘には向かない、一応広い倉庫ではあるが、彼女はシグナムに防御を任せることにした。


「ケェェェェ!!」

「殺ャァァァァァ!!」


匕首(あいくち)を構えて突っ込んでくる二人。

ぱっと見る限りではシグナムにはレヴァンティンの餌食になりに来ているようにしか見えなかった。

しかし、次の瞬間二人の姿はかき消え、突然背後から出現する。


「クッ!?」

「チィッ!!」

「全くこいつら!!」

「ああーー!?」


それでもシグナム達の対応は早かった、既にアキトと戦った事があるシグナムにとってはわかりきっている事だし、

ヴィータも能力についてはよく知っていた。

そのため、匕首を防がれた2人は少し動揺するも、シグナム達が攻撃を加えるころにはボソンジャンプ体制に入っており、

5mほど距離を取っている。


「その程度の距離、アタシにとってみれば無いもおなじなんだよ!」


そういいつつ、グラーファイゼンの柄の部分を伸ばす。

伸縮自在がクラーファイゼンの真骨頂である、10m先でもそのハンマーは届く。

しかし、届く寸前目標としていた烈風はまたジャンプで逃げる。

いや、今度は懐へと飛び込んできた。


「伸びきったところへ!?」

「ヴィータ!!」


匕首を突き出しヴィータを刺そうとしたところにレヴァンティンを割り込ませどうにか止めるシグナム。

しかし、受けてみてわかったのは、この匕首はバリアジャケットなど紙のように引き裂くだろうということだ。

実際、刃が通過したヴィータのスカートの一部が切れている。

戦闘は膠着状態を作り出しつつあった、決め手はあるが防御の厚さに攻めあぐねる男たち、

逆に攻撃も防御も強力だが、ボソンジャンプを追いかける術のないシグナム達。

これが野外戦闘ならば、シグナム達が圧倒的に部があるだろう、

飛びまわってジャンプで背後をつけないようにすればパワーの差で押し切れる。

しかし、場所が悪い、普通の部屋ならともかくここはロストロギアの倉庫。

安全と言われているとはいえ、いくつも同時に発動すればいったいどんな効果が出るのか予想もつかない。

対して相手は匕首のみ、ここでの戦闘にはとことん向いているといってよかった。

それを見てニタリという笑いをもらした青いボディスーツの少女は今のうちとばかりロストロギアを漁り始める。

目的は、ロストロギアそのものか、その中でも特殊なものだろうと予想はしていたがこのような状況では止めに入るのも難しい。

シグナムとヴィータは歯噛みした。

































チンクとセインに連れられて、ルーテシアは目的地である機動六課の本拠地、六課ビルまで来ていた。

いつもなら警戒網を突破したところで、迎撃に来る隊員が多すぎて対応できないのだが、今は極端に人員が減っている。

魔導師部隊は、メイン1、2小隊、サブ3、4小隊として全部が出払っているし。

パワードスーツ部隊は1、2小隊がメンテナンスで動けない、

よって実際稼働しているのは第3、大4小隊だけとなり、戦力は実質4分の1にすぎない。

とはいえ、その4分の1も正面から戦う事になれば事ではあるが、博士がやていたコネがうまくいったらしく、

今はあまり見たことのないパワードスーツ部隊との交戦に忙しいようだ。


「今襲撃すれば、旦那も助けられるんじゃない?」

「確かに、これ以上の準備は無理だろうな。所でアギト、お前も付いてくるのか?」

「ああ、アタシだってゼストの旦那のために何かしたいんだ」

「そうか、じゃあトーレ姉様が動くのを合図に突入する」


そう、トーレもここに来ていた。

ライドインパルスの超加速で見咎められることなく内部に侵入を果たしている。

しかし、流石に地下を通って来たセイン達ほど安全にというわけではないが。

彼女の任務は撹乱だったが、博士のコネがうまく働いたため、さほど派手にやる必要はなさそうだった。

だが、流石にパワードスーツ部隊用のハンガーに来たため、声をひそめ息を殺して動きを止めている。

配置を完全に把握しようという意図だったのだが、不意に背後に気配がある事を知る。

そこには、黒いボディスーツを着た金髪の少女が腕を組んで立っていた。


「貴方、戦闘機人ね。丁度よかったわ。最近私空気みたいな扱いで参ってたのよ。

 まあ、貴方もここまで侵入してきたんだし覚悟はしてるはずよね?」

「……」


トーレは背後に振り向きざま、両手と両足のインパルスブレードを展開、首を狩りに行く。

しかし、その動きは、相手の片腕でつかんで止められてしまった。

それもその女がつかんでいるのは脚ではなくインパルスブレードなのだ。


「なるほど、この武器も魔力を元にしたものなのね。なら、私を傷つけることはできないわ」

「ライドインパルス!」


その女が次の言葉を紡がないうちに、トーレは超加速に入った、そして最初はここに来るまでに仕掛けた爆弾を起爆。

しかし、10個以上仕掛けたはずの爆弾は一つしか爆発しなかった。

それも、それはルーテシア達がいる方向に仕掛けたもの、つまりは合図だけが成功してしまったのだ。

この意味を悟った時、トーレは目の前の女を排除してすぐに向かわねばならないと考えた。

そして、拳をかため、女に向けて振りぬいた。

だが……。


「ライドインパルスかぁ、便利だね」

「なっ!?」

「でも超加速なんてレアスキル、私に触れても発動状態を続けられると思ったら甘いよ!」


そう、女……アリシアが着ているのは、魔力を完全に拡散させる特殊なものだ。

すずかが使っていたものとは違い、全く魔力を使わないため完全防御を実現している。

それはあらゆる魔法効果を半径2mの範囲で弱体化、触れればほぼ無効化する。

彼女のライドインパルスは筋力の強化などを魔法で行っているという解釈であるため、

筋力強化神経系の加速などがキャンセルされたのだ。


「まさかそんなものを開発していたとはな……」

「こっちは主戦力に魔法が使えない人間がいるからね、開発も早いんだよ」

「だが、戦闘経験はどうかな!?」


魔法を無効化したところで身体能力の差は埋まったわけではない。

すずかのように人間以外の力を持つなら別だが、確かにアリシアでは戦闘力そのものは期待できない。

しかし、アリシアの手甲がスライドし、そこから銃器がのぞいた事で表情を引き締める。

当然、アリシアもそこのところは分かっていたのだ、後はどちらが先に攻撃を決めるかのみ。


「はぁぁぁ!!」

「くぅっ!!!」


互いに体をのけぞらせながら、自分の攻撃をHITさせようとした結果、お互いを吹っ飛ばす結果に終わる。

そして、その結果としてトーレは2m以上離れることに成功した。


「ライドインパルス!」

「無駄よ! アタシに魔法……ってえ?」


逃げ出していた、戦士のような心構えがあるトーレではあったが、

勝ち目が薄く、目的とも関係ないとなれば彼女は逃げるのもいとわない。


「すずか、ごめん、逃げられた!」

『仕方ないよ、防衛する範囲広いし、次がんばろう』

「うん、でも……」

『私たちの任務は捕まえることじゃないよ、大丈夫』

「うっ……わかった。じゃあそのまま待機するよ」

『うん、お互いがんばろ』


アリシアはすずかとの交信を終了する、

分かってはいた、しかし、それでも勝ち切れなかった事は悔まれた。

普通の人間がああいった輩とやりあえるようにするのがすずかとアリシアの役目だ。

それゆえ魔法を使って勝つという事よりも使わないで勝つことの方が優先される。

だが、実際はすずかのように特別な力がないとまだ一流の魔導師相手では完全に勝ち切れないのが実情だった……。
























「これでほぼすべてのコマを打ち終えたということになるかな。俺とスカリエッティが打つ将棋のようなこの戦場で」


俺は、不快でありながらも、どこか思い通りに事が運んでいる事に充足を感じている。

互いに駆け引きをしながら、思う場所に誘導していくという形をとったせいだろう。

後は落とし所、つまり隠しゴマの効果はどちらが上か、それしだいで結果が決まる。


「そろそろ、準備をさせてもらうか」

「了解しました、こちらの事はお任せください」


シャマルに礼を受けて歩き出す。

想定外なほど相手は大ゴマを打ってきている、うまくすれば一気に形勢を傾ける事も出来るだろう。

知恵比べなのか力比べなのか、この状態を作り出したスカリエッティの遊び心に感謝すべきなのか怒るべきなのか。

感情はごちゃごちゃしているが、目的だけははっきりしている。

この機にスカリエッティを追い詰める。


「次の知恵比べお前の仕掛けは一体何だ?」


どこか楽しみに、しかし、へどが出そうな不快な気持で俺はつぶやいた。

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■作者からのメッセージ
六課襲撃1度目ですw2度目も予定していますw
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