「助けてくれるという訳ではなさそうだな」
「ああ、お前を見つけたなら秘密裏に抹殺せよと博士のお達しだ」
「ふっ、後一か月もすれば自然とくたばるものを……」
ここは、六課の地下牢、逃げだしたように見せたトーレはしかしそのまま潜伏し地下牢へとやってきていた。
元々彼女の任務は撹乱であるが、余裕があればゼストを殺せと言われている。
ゼストは既に強制力を魔力で取り払われており、今は敵対者でしかない事は分かっていた。
秘密をべらべらしゃべられるのも困るが、何より味方だと思ってしまうものが一部いることを懸念しての行動だ。
ルーテシアはもとより、ナンバーズにも数人彼の事を味方であると思っているものがいる。
下手をすればそう言う場所から崩されかねない。
「しかし、面白いように当たるな」
「何がだ?」
「俺も始末に来るだろうとは思っていたが、単独で来るとは予想していなかった」
「単独でも貴様を倒せる事は知っているはずだが?」
「ふっ……」
「何がおかしい?」
「何故俺が単独でいる必要があるんだ?」
「!?」
その時、トーレはとっさにいまいる場所を飛び退く。
ゼストの声に反応してというよりは、背筋が凍るような感覚から逃れるためにと言う方が正しい。
そう、彼女が寸前までいた場所には黒塗りの刃が突きだされていたからだ。
「間に合ったか、タイミングは合わせたつもりだったが」
「……テンカワ・アキト……」
「トーレとかいったか、初期型だな……戦闘加速が出来るタイプか」
「既にゼストが漏らしていたか……」
「ああ、いろいろ聞かせてもらった」
黒塗りの刀を構えるのは六課の制服に身を包んだテンカワ・アキト。
まさか、ターゲットが二人とも同じ場所にいるとは考えていなかった。
しかし、ある意味チャンスでもある、問題は二人を無力化する方法のほうだが……。
「ほう、面白いことになっているようだなトーレ姉様」
「チンク……テンカワ・アキトは任せた、近づかずに戦え」
「了解した」
上の階からチンクが顔を出す。
元々彼女らは念話をオープン状態にして作戦に臨んでいる。
彼女らが騙される事はあっても、念話さえ届けば互いを把握できる。
つまりはそう言う事だ、そして、ゼストといればどうなるか分からないルーテシアはセインに任せて来たということだった。
そうして、各自が各自の敵へと向けて駆け出す……。
俺は、敵と味方の戦力比をコントロールしながら現在の状況を作り出した。
最もかなり偶然の要素も多い、実際敵の強さは予想外と言ってよかった。
ナンバーズが来るだろう事は予想していたが、念話の事を失念していたのも事実だ。
もっとも、この六課の内部でそんな事をすれば普通なら誰かが感づく、しかし、今は人員も最低限しかいない。
その隙を突かれた格好だ。
しかし、相手の能力はゼストのお陰で幾分判明している。
例えば今俺と相対している幼女と言ってもいいような外見の戦闘機人はチンクという。
ストレートに流した銀髪と、何故か片目に眼帯をしていて、
トーレと同じように青いボディスーツに身を包んでいるが、その上からコートを羽織っている。
コートの中にはナイフが大量に仕込まれておりナイフは放たれると爆発するらしい。
トーレの加速もだが、確かに屋内戦闘向きではある。
俺の持つ魔法無力化の剣でどれくらい無効にできるのか、魔法を元にしていないなら全く防げない可能性もある。
「確かセインとかいったか、潜入要員は今いないようだな」
「よく調べている事だ、だがッ!」
「やってみろ!」
「なっ!?」
俺は唐突にチンクが投げたナイフに向けて手をかざす。
意味があるのかと言われれば、集中の助けとするだけだ。
ナイフは俺に触れる直前、消滅し、チンクの足元に現れる。
チンクの足元は爆発し、軽い驚きと共にジャンプで範囲から離れようとする。
しかし、俺はその間に間合いをつめていた。
「ボソンジャンプの事は知らなかったか?」
「さあ、どうかな!」
チンクは一方の手にナイフを持ち俺の持つ黒塗りの刃を止めると、同時にもう一方の手でナイフを投げた。
小さい体からは考えられない力だ、戦闘機人というだけの事はある。
しかし、俺はナイフに視線を合わせると、またチンクの背後に向けて飛ばす。
「同じ手は二度もらわない!」
「させるか!」
飛び込んでこようとするチンクに合わせて、足を跳ね上げて蹴りを繰り出す。
しかし、チンクはニヤリと口元をゆがめ、俺の繰り出した足に向けて、投げた掌に隠していたもう一本のナイフを突き立てる。
俺は咄嗟に足を引いてダメージを軽減したが、それでも足から血が滴っている。
「爆発するとは限らない」
「なるほどな……」
そう、俺が背後に飛ばしたナイフは爆発しなかった。
元々そうして俺の心の隙を突く作戦だったのだろう。
しかも今、間合いを取った事でチンクにナイフを抜く隙を与えてしまった。
今は片手に4本両手で8本のナイフを指の間にはさんでいる。
「一気に行くぞ!」
「ふっ、やれるものならな」
8本のナイフは時間差をつけて俺の急所に向けて放たれる。
爆発させるつもりなのか違うのか、判断はわからないが、俺の対処は簡単だった。
ジャンプで一気に間合いを詰め、ナイフの攻撃をスルーし、チンクに向かって突きを放つ。
チンクは軽い動きで回避を行うが、コートが刃に引っかかった。
俺はそのままコートを突きさし、チンクごとぶん回す。
「なっ!?」
まわしたせいで、コート内部に収納されていたナイフがばらばらと落ちる。
俺はそのまま壁に叩きつけるように、チンクを投げ捨てた。
「結構な量をため込んでいたものだな」
「ふん」
俺はチンクが鼻で笑った瞬間ボソンジャンプで20mほど引き下がる。
俺のいた場所は爆発で見るも無残なものとなっていた。
これは修理費が高くつきそうだなとそんな事を考えている自分がいたが、次の行動を予測する。
恐らく俺をどうこうするのが難しいと分かった今は、
組みしやすいと考えている(手の内を知っている)ゼストを倒すのを優先するだろう。
ゼストが簡単にやられるとは思えなかったが、チンクの能力に対しては、加速か俺のジャンプでもなければ厳しいだろう。
そうして、俺はゼストのいる方向を知覚する。
予想通り、チンクはそちらに向かっていた。
任務を優先するところは流石と言えなくもない。
しかし、それをさせるほど俺も甘くない。
近くに落ちていたナイフを拾い上げると、チンクの方に向かって投げつけた。
多少目暗撃ちだったが、演算システムのフォローはかなりのものらしく、肩のあたりを貫くことに成功していた。
「グッ!?」
俺はそのままチンクを押さえつける。
チンクは俺を睨みつけようとするが、肩を抑えられているためそれも出来ない。
俺はその状態を維持しつつ、周辺を再度確認しようとした……。
しかし、タイミングはあまり良くなかったようだ。
「お嬢!?」
「ごめーん、ルーお嬢様さっきの爆発で気がついちゃったみたい」
「どういうことなの?」
ルーテシアと呼ばれた少女、あれは一瞬呆けてしまいそうになったほど、昔のラピスそっくりだった。
だが、もう一人その姿に似た人間を知っている、メガーヌ・アルピーノ。
かつてのゼストの部下であり、クイントの相棒……なるほど、よく似ている。
しかし、場面はよくなかった、ちょうどゼストは倒れ伏しており、
相打ちに近かったのだろう、トーレも倒れてこそいないがかなり傷ついている。
更に、俺はチンクを拘束していた。
これを見て、彼女の立場なら全て俺がやったように見えても不思議はない。
「これは全て、こいつがやったことだ!」
「ちっ……やはりそう言うか……」
「当然だ、妹達の結束のためにも……」
俺は瞬間的に考えた、このまま言い訳をしても無駄だろうし、
そもそも今はまだ敵方なのだ、ゼストの言っていたとおり保護するというわけにもいかない。
そして、ゼストを助ける事も出来ない、しかし、逆に俺がいなければルーテシアの手前ゼストを殺す事は出来ないだろう。
ならばと、俺はこの場からボソンジャンプで消えることにした、拘束したチンクを伴って……。
「木連式抜刀術、影鳴り!」
「ちぃ、分身の術ってか? 今時古いんだよ!」
「もう一人が消えた? そこか!」
「ふっ、やるな、しかし!」
戦いを続ける北辰衆とシグナムやヴィータを知り目に、ドゥーエは品定めを繰り返す。
実際ロストロギアらの中でもその品が見つからないはずはなかった。
何故なら、いてられている箱の番号は分かっていたし、その箱の中身を考えれば大きさもわかる。
しかし、それでも見つからなかった。
可能性としては立ち並ぶ箱の奥の方に配置されている場合だが、そうなると周りの箱をどかさなければどうにもならない。
「厄介ですわね……」
しかし、彼女は戦闘機人としては知識を生かすタイプであり、力仕事は苦手だ。
魔法で吹き飛ばすという方法もあるが、それをすれば六課の2人を自由にしてしまうだけであり、その後を考えれば不利だ。
その上、時間がたてば足止めのガジェット達が倒される可能性も出てくる。
つまり、今は苦手とも言ってられないので力仕事に精を出すしかない。
「ふぅ……この箱は……これも違う……」
そんな風にして探すこと10分ほど、ようやくそれらしき箱が見つかった。
北辰衆はまだ足止めをしてくれているが、このままでは追い込まれそうでもあった。
次の戦いまでには魔法処理を施しておいた方がいいと考えつつ、箱に手をかけると、その箱を中心に転送陣を書き始める。
しかし、その途中で背中を叩かれた。
「何者!?」
「いやあ、面白いもん見れたなぁ、アンタがスカリエッティの組織幹部かいな、蒼い全身タイツってほんまやったんや」
「なっ? お前は避難誘導をしていたはずじゃ……」
「うん、してたよー。そんで終わってからなのはちゃんらに加勢せんとこっち側にまわってきたんや。
今が一番狙い時やさかいね」
「……狸が」
「褒め言葉として受け取っておくわ、策謀考えるのが仕事のドゥーエちゃん♪」
「クッ」
そう、今は確かにはやての方が有利であった、はやてとドゥーエは共に近距離戦は得意ではないが、
遠距離戦闘ははやての方が上、つまり離れられないという事。
更には北辰衆は押されてきている、このままではジリ貧は確実だった。
「仕方ない……」
先ほどの魔法陣はほぼ完成していた、それゆえ、彼女は無理やり転送することを選んだ。
下手をすれば目的地から遠く離れた場所に出現するかもしれない、しかし、それでも脱出の方が先決だと判断した。
この時点で北辰衆のことはもう頭から捨て去っている、そもそも彼らが勝てないからこうなるのだと言い訳もしていた。
「させるか!」
はやては転送陣に術式を加えてつぶしにかかった。
それも、転送陣の構造をよく分かってここをつぶせば転送できないと知ってだ。
だが、完全には間に合わず転送は完了してしまった。
ただ、目的の箱はえぐられたように入口が破壊されたのみで中身は無事なようだった……。
「魔法を魔法でコーティングするって言うのも面倒だけど、効果はそれなりにあるみたいね」
「へぇ、流石ティアだね。私なんか殴ってるだけだよ」
「まあアンタの場合、魔法攻撃と物理攻撃で二重に当たるからさほど問題ないんでしょうけど……」
現在ラピスが取りこぼした50体近いガジェットの破壊を2個小隊を持って行っている。
20人の隊員と、副隊長が2人、という状況ではあるが今のところ被害もなく、順調に破壊作業は進んでいた。
ティアナとスバルも活躍していたが、流石にハイペースでというわけにもいかない。
地道に数を減らしていた。
とはいえ、その敵もおおよそ破壊が終了しようとしていた。
「後3体だっけ? 私たちの受け持ち範囲の敵」
「もう、2体よ、向こうでBチームの方が破壊してたわ」
「あっ、あっちでも1体破壊したみたいだね」
「後は最後の……って、え?」
「うわぁ、おっきいねぇ……」
「のんきに感心してる場合じゃないわよ! こちら第二小隊C分隊! 巨大ガジェット発見! 救援を請う! 繰り返す!」
『了解、第二小隊A分隊3分で向かう』
『B分隊、同じく2分で合流する』
『こちらD分隊、すまんが少し離れている5分ほどもらえるか』
因みに、今は副隊長のいるA分隊と成績の良かったティアナ、スバルのB分隊が2名であり、
副隊長も含めれば2名のチームはスバルとティアナのチームだけということになる。
新任ではあるが、それぞれのチームが近いという事もあって任されていたのだが、2分というのは案外長い。
自分たちだけでこの大型を相手できるのか不安であった。
「仕方ないわね……スバル、コンビネーションCで行くわよ」
「うん、思いっきりやるぞー!」
この隊に配属されてから、彼女らは自分たち用のコンビネーションをいくつか編みだしていた。
ティアナなど一時は管理局の出世コースから外れたと嘆いてもいたが、ここの空気が気に入ってもいた。
因みに今は関係ないがティアナの兄はテンカワ・アキトとは直接関わってはいけないと念押ししていたが、
ティアナは階級的にも、派閥的にも、直接会うような事はないと一笑に付してもいた。
そんな事を思い出し少し苦笑したティアナは、デバイスを2丁拳銃の形体にすると、乱射するように次々魔力弾を打ち出す。
無詠唱で連射が出来るのがこういう銃型デバイスの特権だ。
まだ、兄のように命中精度100%とは行かないが、それでも弾幕には十分だ。
続けて、スバルがウィングロードを展開し、その上を滑って加速をつけながら、魔法の起動準備に入る。
「ディバインー!」
スバルは大型ガジェットの前まで来ていた、しかし、弾幕が尽きる直前、ガジェット側からの反撃が来る。
それは大型のレーザーに見えた。
ディバインバスターに匹敵しかねないほど太い光。
ティアナは距離が離れていたため兆候が起こってすぐスバルに退避するように言いながら射線から離れる。
しかし、スバルは気がついても回避行動をとろうとはしなかった。
「バスターーー!!!」
放たれたビームに向かってディバインバスターをぶつけるスバル。
確かに出力で上回れば砲塔ごと破壊してしまう事が可能だろう、しかし、相手の出力は未知数だ。
というか、5m近い巨大さを思えば、並じゃないことはスバルだって気づいていたはずだった。
「うっ、くっ……」
「大丈夫? スバル……」
「うん、義手がちょっと……でも、問題ないよ」
ティアナは落下してきたスバルに駆け寄り被害状況を確認すると顔をしかめる。
スバルは両手を負傷していた、ディバインバスターで力負けしたせいだろう。
彼女の言うとおり義手なので最悪取り換えは効くが、だからと言って看過していい話ではなかった。
「でもパワーで負けて、コンビネーションが効かない、後1分ほど増援が来るまで時間がある。どうしたらいいかな?」
「例のアレはごめんよ、隊のみんなにどう説明すればいいと思ってるの」
「うーん、でも……」
「とにかく、次の策を練るわ……時間稼ぎでもいい、私一人でだって後1分くらい何とか持たせて見せる」
実際、この巨大な敵は3人増援が来たところで倒せるか怪しい、小隊全員がそろえばなんとか倒せるかもしれないというレベル。
一対一などとなればシグナムやヴィータといった隊長クラスを呼んでこないと無理だろう。
スバルにもそれは分かっていたし、ティアナは彼女が力を使った後の事を心配している事も知っていた。
「もう時間がないみたい……」
ティアナが必死に新しい策を練っている間にも、巨大なガジェットは接近してきており、
このまま見過ごせばホテルアヴィスタに直撃する。
そうなれば、六課の権威は失墜、避難はしていると思うが死傷者が出ないとも限らない。
「ごめんね、これは僕の独断専行だから、気にしなくていいよ」
「待ちなさい! まだ策は……」
そうは言うものの実際にはまだ思いついていない、ティアナは自分のふがいなさに歯ぎしりをした。
スバルは雰囲気が変わっていく、目が普通の瞳から、まるでカメラアイのようにズームレンズが何重にも浮き出たものに変わり、
両手も硬化してナックルを装備した腕は無機物そのもののように見えた。
「ワァアァァァ!!! クダケロォォーー!!」
戦闘機人モードに移行したスバルは、巨大なガジェットを逆に翻弄し、カメラアイを叩きつぶし、震動破砕で巨体を叩きつぶした。
その力は正に圧倒的でティアナは力に対する嫉妬と憧れと、使わせてしまったことへの悔恨が渦巻き、
そして同時に自分がもっと臨機応変に動けたならと最後は自虐的な思考へとシフトしていった。
「大丈夫!?」
「へへへっ……あんまり大丈夫じゃないみたい……まだ、この力使い慣れてないし……」
「すぐに六課に搬送するから!」
そう言って、ティアナは念話の回線を開き、許可を経てスバルを搬送させることにした。
だが、ティアナの中ではまだ先ほどの思考がぐるぐると回っていた事は否定できない事実だった。
「敵戦力が撤退を開始しました!」
「補足はできていますか?」
「はい、現在それぞれの念話プロープは十分機能しています」
「そうですか、予定通りですね」
六課の司令室、課長補佐代理と言うよく分からない臨時職を与えられたシャマルは、今までの戦況をほぼ把握していた。
なぜなら、念話プロープと呼ばれる発信機を取り付ける作戦をアキトが元々指示してあったからだ。
このプロープは見た目は透明なシールに過ぎず、服の上から張られても感触や見た目では判別しづらい。
そしてプロープは倒しにくいと判断される幹部クラスを全て標的とし、倒せなくとも追いかけることができるようにしている。
ゼストは自ら、そして敵対したトーレに対して、はやては同じくドゥーエに対して。
流石に接触できなかったセインにはつけられていないが、ルーテシアのほうは召喚されていたガリューに張り付けられている。
雑魚の動きはいつもと同じで、それぞればらばらに逃げ散っていくが、
そもそもガジェットは補給を自分で行えるため基地を必要としない。
つまりそちら方面からは相手を追えないのだ。
「それで、こちらの方には何があります?」
「砂漠地帯が広がっているようですが、どうやら地下に拠点を構えているようですね」
「なるほど……ではそれらの情報を課長に報告しましょう、念話は……」
「大丈夫だ、護送は終わった。戦闘機人は眠らせてある」
「わかりました、そちらは人を回します」
シャマルはほうと一息つく、アキトが帰還したことにより課長代理補佐の任はアキトに返上し補佐にもどる。
つまり、責任をアキトに無事返すことが出来て肩の荷が下りたのだ。
司令卓にはアキトが座り現状をチェックしている。
どうやらほとんどの場所で決着がついたらしい。
直接マーキングしているためボソンジャンプで呼び戻せるリニスとリインフォースがアキトの背後に出現する。
「ラピスの補佐ご苦労だった」
「いえ、私は何もしていません。リニスが一人でやってしまいましたので」
「えーっと、あはは……出番もらっちゃって怒ってます?」
「そんな事はありません、私に感情はありませんので」
「いや、怒ってます。というか、血管額に浮き出てるじゃないですか、その分かりやすい表現やめてください!?」
リニスとリインフォースは少しじゃれあっていたが、
リインフォースの言いたいことはおおよそ分かるものだったので、アキトはあえて口を出さなかった。
つまり、一人で背負い込むな、水臭いということだろう。
「ラピス主任、なのは魔導師部隊長、フェイト魔導師部隊副長は消耗が激しく今回の任務は難しいと思われます
シグナム第一魔導師小隊長、ヴィータ魔導師小隊長ともにかなりの消耗度かと」
「わかった、では追撃は俺、リニス、リインフォース、はやて、すずかの5人で行う」
「ちょっと待って! 私は?」
トーレとの戦いの後司令室に詰めていたアリシアは、アキトに自分が参加できない理由を問いただす。
だが、それに対する返答は簡単なものだった。
「まだ、そのスーツはボソンジャンプに対応していない、
魔導師でなければボソンジャンプのさい失敗して消滅する可能性がある。
追撃は早さが命らかだな、今回は休んでいてくれ」
「うっ……、仕方ないわね。でも、出来るだけ早くスーツの改良お願いするわ」
「わかっている、今開発しているのがジャンプ対応の改良版のはずだ、数ヶ月まってくれ」
「……わかりました」
不満は残るようだったが、アリシアは引き下がっった。
追撃を間をおかず行うのは、逃げる時間、迎撃準備を整える時間、ボソンジャンプに対する対応策を練る時間をなくすためだ。
アキトもまさか、北辰衆が出てくるとは思わなかったし、そうであるなら奴が守りについている可能性が高いとは思っていた。
しかし、相手に対し数で押しこむにはまだ足りていないものが多い。
ボソンジャンプで送り込むのはこの数が限度だ。
「既に先行して”彼ら”に動いてもらっている。手柄をくれてやってもいいが、
”彼ら”が深部まで行きつくまでにスカリエッティ達が逃げ出す公算が高い」
「私たちの役目は足止めというわけですね」
「その通りだ、無理そうなら撤退してもかまわん、責任は”彼ら”にとってもらえばいい」
「スケープゴートですか、ですが……」
「リニス、話しこんでいる時間はない。はやてが到着次第突入する」
「はい、マスター」
そうして、しばらく待ち、ポータルを利用して帰って来たはやてを含めた5名による奇襲作戦が開始されることになった。
「へぇ、リアクションが早い、これはつけられたね……」
「申し訳ありません博士……よもやこんな……」
「いや、いいよ。それより彼生かして連れてきたんだねぇ……そうなると、再洗脳しかないわけだけど。
あんまりやると、崩壊しちゃいそうだし……向こう側にも仕込まれてると厄介だ……さてどうしたものだろう」
「なら、今からでも……」
「駄目ですわトーレ姉さま、そうすればルーテシアお嬢様に嫌われてしまいます。
今出せる貴重な数の戦力を使えなくするつもりですか?」
「クッ……」
ここは、スカリエッティのアジト、とは言ってもスカリエッティはアジトを複数持っているためここが潰れてもさほど問題はない。
ただ、どうしても運び出しに時間のかかる研究資材が幾つかあるためそのための時間稼ぎを必要としていた。
もちろん、このアジトには護衛用ガジェットや罠も多数配置されており、そうそう陥落することはないと思われた。
しかし、スカリエッティは知っている、復讐者としてのテンカワ・アキトの無謀さ、そして現在の地位についた政治手腕。
そして今回の騙しあいで戦術家としての能力も少なくとも自分よりは上である事を悟る。
今まで裏をかくことはあってもかかれた事はあまりなかった、
その理由はバックの影響力により情報で常に勝っていたという事に尽きる。
そして、相手としていた管理局はどうしても正面から捕まえようとする傾向にあったのもスカリエッティの助けになっていた。
「兎も角、運び出しはナンバーズの皆に頼むよ、出来るだけ急いでね。
特にアレは最優先で運び出すんだ、アレさえ無事ならボクが死んだって研究は続けられるんだから」
「了解しました!」
「おまかせあれ」
トーレとドゥーエが去っていくのを見送ってからルーテシアに召喚を依頼し、それがなされればゼストを治すことを約束する。
スカリエッティは次々指示を飛ばし、最後には彼の周りに誰もいなくなった。
「さて、いるよね?」
「ああ……」
「君のお客がすぐに来る、お出迎えを頼んでもいいかい?」
「我らは約束さえ果たされるならばお前に従おう」
「大丈夫さ、ボクの目的はあくまで究極の生命の創造、そして彼はその最初の一人になるんだ」
「ならば問題ない……我らはそのために全力を尽くそう」
「頼むよ」
「委細承知」
影が消えたその場所を見ながらスカリエッティは口元を歪めて微笑んでいた。
「もうすぐだ、もうすぐ全てのパーツが揃う……」