「脱出経路を手配してくれるという話だが……」
「はい、僕もまさかと思ってたんですけどね。実際警戒線が張られたんじゃおちおち茶も飲んでられませんし」
「あら、私がのんびり屋さんだということ?」
「いえいえ、リンディ統括官にはそのままでいていただきたいと思っていますよ」
少し胡散臭い笑みを浮かべたヴェロッサという男、一度カリムに会いに行ったときに会った事がある。
しかし、こうして見るとどこかアカツキに似ていなくもない、
表面的な薄っぺらさと奥に秘めた打算、その更に奥に本音を隠しているあたりが。
ただ、アカツキほどに徹底しているようにも見えないが。
それでも、妙な軽薄さなどはそっくりだと思った。
「しかし、実際脱出となればかなりの迷惑をかける事になるだろう。大丈夫なのか?」
「ああ、そうですね……まず現状はっきりさせておかないといけません」
「?」
「そうですねぇ。でもテンカワ課長、貴方はまだ少し勘違いをしているようだ」
「勘違い?」
「はい、管理局も、出資国の総意によって動いているということです」
「出資国? しかし最高評議会が……」
「確かに。最高評議会というのは巨大な権限を持ち、ある意味専制主義国家の君主のような存在ではありました」
「だけど、それでも資本主義には違いない。物資を手に入れるには経済が回らないといけないからね」
「魔法の国とは思えん話だな……」
今まで散々思ってきた事ではあるが、この世界は妙なところで現実的だ。
魔法で代用しているものはあるものの、基本概念はほとんど地球と変わらない。
むしろ何故魔法? と聞きたくなるほどに科学と変わらない事が多い。
違うのは正に個人の戦闘能力くらいだ、エステバリス並の戦闘力を持つ個人がいるという事実以外はほとんど変わらない。
「まあ、それはこちらからそちらを見た時にも思う事ですし、気にしたら負けですよ」
「否定はしないが……」
「で。僕が言いたいのは各国家が支援をしているから管理局が成り立っているのも事実なんです。
だから、支援国家の意向というのはわりと管理局でも扱いが強い」
「ほう」
「そして、幸いというべきなのかどうかわからないですが、最高評議会が沈黙した今、権威は各支援国家に移ることになる。
老練な政治手腕で格国家を抑え込んでいた最高評議会が抜けた穴を塞げる政治家なんて管理局にはいませんからね」
「それこそ年季が違うというわけか……」
「その通り」
確かに、200年以上政治をしてきたというなら、一般人とはレベルが違うという事になるだろう。
恐らく相手の個人情報はほとんど筒抜けだったのだろうと予測もつく。
だがしかし、それならば最高評議会が倒れたことにより恐らく各国家は一気に動くだろう。
今まで抑え込まれてきた自分たちの権威を最大限管理局に反映させるために。
「わかりましたか? 管理局は今大変な時期にはいったんです。戦争なんてしている暇はないんですよ」
「まあ僕は正直聖王教会に戻ればいいだけだからどっちでもいいけどね」
「なるほど、余計捕まるわけにはいかなくなったな。だがそれなら少しは隙を作れなくもないか……」
「そういうこと」
「しかし、ヴィータの事もある。もう少し時間をもらえないか?」
「アタシは大丈夫……魔力切れしてただけだからな……」
「そうしてもらうと助かるよ。迎えの便が到着する時刻だからね」
「迎え?」
「ああ……とっておきの迎えを用意したよ!」
「まぁ……」
ヴェロッサがウィンクした先はリンディ、そしてそのウィンクでリンディは察したらしく口元を隠す。
恐らく、二人の共通の知り合い……予想できるのは……。
そういうことか。
「ねぇティアナ、待ってよ!」
「……」
「……前の出撃の時の事まだ怒ってるの?」
ティアナ・ランスターは無表情なままツインテールを揺らし、足早に六課の裏門へと向かっていく。
スバルはなぜ今の時期にと不思議に思いながら聞く、もしや前の自分の行動に不満があったのではないかと。
しかし、ティアナは自分の事はすべて自己責任、自分に出来ない事はしない。
実力を把握し全力を尽くすのはいいが、無理をしてもつぶれるだけだと、そうすることが正しいと兄に教わってきた。
だが今、ティアナは壁にぶつかっていた。
それは他人との違いというものだ、自分の能力は中途半端にすぎる。
幻影を作り出す魔法と射撃魔法、どちらも一流とはいえない。
それでも今までは、作戦でカバーできると信じてやってきた。
だが、前回作戦を覆すほどの個人の力を目の当たりにした。
それは、スバルのことだけではない、魔導師部隊及びパワードスーツ部隊の士官達や、開発主任、課長補佐などの幹部連中も。
みな、個人の能力がずば抜けている。
ティアナにとってそれは、ついこの間まで他人事で会った部分もあったため、いつかは追いつくと考えてもいた。
しかし、前回の戦闘の記録を見るにつけ、努力でどうこうなる話ではないという事が分かる。
それはある種の絶望であったのかもしれない……。
「まってってば!」
「何?」
あまりにスバルがうるさかったのか、ティアナはどこか冷たい表情で振り返る。
スバルは一瞬ビクリとするものの、人気のない場所なので助けを頼む人もいない。
思い切って質問してみる事にした。
「どこに行くの?」
「管理局の地上本部よ、六課は事実上課長がした最高評議会議員暗殺の件で取りつぶされるでしょう」
「なにそれ? そんな話聞いてないよ……」
「私だってさっきまで知らなかったわ。たまたま幹部室を覗くまでは」
「たまたま覗くって……」
「別件の用事があったのよ。でも、ちょうどその話をしていた、本人達はすぐ黙ったけど聞き逃すほど耳は悪くないわ」
「でもなんでそんな……テンカワ課長はそんな人じゃないよ……」
「私だって殺したとか言うのを直接信じてるわけじゃない。ハメられた可能性もあるしね」
「なら!」
「でも、このままじゃ六課はとりつぶし、管理局と連盟の戦争になる可能性が出てくる」
「えっ……」
もちろん、ティアナとて馬鹿ではない、情報ソースは何人かで確認している。
それに、管理局側のつてを使って本局の情報も仕入れていた。
それらを総合して割り出した今の状況はかなり厳しいものだった。
暗殺そのものは本当かどうかわからない、しかし、管理局が混乱しており、連盟も動き出している。
一触即発と言ってもいい状況のようだった。
「戦争になった時、ミッドチルダを含む管理局の国々と戦えるの?」
「う……、でっ、でもおこると限ったものじゃないんでしょ」
「そうね、でも……今の私には六課にいる意義が見出せない。
もちろん向こうに戻っても裏切り者扱いをされる可能性は否定できないけどね」
スバルは困った顔になる、原因は恐らく前回の戦闘なのだろう。
しかし、きっかけは違うもの、理屈は通っている。
そうである以上、ティアナは意見を曲げたりしないだろう。
付いていくべきなのか、ティアナを止めるべきなのかスバルは判断に迷う。
そして出した結論は。
「わかった、じゃあ私も付いていくよ」
「……本気?」
「うん、私はティアナがいないと十分に力を発揮できないから」
「……」
スバルは少しだけティアナの気分が晴れたのを感じた。
しかし、このまま本当に戦争になってしまうのか、これは脱走扱いになる可能性があるのではないか。
ティアナの落ち着きぶりが逆に不安になる。
まだどこか、地に足の付いていないような嫌な感覚が残っていた。
緊急招集により、艦隊が本局に集いつつあった。
その数約20000隻、一か所に集まるには多すぎる数かもしれない。
しかし、それが事件の大きさ、今後に対する不安を如実に表していた。
そして、提督達は今本局に降り立ち、会議を始めている。
「最高評議会議員暗殺など前代未聞、即刻連盟に戦争をしかけて!」
「待ちなさい、各国の意向も聞かねば。資金が動かなければ戦争中干上がります」
「しかしだな……」
「先ずは原因から話しあいましょう」
「そもそも、本当にそのテンカワ・アキトが殺したのか? 誰も見ていないのだろう?」
「だからまだ我々としてもそれを確かめる必要がある、テンカワ・アキトはまだ見つからんのか?」
「いや、それ以前に我らの中ですら最高評議会に目通りしたことのある人間はいない。
執行官どもの持ってくる命令書や、画像の出ない特殊通信くらいでしかな」
「元々、異常なまでに用心深い者たちだったのだろう。
しかし、そうなると既に声明を出してしまった執行官共を殺したくなるな」
「確かに、連盟の加盟国は名誉棄損だとむしろこちらへ攻め込んできかねない鼻息だ」
そう、各提督も不安なのだ、実際問題非がどちらにあるのかわからない、被害程度もよくわからない。
相手は息巻いているし、自分達は戸惑っている。
こう言う状況のまま戦争に突入すれば支援国の支持が得られず瓦解する可能性すらあった。
「思うのですが、テンカワ・アキトにはお帰りいただいた方がいいのでは?」
「ほう、どうしてかねクロノ・ハラオウン提督」
「彼がこちらにいる事で余計に連盟を刺激します。
彼が殺したという証拠もないというより、私が別ルートから手に入れた証拠があります」
「ん? 証拠かね?」
「はい」
そういってクロノが画面に投影したのは、幾つかの写真。
そこには、3つの脳と一人の女性だけのいる部屋があった。
そして、他の写真を見ればその女性が執行官達を取り仕切っているのだという事がわかる。
「彼女の名前は知ることができませんでしたが、その脳は噂ぐらい聞いているでしょう」
「最高評議会議員達か……」
「はい、そして彼女以外この部屋に入ったことのあるのは、ごく一部の執行官のみ」
「執行官を抱き込んだのか?」
「ちょっとしたつ手がありまして、そして何が言いたいのかというと」
「いや、わかった……真犯人がいて、執行官の大部分がその味方をしているという事か」
「……ご明察、私が接触したのは反対派の執行官です」
「そうなってくると確かに、下手に拘束すれば……」
「何を遠慮している。そもそも、管理局と連盟では戦力が違う、一気に叩きつぶして後顧の憂いを取り去るべきだろう!?」
「否定はできませんな、我々としては。連盟が目の上のたんこぶなのは事実」
「しかし、身柄を拘束して悪者になる必要はないでしょう」
「何、証拠がなければそもそも水かけ論にしかならんよ」
クロノは今の状況を見て、どれだけ管理局にとって連盟がプレッシャーになっているのかが分かった。
自分たちが不利な証拠を握りつぶして戦争を仕掛けようとしている人間が半数近くいる。
このままでは、連盟を刺激して戦争が勃発するだろう。
それは、クロノにとって一番望んでいない結末だ。
騎士カリムにも何度か会って預言を聞いてはいたが、本当に管理局が消滅する可能性が出てきてしまった。
なんとしても、そういう事態だけは回避せねば……。
そう考え発言する。
「我々はそもそもどういう組織だったか覚えていますか?」
「全ての次元に平和をもたらし、治安を守る組織だ」
「その名の通り、次元を管理する組織だろう」
「そこに、正義は必要ないのですか」
「正義……そんなものは大人に言う言葉ではないな、勝てば官軍、よく言うだろう。
勝ったものの大義が正義となるのがどの世界でも真理なのだ」
「……では、我々は何のために戦っているというのです?
大切な人を守るため、感謝の言葉を聞きたいから、金のためというのもあるでしょう。
日々の生活のためというのもあるかもしれない、しかし、そのどれも戦争は簡単に否定してしまう」
「だが戦争によって得るものがあるのも事実ではないかね? 対立する者がいなくなれば平和は実現する」
「それでは、最後の一人になるまで争い続けねばならないことになってしまう!」
「もちろん、それに見合った何かを得られるのでなければ闘う必要などない」
「……」
それはもう、治安組織の理屈ではない事に気が付いているのだろうか。
クロノは管理局の肥大化しすぎた自尊心が暴走する現実に心を痛めた、つまりはこう言う事なのだ。
彼ら強行派が言うのは、戦争すればほとんど勝ちは決まったようなものだ、
そうすれば、うざったい連盟はなくなるし、自分たちも直轄とする地域が増え税などをとることができる。
スポンサーに頭を下げる率も下がって一石三鳥ではないかと。
これは、スポンサーとなっている主要各国にも問題があった。
これらの国のいくつかは質量兵器が合法である国があるのだ。
これはつまり管理局にとっては致命的とすら言わざるを得ない理屈が発生する。
その国に行きさえすれば、ご禁制の質量兵器がいくらでも手に入る。
管理局はその国での質量兵器について手出しすることができない。
国外へ持ち出せば捕まえる事も出来るが、国内にいる限りは合法なのだ。
つまり、国境線にはかなりの人員を割かねばならず、更に下手に手を出せば出資金を減らされる。
今までは最高評議会がうまく立ち回っていたため多少持ちこたえてはいたが、今後大量に質量兵器が流出する可能性もある。
それだけに歯がゆい思いをしているものも少なくはないのだ。
何故なら、それらの国が管理局に対して出資する金はそもそも質量兵器を売った金である可能性が高いからだ……。
「管理局が個で立ち行くようになるチャンスではないのかね?」
「周囲との関係性が失われた組織に明日はありません」
「我々はあくまで傍観者であるべきだと思うのだ、犯罪を相手取っているのではないのだからね」
「手ぬるい! われらはそう時間もかけていられぬ。自分たちの管轄をもっているのだからな」
「しかしだね……」
だんだんと主戦派と穏健派による牽制合戦になってきていた。
クロノはこんな事態を引き起こしたアキトを恨む、しかし、同時に守らなければとも思っていた。
連盟の代表国ということになっている、聖王教会の自治領。
現在そこでは、連盟各国代表が集い緊急会議をはじめていた。
議長は以前の疑惑により権威が低下している法王ではなく、カリムが立っていた。
もともと、予言者でもある彼女の事を代表にという声は多かったのだ。
ただ、法王の手前遠慮していたという事が大きい。
ざわざわとしていた議場がカリムの登場により静まり返る。
彼女が占い師とも言えるある意味胡散臭い存在であり、また女性でもある事を考えれば凄まじいカリスマであるといえよう。
「まずは、緊急で開かれた連盟議会にご参加いただきありがとうございます」
そう言って、カリムは円形の大学教室を思わせる議場に一礼してから一人一人と目を合わす。
みな一様に殺気だったものをはらんでいるのが分かる。
それは、威信の問題であり、テンカワ・アキトが本当にそんな不名誉な事をしたのかという事であり。
同時に、そうしてくれた事で表だって管理局と敵対出来る事を喜んでいるものも少なからずいた。
元々、連盟は管理局に不満を持つ者たちの集まりであるのだから当然でもある。
それを押さえつけていたものの代表格が、連盟の立役者とも言えるはやてであり、アキトであり、カリムでもあった。
そして今のアキトには発言権はない、はやてに関しても同じ組織内にいた補佐であるのだから厳しいだろう。
となれば抑えはカリムしかいなくなる、ここで失敗すれば本当に管理局と連盟が泥沼の戦争に突入してしまう可能性があった。
「では、各国の意見を取りまとめた冊子を配布します、各国はそれぞれ相違ないか確認のほどを」
「悠長なことを言っている場合か? 今にも管理局が攻めてくるかもしれないんだぞ!」
「そうだそうだ! 我々は管理局とどう折り合いをつけるかを話しに来たのではない!
どう管理局を切り崩すのかを話しに来たのだ!」
「例えそうだとしても、全ての国がそう思っているわけではない事をご理解ください」
「何を!! 管理局は既に艦隊を集結させているんだぞ! 時間の余裕などあるか!」
出来るだけ冷静な話し合いをしようと思っていたカリムは最初からつまづいた。
確かに、彼らはカリムに対してかなり信頼を置いている、それでもやはり管理局の艦隊は怖いのだ。
管理局には問答無用の兵器、アルカンシェルが存在する。
半径百キロを超える破壊を行えば、星は重力を変える、核の冬に匹敵する命の住めない星を作るのは簡単だった。
ましてや、それぞれは星に存在する一国家にすぎない、一発撃ち込まれれば国が崩壊する危険を常にはらんでいる。
地球からもたらされた重力制御技術によるディストーションフィールドという防御法はある程度普及しているが、
それでもアルカンシェルの防御としては不安が残るのは否定できない。
地球の艦を元にしたナデシコ級戦艦の量産計画は各地で始まっていたが、それも現在地球にあるものを含めても100隻にたりない。
管理局が集めた艦隊は1000、それだけでも十倍だ。
もちろんこちらもナデシコ級だけではないが、1000隻集めるとなれば時間がかかる上に、管理局の艦隊は全てではない。
場合によっては何万という艦隊を集めてくるだろう、そうなれば数の上で互するのは難しい。
ドックファイトに持ち込めば、質量兵器を使い、ベルカの騎士も多くいる連盟が有利だ。
だが、大規模破壊兵器に対する恐怖は常に付きまとう。
彼らの攻撃的な態度はその裏返しなのだ。
「では、個人的な意見を言わせてください」
「??」
「我々は!!? うぅ……」
「何と言う……」
「人命などの重要なものを思考から排除してシステム的に考えるなら、戦争というものは経済活動の一環です。
では、戦争において正しい結末とは何か。
対価として払った武器弾薬、死傷者への費用、個人個人への賞与、その他の経費など。
それらを合わせたよりも大きな利益をえなければいけません。
そうでなければ国が疲弊しますからね、方法は相手側から払わせる賠償金やその国の産出物を取り上げるなどがあります。
しかし、管理局という組織はうまみの薄い組織です。
各国を直接統治しているわけではないため、産出物をとる事も出来ず、
賠償金は参加国から払わせるにしても、責任の所在を突きにくい権利構造になっています。
何より規模が大きすぎるため、叩きのめしたとしても、いくらでも反撃できるというポイントも大きいですね。
そして、アルカンシェルの存在により、失敗の率が非常に跳ね上がっている。
勝利したとしてもそこに残っているものが何もなければそれは経済的に敗北です。
実際その後は衰退していくしかないのですから……」
目を閉じるようにしつつ、戦争の経済観念について話すカリム。
ようはリスクばかりが高くてとても戦争で利益を得る事は出来ないぞという忠告でもある。
その言葉に何人かはうなっている、実際そういう利益をあてにしている部分があった人間もいたのだろう。
しかし、まだ半分以上の人間が気力を失っていない、恐らくアルカンシェルの危険を排除したいと考えている連中だろう。
それに、アルカンシェルを解析して自分たちのものにすればアドバンテージは大きいのだから。
「では、我らにアルカンシェルが向けられた時、我らはどうすればいいというのですか?」
「その時こそ一丸となって管理局を打ち破る時でしょう」
「その時が今なのです。既に奴らは艦隊の集結を済ませている!」
「我らの艦隊を集結させる事は当然です。しかし、攻め込むという事とは話が違います」
「では、被害が出るまで手をこまねいて見ていろと!?」
これらの言い分はどちら側が悪いというものでもない。
どちらもまた自国のためを思って言っているのは変わらない。
ただ、管理局の本局や、地上本部のあるミッドチルダに近い門を持つ国は危機感が強く主戦論となっており、
逆に間接的にしか門がつながっていない比較的遠隔地の次元にある国は戦争を引きのばして相手の出方を見たいようだ。
「待ってください、私達はまだ彼らの宣戦布告を受けたわけではありません、
こちらから攻め込めば管理局側に口実を与えてしまうでしょう、
今はまだ動けずにいるという事は彼らもまた混乱しているという事です」
「それはそうでしょう、奴らの首脳部が無くなったわけだから、後がまを巡って今頃牽制ばかりしているでしょうよ」
「その通りです。我々が艦隊を集結させる余裕は十分にあります。
今動けば我々もバラバラに動かざるを得なくなり不利になりますよ?」
「しかし、時間がたって奴らの混乱が収まれば我らにとって余計不利になりましょう」
まさに水かけ論だった、そもそもこう言う話の場合、どちらが正しいではなくどちらが状況に即しているかを考えるしかない。
しかし、先ほどのように国の場所やその状況によっていろいろ諸条件が異なる、そのため意見が異なるのだ。
カリムは無言で議場を見守る、そして迷いを悟られないように一歩踏み出し深呼吸をしてから。
「静粛に! どちらにしろ、艦隊を集結させる必要があります。
先ずは艦隊の割り振り、また負担金の割り振りを行ってください、艦隊集結のための命令は既に下されているのですから」
「そうだな、とりあえず艦隊を集めてからにしましょう、その方が対応が早い」
「しかし、費用捻出はかなりの負担になるのではないかね?」
「攻め込まれるよりはマシでしょう」
カリムはまだまだ意見がまとまりそうにないその人たちに少し頭を痛めながら、
でもこう言う形を否定するわけにはいかないのだと感じてもいた。
これを否定する事は専制君主の始まりなのだから。
「迷惑をかけるな……」
「本当にね……」
俺とクロノの第一声はそんなものだった……。
事実としていろいろ迷惑をかけてもいる、感謝してもし足りないくらいだ。
「君の唐突な行動力にはいつも驚かされるよ。いい意味でも悪い意味でもね」
「唐突というわけでもないんだが、確かにあまり人に相談せずにやったことだという自覚はある」
「まったく……、まあいい、終わった事は仕方がない。
しかし、管理局上層部へのもぐりこみは私もちょうど始めていたところだったしな」
「ほう」
「君が殺したわけじゃない事はそのつてで知ったことだ。
だからと言って安心していいわけじゃない、一応会議中にもその事に触れたが、
どちらにしろ君を捕まえて君がやったことにした方が都合がいい連中も多い」
「……」
そういうものではあるが、クロノからそういう言葉を聞くと管理局の実態というものが見えても来る。
やはりというか、巨大な組織ゆえにそういうおごりが出来てしまうという事だろう。
元々地球外対策局にしろ連盟にしろ管理局という組織のそうした横暴に対抗すべく作り出されたものだ。
しかし、残念な事に逆に戦争の引き金になりかねない状況だ。
それも、俺の今回の行動からである。
流石に今回はこたえるものがある……。
「待てよ! アキト、おめえは悪くねぇ!
元々あいつらが繰り出してきた魔改造パワードスーツやスカリエッティの事を追及する気だったんだ。
あいつ等の事を忘れて自分が悪いなんて言ってたら、信じてついてきてるアタシやはやて達はどうなる!」
「!?」
完全に治療を終えたヴィータが顔を出したとたん俺に対して叫ぶ。
それは俺を肯定する言葉、確かに俺を信じてついてきてくれている人達もいる。
そのためには、いつまでもこうして落ち込んでいるわけにはいかないな。
俺は強い力の秘められたヴィータの瞳を見つめ返す。
そして、分かったという風に一つ頷くと、今後の行動について考えを巡らせ始めた……。