「そろそろお迎えの来る宙域だ」
「済まないな……」
クロノはぶっきらぼうに俺に言う、今回の事ではかなり世話になった。
暫く彼らには頭が上がらないな……。
しかし、クロノの不機嫌さには理由がある。
それもまた俺の責任が占める部分が大きい。
俺が三提督のいない隙に侵入したため、三提督の帰還が遅れているのだ。
俺としても、説得の難易度や厄介さから三提督のいない時を選んだのだが、
お陰で非常事態にすぐ駆けつけられないという事態を呼んでいる。
もっともそれだけというわけでもないのだが……。
「分かっていると思うが、三提督は帰還できない状況におかれている。
事故、帰還用の船の故障、門の不具合、現地の戦争、暗殺の噂などなど。
偶然を装ってはるが、動けないようにいろいろと小細工を施されている。
先に確認しておくが、お前の仕業ではないな?」
「ああ、そんな自分をわざわざ不利にするような真似はしない」
「お前では無いと決めつける事は出来ないが。
状況から見る限り、今回動いているのは執行員や、つながりがあると目されるスカリエッティの一味だろう」
その可能性は高い、元々評議員達がスカリエッティを作り出したとあの女がのたまっていた。
その上、評議員達はあの女の事をスカリエッティの関係者と思っていた節がある。
そして評議員の大部分があの女の指揮下にあるのだとすれば……。
下手をすれば管理局の提督のうち何割かは取り込まれている可能性がある。
「……既に管理局は踊らされていると?」
「そうだ、主戦派を煽っているのは執行員の息のかかった人間の可能性が高い」
「スカリエッティ……まさか戦争の引き金を引くつもりか……」
「どうだろうな……今までの行動から奴は政治には興味がないように思えたが」
クロノの言っている事はおそらく正しい。
しかし、逆にいえば、研究の時間稼ぎのために戦争を起こすくらいの事はやりかねないという事……。
世界を混乱させている間に完成させる……。
奴の行動から考えれば予想の範囲内だった……。
「分かっていると思うが、全面戦争が起これば恐らく億単位の命が失われる。
それだけの恨みをかいたくなければ止めて見せる事だな」
「ああ……何としても止めて見せる……」
今までの比ではない罪をかぶるのは御免だし、踊らされるのも癪に障る。
それに、そろそろ反撃を開始しないとワンサイドゲームで終了してしまうだろう。
責任をとる意味でも、ここは何とかしなければな……。
「見えたようだな。お迎えが」
「ああ、感謝する」
「感謝してくれるのは構わないが、戦争が始まれば真っ先に殺す。その事は覚えておいてくれ」
「ああ、それが一番早い戦争の終結法だろう」
俺は貨物船が最接近した瞬間を狙ってボソンジャンプでヴィータと乗り移る。
通信も速度調整も行わずすれ違った一瞬でそれをこなす。
多少でも減速すれば記録に残る、すれ違った事だけはどうしようもないが、近くを通るという通信のみならさほど問題はない。
「お帰りなさい、マスター。ヴィータさんも」
「ただいま……」
「おう、このくらい朝飯前……ってこともなかったけどな」
貨物船を一人で操っていたのはリニスだった。
通信の時は偽装していたが、この貨物船そのものもレンタルしたものである。
俺はその笑顔にただへたり込んで壁に背中をあずける。
ヴィータも倒れこんでしまったが、かなりの精神負担だったのだろう。
兎も角、どうにか俺は管理局から脱出できたようだった……。
「ほう、これがアルハザードとやらか……」
「多分だけどね……アルハザードって言葉自体後付けみたいだからここでは意味がないよ」
「なるほどな」
「それで博士、ここではどのような研究をなさるのですか?」
「まあとりあえず。我々のやることはここになじむことさ。今の格好じゃ目立ってしょうがない」
スカリエッティ達は、アルハザードと思しき過去の文明と接触していた。
彼らはこの文明の中で何年あるいは何十年と研究を続けるつもりでいる。
スカリエッティを除けば寿命というものとは切り離された存在であるため、あまり時間を気にする必要はないのだ。
スカリエッティとて自らを若く保つために遺伝子をいじってある。
百年たとうと目的の技術を見つけられればいいのだ、ある意味気楽ではあった。
「我らが無為に時間を過ごす間、向こうの時間はどうなるのだ?」
「大丈夫大丈夫、そもそも時間移動なんだから、帰ってくる時間は出来るだけ近い未来に設定すればいいのさ」
「同じ時間などは無理なのか?」
「ああ、細かい調整は無理のようだね。というか使うのは君なんだからわかるでしょ?」
「確かに。同じ時間では強固な反発が生じるようだ」
「パラドックスを防止するためにいろいろ防衛機構があるっぽいねぇ。
もっと調べたいところだけど、僕には優先事項があるからねぇ」
「とりあえずは任せよう」
「貴方に言われずとも、博士はいつも真剣に取り組んでいます」
「気にしなくていいよウーノ、僕らの間ではこういう会話が普通なんだから」
「はい……」
そう、北辰とスカリエッティはどこかツーカーのような部分があった。
波長が合うというのだろうか、目指すものは違う、北辰にとってもスカリエッティにとっても互いにいずれは切り捨てる存在だ。
それでも、互いに純粋に、いや狂的に求めるものがある、そのためだろう。
互いにどこかで通じているようにも見えた。
それがウーノには気に入らない、どこかでスカリエッティにとっての一番は自分でありたいとの思いがある。
感情が薄いとはいえ、ウーノはスカリエッティの遺伝子を元に作られた存在だ。
同じ紫色の髪がその証拠、それだけに、父親に対する思慕に似た感情は存在しているのかもしれない。
「さて、仕込みはこんなところですわね」
「あらクアットロ、頑張ってるわね」
「はぁい、ドゥーエ姉様の引き継ぎですもの、はりきってこなしますわ♪」
「それはありがたいわ、これで安心して私も次の任務につけそう」
「えっ……しばらくご一緒ではないんですの?」
クアットロは驚いて振り向く、スカリエッティは今過去へと飛んでいる。
つまり命令をする者はいないのだ、今はこの近隣の次元世界にいる人間たちの足止めを兼ねて戦争を起こすこと。
それ以外は特に命令はないはずだ。
「まあ普通の任務とはちょっと違うんだけどね」
「どういう意味ですの?」
「人探し……ね」
「人探しというと……まさか……」
「私達はあの世界の住人とはかなりご縁があるようね」
「ああ……それで博士は急いでいたんですのね」
「そういうことよ」
出来ればそういう事態は勘弁してほしかった。
もしも起こったなら、彼女らの戦力ではとても渡り合えないだろう。
何万という艦隊を編成出来る世界なのだから、軍事力は管理局にこそ及ばないかもしれないが……。
敵対している連盟などと連携されでもされれば……。
「がんばってくださいお姉さま」
「現金なところも好きよクアットロ」
そういって頭をぽんぽんとなでられる。
そうして可愛がってもらいながらも、ドゥーエがいざとなれば笑いながら自分を殺せる事を知っている。
クアットロとてそうあるべくいつも心構えをしている。
それはつまり、心の底からはだれも信用しないことではある。
だがそれこそが彼女らに求められることである事を彼女ら自身が一番理解している。
彼女らは人ではない、元々役割を与えられた存在、将棋やチェスの駒のようなもの。
しかし、駒であるなら盤面でいかに踊るかそれだけはよく心得ていた。
「それではね、私はもう少しアジトの様子を確認してから行くわ」
「はい、私はまだいくつか仕込みの結果を確認したいのでここでいます」
「あんまりモニターとばかり向き合ってると目が悪くなっちゃうわよ?」
「もう既に悪いのです……」
「ああ、そうだったわね」
最後にちょっとした嫌みを残していくあたりは流石お姉さまとある意味尊敬と復讐を誓ったクアットロだった。
そして、メガネの位置を直していると、
ドゥーエが出て行ったのと入れ替わりに、セイン、ノーヴェ、ウェンディの三人が入室してくる。
彼女らが何を考えているのかはわかりやすい、セインやウェンディは元々明るく情が厚いタイプであり、
ノーヴェはチンクに特になついていた。
つまりは、そういうことだろう……。
「クアットロ姉ぇ、あのさ……今忙しいのはわかるんだけど、出来ればチンク姉ぇの救出にも人割いてくれないかな?」
「そうっス、ノーヴェなんてあれからずっとイライラしっぱなしでみてらんないっスよ」
「ちょ、アタシは元からこんなだ! 別に元々当てにしてるわけでもねえ、いい加減一人でも救出に行く!」
「また無茶ばかり、チンク姉ぇですら捕まったのにあんた一人でどうにかなるわけないっしょ」
何とも分かりやすい話だ、こんな連中ばかりだったら今頃スカリエッティ一味は全員捕まっているだろう。
だが、クアットロはこういう連中も上手く使わないといけない。
現在は指揮を執る人間(?)は他にいない、スカリエッティ本人とウーノは過去へ、
ドゥーエも先ほどの理由でここにはいられないし、トーレは元々戦闘指揮官向きだ、作戦を考えるのに向いていない。
捕まったチンクは総合的にそこそここなせたが、以後のナンバーズは基本的に戦闘員でしかない。
だから、彼女らをうまく誘導してやることにする。
気分よく戦えるようにすることも、彼女の仕事なのだ。
「そうですね、魔力反応なんかから見るに特に死んでいるわけでもないけど、このままじゃまずいですわ」
「じゃあ!?」
「助けに行ってもいいの!?」
「そうしたいのは山々なんですけどね……」
「何か問題があるのか!?」
「戦力的に、私たちが全力で攻撃してもよくて相打ちくらいにしかできない。
AMF内で自在に動けるパワードスーツがある限りね……」
「それは……」
「そして相打ちじゃ助けられないどころか、私達は壊滅するしかないですわ」
「クッ!! じゃあ助けに行くなって言うのかよ!!」
「いいえ、要はパワードスーツが出払ってしまえば、ついでに魔導師部隊も出払ってくれれば言う事なしですわね」
「そんな都合のいい事が……あ!?」
「もしかして……そのためにッスか!?」
「いいえ、でも戦争が起これば彼らだって要請に従ってほとんどすべての戦力を出さざるを得ないですわね。
その隙なら何とかなるのではないかしら?」
「それは……そうっスね……」
「確かに……」
「チッ……じゃあ、結局そっちを急ぐしかねぇわけか……」
「そう言う事です、チンクのためを思うなら急いで戦争を起こすべきですわ」
「わーったよ、任務に行ってくる」
「ちょ、ノーヴェ、待つっスよー!!」
ノーヴェとウエンディは飛ぶように去って行った。
クアットロは嘘を言ったつもりはない、確かに助けに行くなら戦争を起こした方が有利な面は多い。
ただ、戦争が起これば、チンクがより厳重な警備の場所に移送される可能性が高い事や、
向こう側にも切り札があるだろうという事は黙っていた。
そうすることに意味を感じなかったからだし、チンクは戻って来た時そのままであるのかが分からないという事もある。
出来ればチンクには戻ってきてほしくないというのが本音だった。
「クアットロ……あんまり黒いことばっか考えても損するだけだよ」
「セイン、まだ残っていたんですの。私は嘘をついてはいませんわ」
「まあいいけどね、でもチンク姉を排除する気だったら……」
「どうするつもりですの?」
「……考え付かないや。でも、あたし達ってさ、博士に作られた姉妹みたいなものだし、皆一緒にいられないかね?」
「私達は道具、それ以上でも以下でもありませんわ」
「ふぅ、とりあえず任務いってきます」
クアットロは苛立ちを覚えていた、セインはいつもお調子もののくせに、妙に鋭い事がある。
そして、単独でチンクを連れ帰る事が出来る可能性があるとすれば、それはセインだけだろう。
あくまで仮定の話ではあるが、もし助け出したなら、
セイン達はチンクの妹達への信頼を武器にクアットロを排除することもできる。
そうなれば、クアットロはスカリエッティに不必要と判断されるかもしれない。
そうならないために布石を打っておく必要があるとクアットロは感じていた……。
「どうしたの……?」
「ゼスト……」
「彼……、きっと大丈夫よ。あれだけ頑丈そうなんですもの」
「……うん」
ルーテシアはベッドに座る白髪交じりの黒髪の女性と話していた。
というより、他に何もできないというのが正しいだろうか。
食事は三度三度アギトが運んできてくれる。
しかし、アギトが通り抜ける以上の大きさの窓はこの部屋には存在していなかった。
それは魔法的な幽閉であろうことが予想された。
アギトは食事を運んでくるたびにいずれここを破壊してゼストと3人で脱出しようと言っているが、
今のところ作戦もないし、戦力的にもきつい上に、この部屋を破壊する手段もないようだ。
この部屋の中にいる限り魔導師は力を失う、かなり強力なAMFが張り巡らされていた。
「私……また一人に……」
「一人?」
「うん、ゼストもう長くないって自分で言ってた。アギトはゼストと一緒にいると思う」
「そう……なら私は?」
「……貴方の事よく知らない」
「それもそうね、私の名前はプレシア、貴方は?」
「……ルーテシア」
「あら、なんだかよく似た名前ね」
「そう?」
「娘にはアリシアって名前をつけたのよ」
「アリシア……」
言われてみれば最後の部分が全員シアになっている。
偶然、いや、少なくともアリシアという娘の名はプレシアがつけたのだから偶然ではない。
それでも、ルーテシアはどこかで少しつながりのようなものを感じた。
「それにね、離れたからって全てが失われたわけじゃないの」
「え?」
「その事を覚えておきなさい、私はその事にずっと気付かなかった……」
憂いを帯びたプレシアの瞳を見るルーテシア、自分は感情がないと思い込んでいる彼女にとってまだ理解できない事ではあった。
ルーテシアが覗き込んでいる事を感じ、プレシアは少しだけ恥ずかしそうに表情を改める。
「あら、ごめんなさいね……」
「かまわない」
「ふふ、優しいのね。私は……優しくできなかったわ。昔も、今も……」
「?」
「私にはもう一人娘がいたの……」
「シア?」
「いいえ、フェイトという名をつけたわ。
思えば最初から彼女がアリシアの代わりになれるなんて信じていなかったのね」
「アリシアの代わり?」
「言ったでしょ、離れた人の事を私は信じていなかったって」
「ん」
「アリシアが私の研究による事故で死んで私は絶望していた。
後悔や自己憐憫、自己弁護の果てにアリシア以外はすべてゴミだと思えていたわ。
その時に私にはアリシアとそうでないものしかなかった」
「死んでいるのに?」
「死んだから余計にね」
そう言って寂しそうに笑うプレシアからルーテシアは目を話す事が出来ない。
それは自分の喪失感と何かにたものを持っているように感じたからかもしれない。
だが、プレシアはその事に気づくことなく訥々と語り続ける。
「私は探した、アリシアを生き返らせる方法を。そのために生み出したのがフェイト。
彼女は私のおなかから生まれたわけじゃないの、アリシアと同じになるように私が作った。
それが彼女にとってどれくらい不幸であったかは想像もつかないわ」
「不幸?」
「そう、フェイトに過去への扉を開かせるためのジェルシードと呼ばれるロストロギアを集めさせた」
「アルハザード……博士が行ったあの世界?」
「実のところよく分からないわ。ただ、私はその行為のせいでボロボロになったけど、アリシアは助けられた。
そしてフェイトも、今は幸せにしているはず」
「死んだアリシアを蘇らせた? ゼストと同じ?」
「ふふっ、今でも信じられないけど。私もスカリエッティと同じように過去に行ってきたのよ」
「過去! 私の母さんも……」
「そうね、もし守ることができれば……」
その言葉はルーテシアにとって福音であった。
母親を救えるかもしれない、そうすれば自分の感情も戻るかもしれない。
だが同時に、そのためにはアキトか北辰のどちらかに頼まなければならない。
勢力的にアキトに頼むのは難しい、しかし北辰も頼みやすくはない。
何より今の状況ではとても誰かと接触する事は出来ない。
ルーテシアは初めて今の状況を疎ましいと考え始めていた。
「お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
泣き晴らしたように眼の赤いすずかの頭をなでつけ俺は周囲を見回す。
みな嬉しそうな、それでいて怒ったような顔をしている。
はやてなんかはヴィータに抱きついて離そうとしない。
理由は分かる、俺が軽率だったせいだ。
しかし、まさかここまで事態が急展開するとは思っていなかった……。
「アキトさん……聞いてますか?」
「あっ、いやすまん……少しぼうっとしていた」
「もう……」
「義父さんはもっと護衛をたくさんつけるべきです」
「今回の事もだが、これからの戦いでお前が倒れれば事実上六課崩壊、連盟も足並みが崩れるだろう」
すずか、フェイト、シグナムが続けて俺に駄目だしをしている。
否定できないのが痛い所だな、それにまだまだ言いたそうにしている人間は多い。
今日はこのまま日が暮れるかもしれんな……(汗)
「だがお陰で現状を打破するための情報も手に入ったのは事実だ」
「え?」
「それは本当ですか!?」
「ああ、今の状況を作り出したのは間違いなくスカリエッティの一味だろう」
これだけは間違いない、そもそも政府筋のパイプはもう必要ないと判断したからこそ評議員達を殺したのだから。
その後も執行員を操り実質的に管理局の行先を戦争へと向かわせているようだが。
「そして、奴らが管理局との蜜月を捨てた以上、いずれは表に出てくる。
それが一週間後か一年後かはまだ分からないが、ただそれまでの間は奴らも戦力をいくつかに分けているだろう」
「どうしてですか?」
「戦争を起こすための人員とスカリエッティの研究を手伝う人員、そしてアジトの警備をする人員。
少なくとも3つに分けている公算が高い」
「スカリエッティの協力とアジトの警護は同じと違うん?」
「いや、スカリエッティは最終段階として恐らく古代火星かアルハザード辺りへと跳ぶだろう。
その際はアジトの人員とは別行動になる」
「それもそうですね……」
そう、ここは狙い目だ、アジトを確保してまず現状の研究を頓挫させれば、
スカリエッティが帰って来た時有利に事を運ぶ事が出来る。
ただし、その前に解決しておかなければならない事が山積みになってもいる。
連盟の説得、管理局の抑止、俺の進退、などなど……。
出来れば分担作業できる事はしておかないとな。
「明日にでも会議を行いたいと思う。皆に伝えておいてくれ」
「わかったわその辺はまとめとくさかい、周り静めるのは任せるな」
「う”っ……」
その後数時間かけて、どうにか家族達を説得した俺は、久々に我が家へと帰っていた。
正直色々ありすぎて少し頭を整理したいという思いもあったのかもしれない。
夜になってなんとなく、ベランダに出て星を見上げていた。
星はまたたくだけで何をするわけでもない、だがいまの俺にはちょうど良かった。
暫く風に吹かれながらぼぅっと考えていると背後に足音がする。
「どうかしたか?」
「そういう義父さんこそ……」
「まあ、今は考える事が沢山あるからな」
「そうだよね、今の義父さんは沢山の次元の命運を握ったような状態だもん、当然だよね」
「う”っ……それを言われると痛いな」
「あっ、ごめん……そう言う事を言いたいんじゃなくて。
ただ、ずっと身を粉にして働いている義父さん見てたら……私が守らなきゃって思っただけ」
「フェイト……」
「だからこれは、私からの契約のしるし……」
「な!?」
フェイトはゆっくりと近づいてきたかと思うと、さっと俺の正面に飛び込み、唇を奪っていった。
真面目な子だと思っていたのだが……いつの間にそんなテクニックを……っとそういう場合じゃない。
「……俺達は親子だぞ!?」
「うん、義がつく……ね。私も義父さんの横、狙ってるんだよ?」
そう言ってほほ笑むフェイトは眩しいまでに屈託のない表情で、俺は怒ろうという気も失せてしまった。
俺はどこか苦笑のような表情になっていたのだろう、フェイトはまた近づいてきた。
「私の事……迷惑ですか?」
「いや、そんな事はない。どうにもこう言う事になれないのでね……」
「周りみんな美人ですし、私はあんまり目立たないかもしれないですけど……」
「ぶっ!?」
「競争率は高いですが、義父さんを譲る気はありません」
「流石に何人かは心当たりがあるよ……」
「ですよね。だから宣戦布告です。これからは私も遠慮なく行かせてもらいます」
「ははは……お手柔らかに……」
フェイトは終始明るくふるまっていた、まだ母親の事もあるだろうに……。
しかし、俺への態度がなんとなくそういう方向に向いていなかったので気にしていなかったが、
そうなってくると、すずかやリニスのように今迄から表明してくれている娘達とぶつかる可能性が予想される……。
ふと、ナデシコの女性たちが作った料理を思い出す。
出来ればああいう事態だけは遠慮したいものだ……。