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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 58 守護者と守護者
作者:黒い鳩  [Home]  2014/09/30(火) 08:02公開   ID:m5zRIwiWPyc
ミッドチルダ中央に近い起動六課、庁舎内留置所。

特殊な重力偏差によりボソンジャンプを禁止されたその空間の隣り合った牢屋でテンカワ・アキトとチンクは話ていた。

チンクは口下手なほうであったし、アキトも元々おしゃべりというわけではないのであまり話が弾んでいたとは言えないが。

まぁ、留置所の出入り口付近でずっとたたずんでいるリィンフォースほど無口というわけでもない。


「そういえば聞いてみたいと思っていたことがあった」

「なんだ? 私は答えられることはすべて答えた、機密に関係することは答えられないぞ」

「答える……事は出来ないんだろうな、お前達が教えてもらっているとは考えにくい」

「それはどういうことだ?」


そのアキトの質問はどうも要領を得ないものだった、質問しているのにチンクは知らないだろうと考えているようだ。

それはつまり、もし万一知っていても知らないと答えればすまされることを意味する。

普通交渉や詰問、拷問などの情報収集時においては相手が知っているものとして扱う、知らない可能性がどんなに高くてもだ。

相手がしらばっくれる可能性を考慮すると無理やりにでも吐かせてあっていればよし、

間違っていれば相手をまた責めるという方向になる。

しかし、アキトはそういう交渉術の初歩を無視した質問を行ってきた。


「簡単な質問だ、スカリエッティの目指す究極の生命とは何だと思う?」

「……それを私が知ると思うのか?」

「いいや、しかし、今まで彼の研究を見てきたんだろう?

 それに彼の性格も知っている、ならば推測することくらいはできるんじゃないか?」

「……」


チンクはまた口を紡ぐ、考えたことがないと言えば嘘になるからだ。

しかし、秘密を言うつもりもない、とはいえ、今の無言は肯定と同じだと自分でも理解していた。


「ならばこうしよう、俺が今から究極の生命に関する推論を言う、チンク、君は聞いているだけでいい」


その言葉はある種の安堵感をチンクに与えた、だが同時にそれは罠でもあった。

アキトは周囲の状況を己の中の演算ユニットでほぼ完ぺきに把握している。

つまりチンクの精神状態もおおよそわかっているのだ。

最もそんな無茶なことができるという事を知るのはごく一部であるため、

スカリエッティ側ではホクシンくらいしか知らないだろうが。


「一つ目、恐らくその生命体は不老不死、そして戦闘においての無敵。

 これらはコンセプトは望みうる限り取り付けられるだろう」

「……」


チンクは心のどこかで肯定した。

アキトはそのことを悟る、それらに関しては戦闘機人のコンセプトを見れば間違いないことだった。


「二つ目はボソンジャンプ、少なくともこれを埋め込む事を奴が考えないわけがない」

「……」


それもまたチンクは心の中でうなづく。

彼女とて詳しくは知らない、しかし、このボソンジャンプという技術、移動技術などという生易しいものではない。

時間を移動する技術、そう、過去へも未来へも向かう事が出来る、アキトなどは次元の壁も超越したのだ。

そして、その移動対象は自分、他人、物体、エネルギーを問わない。

欠点も多いが、メリットはそれを大きく上回る。


「だが、究極の生命と銘打っている以上それだけというわけではあるまい」

「どういう意味だ?」


そう、これだけでも十分に究極の生命体と言う事が出来る。

戦闘で負ける事がなく、不老不死で、時間を自在に移動するのだ。

これが究極でなくて何なのかとチンクは思う。

それを演算装置の感覚で確認しアキトはむしろ不思議に思った。


「そうか、お前たちはまだそこまで知らされて、いや、気付かないようにされていたのか?」

「……」

「恐らくもう一つ、他者を必要としないという特性が必要だからだ」

「他者を必要としない?」

「人間は常に他者に依存しているという考え方を知っているか?」

「確か、人が社会を作る動物だと言う話か?」

「そうだ、もっともあの論文には一部不足があるが」

「?」

「人は、精神的には一人でも生きていける、元々一人なら他者を必要とするという心理は起こり得ないからな」

「そうかもしれないが……」

「そうだ、今の現状それはほとんどあり得ない話だ。

 しかし、それを実現しない限り永遠の生命など持っても永遠に生きる事は出来ない」

 
そう、永遠に生きるためには、他者に対する依存があってはならない。

依存がある事で、他者を失ったときに自暴自棄になる可能性がある。

精神が脆い存在では永遠に生きることなど不可能なのだ。

それが出来ないからこそ、リインフォースは自分の防衛プログラムの一部を4人に分けて切り離し守護騎士を作りだしたのだし、

人や人に近いものはみな寄り添おうとするのだ。

それは、一種の傷のなめ合い、互いがいる事で安心する事を望む人の心理。

だが、それでは究極の生命たりえない、それではその生命は結局人類の枠から出る事は不可能だろう。

他者はともかく、あのスカリエッティがそんな間抜けた事をするとは信じられなかった。


「ならば……どうするっていうんだ?」

「他者を必要としないようにする方法はいくつかある、さっき言ったように、

 他者に全く関わらないでいるという方法で作る事も出来る。

 しかし、それは同時にその生命が他者を知った時に崩れてしまう」

「……」

「もう一つ、方法がない事もないが……」

「もう一つはなんなんだ?」

「いや、忘れてくれ……」


アキト自信、それはあってほしくないという最悪の考えだった。

もしそうなった場合、まともな対抗策が存在しない事になってしまう。

チンクはいぶかしんでいるがそれでも何か空恐ろしいものなのだろうと言う事だけはわかっていた。
























クアットロはアジトで全ての作戦の進行状況を見ている。

これらの作戦に少数しか配置していないのにはそれなりに理由がある。

失敗そのものは彼女にとってはどうでもいいという考えが透けて見えるものだということだ。

それを知ったのだろう、トーレはクアットロを訪ねてきていた。


「2つとも失敗したな」

「はい、でもおかげでもう一つは上手くいきそうな感じですわね」

「……まだ終わったわけじゃない」


トーレは少し真剣な目でクアットロを見る。

2つの作戦の失敗は彼女の作戦能力の不足から来るものではないかと疑っているのだ。

だいたい、戦闘特化型のトーレが今もアジトにいる事がおかしい。


「そうですわね、でも勘違いしないでくださいトーレ姉様、

 戦争が起これば確かにその方が楽ですが、ようは時間が稼げればいいのですわ。

 例え全て失敗しても不信感から軍備は互いの監視にかなりの部分が割かれる事になるでしょう。

 それで十分目的は達成できたことになりますわ」

「次の作戦の準備ということか……」

「ええ、トーレ姉様は知っていますわよね?」


そう、トーレには伝えてある、もう一つの作戦について。

そちらの方は、既にスカリエッティの興味は半ば失われてしまっているため破棄する予定だった実験体。

だが、戦闘力に関するなら十分な力を発揮するはずである。

だからこそ本当の時間稼ぎはそこで行えばいい。

それをクアットロは言外ににじませていた。

それに対するトーレの言葉は単純明快だった。


「私はただ、戦うだけ……貴方の指揮能力が間違っていないのなら私はそれで十分よ」

「ええ、ご期待に添うように頑張りますわ」


もっとも、クアットロにとってはこれ自体が全てと言うわけではない。

色々とそれ以外の事も画策はしていた。

そもそも、ウーノからトーレまでとそれ以後のナンバーズはまるで別物だ。

スカリエッティは最初の三人には絶対の忠誠を植え付けているが、

クアットロから向こうに関しては父親に対する程度の忠誠しか植え付けていない。

理由は明らかと言ってもいいだろう、性格である。

というか、性格に伴うISの能力変化を期待してと言う事だ。

実際たった12人でありながら一人として同じ能力がないという多様性を手に入れてはいる。


しかし当然ながら反逆の可能性もある。

もちろん、スカリエッティからのコードを受ければ、

思考能力を奪われスカリエッティのためだけに戦うだけのただの木偶と化してしまう彼女らだが、

反逆を考える自由程度は与えられている。

これは一種のスカリエッティからの挑戦であり、つまりは自分に悟らせることなく反逆するなら反逆してもいいと言う事だ。


そしてある種クアットロはそれを忠実に守っていた。

反逆する事も視野に入れての動き、今は地位を上げる事も含め色々と工作を練っている。

もっとも、もしも究極の生命が完成した場合は自分達の地位が危ない事も気づいていた。


「やはり、これだけでは押しがたりませんわ……せめてあちらのコマだけでも確保しておきませんと……」


それは、今回の事件よりも先の事を考え始めている目だった。



















連盟は現状の事を考え最低限ナデシコ級艦隊を集結させることを議会で議決した。

それは、防衛に回るにしても相手に初期に打撃を与えておかなければまず勝ち目はないと言う事を知っているからだ。

ナデシコ級の次元航行艦には元となったナデシコAのシステムはほぼ積み込まれており、

DF(ディストーションフィールド)による防御とGB(グラビティブラスト)による攻撃が可能ではある。

しかし、相転移エンジンは再現が難しいため、現在はまだ月村重工が作り出した30基のエンジンしか存在しない。

艦隊は100隻あつまっているものの残る70隻は魔力稼働となっている。

もっともハリボテとはいえ一応DF、GBは装備されており、数回ならば問題なく使用できる。

ただ、相転移エンジンのように供給を安定させるのは難しいため戦闘継続時間は短く、補給を必要とする。

基本的に乗組員の魔力だけでは足りず、後方で圧縮魔力を補給する必要があるのだ。


その辺りの事情もあるため、これまで艦隊集結は後回しされる傾向にあったが、この緊張状態では出さないわけにもいかない。

また、魔力減殺効果のある装甲を使ったパワードスーツもかなり搭載されている。

そのため、この艦隊は魔道師の天敵として作用する事は明白だった。



「ようやくこの艦隊の出番と言う訳だな」

「はい提督、まだ100隻に過ぎませんが次元航行艦隊の正規軍より数段戦闘に特化していると言えます」

「その通りだ、この艦隊ならば奴らの艦隊が10倍だろうと軽く突き崩すだろう」



最新鋭の艦隊を持った彼らはある意味得意の絶頂だった。

確かに、次元航行艦隊といえどGBを食らえば圧壊するしかない。

その破壊力たるや、100km先までの目標を貫通して圧壊させる力がある。

艦隊をもって隙間なく打ち込めば一斉射で1000隻の艦隊をたたく事も確かに可能だ。

その前に相手も密集している事が前提だが。

対抗しうる武装としてはアルカンシェルがあるが、アルカンシェルは次元そのものに影響を与えるため、使用に制限がかかっている。

迂闊に使えるような代物ではない。


「管理局の布陣は包囲制圧を目指したものだ、だが、あれだけの艦隊を運用するにはそれなりに必要なものがある」

「はい、いまだ集結した艦隊を動かす事を渋っているように見えます」

「奴らは大義名分を欲しているのだよ、もちろん我々もだがね」


提督はどこか他人事のように話す。

戦争の引き金を引く必要があるのは彼も同じはずであるのにだ。

彼は連盟主戦派の代表格でもある、彼にはある組織からの接触を受けていた。

だからこそわかっている事もある、艦隊の集結地点はここがいいのだと。


『艦隊進行方向より天頂方向へ3度、一光分の地点、敵艦隊が現れます』

「ふっ……、戦闘可能範囲まで接近後、一斉射ぶちかませ」

『了解、敵艦隊へ向けて加速を開始します』


恐らくこれなら10分もしない間に接敵し、戦端が開かれるだろう。

そして、これが起こってさえしまえば互いに戦争を止めるすべはない。

既に敵艦隊は連盟領海内に侵入しているのだし、これを撃つ事は連盟法では禁止されていない。

先に警告は必要だが、あれが引き返すことなどあり得ない。

提督は唇の端で薄く笑う、しかし……。


『敵艦隊、反転して後退していきます』

「何!?」


彼の予想は裏切られた。

今はいい、追いかけて追いつける範囲にいる。

しかしもし、この艦隊を管理局の影響下の国へ逃げ込ませてしまえば、戦う事は難しくなる。

逃走を許した責任と、最悪国境侵犯の責任までかぶせられ、出世どころか営巣行き確実だ。

つまり、何としても連盟領に敵がいるうちに倒さねばならない。


「急げ! 一隻たりとも逃すな!!」

「はっ、はい! 艦隊全速前進!!」

『了解しました、艦隊全速前進!!』


提督は戦争を起こしたいとは思っているが、その戦争が自軍に有利でなければ意味はない。

というか、敗戦確実になるならむしろ戦争などしないほうがいいのだ。

だから、今逃すと言う事は彼の出世の道が断たれると言う事でもあった。

そのため、彼はナデシコ艦隊に全速を出させるのだった。




















「多分、私達が一番難易度が高いと思う、シグナム……いける?」

「ああ、私はいつも全力を尽くすだけだ、そちらは大丈夫か?」

「義父さんのミスを挽回するなんて、今まで一度もなかった事だよね。

 むしろ私はやりがいを感じてるよ?」

「ならばいい、では行こう武装隊栄誉元帥ラルゴ・キールを助け戦争を止める」

「ええ」


そう、伝説の三提督最後の一人、ラルゴ・キール。

彼は今武装調停を行うため小規模の艦隊を率いて次元を渡ったものの、行方不明になっている。

フェイトとシグナムの率いる魔道師部隊の2個小隊はラルゴの捜索へと向かう。

しかし、見失った次元へと向かう事はなく、緊張状態の最も大きい宙域へと急ぐ。

それは、艦隊ごと行方不明というその異常さから察せられた事ではあったが、

恐らく彼らはラルゴそのものを引き金にするつもりだと。


「外れていたらかなりまずい事になるけど、これくらいしか山を張れる場所がないものね」

「大丈夫です。相手も人間的な思考をする以上必ず何らかの役に立てようとするはず」

「それもそうですね」


口ではそういうもののフェイトは表情を緩めてはいない、予想が外れた時すぐさま別の次元へと飛ばなければならないのだ。

そんな暇はないともいえるが、シグナムからみればあまり緊張しすぎるのは固くなったり体力が削られたりといい事はない。

リラックスしてほしかったが、気の効いた言葉も思い浮かばない。

もっともここ数年戦いは経験してきただろうし、10歳以前の頃は一人で戦っていたのだ、カンは鈍っていないだろう。

そう考える事でシグナムは自分を落ちつけた。


『ナデシコ艦隊捕捉、このままステルス航行を続けますか?』

「お願い、周囲に艦隊が出現するまで待機します」


フェイトの対応は的確だった、気負いはあるものの緊張はさほどでもないと言う事だろうか。

しかし、ステルス状態でただ待つだけというのはかなり神経を使う。

じりじりとした空気が流れ始める。

この艦がナデシコ艦隊に見つかるのもまずいのだ。

連盟の内紛とまではいかないだろうが、もし見つかれば六課は完全に動きを封じられてしまうだろう。

二時間、三時間と時間が過ぎていき、シグナム自身も苛立ち始めたころ、ようやく探知範囲内に未確認艦隊が出現した。


「やっとお出ましか……」

「急ぐ必要がありますね、ナデシコ艦隊の作敵圏内に入るまでに捕捉、拿捕する必要があります」

「わかった、艦長頼んだ。この船の速さ見せてもらおう」

「了解した」


実際のところフェイトとしてもアキトらが進めてきたナデシコフリート計画に思い入れがないとは言えない。

しかし、この戦争を起こさない事、これが勝利条件の一つである以上あらゆる障害は排除しなければならない。

だからこそ、場合によってはナデシコ艦隊の初戦を敵艦隊に逃げられるというものにする事にためらいはなかった。


フェイトらの乗っているステルス艦はそのままナデシコ艦隊のレーダー圏ギリギリを移動し目標艦隊に接触する。

相手がこちらの艦隊に気付いた時には既に揚陸艇をつっこませていた。


「分かっていると思うが、フェイト、隊長の仕事は部隊管理だ。そして2個小隊で敵をせん滅するためには……」

『うん、ここから魔道師部隊の連携をつないでいく、旗艦はまかせたよ』

「当然だ」


相手の艦隊は計5隻、最低限警戒されるだけのレベルにすぎない。

そう、この艦隊がナデシコ艦隊の前に出れば数分かからず全滅するだろう。

そして恐らくここにはラルゴ・キールがいる。

殺されればどうなるのか、誰にでもわかる事だラルゴの艦隊が国境侵犯し攻撃を仕掛けたという理由で連盟から開戦する事になる。

同時に管理局側はラルゴの敵討ちという名目が出来る。

この場合両陣営にとって開戦事由たりうる。


シグナムが内部にはいって気づいたのはガジェットの複数展開による内部情報の遮断とエンジン部にとりついたガジェットによる行動支配。

正直、この状況ではラルゴを保護しただけでは戦争を止められない。


「エンジン部へのルートを出してくれ」

『うん、オペレーターからすぐ転送されるよ』


とはいえ、ブリッジのほうも気になる、ラルゴがいるとすればやはりブリッジのほうだろう。

最も、エンジン部を先に押さえればブリッジ攻略はたやすいはず。

エンジン部の制圧を優先したシグナムの考えは正しい。

制圧まで要した時間はおおよそ10分、ギリギリナデシコ艦隊に捕捉される寸前だった。


「エンジン部制圧した、最低限の人員を残しブリッジ制圧に向かう」

『了解、他の艦は全て制圧完了したよ。元々大した数のガジェットは配置されていなかったみたい』

「なるほど、ならば用心しないとな」

『そうだね、多分主力が残ってるはず』


シグナムとフェイトは同じ思考に達していた。

相手は連盟国境付近で艦隊が潰されればいいと考えているだろう。

そうでなくてもラルゴさえ確保していればやり直しはきく。

だから、ラルゴは当然一番安全なところ、もしくはここに連れてきていない可能性もなきにしもあらずだ。

だが同時に、ここで殺しておけば別に艦隊が倒されなくても戦端は開かれる。

既に殺されている可能性もあるという事だ。

その場合は最悪、死体をなかったことにして事態を収拾する必要が出てくる。

できれば使いたくない手ではある、水掛け論になるのは目に見えているのだから。

さらには、死体をねつ造されれば結局戦端が開かれることになる。

リスクばかりが大きい最悪の手ではあった。


「できれば、そこまで頭のまわるやつじゃない事を祈ろう」

『敵の指揮官ですか?』

「その通りだ」

『そういえば敵は何のために戦争を起こそうとしているんでしょうね?』

「さあな、少なくともあいつらが使っている兵器は飛ぶように売れる事だろう」


無人兵器もAMFも連盟、管理局双方共にあって困るものではない。

魔法の防御法としては月村重工の魔法減殺合金、無人兵器はバッタやジョロ等のシステムが存在している。

だが、より安価であれば飛びついてもおかしくない。

それが目的とは考えづらかったのも事実ではあるが。


『スカリエッティはそういうタイプの欲があるようには思えませんね。

 私も一部とはいえ関係者であるから余計にそう思うのですが……』

「そうだろうな、あの博士は少なくとも目的以外のものに対する欲求は薄い。

 まぁ人が嫌がる事をして楽しむタイプではあるかもしれんが」

『そうですね、どちらにしても被害は馬鹿になりません。あっ、そこを右に折れたら一直線です』

「分かった、まかせてもらおう」


あっという間に、ガジェットらを叩きつぶし、ブリッジまで駆けつける。

シグナムにとっては造作もないことであった、実際魔導師部隊にはパワードスーツを着用させた者もおり、

ガジェットに対してはほとんど抵抗を感じないほどにスムーズに敵を排除していくことができた。

しかし、ブリッジに入ってみれば、そこにはガジェットばかりしかおらず、拘束されたラルゴ達元の乗組員が席に縛り付けられていた。

ガジェットは常にAMFを張っているようで、ラルゴたちは単純な手錠や鎖をはずすことができずにいる。


「ちっ、どうしても連盟の手で殺させるつもりか!」


シグナムの指示でパワードスーツをまとった魔導師達がガジェットを排除していく。

もちろん、ガジェットはラルゴ達を殺していてもいいはずなのだ、元々撃沈されれば原因の特定など不可能になるのだ。

なのにまだ生きていることにシグナムは違和感を覚えた。

しかし、今できる事は彼らの救出であってそれ以外に何ができるわけではない。


「これはこれは、助かりました」

「いえ、私達は……ッ!?」

「ほう……致命傷は避けたか」


ラルゴはシグナムに向けてナイフを突き刺していた。

その思い切りの良さや動きの俊敏さを考えれば明らかに老人のものではない。


「貴様は誰だ!?」

「わかっているだろう?」


その言葉とともに縛られていた人間達も動き出す。

そして化けの皮が剥がれた。

そして立っているのは量産型戦闘機人5人とナンバーズのトーレという構図であった。

もちろん、介抱していた魔導師達は深手を負わされている。

こちらでまともに動けるのはパワードスーツを着込んで介抱に参加していなかった二人とシグナムだけだ。


「やってくれる……」


とはいえ、そのシグナムも脇腹に浅くない傷を抱えている。

更に、タイムカウントがナデシコ艦隊の索敵圏内に入ってしまった事を伝えている。


『私も今から向かいます』

「待て、フェイト、お前は他の艦を下がらせる仕事があるだろう? 私はこの艦を策敵圏外へ出す」

『ですが……』

「何、さほど時間はかからないはずだ」

『……分かりました、急いでください。その艦一隻でも口実にはなるのですから』

「分かっているさ」


シグナムもそれなりに計算はしている、ようはこの艦を下げればいいのだ。

それにトーレ以外の量産型戦闘機人は思考能力はさほど高くない。

つまり、トーレを制圧すれば他はさほど脅威足りえないはずだった。


『排除させてもらう』

「それはこちらの台詞だな」


トーレとシグナムはブリッジという障害物の多い、それでいてそれほど広くもない場所で対峙する。

シグナムはこの艦を砲撃圏外へ出さねばならない、トーレにしてもいずれは脱出する必要がある。

それまでのタイムリミットはせいぜい5分と言ったところだ。

互いに時間がない、勝負が一瞬で付くだろうことはその緊張の高まりが知らせてくれた。


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