「ようやく、一連の事件もひと段落ついたか」
俺は、数日の獄中生活を思い出しながらつぶやく。
俺はほとんど手を出す事が出来なかったとはいえ、管理局と連盟の情勢はその間にいろいろ変化していた。
それをやったのは、六課を含め、自分の知りうる人達の功績が大きい。
戦争を起こす時、人は利益を考えて戦争を起こす。
全てがそうではないがほとんどの場合がそうだ、今回の場合管理局側は支援国家の力からの脱却のため資金を欲し。
連盟は管理局に対し、俺いたの世界の知識であるGBやDFを見せつけることによって、
管理局の連盟に対する位置づけを目障りな、から強力な対抗組織へと変貌させようとした。
どちらも成功すれば確かに戦争を始めた者たちは利益を得られるだろう。
しかし、戦場となった世界は踏み荒らされ、死人は山のように積み上げられる。
上の一部の利益のために、関係ない人々が死んでいくのが戦争の悲惨さなのだ。
戦争はどちらが正義、などという事はあり得ない。
戦争をするものは利益を得ようとするものであり、そのための労力を民に求めるものなのだ。
勝てば官軍とはよく言ったもので、勝った後は罪は全て負けたものにかぶせられる。
それゆえ、歴史書などにおける戦争の原因や、敗者がどれだけ悪辣であったかという言葉ほど信用できないものはない。
大回りになってしまったが、戦争など起こさないに越したことはないのだ。
そう考えつつ、作戦司令室へと向かい、入室する。
「御苦労様」
「アキト、今全員捕縛した。留置所へやっておく?」
「よろしく頼む、連盟議会を通して、裁判を受けることになるかも知れんが……」
「出来るだけアキトの思うようになるようにする」
ラピスは無表情で俺に対し応じているが、彼女とて分かっている。
あの戦闘機人の娘達はラピスとよく似た境遇であることを。
だからこそ、あえて感情をさしはさまないようにしているのだろう。
そう思っていたが、何やら俺に言いたい事があるようだ……。
「アキト……なぜこんにゃく?」
「いや、あれが一番拘束しやすかったからだが……?」
「本当に? 有機物なら天然ゴムとかでもよかったのに?」
「ゴムだと固まっていない状態では熱すぎるし、固まっていればセインだったか、あの潜航するのが入れなくなってしまう」
「ぶぅ、ヘンタイ」
「ちょ!? いや、違うぞ! 別にそういう意味でこんにゃくを選んだんじゃないからな!!」
「本当に?」
「当然だ!」
今一信頼されていない視線を感じる。
うう……最近あんまりかまってやらなかったからなぁ……。
「主アキトはそういう性癖だったのか、道理でいまだに独身なわけだ」
「ちょ、リインフォース!?」
『おお、報告しようおもたら、面白いことになっとるやん♪』
『不潔です。でも、アキトさんが望むなら私が……』
『ちょ、すずか……過激すぎだよ』
『エッチなのはいけないと思います』
リインフォースが部屋に入ってきた上に、通信ではやて、すずか、フェイト、なのは等が報告をしようと通信をつないだらしい。
どう考えても狙ったタイミングとしか思えないんだが……。
女性達に総すかんをくらうほどこんにゃくによるセイン捕縛は不評だった。
まあ、仕方ないと言えばないんだが、確かに色っぽい感じだった事は否定できない。
「そっ、それはそれとして。報告を……」
『はぁ、はぁ……やっとつながった……』
「どうしたアルフ!?」
『奴ら、アンタの家に襲撃をかけてきた……現在交戦中なんだけど……苦戦しててね』
「分かった、すぐに応援に駆け付ける」
『頼む……』
俺はリインフォースを連れ、急いで六課から地球側の出口へつながる門へと向かった。
途中ヴィヴィオがさらわれたという報告も来ていたがボソンジャンプでは痕跡からたどったほうが早い。
それにこのままでは向こうもじり貧のようだ。
ヴィヴィオ捜索は後から戻るだろう機動部隊にまかせ、ヴィヴィオのさらわれた場所の特定と、応戦をするために急ぐ。
「奴らの本命はこれか!?」
「恐らくは複数の計略を同時に進めて、どれか一つでも成功すればいいという形をとっていたのでしょう」
「そうか……確かにそうだな。
総力戦のようにしているのは、奴が帰ってくるまでの時間稼ぎ……ならどういう方法でもかまわないか」
「そういう事でしょう」
確かに、そう考えたほうが辻褄が合う、そして何より戦闘機人が不要になりつつあるスカリエッティらしい作戦だ。
恐らく、本人ではないにしろ本人の意思をくみ取れるような存在が作戦を立てたと見るべきだろうな。
しかしなんと思い切りのいい作戦だ……部下の大部分を一気に切り捨てるなど、普通に考えれば組織崩壊だ。
そして、ヴィヴィオの事も気になる、恐らくは彼女を使って何かするつもりなのだろう。
誘拐などは考えられない、なぜなら、組織崩壊を起こすほどの損害を被って、ただの人質では釣り合いが取れないからだ。
これは恐らく何かの切り札とみていいだろう。
「門……封鎖されているのか?」
「はい、戦闘が近辺で起こっていますので、恐らく門に影響が出る可能性があると制御用の魔法が判断したのだと思われます」
「解除できるか?」
「数分お待ちください」
リインフォースは素早い手つきで門の制御プログラムに割り込みをかけていく。
しかし、数分というのはまずい、ジャンプの痕跡をたどるのがほぼ不可能になる時間だ。
いろいろと小細工してくれる……。
「主アキト、私がサポートしますので、ボソンジャンプによる移動を行ってください」
「……やってみよう」
俺は確かに半径1km程度の範囲でしか、ジャンプ地点を特定できない。
それは恐らく、人間としての俺がコントロールできる演算ユニットの限界を示しているのだろうと思っていた。
しかし、最近徐々に範囲も広まり、能力は拡張しつつある。
賭けになる部分もあるが、失敗しても何度でも試してみればいい。
俺はリインフォースの手助けを受けジャンプしてみることにした。
「「ジャンプ」」
声が重なり、彼女のイメージを俺が演算装置へ送り込むイメージをする。
もちろん、俺自身も家のイメージをする事は忘れない。
そうして、ジャンプアウトした場所は、家のちょうど直上2kmほどの場所だった。
落下しそうになったところをリインフォースに抱きとめられる。
「かなり上に出てしまったな……」
「問題ありません、主アキトも浮遊の魔法はできますよね?」
「ああ……」
「では、先に戻って援護してまいります。主アキトはバランスを取って降りるようにしてください」
「頼む」
とはいえ、俺自身あまり時間はかけていられない、徐々に減速するイメージで魔法を使う。
一応これでも数年修行はしたのだが、出来た事といえばこの浮遊の魔法、飛行の魔法(ごく短時間)の2つくらいだった。
これだけは命にかかわる可能性があったので覚えていたのだが、それなりに役に立ったようだ。
抱きとめたまま降りてもらってもよかったかと思わなくもないが、それではリインフォースの奇襲といううまみが失われてしまう。
俺は俺で、自分で何とかするしかないようだった。
リインフォースはアキトを上空においてそのまま下方へと向けて加速、
地上近辺で行われている戦闘をざっと見まわしこちらが不利になっている戦場を優先して介入するつもりでいた。
戦っているのはざっと3か所、一つはキャロとルーテシアが中庭で召喚合戦のような事をしていた。
もう一つは、エリオとプレシアクローンによる高速魔法戦闘、
プレシアクローンは低めのランクの魔法を連発し、エリオがかいくぐって攻撃するという感じであった。
最後は庭の上空200〜300mほどで展開される、槍対盾の戦闘だ。
ゼストと思しき敵対者は槍を振るい、衝撃波に魔法を乗せ、ベルカの騎士の戦法で一人圧倒している。
対しているのはアルフとザフィーラ、しかし、速さではどうしても劣るうえ戦闘の巧さでも負けている。
ゼストはガジェットをうまく使って盾にも陽動の要員としても使っていた。
この差は大きく、現在はかなり追い込まれていると言ってもいいだろう。
リインフォースは介入先を決めた、位置的にも上空なのはちょうどいい。
「ブラッディダガー」
リインフォースは自らの周囲に100本近い黒い刃を作り出す。
その刃の内半分ほどを一気にゼストのいる位置へと向けて射出する。
「ッ!?」
流石に、上空からの攻撃は予想してなかったのか、回避には成功したもののゼストは体勢を崩していた。
リインフォースはその隙を逃さず残ったブラッディダガーを叩き込む。
今度は、魔力で防御した音が響く。
「流石に一筋縄ではいかない……」
「上空にまだいたのか……」
互いを認識した瞬間、2人は戦闘を開始していた。
直感的に、互いがこの戦場で最も大きな戦力である事を把握していたのだ。
「フォトンランサー・ジェノサイドシフト」
「おおお!!!!」
リインフォースは自分の周辺から無数の雷のコーンを作り出した。
その三角錐を正面から側面から上方から下方から右から左から背面から、全ての方向からゼストへと向かうように射出される。
ゼストはそれに対し、槍をもった右腕を後ろに引き、両足を開いて、ための姿勢を取る。
それはつまり、突きの構え、恐らくは一撃必殺を秘しての動きだろう。
対して、リインフォースは両腕をだらりと下げ、特にガードをしているようには見えない。
その代わり、小声で詠唱をしているのだろうことはうかがえた。
「いくぞ!」
「ッ!!」
転瞬、二人はすさまじい速度で交錯する。
雷のコーンはある程度の誘導がなされてはいたが、ゼストのあまりに素早い動きに的を外す。
速度と威力で勝るゼストは確実にリインフォースを貫くと思われたが、そうはならなかった。
確かに、ゼストの槍はリインフォースを捉えていた。
しかし、その瞬間、リインフォースはバリアジャケットをパージ、全方位の打撃でゼストの軌道をそらす。
そのまま、ゼストの槍は脇腹をかすめるように切り裂き、リインフォースは致命傷を免れる。
次の瞬間、リインフォースは手の中から黒い光の刃を作り出してゼストを貫こうとする。
ゼストは超人的カンを持って回避を試みるが、体勢が完全に泳いている今、大きな回避行動をとる事は命取りになるため、
結局、半分体をそらして右前方に向かって転がり込むように避ける。
そのせいで、肩から背中にかけて傷を負う事になった。
「肉体を犠牲にしてきたか」
「お互い様です。しかし、さすが近接のセンスは一流ですね……」
リインフォースが避けたと思った脇腹は意外に深く切れており、ゼストとダメージはほとんど五分というところ。
作戦としてはリインフォースの勝ちだったが、センスで巻き返されたというところだろう。
元々広域攻撃を得意とするリインフォースでは周りに被害を出すわけにいかない今の戦闘は不利なのだ。
もっとも、彼女は今すぐ勝つ必要はない、引きのばし工作に出るべきかと考えを改めていた……。
リインフォースとゼストの戦いが膠着状態になるのを横目で見つつ、俺はボソンジャンプがあった地点をざっと見まわす。
ガジェットを潰している、アルフ、ザフィーラ達の近辺ではない。
高速戦を繰り返している、エリオのいる場所も違う、召喚戦闘をしている、キャロのいる場所は……ふむ。
どうやら、キャロの背後、つまりは家の中でボソンジャンプをしたようだった。
ざっと見て、どこの世界のどの場所か特定しようとする。
だが、ジャンプしてから時間がたっていたので特定は難しそうだった。
だが、次元移動をした事だけは間違いない、残滓からかなりの移動量だという事だけはわかった。
「仕方ない、加勢を必要としているところはあるか……」
リインフォースはうまく立ち回っている、放っておいてもガジェットを破壊し終えたザフィーラとアルフが駆け付けるだろう。
エリオは五分の戦いを繰り広げているが、相手が経験の浅いプレシアクローンだという事が大きい。
魔力だけなら明らかに不利なのだ、あの年で場慣れしているエリオのほうが異常であるともいえるだろう。
それに、フェイトが渡していた、彼ら用のデバイスは明らかに実戦向きのようだった。
ある程度は護身もできるようにという意味では悪くないのだが、かなり行き過ぎだったような気がしないでもない。
今は助かっているが。
そして、キャロはフリードを巨大化して、相手、確かルーテシアとかいう少女の相手をしている。
とはいえ、ルーテシアの召喚したジライオーは重力を操るのか接近が難しく、互いに有効な打撃を与えられないでいる。
そのうえ、ルーテシアには護衛用にもう一体、ガリューという人型の虫のようなのがいる。
もう一体のほうはかなりのスピードで動きまわり、キャロ達をひっかきまわしている。
全体的に一進一退である事は変わりないが、今一番不利なのはキャロという事になるだろう。
「キャロ! 加勢するぞ!」
「あっ、おじい……いえアキトさん」
「……ははは」
キャロは俺の事をまだ時々おじいさんと呼びそうになる。
35歳の俺はキャロから見れば大年寄りなのは違いないので一概に否定できない。
たまに、フェイトがお父さんと呼ばせようとするのもそれはそれでこわい。
それはともかく、戦況は相手側有利だ、俺が加勢しても確実に逆転できるかはわからない。
なにせ、ルーテシアの召喚は一体ではない、ということは2体だけとも限らないという事になる。
キャロはこのフリード以外呼べないというか、もう一体呼べるらしいが制御が出来ない。
この辺りを火の海にするわけにもいかない、なんとか早急に倒す方法を考えねば……。
「あのあの……私、どうしたらいいんでしょう? このままじゃ、ヴィヴィオちゃん守るって……でも……」
「大丈夫だ、まだ何も終わっていない。キャロ、お前はこれから頑張ればいい」
「……うん、でもその……」
「彼女か、さてどうしたものかな」
キャロと合流し、フリードの肩の上に手をかけて引っ張ってもらいつつ、会話をこなす。
まぁ、幸い相手は体術の得意なほうではないようだ。
ならば、ボゾンジャンプがものを言うだろう。
とはいえ、あのガリューという人型の虫っぽいのが厄介だ。
あれと正面から戦う事になれば、俺は釘付けになって動けなくなるだろう。
「キャロ、一つ頼みがある」
「え、あっ、はい!」
キャロに作戦を伝える、実のところシンプルな方法だ。
相手が子供だから引っかかるかもしれないというものだ。
キャロが理解したのを確認してから、俺はフリードを飛び降り、ルーテシア目指して走る。
ジライオーはあえて無視し、ひたすら接近を試みた。
しかし、当然ながらガリューが素早い動きで反応し俺に立ち向かってい来る。
それに対し、俺は急激に移動をやめた。
ガリューは好機とばかりに俺に向けて加速するが、その眼前にフリードの火炎弾が迫る。
ガリューは一度減速し、火炎を回避、再度加速に入ろうとした。
しかし、その時にはすでに俺はその場にはいなかった。
そう、俺がいたのはルーテシアの隣。
「なっ、ガリュぅ!!?」
「ちょっ、おま!!?」
首元の血管近くを押し込み、動脈を収縮させ一時的に脳を酸欠状態にして気絶させる。
よくチョップでそれをしているのをアニメなどでは見かけるが、実際一瞬で行くかどうかわからないので、
俺は首の後ろにあるその血管を圧迫し続けた、3秒程度で落ちたのでガリューが戻ってくるより先に終わらせる事が出来た。
ついでに、赤毛の妖精のようなのも同じように無力化させた。
「ふう、手間がかからずに済んでよかった。さて、他はどうだ?」
リインフォースとアルフ、ザフィーラによる集団攻撃はほぼゼストを圧倒しつつある。
エリオのほうも、近接戦に持ち込めたようでほぼ決まったも同然だった。
さほど協力の必要性はないな、と判断し、周辺の状況を再度確認する。
ジャンプの痕跡は追うのが難しいが、目的はヴィヴィオの誘拐と見て間違いなさそうだ。
そういう意味ではもうすでに出し抜かれていると言える、なのはに伝えるのは気が重いな……。
だが、これなら死ぬ事はないだろう。
見方を置き去りにしてまで必要としたのだ、何に使うにせよ丁重に扱うはず。
とはいえ、何らかの方法へのカギとして殺す可能性もある、楽観はできないが……。
言っている間にも、キャロがブーストの魔法をかけ、エリオがプレシアクローンを打ち倒す。
あのクローンには俺達も苦戦していたのだが、エリオは戦闘センスだけならかなりの物を持っているようだ。
最後とばかり、俺達はゼストを囲むように立つ。
「あの時死にかけていたはずだが、案外元気だな」
「元気……、いや、おれはもう肉体の限界を超えている、組織崩壊はもう肉体を維持できないほどになっている。
しかし、今の俺の体は……」
その時、ボロボロになっていたゼストの服装が一部ちぎれ飛んだ。
肉体の皮膚がところどころ切れている、しかし、その下は血を流してはいない、肉の下は銀色をしていた……。
「機械化……だと……」
「そう、もう俺の体は脳以外のほぼすべてが機械、スカリエッティは俺という玩具に最後の仕掛けをしていった」
「そういう事か……ならば戦闘は」
「俺の意思では止まらん、まして貴様がいるとなれば、な……」
「そうか」
ゼストの言葉の意味、全てが分かったわけではない、しかし、あの赤毛の妖精はユニゾンデバイスだったはず。
それを使わないのが不思議ではあったが、使わないのではなく、使えないのだとすれば納得もいく。
人の皮こそかぶっているが、今のゼストは同じ使い手とは言えないほど変調しているという事だろう。
俺は今まで戦闘など自分の事に集中していたので気付けなかったが、確かに演算装置は以前との違いを認識している。
そして、俺をターゲットにするというのは、なんとも奴らしい仕込みだ。
「お前を止めるために、俺はおまえを倒そう」
俺は、周りの皆を制止し、一人ゼストの正面に立った、ゼストは反射的に俺に向かって槍を繰り出してくる。
その精度はすさまじいもので、回避しきることなど不可能に思えた。
だから、俺は槍に向かって手をかざす。
ギィィィィン!! という耳障りな音が響き渡った。
「ぬぅぅっ!?」
「ボソンジャンプというのは、超能力でいえば、時間の概念を抜けばテレポートとアポートの併用になる。
自分以外を飛ばす事が出来るというのは、つまり……こういうことだ」
そう、俺とゼストの中間にはロードローラーが鎮座していた。
これは、ちょうど近くの道をつけるために工事を行っている業者が置いているものだ。
とはいえ、ロードローラーの質量でも押しつぶすには至らなかったようで、一瞬拮抗し、その間にゼストは体を引き離した。
後で弁償しておかないとな……。
「そんな気合いの入ってない攻撃では倒すことはできない、せめて最高の技で勝負して来い」
「全く……、俺に言っても仕方ないだろうに……」
「そうでもない様だぞ?」
ゼストは構えを変え、一撃必殺を狙う槍を引いた半身の構えになっている。
突きで全てを決するつもりなのだろう。
正直もう魔法という感じではないが、纏っている魔力で身体能力や攻撃威力を上げているのは間違いない。
応じるように俺は手元にジャンプさせた黒塗りの刃を抜き放つ、俺の持つこの刀、魔力を断つ鉱石を使っているが、銘はまだない。
「一つだけ言っておく、俺の知る限り、人類において科学的にサイボーグが完全に成功した例はない、
ナノマシンによる肉体改造を含めるとまた違ってくるがな……」
「なるほど……、お前が俺の死神となるか……」
俺とゼストは交錯する……。
奴の槍は確かに俺を捉えていた、だが、それは半瞬前の話、俺は体一つ分ボソンジャンプで体をスライドさせる。
普通の人間のジャンプではこうはいかないだろう、演算装置と直結しているからこそのハイスピードなインとアウトだ。
ゼストがその事を認識するよりも前に、俺は刃を突きだす。
刃はゼストの肉体を貫きその心臓部まで到達する、そして魔力の供給を無効化する……。
「流石だ……」
「いや、本来なら勝っていたのはお前だろうさ……」
そう、この場で倒れ伏しているのがゼストであるのは演算装置の力のおかげ、俺自身の力ではない。
だが、今は……とりあえず急いで、搬送して、救助を行える分は行うという方向でやるしかあるまい。
俺は指示を飛ばしつつ、しかし、まずいなと考えていた。
ヴィヴィオがさらわれたのがどんな理由であるにしろ、スカリエッティが直接関与していない可能性が高いということがだ。
つまり、この先、スカリエッティが帰ってきたとき、戦力を二分して充てる必要が出てくる。
奴らとてナンバーズの大半が捕まったのだ。
更にここでゼスト、ルーテシアらも切っている、つまり、それ以上の切り札だということなのだ。
どちらも本来なら全力であたらなければならない案件のはずだ、しかし、時間的に同時に対応せねばなるまい。
周りにいる人間の手前平静なふりをするが、どうなるか不安になる事態ではあった……。
「さあ、聖王様、貴方の玉座はここですわ」
聖王のゆりかご、そう呼ばれる遺跡、いや、船と形容したほうがいいのかもしれない。
そのブリッジ、いや、玉座に今一人の少女が座っている、見た目は17歳くらいだろうか、
金髪をサイドテールにし、服装はクアットロら戦闘機人と同じものを着ている。
その目には希薄な意思しか感じられないが、その力見る人が見ればは確かに強大なものである事が感じられる。
「まだ、ゆりかごの起動まではもう少し時間がかかりそうですわ……」
クアットロは思案する。
確かに彼女の力は強大であるし、ゆりかごも大気圏の外に出る事が出来れば現在の艦船などよりよほど強力な兵器となる。
問題は大気圏脱出までに迎撃された場合防御戦力として使えるのがガジェットくらいしかない事である。
だが、今のクアットロはそんなものよりもさらに大きな不安をかかえていた。
それは、培養層にいたあの男、あの男はなんというか危険だった、そうホクシンと言われたあの男と比べても。
ホクシンのむき出しの殺意はむしろ分かりやすいのだが、あの男は眠っていても分かる。
カリスマにあふれたあの男は、扇動し、周りをすべて戦場へと向かわせる、いわゆる破滅を約束するものだろうと。
「正直、かかわらないで済んでよかったですわ……でも……」
飛び火してこないとは限らない、たとえこのゆりかごが完全な状態であっても安心できるとも思えない。
それだけの危機があの男から感じられた、理詰めで考えるクアットロにしては珍しい事だが、明らかに恐怖を感じていた。
今こうしているのも、スカリエッティがやっきになって究極の生命を研究しているのも、ホクシンらが戦い続けているのも、
全てアレのせいなのではないかと、どこか被害妄想にも似た強迫観念が襲ってきていたのだ。
もちろん、普通に考えればそんなことはあり得ない。
大体あの男がこの世界に来たのはホクシンが運び込んだからでそれ以上でも以下でもない。
その当時から比べると若返っているのはそういう風に調整しているからにすぎないし、
スカリエッティが次に実験するために残しておいた素材のはずだ。
だから、本来ならありえないはずだった、しかし、それでもクアットロは感情がその考えを否定している事に気づいていた。