星、満天の星……俺は原っぱに寝ころび、ただ星を見上げていた。
あれからもう三カ月がたつ。
最初の一カ月はまともに体が動かせないほど消耗していた。
二ヶ月目は今までの独断専行の謝罪文やもろもろの残務処理を含めた書類仕事。
三ヶ月目は自分のために使った。
ただ、今でもあの結果でよかったのかという思いは残る。
ボソンの世界でスカリエッティに会い、奴を拘束したものの、奴は今も生かしたままである。
悔しい話だが奴が寝返ったからこそ俺は仲の人間をすべて運びだすというようなマネが出来たともいえる。
正確には、奴は俺に脱出路を漏らしただけだが、その場で奴を殺さなかったのが悔やまれる。
戦いには勝った、奴が収監された牢獄は二度と生きて出られないレベルのものではある。
しかし、奴ならばまた出てくる可能性を残しているとみていいだろう。
奴の刑罰は複数回に上っており、殆どが重犯罪であるためその全ての裁判が終わるまで20年はかかると言われている。
恐らく総合した罪は死罪以外にはありえないだろうとは思う。
ただ、その前に奴がまだ自分のクローンや知識を残していないか調査する必要がある。
ナンバーズの腹の中にクローンを残していたのは怒りを催したが、それは既に取り払ってある。
だが、当然それだけの事をする奴がそれだけとも思えなかった。
奴はだが今は既に晴れ晴れとした顔でのんびりと獄につながれている。
もしかしたら、奴のいう究極の生命は作りだされたという考えなのかもしれない。
それも……最後の作品というのは……俺なのかもしれない……。
「考えすぎ……だよな……」
暗く沈む思いを首を振って振りはらう、奴の研究が今行われていないだろう事だけが唯一の救いだろう。
俺が施策に沈んでいたせいだろう、すぐ近くに来るまで人が来た事に気付かなかった。
「何を考え込んでいるんですか?」
「すずかか……いや、事件が終わったんだなってな」
「ふふ、今はもうそんなの関係ないじゃないですか。どこまでも心配症なんですねアキトさんは」
「それもそうだが……」
そう、俺はあの事件の後、六課から退いた。
元々俺がいなくても六課ははやてがいれば動く、そういう組織として出来上がっている。
ただ、俺が辞めたのに合わせすずかとフェイトが辞めたのがかなり問題になったのだが……。
まぁその辺は仕方ない事ということになるのだろうか?
因みに、リニス、リインフォース、ゼストらは元々六課の関係者ではなく、
俺個人の関係者だったため六課の人員とみなされていない。
役職があったわけでもないしな。
「まぁ、明日からやりたい事を始められると思うと色々思う所もあったと言う事かな」
「ふふふ、貴方は次元世界の王にだってなれる人なのに、食堂のおやじに収まるつもりなんですね」
「すずかは俺に王になってほしかったのか?」
「まさか、私が好きになったアキトさんはそういう人じゃないですよ」
微笑みながら返すすずかに、俺も微笑みを浮かべる。
俺は明日から昔の夢だった料理人をはじめる、幸い店を買う金は十分にある。
後は旨い料理を作れるように研鑽するだけだ。
ここ一カ月は店を立てるために奔走しつつ料理の勘を取り戻すために料理漬けだった。
地球外対策局や、管理局、連盟、それに元の世界の人々が色々と言ってきたが、
逆に俺が政治の世界から離れてせいせいしている人間のほうが多い事は保証できる。
そのための手助けをカリムやはやて、グレアム、レジアス等にがんばってもらったのは済まないとは思っているが……。
今はもう、俺の力が世界のバランスを崩しかねないのも事実なので、中枢にいるのは色々とマズイのだ。
「そういえば、あの娘達はうまくやっているのか?」
「ええ、何人かこちらにバイトしに来る事になっています」
「バイトな……再教育のほうはうまくいっていると言う事か」
「そう言う言い方するとまるで洗脳してるみたいじゃないですか、常識を教えているだけですよ」
「まあ、その通りなんだがな」
俺は苦笑ですずかに返す。
ナンバーズの娘達は皆日本で再教育を施す事になっている、常識を知らない間は六課で預かってくれているが、
やはり情状酌量の余地があろうとテロリストをおとがめなしとするには連盟は厳格すぎた。
かといって管理局のように力があるなら利用するというのも色々と違っている。
それゆえ、観察処分として俺が監視する事になっていた。
「さて、そろそろ家に帰るか、明日は早めに起きて仕込みを済ませておかねば」
「えっ、今日のうちに色々仕込みしてたように思うんですけど」
「俺は一流の料理人と言う訳じゃないからな、手間を出来るだけかけていい料理にしないと」
「もう、張り切りすぎると倒れますよ?」
「幸い体力には自信があるからな」
「そういう過信が駄目なんです!」
「ははは、気をつけるよ」
「もう!!」
すずかは俺を押して家へと向かう。
家には今リニス、リインフォース、ラピス、フェイト、アルフ、キャロ、エリオ、そして俺が住んでいる。
すずかもよく泊まりに来るがそれ以上にはまだ進んでいない。
ある意味安心したのだろう、今彼女は自分の好きな事をするために色々と勉強をしているようだ。
忍と同じで工学系なのでその辺りは色々思う所もあるのだろう。
だが、それでも俺に食事を作ろうとしたり、出来るだけ時間をとって会おうとしている。
つまりは、両方全力と言う事なのだろう。
「今日は泊まって行っていいですか?」
「ああ、構わない」
「……その……」
「いや、そういうのならむしろ家じゃないほうがいいんじゃないか?」
「そっ、そんなこと考えてませんっ!!」
「違うのか」
「もうっ! 私まだテンカワ家の人たちに完全に受け入れられたとは思えないんです。
もっとがんばらないと!」
「ははは……まあ頑張ってくれ、俺もできるだけ取りなす」
「いいえ、必要ありませんというか、アキトさんがとりなすと嫉妬されちゃいます」
「そういうものかな?」
「はい、そういうものです」
すずかは燃えている。
リニスやリインフォースはさほど反発心等は見せていないが、それ以外の家族が少しすずかに反発している。
フェイトはあの事があったから分からなくもない、むしろ今でも俺の義娘として家にいる事が不思議なくらいだ。
そして、残っているメンバーはフェイトの家族という事になる、正確にはリニスもだ。
となれば当然、派閥のようなものが出来てしまいすずかは居心地が悪い部分もあるだろう。
別にいじめでも村八分でもない。
一緒に笑って話して共感してと仲がいいのだが、俺の話題になるとどうにもすずかが孤立しがちだ。
それでも必死になじもうとするすずかは涙ぐましいものがある。
「目下一番問題になるのはフェイトという事になるのか?」
「んーそれはそうですが、協定するかどうかという話になってますね」
「協定?」
「ええ、アキトさんを一人占めしない協定です」
「ぶっ!?」
「アキトさんを一人占めにしてほしくない人は他にも何人かいますからね。
私が正妻としてその辺を取り仕切らないと!」
「それもどうかと思うんだが……」
「知らない人と浮気されるよりは百倍マシです」
「うぐっ……」
浮気などする気はないが、確かに今までの話、彼女の知らない女性と仲良くなった事は当然ある。
メグミちゃんとかリョーコちゃんとかエリナとか……。
もう終わっている事ではあるが、彼女は俺一筋だったわけで後ろめたい物もある。
すずかは笑顔だったが少し怖かった……。
翌日、俺は早朝に店へと向かい店を開けるための準備を始める。
フェイトが既に来ていたのはびっくりだったが、彼女も料理屋など初めてするのであるし、緊張していたのだろう。
「フェイトおはよう」
「はい、おはようございます! 義父さん」
フェイトが俺について六課をやめた理由は料理をしてみたいというものだった。
以前からリニスに付いていろいろと教わっていたので一般レベルの料理はこなせるようになったのだが、
本格的に勉強してみたくなったそうなのだ、俺はそれを断る理由もなかったので許可はした。
しかし、俺が教えられる事はどうにも我流が過ぎる、だから調理師学校へ通う事を条件にである。
だが、フェイトはその辺もそつなくこなし俺の店を手伝いたいと言ってくれている。
確かに店の料理人は数人いたほうがいいのだが、時間は大丈夫なのか心配ではある。
その調理師学校は単位取得制のため、時間はいつ行ってもいいらしいのだが。
二足のわらじというのは大変だと思うのだが……。
「私も仮にも母親ですし、何か家庭的な事を覚えたいし、それに模範になるような仕事もしたいんです。
あの子たちが、自分に力があるから軍隊にいかないととか思わないで済むように」
「そうだな……」
フェイトは子供の頃、管理局その他からいろいろとスカウトが来ていた。
もちろん、リンディ提督等のように人道的な人間も多かったが、それでも所詮管理局は軍隊である。
小さな子供が軍に行くという事が悲しい事だと俺はずっと言ってきた。
その事を覚えていてくれたのだと思うのは嬉しいものだ。
しばらくして、リニス、すずか、リインフォースがやってくる。
すずかは毎日来れるという訳ではないのでバイト扱いではあるが、リニスと並んで料理が出来る存在である。
これだけいれば個人店舗をまわすのは簡単だろう。
全員で取りかかり開店準備を整え始める。
「しかし、マスターが本当に全ての権力を手放すとは思いませんでした」
「そうか?」
「ええ、だっていざという時みんなを守ることが難しくなるじゃないですか」
「それはさほど難しくないよ、今の俺はな」
「もしかしてそういう力があるんですか?」
「まあその辺は秘密さ」
「もう! マスター!!」
「まあまあリニスさん、私達だってただの女の子ってわけじゃないんですし」
「魔法による犯罪程度なら私一人でも対処可能です」
「みんな心強いよ」
事実、彼女らの強さは皆凄まじい、フェイトはS+ランクの魔導師。
リニスも魔力では劣るものの戦闘経験の差でフェイトを上回る。
すずかは己の血の力を使えば不死性すら取得できる存在であるらしいし、
リインフォースはSSランクの魔法力と膨大な知識を有している。
こう、普通の女の子がいない現実だった。
そんな事を考えて軽く凹んでいると、バイトを予定していたナンバーズの娘達がやってきた。
私服の彼女たちを見るのは初めての事でもあり少し驚いたが、なるほどと納得はした。
最初という事で、人当たりのいい3人を選んだという話だったのだが……。
「今日からお世話になる、私はチンクだ、こっちのピンクポニーテールはウエンディ。
そっちのブルーの髪を跳ねあげてるのはセインだ」
「よろしく」
「ふむ、お前が店主だったのか……、妙な事はさせないだろうな?」
「いや、単にウエイトレスをやってもらうつもりだったが……」
俺はチンクを見る、成長しない存在がいる事は知っている、ヴィータがそうだ。
しかし、彼女をウエイトレスにするのは大丈夫かという心配はある、どう考えても雇用法に引っ掛かりそうだ。
「何か失礼な事を考えていないか? 厚生組のナンバーズでは一番年上だぞ?」
「じゃあ、厨房を手伝ってくださいますか?」
「ナイフの扱いなら任せてくれ」
それもどうかと思うが、まあ仕方ないだろう。
そうそう、厚生組というのは、重罪として裁かれてしまうナンバーズもいるからだ。
ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロの4人。
ただ、トーレには一応更生の機会を設けるという話も聞いている。
彼女は他の三人と比べて犯罪そのものを起こそうという意識がなかったからだ。
忠誠心の先を変える事が出来れば十分使えると考えた管理局の横やりである。
とはいえ、ナンバーズは悪であるが、更生の機会くらいはやってもいいとは思う。
彼女らが殺してきた人間の重みを背負う事が出来るならだが……。
俺とて人の事が言えたものでもないが……。
「私達の後輩というわけですね」
リインフォースが言う、そう、リインフォースもまたそういう存在だ。
殺した人間の数なら恐らく彼女が一番多い、だが彼女は己の意思で殺したわけではない。
己の意思で殺した俺やナンバーズとは罪の質が違うともいえる。
だが、罪の意識に違いはない、これから先償いを続けていくしかないというのは俺と同じだ。
それでも、俺達はこんな命を救う以外の道に入って来ていた、だがこの仕事だって人を救う事は出来る。
幸せというものは不幸な人間が口に出来るものではない、だから俺は……。
少し思索に沈んでいたが開店準備は滞りなく終わった。
人数がむしろ多すぎる気がしたが、開店初日でもある、人は多いに越したことはない。
「さあ、頑張って行くぞ」
「了解!」
「がんばります!」
「行きます!」
「なんか勢いいいねぇ」
「こういう体育会系は好きっすよ!」
「あはは、じゃあ頑張りましょうか」
「そうですね」
店を開けると見知った顔がなだれ込んでくる、実際開店祝いに駆け付けてくれたのだろう。
忙しい人間も多いだろうに、ありがたい話である。
「にゃはは、私達が一番乗りだね」
「なのはママ、朝早くから並ぶんだもん。びっくりしたよ」
「だってやっぱりうれしいから、アキトさんようやく夢を実現したんだね」
「まあそうなるな、それで注文は?」
「「チキンライス!」」
「ちょっとそれは、私の」
「おっ、ルリちゃんも来ていたのか、じゃあチキンライス3つでいいな?」
「はい」
「私も」
「ラピス……」
「私はアキトのチキンライス食べたことないもの」
「分かった、4つ大至急で作るよ!」
珍しい取り合わせだ。
チキンライスの話からするとルリがそういう事を語って聞かせたという事になりそうだな。
そう思いながら作り始めていると次の客の顔が見える。
「全く、君が地球外対策局を出て行ってくれたおかげで私はてんてこ舞いだよ」
「グレアムか、だがまだ隠居早いだろう?」
「それは君も同じだろうに」
「俺は元々料理人さ、元いた場所に戻っただけの事。それより何か頼むか?」
「そうだな、このテンカワ・ラーメンというのをもらおう」
「アタシは味噌!」
「塩味!」
グレアムと使い魔のリーゼ姉妹が注文をしてくる。
考えてみれば最初こそああ言った出会いであったものの、彼らにもずいぶん世話になっている。
最近は老人風をふかせ良く俺に政治の世界に復帰するように言ってくるようになったが、自分もめんどくさいのかもしれない。
まあ、あの時の復讐もある頑張ってもらおう。
チンク、セイン、ウエンディらもどんどん注文を取ってくる。
あちらに来ているのはハラオウン母子か、嫁入りしたエイミィも来ているようだな。
「久々にアキトさんの料理食べれるんやねぇ、やっぱりアキトさんはこういうのが向いてると思うわ」
「はやて、それに守護騎士のみんな。いらっしゃい」
「私は生姜焼き定食を頼みます」
「あら、じゃあエビフライ定食にしようかしら」
「アタシはやっぱり肉!」
「あんたら……まあええけど、私もそうやね。和風ハンバーグ定食お願い」
「了解」
守護騎士でも残念ながらザフィーラは来ていない、犬形態では入れないし、人形態も完全な人ではないため難しい。
今度帽子でも送ってやるか。
そして、はやてと守護騎士の注文に差がある理由は簡単、守護騎士は年を取らないだけではない、体型も変化しないからだ。
つまり太らないので食い放題という事である、その辺はやてもやはりコンプレックスを持っているらしい。
おおっと、鋭い目で見られた、気付かれたかな?
「さて次はと」
どんどん注文をこなしていく、そういう感じそのものが久しぶりなためいろいろとうれしく感じる。
ただ、老いないという事を考えれば店はそのうちまた別の場所に移転しなければならないのだろうが。
いずれは魔法世界のほうに移転しなければならなくなるだろう。
それまでに地球が魔法や特殊な人種を受け入れられるほどに慣れてくれればいいのだが……。
そうそう、カリムやレジアス、伝説の三提督などから献花をもらっている。
彼らは忙しくてとても今日来る事は出来ないという事なのだろうというか、レジアスや三提督がここに来るとも思えないが。
カリムは電話で俺に対して苦情を述べていた事があるのを覚えている。
私に権力を押しつけておいて自分はさっさと引くんですかというような内容だったように思う。
まぁその通りなので言い返せずにいるとため息をついて許してくれたが、代わりに永久に無料で食べさせるように言われた。
俺は仕方なくうなずいたが、団体で押し掛けてこないかびくびくしている。
そうやって忙しく働いているうちにもう7時、夕食を食べる人たちが集まる時間のピークだ。
この店は9時までの営業なので、ここが一番の稼ぎ時となる。
皆は交代で休みを取っていたが、初日は俺の顔を覚えてもらう意味も込めて俺だけは休みは食事休みのみとしている。
ただ、シフト制は本当に考えたほうがよさそうだと今日の忙しさを考えて思った。
これからも同じだけ入るとは限らないが。
「よお、なのはの奴も一緒に誘ってくれれば良かったんだが遅くなった」
「いいじゃない、きっと気を使ってくれたのよ」
「私たちもおります」
「姉さん固いなー」
「まあまあ、ノエルさんもファリンさんも、今日はお祝いなんですし」
「あら、美由希も大人な事を言うようになったのね」
「はっはっは」
高町一家のご来店だった、バイトを辞めた時は多少強引であっただけに後ろめたさもなくはないが、
やはり色々と世話になった恩人である、俺としてもできるだけ満足して帰ってもらいたい。
そんな感じでいろいろと話しながらも料理を作りだしていく、高町家の人々は満足して帰ってくれたようだ。
「ぷんぷん! 私にお店の事教えてくれないなんて!!」
「いや、イネスに頼んでおいたんだが……」
「あら、そうだったかしらね?」
「イネスさんのいけずー!!」
どうやら行く直前になって知らされたらしい、御蔭でユリカの服装は軍服のままだ。
まあ、イネスがそう言う事をするのはいつもの事でもある、俺としては黙っておく。
しかし、ユリカとイネス、いや、それだけじゃない。
旧ナデシコクルーも何人かやってきてくれたようだ。
特に、どうやってここに来たのかわからないけどセイヤさん、ウエイトレスにお触りは禁止です。
「まさかアンタがまたこうやって料理をしてる姿が見れるなんてねぇ」
「ホウメイさん……そうですね、俺……迷いがないと言ったら嘘になりますが、それでも……」
「ああ、わかるさ。そんなの料理を見ればね」
9時になるまでそうして客足は絶えなかった。
収入も上々で客の評価も悪くなかったように思う、これなら続けていくのに問題ないだろう。
俺は後かたずけと明日の仕込みを済ませて家に帰る事にする。
10時半、まあ今日一日俺は仕事詰めになっていたが、シフト制にすればさほど問題はない。
そんな事を考えながら帰途についたのだが、帰り道でフェイトが待っていた。
「義父さん、一緒に……」
「待っててくれたのか」
「少しだけ……」
フェイトと俺は並んで歩く、フェイトは何か言いたそうにしている。
それは、この前のような恋愛云々などの話でもなければ思いつめて何かを聞かねばならないと困るのでもない。
ただ、戸惑っているようなそんな感じではあった。
「義父さん、あの……あのね」
「どうした?」
「今……幸せ?」
「……」
俺は少しだけ黙り込んだ、それは否定的な意味ではなく、そう言う事を言われた事がなかったからだ。
そして考えた事もなかった。
だが、そう、好きな事をして、好きなように振る舞い、料理を出して、食べた人の笑顔を見る。
これは俺にとって最も幸せな時間なのかもしれない。
「そうだな、ああ。俺は幸せだよ」
「良かった」
「あっ、フェイトちゃんに先を越されちゃった」
フェイトは俺に微笑み返す。
すずかが走ってきてそれに加わる、話は聞こえていたようでやはり微笑みを浮かべていた。
それは、本当にこだわりの無い心からの微笑みで……。
そうか、俺が求めていたものは、こういう生活なのだなと思った。
これからも事件や事故に巻き込まれたり、別れがあったり出会いがあったりいろいろとあるだろう。
しかし、こうして笑顔を向けてくれる人がいる限り俺は生きていられる。
「幸せだよ」
俺はもう一度かみしめるようにその言葉をつぶやいた……。
言葉は誰にも届かないほど小さなものだったが、2人には伝わったのだろうか。
これからの日常がずっとこうであるといいと俺は思った……。